ちょっと前だけど、今年の夏の話。Electro Deluxeのニュー・アルバムがそろそろリリースされる、という情報が入ったので、「そう言えば、フランスのヒット・チャートで彼らのポジションって、一体どの辺なのだろう?」と何となく思いついて調べてみると、それをすっ飛ばすくらいビックリしちゃったことがあったので、今さらながらピックアップ。
フランス出身のKUNGS(クングス) という、もうすぐ20歳のアーティストがいる。トランス方面はほぼまったく範囲外の俺にとって、彼はまったく未知の存在である。KUNGSが取り扱う主なジャンルは、フレンチ・ハウスやプログレッシブ・ハウス、いわゆるトランス/EDM系なので、さらに俺の住む世界とはまったく違う人である。EU圏は彼らのようなDJが活動しやすい環境が整っており、各国のクラブ・イベントを回るだけでも十分食っていけるようになっている。実際、年収1億というトップDJも結構いる、とのこと。あくまでクラブ系ド素人である俺が小耳にはさんだ程度の情報なので、深いところは各自で調べてみて。
で、そんな若干18歳でデビューしたKUNGS君、3枚目のシングルとしてリリースしたのが、「This Girl」。Cookin’ on 3 Burnersファンなら誰でも知ってる、2009年リリースされた2枚目のアルバム『Soul Messin'』収録曲、オーストラリアの歌姫と称されることも多いKylie Auldistをゲスト・ヴォーカルに迎えたオールド・スタイルのソウル・ナンバーである。
彼がどんな経路でこの曲を知ったのかは不明だけど、素材の魅力を感じ取ってクラブ用にリミックスを施してリリースしたところ、あれよあれよの大ヒット。フランス・ドイツではチャート1位を獲得、UKでも最高2位をマークし、他EU諸国でも軒並みトップ10圏内に入っている。
若年層中心のクラブ・シーンを意識した、アーティスト本人らがほぼ出演しない、ストーリー仕立てのMVというのも、ヒットした要因のひとつだろう。むさ苦しいオジサン3人と、決してフォトジェニックとは言えない女性シンガーでは、ビジュアル的に間が持たないしね。
リミックスとは称しているけど、KUNGSのやったことと言えば、ちょっとしたEDM風エフェクトと間奏の付け足しくらいで、原曲のイメージはほぼそのまんまである。なので、数は少ないけど確実に存在する世界中のCookin’ on 3 Burners 、またはKylie AuldistファンにとってはKUNGS様々と言っても良い。先月、札幌のGAPの店内でBGMでこれが流れてきて、あぁやっと日本にも伝わってきたんだな、とちょっと嬉しくなってしまった。
すっかりトップDJの座に君臨することになったKUNGS君だけど、DJという性質上、彼らとのコラボもワンショットであり、今後の動向は素材選び次第にかかっている。普通のミュージシャンと違って、まったくの無から有を創り出すという制作スタイルではないので、そうそうヒットを連発できるものでもないけど、まぁがんばって欲しい。多分聴き続けることはないけどね。
便宜上、コラボということになっているけど、正確にはリミックス素材を提供しただけ、という立場のCookin’ on 3 BurnersとKylie Auldist。今回、彼らが何か事を起こしたわけではなく、言ってしまえばKUNGSがたまたま拾い上げてくれただけ、だいぶ前に制作した楽曲が世界レベルのリバイバル・ヒットになって棚ボタ的なラッキーに巡り会ってしまった。
おかげで今年の夏、EUで最も再生回数の多かったバンドがCookin’ on 3 Brunersという、何とも不可思議な状況になった。うん、書いてみても何か変な感じ。
今回のヒットにバンド側も気を良くしたのかどうかは不明だけど、Kylieと行動を共にする機会も多く、現在、彼女が行なっているオーストラリア国内ツアーにはほぼ帯同している。もともと母体のBamboosが国内ではそこそこの存在になっていたため、知名度はあったはずなのだけど、ここに来ての突然の大ヒットが功を奏し、ライブはほぼソールド・アウトが続いている。このまま行けば、来年からの展開も変わってくるのかもしれない。
メジャー化を目論むジャズ・ファンク・バンド。何だか反語的表現だな。
マニアの間では好評だった『Soul Messin’』後、実はバンドの状況は大きく変わっている。先ほど母体がBamboosと書いたけど、そのBamboosとの兼任メンバーであり、言いだしっぺだったリーダーLance Ferguson、2013年を最後にグループを脱退、入れ替わりにDan West (g)が加入している。バンドの持ち味であるリード楽器が変わってしまえば、普通ならもう別バンドと言っても良さそうだけど、所属レーベルのFreestyleはそのままだし、基本はJake Masonのハモンド・オルガンがメインなので、大幅な変化は見られない。
Lance自身もプロデューサー&スーパーバイザー的なスタンスで関わっており、自身のHPでも普通に新譜のインフォメーションを行なっているので、関係が険悪になったとは考えにくい。そのLance自身がBamboos以外にも、あちこち別プロジェクトに手を出してしまうため収拾がつかなくなり、とりあえずバンド運営的に安定してきたCookin’~から身を引くことにした、というのがホントのところだろう。
で、今回紹介するのはLanceが抜けた後、2014年に発売された3枚目のオリジナル・アルバム。基本的なジャズ・ファンク路線は変わらないのだけど、これまでになくブルース色が強く、比例してジャズ・テイストはちょっぴり薄めになっている。全11曲中6曲にゲスト・ヴォーカルが入り、Kylieの出番は2曲、他4曲は男性がヴォーカルを取っている。そのせいか泥臭さが増してマニッシュな印象が強くなったことが、バンドの新機軸。とは言っても前に書いたようにLanceはある程度フィーチャーされているらしく、ジャケットにも彼の名前は残っており、Danのクレジットはない。この辺はレコーディング時のタイムラグがあったようで、ほぼ全て録り終わってからのメンバー・チェンジらしい。
思うに、国内ではすっかりメジャー・バンドとしてのポジションを確立してしまったBamboosが、さらなるワールドワイド戦略の一環として、万人向けのコンテンポラリー路線に移行しちゃったため、その反動で趣味性に走ったことが要因と思われる。ポピュラリティを得ることは二の次で、Bamboosではマニアック過ぎてやりづらいことをやるために拵えたプロジェクトなので、それはそれで良いことなのだけど。実際、極上のジャズ・ファンク路線は一部マニアには歓迎されていたし。
そんな路線変更の最中での、この降って湧いたかのような「This Girl」大ヒットである。正直、Bamboosよりも売れてしまったがため、今後は大幅な軌道修正も考えられる。バンドの今後の方向性の道筋をつけ、地道なジャズ&ブルース・バンドとして独り立ちできるようになった頃合いを見て手を引き、Bamboosでのグローバル展開を目論んでいたはずのLance。レーベル・オーナーとしては喜ぶべきことだけど、やっぱ複雑だよね、ミュージシャンとしては。
俺的にはジャズ・ファンク、男性ヴォーカルよりむしろ女性ヴォーカルの方が好みなので、今後あり得る路線変更には期待したいところ。ただ、これってあくまでまぐれ当たりみたいなものだから、あんまりクラブ・シーンに接近し過ぎないでね。基本のバンド・サウンドあっての大ヒットなんだから。あまりEDM/トランス寄りになっちゃうのも考えものだから。
Cookin' On 3 Burners
Freestyle (2014-06-24)
売り上げランキング: 541,651
Freestyle (2014-06-24)
売り上げランキング: 541,651
1. Skeletor
ライブのオープニングを思わせる、シンプルなインスト・ナンバー。名刺代わりのような3分間。それぞれのソロをフィーチャーするのは定番。ベースレスでここまで思いグルーヴを出せるのは、やはりバンドのボトムがしっかりしているから。
2. Flat On My Back (feat. Tex Perkins)
ディープ・サウスを思わせるフレーズに続き、泥臭いダミ声を聴かせるのは、オーストラリアのブルース・バンドDark Horsesのリーダー兼ヴォーカルのTex Perkins。80年代初頭から活動している人で芸歴は長い。声質からもっと年配のブルース・マンかと思ってたけど、写真を見るとバブル臭の残るアラフィフ白人だった。
3. You Got The Better Of Me (feat. Jason Heerah)
初期モータウンを思わせるポップ・ソウル・チューンでヴォーカルを取るのは、オーストラリアのヴィンテージ・ソウル・グループElectric EmpireのJason Heerah。ハッピーな気持ちにさせてしまう歌声は、ついつい口ずさんでしまいたくなり、体も反応してしまう。Electric Empire自体はもう少し70年代ニュー・ソウルっぽさも加味したモダンなサウンドなので、こちらもオススメ。
4. Losin' Streak (feat. Daniel Merriweather)
ホーンが入ったりしてサウンドが分厚くなる。そのElectric Empireっぽさが出た洗練されたサウンドでヴォーカルを取るのは、ソロ・シンガーDaniel Merriweather。2009年にはMark Ronsonプロデュースでアルバム・リリース、UK最高2位まで入る大ヒットを記録したのに、その後はなぜか活動が停滞、もっぱらレコーディング主体の活動を続けている。
34歳という若さもあって声に張りがあり、ここまで出てきた男性ヴォーカリスト3人の中では最もサウンドにフィットしている。どっぷりブルースより、このくらいのライト・ファンクが彼らには合っている。
5. Blind Bet
再びインスト・ナンバー。なぜかリズムが人力グラウンド・ビート。そこにハモンドとシンセ音源のストリングスが絡む、ちょっぴり実験的なナンバー。後半のギター・サイケ的なサウンドは80年代を想起させる。
6. Last Man Standing (feat. Harry Angus)
感傷的なソウル・バラードでヴォーカルを取るのは、またまたオーストラリア、ミクスチャー・ロック・バンドCat EmpireのHarry Angus。歌メロがはっきりしたマイナー・チューンは、大抵の日本人の心の琴線を揺さぶる。バンドはあまり前面に出ていないけど、ホーンのスタックスっぽさは絶品。
7. The Spanish Job
100人中99人がVenturesを連想してしまう、ストレートなサーフ・ロック。俺より上の世代なら、グループ・サウンズを思い出すかもしれない。日本人のDNAに刷り込まれてしまった、多分下の世代でも同じことを思ってしまうナンバー。
8. Chew You Up (feat. Kylie Auldist)
やっとここで定番のKylie登場。もはや勝手知ったる固定メンバーでのセッションのため、安心して聴いていられる。盤石のドラム・ビートと安定のギター・リフ。ヴォーカルを引き立てるためのオカズ。あうんの呼吸で繰り出されるプレイに応じる、いつものディーヴァ振り。
そこに冒険はない。けれど、これ以上足すことも引くこともない、熟成されたサウンドの結晶が、ここにはある。
9. The Vanished
ギターをメインとした、人力グラウンド・ビートをバックに従えたメロウ・インスト。こうやって聴いてると、ほんとジャズっぽさは少なくなっちゃったな。これがバンドの進化なのだろう。
ヴォーカル抜きトラックのように聴こえるのは、気のせい?
10. Mind Made Up (feat. Kylie Auldist)
8.同様、こちらもKylieをフィーチャーした60年代風ヴィンテージ・ソウル・ナンバー。いつもの安定感はまるでBamboosみたいだね、と言ってしまいそう。
「This Girl」効果で味を占めたのか、それとも純粋に注目されるようになったのか、つい最近になってこの曲、フィンランドの若きリミキサー Lennoによってクラブ用リミックスを施され、コラボ・シングル化されている。俺が思ってる「クラブ・リミックス」的に、ここではKUNGSよりもっとカット・アップしりエフェクトを大胆にかけたりなど、原曲をあくまで素材として扱い、Lenno オリジナルの作品として仕上げられている。
でも、それが好きかどうかはまた別。あまりにダンス・チューン寄りになってしまったトラックは、日本ではちょっと馴染みづらく、「This Girl」ほどは受け入れられないんじゃないかと思われる。
この方向性は、「あ、やっちまったな」といった印象。
11. Of Dice & Men
この手のバンドの定番、ラストはエピローグ的なインスト。ショウはもう終わり。かすかな余韻を残しつつ、ヴォーカルはとっとと舞台袖へ。8割がたの満足感を得て、バンドはステージを降りる。
そうそういつも完全燃焼ばかりしていられない。ツアーはまだまだ続くのだ。
This Girl (Kungs Vs. Cookin' On 3 Burners)
posted with amazlet at 16.11.18
Universal Music LLC (2016-10-21)
売り上げランキング: 10,421
売り上げランキング: 10,421
Mind Made Up (feat. Kylie Auldist) [Lenno vs. Cookin' On 3 Burners] [Club Mix]
posted with amazlet at 16.11.18
WM Australia (2016-10-07)
売り上げランキング: 111,163
売り上げランキング: 111,163