folder 前回のスタカンの流れで、バンドの最終作というのを調べていたのだけど、これが結構面白い。有終の美を飾るモノもあれば、グダグダなモノまで、そりゃあもう多種多様。作品だけじゃなく、その解散に至るまでの経緯まで掘り下げていくと、これまたゴシップの宝庫で、ちょうどいいヒマ潰しになる。所詮は他人ごとだしね。
 長年同じ顔を突き合わせていると、次第にマンネリ化してテンションも低下してゆく。そのうちバンド内の人間関係も悪化して、しまいには顔を合わせることも苦痛になってくる。この辺は熟年離婚と同じプロセスだな。
 さして実績を残せなかったバンドなら、徐々に活動ペースを落としていって、そのまま自然消滅、といった流れなのだけど、そこそこ以上にネーム・バリューがあると、幕引きもちょっと面倒になる。関わるスタッフも多いため、バンド単体の意志だけで決められるものではないし、まだリリース契約が残っていたりすると、最後にもう1枚くらいは作らないと、収まりがつかない。
 人間関係も拗れにこじれ、それぞれ目指す音楽性も別になっちゃったけど、「最後はキレイに締めようか」と有終の美を飾ることができたのが『Abbey Road』だけど、こんなのはかなり恵まれたケースである。ほとんどの場合は、ピーク時のクオリティは見る影もない無難なモノか、はたまたメンバー各々の将来性を暗示する、要はバラバラでまとまりのないモノに大別される。
 いわゆる安全パイ的に仕上げることが多いラスト・アルバム界の中で、異彩を放つのが、前回レビューしたスタカンだった。何しろ、レコード会社からリリース拒否されちゃうんだもの。
 本人たちとしては、ラスト・アルバムのつもりで作ったわけではないのだけど、そんな仕打ちに失望してしまい、結果的に解散に追い込まれたのだから、負のオーラのイメージはかなり強い。ただ、シャレオツな非ロック・サウンドというパブリック・イメージから大きくはずれているだけで、作品単体をフラットな視点で見れば、ミクスチャー・ロックの可能性は十分に内包していた。と、そこまで前回は書いた。
 そんな異端児として、もうひとつ。一応リリースはされたのだけど、まれに見る酷評の嵐に晒され、さらに、アーティスト自身からも後に「アレは気の迷いだった」と鬼っ子扱いされ、さらにさらに、つい最近まで公式ディスコグラフィーからも抹殺されていたラスト・アルバムがある。
 それが、『Cut the Clap』。クラッシュのラスト・アルバムである。

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 クラッシュ・ファンであるなら、誰もが知ってるはずなのに、誰もがきちんと向き合ったことがない。また、誰もが目を背けてしまう。そんなアルバムが、『Cut the Clap』。
 俺が初めて聴いたのは、忘れもしないNHK-FM「サウンド・ストリート」。もちろん金曜日、渋谷陽一の回だった。
 曲解説の細かい部分までは覚えていないけど、半分呆れ気味・半分苦笑混じり、「なんでこんなの作っちゃったんだよ」というニュアンスだったため、第一印象は最悪だった。いまにして思えば、この時の渋谷陽一の態度によって、『Cut the Crap』の評価が刷り込まれたんじゃないかと思われる。当時のロキノン・レビューでも、思いっきり駄作扱いだったし。
 ただ今回にあたって、海外のレビューもいろいろ調べてみると、日本でだけ酷評されたわけではないらしい。さすがに30年以上経った現在では、半分ネタ扱いで取り上げられることもあり、極端なアンチは少なくなっているけど、パンク原理主義/クラッシュ信者が多かった当時は、シリアスな怒号や落胆の悲鳴が飛び交っていたんだろうな。
 ビルボード最高8位を記録した大ヒット曲「Rock the Casbah」収録の前作『Combat Rock』の評価もセールも高かったため、期待度MAXでリリースされたのが、コレだもの。そりゃ暴動寸前にもなるわ。

 『Combat Rock』制作時に顕著となったバンド内の確執は拗れにこじれ、遂には作曲面の柱だったミック・ジョーンズの追放劇にまで発展する。ドラッグ中毒でまともにドラムが叩けなくなっていたトッパー・ヒードンをクビにした後、ポール・シムノンとストラマーとが結託、ジョーンズに解雇通知を突き付けた。
 彼らの裏で糸を引いていたのが、マネージャーのバーニー・ローズだったらしいけど、いやいやストラマーとシムノンの独断だ、ローズがストラマーを洗脳しただの、それぞれが勝手に言い分を主張しているため、真相は不明である。もうストラマーの主張を聞くことはできないし、他のメンバーもそれぞれのキャリアで忙しそうだし、ローズの告白は胡散臭いし。


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 で、結果的にバンド乗っ取りに成功したローズだったけど、何を勘違いしたのかこいつ、より深くバンドのあれこれに介入するようになる。これまで通り、バンド運営のフィクサーだけで満足してりゃよかったものを、次第にバンドの私物化を目論むようになる。
 それぞれ別のバンドで活動していたストラマーとジョーンズを引き合わせ、クラッシュ結成に導いたのは、こいつの功績ではあったけれど、あくまでコーディネーターとして、きっかけを提供しただけに過ぎなかった。クリエイティブ面、いわゆる音楽制作の実作業に関与したことはなかったはずなのに、ド素人の拙い口出しを許してしまったことで、クラッシュのブランド価値が地に堕ちる要因となった。
 歌うことも楽器演奏もろくにできず、ましてや作詞・作曲もできないくせして、バンドの主導権はローズに移行していった。とはいえこいつ、テクニカル面でどうこうできるわけではないので、ミキサー卓でふんぞり返って、当てずっぽうな指示を出すくらい。なので、実際にレコーディングを仕切っていたのは、ストラマーだった。
 これまではジョーンズとの双頭体制だったけど、彼の不在により、ストラマーが孤軍奮闘することになる。ただ、サウンド面では多くの部分でジョーンズ頼りだったこともあり、サウンド・メイキングやヘッド・アレンジは不慣れな部分が多かった。
 それでもストラマー、あまり使い勝手の良くない新メンバーのケツを叩いてセッションをまとめ、どうにかこうにか8割がたまで仕上げる。『Combat Rock』には明らかに劣るけど、メンバー・チェンジに伴う新生クラッシュのデビュー作としてなら、多めに見てもらえるクオリティのはずだった。
 だったのだけど、レコーディングも終盤に差し掛かった頃、突然ローズが作業終了を宣告し、無断でマスター・テープを持ち去ってしまう。いくらバンド運営の要だったとはいえ、そのあまりの暴君ぶりに、さすがにストラマーもブチ切れてしまう。
 最後のクリエイティブな仕上げと称して、ローズは過剰なシンセ・パートと悪趣味なサンプリング・エフェクトをてんこ盛りにして、レーベルに納品した。「自称」メンバーとしては、当然の権利だった。あくまでこいつの視点に立っての話だけれど。
 一応クレジットには、ドラム・マシンをプレイしたことになってるけど、単にスイッチ押しただけだろ、お前。

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 そんなど素人によるサウンド・コラージュによって、「素材の持ち味が打ち砕かれた」というのが定説になっているこの『Cut the Crap』。マルコム・マクラレンへの対抗心をあらわにしたローズの所業は、決して許されるべきではない。ないのだけれど、だからといって、こいつだけが諸悪の根源と決めつけるのも、ちょっと考えものである。
 至らぬ部分は多々あったとはいえ、新メンバー達も彼らなりにがんばったし、実質的なプロデューサーとして、ストラマーの責任は大きい。ほんとにイヤだったら、クラッシュまたはストラマーのクレジットを外すこともできたはずだけど、ローズに全幅の信頼を置いていたこともあって、どうにかなるんじゃない、と思っていた節がある。
 「気の迷いだった」と回想しているということは、逆説的に、当時は渾身の復活策としてアピールしようと必死だった、という意識のあらわれでもある。新メンバーを率いてのライブやPV制作なども積極的に行なっていたらしいし。
 結果的に駄作呼ばわりされ、30年以上経ったいま、その汚名が晴らされているとは言い難いけど、単なる先入観だけでこき下ろすのは、さすがにフェアじゃないと思うのだ。いや確かに、そこまでの大傑作とはとても言えないけど、きちんと手を抜かず作られた作品なのだから、少しは良い面も探してあげるのが、まっとうな音楽ファンの姿勢である。
 パンク原理主義のフィルターを通さずに聴いてみると、未整理なアイディアのごった煮的サウンドとして受け取られ、ごく一部ではあるけれど、再評価の兆しが見えている。当時は蛇足としてしか捉えられていなかったローズの後付けエフェクトも、この数年後に盛り上がりを見せるミクスチャー・ロックへの架け橋としても見れば、先見の明として、申請クラッシュのその後の展望が見えてくる。
 不器用でいびつな『Cut the Crap』を習作として、もう少しライブを重ねてアンサンブルを安定させ、メンバー間の意思疎通がスムーズになった上で、次作のレコーディングに取り掛かればよかったのだ。そうすれば、ディスコグラフィーの中でもここだけポッカリ浮いている『Cut the Crap』での意図も見えてくるんじゃないか、と。
 あ、その時はもちろん、ローズ抜きで。

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 クラッシュ原理主義者からすれば、身勝手な悪行三昧でバンドの結束を乱し、なし崩し的な解散に導いた極悪人として、ローズを許すことはあり得ない話。営業やプロモーション戦略に長けていたこいつ、クラッシュ以降はパッとしたキャリアを歩んでいないので、まぁ自業自得といえば自得。
 ただ、パンク・スピリット的な観点から言えば、後期クラッシュを象徴する「円熟してゆくパンク」というのも、大きな矛盾を孕んでいる。既存のロックや音楽業界に、中指立ててnonを突きつけ、踏みつけ罵倒し破壊してゆくのが、純正パンクスのイデオロギーだったのだ。
 別に擁護するわけじゃないけど、音楽的に成熟しつつあったクラッシュを、本意は違えどドン底に突き落としたローズこそが、最もパンクスだったんじゃないか、という結論。と、最後に締めたかったのだけど…、イヤないな。単に目立ってひと儲け企んでただけだもの、こいつ。


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1. Dictator
 意味不明のナレーション、天衣無縫なシンセ・エフェクト、軽薄なMIDIドラム。それらがこれでもかとゴテゴテにダビングされている。オープニングがこんな惨状なので、アルバム全体の評価が決定づけられたのだけど、ベーシック・トラック自体は案外まとも。ライブ・ヴァージョンを聴いてみると、荒々しいアレンジが原点回帰を想起させ,印象がだいぶ変わる。

2. Dirty Punk
 タイトルが気恥ずかしいけど、心機一転した新人バンドとして捉えれば、ちゃんとパンク・マナーに則った佳曲。ジョーンズが手伝っていれば、もっとポップなアプローチになったんだろうけど、ストレートなパンクはテンションが上がる。
 曲はやたらカッコいいんだけど、作詞を手掛けたのは、ローズ。とはいえ、ロックンロール・ライフを描写した頭の悪い単語を羅列しただけで、重要視するものではない。

3. We Are the Clash
 コレだ、渋谷陽一が半笑いで紹介していたのは。確かにタイトルだけ見れば、ネタ扱いだ。新メンバーと再出発する決意表明として受け取ることもできるけど、でも中堅バンドがやることじゃないよな。ただこれも、シンプルで覚えやすいコール&レスポンスは、案外クセになる。良かったね、あんまりローズにいじられなくて。



4. Are You Red..Y
 ドラム・マシンとコーラス・サンプリングが案外ハマっており、心地よいグルーヴ感を演出しているチューン。もうちょっと整理すれば、ミクスチャー系のルーツとして、恥ずかしい思いをしないで聴くことができるのだけど、ローズのシンセ・エフェクトはやっぱ不要。

5. Cool Under Heat
 もうここまで来ると、無駄なシンセは予想の範囲内だし、変な方向にエフェクトせず、ギターの歪みをきちんと残した音響処理によって、まぁまぁまともに聴こえてしまう。でも、時々フィーチャーされるのどかなボンゴのリズム。いくらミクスチャーと言っても、これはミスマッチ。

6. Movers and Shakers
 「I Fought the Law」の劣化コピーという印象だけど、返して言えば、このアルバムの中ではかなりまともな仕上がり。ニューロマっぽいシンセだけが余計だけど、おおむねはちゃんとした楽曲。ドラムも比較的がんばってる方。最後の最後、意味なくギターが左右にパンする音像処理、こういうのは結構好き。

7. This Is England
 新生クラッシュの中では飛びぬけて出来が良く、今世紀に入ってやっとベスト・アルバムに収録されたナンバー。ドラム・ループもシンセも過剰にならない使い方が好感が持てる。何でもかんでもてんこ盛りにしてしまうローズの仕事とは思えないくらい、スタジアム風コーラスも、ツボを押さえたギター・リフも、突然変異的に噛み合わさっている。
 後のマニック・ストリート・プリーチャーズを連想させる、ポップとパンクの邂逅がこんな早い時点で成し遂げられていたにもかかわらず、当時は誰も気づけなかった。そう考えると、バンド・ファン双方にとっての汚点だな、この見落としは。



8. Three Card Trick
 ポップかつソリッドで、ヒット性も充分感じ取ることができるスカ・ナンバー。判読ラップ風のエフェクトも最小限で、敢えて言えばコーラス・アレンジがちょっと弱いけど、でもアベレージは充分超えている。
 変に素材の味を変化させず、ちょっとしたスパイス程度に抑えれば、時代性ともきちんとシンクロして対応できる、という良い見本。このくらいでいいんだよ、隠し味なんて。隠し味が自己主張し過ぎると、1.のような極端な味わいになってしまう。

9. Play to Win
 ローズ主導によると思われる、クラッシュ楽曲のダンス・ミックスを作ろうと悪戦苦闘した結果、力足りずに不細工なサウンド・コラージュで終わってしまった珍品。すごくひいき目で見れば、超圧縮ヴァージョンのロック・オペラという見方もできるけど、別にローズを擁護するつもりはないので、単なる珍品として受け流す。

10. Fingerpoppin'
 ドラム・パターンと適度なエフェクトだけで抑えておけば、Dead or Aliveのロック・ヴァージョンとして見れるのだけど、何しろストラマーのヴォーカルやバンドの音より、エフェクトが前面に立ったミックスなので、センスの悪さが思いっきり露呈している。もしかして、クラブでかかってたら大目に見てもらえるのかもしれない、とちょっとだけ擁護してみる。だって、後半にチョットだけ聴こえるオルガン・ソロが気に入ったんだもの。
 まさかローズが弾いてるんじゃないよな、とクレジットを見ると、なんとイアン・デューリー&ブロックヘッズのミッキー・ギャラガーの名が。それで納得。

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11. North and South
 この曲のみ、ヴォーカルは新メンバー:ニック・シェパードが取っている。やっと名前が出てきた。
 往年のクラッシュをなぞったような、エモーショナルなロッカバラードは、ちょっと感傷的でさえあり、普通に聴ける。これもシングル切ったら、そこそこイケたんじゃないかと思われるのだけど、その前に解散しちゃったのが惜しい。

12. Life Is Wild
 最後はシンプルなアンサンブルによるストレート・パンク。コーラス処理がちょっとエコーかけ過ぎな感はあるけど、これもベーシックはおおむね良い。中盤から余計なエフェクトを入れて台無しにしてしまう、そんなローズのやりたい放題。ただこれも、予定調和なパンクの自己否定として、逆説的にパンクな所業。



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