前回、お兄ちゃんのMilton Wrightを取り上げた流れで、久し振りに妹Betty Wright 全盛期のライブ盤を紹介。1978年にリリースされた7枚目のアルバムで、セールス的にはキャリア最高を記録している。いるのだけれど、さすが70年代マイアミ・ソウルのジャケット、取ってつけたような手抜きデザインが香ばしい。
最初に聴いた頃からずっと思っていたことだけど、このアルバム、ライブ盤のわりには妙にサウンドの分離が良い。時々聴こえてくる歓声も一定のレベルで鳴っており、曲が終わると同時にボリューム・レベルを上げた、という印象。まるでコント番組のSEのような雰囲気である。…ていうか、これって疑似ライブじゃねぇの?
ネットで他のレビューを調べてみると、俺と同じ印象を持った意見が多い。さすがにヴォーカルと演奏はちゃんと収録してるんだろうけど、それだってスタジオ・ライブかもしれないし、人工的な歓声は何だか後付けっぽい。作りモノ感満載の怪しげな造りである。
ただ、これはBetty に限った話ではない。70年代くらいまでは、このような過剰な編集が施されたライブ・アルバムが多かったらしい。商売っ気たっぷりなレコード会社の意向が最優先され、アーティストのプレイヤビリティなんて、鼻にもかけられなかった時代である。
デビュー間もない頃のStonesだって、権利を持つデッカに相談のひとつもなく疑似ライブ盤(『Get Yer Ya-Ya's Out!』)を作られている。
Beatlesだって、メンバーの意向?何それ?てな態度で無断でハリウッド・ボウルのひどいライブ盤をリリースされているし。
ちょっとしたミステイクを、後日スタジオ・テイクに差し替えるのはよくある話だけど、YMO『公的抑圧』のように、権利関係のゴタゴタによって、ギター渡辺香津美のテイクをまるまるカットしたり、といったレアケースもある。
近年だと、アンコール曲まできっちりセットリストに組み込んだパッケージ・ライブが主流となり、「どうせ毎日同じ流れなんだから、だったらいっそ、口パクでいいんじゃね?」と開き直るアーティストまで出てくる始末。ジャニーズAKB系を始めとするアイドルが口パクなのはまぁいいとして、トップ・アーティストがやっちゃいかんでしょ。
そういえばMadonnaなんて、MCまで口パクだったもんな。全盛期のBay City Rollersなんて、ライブなのに曲がフェードアウトした、っていうし。
話がズレちゃったな、ここまでにしよう。
マイアミ・ソウルのムーヴメントで一緒くたにされて売り出され、その後は大人の歌手への脱皮を図って、ブラコン方面へ行ってしまったBetty。
今にして思えば、Tina Turner的な方向性もアリだったんじゃないかと思われるけど、時流に乗らないと、って思い込んじゃったんだろうな。当然、Roberta Flackのようにはなれず、せっかく築き上げた人気も急速に萎んでゆく。
前回のレビューでも少し触れたけど、表舞台からクロスフェードするように裏方に回るようになり、その後は若手のプロデュースや育成などが主だった仕事になってゆく。「Joss Stoneを育てたのは私よ」と表立って言ったわけじゃないけど、原石を見極める眼力が強かったのは確かである。
純粋な音楽的才能だけでは賄いきれない、高度な契約交渉やエージェントとの駆け引きなど、知性と洞察力が要求されるフィールドにおいても、彼女の才能は発揮された。だって兄貴同様、IQ高いんだもの、二流のビジネスマンでは到底太刀打ちできない。
裏方としての評判と、広範に渡るコネクションを手に入れたBettyはその後、今度は時流を完全に捉えて若手ヒップホップ・グループのThe Rootsとがっちりコラボ、起死回生のヒットを放つ。誰も予想し得なかったベテラン・シンガーの覚醒は、大きな成功へと導いた。
この辺までが、俺の知ってるところ。
ソウルのフィメール・ヴォーカルというジャンルは毀誉褒貶が激しいため、日本ではいわゆる流行りモノくらいしか紹介されず、往年のロートルになると国内発売さえされず、ろくに情報も入ってこない。それは今でも続いている。Diana Rossクラスでさえ、いま何してんのかわからないんだもの。それより知名度が低いクラスとなったら、もう生きてるのかどうかさえ定かではない。
そう考えると、今もフェイスブックやツイッターでつぶやき続けているBettyは、充分現役と言ってもよい。まぁ、最後に見たショットは単なるネイル自慢だったので、直接音楽に結びついてるわけではないけど。
いまだ現役感を放っている要因としては、近年のシンガーと比べて基本スペックの高さが段違いであることが挙げられる。加齢によるキーの衰えは仕方ないとして、声量は全盛期と比べて変化してないもの。
Aretha Franklin やChaka Khan を始めとした、60〜70年代の貧弱なPAシステムで歌ってきた彼女ら世代からすれば、ミレニアム世代の歌唱力なんて、声を張り上げた囁き程度のレベルでしかない。オートチューンにもゲートエコーにも頼ることのない、アカペラだけでも充分金の取れる彼女らのパフォーマンスは、今後も揺るぐことはないだろう。
スーパーの前でミカン箱をステージに、全国津々浦々回ってレコードを手売りして紅白出場まで登りつめた演歌歌手は、現場で鍛えられた地力がハンパない。貧弱なラジカセの演奏だけで、人の心をグッと掴んでしまうのだ。
国や環境も違うけど、彼女らにはそんな共通したバックボーンがある。
だから強いのだ。
このアルバムがリリースされた1978年は、映画「サタデー・ナイト・フィーバー」に代表されるディスコ・ブームの真っ只中、チャートを見ると、猫も杓子もディスコばっかりになっている。
ビルボードの年間トップ100を見てみると、上位はほぼBee Geesの無双状態、続いて新規勢力のChicやCommodoresがあとに続いている。Stonesだって、ようやくチャートインしているのが「Miss You」という体たらくで…、あれ、これって前にも書いたよな、確か。
ただアルバム・チャートに目を移すと、単調なディスコから遠く離れたFleetwood MacやSteely DanらAOR勢も上位に食い込んでいるし、最も脂が乗っていた頃のBilly JoelやBoz Scaggsらがチャートインしていたりいる。Van HalenやTOTOもこの年デビューだったのね。
なので、流行の上澄みだけすくい取って一様に判断するのは、ちょっと早計である。細かく見ていくと、それなりに多様なラインナップだったことが窺える。いま見ても豪華なメンツだもんな、CarsやDevoまでいるんだもの。
ニューウェイヴの台頭とベテラン勢の弱体化とが相まって、この時期のロック/ポップス系の勢力図は百花繚乱なのだけど、ブラック・ミュージック界隈は極端に二分化している。シンプルな四つ打ちに加えて、ファンクの要素も取り込んで肥大化したディスコ/ダンス系か、しっとりまったりバラードのブラコン系、大ざっぱに分けると、こんな感じである。
Marvin GayeやStevie Wonderクラスでもない限り、多くがその二大勢力に飲み込まれていった。金儲けと契約延長のため、と割り切って演じる者もいれば、会社に言われて仕方なく、「やらされてる感」を露わにした者もいたけど、まぁそれはどんな時代でも同じなのかな。我が道を貫き通すため、かたくなに路線変更を拒む者は、レコード会社から契約を切られ、引退するかドサ回りするかしか、選択肢がなかった。
Bettyの場合、一応、ブラコンにもディスコにも手を出してみて、どっちも自分の適性に合わないと判断して、早々と身を引いた。セールス的に不振だったせいもあるけど、もし時流に乗ってドカンと売れたとしても、それはあくまで一過性のものであり、長く続くものではない、と判断したのだろう。
裏方に回ること、そして前向きなドサ回りを選んだことによって、Betty は流行に惑わされず、結果的にアーティストBetty Wright の商品価値を貶めずに済んだ。
それは歴史が証明している。
で、話は戻って『Live』。
このアルバムをリリース以降のBettyは、古巣TKレーベル在籍のまま、突如ディスコ・クイーンにイメージ・チェンジ、内容よりジャケットのインパクトが強烈だった怪作『Betty Travelin' In The Wright Circle』を発表する。女性版Funkadelicの線を狙ったのか、それとも会社に言われて仕方なくやらされたんだろうか、ともかくジャケットも内容も黒歴史的なアルバムである。
ネガティブな見方をすれば、このライブ盤だっていわゆる投下資本の回収、これまでのヒット曲を詰め込んだベスト・アルバム的な作りであることは否定できない。ディスコ・ソングばっかりで、みんな食傷気味だったマーケットの隙を突くような形のリリースは、ある意味、良いタイミングだったのだろう。みんながみんな、横並びにディスコばっかり聴いてるわけじゃないもんな。
当時としても、すでに懐メロ扱いだったポジションを逆手に取って、敢えてファン・サービス的なヒット・メドレーを入れたことも、ヒットの要因だった。コンパクトにまとめることによって、グルーヴ感が引き立った印象が強い。
そんな彼女の全盛期、その最期を記録したのが、この『Live』である。作りは雑だけどね。
でも、中身は最高。
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1. Lovin' Is Really My Game
アメリカR&Bチャート最高68位を記録した、泥臭いファンク・ナンバー。オリジナルは70年代アメリカのファンク・バンドBrainstorm 1977年のデビュー・アルバムに収録。アレンジはほぼそのまんま、どちらかといえばオリジナルの方がブラス・セクションのソウル色が強く、マイルドな印象。ここではライブということもあってノリ一発、前のめりな押しの強さ。
2. Tonight Is The Night
1975年リリース、R&Bチャート28位を記録、彼女の代表曲として3本の指に入る絶品バラード。オリジナルのピロピロ奏でられるギターが好きな俺だけど、ここではほぼBettyの歌とベース、それとスネアのみ。それとタイミングよくかぶせられる歓声。疑似ライブ疑惑が取り沙汰されるきっかけとなった曲でもある。オリジナル4分程度だけど、ここでは倍の8分。正直、ちょっと長すぎ。もうちょっとコンパクトでもよかったんじゃね?
3. A Song For You
オリジナルはご存じLeon Russell一世一代の大名曲。様々に曲調が変わる、2分に及ぶイントロでじっくりタメにタメた後、ソウルフルに歌い上げるBetty。情感たっぷりではあるけれど、声質とはドライなため、あんまりねちっこい印象はない。徐々にホーンが盛り上がって熱も上がってゆき、ラストは大団円。お約束ではあるけれど、ここがひとつの見せ場である。
4. Clean Up Woman Medley
(Clean Up Woman / Pillow Talk / You Got The Love / Mr. Melody / Midnight at The Oasis / Me and Mrs. Jones / You Are My Sunshine / Let's Get Married Today)
12分に及ぶメドレーの最初を飾るのは、1971年にUS総合6位まで上昇した代表曲。タイトルにも書いたように、「オザケンの元ネタの人」と言った方が日本では通りが良い。Maria MuldaurやBilly Paul、Al Greenなど、当時のヒット曲やお気に入りを挟みながら、飽きさせず聴きいってしまうのは、やっぱバンドとシンガーの地力の強さだな。どんな観客にも対応できる柔軟性…、この歓声がもともとなのか後付けなのかはとにかく置いといて、実際のライブにおいてもこういったグルーヴ感を出していたことは、間違いない。
5. You Can't See For Lookin'
1973年にリリースされた、R&B73位を記録したストレートなバラード。あんまりにオーソドックス過ぎて、ダイナマイト・ソウル的なモノを求めるユーザーにはちょっと物足りないかもしれないけど、ライブではこういった緩急も必要。単なるノリ一発ではなく、しっとりしたアクセントを違和感なくつけられるのも、素養の問題である。
6. Where Is The Love
ラストはこちらも大ヒットを記録したダンス・チューン。US総合96位だけじゃなく、UKでも25位とはちょっとビックリ。前のめり感がハンパないファンクの理想形。ただこの時点では、すっかりオールド・ウェイブとなっていたことも確か。泥臭くフューチャー感のないサウンドは、すでにマニアックなジャンルとなっていた。
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