好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Beautiful South

あの人は今:ビューティフル・サウス編 - The Beautiful South 『Miaow』


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 2007年を最後にビューティフル・サウスは解散し、メンバーそれぞれの道を歩むこととなった。どの家庭にもアルバム一枚はあると言われていた、そんな絶頂期の90年代もいまは昔、21世紀に入ると、彼らは急速に忘れられた存在になっていった。
 時代の最先端とはひと味違う、ていうかメインストリームの時間軸の狭間でチョロチョロやっていた彼らの音楽は、派手な売れ方ではなかったけれど、多くの平均的な英国人の感性にうまくシンクロしていた。皮肉と自虐と悲哀と嫉妬その他もろもろが入り乱れ、傷口に塩を塗りたくる彼らの言葉は、聴き心地の良いアコースティック・ポップでコーティングすることによって、逆説的に多くの英国民に愛された。
 当時のシーンを席巻していたブリット・ポップとは何の関係もない彼らの音楽は、その凡庸さによって、地に足のついた普遍性を保ち続けた。屈折しまくった歌詞とひねりのないメロディとのコントラストは、案外競合も少なく、結構長い間、チャート常連のポジションを維持し続けた。
 本人たちがどこまで意識していたかは不明だけど、オーディオ的なクオリティ云々を問われる音楽性じゃなかったことは確かである。初期のアルバムを聴いても「ちょっとピーク・レベルが抑え気味かな?」と思うくらいで、ヴォリュームを上げると、初期も末期も見分けがつかなくなる。なので、どのアルバムから聴いてもまったく問題ない、ビギナーにもすごく優しいバンドである。

 もう一度繰り返し。2007年、「音楽の類似性」というコメントを残し、ビューティフル・サウスは解散した。
 わかるようでわからない、でも言い得て妙な、生粋の英国人らしいコメントである。前身バンド:ハウスマーティンズから四半世紀、長いこと同じ釜の飯を食い続けたメンバーシップは、なんともフワッとした理由で幕を閉じた。
 メインのソングライターの2名:ポール・ヒートンとデイヴ・ロザレイ、確かにパッと聴いてどっちが書いた曲か、見分けるのはすごく難しい。本人たちも同じテイストの曲ばっかり書いてるうち、ゲシュタルト崩壊しちゃったことが、解散の引き金になったんじゃないか、っていうのは、ちょっと大袈裟か。
 なので、「音楽性の衝突」といった、バンドあるある的なシチュエーションとは無縁の人たちだった。「その他大勢」と分類される演奏メンバーたちも、「ミュージシャン・エゴ?何それ」的な連中だったため、解散が決まっても単純に右ならえしちゃったんじゃないかと思われる。
 一言で例えると熟年離婚みたいなもので、取り立てて決定的な要因があるわけじゃない。何となくぼんやり続いていって、次第にフェードアウトしてゆく人生。そんなゆっくり腐ってゆく展望にぼんやり不安を感じたのが、主要メンバー2名だった、と。
 別に一蓮托生を約束したわけじゃないけど、でも区切りをつけるタイミングは、ずっと窺っていた。メジャー契約もなくなりそうだし、この辺がちょうどいい頃合いなんじゃないだろうか―。
 まぁ当事者じゃない限り、本当のところはわからない。もしかして、フロントマンであるヒートンに野心が芽生えたことがきっかけだったのかもしれないし。
 「ヒートンの野心」か。似合わねぇな、なんか。

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 で、本題だけど、そんなサウスが解散して以降、各メンバーはいま何をしてるのか。多分、日本でそんなの気にするのは俺くらいしかいないだろうけど、でも気になったので調べてみた。
 まずはフロントマンであり、メインのヴォーカリスト兼ソングライターでもあったヒートンから。
 ハウスマーティンズ時代から多くの楽曲を書き、リード・ヴォーカルを務めていたこともあって、ソロ活動に入るのも早かった。サウス在籍時から「ビスケット・ボーイ」名義で活動していたことから、ある程度、心の準備はしていたんじゃないかと思われる。
 ある意味、満を辞しての本格ソロ・デビューだったにもかかわらず、しばらくの間、思うようにセールスは伸びなかった。これがサウス絶好調時代だったら、また事情は違ったんだろうけど、人気低迷してからの解散→ソロ・デビューだったため、ソロ3作目まではパッとしなかった。パッとしないのは見た目だけで充分、っていうのは余計なお世話か。
 転機となったのは、元2代目女性ヴォーカリスト:ジャクリーン・アボットとの再会だった。サウス絶好調時代のピークを迎えていたにもかかわらず、自閉症と診断された息子の看病のため、忸怩たる想いを残しての引退から10年。表立った活動から身を引いていた彼女に声をかけたのが、ヒートンだった。
 何をやってもうまくいかない、そんな迷走期のヒートンが手がけたミュージカル・スコア『The 8th』のキャストとして、アボットは久しぶりに活動を再開した。その後、意気投合した2人は、共に活動することが多くなる。
 それまでパッとしなかったアルバム・セールスも、デュオ・スタイルになると、みるみる復活した。サウスの音楽を求めていた潜在的ファンが、それだけ多かったということなのだろうけど、まぁエルトン・ジョンやフィル・コリンズのパクりみたいなコンテンポラリー・ポップより、ずっと分相応だ。
 昨年末にリリースしたデュオ4枚目のアルバム『Manchester Calling』は、なんとUK1位。もう「完全復活っ」って言い切っちゃってよい。時節柄、目立ったライブ活動ができるわけではないけど、2人のポジションは安定期に入ったと思われる。

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 もう一人の中核メンバーであり、ソングライター兼ギター担当だったのがロザレイ。ヒートン同様、彼もまたバンド末期からソロ・プロジェクトHomespunを始動させており、セカンド・キャリアへの移行はスムーズだったと言える。
 YouTubeにテレビ出演時の映像がアップされているのだけど、女性ヴォーカルをメインとしたゆったりカントリー・ポップ。要は、まんまサウス。
 サウス・サウンドの要であった歌詞がどうなっているのか、その辺はちょっと不明だけど、サウンドはほぼそのまんま。ただ「Unfortunately Young」や「My Sorrows Learned To Swim」といった曲タイトルから察するに、サウス時代からそれほどコンセプトが変わったようには思えない。
 何でわざわざソロになってまで、バンドでもできる音楽をやるのか。おそらく、サウスの人気低迷に伴い、レーベル側から路線変更を強いられたことが、ライター陣の反発を招き、解散に繋がったんじゃね?というのが、俺の推察。
 「せっかく独りになったんだから、サウスとは違う路線を」と、似合わねぇコンテンポラリー路線に走ったヒートンに対し、大きな変化を望まなかったのがロザレイだった。もともと在籍時から、ヴォーカル・チームと演奏チーム双方に対し、適度な距離を置いていた人だっただけに、誰の力も借りず、独りで純正サウス・サウンドを引き継ぐ決意を固めていたのかもしれない。
 とはいえそんなHomespanも、サウス解散後間もなく解散している。その後、2010年にソロ・アルバムをひっそり1枚リリースして以降は、目立った活動はしていないっぽい。
 もう少し突っ込んで調べてみると、その初ソロ・アルバム『The Life of Birds』を最後に音楽業界から引退、現在は故郷ハルでパブを営んでいるらしい。でも、この情報も10年近く前の話なので、今はどうなってるやら。

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 もう1人の中核メンバー:デイヴ・ヘミングウェイ。ヒートンと並んで、メイン・ヴォーカルを務める機会は多かったけど、正直、サウスのクリエイティブ面においてでは、彼の貢献度はそこまでのものではなかった。オリメンであること以外、特筆すべきことが、実はほとんどない。
 一応ディスコグラフィーを総ざらいしてみたんだけど、彼がメインで書いた楽曲って、ほとんどないんだよな。「ヘミングウェイ」っていう仰々しいラスト・ネームで勘違いしてしまいがちだけど、ヒートン:ロザレイに比べれば、存在感は圧倒的に薄い。
 ただ、バンド運営においては重要なキーマンだったと思われ、解散が決まってからのヘミングウェイはアクティヴに動き始める。演奏チームのその他3名を取り込み、さらにサウス最後の女性ヴォーカリストとなったアリソン・ウィーラーも引っ張り込んで、新バンドNew Beautiful Southを結成する。
 なんとなく察せられるように、サウス解散で路頭に迷った連中への救済措置、いわば「その他大勢」のみで結成されたバンドである。例えると、桑田夫婦の抜けたサザン、ミックとキースのいないストーンズのようなもので、ハッキリ言っちゃえばもう別のバンドなのだけど、一応オリメンが半数以上を占めていることもあって、かなりグレー・ゾーンではある。
 楽曲制作のできるオリメンが抜けたことによって、まともに曲を書けるメンバーがいなくなり、苦肉の策として、サウスのレパートリーをライブ演奏する懐メロバンドとして生き残る道を選んだ彼らだったけど、どの方面から横ヤリが入ったか、活動間もなくバンド名はThe Southに変更される。そんな紆余曲折のあった定冠詞つきのザ・サウスだったけど、その後は順調かつ地道に、ライブ中心に活動を行なっている。
 よく言えば「サウスのトリビュート」、悪く言っちゃえば「サウスの劣化コピー」であるザ・サウスは、どうにかこうにか活動を継続し、2012年にはオリジナル書き下ろし楽曲によるスタジオ・アルバムのリリースにまで漕ぎ着けた。スタートは「その他大勢」の寄せ集めだったとはいえ、ここまでやれたんだったら、もう胸を張ったっていい。
 ただもちろん、旧サウス組はソングライティングに関わっていない。新メンバーたちがサウスっぽい新曲を書き下ろしただけであって。
 なので、そんな由緒正しい旧サウス組の存在感は薄くなり、ていうか存在意義そのものが危うくなってゆく。一応、旧サウス組ではあるけれど、末期に加入したため、全盛期を知らないウィーラーがイニシアチブを握るようになっていった。フロントマンが実権を握るのは、自然の流れだもんな。
 そうなると面白くないのが、ヘミングウェイ。他3名はそこまで思っていないにせよ、母家を乗っ取られた感がプライドを傷つけたのか、2017年、遂にザ・サウスを脱退、新バンド:サンバーズを結成する。
 身ひとつで飛び出したため、それなりに苦労はあったと思われ、どうにかこうにかアルバム:シングル・デビューに至ったのが、2020年。そこからライブ・ツアーで本格始動、と行くはずだったのだけど、あいにくコロナ禍とぶち当たってしまい、現在は宙ぶらりんの状態となっている。
 なので、今後どこまで続けるかは、リーダーのヘミングウェイ次第。ちなみにPVを見てみると、これまたサウスそのまんま。そんなにみんな、サウスが大好きなのか、それともコレしかできないのか。

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 そんな感じで、元メンバーの多くが何らかの形でサウスに関わっている、また、サウスの呪縛から抜け出せないでいる中、唯一ほぼ無関係、独自路線を歩んでいるのが、初代女性ヴォーカルのブリアナ・コリガン。1992年にバンドを去って以降、メジャー・シーンで活躍することはなくなったけど、いまだに新たな音源をBandcampにアップし続けている。つい最近も、地元ダブリンのミュージシャンとコラボしたクリスマス・ソングがリリースされた。
 音源を聴いてみればわかるように、そもそも彼女、敬虔なクリスチャンであり、至って真面目な人である。下世話で悪趣味で露悪的なヒートンの歌詞を歌うことに嫌気が刺したのが脱退のきっかけになったくらいなので、サウスのコンセプトとは真逆の人なのだ。
 そんなモラリストなコリガンが抜け、サウス全盛期に入るターニング・ポイントとなったのが、アボットの加入。ある意味、サウスの良心を担っていたコリガンというタガがはずれ、どんな下ネタでもNGなしのアボットによって、下世話さは増した。ただ、そんな作風が大衆のニーズにドンピシャだった、という事実。
 で、アボットにメンバー・チェンジして最初のアルバムが、この『Miaow』。どんな意味なのか、つい最近まで謎だったのだけど、要は猫の鳴き声だってさ。
 …なるほど。ふざけ具合にも拍車がかかったってことか。
 くっだらねぇ。でも、嫌いじゃない。





1. Hold On to What? 
 彼らにしては珍しく、長尺6分のナンバーがーオープニング。普通のバンド/アーティストなら、こういった壮大な曲の場合、普遍的かつドラマティックな展開のテーマを取り上げるものだけど、そこは当然サウスなので、そんなのはありえない。
 
2. Good as Gold (Stupid as Mud)
 同様に、軽快なポップ・ナンバーであるけれど、サブ・タイトルにStupidって入ってるくらいだから、あとは推して知るべし。

3. Especially for You
 なので、彼らがこんなストレートなタイトルをつけても、どっかひと捻りもねじりもあるんじゃね?と勘ぐってしまう。ただ結構真に迫ったバラードで、ざっくりしたGoogle翻訳を読んでみても、そこまでおちょくった感は見られない。
 たまにやるんだよ、こういった真面目なやつ。でも、たまにだからいいんだよな。

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4. Everybody's Talkin'
 さわやかな涼風が差し込んだ、カントリー・フォーク・タッチ。新メンバー:アボットがメインとなった『Miaow』2枚目のシングル・カット。UK最高12位は、当時の彼らのアベレージをクリア。幸先のよいスタートってとこ。
 でもこれ、ニルソンの「うわさの男」のカバーなんだよな。せっかくならオリジナルでシングル切ってほしかった。

5. Prettiest Eyes
 こちらは3枚目のシングル・カットで、UK最高37位。3枚目ともなると、こんなもんか。
 端正なアコースティック・ポップだけど、翻訳の雰囲気を見る限り、多分、コレも大したことは言っていない。でも、そんなどうでもいいことを丹念に拾い上げて捻じれさせるのが、彼らの持ち味なのだ。



6. Worthless Lie
 「他愛ない嘘」っていうくらいだから、彼らのキャラクターを言い表しているようなタイトル。こういった甘いメロディと陳腐なドラマを絡ませるのは、彼らの真骨頂。
 でも、これもそんなに大したことは言ってない。

7. Hooligans Don't Fall in Love
 すっげぇファンキーなカッティングで始まる不穏なオープニングだけど、「フーリガンは恋に落ちない」って、なんだそりゃ。まぁ言ってることはともかく、サウンドはカッコいい。ビスケット・ボーイもこんな感じだったもんな。

8. Hidden Jukebox
 人種や差別を超えて、音楽を楽しもうっていう前向きなメッセージっぽいけど、彼らが歌うと「なんか裏があるんじゃね?」って、つい思ってしまう。こうやって聴いてると、案外演奏チームも手を変え品を変え、似たような主題に彩を添えているのが窺える。

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9. Hold Me Close (Underground)
 そんな演奏チームの工夫の成果なのか、珍しく浮遊感のあるギター・ロックっぽいトラック。でも、ヴォーカルは相変わらずリズム感とは縁遠いんだよな。
 
10. Tattoo
 タトゥーの針の痛みをモチーフとした、辛い恋愛の機微をめずらしくストレートに表現したトラック。すごい深みがあるわけじゃないんだろうけど、さりとてサラッと表面をなぞっただけでもない。このさじ加減こそが、英国人の多くに愛されるポイントなんだろうか。

11. Mini-Correct
 冒頭からコンドームや鞭やら下関係のワードが頻出し、その後は昼ドラのような下世話なストーリー展開といった、ブリアナ・コリガンなら絶対歌わなさそうなナンバー。実際、レコーディング前にこの曲の歌詞を渡されたことが、脱退のきっかけとなったらしいし。
 拒否られることをわかっていながら、それでもひたすら下世話な歌詞を送り続けるヒートン。「屈折した愛情表現だったのかも」という想いが頭をよぎる。

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12. Poppy
 ラストは壮大っぽく聴こえるバラード。戦争にまつわる悲劇を主に描いている。ここはあまり茶化しちゃいけないところ。
 でも、普段は下ネタやゴシップが大好きな人なんだよな。そんなギャップがまた魅力的なのかも…、って、ねぇよ。







「がんばったのに、報われない」。そんなの、人生でよくアリがち。 - Beautiful South 『Gaze』

folder 1999年、イギリス南部を中心とした地域密着インディー・レーベルとして頑張ってきたGo!Discsは、大メジャー:ポリグラムに吸収合併された。「営業方針の変更のあおりで、サウスも路線変更を強いられることになった」というところまでは、以前のレビューで書いた。
 レーベル古株であるビリー・ブラッグも去り、Portisheadと並んで、実質的に看板アーティストとなったサウスだったけど、表立って屋台骨を支えるようなタイプではなかった。どちらかといえば、英国限定のドメスティックなローカル・バンドであり、周囲もファンもそう思っていたはずなのだけど、ベテランということもあって、矢面に立たざるを得なかった。
 ネット黎明期だった90年代は、まだ圧倒的にCD売上が収益の多くを占めていた時代である。ポリグラムの方針としては、一発当てれば収益のデカいアルバム制作を重視していた。テクノやハウス系など、クラブ・ユースではいまだシングルの需要はあったけど、クラブ民にはまるで知名度のないサウスは、アルバム中心の営業戦略に振り分けられた。
 ただ、インディー・シーンに長く所属していたサウス、膨大なプリプロとバジェットが必要なアルバム制作よりは、むしろシングル中心の活動の方が性に合っていた。英国人の嗜好に合わせた皮肉とペーソスをテーマに、ピリッとオチを効かせた小噺を、ちまちまコンスタントにリリースする活動形態が、英国マーケットの支持を得ていた。

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 端正に仕上げたシングル作品がある程度溜まったところで、いくつかの書き下ろしを追加レコーディング → 12曲入りのアルバムに仕上げるのが、これまでのサウスのやり方だった。チャチャっと仕上げて、冷めないうちに出来立てを届ける―、そんなサイクルが、彼らの活動ペースとうまくシンクロしていた。
 元メンバー/現売れっ子のノーマン・クックにサウンド・コーディネートを委ね、スタジオ・ワークに凝った7枚目のオリジナル・アルバム『Painting it Red』は、停滞したバンドのテコ入れ策としては有効だったけど、アナログ2枚組という販売形態はちょっと無謀だった。
 たっぷり詰め込んでお得感を演出しようとしたのか、CDフォーマット容量ギリギリ、73分・19曲というインパクトは確かに立派だけど、そもそもサウスに求める方向性が違ってる。コア・ユーザーならともかく、多くのライト・ユーザーはもっとサクッと気軽に聴きたいのであって、彼らにそんな大作志向を求めてはいないのだ。この辺はポリグラム英国支社のリサーチ不足が問われる。
 はっきりしたトータル・コンセプトもない、一個一個独立した世界観の楽曲が連綿と並ぶ70分の大作は、正直、聴き通すのが難しい。せっかくなら、何曲か削ってスッキリ1枚にまとめ、こぼれてしまった曲はシングルB面に振り分ける策もあったと思うのだけど、まぁポリグラム営業のゴリ押しが勝っちゃったんだろうな。みんな、長いモノには巻かれそうだし。
 とはいえ、ここまでセールス実績のあるサウス、大ヒットした前作『Quench』の余韻もあって、『Painting it Red』はそこそこ売れた。アベレージはクリアしている。でも、1年後にリリースされたベスト・アルバム『Solid Bronze』の方がセールスも評判も良かったため、メンバーの士気は一気に萎えてしまう。
 運命共同体的なチームワークをもって、不変の凡庸さを追求し続けていたサウスだったけど、その絶妙なバランスは次第に崩れてゆく。さらにさらに、何を今さらだけど、サウンド・コンセプトのマンネリ化を嘆く声がメディアからも噴出し、メンバーのテンションはダダ下がりする。
 レーベル内の期待値も同様にフェードアウト、ポリグラム合理化によるGo!Discsの事業縮小がさらに追い討ちをかけ、サウスは活動を休止、各自ソロ活動に入ることになる。

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 ただ彼ら、公に活動休止を謳ったわけではなく、何となくズルズルと、バンドでのレコーディングやライブ活動を停止しただけだった。ただこれまでも、その2つ以外でメディアで話題になることはなかったため、多くのファンは「ちょっとしたブランク程度」としか思っていなかった。
 ソロ活動期間とはいえ、積極的に活動していたのはポール・ヒートンだけで、他のメンバーはまったく話題にのぼらなかった。もしかして、誰かのセッション参加やバッキングくらいはやっていたのかもしれないけど、まぁ週末のパブ出演くらいかね、多分。そのポール・ヒートンのソロ・プロジェクト「ビスケット・ボーイ」もそれほど話題にならず、人知れず休養期間は終了する。
 で、リフレッシュして心機一転、原点に立ち返って作られたのが、この『Gaze』。ゲストや外部スタッフは極力入れず、お馴染みのメンツ・いつも通りのテンションで、レコーディングは執り行われた。
 オッサンが無理してる感があった、前作までのぎこちないリズム・アプローチは、武者修行を終えたヒートンの成長もあって、これまでのネオアコ・ベースのサウンドにうまく溶け込んでいる。原点回帰とはいえノスタルジーに陥らぬよう、プロデュース・ワークには細心の注意が払われている。
 懐メロバンドというほど落ちぶれておらず、時代のトレンドセッターというポジションでもない。ただ、細かなアップデートを行ないながら、過剰な売れ線に走ったりせず、常に変わらぬ安定した品質の音楽を供給する。
 そんな彼らの足跡を象徴するかのように、『Gaze』は丹念に作られている。いるのだけれど、でも―。

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 思ったほど売れなかったのだ、このアルバム。これまではゴールド・ディスクまたはプラチナが当たり前、ダブル・トリプル獲得も余裕だったにもかかわらず、『Gaze』はシルバー止まり、チャートも最高14位と、デビュー以来、初めてトップ10入りを逃してしまう。
 日本と比べて半分程度の規模でしかない英国エンタメ市場では、シングル・チャートの意味合いは相当大きい。アルバムからの先行シングル・カットのヒット如何によって、アルバム本体のセールスも大きく左右される。
 小規模なキャッシュフローをベースとした、コンスタントなシングル・リリースによってアーティスト・ブランドを維持、常にチャート入りを維持することで購買習慣を植え付ける方針は、彼らの活動ペースとフィットしていたはず。でも、そんなチマチマしたビジネス・スタイルは、全世界をマーケットとするポリグラムの意とは沿わなかったわけで。
 そりゃ時代の変化もあったりして、往年の売り上げを維持するのは難しかったかも知れないけど、これまでのようにシングル中心のリリースを続けていたら、そこそこのアベレージは維持できていたはず。現場のディテールなんて預かり知らない、大メジャーの上位下達に振り回され、バンド運営の歯車は再度狂い始める。

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 ていうか、歯車が狂い始めたのはもう少し前、全盛期を支えた女性ヴォーカル:ジャクリーン・アボットの脱退が大きかった。変な歌詞ばっか歌わされるのがイヤになったせいかと思っていたのだけど、調べてみると、「自閉症の息子の世話に専念するため」という、深刻な事情によるものだった。そりゃ誰も止められない。
 『Gaze』より新加入したアリソン・ウィーラーは決して悪くないのだけど、やはり実績のあるジャクリーンに分があるのは、そりゃ仕方ないわけで。まぁ、どっちも声質もヴォーカル・スタイルも似てるんだけど。
 互いに得難いパートナーと悟ったのか、はたまたエログロな歌詞を歌ってくれる女性ヴォーカル探しに困窮したのか、解散して間もなく、ヒートンとジャクリーンはユニットを結成している。互いのソロ活動と並行しながら、不定期にライブを開催、これまで共同名義で3枚のアルバムをリリースしている。
 元サウスというネーム・バリューは、英国では相応に通用するらしく、大ヒットとまでは行かなくとも、リリース契約は続いているし、フェス映像で確認すると、観衆の反応も良い。時代をリードするのはもう無理だろうけど、そこそこ知られたヒット曲を数多く持つ彼ら、妙な野心さえ抱かなければ、この先もマイペースに活動を続けてゆくのだろう。


Gaze
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Universal Music LLC (2003-11-03)
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1. Pretty
 ほんわかで伸びやかに歌い上げるカントリー・タッチの楽曲がオープニング。ちょっとスローなロカビリー風の牧歌的なサウンドは、肩の力が抜けてイイ感じ。まぁ歌ってる内容はいつも通りしょうもないことだけど。

2. Just a Few Things That I Ain't
 『Painting it Red』で培ったリズム・アプローチをうまく消化して、サウスのオリジナリティが前面に出たアッパー・チューン。彼らにしてはフィジカルへ訴えかけるリズム・パターンとなっている。リード・シングルとして新生サウスをアピールするにはピッタリだった。
 だったのだけど、チャートはUK30位と、なんか中途半端。もはや、トップ・チャートに彼らの居場所はなくなっていた。



3. Sailing Solo
 ネオアコ・リバイバルと言われたら納得してしまう、アコースティック・ベースのゆったりしたポップ・チューン。やはりこういった曲をやらせたら、すごくハマるのは彼らならでは。時代遅れと言われたらそれまでだけど、エヴァーグリーンの清冽さに弾かれてしまうのは否定できない。いいんだよ、ワンパターンだって。

4. Life Vs. The Lifeless
 こちらはもうちょっと凝った展開の、彼らにしてはロック・コンボよりのサウンド。昔のヴィンテージ・シンセみたいなエフェクトが、彼らにしては新味。ノーマン・クックのサジェスチョンも決して無駄ではなかったということか。

5. Get Here
 彼らのアルバムの中では必ず一曲はフィーチャーされる、ややダークな味わいのバラード。ここで初めてアリソン・ウィーラーが存在感をアピールしてくる。ハスキーな声質ゆえか、歴代の女性ヴォーカリストの中では最もセクシャリティの強いアリソンだけど、ヒネた少年みたいな声のヒートンとの相性は、正直そんなに良くない。女教師と生徒の逢瀬みたいな空気感がちょっと…、って思ったけど、考えてみればサウスの歌詞世界的にはアリなのか。じゃあいいや。

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6. Let Go with the Flow
 爽やかな曲調になればなるほど、しょうもない歌詞になるのが彼らの特徴だけど、まぁこれもそんな感じ。詳しいところはうまく訳せないけど、どうやら働かない男の愚痴やボヤキが延々と連ねてある。モンティ・パイソンもそうだけど、真面目な顔でくっだらねぇことを呟くのは、英国人の愛すべき特徴のひとつ。



7. The Gates
 ちゃんと訳すのが難しいけど、いろんな人生の悲喜こもごもを歌っているらしい。それはいつも通りだけど、ここまでのサウンド・アプローチのどれもが既視感が強いのが気になる。いわば、これまでの作品のエッセンスのいいとこどりで構成されており、言ってしまえば無難な仕上がり。この辺は新顔アリソンに気を使ったのか、それとも一応ポリグラムに忖度したのか。

8. Angels and Devils
 このアルバム屈指の美メロなバラードだけど、世俗な天使と高潔な悪魔とのコントラストを皮肉で描く歌詞。やはりこういうのを書かせたら、ほんとうまい。うまいんだけど、3分弱はちょっと短くまとめ過ぎ。もっとアリソンのソロ・パートを多くしたり、引っ張ったっていいはずなのに。

9. 101% Man
 あら、ここでロック・チューンなんだ、少しタメの効いたリズムがバンドっぽい。あ、バンドだったか。まぁでも、このくらいの曲なら、彼らにとっては平均点程度。サラッと終わらせてるのは、演奏パートで間が持たなくなるからというのが、手に取るようにわかる。やっぱヴォーカル主体なんだよな、しっかりした演奏なのにもったいない。

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10. Half of Him
 ラス前はアリソンがメインのポップ・バラード。最初はまっとうなラブ・ソングなのだけど、次第に女性側の欲求不満が募ってぼやいて終わるという、これもいつものパターン。「I Can’t Get No Satisfaction」だもの、ほんと、こういうの歌わせるのが好きだこと。

11. The Last Waltz ~ Loneliness
 サウスにしては珍しい、不安定なコードのサスティンから始まり、それ以降はいつも通り。でもアウトロが不穏なムードで終わる。
 で、そこから1分ほど無音状態が続き、4分半過ぎたあたりから3分過ぎたあたりから始まるのが、シークレット・トラック扱いの「Loneliness」。なんでわざわざ隠しトラック扱いにしたのかわからない、メロウでちょっとセンチで美メロなバラード。素直にこっちを正規トラック扱いにすればよかったのに、というのは余計なお世話かね。でも、いいんだよ、この曲。



Soup [Explicit]
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Universal Music LLC (2008-02-04)

The BBC Sessions (BBC Version)
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普通のおっさんバンド、脱ネオアコ化計画 - Beautiful South 『Quench』

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 もともと、当時の音楽トレンドとは無縁のところで活動していたため、考えてみれば、いったい何でそんなに売れていたのか、逆にそっちの方が謎である。センセーショナルな話題もなければゴシップ誌に載るわけでもない、そんなごく普通のおっさんたちは、緩やかな下降線をたどって行くことになる。
 前回のRoddy Frameのレビューでもちょっと触れたけど、基本、イギリス国内で主に活動する、ていうか、ほぼ国内でしか知名度のなかったバンド、それがBeautiful South である。一応、EUエリア内では多少名は知れていたけど、それ以外はほぼさっぱり、と言ってよい。アメリカではカスりもしなかったし、日本ではどうにか国内盤は流通してはいたけど、そこまで売れていたわけでもない。
 Aztec Camera 同様、日本では初期のネオアコ期のイメージが強いため、後期の作品はほとんど紹介されていない。再発もデビュー作と次作『0898』くらいだし。紙ジャケ化も華麗にスルーされちゃった。

 一応、年代を経るにしたがって、アコースティック風味は薄くなり、控えめながらサウンドも華やかになって行くのだけど、メインのソングライター2名が固定のため、そこまで劇的な変化はない。相も変わらず変わりばえしない、英国人特有のねじ曲がった皮肉とペーソス、それでいて口ずさみやすく親しみやすいメロディというのが、彼らの持ち味である。
 こうして書いてると悪意がありそうに見えるけど、いやそうじゃない、これはこれで、ちゃんとした「褒め」言葉だ。
 変に斜め上なアーティスティックを気取るわけでもなく、かといって、露骨に大衆に迎合するわけでもない。至って変わらず、ずぅっとそのまんま。
 バンドだからといって、超絶アンサンブルが飛び交うわけでもない。むしろそんな小技はジャマになる。なので、一般的なイメージのバンドというよりは、Paul HeatonとDave Hemingwayを中心とした固定ユニットと捉えた方が、ニュアンス的にうまく伝わるんじゃないかと思う。

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 よく言えば、「安定したクオリティを維持している」と言えるけど、意地悪く言っちゃえば、サウンドやコンセプトに大きな変化がないため、アルバムごとの個性が希薄なのも、特徴といえば特徴である。
 例えば『Quench』と『Miaow』 、どっちが先にリリースされたのか、よほどのコアなファンでも、即答するのは至難の技だ。俺自身、突然聞かれても、正確に答えられる自信がない。まぁ今後の人生、そんなシチュエーションはまずありえないけど。
 じゃあ、本人たちがそれらすべてを把握しているのかといえば、それもちょっと怪しい。むしろ、筋金入りのコアユーザーの方が、クロノジカルに整理して、サイトで公開していたりする。
 昔、何かと重宝したこのHPだけど、そりゃあもうとんでもないマニアックぶり。もうずいぶん前に更新が止まっちゃってるけど、時々覗いたりすると、いろんな発見があって面白い。

 話はいきなり飛んで、音楽ビジネスの話。
 『Quench』リリース前年の1997年、彼らの所属レーベルGo! Discsは、メジャーのポリグラム・グループに合併吸収される。長らくインディーで独立採算で踏ん張ってきたけれど、当時、世界規模で進められていたメジャー寡占化の波には抗えなかった。
 最初の契約アーティストがBilly Bragg であることから察せられるように、安易に商業路線に流されなかったGo! Discsだったけど、そんな硬派なポリシーを貫き通すことが難しくなりつつあった。
 Style Council 解散後、地道なドサ回りを余儀なくされたPaul Weller は、『Stanly Road』がバカ売れして、さっさとアイランドへ移籍していた。せっかく採算が取れるようになったのに、レーベルとしては大きな痛手である。
 彼以外でレーベルの屋台骨を支えられるのは、もうBeautiful South くらいしかいなくなっていた。目ぼしいところではPortishead がいるにはいたけど、彼らって当時から寡作だったし。
 ポリグラムが彼らを手に入れたかったのか、それとも単なるインディー市場のシェア拡大を狙った経営戦略の一環だったのか。まぁ多分後者だろうな。
 英国ローカルではあるけれど、取り敢えずカタログの中では収益性が高かった彼らに、経営陣は目をつけた。そんなこんなでBeautiful South 、若干の路線変更を強いられることになる。

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 根幹の歌詞とメロディは崩さずそのまま残しといて、ちょっぴり新味を付け加えてみる。じゃあ、その新機軸とは。
 まず、ビジュアル面でのテコ入れは、ちょっと難しい。メンバーはみな、ファッションに何の興味もないおっさんばかり、今さらスタイリストをつけても仮装行列みたいになって、サマになるはずがない。これはダメ。
 手っ取り早いのはメンバー・チェンジだけど、ほとんどのメンバーがHousemartins からの持ち上がりのため、無駄に結束が硬い。安易に貢献度だけでいじくってしまうと、バンド内バランスが崩れ、元も子もなくなってしまう。
 期待の若手をベテラン・バンドに加入させる、というのも割と良く使われる手法だけど、いや、それもちょっとミスマッチ過ぎるよな。おっさんの中にビジュアル担当のイケメンを無理やりねじ込んでも、浮きまくって病んじゃうだろうし。
 じゃあ、セクシー担当の若いお姉さんを加入させる、というのはどうだ。おっさんたちもテンション上がるだろうし。…いや、ダメだなこれも。何のてらいもなく、「Don’t Marry Her, Fuck Me」って歌ってくれる女性シンガーなんて、そんなにいるはずがない。Jacqui Abbottなんて、ほぼそれが理由で脱退しちゃったわけだし。

 もともとイノベーションとか構造改革なんて言葉とは無縁の人たちなので、能動的に改善しようと思うはずがない。ソングライター2人はこれまで通り、自分の好きな歌を歌っていられれば、それで満足だし、他のメンバーだって、もし売れなくなっても、イギリス国内のパブのドサ回りで細々食ってければ、それはそれでいいんじゃね?と思ってる連中だ。
 バンド内の人間関係もサウンド・コンセプトも、すっかりでき上がっちゃってるので、もう自分たちでは変えようがない。変えるには、外部からの助言や圧力が必要だけど、それも彼らのプライドを傷つけないよう、デリケートに行なわなければならない。
 バンド同様、似たような音楽好きの集まりだったGo! Discsとは違って、大メジャーのポリグラムだと、そんな内情も通用しない。世界規模のちゃんとした企業なので、単なる音楽ユーザーよりビジネスマンの方が多い集団だ。
 彼らにとって音楽性がどうの楽曲のクオリティがどうした、そんなのは眼中にない。彼らが見るのは売り上げと経費、そして費用対効果のデータだけだ。

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 当時の彼らは英国ポリグラム・グループの中では稼ぎ頭の部類だったし、あまり手間のかからないグループだった。こう言っちゃ失礼だけど、そんなに経費がかかったサウンドでもないし。
 前述したように、劇的な変化はそぐわないし、下手にいじり過ぎると、これまで培ってきたサウンドもポジションも、一気に失ってしまう恐れがある。今さらワールドワイドな展開までは望まないけど、せめて現状維持のため、多少は時流に寄り添ってもいいんじゃないの?と、ポリグラム側が思ったのか―。
 そんな経緯だったのかどうかは不明だけど、『Quench』ではHousemartins メンバーだったNorman Cookが、「リズム・アドバイザー」なる怪しげな肩書きでクレジットされている。なんか空間コーディネーターと同じくらい、うさん臭い呼び名だな。
 要は、自分たちでは何ら動こうとしないバンド側を前向きに導くため、単なる売れっ子プロデューサーを押し付けるのではなく、ある程度気心知れたヤツの方が相性良さそうだし、うまく行くんじゃね?といった形。確かに彼ら、他の同世代アーティストとの交流ってほとんどないからな。
 別名「Fatboy Slim」として、ビッグ・ビート使いでブイブイ言わせていたNorman 、当時は多忙だった彼がどこまで深く関わっていたかは不明だけど、バンドにとっては程よい刺激になった。
 流麗なメロディ・ラインはそのままに、スパイス的なリズム・アクセントをつけることによって、彼らにしては珍しくグルーヴ感が際立った仕上がりになっている。時に整いすぎてイージーリスニング化していた旋律も、リズム隊の奮闘によって、メリハリがつくようになった。

 リズム強調路線が好評を期し、新機軸を見い出したBeautiful South 。その後は今まで同様、謙虚で出しゃばり過ぎず、ほんの少しリズムのバリエーションを増やす路線で行くのかと思われた。
 それが何を勘違いしちゃったのか、次作はなんと2枚組。
 いやいや、そういうのはいらないって。


Quench
Quench
posted with amazlet at 18.10.12
Beautiful South
Polygram UK (1999-07-20)
売り上げランキング: 312,753



1. How Long's a Tear Take to Dry? 
 シングルとして、UK最高12位をマーク。珍しくブルース・タッチのスライド・ギターが出てきたと思ったら、エフェクト的な使い方で、黒っぽさは全然感じられない。和やかなホーン・セクションも入って、細かく聴けば小技が入ってはいるのだけど、全体では結局通常営業の彼ら。期待を裏切らないスマッシュ・ヒット。



2. The Lure of the Sea
  Bメロのヴァ―スで思いベース・リフが入ってくるところが、ちょっと新鮮。これがないと器用なポップ・ソングで終わってしまうところを、ほどよいメリハリをつけている。Doorsみたいなオルガンが入るところも、彼らとしては新機軸。

3. Big Coin
 しっとりした抒情的なバラードだけど、歌ってる内容は相変わらずしょうもない。何かの暗喩かと思われるけど、ポップ・ソングにIMFなんて言葉、普通は使わない。流麗なメロディがうまくコーティングしている。

4. Dumb
 2枚目のシングル・カット、UK最高12位。メランコリックなギターから始まる、ブルースっぽさを漂わせたバラード。気が抜けてダルそうなコーラスが、皮肉たっぷり。

5. Perfect 10
 UK最高2位をマーク、後期最大のヒット曲。貢献度の低いギターで、Paul Wellerが参加している。まぁレーベル去るにあたっての置き土産だな。歌ってる内容はしょうもない、服のサイズになぞらえてチンコの大きさがどうした、といったくっだらねぇ歌詞。それはまたさわやかに歌ってしまうものだから、英国人の好みにすっぽりはまっちゃってる。ほんとにもう、英国人って。



6. The Slide
 ゴスペルチックなコーラスとストリングスが入る、大仰なバラード。どうせまた、くっだらねぇこと言ってるんだろうな。

7. Look What I Found in My Beer
 ほど良く抑制感の効いた、ソリッドなロック・チューン。彼らのレパートリーのなかでは珍しくシンコペーションが目立つので、疾走感が漂っている。演奏陣が結構がんばってるんじゃないかと思うんだけど、そういうのって彼ら、あんまり求められてないので、ちょっと惜しい。

8. The Table
 4枚目のシングル・カット、最高47位。軽やかな3連ミドル・バラードでまとめられており、スタンダードにもなりえる良曲なのだけど、時代的にもうこういうのは求められなくなっちゃったのかな。もうちょっとリズムにキレがあるのを、彼らも志向しつつあった。

9. Window Shopping for Blinds
 初期のネオアコっぽさを感じさせるナンバー。ワルツを効果的に使うのはまぁいいんだけど、やっぱジジくさいよな。ちゃんと聴かせるバラードにするなら、それなそれでもっと色気がないと。あ、でもそれじゃSouthっぽさがなくなっちゃうか。その加減が難しい。

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10. Pockets
 思いっきり脱臭したブルース・ロック。あくまで「らしさ」を追及しているだけなので、基本はいつもの彼ら。

11. I May Be Ugly
 アルバム終盤に近づくにつれ、どんどん地味になってゆくのが、この人たちの特徴と言えば特徴。吐き捨てるようなDylanタッチのヴォーカルも、あくまでDylan「らしさ」、表面をなぞっただけ。

12. Losing Things
 ジャジーなムード漂う、「やってみた」的ナンバー。まぁ1曲くらいはこんなのもアリか。どう考えてもNormanは絡んでなさそうだけど、バンド側としてはどうしても入れたかったんだろうか。アウトロのブルース色は、やっぱり合わないんだけど。

13. Your Father and I
 彼らばかりに任せておくと、なんか中途半端なダウナー系ブルースに迷い込んでしまう。多分、それがバンド内マイブームだったんだろうけど、起伏もないダラッとした仕上がりは、明らかにマンネリ化の証。なので、こういった奥行き感のあるミックスを施したNormanの手腕が発揮された楽曲の出来の方が,明らかに良い。



Soup [Explicit]
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Universal Music LLC (2008-02-04)

The BBC Sessions (BBC Version)
Universal Music LLC (2007-04-04)


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北海道の中途半端な田舎に住むアラフィフ男。不定期で音楽ブログ『俺の好きなアルバムたち』更新中。今年は久しぶりに古本屋めぐりにハマってるところ。
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