461位 Bon Iver 『For Emma, Forever Ago』
「ボン・イヴェール」と読むことを今回初めて知った、アメリカ・インディフォークのデビュー作が初登場。骨格自体はコード感の薄いアシッドフォークだけど、音響派にインスパイアされたノイズやエフェクトでアクセントをつけている。
単に朗々としたアコースティックサウンドではなく、シーンとリンクさせるサウンドメイキングによって、引っ掛かりのある音作りを実現している。
とはいえ、先入観なしで聴いてもいい所が見つけづらい、ライトユーザーにとっては積極的に聴きづらい音は、ごくプライベートな範囲で鳴っている。一度ハマったら虜になるのだけど、その音は聴く者を選ぶ。
自分自身と、そしてごく内輪にのみ向けられた、アンチコマーシャルなサウンドはひどく内向的で、無理な押しつけ感はない。その独白は自己完結し、ほんのわずかの共感を呼び起こす。
そんなシンパシーを感じた者が、ここにランクインするほどいるということだ。そういう意味においても、アメリカの音楽市場の裾野は広く、そして深い。
前回461位はPublic Image Ltd. 『Metal Box』。今回は圏外。
462位 The Flying Burrito Brothers 『The Gilded Palace of Sin』
昔のロック名鑑に小さく載っていたため、名前だけは一応知っていた、カントリーロックの代表的バンド:フライング・ブリトー・ブラザーズのデビュー作が大きくランクダウン。近年のほぼダンスポップなカントリーポップや、ロック要素の強いオルタナカントリーと違い、和やか癒し系カントリー成分多めの音だけど、案外嫌いじゃない。
UK発祥なのに、コロコロ紆余曲折してカントリーへ傾倒してゆくザ・バーズから、そのキーパーソン呼ばわりで追い出されたグラム・パーソンズ、そのついでに同僚クリス・ヒルマンを誘って結成されたのが、このバンド。ロック全体がラジカルかつ刺激的な傾向へ向かう中、いわば逆張りのようなオーセンティック路線を選んだのは、はたして良策だったのか。まぁそこまで考えてなかったろうな。
日本ではジャンル自体が根付かなかったおかげで馴染みもなく、どんな音なのかイメージが掴みづらかったのだけど、和やかさで朗々とした演奏をぶった斬る、切れ味の鋭いペダルスティール・ギターがアクセントとなっている。このギターが入っていないと、ザ・バンドの劣化コピーみたいになってしまうため、これが当時は他のバンドとの差別化として有効だったのかもしれない。
とはいえ、現役活動時はおおむねビルボード100位以下、特別覚えやすいヒット曲があったわけでもなく、次第にリリース契約も切れてライブ中心の活動にシフトしてしまう。ストーンズの「Wild Horses」は彼らのヴァージョンが初出であり、その路線でもう少し粘っていれば、また違う成り行きもあったのかもしれない。
それをチャンスと便乗しようと思わなかったのか、または安易に乗っかるのは潔くないと思ってたのか。もう少しわかりやすく、たとえばロックビートを強調したり情緒的なギターソロを前に出したりしてたら、ドゥービーやイーグルスみたいになってたかもしれない。
前回462位はR.E.M. 『Document』。今回は圏外。
463位 Laura Nyro 『Eli and the Thirteenth Confession』
ミリオン級のセールスに至ることはなかったけど、数年に一度はバックカタログのリイッシューや発掘ライブのリリースなど、いまも根強く人気のあるアメリカの女性シンガーソングライター:ローラ・ニーロのデビュー作が初登場。70年代前半までは精力的に活動していたのだけど、結婚・出産を経てからはプライベートを優先、80年代はもっぱら社会運動に入れ込んでて寡作だった。なので、一般的に代表作は初期作品が紹介されることが多い。
古いソウルやジャズを聴き込んできた少女は、往年の名曲からインスパイされた、慎重かつ大胆なアプローチの楽曲を書いた。同世代のアーティストと比べ、彼女の楽曲の解釈と表現力は群を抜いていた。
優秀なソングライターであるキャロル・キング、優秀なパフォーマー/ミュージシャンであったジョニ・ミッチェルに対し、ヴォーカリストとして一歩抜きん出ていたのがローラだった、というのが俺の私見。ただ彼女の場合、ある時期を境に女性/母性への追求が顕著となったため、アーティストとしての比重が小さくなっていった。
キャロル・キングほど臨機応変に立ち回れず、ジョニほど押しが強いわけでもない。彼女にとって音楽とは、不可欠なものではあったけど、最優先ではなかった。
いろいろなしがらみを捨てて、音楽だけに殉ずる生き方を、彼女は選ばなかった。あちこち寄り道したりぶつかったりしながら、いまの思いを想いのまま、歌にする。それが彼女の音楽だったのだ。
他人の理解を無理に求めない、プライベートな音楽であるゆえ、マスへの訴求は難しいけど、どの時代・どの場所においても、彼女のような音楽のニーズは常にある。
前回463位はEcho and The Bunnymen 『Heaven Up Here』。今回は圏外。
464位 The Isley Brothers 『3x3』
「実は」というほどではないけど、今年の春から夏にかけて、アイズレーの70年代アルバムをずっと聴いていたのだった。昔はほとんど興味なかったのだけど、人は歳をとると、嗜好が変わってくるものだ。
デビューがモータウンというくらいだから、バリバリのソウルグループであるはずなのに、バックバンドにジミヘン入ったのが縁でギターがロック調に変化、その要素を含めたファンク路線でヒットチャートを席巻、人気が落ちてブラコンへ思いっきり方針転換したけど方向性の違いで分裂してしまった経緯を持つアイズレー。一気に書いてみたけど節操ねぇな、この人たちって。
ロックとソウル/ファンクを融合させたのは彼らが初めてではなく、有名無名含めて様々なトライ&エラーがあった。ファンカデリックはそういったフォーマットを使いつつ、さらにバカっぽさとアルバムごとのトータルコンセプトをでっち上げることで、得体の知れないカリスマ性を演出していた。
そういう意味ではアイズレー、当時のニューソウルのような社会性やメッセージ性も持たず、よく言えば純音楽主義、ノンポリであったことで、ちょっと格下感が漂う。ヒット曲もあるしキャリアも充分なはずなのに、なんか軽く見られてしまう、例えばコモドアーズやギャップ・バンドあたりと同列みたいな。
ただ一周回って先入観なしで聴いてみると、過剰にマニアックにならず、最低限のヒットのツボを心得たサウンドメイキングによって、70年代に安定した人気を獲得していたのも納得できる。強引にねじ込んだトゥーマッチなギターソロも、それすら許容してしまう圧倒的なクオリティとバンドの勢いを感じさせる。
前回464位はDef Leppard 『Hysteria』。今回は圏外。
465位 King Sunny Adé 『The Best of the Classic Years』
80年代の第3世界/エスニックブームの波で世界デビューしたキング・サニー・アデのベストが初登場。同じタイミングで台頭してきたのがサリフ・ケイタやユッスー・ンドゥールらで、ミュージックマガジン界隈ではそこそこ盛り上がってて、しょっちゅう特集組まれていた記憶がある。
ロックの衰退→ポストロックの流れから、西欧音楽以外のエッセンスを果敢に取り入れる動きが一時あって、日本でもわずかながら異文化交流が行なわれた。サザンがトゥレ・クンダとライブツアー回ったり坂本龍一がサムルノリを推してたり、思えばカオス指向がトレンドな時代だった。
あれから時を経て、アフロビートやキューバンリズムがあふれ返る世の中になったかといえば、そんなこともなく、俺も進んで聴いたことはない。ネット環境の発達によって、言語・国境のハードルは確実に低くなっているのだけど、アマゾンの奥地で流行ってるのはテイラー・スウィフトという現状。文化交流が一方的じゃないという証明でもある。
ただ、アフリカ奥地の子どもがブルーハーツ「青空」の日本語カバーYouTubeで流していたりして、それはそれで面白い世の中になったのかな、とも思う。じゃないと「真夜中のドア」「フライデイ・チャイナタウン」も知られなかったわけだし。
民俗学/考現学の視点で聴くのだったらともかく、この辺のジャンルを楽しんで聴くのは、ちょっとハードルが高い。ロバート・ジョンソン同様、よほどの興味がない限り、踏み込むには覚悟のいる音楽ではある。むやみに好き・嫌いって言えない音楽って、やっぱめんどくさい。
前回465位はMagnetic Fields 『69 Love Songs』。今回は406位。
466位 The Beach Boys 『The Beach Boys Today!』
まだ「夏だ・海だ」のキャッチフレーズが有効だった頃のビーチボーイズ65年のアルバムが大きくランクダウン。山下達郎がカバーした「Please Let Me Wonder」含め、ジングルとして使用頻度も高い「Do You Wanna Dance?」が収録されていたりして、普通にヒット曲集としても楽しめる。
長らく『Pet Sounds』『Smile』関連のリイッシュー/発掘音源のローテが続いていたビーチボーイズ界隈だったけど、ブライアン・ウィルソンによる『Smile』最終形態リリースによって、ひとつの区切りが打たれた。なので、近年はその時代以降、いわゆる低迷期の作品が脚光を浴びつつある。
ただブライアン絶不調期の作品ゆえまとまりがなく、ヘビーユーザー以外には訴求しづらい時期でもある。レーベルやメディアはどうにか盛り上げようとしてるけど、ドラマ性の少なさゆえ、盛り上がってる感が少ないのが現状である。
この『Today』もまた、ヒット曲+シングルとしてインパクト足りない穴埋め曲で構成されており、コンセプトとしてのまとまりはない。ないのだけれど、キャリアピークのソングライティングのキレ具合によって、統一感が生まれている。
サーフィンもできず、ビーチで遊ぶよりスタジオで過ごすことを選んだブライアン。ジョン・レノンのように、ポップな皮肉混じりで「HELP!」と叫べなかったため、心身ともにすり減らしてゆく。そんな彼の中のビッグバンが弾ける前、今のような引きつった笑顔になるちょっと前の作品群である。
この世に数多あるビーチボーイズのカバー、これ以降、彼らのアルバムはランクインしていないので、最後は正攻法の山下達郎。サーフィン映画のサントラとして制作された『Big Wave』では3曲カバーしており、得意の多重コーラス含め、これ以外の中途半端なアプローチは許さんと言いたげな、強い確信と深いリスペクトに満ちている。この中ならどれでもいいんだけど、やはり収録曲の「Please Let Me Wonder」で。
ただ動画・音声とも貼るのはいろんな意味でめんどくさいため、ここではスルー。
ただ動画・音声とも貼るのはいろんな意味でめんどくさいため、ここではスルー。
前回466位はColdplay 『A Rush of Blood to the Head』。今回は324位。
467位 Maxwell 『BLACKsummers'night』
アメリカR&B/ネオソウル系のシンガーマックスウェル4枚目のアルバムが初登場。3部作でリリースされているらしく、2007年にこの第1弾、2016年にスペル違いの同タイトル第2弾がリリースされている。
このペースだと2025年あたりに最終作が出る予定だけど、その辺は未定。公式サイトをみると、結構マメに国内ツアーしてるみたいだし、わざわざ手間かかるアルバム作るかね?今どき。
チャラいムーディ優先なスタイルと勝手に思っていたのだけど、実際聴いてみると甘いシルキーボイスとは程遠く、むしろしなやかなマッチョイズムを感じさせる力強さが印象に残る。ありがちな安易なEDMっぽさも薄いため、作るのに時間かかるだろうな、と察せられる。
近年のこの手のメジャーアーティストがアルバム作る場合、曲ごとに豪華ゲスト呼びまくってコラボシングルの波状攻撃というパターンが多いのだけど、あれって聴く側からすればそんなにありがたみも薄いしまとまりもないので、彼においてはそういった作り方はしてほしくないと個人的に思う。できればソリッドにコンパクトに、歌を聴いていたいヴォーカリスト。
前回467位はBruce Springsteen 『Tunnel of Love』。今回は圏外。
468位 The Rolling Stones 『Some Girls』
「やっと」「ついに」っていうか、「まさか」ほんとに出るとは思ってなかった、18年ぶりの新作アルバム『Hackney Diamonds』リリースを控えたストーンズ『女たち』が、大幅ランクダウン。前回ランキング時には、このアルバムのデラックスエディションがリリースされており、そのタイミングで再評価機運が高まっていたのだろうけど、まぁもう10年経ってるし。
キースがカナダで逮捕・起訴されたため、ミック主導で製作されたこのアルバム、今ならコンプラ的にもポリコレ的にも絶対アウトなタイトルと変形ジャケット、ディスコ路線に走った「Miss You」など、派手な仕掛けばかりクローズアップされることが多いのだけど、ちゃんと聴いてみるといろいろ発見も多い。基本のギターロックはしっかり押さえつつ、まんまカントリーロックやソウルバラードもあったり、キースの居ぬ間に新たな切り口を試している。
この時代あたりからストーンズのライブはエンタメ化が進行し、演出やセットリストもほぼ固定、次第に伝統芸の世界に足を踏み入れてゆく。演奏陣のやりたい放題だったアルバム制作も、ガス抜きとしてのブルースロックナンバーは固定しつつ、トップ40を意識したコンテンポラリー路線へシフトチェンジしてゆく。
この時代以降のストーンズは古いファンにはウケが悪く、特にこういったランキングでは分が悪かったのだけど、個人的にリアタイで聴いてたので、案外嫌いじゃない。「Undercover」も許せるくらいだし。
日本の伝説的なポップス歌手弘田三枝子が、1970年のカバーアルバム『弘田三枝子70~ポピュラー・ビッグ・ヒッツ』で「Honky Tonk Women」をカバー。近年のなんちゃってソウルシンガーよりドスが効いてダイナマイトヴォーカルな歌唱は、今も十分通用するインパクトを持つ。
前回468位はPaul Butterfield Blues Band 『The Paul Butterfield Blues Band』。今回は圏外。
469位 Manu Chao 『Clandestino』
465位キング・サニー・アデ同様、主に80〜90年代、ミュージックマガジン界隈で持ち上げられていたフランスのミクスチャーバンド:マノ・ネグラのリーダー:マヌ・チャオのソロデビュー作が初登場。フランス語で「黒い手」というバンド名の由来を調べてみると、南アフリカのゲリラ組織やらセルビアのアナーキスト集団やら、不穏なワードが頻出してくる。少なくともほんわか和み系のネーミングではないらしい。
日本でもそこそこ売れたバンド時代から一転してイケイケ感は薄くなり、時代に即したサウンドによるルーツレゲエに回帰しているのだけど、フォークロアテイストも薄く、曲によってはFMで流れても違和感は少ない。ただラヴァーズロックやレゲトンやラガマフィンとは趣きの違う、素材感の強い音のため、聴くなら休日の午前中あたりにした方が胃もたれしない。
少なくともキング・サニー・アデよりは聴きやすい。聴きやすいってやっぱ大事だ。
他のランキングは、『Proxima estacion: Esperanza』が474位初登場、今回は圏外。
前回469位はFugees 『The Score』。今回は134位。
470位 Juvenile 『400 Degreez』
近年は本業のラッパーより、家具会社経営やフレーバードリンク開発など、主に起業家活動に精を出している、ジュヴィナイルの3枚目のアルバムが初登場。90年代にこの世の春を謳歌していた彼、ちょっと調子に乗りすぎちゃったのかハメられたのか、ヒップホップ周辺でよくありがちな、内輪のビーフ合戦でミソをつけ、第一線から退く形になったのだけど、しばらくしてウヤムヤのうちになんとなく和解して、何食わぬ顔でシーン復帰してしまう。ここまでが筋書き通りのワンセット。
90年代といえばつい最近っぽいけど、考えてみればもう四半世紀前、音質は現在と遜色ないけど、ビートやエフェクトの使い方に、やはり今にはない懐かしさを感じてしまう。でも、そんな嫌いじゃない。
変に雰囲気ダウナーだったり、ビート感少なめで「ほぼ歌」な近年ヒップホップと比べれば、正面切ってノリノリのラップやあからさまなサンプリングなど、変化球のなさがむしろ好感持てる。良い意味で「CDで聴きやすい」ヒップホップであるため、最近のシーンについていけない40代以上には需要固そうな音なんじゃね?と勝手に思う。
前回470位はLL Cool J 『Radio』。今回は圏外。