好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

「Rolling Stone Magazine 500 Greatest Album Of All Time」全アルバム・レビュー:461-470位


 461位 Bon Iver 『For Emma, Forever Ago』
(初登場)

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 「ボン・イヴェール」と読むことを今回初めて知った、アメリカ・インディフォークのデビュー作が初登場。骨格自体はコード感の薄いアシッドフォークだけど、音響派にインスパイアされたノイズやエフェクトでアクセントをつけている。
 単に朗々としたアコースティックサウンドではなく、シーンとリンクさせるサウンドメイキングによって、引っ掛かりのある音作りを実現している。
 とはいえ、先入観なしで聴いてもいい所が見つけづらい、ライトユーザーにとっては積極的に聴きづらい音は、ごくプライベートな範囲で鳴っている。一度ハマったら虜になるのだけど、その音は聴く者を選ぶ。
 自分自身と、そしてごく内輪にのみ向けられた、アンチコマーシャルなサウンドはひどく内向的で、無理な押しつけ感はない。その独白は自己完結し、ほんのわずかの共感を呼び起こす。
 そんなシンパシーを感じた者が、ここにランクインするほどいるということだ。そういう意味においても、アメリカの音楽市場の裾野は広く、そして深い。
 前回461位はPublic Image Ltd. 『Metal Box』。今回は圏外。




462位 The Flying Burrito Brothers 『The Gilded Palace of Sin』
(190位→192位→462位)

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 昔のロック名鑑に小さく載っていたため、名前だけは一応知っていた、カントリーロックの代表的バンド:フライング・ブリトー・ブラザーズのデビュー作が大きくランクダウン。近年のほぼダンスポップなカントリーポップや、ロック要素の強いオルタナカントリーと違い、和やか癒し系カントリー成分多めの音だけど、案外嫌いじゃない。
 UK発祥なのに、コロコロ紆余曲折してカントリーへ傾倒してゆくザ・バーズから、そのキーパーソン呼ばわりで追い出されたグラム・パーソンズ、そのついでに同僚クリス・ヒルマンを誘って結成されたのが、このバンド。ロック全体がラジカルかつ刺激的な傾向へ向かう中、いわば逆張りのようなオーセンティック路線を選んだのは、はたして良策だったのか。まぁそこまで考えてなかったろうな。
 日本ではジャンル自体が根付かなかったおかげで馴染みもなく、どんな音なのかイメージが掴みづらかったのだけど、和やかさで朗々とした演奏をぶった斬る、切れ味の鋭いペダルスティール・ギターがアクセントとなっている。このギターが入っていないと、ザ・バンドの劣化コピーみたいになってしまうため、これが当時は他のバンドとの差別化として有効だったのかもしれない。
 とはいえ、現役活動時はおおむねビルボード100位以下、特別覚えやすいヒット曲があったわけでもなく、次第にリリース契約も切れてライブ中心の活動にシフトしてしまう。ストーンズの「Wild Horses」は彼らのヴァージョンが初出であり、その路線でもう少し粘っていれば、また違う成り行きもあったのかもしれない。
 それをチャンスと便乗しようと思わなかったのか、または安易に乗っかるのは潔くないと思ってたのか。もう少しわかりやすく、たとえばロックビートを強調したり情緒的なギターソロを前に出したりしてたら、ドゥービーやイーグルスみたいになってたかもしれない。
 前回462位はR.E.M. 『Document』。今回は圏外。




463位 Laura Nyro 『Eli and the Thirteenth Confession』
(初登場)

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 ミリオン級のセールスに至ることはなかったけど、数年に一度はバックカタログのリイッシューや発掘ライブのリリースなど、いまも根強く人気のあるアメリカの女性シンガーソングライター:ローラ・ニーロのデビュー作が初登場。70年代前半までは精力的に活動していたのだけど、結婚・出産を経てからはプライベートを優先、80年代はもっぱら社会運動に入れ込んでて寡作だった。なので、一般的に代表作は初期作品が紹介されることが多い。
 古いソウルやジャズを聴き込んできた少女は、往年の名曲からインスパイされた、慎重かつ大胆なアプローチの楽曲を書いた。同世代のアーティストと比べ、彼女の楽曲の解釈と表現力は群を抜いていた。
 優秀なソングライターであるキャロル・キング、優秀なパフォーマー/ミュージシャンであったジョニ・ミッチェルに対し、ヴォーカリストとして一歩抜きん出ていたのがローラだった、というのが俺の私見。ただ彼女の場合、ある時期を境に女性/母性への追求が顕著となったため、アーティストとしての比重が小さくなっていった。
 キャロル・キングほど臨機応変に立ち回れず、ジョニほど押しが強いわけでもない。彼女にとって音楽とは、不可欠なものではあったけど、最優先ではなかった。
 いろいろなしがらみを捨てて、音楽だけに殉ずる生き方を、彼女は選ばなかった。あちこち寄り道したりぶつかったりしながら、いまの思いを想いのまま、歌にする。それが彼女の音楽だったのだ。
 他人の理解を無理に求めない、プライベートな音楽であるゆえ、マスへの訴求は難しいけど、どの時代・どの場所においても、彼女のような音楽のニーズは常にある。
 前回463位はEcho and The Bunnymen 『Heaven Up Here』。今回は圏外。




464位 The Isley Brothers 『3x3』
(初登場)

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 「実は」というほどではないけど、今年の春から夏にかけて、アイズレーの70年代アルバムをずっと聴いていたのだった。昔はほとんど興味なかったのだけど、人は歳をとると、嗜好が変わってくるものだ。
 デビューがモータウンというくらいだから、バリバリのソウルグループであるはずなのに、バックバンドにジミヘン入ったのが縁でギターがロック調に変化、その要素を含めたファンク路線でヒットチャートを席巻、人気が落ちてブラコンへ思いっきり方針転換したけど方向性の違いで分裂してしまった経緯を持つアイズレー。一気に書いてみたけど節操ねぇな、この人たちって。
 ロックとソウル/ファンクを融合させたのは彼らが初めてではなく、有名無名含めて様々なトライ&エラーがあった。ファンカデリックはそういったフォーマットを使いつつ、さらにバカっぽさとアルバムごとのトータルコンセプトをでっち上げることで、得体の知れないカリスマ性を演出していた。
 そういう意味ではアイズレー、当時のニューソウルのような社会性やメッセージ性も持たず、よく言えば純音楽主義、ノンポリであったことで、ちょっと格下感が漂う。ヒット曲もあるしキャリアも充分なはずなのに、なんか軽く見られてしまう、例えばコモドアーズやギャップ・バンドあたりと同列みたいな。
 ただ一周回って先入観なしで聴いてみると、過剰にマニアックにならず、最低限のヒットのツボを心得たサウンドメイキングによって、70年代に安定した人気を獲得していたのも納得できる。強引にねじ込んだトゥーマッチなギターソロも、それすら許容してしまう圧倒的なクオリティとバンドの勢いを感じさせる。
 前回464位はDef Leppard 『Hysteria』。今回は圏外。




465位 King Sunny Adé 『The Best of the Classic Years』
(初登場)

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 80年代の第3世界/エスニックブームの波で世界デビューしたキング・サニー・アデのベストが初登場。同じタイミングで台頭してきたのがサリフ・ケイタやユッスー・ンドゥールらで、ミュージックマガジン界隈ではそこそこ盛り上がってて、しょっちゅう特集組まれていた記憶がある。
 ロックの衰退→ポストロックの流れから、西欧音楽以外のエッセンスを果敢に取り入れる動きが一時あって、日本でもわずかながら異文化交流が行なわれた。サザンがトゥレ・クンダとライブツアー回ったり坂本龍一がサムルノリを推してたり、思えばカオス指向がトレンドな時代だった。
 あれから時を経て、アフロビートやキューバンリズムがあふれ返る世の中になったかといえば、そんなこともなく、俺も進んで聴いたことはない。ネット環境の発達によって、言語・国境のハードルは確実に低くなっているのだけど、アマゾンの奥地で流行ってるのはテイラー・スウィフトという現状。文化交流が一方的じゃないという証明でもある。
 ただ、アフリカ奥地の子どもがブルーハーツ「青空」の日本語カバーYouTubeで流していたりして、それはそれで面白い世の中になったのかな、とも思う。じゃないと「真夜中のドア」「フライデイ・チャイナタウン」も知られなかったわけだし。
 民俗学/考現学の視点で聴くのだったらともかく、この辺のジャンルを楽しんで聴くのは、ちょっとハードルが高い。ロバート・ジョンソン同様、よほどの興味がない限り、踏み込むには覚悟のいる音楽ではある。むやみに好き・嫌いって言えない音楽って、やっぱめんどくさい。
 前回465位はMagnetic Fields 『69 Love Songs』。今回は406位。




466位 The Beach Boys 『The Beach Boys Today!』
(267位 → 271位 → 466位)

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 まだ「夏だ・海だ」のキャッチフレーズが有効だった頃のビーチボーイズ65年のアルバムが大きくランクダウン。山下達郎がカバーした「Please Let Me Wonder」含め、ジングルとして使用頻度も高い「Do You Wanna Dance?」が収録されていたりして、普通にヒット曲集としても楽しめる。
 長らく『Pet Sounds』『Smile』関連のリイッシュー/発掘音源のローテが続いていたビーチボーイズ界隈だったけど、ブライアン・ウィルソンによる『Smile』最終形態リリースによって、ひとつの区切りが打たれた。なので、近年はその時代以降、いわゆる低迷期の作品が脚光を浴びつつある。
 ただブライアン絶不調期の作品ゆえまとまりがなく、ヘビーユーザー以外には訴求しづらい時期でもある。レーベルやメディアはどうにか盛り上げようとしてるけど、ドラマ性の少なさゆえ、盛り上がってる感が少ないのが現状である。
 この『Today』もまた、ヒット曲+シングルとしてインパクト足りない穴埋め曲で構成されており、コンセプトとしてのまとまりはない。ないのだけれど、キャリアピークのソングライティングのキレ具合によって、統一感が生まれている。
 サーフィンもできず、ビーチで遊ぶよりスタジオで過ごすことを選んだブライアン。ジョン・レノンのように、ポップな皮肉混じりで「HELP!」と叫べなかったため、心身ともにすり減らしてゆく。そんな彼の中のビッグバンが弾ける前、今のような引きつった笑顔になるちょっと前の作品群である。
 この世に数多あるビーチボーイズのカバー、これ以降、彼らのアルバムはランクインしていないので、最後は正攻法の山下達郎。サーフィン映画のサントラとして制作された『Big Wave』では3曲カバーしており、得意の多重コーラス含め、これ以外の中途半端なアプローチは許さんと言いたげな、強い確信と深いリスペクトに満ちている。この中ならどれでもいいんだけど、やはり収録曲の「Please Let Me Wonder」で。
 ただ動画・音声とも貼るのはいろんな意味でめんどくさいため、ここではスルー。
 前回466位はColdplay 『A Rush of Blood to the Head』。今回は324位。




467位 Maxwell 『BLACKsummers'night』
(初登場)

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 アメリカR&B/ネオソウル系のシンガーマックスウェル4枚目のアルバムが初登場。3部作でリリースされているらしく、2007年にこの第1弾、2016年にスペル違いの同タイトル第2弾がリリースされている。
 このペースだと2025年あたりに最終作が出る予定だけど、その辺は未定。公式サイトをみると、結構マメに国内ツアーしてるみたいだし、わざわざ手間かかるアルバム作るかね?今どき。
 チャラいムーディ優先なスタイルと勝手に思っていたのだけど、実際聴いてみると甘いシルキーボイスとは程遠く、むしろしなやかなマッチョイズムを感じさせる力強さが印象に残る。ありがちな安易なEDMっぽさも薄いため、作るのに時間かかるだろうな、と察せられる。
 近年のこの手のメジャーアーティストがアルバム作る場合、曲ごとに豪華ゲスト呼びまくってコラボシングルの波状攻撃というパターンが多いのだけど、あれって聴く側からすればそんなにありがたみも薄いしまとまりもないので、彼においてはそういった作り方はしてほしくないと個人的に思う。できればソリッドにコンパクトに、歌を聴いていたいヴォーカリスト。
 前回467位はBruce Springsteen 『Tunnel of Love』。今回は圏外。




468位 The Rolling Stones 『Some Girls』
(266位→270位→468位)

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 「やっと」「ついに」っていうか、「まさか」ほんとに出るとは思ってなかった、18年ぶりの新作アルバム『Hackney Diamonds』リリースを控えたストーンズ『女たち』が、大幅ランクダウン。前回ランキング時には、このアルバムのデラックスエディションがリリースされており、そのタイミングで再評価機運が高まっていたのだろうけど、まぁもう10年経ってるし。
 キースがカナダで逮捕・起訴されたため、ミック主導で製作されたこのアルバム、今ならコンプラ的にもポリコレ的にも絶対アウトなタイトルと変形ジャケット、ディスコ路線に走った「Miss You」など、派手な仕掛けばかりクローズアップされることが多いのだけど、ちゃんと聴いてみるといろいろ発見も多い。基本のギターロックはしっかり押さえつつ、まんまカントリーロックやソウルバラードもあったり、キースの居ぬ間に新たな切り口を試している。
 この時代あたりからストーンズのライブはエンタメ化が進行し、演出やセットリストもほぼ固定、次第に伝統芸の世界に足を踏み入れてゆく。演奏陣のやりたい放題だったアルバム制作も、ガス抜きとしてのブルースロックナンバーは固定しつつ、トップ40を意識したコンテンポラリー路線へシフトチェンジしてゆく。
 この時代以降のストーンズは古いファンにはウケが悪く、特にこういったランキングでは分が悪かったのだけど、個人的にリアタイで聴いてたので、案外嫌いじゃない。「Undercover」も許せるくらいだし。




 日本の伝説的なポップス歌手弘田三枝子が、1970年のカバーアルバム『弘田三枝子70~ポピュラー・ビッグ・ヒッツ』で「Honky Tonk Women」をカバー。近年のなんちゃってソウルシンガーよりドスが効いてダイナマイトヴォーカルな歌唱は、今も十分通用するインパクトを持つ。
 前回468位はPaul Butterfield Blues Band 『The Paul Butterfield Blues Band』。今回は圏外。




469位 Manu Chao 『Clandestino』
(初登場)

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 465位キング・サニー・アデ同様、主に80〜90年代、ミュージックマガジン界隈で持ち上げられていたフランスのミクスチャーバンド:マノ・ネグラのリーダー:マヌ・チャオのソロデビュー作が初登場。フランス語で「黒い手」というバンド名の由来を調べてみると、南アフリカのゲリラ組織やらセルビアのアナーキスト集団やら、不穏なワードが頻出してくる。少なくともほんわか和み系のネーミングではないらしい。
 日本でもそこそこ売れたバンド時代から一転してイケイケ感は薄くなり、時代に即したサウンドによるルーツレゲエに回帰しているのだけど、フォークロアテイストも薄く、曲によってはFMで流れても違和感は少ない。ただラヴァーズロックやレゲトンやラガマフィンとは趣きの違う、素材感の強い音のため、聴くなら休日の午前中あたりにした方が胃もたれしない。
 少なくともキング・サニー・アデよりは聴きやすい。聴きやすいってやっぱ大事だ。
 他のランキングは、『Proxima estacion: Esperanza』が474位初登場、今回は圏外。
 前回469位はFugees 『The Score』。今回は134位。




470位 Juvenile 『400 Degreez』
(初登場)

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 近年は本業のラッパーより、家具会社経営やフレーバードリンク開発など、主に起業家活動に精を出している、ジュヴィナイルの3枚目のアルバムが初登場。90年代にこの世の春を謳歌していた彼、ちょっと調子に乗りすぎちゃったのかハメられたのか、ヒップホップ周辺でよくありがちな、内輪のビーフ合戦でミソをつけ、第一線から退く形になったのだけど、しばらくしてウヤムヤのうちになんとなく和解して、何食わぬ顔でシーン復帰してしまう。ここまでが筋書き通りのワンセット。
 90年代といえばつい最近っぽいけど、考えてみればもう四半世紀前、音質は現在と遜色ないけど、ビートやエフェクトの使い方に、やはり今にはない懐かしさを感じてしまう。でも、そんな嫌いじゃない。
 変に雰囲気ダウナーだったり、ビート感少なめで「ほぼ歌」な近年ヒップホップと比べれば、正面切ってノリノリのラップやあからさまなサンプリングなど、変化球のなさがむしろ好感持てる。良い意味で「CDで聴きやすい」ヒップホップであるため、最近のシーンについていけない40代以上には需要固そうな音なんじゃね?と勝手に思う。
 前回470位はLL Cool J 『Radio』。今回は圏外。









「Rolling Stone Magazine 500 Greatest Album Of All Time」全アルバム・レビュー:451-460位


 451位 Roberta Flack 『First Take』
(初登場)

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 去年、死亡説が流れたけど、きっぱりデマと否定された、どっこい生きてるロバータ・フラックのデビュー作が初登場。ただ筋萎縮性側索硬化症という難病ゆえ、現在は闘病中。無事を祈ろう。
 永遠のスタンダード「やさしく歌って」のイメージが強すぎて、っていうか日本ではほぼそれだけの印象だけど、海外ではバラード中心に多くのヒット曲を持つソングライターとして、認知度も高い。80年代以降はピーボ・ブライソンとのR&Bデュエットが多く、ピンで注目されることは稀になったけど、シンガーとしてもっと評価されてもいい人である。
 このアルバムが制作された時のロバータは32歳、当時としても遅咲きのデビューだった。大人の歌手として売り出そうとするレーベルの判断だったのか、はたまた彼女の意向だったのかは不明だけど、ロン・カーターはじめ、ほぼジャズ寄りのミュージシャンで固められている。
 なので、「リズム&ブルース臭が薄い洗練されたバラード」という彼女のパブリックイメージとはほぼ真逆な、ジャジーでゴスペルライクなヴォーカルスタイル中心で、メロウさは感じられない。ただ、アーティスティックなこだわりを貫こうとする頑なさが、張り詰めたテンションがギリギリのところでせめぎ合っている。
 その切実さは、半世紀経った今も聴く者の心を揺れ動かす。
 世界中でカバーされまくっている「やさしく歌って」、もちろん日本でも人気でいろいろな人が歌っているのだけど、ほぼみんな正面からのアプローチで、そんなぶっ飛んだアレンジはあまりない。




 正直、どの曲もバラード仕様に精巧にカスタマイズされているため、中途半端なアレンジを許さないので、やや変化球的なカバーを。シティポップ界隈で注目を集めた井田リエ&42ndストリートが「Feel Like Making Love」を日本語カバーしているのだけど、邦題が「ひらめきラヴ」。アレンジ自体はほぼストレートなポップバラードだけど、日本語詞が秀逸。歌ってみれば、あぁなるほど、って納得してしまう。
 前回451位はAmy Winehouse 『Back to Black』。今回は33位。




452位 Diana Ross & The Supremes 『Anthology』
(423位 → 423位 → 452位)

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 ジャケットを替えたり曲順を替えたり、おそらくその世代それぞれの『Anthology』があるはずなのだけど、基本、中身はほぼ同じの定番2枚組ベストが、微妙にランクダウン。正直、1枚ものでも十分事足りるけど、俺的には80年代末に買った2枚組CDの印象が強く、それなりに愛着がある。このシリーズのマーヴィンとテンプス、ジャクソン5はかなりの回数聴き返した想い出。
 ちなみにモータウン、創成期から女性アーティスト/グループに力を入れており、マーヴェレッツやグラディス・ナイト、タミー・テレルやマーサ&ヴァンデラスなど、決してマイナーと言い切れないメンツが揃っていたのだけど、今回ランキングされているのは、シュープリームスと394位ダイアナ・ロスのみ。アルバム時代以前のアーティストゆえ、こういうランキングの時はどうしても分が悪い。
 久しぶりに通して聴いてみて、そりゃ録音の古さはしょうがないにしても、ダイアナ・ロスのウィスパー・ヴォイスはひとつの発明だったのだな、と改めて思う。泥臭くソウルフルで声がデカいことが最低条件だった女性シンガーのセオリーをとことんはずした、細いウィスパー・ヴォイス抜きでは、ベリー・ゴーディ&スモーキー・ロビンソンのポップ・ソウルがヒットすることもなかったんじゃないか、と。




 歌番組やライブでのみ発表されたものも含めれば、べらぼうな量となるシュープリームスのカバーだけど、ここはシンプルに「シュープリームスの日本版」と言い切っちゃっても差し支えない、キャンディーズのカバーメドレー。特別音源化はされていないみたいだけど、一定の需要があるのか動画で簡単に見ることができる。
 彼女らのエネルギッシュなパフォーマンスだけではなく、近年になって再評価されているライブサポートのMMP(ミュージック・メイツ・プレイヤーズ)らの熱演も必聴。
 前回452位はJohn Prine 『John Prine』。今回は149位。




453位 Nine Inch Nails 『Pretty Hate Machine』
(初登場)

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 90年代アメリカ・オルタナ界で頭角を表したナイン・インチ・ネイルズのデビュー作が初登場。あまりこの界隈は通ってこなかった俺だけど、なぜかリアタイでこの次の『The Downward Spiral』は買っており、一回聴いてギブアップしてしまった記憶がある。
 この後に出てくるカン同様、世の中に絶望したり鬱屈したりする者にはうってつけなこのバンド、陰のオーラが激強なため、狭く深く根強い人気を持っているはずだけど、ここではやっと初登場。しかもこのデビュー作のみ。
 個人的に入り口が『The Downward Spiral』だったため、緻密に構築されたテクノ+インダストリアル・メタルという印象だったのだけど、このデビュー作ではまだ確立されていない。よく言えば幅広い音楽性、悪く言っちゃえばとっ散らかってる印象。
 ついでなので、彼らの中ではわりと有名な『Broken』も聴いてみたのだけど、前述の要素が高純度で抽出されてて、俺的にはこっちの方が好み。昔なら敬遠していた音だけど、一周回った今だったら、正直カンより面白い。
 湧き上がる鬱屈や抑圧を吐き出しても、それを余すことなく表現する技術が追いつかない。頭の中だけで考えてシミュレートされたサウンドへのもどかしさと葛藤、そしてその悪循環。
 稚拙なあまり、自傷へ向かう衝動。実際は事に踏み切れないやるせなさ。
 ここには、そんな情念が詰まっているのかもしれない。
 前回453位はEPMD 『Strictly Business』。今回は圏外。




454位 Can 『Ege Bamyasi』
(初登場)

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 名前を見ると、思わず口に出して言いたくなってしまう「ダモ鈴木」。そんな彼が在籍していたジャーマンプログレ・バンド3枚目のアルバムが初登場。すごくざっくり言えば、それぞれが現代音楽とロックとジャズと電子音楽を持ち寄って好き勝手に演奏して、それをそのまま放り投げた、そんなサウンド。
 こうやって書いても、全然言い表せてない。具体的に言えねぇよこんな音。
 いわばアバンギャルドの代名詞、ロック聴きかじりの背伸びした高校生が食いつくバンドなのだけど、ここにきてやっと初登場っていうのが、逆に不思議。これまでランクインしてなかったんだ。
 40年くらい前のロック名盤ガイドでは、すでに伝説の存在の位置付けだったカン、アルバムはすべて廃盤だったため、実際に聴いた者は少なかった。人づてで「なんかすごいらしい」と小声でささやかれる、そんなバンドがカン。
 80年代末頃、ドイツでサラリーマンに転職していたダモ鈴木が、なぜかロキノンで短いインタビューを受けていた。おそらく彼にとって黒歴史扱いだったのか、活字で読んでもそのぶっきらぼうぶりが伝わってきた。
 で『Ege Bamyasi』、3枚目ということで初期に比べれば音楽的にまとまっているらしい。他のアルバムも聴けばその変遷がわかるのかもしれないけど、正直そんな気は起きない。
 多分、中高校生だったら聴いてたな。中学生のくせにピンク・フロイドにかぶれてた当時の俺。
 前回454位はAlice Cooper 『Love It to Death』。今回は圏外。




455位 Bo Diddley 『Bo Diddley/Go Bo Diddley』
(216位 → 216位 → 455位)

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 インパクト強い名前がよく知られているけど、あんまり曲は知られてない、ロックンロール創成期の代表的アーティストのひとり、ボ・ディドリーの初期作品が、大きくランクダウン。落ちてはいるけど、踏みとどまりはしている。
 同じカテゴリのリトル・リチャードやバディ・ホリーもジェリー・リー・ルイスも、なんだかんだで最低一枚はランクインしているため、この枠は順位変動はあっても、今後も安定株であり続けると思う。日本史で例えると、本能寺の変や応仁の乱みたいなポジションだもんな。
 名前と同じくらい特徴的でインパクトの強いマッチ箱ギターは、ここ最近もフットボールアワー後藤がカスタマイズして使っていた。見た目のウケ狙い的な側面は大きいだろうけど、結構ディープな嗜好の人なので、純粋なリスペクトもあったと信じたい。
 これまでまともに聴いたことがなかったため、今回初めて通して聴いてみたアルバム通して聴いたみたのだけど、正直、どれがどの曲か判別がつかない。一聴して誰の曲か明らかなジャングルビートは、単純な8ビートとの明らかな差別化であり、強力な武器なのだけど、でも正直、どれも同じに聴こえてしまう。
 もう2、3回聴き返せばわかるかもしれないけど、それじゃ学習になってしまうので、またちょっと違ってくる。まっさらな10代で聴いていれば、全然衝撃度も違っていたかもしれない。もうそんなまっさらな心じゃないもんな、50過ぎると。逆に新鮮に受け止めても気持ち悪いだけだし。
 ギターメインのロックバンド中心に、日本でもカバーしているアーティストは多いのだけど、やはり彼らははずせないボ・ガンボス。ここではカバー曲ではなく、なんとボ本人参加のコラボ曲を。




 タイトルはまんま「ボ・ガンボス」。どちらかといえばジャングルビートより、コッテリ泥くさいガンボ風味が強い。憧れのスターと共演できて嬉しさのあまり、相変わらずのテンションMAXで対峙するどんとと、余裕しゃくしゃくでそれを受けるボとの対比が面白い。
 前回455位はLos Lobos 『How Will the Wolf Survive?』。今回は431位。




456位 Al Green 『Greatest Hits』
(52位 → 52位 → 456位)

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 ロバータ・フラック同様、ソウル史に名を残すベテランゆえ、なんとなく名前は知ってるけど、日本ではどうにもパッとしない、そんなアル・グリーンのベストが大きくランクダウン。シュープリームス同様、彼もまたオリジナル以上にベストアルバムが量産されているため、このアルバムじゃなくても全然構わない。正直パッケージ変わっただけで、中身はどれもおんなじだから。
 日本ではソウルシンガーへの定型句として「ソウルフルなシャウト」という言葉があるように、「血管切れそうなくらい大声で叫ぶ」ことを褒め言葉として使うことが多い。彼のようなソフトなヴォーカルスタイルは、日本では「ブルースを感じない」と一蹴されて、また別のカテゴリ「ブラコン(ブラック・コンテンポラリー)」に放り込まれて一緒くたにされてしまう。
 「ブラコン=大衆に媚を売った商業的音楽」といったレッテル/偏見のもと、ピーボ・ブライソンもアレキサンダー・オニールもジェームズ・イングラムもテディ・ペンタグラスも全部ひとまとめにされ、思考停止のまま、きちんとした評価の対象とされていなかった。いまはだいぶ改善されているけど、90年代くらいまではみんな、ノンシャウトで朗々と歌い上げるシンガーはみな、そんな扱いだった。
 同じくノンシャウトのダイアナ・ロスは、シュープリームスで培ったイメージをかなぐり捨ててディスコ路線に舵を切り、どうにか爪痕を残すことができた。対してグリーン、そのキャリアのピークにガールフレンドへのDVをきっかけに牧師に転身、一時、表舞台から身を引いてしまう。そこでキャリアが止まってしまったことから、特に日本ではイメージが定着してしまったのでは、と勝手に思っている。




 彼のレパートリーの中で最もよく知られている「Let's Stay Together」をスカパラがカバー。デビューからしばらくはインストスカファンク中心だった彼ら、収録アルバム「グランプリ」がターニングポイントとなって、ゲストヴォーカルを迎えたコラボ曲が増えてゆくことになる。
 ホーンが多め以外はほぼオリジナルに準じた、ゆったりしたスロー・ソウル。これでシンセが入ってきたらブラコンだけど、生演奏中心なので、極上な大人のソウルとして仕上げられている。
 前回456位はMarvin Gaye 『Here, My Dear』。今回は493位。




457位 Sinéad O'Connor 『I Do Not Want What I Haven't Got』
(初登場)

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 今年7月に亡くなったシニード・オコーナー2枚目のアルバムが初登場。このランキング集計時(2020年)、表立った活動もなくほぼ隠遁状態だった彼女、なんでこのタイミングでフィーチャーされたのが、ちょっと不思議。おそらくだけど、当時ポリコレに過剰反応した「RollingStone」のポリシーが反映されているのか。
 いわば昔の江頭や出川のようにキモ扱いだったプリンスが書いた「Nothing Compares 2 U」は、全米・全英ともにNo. 1ヒット、ほぼ無名のアイルランドのシンガーは、ワールドワイドな知名度を獲得した。当時、シーンの中心はマドンナやカイリー・ミノーグなど、フェミニンを売りにしたタイプが大勢を占めており、シニードのようにスキンヘッドのユニセックスな出立ちと過激な言動は、日本でもなかばゴシップ的に動向が伝わってきた。
 俺的に彼女の言動で一番インパクト強かったのが、ディラン30周年ライブでのアカペラ独唱。みんな彼への敬意を込めて代表曲をカバーする中、力強くボブ・マーリー「War」だもの。ディラン信者のブーイング、ハンパなかったよなアレ。
 ただ一周回って考えると、手放しな賛美礼賛というのも、ディランにそぐわない、とも思う。全世界が注目するあの場所でこそ、あのパフォーマンスを演じたことは、再度検証しても良かったんじゃなかろうか。まぁ、やらかしちゃったことで生きづらくはなっちゃったけど。
 多かれ少なかれデフォルメされた「女性」を前面に押し出すことがセオリーとされていたポピュラー女性シンガーの中、ダンス要素のないメッセージ性強いトラックの数々は、どの曲も流し聴きを許さないエゴの強さが浮き出ている。スタッフが保険的な意味合いで時流に合わせたのか、当時流行っていたポリス「見つめていたい」インスパイアなギターロックも入っており、それはそれでよくできた80年代ポップでいいんだけど、シニードが歌う必然性がちょっと薄い。
 いろいろ生きづらい人だったな。
 前回457位はMy Morning Jacket 『Z』。今回は圏外。




458位 Jason Isbell 『Southeastern』
(初登場)

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 ジョージア州アセンズで結成された、骨太なサザン・ロック/オルタナ・カントリーをプレイするバンド、ドライヴ・バイ・トラッカーズを脱退したジェイソン・イズベル4枚目のソロアルバムが初登場。ほぼタワレコのレビューの引き写しだけど、バンドもアーティストもまったく未知数。
 ほぼ日本語での情報がなく、アメリカ以外ではほぼ無名だけど、国内では絶大な人気を誇るという、典型な内需型アーティスト。なにしろタイトルがストレートに「南東部」だし、もう他のマーケットなんて見向きもしない、全ベットそこに注ぎ込んでいる。
 アーティストもファン双方、それで充分と思っている、そんな音楽。誰も損はしていない。
 今どきのダンスポップやオルタナ風味を取り入れて、若い層を取り入れようだなんて微塵も考えない、ど直球の正調フォーク。アルバムの流れにメリハリをつけるためか、大味なアメリカン・ロックもあるけど、基本はセミリタイアしたようなレイドバックなサウンドでまとめられている。
 そんなに泥臭く感じられないのは、アコースティックにもかかわらずカントリーっぽさが薄いおかげもある。なので、もう少しバンドサウンドを厚めにすれば、ブライアン・アダムスやスプリングスティーンみたいになってたのかもしれないけど、本人もそこまで望んじゃいないだろうな。ベテランが冒険できる時代じゃないし。
 前回458位はElton John 『Tumbleweed Connection』。今回は圏外。




459位 Kid Cudi 『Man on the Moon: The End of the Day』
(初登場)

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 カニエ・ウエストに見出されたラッパー:キッド・カディ2008年のデビュー作が初登場。当然、俺は知らない。
 EDMをバックトラックに使ったスムースラップが特徴らしいけど、いまだビギナーの耳なので、他のラップと比べて違いはほぼわからん。ただ、カニエとコラボしたトラックはフロー多めなので、そこだけはちょっと惹きつけられるけど、大方はそんな印象に残らない。
 ただ、見た目も育ち良さそうだし過剰にオラついていないし、それを反映してか、広く開かれたコンテンポラリーな音。英語なのでメッセージはあるのかどうかもわからないけど、耳障りの良さは伝わってくる。別に皮肉でもなんでもなく、いい意味で。
 前回459位はThe Drifters 『The Drifters' Golden Hits』。今回は圏外。




460位 Lorde 『Melodrama』
(初登場)

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 「ロード」と読む、ニュージーランドの女性アーティストが初登場。デビュー作がいきなり全英・全米で首位獲得、その後も大物アーティストからコラボ希望で引っ張りだこだったらしいけど、2018年、突然すべてのSNS書き込みを削除して隠遁生活に入ってしまう。以降は活動も謎に包まれ、神出鬼没の状況とのこと。
 最初から持ち上げられ過ぎた反動なのか―。「それだけ自我を確立している」「強いエゴに支えられている」のだと思いたいけど、逆にいろいろめんどくさい人なのかもしれない。あまり思い詰めるとシニード・オコーナーみたいになっちゃうかもしれないので、好きにほっといた方がいいんじゃね?と勝手に思ってしまう。
 近年の女性アーティストといえば大方、EDMダンスポップかバロックポップのどっちかだと勝手に思っているのだけど、彼女の場合、そのどちらっぽさもあるけど、どちらにも軸足を置いていない。前者のあっけらかんさも後者の内省感とも、位相が微妙にずれている。
 そう考えると彼女、新たなジャンルの創造者なのかもしれない。ビリー・アイリッシュほどサウンドがこじれてもいないし。
 前回460位はHole 『Live Through This』。今回は106位。







ストリート・スライダーズ 『Nasty Children』


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  マジか。スライダーズが再びステージに立つ。ただ、これが本格的な活動再開なのかどうか。
 -と、実は春頃に書き出して、大方書き終わっていたのだけど、ズルズル引き伸ばしてるうちに武道館はおろか、ライジング・サンも終わってしまった。いつの間に月日は流れ、ただいま全国ツアー真っ最中。すっかりタイミング逃してしまった結果、今に至る。
 現時点で唯一のニュースソースである公式サイトでは、ツアー詳細やグッズ物販など、ほぼ業務連絡のみで、至ってシンプル。よくあるツアーメンバーの集合写真や動画メッセージなんてのは、一切なし。相変わらずの無愛想ぶりだ。
 多くのファンからすれば、再結成自体が奇跡だったため、メンバー自ら情報発信するなんて誰も期待してなかったし、そういう意味で言えば予想通り、逆説的にファンのニーズに沿ってはいる。そんな中、饒舌とは決して言えないけど、ジェームスと蘭丸は時々、X(旧Twitter)でつぶやいていたりして、時代の変遷を感じたりするのだけど、孤高のハリーは相変わらず。逆に饒舌だったら、それはそれで、なんかイヤ。
 ここ数年、ハリーのソロでズズとジェームスが客演したり、ほぼ四半世紀ぶりにハリーと蘭丸によるJOY-POPSが再結成ツアーしたりで、徐々に再結成の機運が高まりつつあったのは確かである。ただ2020年、ハリーが肺ガンを発症して長期休養に入ったため、それどころではなくなってしまう。
 その後、体調も徐々に回復し、いつも通りのマイペースでソロ始動、どうにかスケジュール調整やら根回しやらが済んで、このタイミングでの再結成となった。いくら周りがどうこう言ったり動いたとしても、結局はハリー次第なのだ、このバンド。
 傲慢なワンマンではないけど、ハリーが「また一緒にやる」と言えば、周りはせっせと動いてしまうのだ。だって、また見たいから。
 いまのところ、ツアーファイナルは10/26大阪で、追加公演の予定はなさそう。実はメンバーの中で最もアクティブに活動しているのがジェームスで、11月からライブハウス・ツアーが予定されている。
 スライダーズ再結成以降、5月武道館から8月ライジング・サンまで中途半端なブランクがあったのだけど、この間にもジェームス、地方中心にライブハウスを巡っている。おそらく彼のツアーが先に決まってて、それ前提でスケジュール組んだんじゃないかと思われる。フロント2トップじゃなくて、ジェームスがキーパーソンだったなんて、人生ってやっぱわかんない。
 正直、ソロツアーをキャンセルしてスライダーズでやった方が、集客も収益も段違いなはずだけど、あくまでソロ活動優先という方針が徹底していることが、この活動状況から見えてくる。蘭丸あたりはおそらく、麗蘭以外は全部すっ飛ばして、スライダーズに専念したいんだろうけど。
 今後は多くのベテラン・バンド同様、各自ソロを優先、何年かに一度、スケジュール合わせて短期集中で活動し続けてゆくのだろうか。今どきは「解散」って言い切るより、「長い長い活動休止→適当な頃合いで再始動」ってパターン多いし。
 ジェームスのソロツアーが11月いっぱいまでなので、年末にまた何か動きがあるかもしれない。フェス関連で考えられるのがカウントダウン・ジャパン、またはニューイヤー・ロックフェスといったところ。
 WOWWOWが武道館生中継を仕切っていた流れから、長期密着してるかもしれないし、いろいろ妄想は尽きない。一回くらいシャレでテレビ出演、例えばMステかSONGSあたりが、ダメもとでオファーしてみるとか。もうしてるのかな。

 1990年、10枚目のスタジオ・アルバムとして、『Nasty Children』がリリースされた。特別、ヒットシングルが収録されているわけでもなく、ドラマCMのタイアップも、当然あるわけがない。
 いくつかの音楽雑誌でのインタビュー程度のプロモーションだったにもかかわらず、オリコン最高12位と、なかなかのチャートアクションを記録している。ユーミンバブル真っ只中の百花繚乱なラインナップの中、無骨な彼らのサウンドは、明らかに異色だ。よく売れたよな。
 ライブ動員も好調で、フェスに出演したらメインアクト待遇、CDセールスも安定していたのだけど、地味目な楽曲中心で構成されたこのアルバム以降、メディア露出も少なくなってゆく。おそらくハリーの意向が強く働いたのか、ライブ中心にシフトしたのも束の間、次第に活動ペースもスローダウンし、第一線からフェードアウトしてしまう。
 約5年の沈黙を経て、スライダーズは最期の力を振り絞って、2枚のスタジオ・アルバムを残す。でも、そこまでだった。

 そんな彼らの活動経緯をザックリ分けると、おおよそ3期に大別される。
 ① デビュー〜『天使たち』まで
 ② それ以降〜1度目の長期休養
 ③ 活動再開から解散まで。

 細かい線引きするとキリがないけど、ファンもメディアも、だいたいこんな印象なんじゃないかと思われる。ズズの骨折やら夜ヒット出演やらJOY-POPS始動やら蘭丸ソロ活動やら、いろいろな角度での節目はあるのだけど、厳密にしちゃうとめんどくさいしわかりづらいので、その辺は割愛。
 ① 「初期ストーンズのフォーマットを借用してるけど、むしろブルース要素の強いガレージパンク」が出発点。地道なライブ活動によってバンドの演奏レベルは向上、また各メンバーの音楽嗜好が楽曲に反映されて、ブルース一辺倒からの脱却が垣間見える。
 「粗暴な荒々しさ」っていうか、ほぼそれしか印象にない『SLIDER JOINT』から2年強で『夢遊病』に行き着いてしまった彼ら。楽曲のベーシックな部分は大きく変わってないけど、ドラッグのトリップ状態を想起させるダウナーなテイストは、のちのUS音響派に直結している。そこまではちょっと盛りすぎだけど、同時発生的にアメリカ・インディーでもその萌芽があったのは確か。
 ②  名実ともにスライダーズ黄金期。固定ファンに支えられてライブ動員もレコードセールスも増え、当初から不変だったふてぶてしいキャラが、この辺から浸透してゆく。
 外部プロデューサーやスタジオミュージシャンの積極起用によって、従来のベーシックなロックコンボにホーンやシンセが加わり、ライトユーザーにも敷居が低くなっている。2023年現在もライブ定番であり、認知度の高い「Angel Duster」「Boys Jump the Midnight」は、うっすら耳にしたことのある人も多いはず。
 この時期のネタを引っ張ると長くなるし、以前まとめて書いてるので、できればこっちを参照。




 アクは強いしとっつきづらいし、話しかけてもロクな返事が返ってきた試しがない。とはいえ、まったく浮世離れしてるわけでもなく、おそるおそる頼んでみれば、大抵のことはやってくれる。
 表情は計りづらいけど、案外悪い気はしてなさそう。まぁ相当気は使うけど。
 そんなスライダーズだったけど、この『Nasty Children』前後あたりから、様子が変わってくる。ズズ骨折による最初の活動休止以降、蘭丸のソロ活動が活発になったあたりから、多彩なコンテンポラリー王道路線のレールからはずれ、粗野で朴訥なサウンドへ回帰してゆく。
 周囲の提案を受け入れて、一応付き合ってはみたけど、やっぱ性に合わないのを自覚したのか。もともとハリー、メジャーデビューに前向きじゃなかったし。

 書き下ろした曲をメンバーに聴かせ、アンサンブルを揃える。ライブでやってみて反応見ながら、またリハで、いろいろ直したり削ったり足したり。そうやって少しずつ、レパートリーを増やしてゆく。
 できるだけライブのテンションそのままで、レコーディングに挑む。客前じゃないため、調子合わせるのでまたひと苦労だけど、現場でまたいろいろ試したり。
 完パケした素材をもとに、またライブで調整してみたりアドリブかましたり。初期のスライダーズは、そんな好循環ループが成立していた。手間も時間もかかるけど、結局のところ、それが一番効率がいい。
 人気も知名度も上がってゆくに従って、ライブ本数も会場もスケールアップしてゆく。本人たちの知らないうちにスケジュールがどんどん埋められ、余裕がなくなってくる。
 ふとした合間にギターをいじる余裕も少なくなり、制作ペースも落ちてくる。とはいえ、アルバムのリリーススケジュールは決まっているため、スタジオ入りするギリギリまで苦心惨憺し、どうにかこうにかひねり出す。
 スタジオ入りしてもできてない場合もあり、そうなると、いろいろ妥協せざるを得ない。ライブやリハで試すプロセスはすっ飛ばされ、充分練り上げられないまま、録って出しが当たり前になる。
 楽曲のクオリティが落ちたわけではない。たとえハリーがちょっとスランプだったとしても、そこはバンドの強み、どうにか形にはなる。
 ただ、ハリーが頭の中で描いていた仕上がりとは、微妙に違ってくる。いくら気心知れているメンバーとはいえ、本当のところは誰もわからない。みんな自分のことでさえ、隅々までわかってるとは言い切れないのに。

 前作『Screw Driver』以降、スライダーズのリリース・ペースは落ち、主にライブ主体の活動にシフトしてゆく。アルバムリリース→プロモーションツアーの円環ループを、おそらく自らの意思で断ち切った彼らはその後、ひたすらステージに立ち続けた。
 エピックとのリリース契約もあるから、いくらかはスタジオに入って音合わせしたり、デモ作成くらいはしていたのだろうけど、思うような形にならなかったのかもしれない。幅は広がったけど、深みが足りない。または、その逆かもしれないし。
 で、『Nasty Children』。長期休養に入ること前提で作られたのか、素っ気なく先祖返りしたような楽曲で占められている。
 以前のような引きの強いキラーチューンはなく、ロックコンボの原点に返ったシンプル・イズ・ベスト。キャリアを重ね、いろいろ潜り抜けた後でしか出せない熟練の深みはある。あるのだけれど。
 ハリーが抱えている闇はもっと深く、もっと暗かったのかもしれない。




1. COME OUT ON THE RUN 
 軽快なリフから始まるオープニング・チューン。キャッチーで覚えやすいメロディだし勢いもあるけど、重厚なリズムがどっしり地に足をつけて、浮わついた感を抑えている。
 少し前だったら高揚感あるサビメロで盛り上げてブーストかけるところだけど、手前で踏みとどまっている。
 求めている音は、そういうんじゃない。そういうことなのだろう。

2. CANCEL
 やや荒ぶったハリーのヴォーカルが印象に残る、こちらもネチッこいギターの音が煽るブルース・ロック。ライトユーザーへの配慮なんてカケラもない。

3. IT'S ALRIGHT BABY
 「多彩なアルバム構成?何それ?」的なワンパターンのブルース・ロック。前曲より、こっちの方が南部っぽさが強い。
 よく言えば様式美を追求した、シンプルなロックンロールではあるけど、単純な原点回帰ではない。キャリアを重ねたことで、デビュー時とはテクニックも解釈の仕方も違っている。
 伝統芸とはいえ、保守的ではない。単なるルーティンでは出せない音の厚みと重さは、ベテランならではの味。

4. FRIENDS
 ここでちょっとペースダウン。テンポゆるめでしっとりした、でもちゃんとロックンロールとして成立しているナンバー。
 切ないしっとり感は「ありったけのコイン」っぽい得意のアプローチだけど、ここではもっとカラッとした無常感、「歌はただの歌」という刹那さに満ちている。一時、ハリーの描く歌詞が深読みされたり意味性を深掘りする風潮があったのだけど、そういうめんどくさい外部の雑音を一笑に付してしまう潔さが、全編に流れている。 

5. LOVE YOU DARLIN'
 「レゲエ・ビートを取り入れたロック」じゃなくて、ロックバンドがプレイするルーツ・レゲエ。空虚でありながら重いリズムは、異様な存在感を放っている。
 日本のアーティストがレゲエにアプローチする際、大方はゆるく享楽的なビートにフォーカスする場合が多いのだけど、彼らの場合、当然だけどそんな陽キャな側面は見られない。通常セオリーである8ビートやファンクではなく、質感の違うリズムを選んだ必然が見えてくる。

6. THE LONGEST NIGHT
 ほぼ3コードで押し通した、シンプル極まりないロックンロール。ほんと愛想はないけど、この時期の彼らの本質に最も肉薄している。
 解釈のしようがないベタな歌詞や凝った捻りのない演奏など、結局、ハリーが志向していたのは、こういったサウンドだったんじゃなかろうか。偉大なるワンパターンを繰り返すことで、幅より深みを目指す。
 ひたすら愚直に基本パターンを繰り返す演奏。その円環の果てには、理想のサウンドが見えてくるのかもしれない。

7. ROCKN'ROLL SISTER
 そんなトラディショナルなルーツロックの深みに足を踏み入れながらも、現世との橋渡し的な役割を担っていたのが蘭丸だった。積極的に新たなアプローチをバンドに持ち込み、スライダーズがカビの生えたブルースもどきバンドに陥らなかったのは、明らかに彼の功績である。
 あるのだけれど、でも正直、彼のヴォーカル・ナンバーは…。歯切れ悪い物言いになってしまうけど、まぁそういうことだ。ハリーのちょっとひと息タイム的に、アルバム・ライブで一曲程度なら、まぁ。っていうところ。これ以上、言わせるなよ。

8. 安物ワイン 
 このアルバムの中ではメロディも明確で、『Bad Influence』あたりに入っていても違和感ないキャッチーなナンバー。歌詞は深読みしようがないくらい不器用な男のラブストーリーだけど、サウンドの素っ気なさと合わせるなら、このくらいベタでいい。
 無理やりシングル切ったら、そこそこ好評だったんじゃないかと思うのだけど、もうシングル・リリースなんて興味なかったんだろうな、この時期。ジャケット撮影したりPV作ったりで時間取られるより、ライブがしたい。そんな心境だったのだろう。

9. PANORAMA
 ラス前にフッと力を抜いたロッカバラード。おおよそスライダーズ、以前はサイケやファンク・テイストの楽曲があったり、辛うじて「多彩」と形容できる瞬間もあったのだけど、もうこの辺からはロックンロールとバラードの2本立てしかない。
 朗々としたヴォーカルとカラッとしたリズム、無骨だけど憂いのあるギター。たったそれだけだけど、これらが合わさると…、やっぱモノクローム。彩りを求める人たちじゃないけど。

10. DON'T WAIT TOO LONG
 ラストはちょっと趣が違って、このアルバムの中ではポップ寄り。ギターの音も心なしか浮遊感あるし、リズムも軽やか。
 この時代においても、決して新しい音ではなかった。ユーミン・バブルやバンドブームが華やかだった反面、こういったアウト・オブ・デイトな音楽にも、確実な需要があった。
 ヒット曲を否定する気はないけど、こういう音もないと、風通しが悪くなる。





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北海道の中途半端な田舎に住むアラフィフ男。不定期で音楽ブログ『俺の好きなアルバムたち』更新中。今年は久しぶりに古本屋めぐりにハマってるところ。
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