好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

第1期Joe Jacksonの集大成 - Joe Jackson 『Live 1980-86』

live198086 1 1987年リリース、文字通り1980年から1986年までに行なわれた4つのツアー(1980年『Beat Crazy』 、1983年『Night & Day』、1984年『Body & Soul』、1986年『Big World』)からセレクトされた、当時の集大成的アルバム。今でこそ時代が違うけど、当時はJoeの決定的なベスト・アルバムがリリースされておらず、全キャリアを手っ取り早く把握するには格好のアイテムだった。
 ちなみに当時のチャート・アクションとして、US91位UK66位というまずまずの成績。取り敢えずシングル「Steppin’ Out」のヒットの勢いがまだちょっと残っていたため、2枚組にしては健闘した方なんじゃないかと思う。
 まぁこの時期のJoeはとってもスカしていたので、セールスがどうしたとかいう発言はなく、非っ常にアーティスティックなポジションで斜に構えてた部分が多い。間違っても大っぴらに「ハゲのくせに」と言えた雰囲気ではなく、そこがまた「ビジュアルで売ってるわけではありませんよ」的なムードを醸し出していた。

 このJoeもまたElvis Costello同様、パンク~ニューウェイヴ・ムーヴメントから頭角を現してきた人で、デビューから数年は4ピースのシンプルなロック・バンドとして売り出されたところなどは共通している。その後はいわゆるロックのみにこだわらず、映画音楽やスゥイング・ジャズ、レゲエや現代音楽など、ほんと手当たり次第あちこちのジャンルを行き来しているところなど、結構似ている点が多い。
 こうやって書いてると、なんか節操のない人だと思われがちだけど、もともとはロンドン・ロイヤル・アカデミーで正統なクラシックを学んでいたため、音楽の基礎的な部分は同世代の誰よりもしっかりしている。基礎がしっかりしているからといって、それがすなわち創り出す音楽の面白さに直結するわけではないのだけど、この人の場合はきちんと楽理的なところも押さえつつ、それでいてプロも素人も納得させてしまうツボを心得ている。
 なので、世界中に幅広く、しかもディープなファンが数多く生息している。そんな状況のため、今さら大きなヒットを飛ばすことはないだろうけど、どうにか契約も切れず、思うがままのアーティスト活動を継続している。

 デビュー・アルバムとなった『Look Sharp!』と2枚目の『I’m The Man』はセットのようなもので、どちらもパブ・ロックの流れを汲んだストレートなロックンロールに仕上げている。
 ノリが良く直情的で、それでいてクール-。
 こうやって書いてしまうとステレオタイプのポスト・パンクになっちゃうのだけど、同時代のパンク・バンドの多くが場当たり的な楽曲制作とバンド運営によって、時代の徒花的に消えていったのに対し、場数を積んだバッキングとアカデミックな才能とのハイブリットは、得も知れぬ化学反応を起こしてオリジナリティを獲得している。
 話題性を狙ったスキャンダリズムを重視することが多かったニュー・ウェイブ勢の中で、すでに老成したようかのように安定した演奏技術を誇る彼らは、ある意味異彩を放っていた。ファッショナブルの「ファ」の字も見当たらない、武骨な印象の彼らは、同じレーベル・メイトのPoliceとの共通点も多かった。彼らもまた、手練れの腕利きミュージシャンらが「売れること」を目的として結成したバンドであり、その高い演奏秘術を隠してワザと下手くそに武骨なプレイを見せていた。
 Joeがどこまで商業性を重視していたかは不明だけど、取り敢えず次のアルバムが出せる程度には売れてほしいとは願っていたことだろう。まぁそれはどのアーティストでも同じだけど。

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 3枚目の『Beat Crazy』で実験的にレゲエを導入してみたけど、まぁ基本はまだゴキゲンなロックンロール。この辺まではまだ一般的なニュー・ウェイヴのカテゴリーに収まっている。問題は次、4枚目の『Jumpin’ Jive』から、バンド・サウンドにこだわらず、多彩な音楽性の片鱗を見せるようになると共に、あらゆる試行錯誤を伴ったJoeの変遷が始まることになる。
 時代の流れをまったく無視した、1920~30年代のジャンプ・ミュージックやスウィング・ジャズ…。この辺だと俺もリアルタイムではなく、聴いたのはもっと後、オリジナルとしては多分一番最後に聴いたんじゃないかと思う。もちろん買うのはちょっと勇気がいるのでレンタルで。一度試しに聴いてみて、もし気に入るようだったら買おうと思い、カセットにダビングしながら聴いてみたところ。…何だこれ。全然つまんねぇ。
 もしかして何回か聴いてたら、だんだん良さがわかってくるんじゃないかと思い、また時間をおいてから聴いてみようと思い、確かそのままほったらかしで、そのうち別のアルバムを上書きした記憶がある。というわけで、今回改めて聴いてみたけど、やっぱり最後まで聴き通せなかった。ジャズは全然嫌いじゃないけど、やっぱビバップ以前になるとダメだ俺、ついていけない。
 この後、日本では公開されなかったため、ほとんど話題にもならなかったサントラ『Mike’s Murder』をリリース、当然見たことも聴いたこともない。アカデミックな感性を持ちつつも、敢えて肉体的な衝動に身を任せ、直情的なロック・ナンバーを演じるところがカッコいいのに、これだと単にインテリ崩れの自己満足である。こういうのって、多分コンプレックスの裏返しでもあるのかな。

 まぁ来た仕事は断らなかったおかげもあるのだろうけど、そんなこんなであらゆる方向性を試してみた結果、取り敢えず趣味的音楽は一旦休止、自分の適性をシミュレートして、且つアカデミックな知的好奇心も満足させる方向性を得たのが、傑作『Night & Day』。
 あっちこっち音楽的変遷を経たJoeがこのアルバムで志向したのが、「すでに定められつつあったロックのサウンド・フォーマットの向こう」。ストレートなロックンロールを基調として、ジャズやワールド・ミュージックの多彩なエッセンスを散りばめたサウンドは、ここ日本においても好意的に受け止められた。
 「ロックの向こう」サウンドの実践として、従来のロック・サウンドでは必須であったギターのパートをばっさりカット、その抜けたリード楽器として、主にシンセ以外の鍵盤系をフィーチャーしている。さらにグルーヴ感の補強として、パーカッションの比率を多めに配分、多彩なビートを奏でるリズム・セクションが全体をシミュレートしている。4ピースではなし得なかったホーン・セクションの大々的な導入により、サウンド全体に厚みが出た。
 ここからシングル・カットされた「Steppin’ Out」が、なんとUS・UKとも最高6位の大ヒットを記録し、一気にステイタスが上がり、もうひと押しということで同コンセプトの『Body & Soul』を制作、前作には及ばないものの、それなりの成績を残した。

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 と、ここまでの変遷を記録したのが、このライブである。正確に言えばこの間に、「全曲書下ろしのライブ・レコーディング、しかもオーヴァーダヴなし」というめんどくさい縛りを自らに課した実験作『Big World』があるのだけど、ちょっと特殊な条件下で行なわれたライブのため、Joeのファンの中でもライブ・アルバム扱いされていない。なので、純粋なライブ・アルバムといえば、これが最初になる。
 大抵の場合、こういった節目でライブやベストが出る時は、レーベル移籍か首切りかのどちらかで、実際Joeもその例に漏れず、この後はメジャーな存在になりつつあったヴァージン・レーベルに移籍を果たしている。当時のヴァージンはあのStonesも獲得するくらいのイケイケ状態だったため、取り敢えず実績のあるアーティストには手当たり次第声をかけ、ほんと札束で横っ面を引っぱたく勢いでラインナップの充実を図っていた。
 もともとはMike Oldfield 『Tubular Bells』から出発したプログレ/アバンギャルド色の濃いレーベルが、なぜか航空会社を所有するまでに肥大化し、身近な例で言えば札幌の一等地のファッション・ビルの地下にショップを構えたりするくらいにまで勢力を拡大していた。あそこも五番館のWAVEと並んで興味深い品揃えだったのだけど、そういったショップは20世紀を終える前にどれも衰退していった。

 当時のヴァージンは多分社員でも把握しきれないくらい多彩なアーティストを擁しており、ヒットメイカーも十指に余るくらい所属していた。なので、Joeのような中堅アーティストにまで充分なマネジメントを行なうことができず、せっかくワールドワイドな販路を確保したというのに、イマイチくすぶった状態で契約終了してしまう。その後21世紀に入るくらいまでは健康上の理由もあって、表立った活動が行なえなくなってしまう、というのがその後の流れ。
 そういった行く末を思えば、Joeの最も良い時代の瞬間を切り取ってうまく配置したのが、このアルバムである。


Live 1980 / 86
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『Beat Crazy』 tour 1980
1. One to One
 3枚目のアルバム『Beat Crazy』収録、シングルとしてもリリースされたけど、チャート・インはできなかった。サウンドの構成はオリジナルとさほど変わらないのだけど、Joeのヴォーカルの熱量がまるで違う。ピアノのアタック音も力強い。初期を代表する名バラード。

2. I'm the Man
 前曲からそのままメドレーで続く、疾走感一発のドライヴ・ナンバー。セカンド・アルバムのタイトル・トラックで、シングルとしてはなぜかカナダで23位にチャート・イン。コーラスがいかにもB級パンクっぽいのだけど、いやいやこの人たち、もともと手練れのミュージシャンばかり。勢いだけと見せかけてるけど、とんでもないプレイを繰り広げている。やっぱりこの頃からカッコいいよなぁ、Graham Mabyのベース・プレイ。



3. Beat Crazy
 3枚目のアルバムのタイトル・トラック。これもシングル・カットされているけどチャート・インはせず。どの曲もチャート的には低いけど、ライブでは今でも定番ばかり、実際、ファンの間でも人気の高い曲が続いている。
 この辺からストレートなロックンロールばかりでなく、Duane Eddy的なサーフ・ロックっぽさも見せている。コーラスがまた安っぽいんだ、シンプルなタイトル連呼で。まぁ下手にハモるよりもライブ感が出てて俺は好きだけど。

4. Is She Really Going Out with Him?
 デビュー・アルバム『Look Sharp!』収録、最初のシングル・カット時は見事にカスリもしなかったけど、次の年にリリースし直したらUK13位US21位という好成績をマーク。初期の代表作となった。
 そんなわけでJoe的にも思い入れの深い曲、それはわかるのだけど、だからと言ってここで3ヴァージョンも入れなくてもいいんじゃない?まぁそれぞれアレンジは違うけどさ。

5. Don't Wanna Be Like That
 『I’m The Man』収録、これはアルバムのナンバー。だけどファンならみんな知ってるのは、これもライブでは長いこと定番だから。冒頭のメンバー全員での雄叫び的コーラスを聴くだけで、テンションが上がってしまう。
 ここではギターのGary Sanfordが大活躍。スタジオ・ヴァージョンでは押し込められていた勢いが解き放たれ、バンド全体をハイ状態に引き上げている。

6. Got the Time
 『Look Sharp』収録。このアルバムの中で「化けた」曲のひとつ。はっきり言っちゃうとスタジオ・ヴァージョンはなんだかスッカスカな地味曲扱いだったのだけど、ライブで練り上げられることによって、やっと本来の持ち味を発揮できた印象。間奏のベース・ソロなんて、スタジオじゃできないよね。やってもバッサリ切られちゃうし。

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『Night and Day』 tour 1983
7. On Your Radio
 『I’m The Man』収録、アルバムのオープニング・ナンバーであり、疾走感を感じさせるロックンロールではあるけれど、以前と違ってJoeのピアノが目立っており、単調な8ビートじゃ済ませない感が強くなっている。Joeの場合、ピアノと言ってもメロディアスさを演出するためでなく、単なる打楽器として使うことも多いので、勢いが削がれずに済んでいる。

8. Fools in Love
 『Look Sharp!』収録。オリジナルはもっとレゲエ・ビートを強調していたのだけど、ここではプログレのように不穏なシンセの響きから入り、徐々にバンドのテンションが暖まり出すといった演出。単調なロッカバラードに収まらず、一味違ったシアトリカルなナンバーに変化している。



9. Cancer
 当時のレイテスト・アルバムだった『Night & Day』からのナンバー。「冷気の漂うサンバ」といった趣きのエスニック・ムードに仕上がっている。以前もどこかで書いたと思うけど、この人は基本、昼間の灼熱が似合う人ではない。もっと不穏な漆黒、狂乱の中の静寂を思わせるピアノの音色は、得体の知れぬ妖しさを暗示している。

10. Is She Really Going Out with Him? (a cappella version)
 タイトル通り、アカペラ・ヴァージョン。俺もこの人のライブ・アルバムはオフィシャル/ブートで散々聴き倒したけど、このアレンジはここでしか聴いたことがない。まぁサプライズ的な意味合いの強いヴァージョンなので、こういったのもアリだよね?的な印象。ただそれだけ。

11. Look Sharp
 もちろんデビュー・アルバムのタイトル・ナンバー。ソリッドなロックンロール、しかもすでにオリジナリティの塊。ロックではあるけれど、既存のどのロックにもカテゴライズできない、まさしく「Joe Jackson’s Music」と言える初期の傑作。最初からこうだったんだから、その後はここを超えようとする悪戦苦闘の歴史が続くことになる。そういった葛藤を乗り越えて、最近ではすっかり枯れた雰囲気だと思われがちだけど、いやいやライブでは血管ぶち切れそうになるくらい、今でもシャウトしてますよ。

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『Body & Soul』 tour 1984
12. Sunday Papers
 『Look Sharp!』収録、シングルはチャート・インせず。オリジナルはダルいレゲエ・ビートだったのに、ここではホーン・セクションを大々的に導入、ジャングル・ビートによりゴージャスなサウンドに生まれ変わった。シンプルな編成もいいけど、こういった最も相応しいスタイルでアップデートできるのが、この人の才能。間奏の手弾きシンセの音色は時代を感じさせるけど、今だと逆にそこがファンキーなエッセンスを付け加えているように感じる。

13. Real Men
 『Night & Day』収録、先行シングルとしてUK89位という成績。リリース時期が近かったせいもあって、イントロが始まっての歓声がすごい。オリジナルはB面ラス前という地味な位置、サウンド自体もなんか地味だったのに、ここでは鮮やかに生まれ変わり、ロックのダイナミズムにドラマティックなストリングスが加わった名バラードになっている。
 こういったベタなバラードもプレイしながら、観客に唾を飛ばすようなシャウトを聴かせるアッパー・チューンも平気でレパートリーに入れてしまい、しかもそれが違和感なく溶け込んでしまうのは、基本を押さえたソングライティングの成せる業。



14. Is She Really Going Out with Him? (acoustic version) 
 これで3回目。『Body & Soul』というアルバム自体が既存のロックとの距離感を推し量るコンセプトだったため、敢えてストレートなロック以外の見せ方をしたかったのだろうけど、まぁ俺的にこの曲はオリジナルが一番しっくり来る。逆に今のピアノ・トリオ・スタイルでサラッと流す感じでプレイした方がフィットするんじゃないかと思う。

15. Memphis
 リアルタイムで馴染みがなかったため、最初は新曲だと思っていたのだけど、後になってからサウンドトラック『Mike’s Murder』収録曲だと知った。それを知ったのは『Night & Day』のデラックス・エディションに収録されていたので、多分これを手に入れてなかったら、今でも聴いてなかったと思う。
 オリジナルはChuck Berry 1963年のシングルなのだけど、もうちょっと調べてみたら、BeatlesやPresley、Rod Stewartなど錚々たるメンツがカバーしている、堂々たるロックンロール・クラシックだった。それはさすがに知らなかった。オールディーズ、あんまり興味なかったし。
 で、スタジオ・ヴァージョンと聴き比べてみると、ライブはオリジナルに忠実なストレートなロックンロールだけど、『Mike’s Murder』ヴァージョンも基本はロックンロール、だけどリズム・エフェクトに当時のCarsのようなテクノ・ポップ風シンセを使用しており、それが逆にモダンな雰囲気を演出している。キッチュなテイストの強いスタジオ・ヴァージョンも味がある。

16. A Slow Song
 『Night & Day』収録、この時期のライブの締めとして定番となっていた直球勝負のスロー・ナンバー。バラードでも大体ロッカバラード的にリズムの効いたナンバーの多いJoeにしては、珍しく歌い上げるスタイルなので、ファンの間でも人気は高い。こんなことだってできるんだ、という想いが強かった。
 デビュー当時から比べると大所帯になったライブ・メンバーをバックにして、ここは開き直ってディナー・ショー的な演出のもと、堂々7分に渡って繰り広げられるJoeの熱演。ミラー・ボールなんかきらめいてたら、もっとベタで良い。

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『Big World』 tour 1986
17. Be My Number Two
 『Body & Soul』収録、シングルとしてUK70位はちょっと地味だけど、これもライブの定番曲、シンプルなJoeのピアノ・ソロ・セットとして重要な位置を占めている。バンドの休憩曲として、ライブ構成では外せない。

18. Breaking Us in Two
 で、そのままこの曲に繋げるのが、当時のライブの定番だった。コード進行が前曲とほとんど一緒なため、メドレーにしても違和感がない。ていうか,ふたつ合わせて一曲と考えてもよい。
 オリジナルは『Night & Day』収録。制作時期が近いだけあって、曲調もほぼ一緒。タイトルも似てるし、いつもどっちがどっちだかわからなくなってしまうのは俺だけ?



19. It's Different for Girls
 『I’m The Man』収録、シングル・リリース時はUK5位とヒットを記録した。オリジナルは4ピースでどうにか工夫を凝らしてサウンドを形作っていたのだけど、どこか不本意な形だったのか、ヴォーカルに精彩を欠いていた。
 ここではアコギの掻き鳴らしによるオープニング、徐々にバンドが入るという構成。硬派なフォーク・ロックといった風情だけど、当時の基準のロック・サウンドに比べてボトムが太い。

20. You Can't Get What You Want ('Till You Know What You Want)
 このアルバムのハイライト。収録アルバム『Body & Soul』の中でも重要な曲であり、今を以てファンの間では初期の最高傑作とされるナンバーでもある。UKではシングル最高77位という微妙さだったけど、USでは最高15位と大化けした。
 アメリカっぽい感じではないのだけど、いわゆる「アメリカ人が思うところの英国人特有の屈折したロックのわかりやすい形」がウケたんじゃないかと思うのだけど、あぁここまで書いてきて自分でもややこしい。アレンジ自体はオリジナルとほぼ変わらずストレートだけど、何だこのカロリーの高さ。
 ここでバンドをけん引しているのは、『Body & Soul』から加入したVinnie Zummo。残念ながら、これ以降目立った活躍はしていないのだけど、ここでは一世一代とも思えるロック的なダイナミズムの復権を感じさせるプレイ。エスニック~ワールド・ミュージック寄りに傾いていたバンドに刺激を与える役割として、オーソドックスになりがちだったアンサンブルに喝を入れている。



21. Jumpin' Jive
 下手すると『Mike’s Murder』よりさらに地味な『Jumpin’ Jive』からのタイトル・トラック。一応シングルでUK43位を記録しているのだけど、誰が買ったんだこんなの。
 いま聴いてみると、ロカビリー的なギター・ソロが軽快で案外イケてるんじゃね?的に思って、パソコンに入ってた『Jumpin’ Jive』をチラッと聴いてみると…、ダメだ、スウィング・ジャズはまだ俺には早すぎる。

22. Steppin' Out" 
 最後はファン・サービス、言わずと知れた大ヒット・ナンバー。ほぼどのライブでもそうだけど、安手のシンセ・ポップっぽいアレンジのオリジナルより、ピアノ・ソロをメインとしたヴァージョンで演奏されることが多いこの曲。多分、当時はあんまりやりたくなかったんだろうな。なので、このようにオリジナルからできるだけ遠いアレンジに仕上げている。
 ヴォーカルが入ってから歓声が聴こえるくらいなので、最初何の曲かわからなかったんじゃないかと思われる。ドラムも重く響き、非常にドラマティック。アルバムの締めとしては完璧。




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ヤケクソのやっつけ仕事、でも傑作 - Elvis Costello 『Blood & Chocolate』

folder 1986年に発表された、Elvis Costello 11作目のアルバム。ある意味彼にとっては転機、または過渡期ともいえる時期に当たり、このアルバムを出した後、2作目『This Year’s Model』より長年バックを務めていたAttractions と決別した(数年後、『Brutal Youth』にて一時的に関係復活)。

 この人の一般的なイメージとして、もっとも有名なのが映画『ノッティングヒルの恋人』の挿入歌である「she」(もともとはMichel Polnareffのカバー)であり、また少しロックをかじってる人なら、初期2作のパンク路線がロックのディスク・ガイドの定番として紹介されてることはご存じだと思う。
 
 全キャリアを通してみると、職人的に、一貫した音楽性を追求することには、あまりこだわってない人である。むしろ目新しいムーブメントが流行れば気軽に乗っかったり(微妙にタイミングがずれていたりする)、その時々のマイ・ブームの勢いのまま、アルバム一枚作ったり。
 爆発的とまではいかないまでも、中堅どころとしてそれなりの成功を収めたかと思えば、決まったレッテルを貼られるのがイヤなのか、それとも英国人特有の皮肉っぽいアマノジャク気質が顔を出すのか、
 あまり売れそうもない、地味なアルバムを作る→
 注目されなくなったことに焦る→
 また気が変わって、目ぼしいブームに乗っかろうとする→
 反動で地味になる→
 の無限ループがCostelloの変遷である。
 
 初期のパンク・ムーブメントに乗っかった2作(『My Aim Is True』『This Year’s Model』)の後、ちょっとシングル・ヒットを狙ったり、モータウンを含めたソウル・リスペクトのアルバム(『Get Happy』)を作り、このままキャッチーな路線を行くかと思えば、その反動なのか、単身ナッシュビルへルーツ探求の旅、結果丸ごと1枚カントリーのアルバムをリリース(『Almost Blue』)してアルバム・チャートをダウンさせ、またその反動なのかレコード会社からのプレッシャーがかかったのか、当時の有名プロデューサーClive Langer & Alan Winstanleyと組み(組まされ)(『Punch The Clock』)、本意かどうかは知らないけれど、当時のMTVパワー・プレイのフォーマットにまんま乗っかったPVを作り、これまた今まで接点のなかったDaryl Hallとデュエットしている。それだけメジャー・シーンに魂を売ったはずなのに、思ったほど売れなかったのが面白くなかったのか、それとも例の英国人特有のへそ曲がり気質がぶり返したのか、再びルーツ探求の旅へ。盟友Attractionsをほったらかして、再び単身アメリカへ、今度はまさしくElvis のルーツ、Presleyの元バック・バンドを中心にレコーディング開始、今度はCostelloの名前を捨てて、本名のDeclan Patrick Aloysius MacManusを名乗り、バンド名をThe Costello Showと命名、これまた超絶地味なアルバムを作ったり(『King Of America』。これはこれで結構好き)。


 で、この後インディーズに移り、最後にAttractionsと組んで発表したのが、このアルバム。発表当時、Elvis Costelloといえば、日本でもすでにそこそこのネーム・バリューがあったはずなのに、契約上の問題によって、当初国内版は発売されず(少し経って直輸入盤の形で、ごく少量だけ流通した)、メディアの反応もイマイチ地味だった記憶がある。

 取り巻く状況としては分が悪いにもかかわらず、作品としてのクオリティは高い。メジャー・レーベルで要求された、ヒット・シングル、チャート・アクションなどの変なしがらみから解放され、旧知の仲であるNick Loweにプロデューサーを依頼(ほとんどブースで飲んだくれていただけ、という説もある)、ヤケクソの開き直りなのか、それとも充分に内容を練る時間も予算も人間関係もなかったのか、徹底したバンド・サウンドにこだわった、結果的にストレートなロック・アルバムに仕上がっている。
 
 前述したように、当時のバンドの人間関係は最悪な状態、特にベースのBruce Thomasとはこれを最後に袂を分かち、事実上Attractionsは解散してしまう(『Brutal Youth』で限定的に復活するものの、あくまで一時的なものだった)。そんな状況下のせいなのか、全キャリアを通して、Costelloのギタープレイが最も堪能できるアルバムとなっている。ほぼヤケクソ気味に、とにかく弾きまくっている印象が強い。
 楽曲も実際、「uncomplicated」、「I want you」、「I Hope You’re Happy Now」など、現在でも度々ライブで演奏される曲が多い。いい意味で円熟した現在のCostelloにとって、もう決して作ることができない、何度か訪れたソング・ライティングのピークに書かれた、愛着のある楽曲たちなのだと思う。


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1.uncomplicated
 不穏なギターの響きから始まる、アルバムのカラーを象徴する、バイオレンスな曲。行進曲を思わせる三連ドラムと、怒りに満ち溢れたCostelloのギターのみで演奏され、ほぼずっと同じ構成ながら飽きさせない、つかみはOKの楽曲。
 
 

2.I Hope You’re Happy Now
 ここから、盟友Steve Nieveも加わる。
 昨年のGlastonbury Festivalでも一発目に演奏され、ファンの度肝を抜いた。出だしがBeatlesの「Nowhere Man」を連想させる、ギター・ポップ・ライクな曲。
 
3.Tokyo Storm Warning
 ここまで3曲、Costelloは一心不乱にギターを弾きまくっている。シンプルなギター・リフと、印象的なタイトル連呼のコーラスだけでほぼ構成された、こちらもパンチの利いた曲。もちろん、日本のファンにとってはなじみ深い、思い出の多い曲。

  
 
4.Home Is Anywhere You Hang Your Head 
 ここでちょっと一息、テンポをスローに、でも抑圧された怒りが満ち溢れた曲。昔は冒頭の3曲のインパクトが強く、地味で印象の薄い曲に思われたけど、こういったのもいいな、と思えてくるのが、年を取った証拠なんだろうな。 

5.I Want You
 ほとんどソロ弾き語りの曲。バンド名義ながら、こんな濃い目の激情バラードを入れてしまうあたり、決して一枚岩ではなかった、当時のスタジオの空気が感じられる。

  
 
6.Honey, Are You Straight or Are You Blind? 
 Steveの気の抜けたキーボードの音色が、「Watching the Detectives」を連想させる、最初は脱力してしまいながら、中盤に差し掛かるあたりから盛り上がる、これまた怒りまくったCostelloがいる。2分足らずの短い曲ながら、インパクトは充分。 

7.Blue Chair
 シングル発売もあったらしいけど、何しろプロモーションがほとんどなかった状態だったので、存在を知ったのは、後日発売されたコンピレーション(『Out Of Our Idiot』)でだった。
 ミドル・テンポでポップなアルバム・バージョンと、少し走ったリズムでラウドなシングル・バージョンとでは、ファンの間でも好みが分かれているけど、俺的には適度にポップなアルバム・バージョンの方がしっくり来る。
 緊張感の張りつめたアルバムの中の、一服の清涼剤的な良曲。

  
 
8.Battered Old Bird
 ちょっと鬱気味になってしまいそうな、暗闇の奥底から響いてくるようなギターのストローク、それに乗せて歌う、こちらもどマイナーでダークなCostelloのヴォーカル。バラードとしては感情の昂ぶりがかなりマックスなのだけど、陰鬱としてしまうのだろうか、その後、あまりライブで演奏した記録は少ない。
 
9.Crimes of Paris
 
Betlesライクな構造の、カントリー・テイストも入ったポップ・ソング。ちなみにコーラスで参加のCait O'Riordanは当時Pogues所属、後にCostello夫人の座に収まることになる。なるのだけれど、後に離婚。付き合い始めのカップルらしく、軽快なサウンドだけど、「パリの犯罪」というタイトルが示すように、内容は皮肉満載。 

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10.Poor Napoleon 
  「貧しいナポレオン」とは、まさしくCostelloを指す。まるで自分が裸の王様である、とでも揶揄するかのように。
 ここでもCaitが曲中モノローグで登場。やっぱり思い出したくないのか、その後ライブでの演奏回数はごくわずか。普通にライブ映えするナンバーなので、聴けた人はほんとラッキー。 
 
11.Next Time Round
 最後は大団円的に、ここではNick Loweもアコギで参加。こう言った曲を聴くと、CostelloはほんとBeatlesが好き、またはルーツとして色濃く残っているのがわかる。初期BeatlesのJohnとPaulを模した、サビの多重コーラス振りからは、楽しげな表情のCostelloが思い浮かぶ。でも、Nickのヴォーカルじゃダメなんだろうな。俺としては結構好きなのだけど。



 半ばヤケクソ気味に初期衝動をそのままぶつけたようなアルバムを作り、ある意味発展的解消を行なった後、一転、今度はワーナーとワールドワイド契約を結ぶ。その後はメジャーな活動がしばらく続くのだけれど、それはまた次回のCostelloで。



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北海道の中途半端な田舎に住むアラフィフ男。不定期で音楽ブログ『俺の好きなアルバムたち』更新中。今年は久しぶりに古本屋めぐりにハマってるところ。
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