好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

脱いだらスゴイ男、本気を出す - Prince 『Lovesexy』

 1988年発表、USチャート11位、UKチャートでは1位を記録したアルバム。
 このアルバムが取り上げられる際、必ず持ち出される話題というのが、ほぼ決まって、その「個性的かつ露悪的な全裸ジャケット」。よほどのナルシストか、病的な露出癖でもない限り、なかなか思いつかないデザインである。やる方もやる方だけど、これを許可したワーナーもまた、なかなかの漢っぷり。まぁどうせ言ったって聞きやしないだろうから、というのが実情なのだろうけど。
 ただ、基本真面目な性格なのか、なんかいじりづらい雰囲気を漂わせているのが惜しいところ。例えば、レッチリがシングルでやった、通称「チンポカバー」ジャケットみたいに笑えるわけでもない、非常に大真面目な顔でポーズをとっている。やましい視点を抜きに見れば、どこか決意表明的な凛々しさすら感じさせる。
 
 キリスト教文化圏の影響下にあるアメリカでは、日本人が思っている以上に性的表現・モラルに関する規制が恐ろしく厳しい。地上波でのヌード・シーンなどもっての外だし、無修正のポルノグラフィーなどは、一応合法ではあるのだけれど、大方の典型的なWASPの目には届きづらいよう、メインの売り場からは巧妙に隠されている。
 そのような事情もあってか、本国アメリカにおいてこのアルバムのチャート・アクションが低いのは、店頭にディスプレイすることを拒否した店舗が数多くあった、という事情がある。

 「作詞作曲演奏プロデュースのすべてをこなす、R&B界のマルチプレイヤー」として、これまで小ヒットはいくつかありつつも、あくまでR&Bのフィールド内で活動していた初期のPrinceだったのだけど、2枚組アルバム『1999』がUS総合チャートで健闘し、そこからロック・ファンの注目を集めることとなる。

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 主演映画と合わせて大ヒットを記録した次作『Purple Rain』にて、スターダムへの階段へ一歩足を踏み入れたPrince、その後、『Around The World In A Day』『Parade』『Sign "o" The Times』と才気溢れる作品を、ほぼ1年に1枚のハイ・ペースでリリースしている。どの作品もクオリティが高く、並みのアーティストなら一生に1枚作り出せるかどうか、といったレベルの作品を、この時期は一気にまとめて量産している。
 しかもこの間に、一糸乱れぬ完璧なバンド・アンサンブルを見せる、極上のエンタテイメント・ライブ(James Brownを範としていたらしい)を数多く行ない、そのついでにもう一本、主演映画(『Under the Cherry Moon』)を撮っている。自前のスタジオ(Paisley Park)を構えることによって、少しでも時間があれば、スタジオに籠ってレコーディングを続けていたらしく、500以上の未発表曲があり、それがいつでもリリースできるクオリティにパッケージングされている、という伝説が流布されたのも、この頃(唯一女性には目がなかったらしく、来日公演時には、アフター・ステージ後、目をつけたグルーピー達をピックアップしてホテルに連れ込むことを繰り返していたらしいけど)。
 
 作品としてのクオリティは、常にとんでもない水準を維持してはいたのだけど、実のところ、セールス的には次第に下降の一途を辿っており、決して順風満帆だったわけではない。
 バック・バンドRevolution解散後、独りでスタジオに籠って2枚組『Sign "o"  The Times』を製作、その後、色々なしがらみに嫌気がさしたのか、突如Princeというネーム・バリューを捨てる行動に出る(この後、この人はもう一度、改名騒動を起こす。結局また戻すのだけど)。
 純粋に音楽性だけで勝負しようとしたのか、完全な匿名性を実現するため、タイトルもクレジットもジャケットもすべて真っ黒、通称『Black Album』をリリースしようと計画する。
 しかし、テスト・プレスもラジオ局に配られ、本プレスも佳境に差し掛かった頃、突然の発売中止がアナウンスされる。Princeのクレジット無しでは大きなセールスが見込めない、と判断したレコード会社の圧力なのか、それともPrince自身、ギリギリのところでチキンになったのか。
 当時も様々な憶測が流れたのだけど、言い分としてはどっちもどっちの様相を呈しているので、真偽のほどは定かでない。
 結局、テスト盤も回収され(当然すべてが回収できるはずもなく、これをベースとした様々な形態のブートが、地下で流出した)、その騒動の2か月後にリリースされたのが、このアルバムである。

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 俺が初めて買ったPrinceのCDが、この『Lovesexy』だった。
 まだケツの青い十代後半の男が、ナルシスティックなポーズで遠い彼方を見ている、ヒゲヅラの黒人が写っているジャケットを持って、札幌のタワー・レコードのレジへ向かうには、相当な勇気が要った。
 -と言えば、話の流れ的にはいいのだけれど、実はそんなに記憶がない。
 日本の、少なくとも札幌では普通にトップ・コーナーでディスプレイされており、センセーショナルなジャケットとして話題を呼び、それなりに売れていた記憶がある。


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1. Eye No
 Ingrid Chavezのささやくようなダイアローグ、Princeのシャウトからスタート。低音を抜いた人工的なドラムの音色と、気の抜けたホーンセクションが続く。
 極限まで音を抜いてグルーヴを保つスタイルは『Parade』でも実験済みだけど、もう少しポップ寄りとなっている。『Black Album』の反動だろうか?
 
2. Alphabet St.
 シングル・カット1弾。US最高8位、UK最高9位。
 リズム・カッティングをメインとした、Princeのギターが堪能できる曲。
 ドラムはあくまでも軽く、様々なエフェクト音が絡み、たまにシャウトもしているのだけど、熱くなり切ってはいない。
 Cat Gloverによる間奏のラップが聴きどころ。

3. Glam Slam
 シングル・カット2弾。US R&Bチャート44位、UK29位。
 当時のチャート・アクションは地味だったけど、リリース当初から隠れた名曲扱いされており、後年になってから更に評価が高まった。
 抑えたヴォーカルにオブリガードたっぷりのPrinceのギターが良い。『最も過小評価されているギタリスト』の称号を持つだけあって、聞かせどころがホントうまい。
 結構手クセの多いPrince、ギター・ソロなどを聴いていると、それほど引き出しがあるわけではないのだけど、曲調に合った的確なフレーズを瞬時に弾けるというのは、それだけトータルのサウンドの捉え方、動体神経が優れているのだろう。
 終わりのシンセの適当弾きも結構好き。

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4. Anna Stesia
 ちょっとファンキーなジャジー・ラップといえばわかりやすい。Sheila.E含む女性コーラス3名を従えて、ピアノ・ソロとギター・ソロとが交差する。重い。でも良い。

5. Dance On

 ここからが、レコードで言うB面。スタイルとして、オーソドックスなファンクのフォーマットを使用。
 ペシャペシャ軽いドラム、重いベースと、好き放題なギター・ソロ。
 やはり普通のファンクには終わらない。
 サビの”Dance On !!”がクセになる。

6. Lovesexy
 タイトル曲なのだけど、いつ聴いても印象に残らず、俺的には地味な曲。
 いや、もちろんレベルは高いのだけど、俺だけに限らず、多分誰が聴いても、あまり印象に残らないと思う。
 とっ散らかった曲なので、部分部分だけ聴いてみるのも良いかもしれない。
 
7. When 2 R in Love
 リリース当時から、「ドロドロのどファンク・アルバム」とプレス・リリースされていた、あの『Black Album』収録曲で、おかげであらぬ注目を受けてしまった、ちょっと可哀そうな立場の曲。。
 幻のアルバムの中から選りすぐった曲が、遂にその姿を現した…、と盛り上がったはずなのだけれど、あれ?と思ったのは俺だけではないはず。あの『Black Album』の曲がこれ?という、なんとも肩すかしな印象だった。
 少なくとも、一般的なファンクではなく、Everything But The Girlあたりが歌っても違和感のないくらい、それほどシンプルなスロー・ナンバー。寄りによって、何でこれ?この辺がPrince流の、いわば「スカし技」なのだろう。

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8.  Wish U Heaven
 シングル・カット3弾。US R&B18位、UK24位。
 いかにも80年代っぽい、ロック・テイストをまぶしたポップ・ソング。
 シングル・カットも3枚目となると、あまり話題にもならないものだ。
 
9. Positivity
 ちょっとワールド・ミュージックっぽいシンセ・ドラムのリズムに乗って、語りかけるようなPrinceのヴォーカル、それに女性ヴォーカル2人と、やはりソロ・ギターがねちっこく絡む。
 ラストにこの曲を持ってきたことによって、Princeの決意表明が感じられる。
 後半にラップが導入されているけど、よく言われるように、Princeのラップはそんなにうまくない。
 ラップだけ取り出して聴けば、そりゃ素人に毛の生えたレベルだけれど、これにPrinceによるバック・トラックが絡むと、普通に良い。
 トータルとしてのサウンドのまとめ方を重視しているのだろう。




 ちょっとオフ気味のPrinceのヴォーカル、これまでにないくらい弾きまくるギター、低音を抜いた、あえてチャチに仕上げたドラム音。ほとんどこれだけでサウンドの骨格が成立している。
 にもかかわらず、曲調はバラエティに富んでいる。
 曲間なしノンストップで、まるまるアルバム一枚を一つの組曲として扱うことによって、その限定された条件が逆に功を奏し、キャリア中で最高のファンク・アルバムを作り上げた。
 この限定されたパーツの順列組合せだけで、どこまでバラエティを持たせた作品ができるのか。
 ある意味、Princeの実験精神が才気煥発した、ほぼ最後の作品である。
 
 このアルバムから見事にセールスが急落し、このままフェード・アウトするかと思いきや、『Batman』サントラの大ヒットによってやや復活、にもかかわらず、この数年後、あの有名な改名騒動が持ち上がり、レコード会社と泥仕合の末、どうにかこうにかして独立、「これからはネット配信の時代だ!」といち早くサイト立ち上げ、配信限定アイテムを連発するも、すぐに飽きてやめてしまう。
 やっとまともにCDを制作したと思ったら、通常の販売ルートには乗せず、新聞や雑誌のおまけにしてしまうアマノジャク振り。

 最近では、若い娘たちとバンド結成、時たま思い出したようにシングルをリリースしているが、やはり全盛期の面影は見当たらない。
 今度、『Purple Rain』30周年をきっかけに、20年振りにWarner復帰、バック・カタログのリマスター&ニュー・ アルバム・リリースが進行中のようだけど、どうせまた気まぐれで、それもどうなることか。
 
 それでも、我々は信じるのだ。
 また近い将来、Princeは必ず復活するだろう、と。
 そう信じながら、我々Princeファンは、今日も生きている。



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俺たち、イギリスが大好きっ! - Beautiful South 『Solid Bronze: Great Hits』

CS1822110-02A-BIG 2001年に発表された、バンドとして2枚目のベスト・アルバム。地味ながら根強い人気を誇るバンドなので、いろいろな形態のベストが出ているのだけど、冗長でなくコンパクトにまとめられてるモノを選ぶのなら、これが一番とっつきやすいはず。
 もちろん、選に漏れた曲の中にも、いい曲はほんとたくさんあるのだけれど、ほぼ全キャリアを俯瞰するのなら、これが一番。

  もともと、アルバムごとにきっちりしたコンセプトを設定しているわけではなく(悪い意味ではない)、コンスタントにシングルをリリース、いくつか溜まった頃にアルバムとしてまとめるタイプのバンドなので、良く言えば安定したクオリティ、ちょっと意地悪な見方をすれば、どのアルバムも寄せ集め感覚の似たテイストなのだけど、カタログ的な聴き方を試しにしてもらって、もし気に入った曲があったのなら、そこからオリジナル・アルバムを辿って聴いてもらえばよい。
 逆に言えば、1曲気に入った曲があれば、ほぼハズレのないバンドなので、この世界観を気に入った人には、入り口として最適のアルバムでもある。
 
 ちなみに今は解散しており、それぞれがソロ活動中。今ではすっかり忘れられた存在だけど、時々コンピレーションや未発表ライブのリリースなどがアナウンスされるくらいなので、多分イギリスでも懐メロ的扱いなのだろうけど、それなりにリターンの見込める、確実なコンテンツなのだろう。地味だけど息の長い、ロング・テール型のビジネス・モデルとしては、優良でもある。

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 現役当時から言われてることだけど、「イギリスでは誰もが知ってる国民的なバンドなのに、日本ではイマイチ」というのが、このバンドの一般的な評価である。でも、だからといってイギリスと日本以外で売れているのかといえば、そういうわけでもない。徹底的にイギリス本土を主要マーケットに据えた、ドメスティックなバンド、国内需要を主としたバンドである。
 リスクの分散がうまく行かなかったため、本国で活動が失速した際、他国へ活路を求めるべきだったのだけど、その英国的スノッブな作品性は、輸出するにはなかなか困難だった。英国ポップには比較的寛容な日本においても、なかなかブレイクできなかったのは、活動のピーク時に来日しなかったことが大きい。
 
 前身であるHousemartinsが発展的解消した後、主要メンバーであり、ツイン・ボーカルを務めていたPaul HeatonとDave Hemingwayが再結集、装いも新たにBeautifthul Southを結成する。
 Housemartinsよりバンド色を薄め、ピアノや、時にはストリングスも導入するなど、マンチェスター・シーンが盛り上がりつつあった当時の動向には背を向け、サウンド的には、アンダーグラウンドなネオ・アコから転身して、グローバルかつオーソドックスなポップスを志向していたEverything But The Girlと近い道を歩むようになる。もう少しBurt Bacharach成分を注入して歌を抜けば、あら不思議、ホテルのロビーに流れるBGMに早変わりする。
 
 サウンド的には脱ロック的な、親しみやすいポップなメロディー、それに乗せて、辛辣な政治批判や焼身自殺、グロテスクな殺人事件を題材とした歌詞を、男性2人に女性1人が爽やかに歌いあげる、という、大英帝国特有の捻くれまくったコンセプトが360度ひと巡りした結果、案外素直に聞き流せてしまえるくらい、イギリスのお茶の間にも浸透し、いきなりUKチャートで上位にランク・イン。以後、皮肉とペーソスを好む固定客(ほとんどが英国人)をしっかりつかんで、安定した人気を得るようになる。

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 サウンド、メロディ的には古びることのない、スタンダードなポップスを志向していたバンドなので、表面的なサウンドの変化は少なく、ゆえに終始安定していたイメージが強いけど、実は活動期間中に女性ボーカルが2人も変わっていたり、ハウス系のプロデューサーにサウンド・メイキングを依頼したりなど、まぁ中堅バンドとしては有りがちな、そこそこのマイナー・チェンジも行なっている。
 チャート・アクションが地味になってきた頃、Housemartins時代のバンド仲間でありながら、業界での力関係はすっかり逆転してしまったNorman Cookにプロデュースを依頼、ややビッグ・ビート気味なサウンドが、どうにも声とミスマッチだったりしている。これも迷走した中堅バンドに有りがちである。
 
 その迷走の最中にリリースされたのが、このベスト・アルバムなのだけど、まぁ契約消化的な意味合いもあって、本人達的には不本意な選曲もあるだろうが、全キャリアからまんべんなくセレクトされているので、よく言えば俯瞰した作り、意地悪く言えば無難な作りになっている。
 この後も迷走は止まらず、脈絡もなくカバー・アルバム『Golddiggas, Headnodders and Pholk Songs』をリリースする。日本でもそうだけど、アーティストが脈絡もなくカバー・アルバムを出す時、それは大抵、レコード会社からの要請、オリジナルじゃ売れないから、みんなが知ってる歌でセールスを補填することと相場は決まっている。で、当然だけど、大して思い入れのない付け焼刃のカバーは誰の共感も得ることができず、案の定、セールスはさらに下降線を辿ることとなる。
 結局、バンドもレコード会社も、方向性の行き詰まりを解消することができず、遂に2007年、Beautiful Southは18年の歴史に幕を閉じることとなる。楽曲のワン・パターンぶりは致し方ないとしても、バンド内のささくれ立った人間関係に限界を感じていたのだろう。
 
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 日本では、2枚目の『Choke』あたりからメディアの取り上げが多くなり、俺もこの辺りから聴き始めた覚えがある。
 Beautiful Southが精力的に活動していた1990年代は、リアル・タイムのバンドとして、REMやレッチリ、Oasisなど、他にインパクトの強いバンドが数多く活動していた。
 熱狂的なカリスマ性を持ったバンドではないので、特にこのバンドが一番好きだった時期はないのだけど、何というか、腐れ縁のカップルのように、何年かに一度、ふと思い出して引っ張り出したり、何となく気になり始めた頃にニュー・アルバムが出たりして、ズルズル聴き続けていた次第。

 で、今回うちのCD在庫を漁ってみると、なぜか7枚も持っていた。
 多分、イギリスでの売れ方もこんな感じだったんじゃないかと思う。
 なんとなく買ってしまう、家族か友人の誰かが持ってるので、何の曲は知らないけど耳にしたことがある、など。日本でも昔なら、レベッカかBOOWY、最近(といっても前世紀だが)ならglobeかGLAYのアルバムのようなものだ。
 最近はそういったアルバムも少なくなったけど、昔はたとえ自分で持ってなくても、何となく全曲口ずさめるアルバムというのがあった。


Solid Bronze
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Beautiful South
Polyg (2001-11-26)
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1 Rotterdam (Or Anywhere)
 『Blue Is The Color』収録、シングル最高6位。シングルとしては珍しく、Jacqui Abbottのソロ・ナンバー。ちょっとボサノバの入ったリズムとアコギのリード、気だるいヴォーカルが、休日の朝の目覚めを思い起こさせる。前述のコンテンポラリー・サウンドのお手本のような曲。チャートで支持されたのもうなずけるし、リード・トラックとしては最適。

2 Perfect 10
 『Quench』収録、シングル最高2位。バンドとしては一番脂の乗っていた時期。やや怪しげな響きを奏でるハモンドから、コール&レスポンスでのPaulとJacquiのツイン・ヴォーカルが、サウンドをリードしてゆく。イギリス版「3年目の浮気」と評した人がいたけど、的を得ていると思う。
 ちなみにPaul Wellerがギターで参加しているのだけど、それほど目立った活躍でもない。
 
 

3 You Keep It All In
 『Welcome to the Beautiful South』収録、シングル最高8位。間の抜けたリズム・ボックスに乗せて歌う2人。こういった曲がチャート上位に食い込んでくる状況というのは、アイドルやダンス系だらけの日本のチャートよりは、バラエティに富んで健全だと思う。
 何となくだけど、日本で言えば浜田省吾がシングル・チャートで健闘するイメージかな?
 
4 Don't Marry Her
 『Blue Is The Color』収録、シングル最高8位。Beautiful Southといえば、必ず取り上げられるくらい、最大の話題作であり、問題作。
 「Rotterdam」と同じく、Jacquiの爽やかなヴォーカルと、アコースティックを基調としたバンド・サウンドが良質なポップスを演出しているのだけど、歌詞の内容は近親相姦をテーマとしており、タイトルではカットされているが、正式名称は「Don't Marry Her, (Fuck Me)」である。しかもはっきり、「Fuck」って歌ってるし。
 このようなシングルがきちんと評価され、チャート・インするのも、まぁイギリス特有の国民性なんだろうな。
 
 

5 A Little Time
 『Choke』収録、シングル最高1位。バンドとしては唯一のNo.1シングル。まぁいい曲なのだけれど、初代女性ヴォーカルBrianaはちょっと甘さが強く、俺としては中期のJacqui の声の方が好み。
 
6 Everybody's Talkin'
 『Miaow』収録、シングル最高12位。皮肉やウィットの強い歌詞世界を持つこのバンドには、ちょっとアバズレた雰囲気のJacqui の声質が合っている。
 
7 Good As Gold (Stupid As Mud)
 同じく『Miaow』収録、シングル最高23位。
 
8 Dream A Little Dream
 シングル発売はないけど、前ベスト『Carry On up the Charts』収録。もともとは有名なスタンダード・ナンバーらしく、最近ではRobbie Williamsもカバーしていた。

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9 Song For Whoever
 デビュー・シングル。『Welcome to the Beautiful South』収録、シングル最高2位。
 
10 Old Red Eyes Is Back
 『0898』収録、シングル最高22位。Beautiful Southはアルバムも含め、シングルもジャケット・デザインが凝っており、ちょっと悪趣味で面白い。
 
11 The Root Of All Evil
 新曲。バンド・アンサンブルのまとまりが良い頃なので、良曲。
 いかにもイギリスの労働者階級っぽい、見た目の冴えないオヤジどもの集団だが、ライブでは、なぜかカッコよく見える。観客の反応も良く、大衆に愛されたバンド、という感じでホッコリしてしまう。
 
12 One Last Love Song
 前ベスト『Carry On up the Charts』収録、シングル最高14位。Brianaのベスト・トラック。これを最後に彼女はバンドを脱退するのだけど、置き土産としては最高。Beautiful Southとしては珍しく直球のバラード。
 
 

13 Dumb
 『Quench』収録、シングル最高16位。「くたばれ」というスラングをポップなメロディー、コーラスでコーティングした、ほんと両方の意味でイギリス人らしい曲。ラス前のJacqui のカウンター・メロディが秀逸。
 
14 How Long's A Tear Take To Dry?
 同じく『Qench』収u録、シングル最高12位。アルバムのリード・トラック。PaulとJacquiの掛け合いがバービーボーイズを思い起こさせる。
 
15 Blackbird On The Wire
 『Blue Is The Color』収録、シングル最高23位。俺自身としては、Beautiful Southで最も好きな曲。
 チャート・アクションはそこそこ、曲としても地味だけど、Paulのセンチメンタルな面が多く出たヴォーカルが最高。ピアノ・ソロを主体としたバック・トラックが、情感たっぷりに歌い上げるヴォーカルを引き立たせている。
 
 

16 Closer Than Most
 『Painting It Red』収録、シングル最高22位。
 バンドとして煮詰まっていたのか、ウニョウニョしたシンセ・サウンドをバックに、徐々にドライブするギター、珍しくホーン・セクションも導入した一曲。
 この路線は結構好きだったのだけれど、バンド活動自体が次第に地味になっていった。
 
 

17 The River
 『Painting It Red』収録、シングル最高59位。ストリング・セクションをバックに、PaulとJacquiがしっとり歌い上げるのだけど、もう『Quench』の頃のようなマジックは生まれなかった。
 
18 Pretenders To The Throne
 1995年発表、オリジナル・アルバム未収録、シングル最高18位。リリース時期でいえば『Miaow』の少し後なだけに、良質なポップ・チューン。
 
19 The Mediterranean (Morcheeba Mix)
 『Painting It Red』収録、シングル発売はなし。Dave Hemingwayによるナンバー。オリジナル2枚組アルバムということでバラエティ色を出したかったのだろうが、逆に裏目に出て散漫な印象となっている。一つ一つは良い曲なのだけど、もう少し曲数を絞ってシングル・アルバムにしていたら、すごく良くなっていたと思う。



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 前~中期までのベスト・アルバムという位置づけ。この後、解散までの3枚のアルバムが後期とされているのだけど、次第に地味になってゆく印象は拭えない。この後もキャッチーではないけれど、ポップな良曲がリリースされているので、まずはこのアルバムを入り口に、いろいろ聴いてみてほしい。
  PaulとJacquiは久しぶりにコラボレーションを行ない、つい先日、連名でアルバムをリリースした。やはり、何か惹かれあうものがあったのだろうと思う。



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すべての人に聴いてほしい、天才の傑作 - Stevie Wonder 『Innervisions』

Innervisions  1973年発売、Stevie若干23歳にして、既に16枚目のオリジナル・アルバム。何しろ12歳でデビューしているのだから、とにかく芸歴が長い。
 レーベル全盛期を支えた多くの所属アーティストらが、まぁそれぞれいろいろあって、次々と他社へ移籍したり、またはいつの間に活動自体がフェード・アウトしてしまったりする中、Stevieはデビューから一貫して古巣モータウンに所属し続けている。活動ペースのムラはあれど、一途に浮気もせず、脇目も振らず、いまだ現役の稼ぎ頭として、老舗レーベル・モータウンの屋台骨を支え続けている。
 
 Berry GordyとSmokey Robinsonによって創設されたモータウンは、 Marvin Gaye『What's Going On』のレビュー でも述べたように、スタジオ・ミュージシャンを缶詰め状態にして、とにかく大量のバック・トラックを制作、ツアーやテレビ・ラジオ出演の合間を縫って、スタジオに飛び込んできたシンガーらがチャチャッと歌を吹き込み、熟練のエンジニアらがラジオで最適の音質で聴こえるようにミックス・ダウン、毎週月曜日の会議を経て、次々と高クオリティのポップ・ソウルをリリースしていった。ここ日本においてでも、90年代初頭に流行したビーイング・サウンドの席巻は、モータウンのノウハウが十二分に活用されている。
 
 そういったイケイケ状態の新興レーベルに所属している状況だったので、まだセールス実績もそこそこの十代で、しかも盲目というハンディキャップを背負っている少年にとって、まともな発言権などあろうはずもなかった。キャリアを重ねるに連れ、次第に表現欲求や自己主張も増えていったことだろう。ちょっと口を挟みたい時だって、数知れずあったと思う。しかし、当時の音楽業界に携わっていた者は、多かれ少なかれ山師的な胡散臭さと老獪さを持ち合わせており、デビュー間もない小僧の戯言にまともに耳を傾けることはなかった。
 社会的・音楽的にも激動の時代を迎えた60年代のまっただ中にいるにもかかわらず、いつまでたっても永遠の少年扱いのままのStevie、相も変わらず社命によって、「ちょっと音楽的に器用な黒人の少年」というレッテルのもと、お仕着せのポップ・ソングを歌い続けなければならなかった。

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 モータウンによる音楽的な過干渉に耐え切れなくなり、抑えきれなくなったフラストレーションのガス抜きのため、Stevieはこれまでとはちょっと流れを変えた、ほぼすべての楽器を自分で演奏したジャズ・インスト・アルバム『Alfee』を制作したのだけど、あまりにこれまでのStevie Wonderのイメージとかけ離れていたため、営業戦略上、まともな形で発売することを渋ったモータウンは、老獪な懐柔の末、『Stevie Wonder』ではなく、別名義(Stevie Wonderのスペルを逆に綴ったEivets Rednow名義)でのリリースを提案する。
 Stevieとしては、とにかくアーティスティックな一面をアピールできれば、セールスは二の次だったので、その提案にホイホイ乗ってしまう。モータウンとしても、多分大きなセールスは見込めないと判断したのか、プレス枚数は最低限度、プロモーションもほんの申し訳程度で済ませてしまったため、当然、リリースされたこともほとんどのファンが気づかず、リリース当時から幻のレア・アイテムとなってしまった。
 モータウンとしては、一時的な売り上げ減少にはなったけど、先を見越した考えでゆけば、頭に乗ってきた若手に差し出した、ちょっとしたアメ玉的プレゼントでしかなかった。結局のところ、周囲の大人にうまく丸め込まれた、というのが、ここまでの経緯。
 
 二十歳の誕生日を迎えたと同時に、それまで抑圧されていたStevieの反撃は始まる。
 これまで稼ぎに稼いだ挙句、未成年という理由でプールされていた正当なギャランティを、完全に合法的な手続きに則って、管財人となっていたモータウンから、ほぼ全額奪い返す。しかも、自前のプロダクションと音楽出版社も用意し、法的武装も怠らなかった。さらには、自作のプロデュース権まで獲得することによって、最も自分の音楽を作りやすい環境づくりに成功する。
 ここまで用意周到な交渉過程の裏には、もちろん弁護士など専門家からの助言アドバイスも大きかっただろうし、いろいろ甘言を吹き込む取り巻きなどの尽力もあったのだろうけど、それにも増して、自らの音楽的信念を曲げず、進むべき道を邁進するために手練手管を尽くした、Stevie自身の手腕が大きく物を言っている。

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 金と自由を手にし、あとは音楽を作るだけである。
 これまでは子ども扱いされて、ミキサー卓に触れることも容易にできず、お仕着せの売れ線ソングを歌うだけだった頃と比べ、もう容易に口出しできる者はいない。今までは常に上から目線だった会社のお偉方も、今となっては、Stevieに対しては愛想笑いを浮かべるばかりである。
 もっとも、モータウン側にも、Stevieばかりに構っていられない事情があった。当時のポイント・ゲッターの椅子が、Michael Jacksonをヴォーカルに据えたJackson 5、それとSupremesを脱退してソロ活動をスタートさせていたDiana Rossらに移っていたため、正直、Stevieが勝手に事を起こしても、レーベル全体にとっては、それほど大きな脅威にはならなかった。
 というわけで、結果的に雑音の少ない状況となった中、Stevieは次々と歴史的な傑作を制作してゆく。
 
 昔から名盤扱いされていたこのアルバムだけど、俺が本当に好きになったのは、ここ半年くらいのことである。20代前半、アルバム・ガイドに載っていたモノを片っぱしから買い集めていた時期に聴いたものの一つだったのだけど、当時ロックをメインに聴いてきた耳では、イマイチピンと来なかった。
 というより、80年代のStevie自体が、アップ・トゥ・デイトな存在ではなくなっていた。
 当時の彼の代表作は、「I Just Called to Say I Love You」と「Part-time Lover」、ポップ・ソウルの基準で行けば、余裕でアベレージ超えなのだけど、かつて3部作+ 『Songs in the Key of Life』を世に問うた頃の彼と比べれば、ほんと凡人と天才ほどの格差が開いていた。80年代のStevieとは、無難なポップ・ソングを作り続ける「愛と平和の人」であり、、いわば革新的なソウル/ポップ・アーティストの基準で見れば、「とっくに終わった人」程度の扱いだったのだ。

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 ここ2、3年、自分の音楽的嗜好が、ロックやポップスなどから、レアグルーヴやジャズ・ファンク、アシッド・ジャズ、ディープ・ファンクなどに変化し、一時はマニアックなジャンルへも進んだのだけど、いろいろ聴いてきてひと回りしたのだろう。ベタな名作を再度聴き直すバイオリズムに入ったため、ほんとつい最近になって再び、『Innervisions』と巡り合った。
 すると、今まで退屈でちょっと小難しく聴こえてきてしっくり来なかったサウンドが、数十年経った今となっては、Stevie自身によって濃厚に調味されディスプレイされた記名性の高いサウンドが、驚くほどスルリと耳に馴染み、そして完全に虜になった。
 若い頃の耳では理解できなかったことが、年を経るにつれ、少しずつではあるけれど、噛みしめる度に理解が深まってゆく。
 44歳になって、初めてStevie Wonderが、本っ当に好きになった。


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1.Too High
 ムーグとスネアによる導入部、スキャットっぽい女性コーラスの後、少しEQをかけた、くぐもったStevieのヴォーカル。バック・トラックは一定ながら、曲調は結構いろいろ変化し、最後はジャズ・セッションっぽく終わる。
 最初はサビとコーラスが気持ちよくて、何となく聴いていたに過ぎなかったのだけど、通して最後まで聴いてみると、普通のアルバム一枚分のアイデアがぎっしりと詰め込まれた、かなり完成度の高い、なんかすごい、そしてなんかヘンな曲である。でも、クセになる曲。
 
 

2.Visions
 比較的ストレートなスロー・バラード。ちょっとフラメンコっぽいギターが曲調をリードしているのだけれど、時々変なオブリガードが入っており、やはり一筋縄ではいかない曲。
 
3.Living For The City
 このアルバムが紹介される際、最も取り上げられる頻度が高い曲。すべての楽器プレイをStevie自身が行なっている。一人でドラムを叩いてリズム・トラックを作り、それに上物である鍵盤類を被せて、自分でヴォーカルも乗せる。音を合わせてゆくだけでも大変なのに、若干20歳前後の少年がこんなグルーヴを作ることができたのは、やはりこの時期のStevieは神がかっていたとしか思えない。
 この時期の未発表曲は山ほどあるらしく、完成・未完成問わず含めると、その数は1000曲近く、そこから厳選されたのが、俗に言われる『Talking Book』、『Innervisions』、『Fulfillingness First Finale』、『Songs in the Key of Life』の4部作である。
 
 

4.Golden Lady
 一般的に人気の高いのは、これのひとつ前の3.なのだけど、俺的には、これがこのアルバムでのベスト・トラック。
 シンプルなピアノ・ソロから始まるInterludeの後、ミドル・テンポが淡々と続く。この時期のStevieの特徴として、ヴォーカルの緩急の付け方が上手くなった、という点が大きい。比較的抑え気味のヴォーカルが演奏の一部として楽曲に溶け込み、徐々に熱くなってくるリズム・セクションに引っ張られてゆく。終盤に差しかかるに連れて、ヴォーカルもフェード・インするように、次第に熱量が大きくなってくる。
 一聴して地味な曲だけど、非常に吸引力の強い、麻薬的な習慣性を引き起こす。
 
 

5.Higher Ground
 Red Hot Chili Peppersのカバーが最も有名。演奏・アレンジもほぼ完成の域に達しており、かなりの腕達者の集団であるはずのレッチリでさえも、この作品世界を壊すことはできなかった。手練れのプレイヤー集団が一堂に会しているのだから、いろいろ試行錯誤しながらセッションを重ねたのだろうけど、結局、新たな価値観を創造することができず、ストレートにカバーせざるを得なかった。
 ちなみにこの曲も、すべてのトラックを一人で演奏している(驚)。
 
 

6.Jesus Children Of America
 邦題が"神の子供たち"。まぁ意訳として間違ってはいない。Stevieのアンチの意見として、その博愛主義、宗教めいた教条主義に拒否反応を示す、という意見を読んだことがあるけど、80年代のほんの一時期の傾向のみを切り取って、大げさに語っているに過ぎない。
 『Innervisions』発表直前、Stevieは従兄弟の運転する車に同乗した際、交通事故に遭う。この事故の後遺症で一時味覚と嗅覚を失うのだけど、その後のリハビリが功を奏し、肉体的には、ほぼ完全に回復した。ただ、この時のボーダー体験が、彼を内的世界(Innnervisons)へと誘うきっかけになったのだと思われる。
 「究極の信仰は自分の中にある」というのなら、Stevieもその時に得た世界観に従って、このアルバムを制作したのだろう。
 
7.All In Love Is Fair
 シンプルにまとめられた、ドラマティックなバラード。ちょっとElton Johnをモチーフにした、ストレートで、しかも時代の風化を感じさせない曲。
 
8.Don't You Worry 'Bout A Thing
 Stevieの曲はジャンルを問わず、かなり多くのアーティストにカバーされているのだけど、Incognito のヴァージョンは最高!俺的には、カバーがオリジナルを上回った、稀有な例だと思っている。
 リズムの面白い曲だけど、アシッド・ジャズの基本フォーマットである、4つ打ちドラムが心地よい。
 
 

  

9.He's Misstra Know-It-All
 一聴して地味な曲調が多い『Innnervisions』、ラストを飾るこの曲も、長い間聴き流しており、魅力に気づいたのは、つい最近。
 基本は単調なメロディの反復である。流麗なピアノ・ソロで始まり、徐々にコーラスとリズム・セクションが加わり、転調の後、Stevieのヴォーカルも熱を帯びる。後半はジャズのアドリブっぽくなり、混沌がピークに達しようとしたその時、コーラスとのコール&レスポンスで締める。






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北海道の中途半端な田舎に住むアラフィフ男。不定期で音楽ブログ『俺の好きなアルバムたち』更新中。今年は久しぶりに古本屋めぐりにハマってるところ。
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