
ちょっとセオリーを外したアート系のアーティストやアルバムが、アメリカ本国よりウケが良いのは、『Pet Sounds』あたりから続く、イギリスの伝統。
インタビューでの発言や、解散後の地道な活動から見て、知的というよりはむしろ天然系と評した方が良さげなDavid Byrne、もうキャリアもそれなりに長く、セールス・作品のクオリティとも、それなりの実績を上げているにもかかわらず、なんかイマイチ評価が薄い、というか、大物感があまりない。
もともとあまり偉ぶらない人なので、マイナーなイベントやフェスにも積極的に参加するくらいフットワークが軽いのだけれど、あまりに気軽なので、レア感が薄いというか、若手からのリスペクトも薄いような印象が強い。一応、長年の功績は認められており、Hall of Fameにも呼ばれるほどの人なのに、である。
パンク~ニュー・ウェイヴ・ムーヴメントの発信源として、派手に隆盛を極めていたロンドンに対し、地味なアングラ系が多いと思われがちなニューヨークのミュージック・シーンだけど、あながち間違ってはいない。ヒッピー幻想の終焉と入れ替わりのベトナム戦争の長期化が災いして、何とも形容しがたい陰鬱と混沌、正体不明の閉塞感が蔓延していた。
そんな中で地道に活動していたのが、Talking Headsである。デビュー間もなくは、ごくごく平均的なフォーマットのパンク・バンドだった彼らだけど、じきに大きく飛躍するチャンスを与える人物が現れる。
その名は、Bryan Eno。
歌うことも楽器を弾くこともなく(できず)、ましてやまともな作詞・作曲もできないのに、いつの間にか音楽業界に潜り込み、気づいた時には大御所ステージにまで上り詰めた男である。
デビューのきっかけとなったRoxy Musicでは、「テープレコーダー担当」という出まかせのポジションを獲得、David Bowie張りのキッツいメイクでステージ上で踊りまくる、という、少なくともサウンドとはまるで関係ない、エキセントリックなパフォーマンスを行なっていた。脱退後は、まぁ言ったもん勝ちだと思うけど、退屈なシンセ和音を独りよがりに延々と鳴らし続けた冗長なインストに、「環境音楽」という、これまたいかにも「らしい」コンセプトを掲げて、アルバムを量産。自称スノッヴな連中の自尊心をくすぐるような活動を展開した。
こうして書いてると、とんでもなく胡散臭いサギ師っぽく思えてしまうけど、何でも突き詰めていけば、その筋で一流になってしまうのは、致し方ないことである。きちんと客観的に身の振り方をわきまえて、流行の臭いを嗅ぎつけてすぐさまツバをつけてゆくところなど、秋元康並みにスゴイ、と認めざるを得ない。若手の有望株にうまく取り入って、プロデュースと称して気分次第で好き放題なことをそれっぽく語り、うまくブレイクしたら「おれの手柄」っぽく振る舞う男である。
うん、やっぱり秋元康っぽい。
そんな彼が興味を持ったのが、単なるアングラ・シーンからメジャーへ進出しつつあったNYパンクのアーティストである。何となくモノになりそうなバンドをいくつか寄せ集めて、コンピレーション・アルバム(『No New York』)を作る。大して売れないのはわかりきっている。これ自体で儲けるつもりではない。これは単なるアドバルーン、センセーショナル話題作りでマス・メディアに取り上げられてもらうことが目的なのだ。
その中で、こいつらなら俺の意のままに操れそう、とEnoが選んだのが、Talking Headだった、という次第。
そんな彼ら、この後は高い評価を得た『Remain in Right』をある種の終着点として、Enoとのコラボレーションは発展的解消の途をたどることになる。Enoが得た名声と高評価とは対照的に、あまりに見返りの少ないバンドの評価、そして増大するプレッシャーももちろんだけど、あれこれ突拍子もない指示を出すEnoに対して、ほとほと愛想が尽きたのだろう。
その後、彼らの活動ペースは急激に落ち、集大成とも言えるライブ映画、それに伴うサウンドトラック(『Stop Making Sense』)を作ったあと、『Remain in Right』の搾りカスのようなアルバム(『Speaking in Tongues』)を作り、それぞれが長期休養に入ったり、Tom Tom Clubを始めたりする。
特にギミックに凝ることもない、楽しく踊れる音楽をコンセプトにしたTom Tom Clubが高セールスを記録したことによって、メンバー4人とも気づいたのだろう。
次はゲストを入れず、4人だけのアルバムを作ろう。
何の装飾もギミックもない、ただ「歌」のためにある『普通』のアルバムを。
それが、この『Little Creatures』である。
1. And She Was
ちょっとフォーク・ロック調の3枚目のシングル。US54位UK17位。Byrneのヴォーカルも、気が抜けてリラックスした印象。
前作まで、神経症的なカン高い声を無理して張り上げていたが、「Hey,Hey」のかけ声も、どこか牧歌的でおだやか。
バンド4人で顔を突き合わせ、ヘッド・アレンジで練り上げた曲なのか、後半のChris Frantzによるドラム・ロール、Byrneがかき鳴らすギターも楽しそう。セッションの楽しさが凝縮された曲である。
2. Give Me Back My Name
前半がややEno臭さの残る曲。
リズムもややオルタナっぽさが残っているけど、これまでTalking Headsでは使われたことのない、スチール・ギターの響きが全体を和ませている。
サビに入るとカントリーっぽいメロディーが展開する、ライブ映えしそうな曲。
3. Creatures Of Love
ほぼタイトル・ソングであり、アルバム全体の流れを象徴した、ややファンクっぽいギターをバックに、やはり楽しい曲。何ということもない曲だけど、やはりクセになってリピートしてしまう魔力を持つ、アルバム・ジャケットそのまんま、ファニーな曲。
4. The Lady Don't Mind
UKのみシングル・カット、最高81位まで上昇した、先行1stシングル。Eno時代は付け焼刃的なファンク・リズムのミスマッチ感が、ニュー・ウェイヴ的なサウンドとして相乗効果を醸し出していたけど、ここでは「ちょっとヘタでもいいから自分たちでやってみよう」というバンドの意思が結実した、Talking Headsの進化形態とも言えるナンバー。
評論家受けの強かったEno時代を真っ向から否定するのではなく、消化・吸収した上で自分たちのオリジナリティを確立し、ライト・ユーザーがラジオで聴いても好感を持たれる曲を作り上げた。
サビのホーン・セクションと、Byrne+バンド・コーラスとのコール&レスポンスが最高。
5. Perfect World
ややスタンダードなロック調。ギター・カッティングがPoliceっぽい瞬間がある。サビに入ると再びスチール・ギターが出てきて、普通のミドル・テンポが和んだ感じになる。
6. Stay Up Late
Jerry Harrisonのキーボードから始まる、意外に珍しい曲。Jerryが終始リードを取っており、ちょっとひと昔前のニュー・ウェイヴ調。
中間辺りでEnoっぽさが出ているけど、そこまで強いわけでもなく、エッセンス程度。やはりバンド単体で練り上げた曲だと思う。
7. Walk It Down
今度はChris FrantzとTina Weymouthによる、Tom Tom Clubチームがイニシアティヴを取っており、ファンクともロックとも似つかない、エスニック系の変則ビートが他2人を引っ張っている。
誰か一人、例えばByrneがすべてメインを張るのではなく、4人それぞれがアイデアを持ち寄り、合議制によって採用された作者が責任を持つ、という極めて当たり前なバンド民主主義が、このアルバムの最大の成果であり、好調要因である。
まんまTom Tom Clubではなく、やはりTalking Headsというフィルターを通しているため、単純にカラッと明るいものではなく、やや不穏な重めのサウンドに仕上がっている。
8. Television Man
前曲と同じく、リズムを強調。ていうか、ほとんどリズム・セクションとByrneの特色である、不安定な響きのギター・リフによって出来上がっている曲である。
このアルバム全体に言えることだけど、鍵盤系のJerryの出番は少ない。細かなエフェクトのアイデアなど、目に見えずらい貢献度は高いのだけど、あまり見せ場を作ってもらえなかったのか、どうにも影が薄い。この後、ふて腐れてバンド活動に消極的になって、結果バンドを活動休止に追い込んだのも、まぁ気持ちはわかる。
後半はモロ『Remain in Right』だけど、リズム中心ではなく、当時よりメロディーが立っている。
9. Road To Nowhere
最初のアカペラ・コーラスから行進曲のようなドラム、まさしくアルバムのフィナーレを飾る名曲である。ちょっとエフェクトをかけたアコーディオンからして、もう楽しげ。Byrneもすっごく楽しそうに歌っている。
4.と並ぶ、このアルバムの要となる曲である。
「普通の楽曲を作りたかった」Talking Headsが、『普通』をコンセプトにアルバムを一枚作った。
セールス的にもトータルで200万枚という、十分及第点な数字だった。
でも、Byrneだけはどこか満足できなかったのか、もっと『普通』を極めたかったのか。通常パターンならプロモーション・ツアーを行なうところだけど、思うところのあったByrne、ツアーはキャンセルし、映画製作に乗り出す。その名も『True Stories』、アメリカのごく『普通』の人々を主人公に、ごく『普通』の生活を淡々と、それに若干のフェイクを加えた作品を作り上げた。
Byrneのスケジュール待ちだった他3人、撮影終了まではヒマを持て余していたのだけれど、サウンドトラックをTalking Headsが担当することになり、再びレコーディングに臨むことになる。バンド側としては当然、この後はツアーに出る気まんまんだったのだけど、Byrneの多忙によって、ツアーは再びキャンセルされる。
その後もライブ一つすら行なわれることなく、結局のところ、それが活動休止→解散の要因となる。
Little Creatures
posted with amazlet at 16.02.06
Talking Heads
EMI Catalogue (2009-08-31)
売り上げランキング: 77,898
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1. And She Was
ちょっとフォーク・ロック調の3枚目のシングル。US54位UK17位。Byrneのヴォーカルも、気が抜けてリラックスした印象。
前作まで、神経症的なカン高い声を無理して張り上げていたが、「Hey,Hey」のかけ声も、どこか牧歌的でおだやか。
バンド4人で顔を突き合わせ、ヘッド・アレンジで練り上げた曲なのか、後半のChris Frantzによるドラム・ロール、Byrneがかき鳴らすギターも楽しそう。セッションの楽しさが凝縮された曲である。
2. Give Me Back My Name
前半がややEno臭さの残る曲。
リズムもややオルタナっぽさが残っているけど、これまでTalking Headsでは使われたことのない、スチール・ギターの響きが全体を和ませている。
サビに入るとカントリーっぽいメロディーが展開する、ライブ映えしそうな曲。
3. Creatures Of Love
ほぼタイトル・ソングであり、アルバム全体の流れを象徴した、ややファンクっぽいギターをバックに、やはり楽しい曲。何ということもない曲だけど、やはりクセになってリピートしてしまう魔力を持つ、アルバム・ジャケットそのまんま、ファニーな曲。
4. The Lady Don't Mind
UKのみシングル・カット、最高81位まで上昇した、先行1stシングル。Eno時代は付け焼刃的なファンク・リズムのミスマッチ感が、ニュー・ウェイヴ的なサウンドとして相乗効果を醸し出していたけど、ここでは「ちょっとヘタでもいいから自分たちでやってみよう」というバンドの意思が結実した、Talking Headsの進化形態とも言えるナンバー。
評論家受けの強かったEno時代を真っ向から否定するのではなく、消化・吸収した上で自分たちのオリジナリティを確立し、ライト・ユーザーがラジオで聴いても好感を持たれる曲を作り上げた。
サビのホーン・セクションと、Byrne+バンド・コーラスとのコール&レスポンスが最高。
5. Perfect World
ややスタンダードなロック調。ギター・カッティングがPoliceっぽい瞬間がある。サビに入ると再びスチール・ギターが出てきて、普通のミドル・テンポが和んだ感じになる。
6. Stay Up Late
Jerry Harrisonのキーボードから始まる、意外に珍しい曲。Jerryが終始リードを取っており、ちょっとひと昔前のニュー・ウェイヴ調。
中間辺りでEnoっぽさが出ているけど、そこまで強いわけでもなく、エッセンス程度。やはりバンド単体で練り上げた曲だと思う。
7. Walk It Down
今度はChris FrantzとTina Weymouthによる、Tom Tom Clubチームがイニシアティヴを取っており、ファンクともロックとも似つかない、エスニック系の変則ビートが他2人を引っ張っている。
誰か一人、例えばByrneがすべてメインを張るのではなく、4人それぞれがアイデアを持ち寄り、合議制によって採用された作者が責任を持つ、という極めて当たり前なバンド民主主義が、このアルバムの最大の成果であり、好調要因である。
まんまTom Tom Clubではなく、やはりTalking Headsというフィルターを通しているため、単純にカラッと明るいものではなく、やや不穏な重めのサウンドに仕上がっている。
8. Television Man
前曲と同じく、リズムを強調。ていうか、ほとんどリズム・セクションとByrneの特色である、不安定な響きのギター・リフによって出来上がっている曲である。
このアルバム全体に言えることだけど、鍵盤系のJerryの出番は少ない。細かなエフェクトのアイデアなど、目に見えずらい貢献度は高いのだけど、あまり見せ場を作ってもらえなかったのか、どうにも影が薄い。この後、ふて腐れてバンド活動に消極的になって、結果バンドを活動休止に追い込んだのも、まぁ気持ちはわかる。
後半はモロ『Remain in Right』だけど、リズム中心ではなく、当時よりメロディーが立っている。
9. Road To Nowhere
最初のアカペラ・コーラスから行進曲のようなドラム、まさしくアルバムのフィナーレを飾る名曲である。ちょっとエフェクトをかけたアコーディオンからして、もう楽しげ。Byrneもすっごく楽しそうに歌っている。
4.と並ぶ、このアルバムの要となる曲である。
「普通の楽曲を作りたかった」Talking Headsが、『普通』をコンセプトにアルバムを一枚作った。
セールス的にもトータルで200万枚という、十分及第点な数字だった。
でも、Byrneだけはどこか満足できなかったのか、もっと『普通』を極めたかったのか。通常パターンならプロモーション・ツアーを行なうところだけど、思うところのあったByrne、ツアーはキャンセルし、映画製作に乗り出す。その名も『True Stories』、アメリカのごく『普通』の人々を主人公に、ごく『普通』の生活を淡々と、それに若干のフェイクを加えた作品を作り上げた。
Byrneのスケジュール待ちだった他3人、撮影終了まではヒマを持て余していたのだけれど、サウンドトラックをTalking Headsが担当することになり、再びレコーディングに臨むことになる。バンド側としては当然、この後はツアーに出る気まんまんだったのだけど、Byrneの多忙によって、ツアーは再びキャンセルされる。
その後もライブ一つすら行なわれることなく、結局のところ、それが活動休止→解散の要因となる。
Best of the Talking Heads
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Talking Heads
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Talking Heads
Rhino / Wea (2005-10-04)
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