
マルチ・プレイヤーとしての才能がクローズ・アップされるがあまり、理知的な人だと誤解されがちだけど、案外思いつきだけで突っ走ってしまう人である。着想とインスピレーションが先行して、思い立ったら即実行、あらゆる方面に手を出している(Mac、MIDI音源のみ使用のライブ、完全単独レコーディング、音楽配信etc)。いるのだけれど、そのどれもが中途半端に終わってしまうのは、「これやってみたい!」という初期衝動と実際の技術スキルに大きなズレがあり、そのギャップを埋める前に、大抵飽きて放り投げてしまう、といったパターンが多い。
また別のパターンとして、その先走り感があまりに時代の先を行き過ぎてしまい、当時はエキセントリック過ぎてまともに評価されなかったけど、すっかり本人も忘れた頃になってから再評価の兆しが現われたとしても、本人の興味は別のところへ向いてしまってる、といった次第。
一般的な洋楽リスナーの認知でいくと、「ポップの魔術師」「全能の人」呼ばわりされているのだけど、まぁ要するに変わり者である。それでも類は友を呼ぶのか、世界中において、特に日本でのサブカル経由からの人気は根強い。これまでそれほどビッグ・セールスを記録したわけでもないのに、日本独自企画でのトリビュート・アルバムが制作されるくらいである。意外にしつこくメジャー・シーンに留まっているし、節目節目ごとに大きなプロジェクトに参加要請(Ringo Starr、New Carsなど)されるのだから、実は人付き合いが良く、扱いやすい、しかもここが重要な所だけど、「ギャラも安い」のだろう。
結果的に長く音楽業界に携わっているおかげで、いわゆるギョーカイ人的に顔も人脈も広い。今後も多分大きくブレイクすることはないだろうけど、それこそが、細く長く生きてこれた秘訣なのかもしれない。
Beatlesフォロワー的なビート・グループNazz解散後、Toddはすぐさまソロ活動に移行するのだけれど、これがまたドラマ張りに波乱万丈である。
最初の2枚は(『Runt』『Runt. The Ballad of Todd Rundgren』)プロジェクト名義、新進シンガー・ソングライターとして、堅実で地味なスタートだったのだけど、大して実績もないのに、そこからどうやってレコード会社を説得したのか、いきなり2枚組をリリース(『Something/Anything?』)、しかもABC面は完全宅録レコーディング(しかも、ほぼすべての楽器を独りで担当)、そこまではどうにか気合で乗り切ったけど、D面も同じテンションで埋めることはできず、奥の手として、旧知の仲間を寄せ集め、ダラダラしたジャム・セッションを収録して辻褄を合わせた。今作『A Wizard, A True Star』を挟んで、またまた2枚組(『Todd』)、次にプログレに目覚めたのか、それとも単に作る曲作る曲、ことごとく長くなってしまったのか、ハード・プログレ・ポップ・バンドUtopia(『Todd Rundgren's Utopia』)を結成、その後数年はソロとバンドと並行して活動することになる。
バンドだけにしておけばいいのに、ソロでも次第に曲が長くなり、B面まるまる費やして1曲のアルバム(『Initiation』)を作ったはいいが、当時のアナログ・レコードでは、片面30分以上も収録すれば、当然音質も劣化、しかも変に凝り性のため、やたら音を詰め込んだりコンプレッサーをかけまくったりしたため、さらに音が潰れて聴きづらくなる。
次はカバー曲集を制作しようと、A面をカバー、B面をオリジナル曲というスタイル(『Faithful』)で構成したのだけど、そのA面がまためんどくさい。普通プロ・ミュージシャンがカバーを収録する場合、独自の解釈を入れるなどして、大胆なアレンジでオリジナリティを出すことが一般的だけど、Toddの場合、独自解釈などは微塵も入れず、あくまでリリース当時のオリジナル・サウンドを緻密に再現する、というコンセプトで挑んだ。無駄に当時の音質にこだわるがあまり、マイクや機材まで当時と同じものを取り寄せて使用するという、ほんと無意味なこだわり振り。
地道なライブ活動によって、徐々にではあるけれど、プログレ・バンドとして少しずつ評価を得ていたUtopia、なのに今度はまたまたメンドクサイことに曲が短くなってゆき、しかもそれに連れて音も次第にポップ化、しまいにはNazzの野望再び、とでも思ったのか、それとも単なる思いつきの悪フサゲなのか、Beatlesの丸パクリ曲(確信犯的に、タイトルもコード進行もソレっぽく仕上げている)ばかりで埋め尽くした、まるでRuttlesのようなアルバム(『Deface the Music』)をリリース。
定まらない方向性ゆえ、レコード会社もファンも、そしてTodd自身でさえも、変わり身の多さに振り回され、次第にソロ・バンドともセールスが振るわなくなり(当たり前だ)、どちらの活動もフェード・アウトしてゆく。
Utopiaは遂に解散、ソロ活動も、時々マグレ当たりなポップ・アルバムをリリースするものの、あまりの紆余曲折振り、方向転換振りが凄まじいため、アーティスト・イメージが定まらず、最後っ屁のようにアカペラ・アルバム(『A Cappella』、これも一筋縄ではいかず、ドラムやベース、ギターなど、楽器音をアカペラで表現するという、ただ面白がってるとしか思えないアルバム)をリリース後、レコード会社との契約終了、フリーター生活中の片手間仕事として、細々としたプロデュース業の最中にXTCと合流、そこで高い評価を得たことに自信を持ち、活動再開、という流れ。
ふぅ。
ちょうど札幌へ所用で行き、五番街ビルの2Fにあったタワーレコードにて、Elvis Costelloのベストと一緒に買ったのが、このアルバム。生まれて初めて買った輸入盤の臭い、ビニール・コーティングの上にシュリンクされたジャケットなど、何気に思い入れは深い。
キャリア中、1,2を争う、ジャケット・デザインの悪趣味さを、上から目線で楽しむのもまた一興だろう(もちろん、不動のトップは『Something/Anything?』の日本版ジャケット。異論は受け付ける)。
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1. International Feel
のっけから潰れまくる音の悪さに、まずビックリ。すべての音がコンプされまくって、ダンゴ状になり、それが逆にひとつの混沌を生み出している。「世界的意識」。Toddにとっての世界的意識とは?
2. Never Never Land
1.からメドレーで、世界的意識の探求は続く。今度はロマンチックな美メロ。ホント、このくらいの曲なら、簡単に書けるはずなのに、ついついいろいろ弄って詰め込んだりして、ピントがボケた作りになってしまうのが、この人のいつものパターン。しかし1分強のこの曲ではあまりひねる暇もなく、いい感じに終わる。
3. "Tic Tic Tic, It Wears Off"
まだまだ世界的意識は続く。不思議の国アリス?ブリッジ的なインスト曲だが、そこここに仕掛けは見え隠れしている。
4. You Need Your Head
いきなり潰れまくったディストーションが響き渡る。これもまた、ひとつの世界。暴力的ですらある。引き出しは少ないけど、Toddのロックなギター・プレイはもっと評価されても良い。
5. Rock & Roll Pussy
タイトル通り、ロックらしいコール&レスポンス。
同じく破壊的衝動なのだろうけど、Toddの細い声質からは暴力性はあまり感じられず、むしろ高校デビュー、Nerd的な無理が感じられる。精いっぱいロックを演じているみたい。少なくともこの頃までは。
6. Dogfight Giggle
7. You Don't Have to Camp Around
SE満載の録音遊びのブリッジ後、シンガー・ソングライター的な、どこか古めかしいポップ・バラード。Paul Williamsあたりが歌えばシックリ来そう。
8. Flamingo
シンセ・プリセット単弾き(多分Todd)によるブリッジ。一本指で真剣に演奏しているToddの丸い背中が思い浮かぶ小品。
9. Zen Archer
フランス印象派映画音楽的で、ファンの間でも人気の高い曲。良質なポップスとしては合格点のベタベタなサビが、このアルバムでは逆に異質に映る。ドラマティックな展開、ラス前のSaxが哀愁を漂わせる。
10. Just Another Onionhead/Da Da Dali
一転して、Paul McCartneyが片手間に作ってボツにしたような、ほんの数センチほど惜しいポップ・ナンバー。なにしろタイトルが「タマネギ頭」だもの、真面目に聴くような曲ではない。
11. When the Shit Hits The Fan/Sunset Blvd.
ストレートなアメリカン・ロック・チューン。でも歌うのはToddなので、やっぱりどこか腰の入りの不十分さが感じられる。間奏のどこか間の抜けたシンセ音が,殊更涙なしでは聞けない。
12. Le Feel Internacionale
A面はここまで。世界的意識組曲の締めくくり。あらゆるジャンルの曲調を網羅しているが、果たしてToddの世界は「調和」の方向へ終息したのか?
続きはB面で。
13. Sometimes I Don't Know What to Feel
色々つめこみすぎた分裂的小品メドレーと対比して、B面では起承転結がはっきりして、メロディのフックが効いた曲を集めている。ちょうど『Abbey Road』のA・B面を逆にした構成と思ってもらえればよい。 当時流行していたフィリー・ソウルのフィルターを通して、素直なメロディーを、ごく素直に歌い上げた、素直な逸品。
14. Does Anybody Love You?
ブリッジ的な小品。まぁそれほど意識して聴かなくてもよい。
次のメドレーが、このB面のハイライト。
15. Medley: I'm So Proud/Ooh Baby Baby/La la Means I Love You/Cool Jerk
Toddのアイドル的存在だった、ソウル・ミュージックの超有名曲を集めた傑作メドレー。
David Sanborn(sax)によるオープニングは、質の良いAOR的佇まいさえ感じられる。
俺自身としては、洋楽に足を踏み入れて間もない頃に『A Wizard, A True Star』を聴いたので、当時、これらが有名な曲だとは全然知らなかった。"Ooh Baby Baby"はTodd→Zapp→Miraclesの順に聴いたし、"La la Means I Love You"もTodd→山下達郎→Prince→Delfonicsという、オリジナルが一番最後だった次第。
16. Hungry For Love
ブギウギ・ピアノが心地よい、正統派アメリカン・ロック。
サビの"Gimme So Lovin’"がクセになる、3コード最強と言える曲。やればできる人なのに。
17. I Don't Want To Tie You Down
どことなく夕暮れ時を思わせる、切ないバラード。ファルセットをうまく使っているが、ブリッジ的な扱いのため、曲が2分弱と短い。もっと膨らませれば、代表曲の一つにもなりえたのに。
18. Is It My Name?
ラス前、Utopiaの前哨戦ともいうべきハード・プログレ。やや臭みのあるアメリカン風味が、良い意味で大味となっており、ここが小さくまとまり過ぎるブリティッシュ・プログレとの違い。
音の詰め込み具合、フェーダーの上げ過ぎによって、やはりコンプかかりまくりのサウンド。でも、それがいい感じのハンドメイド・テイストとして作用している。
19. Just One Victory
大団円を迎えるべく、一番ドラマティックな曲をここに持ってきたところに、やはりこの頃からプロデューサー的視点を持っていたことが窺える。ソウルフルを模したヴォーカルと、カウンターのコーラスがベタで泣ける。ドラムはやはり潰れ、歌もどこかヨタってる部分もあるけど、これでいいのだ。
世界的意識は、たった一つの勝利に収束される。
強引なフェード・アウトに埋もれるように弾きまくる、アウトロのギター・ソロも絶品。
いまだにコンスタントにツアーを行ない、そして声をかけられれば客演として他人のツアーに随行し、そしてまた思い出したように、少しひねりの加えたアルバムを作る。
もうそれほど革新的な、世間を驚かせるようなアルバムを作ることはないだろうけど、いまだきちんとステージに立ち、現役感覚を楽しんでいる点においては、Andy Partridgeも見習うべきである。
The Complete Bearsville Album
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