地元ながら、苫小牧市民会館に入ること自体が久し振りだった。
以前行ったのは、息子を連れてのシンケンジャー・ショーだった。これが確か5?6年前。
その前が30年くらい前、高校の芸術鑑賞で映画を見た。何を見たか、内容すら覚えてないけど、この時点ですでにボロかったことは覚えている。
そのまた前が、商店街の購入特典で行った山口百恵のコンサート。確か引退直前だったんだよな、貴重な思い出である。
なので、物心ついてまともなライブをここで見るのは、初めてである。
会場に着いたのが、開場1時間前だったせいもあって、とにかく人・人・人。
しかもやたら年齢層が高い。多分この中じゃ、アラフィフの俺でさえ年少組だ。そして、小学5年生の俺の息子は、恐らく最年少だろう。
そう、今回は山下達郎ファンの息子と一緒だ。しかも、自分から「観たい」と言って。
変わってるよな、自分の息子ながら。
グッズには興味がないので、ほんとは買うつもりなかったけど、やっぱ行ったら行ったで、何かしら欲しくなるもの。
クリアファイルだけ買おうかと、最後尾を探して見ると、巡り巡って行列は3階にまで到達していた。普段だと行列が嫌いな俺だけど、今回は素直に列に並ぶ。息子も「長いけど並ぶ」と言う。
息子よ、どうしてお前はそんなに山下達郎が好きなんだ?別にうちでヘビロテするほど聴かせてたわけじゃないのに。
席は一階の後ろ側ほぼ真ん中、すぐ右前にサウンドボードが設置されている。
収容人数が1600人くらいのハコなので、ステージまでは、ほぼ20メートルくらい。なので、かなり近い。
ステージには、アメリカの古い町並みをイメージしたセットが、両方に設けられている。10人編成のバンドなので、幅はまぁいいとして、機材が所狭しにセッティングされており、奥行きはちょっと足りなそう。
6時を5分ほど過ぎてから、「ポケット・ミュージック」のアカペラ・コーラスがファンファーレとして流され、開演。
客電が落とされて、暗闇の中でメンバーはスタンバイ、軽快なギターのカッティングが鳴り響く。
「Sparkle」だ!
想像以上に音が心地よく響く。
弦一本一本の音がクリアに届き、リズム感もCDそのまんま。ギター・カッティングがめちゃめちゃ上手いことは聞いてたけど、やっぱ本当だったんだ。
今になってこんな風に書いてるけど、それよりも何よりも、湧き出てきた想いはただひとつ。
-やっと逢えた。
ここで俺、号泣。
50近くになってボロボロ泣いちゃうだなんて、ちょっとは想定してたけど、ここまで本能的に揺さぶられるとは思ってなかった。
30年と少し前、大滝詠一経由で興味を持ってから『Melodies』を購入、その後も付かず離れずラジオを聴き続けアルバムを聴き続けて云々。まさかこんな近場に来てくれるだなんて思ってもなく、このチャンスを逃したらもう逢えないかもしれないし、競争率も高いだろうけど、祈るような想いで申込みしたら、なんと当たってしまって息子も大喜び…。
積年の想いが、走馬灯のようにダーッとフル回転、感極まって涙が止まらない。息子が横にいるけれど、もう構ってられない。
ごめん、ここからは俺の時間だ、お前は勝手にやっててくれ。
普通のライブなら、開演と同時に総立ちになるのがセオリーだけど、ここまでのキラー・チューンであるにもかかわらず、ほぼ誰も立ち上がる気配がない。サウンドボード前に座る女性グループが、一瞬ノリノリで立ち上がっていたけど、周囲の醒めた視線を感じたのか、すぐ着席していた。
俺も腰が浮きかけたのだけど、よかった立たなくて。そういったのを強制するムードではないのだ。
観客もプレイヤーも年齢層が高めということもあって、2、3曲歌うごとにMCが入る。トークと歌のギャップが大きいとは聞いてたけど、確かにそう、いつものラジオと同じ口調だ。
曲だけ聴いてると、「妥協なき完璧主義」といったアーティスト・イメージだけど、ちょっと口をひらけば、もう単なる喋り好きな近所のオッさん。ツアーも終盤だけあって、起承転結もしっかりしてるし、きちんとオチだって用意してる。
自他共に認める大御所なんだから、そこまでサービス精神旺盛にしなくたっていいはずなのに、歌うのと同じくらいの熱量を使い、観客を沸かせ、時に時事問題も交えながらシリアスに語ったり、緩急をしっかりつけている。時々、寄る年波をネタにした、自虐的なギャグも入れたりしながら。
しっかり練られて熟成されたトークに引き込まれ、序盤の号泣が落ち着く俺。MAXに振り切れたテンションが、ここでクールダウン、まるでジジイの井戸端会議に紛れ込んだような錯覚に陥る。
そう、いつもの日曜の午後2時、あの気分だ。
次に背中がゾワっとしたのは、「ドーナツ・ソング」から始まるメドレーだった。
ほんのワンフレーズだけどフィーチャーされた、「ハンド・クラッピング・ルンバ」。
山下達郎と大滝詠一のファンは、結構な割合でカブってるはずで、特に年季の入ったオールド・ファンにとっては、嬉しいプレゼントだった。
ここで俺、ちょっとだけ目が潤む。
ちょっと飛ぶけど、その後の「いかすぜ!この恋」にも、脊髄が反射した。
10代から聴いてるんだもの、意識しなくても、体が反応してしまう。
COME ALONG 3
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山下達郎
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順不同だけど、印象に残ったMCの内容を少しだけ。ネタバレなので、そこはご容赦。
* 80年代から90年代にかけては、レコーディング作業に専念することが多かったため、ほとんどライブ活動は行なっていなかった。そういった事情もあって、この時期の楽曲はほとんどライブで披露されたことがない。2008年からライブ活動を再開したのは、ニュー・アルバムのプロモーションといった通常ルーティンではなく、こういった楽曲を再演したいという想いから。
* 今後も、声が出る限りは毎年、ツアーは行なうつもり。「残された時間が少ない」というのは、60を過ぎると、誰しも思うことなのだろう。
前回のツアーで、喉の不調から一部延期になったトラブルがあってからは、その想いはさらに強まったんじゃないかと思われる。
* 今回のツアーの目標のひとつとして、アンコールを除いて、ライブ本編3時間以内で収めようと思い立ってスタートしたけど、ここまでで残り4本、時間内に収められたことは一回もない!と自虐的に語る。観客、ここで爆笑。
ファンとしては心情的には嬉しいんだけど、観る方もやる方も年齢層が高いせいもあって、キツイよな確かに。「トイレ休憩入れた方がいいんじゃないか」はギャグに思えなかったし。
* ほんとはツアー前にミニ・アルバムを出す予定もあったけど、案外映画の主題歌に時間を取られてしまい、断念。並行して制作予定だった『Pocket Music』30周年にも手をつけられなかったので、来年、『僕の中の少年』30周年と併せてリリースしようかと思っている。また、シングル楽曲が溜まってきたので、オリジナル・アルバムも作る予定。
-いやいや詰め込み過ぎだって。
ちょっと重めなMCを前置きとした、今になって時代が追いつきつつある「War Song」。改めて聴くと、包括的な一般論じゃなく、諦念を絡めた個の感情が、時代にフィットしている。
アカペラ・コーナーは、敢えて直球勝負の「So Much in Love」 ~ 「Stand by Me」のカバー、を挟んでの「クリスマス・イブ」。
正直、会場内はとても暑い。老朽化した建物ゆえ、まともな冷房設備がない。
MCが入るたび、ペットボトルを口にする俺と息子。山下自身、「ここは暑い」って嘆いてるくらいだもの。そんな汗だくの中での「クリスマス・イブ」。凝ったプロジェクション・マッピングまで使ってるのに、ある意味シュールだ。
その後の「蒼氓」メドレー、山下にとって、これもある意味、同世代へ向けてのプロテスト・ソングだったのかな。60年代の楽曲がいろいろフィーチャーされている。たしか「Summertime Blues」も入ってたかな?
しっとり落ち着いた「Get Back in Love」に続き、「メリー・ゴー・ラウンド」。ここ数年、レアグルーヴ経由で、初期のダンス/ファンク路線を再発見した俺が、最も心待ちにしていたナンバーだ。
近年のアーバンなバラード路線も悪かないけど、こういったズッシリ重いファンク・チューンこそ、強力なバンド・アンサンブルを楽しめる。各メンバーの見せ場も大きくフィーチャーされ、プレイする方も観る方もテンションがガーッと上がる。
そして、メチャメチャ楽しそうにリズムを刻む、バンマス山下。
「あんまり合わなそうだけど、敢えてやってみた」というエクスキューズを入れての「ハイティーン・ブギ」から、アンコールはスタート。
ゴメン、ミスマッチでちょっと笑ってしまった。クライアントのキャラクターに合わせて作られてるので、30年以上経ってから、まさか自分が歌うだなんて思ってなかったんだって。
ネタ見せが終わった後は仕切り直し、「Ride on Time」~「Down Town」とキラー・チューンで畳みかけて観客を悶絶させる。おいおいヒット曲ばっかりじゃないの、そこまで大盤振る舞いしちゃうのかよ。
メンバー全員によるご挨拶も終えて、最後に独りステージに立つ山下。3時間半に及ぶライブをやり切り、ご満悦だ。
最後の最後、アカペラで「Your Eyes」をワンコーラスでほんとの終了。どこまでサービス精神旺盛なんだ。
ちょっとだけワガママ。
俺的には「Paper Doll」や「Bomber」も聴きたかったな。息子は「街物語」と「エンドレス・ゲーム」が聴きたかったんだって。
やっぱ次回も参戦しななきゃな。
でも息子よ、もう寝る時間だぞ。
セットリストはこちらから。↓
http://dailysetlist.net/archives/74592
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