今ではすっかりフェスの常連、エビ中から上原ひろみまで、あらゆるジャンルから引っ張りだこの池ちゃんこと、池田貴史の個人プロジェクト「レキシ」として、2012年リリース3枚目のアルバム。3年前といえば、まだそこまで知名度のなかった頃、オリコン最高20位というのが、高いのか低いのかは微妙なところだけど、CDの売れない昨今としては、まぁ健闘した方じゃないかと思う。
多分契約上の問題もあると思うけど、斉藤和義やサンボマスターという豪華ゲスト参加にもかかわらず、プロモーションとうまく連動できなかったことも、一つの要因だと思われる。当時シングルがバカ売れしていた斉藤和義のネーム・バリューを利用できなかったのは、ちょっと惜しかった。
このアルバムは一応エイベックスからリリースされており、世間的には一応メジャーなのだけど、実際エイベックスが行なっていたのは流通だけ、グループ内の半インディーズ扱いのレーベルからのリリースだったため、全社的な割合から考えて、それほど強くプッシュはされてなかったんじゃないかと思われる。
会社のメインはやっぱりEXILEグループであり、どう逆立ちしたってそれ以上のセールスは見込めないけど、「ま、こんなアーティストだって、いてもいいでしょ」的な、「取りあえずウチの流通ルート使わせてあげるけど、宣伝は自分でやってね」という扱い。基本、エイベックスの力は借りられず、ほぼDIY的に自分たちで仕切らなきゃならなかった事情を加味すると、このセールスはそこそこイケてたんじゃないかと思う。
以前のレビューにも書いたのだけど、自意識の塊のような人間ばかりが跋扈する音楽業界にいるくせに、ミュージシャンとしては珍しいくらい、アーティスト・エゴの少ない人である。
自分がメインのアルバムだというのに、ヴォーカルはほぼゲスト任せ、演奏もほんのちょっぴりソロを聴かせるだけ、単なるコーラス参加というトラックも珍しくない。全体を仕切るコンポーザー的立場で考えれば、バランス的にその方がいいという判断なのだろうけど、ここまでゲストを立てることができるのは、よほど人間ができているのか、それともコンセプトとゲストを決めた時点で満足しきっちゃってるのか。
ゲストはすべて池ちゃんより、または勝手に自分で考えた「レキシ・ネーム」を名乗り、いつもとはちょっと違う自分のプレイを心底から、または自虐的に楽しんでいる。「なんとなく面白そう」と思って顔を出した誰もが、池ちゃん以上にこの遊べる空間を満喫している。
斉藤和義だって椎名林檎だって、ソロの時とは違い、キチンとレキシのコンセプトに則ったパフォーマンスを展開している。そういった縛りをむしろ楽しみ、このふざけたレキシ・ネームを演じきる自分がたまらなく愛おしいのだ。
それぞれクセの強いアーティストをひとつにまとめ、自由に遊ばせる場、そして自分自身も精いっぱいのびのび遊べる空間を作って、いかに楽しめるか。
ただのダラダラしたセッションではない。それはアーティスト同士が本気でやり合う真剣勝負なのだ。
と言いきっちゃえばすごくカッコイイのだけど、このレキシのライブ、今の日本のアーティストの中では一、二を争うくらい、そりゃもう好き放題にダラダラである。
まずとにかく、一曲が長い。通常のライブでも10曲あればいい方で、フェス出演となると、せいぜい2、3曲がいいところ。曲間にくっだらないMCを挟んで、客イジリを長々と行なったりイジられたり、バンド・メンバー紹介に合わせて、これもイジッたりイジられたり。思いつきで他人の曲の一節ををチョロッと入れたり、まぁやりたい放題である。フェス慣れしてる人ならまだしも、かっちり構成を組んだライブしか経験のない人なら、ちょっと着いていけないんじゃないかと、こちらが心配してしまう。
ただ思い返してほしいのだけど、ライブ・パフォーマンスというのは、もともとそういった偶発性を楽しむものだったはず。きっちり整備されたセット・リスト、会場使用時間に合わせて管理された演奏時間やアドリブというのは、本来のライブの意義からは大きく外れたものなのだ。
今ではTwitterやFacebookにて、前日のセット・リストやアンコール曲、バンドのコンディションなんかも事前情報として入手することが容易となり、予習も万全の態勢で当日ライブに臨むことも当たり前になったけど、ネット以前は情報が少ないため、当日まで何を演奏するかすら分からなかった。新曲なんてやられた日には、サプライズ演出の一環で嬉しく思う反面、ノリが分からなくて微妙な反応になってしまったりで、まさしくライブ感覚にあふれていたのだ。
そういった点でいえば、レキシのライブは予測がつかないため、すっごく強引な共通点を見つけるとしたら、今でも好き勝手なセット・リスト、オリジナルと全然違うアレンジでライブに挑むBob Dylanに通ずるものがある。
と書いたのだけど、やっぱ強引だな、ちょっと。
と書いたのだけど、やっぱ強引だな、ちょっと。
1. 大奥~ラビリンス~ feat.シャカッチ
スーパー・バター・ドッグ時代からの盟友永積タカシことハナレグミとのトラック。最近ではCMやナレーションの仕事も多く、「名前は知らないけど、TVで声は聞いたことがある人ランキング」の筆頭とも言える。
ディスコ黄金時代のEW&Fを連想させる煌びやかなサウンドは、往年を知る50代前後のオールド・ファンの腰を振らせ、おぼつかないステップを踏ませた。
スウィングするホーン・セクション、実は正統どファンク・リズム・セクションと、完璧なサウンド・プロダクション。それでいてテーマは大奥という、なんてミスマッチなマッチング。
2. 姫君Shake! feat.齋藤摩羅衛門
今じゃすっかりライブの定番ナンバーとなっている、アルバム・ヴァージョンで歌うは斉藤和義。作詞作曲アレンジはレキシのはずなのに、すっかり斉藤和義の持ち歌っぽく仕上がっているのは、なんとも不思議。
疾走感あふれるロック・ナンバーは、ライブでも盛り上がること間違いなし、ファンの間でも人気は高い。
それよりも何よりも、注目すべきはPV。姫君に扮したレキシの艶姿といったら、そりゃあもう(笑)。
3. 武士ワンダーランド feat.カブキちゃん
こちらもライブで盛り上がるキラー・チューンで、歌うはSalyu。もちろん”Boogie Wonderland”のパクリなのだけど、元ネタがわからなくても充分楽しめる。この曲も、ライブだと長いんだこれが。アルバムではコンパクトにまとめられてるけど、平気で10分超えする場合もあり。
「武士だって食わねど高楊枝」が俺のお気に入りフレーズ。それと特に間奏、バンド・アンサンブルに関してはこれが一番好き。
4. ハニワニハ
前半3曲は江戸時代中心だったけど、ここで時代は一気に弥生時代(?)にタイム・スリップ。アフロ・ビートに乗せた、ちょっと懐かしい感じのするナンバー。
しかし池ちゃん、一口に日本史と言ってるけど、守備範囲が広い。普通歴史マニアの場合、幕末専門とか戦国時代専門という感じで、結構厳密にカテゴリー分けされているはずなのに、ほぼ全方位をカバーしている。
興味の強弱はそりゃあるだろうけど、どの年代においてもそこそこのアベレージは超えている。
5. 恋に落ち武者 feat.足軽先生
ご存じデビュー・アルバムから皆勤賞で参加のいとうせいこう登場。
意外かもしれないけどいとうせいこう、黎明期の日本語ラップ・シーンを支え、そしてメジャー展開に多大な貢献をした一人。いわゆるギャングスタ・ラップではなく、ワシントンのゴーゴー・シーンから派生したテクニカル・ラップを日本に加工輸入して持ち込み、今のスチャダラ系に繋がる系譜を創りあげた、実はちょっとすごい人。
そんな実はすごい人でありながら、ここでは足軽なのか先生なのか、何か良くわからない立場で参加している。国木田独歩をライムに乗せるなんて発想は、この人くらいしかいないんじゃないかと思う。
6. 古墳へGO!
導入部がちょっと『ソウル・トレイン』っぽい、70年代ファンク・ディスコの香りがプンプンする、それでいて妙に爽やかなAORのテイストも感じさせる、でも内容は「彼女を古墳デートに誘ってみたいなぁ」という、何とも脱力するギャップを感じさせるナンバー。無駄にさわやかで無駄にドライビング仕様のサウンドは、池ちゃんのひねった批評性を感じさせる。
7. 甘えん坊将軍
ただ『甘えんぼ将軍』って言ってみたかっただけと思われる、こちらもサビのリフレイン以外のメロディは妙にさわやかに作られている、でも中身は甘えんぼ。取りあえず思いつきでタイトルを連呼してみて、なんとなくリズムだけ決めてセッションしてみて、そしたらいつの間にかできあがっちゃいました、的ナンバー。
内容はほとんどないながらも、サウンド作りはきっちり真面目に行なってみた、ある意味レキシのコンセプトにしっかり則ったナンバーでもある。
8. 君がいない幕府 feat. お台所さま
メインを務めるのは、Hicksvilleの真城めぐみ、一時期「めちゃイケ」のED”バイバイ・ブルース”を歌ってた人、と言えば知ってる人も多いはず。そのダイナミックな体型から発せられるヴォーカルは、思ったほど強烈ではなく、むしろしなやかさ柔らかささえ感じさせる。昔聴いた時はもっと前に前に出て、という感じだったのだけど、年齢を経たせいかい、いい感じでまろやかに熟成されている。
そんなバックで池ちゃん、きついエフェクトの奥から、『桜田門外の変を目撃した福井弁のキツイ越前藩士』というややこしい役どころでインタビューに応じているのだけど、これが聞き取りづらい。まぁ真剣に聴くものじゃないから、これはこれでいいのだろう。主役はすっかりお台所さまに譲ってしまっている。
9. LOVE弁慶
ちょっと前の斉藤和義が歌いそうなサウンドの中で歌われるのは、武蔵坊弁慶が現われるのを待ちわびる牛若丸。その佇まいは恋い焦がれた乙女のようにも映る。って、映るわけねぇじゃん。
もちろん充分リスペクトした上なのだけど、でもやっぱおちょくってる。
10. 墾田永年私財法 feat.田ンボマスター
ラストはサンボマスターの山口隆。こんなオイシイ曲をゲストに譲ってしまうところに、案外コンセプトありきで真剣に楽曲と向き合う池ちゃんの真摯な姿が窺える。
あまりに曲調がモロ”Knockin’ on Heaven’s Door”、それでいて歌詞が墾田永年私財法なので、最初iphoneで聴いた時、道端で大爆笑してしまった俺。山口もまた、自分の曲よりも丁寧に真面目に歌ってる分だけ、おかしさがより引き立ってしまう。
レキシ
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