好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

バービーボーイズ

「この5人が集まればバービーになる」。 - バービーボーイズ 『MasterBee』

folder まさかまさかの30年越し、ほんの数年前までは誰も予想していなかった、バービーボーイズ、フル・ラインナップでのオリジナル・アルバム。大抵の再結成バンドが、満を辞してのアルバム・リリースしたはいいけど、セールス的に大爆死しちゃうこのご時世、なかなかの英断である。
 ほぼ全員が「再結成なんてダセェ」と言い放ってしまう人たちなので、パーマネントな再結成はあり得ないと思っていた。フェスや企画での期間限定・ワンショットの再結成はあったけど、だらだら長く続けるのは、彼らの美学に反するんじゃないか、と。
 そんな風に思っていたのは周囲やファンだけであって、当の本人たちはといえば、すでにそんな段階を越えて達観していた。走り続けていたキャリアもひと段落つき、一周回って「かたくなに拒否るのも、逆にカッコ悪くね?」といった心境にたどり着いたのだろう。
 ただみんなそれぞれ、今は自分のキャリアがあり、置かれている環境も違っている。なので、メンバーそれぞれのソロ活動を優先し、全員のモチベーションが高まった頃合いを見てスケジュール調整、短期集中型の活動スタイルとなっている。
 こういった活動形式は、近年の再結成バンド、例えば米米やユニコーンにも共通している。レコード会社主導によるリリース・スケジュールやツアー日程に縛られず、ゆるい連携をとりながら、長いスパンでマイペースに活動することが、良い結果を生んでいる。
 かつてのように、ヒットチャートを席巻するようなセールスはもう見込めないけど、80年代に活動していたバンド/アーティストは、単純にファン人口も多いため、そこそこの売り上げを確保することができる。コア・ユーザーがアラフィフということもあって、ライブでの物販単価や関連グッズ価格も、若手バンドよりも少し高めに設定できる。
 よほど欲の皮を突っ張らせない限り、古参ファンは簡単には離れない。ただ、そのポジションにたどり着くまでには、地道な努力が必要となる。
 そう考えると、そんなシステムの先駆者となった浜省って、すごいよな。まぁ長いスパンでの活動ペースを続けるため、結果的にこうなっちゃった的な部分はあるけど。

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 後になって、メンバーそれぞれが語っているように、バービーの解散劇は外部的な要因が多くを占めており、深刻な内部分裂が起因ではない。そりゃ始終顔を合わせていたわけだから、多少の衝突は出てくるのは致し方ないけど、そんな内輪の小競り合いが解散に直結したわけではない。
 もともと学校などのコミュニティの延長線上で結成されたバンドではなく、基本的には互いの人格を尊重しつつ、ほどほどの距離感を保つ関係性が、バンド内では終始保たれていた。
 プライベートも常に一緒というわけではなかったため、ドライな距離感という見方もできるけど、そこまでビジネスライクに徹していたわけではない。顔を合わせれば、言葉が少なくても意思疎通はできるし、多愛ないバカ話だってできる、そんなほどほど具合が、バンド内の均衡を保っていた。
 いたのだけれど、知名度もセールスものぼり調子で忙しくなると、それが逆に仇となる。関係者やらブレーンやら取り巻きやら事情通、何やら正体不明の輩がわらわら集い、5人のバンドは5人じゃなくなってくる。
 イマサが何をして杏子が何を考えているのか、コンタがそれを知るには、何人もの人を介さなければならない。ブレイクしたバンドは、そんな風に大プロジェクト化してゆく。
 それが続くと、次第に誰が何をどうしようが気にならなくなる。互いが互いへの関心を持たなくなり、バンドである必然性はフェードアウトしてゆく。
 そして、ジ・エンド―。
 プロジェクトは解体し、みな「元・バービー」という肩書きの個人に戻った。時々横目で互いをチラ見しながら、彼らはそれぞれ自分なりに、バービー「じゃない」ことを始めた。
 過去の栄光は、決して恥じるものではなかったけど、それに執着したり利用するには、みんなまだ若かった。「じゃない」キャリアを築く時間はたっぷりあった。

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 それぞれが時間をかけて、自分なりに納得のゆくキャリアを築いていった。そりゃ紆余曲折や妥協する場面もあっただろうけど、自分にもかつてのメンバーたちにも、誇れるポジションを作ることはできた。
 -ここまでで、ほぼ四半世紀。それくらいの歳月が必要だったのだ。
 再び、互いのキャリアを尊重できるようになり、メンバーと接する時間も少しずつ増えていった。
 かつてのように、ほどほどに。ただ前よりも、相手の気持ちを慮って。
 リハーサルで顔を合わせ、音を出した瞬間から、それまでの空白はすぐに埋まった。仲違いで袂をわかったわけではないので、距離はグッと近くなった。
 ただ、かつて何度も繰り返し演奏してきたし、感覚も戻ってきたはずなのに、アラフィフの身体は思うように動かなかった。かつての声やプレイはあの時代のもので、同じような音を出す方が、そもそも無理ゲーだったのだ。
 リハを重ねるにつれ、「別に過去の自分達のコピーをやる必要ないんじゃね?」という結論に行き着いた。酸いも甘いも噛み分けた、熟成された俺たちの今のプレイを見せる方が、ファンにとってはむしろ誠実なのでは―。
 まぁ、物は言いようだ。でも、変な気負いが抜けたことで、アンサンブルはまとまりを見せ始め、結局、かつてと同じクオリティを取り戻すことができた。何だそりゃ。
 アイドリングを兼ねたテレビ企画やフェスで存在を小出しにし、オーディエンスの反応をつぶさに観察した。5人で出す音に自信はあったけど、果たして21世紀のミュージック・シーンにおいて、そんなニーズがあるのかどうか。
 一過性の懐メロバンドとしてなら、そこそこの需要はありそうだけど、現役バンドとしてのニーズとしては、はたして。

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 多少の不安はあったけど、どうにかいくつかのライブを乗り切ることができた。最初っからレコーディング前提で話を進めるのではなく、客前で音を出すことから始めたのが、結果オーライとなった。やはり彼らはライブが身上のバンドなのだ。
 手応えを感じたことで、事は徐々に動き始める。ファンのニーズやマーケティングなど、そんなのは小さいこと。
 要は、「俺たちが、やりたいか・やりたくないか」。
 「結果がどう」とかより、まず、やってみっか。
 そんなこんなでバービー再結成が本決まりとなり、関係各所への調整やら根回しやら、段取りが進められた。事務所はバラバラだし、それぞれ断れない仕事があったりで、周辺スタッフの苦労といったら計り知れないものがあったと想像できる。
 往年のバンドのリユニオンといえば、なにかと大規模なプロジェクトになりがちである。当事者の預かり知らぬうちに、あれよあれよと事が進められがちなのだけど、バービー再結成は、極めてコンパクトな形で進められた。
 最低限必要なスタッフのフォロー以外は、ほぼ5人で進めていった。とはいっても、事務折衝のほとんどは、現役を退いてオーガスタの社長業に勤しんでいたコイソに丸投げされていたと思われるけど。 
 まぁ他の4人が、「そんなめんどくせぇ」ことに首突っ込むはずもないし。ただ、様々な収受選択は、5人の総意で進めていったことは確かである。

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 ほとんどのメンバーが大きなブランクもなく、ほぼ現役で活動していたこともあって、最初のヴァージョン『PlanBee』は現場感覚の強い音で構成されている。リリース時のインタビューを読むと、レコーディングにあたって、「ほぼ40年ぶりにイマサとコンタが合宿してみたはいいけど、やっぱみんな揃って音出した方がいいや」ってことで段取りが変わったり、「なんか知らないけど、5人で音出したら何となく合っちゃう」など、エピソードのひとつひとつがいちいち面白い。


 まぁみんな腐れ縁というか、互いが互いを好きで仕方ないんだろうな。で、そんな破天荒で野放図なオッサン男子たちを、時々たしなめる杏子の立ち位置だったり、往年のファンとしては、そんなシチュエーションが想像できたりして、いちいち面白くてしょうがない。
 冒頭でも書いたように、今どき再結成バンドが新譜を出すのは、なかなかの英断もしくは暴挙である。あれだけ盛り上がったプリプリ再結成も、頑なに新音源には手を出さなかった。X JAPANなんて、「出す出す」って言いながら、ずいぶん前にタイミングを逸してしまって、多分もう「なかったこと」にされてるのかな。それくらい、再結成バンドの新録音源はリスキーなのだ。
 あぁ、それなのに。バービーは「やりたかったから」の一念で作ってしまった。それでも、当初はこっそり配信のみでリリースする予定だったのだけど、何やらおだてられたり持ち上げられたりして、アナログ盤『PlayBee』は作っちゃうわ、曲追加してCD『MasterBee』まで作っちゃうわ。
 で、その『MasterBee』の追加曲というのが、今年1月に行なわれた代々木ライブの特典として、入場者全員に配ったCD音源という大盤振る舞いというか破天荒ぶり。ライブのCDって、プリンスも同じことやってたよな。まぁ、あれはメジャー・レーベルへの嫌がらせみたいなものだけど。
 で、今のところ、バービー本体の活動はお休み、めいめいのソロ活動中といったところ。具体的な活動再開はいまのところなさそうだけど、とりあえず解散することはなさそうなので、また気長に待とう。
 「2度も解散するなんて、再結成よりダセェよな」。
 多分、そんな風に言い放つ人たちだし。




1. ぼくらのバックナンバー
 豪快なザックリしたリフがリードする、バービーらしいオープニング・ナンバー。歌詞で描かれる男女の距離感や関係性も、30年の時空を超えて、そのまんま。
 ライブ映えするアッパーなテンポは、強引に往年のファンらを総立ちにさせ、若いファンも惹きつける魅力を発散している。「イヤ30年ぶりにここまでできるとは」と思ってしまうのは、まだ早い。この後も、スゴいナンバーが目白押しだから。

2. 無敵のヴァレリー
 先行シングルを1.と争った末、「青臭いかもしれない」「若者ぶってると思われるのはいやだ」というメンバーの意向を汲んで、結局これになった。俺的にはどっちもアリだけど、「ぼくらの」で始まるのが、さすがに気恥ずかしかったのかね。やはりそこは、最低限の分別は持った大人の主張である。
 奔放な街の女王:ヴァレリーに振り回され、翻弄される男どもとの対比は、考えてみればあまりなかった関係性。自由を愛する女性は成長し歳を取り、ここで母性を獲得するに至った。所詮、男たちはいつまで経っても、17歳のまんまなのだ。



3. CRAZY BLUE
 原型は10年前のライブで発表済だったらしく、厳密に言えばリメイク・ヴァージョンということになるらしい。ギターのパターンがちょっと古めで懐かし気で、現役当時の未発表曲と言われても、なんか信じてしまいそう。
 ソプラノ・サックスが大きくフィーチャーされており、昔はもっと綺麗な音色や旋律を意識していたと思うのだけど、ここではアンサンブルに引っ張られて、アバウトだけどガッツのある響きになっている。これも成長なんだな。

4. カリビアンライフ
 曲調自体は抒情的な、生活感があってほのぼのしたカントリー・ロックなのだけど、イマサ自身が歌っており、ヴォーカリストとはまた違った味が出ている。言葉遊びや言い回しが従来のバービーっぽさじゃない曲調・テーマなので、自分で歌ったのかね。
 レコーディング・スケジュール完了し、撤収する日の朝、突然イマサが「昨日曲ができた」とスタジオに入り、ほぼ仮歌同然だったけど、結局ノリで仕上げてしまった、というエピソードがある。そういった行き当たりばったり感が通用するのも、メンバーの意思疎通が捗っていた、ということなのだろう。

5. あいさつはいつでも
 初出は1986年リリース『3rd Break』のカセット版のみに収録、34年を経てのセルフ・カバーということになるけど、リズムが立ってること以外はほぼ完コピ。
 確かに勢いはこっちの方があるんだけど、わざわざ収録した理由はちょっと不明。ライブ用に跳ねてる曲を選んだんだろうけど、まぁやりたかったんだろうね。細けぇことはいいじゃん。

6. 翔んでみせろ
 最初期からライブの定番曲だったため、スタジオ・レコーディングする機会を今まで逸してきて、やっと収録の運びとなった。スタジオ用にアレンジするにも、あまりにできあがり過ぎてていじることもできず、かといってストレートに演っちゃうのもどうか…、と若き日のイマサが躊躇していたらしい。若いうちは、何かとメンドクサイことを考えたりする。
 そうやって一周回って、音を出した瞬間から、「これでイイじゃん」となって、結局まんまになっちゃった、という経緯。コンタの「翔んでみせろぉー!!!」のかけ声一発で、メンバー含め会場全員のアドレナリンが全開となってしまう、絵に描いたようなパワー・チューン。こういった曲がひとつふたつあると、ライブ・バンドとしては使い勝手が良い。



7. まかせてTonight
 バッキングは相変わらずの豪快さなのだけど、メロディがすごくメロウなパワー・ポップ。2人のユニゾンも懐かしいテイストだし、コール&レスポンスのタイミングも完璧。
 こういったのって、すごく考え抜いて練り上げたものじゃなくて、チャチャっと合わせられちゃうんだろうな。「まかせてTonight」ってフレーズが、もうアラフィフ世代にとっては、心のどこかがキュンとなってしまう。
 …書いててちょっと恥ずかしいけど、いいんだよっ80年代をリアルタイムで通過してきたアラフィフ世代の特権だこういう世界観は。

8. キッズアーオーライ
 ラストは「カリビアンライフ」のコンタ・ヴォーカル・ヴァージョン。リズム隊が入ったことで、イマサのヴァージョンより、もうちょっと作り込んでいる。ただザックリした不器用な少年っぽさは残しているので、どっちの優劣とかはない。
 もうみんな還暦近いんだけど、中身は17歳だもの。育ってきた環境や聴いてきた音楽も近いので、そりゃテイストは似てくるわな。






80年代ソニー・アーティスト列伝 その11 - バービーボーイズ 『Freebee』

Folder 比較的、王道スタンダードな方針のCBSに対し、80年代のエピック・ソニーは、その幅広いアーティスト・ラインナップから、恐ろしく懐の深い企業であったことで知られている。ほぼ同時代に、佐野元春とラッツ&スターと一風堂とモッズとが、同じレーベルでひとくくりにされていたのだから、考えてみればポリシーのない組み合わせだよな、これって。
 当時のレコード会社のディレクターは、一応会社員ではあるけれど、それぞれが独立した独り親方のようなものだった。それぞれ、自分の好みと感性に合ったアーティストを探し出し、それぞれ独自の戦略やコネクションで営業戦略を立ててこそ、一人前とされていた。特に、レコード会社としては新興だったソニーは社員の平均年齢も若く、業界の慣例やしきたりに縛られることも少なかったため、何かにつけしがらみの多い老舗では、思いもつかない手法を次々と編み出していた。
 それまで他社があまり力を入れてなかったビジュアル面の充実を図るため、若手カメラマンやスタイリストを積極的に起用して、スタイリッシュなグラビアやPVに予算を割いたのは、ソニーが最初である。それだけならまだしも、そのグラビアを広く世に広めるため、雑誌まで作ってしまったところに、80年代ソニーの凄さがある。宣伝媒体のインフラまで整備しちゃうのは、なかなかの大ばくちだよな。でも売れてたんだよ、パチパチ。

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 そんな風に、何でもかんでもスタイリッシュに染め上げてしまうソニー・メソッドにうまくフィットしたのが、バービーボーイズである。
 ロック・バンド特有の泥くささを感じさせない男女ツイン・ヴォーカルと、スタイリッシュなバンドマンの理想像だったギタリスト、エキゾチックなラテン系風貌のベース、ドラムは…、この人だけは普通だったかな。
 ビジュアル映えする個性的なルックスの集合体は、新進気鋭の映像ディレクターやカメラマンにとって絶好の素材であり、バービーの登場は、従来の汗くさいロック・バンドのイメージをガラッと変えた。
 ギターのいまみちともたかは、番長タイプとは真逆の知性派不良のイコンとしてカテゴライズしやすく、当時の少年漫画のモデルとしてよく使用されていた。コンタの首から下げたソプラノ・サックス、フレアスカートをはためかせながら激しく踊る杏子など、記号化しやすいキャラクターは、個性派がそろうソニー系アーティストの中でも群を抜いており、早いうちからビジュアルの認知度は高かった。

 近年も、RGと鬼奴のモノマネによって、リアルタイムでは知らない世代への認知度も高まっている。もともとアラフォー以上の年代からの支持は高値安定しており、アンチの少ないバンドである。
 ただバービー、いわゆるロックの歴史の流れにおいては、相当軽んじられた存在である。決して本流ではなく、常に傍流を走ってきた彼ら、通常のロック・バンドのフォーマットからは、ことごとく逸脱した存在である。
 シングル・ヒットも多いため、その逸脱加減は見えづらいけど、姿勢としてはかなりプログレッシブである。
 日本人には馴染みの深いマイナー・メロディと、U2やPoliceをルーツとしたUKギター・ロックのバタ臭いサウンド、コンタが高音を歌い、杏子は低音パートという前代未聞のヴォーカル、ハイポジションでやたら手数の多いベース、ドラムは…、まぁ堅実だよな。しかも、ギターというリード楽器があるにもかかわらず、さらにソプラノ・サックスまでぶち込んでしまうごった煮感。
 本来ならうまく混じり合わず、やたらテンションだけが高いフリーフォームになってしまうところが、いや実際にバラバラなのだけど、「普通のロックに収まりたくねぇ」という想いによってベクトルがひとつになって、何だかいつの間にまとまってしまう、という摩訶不思議さ。
 こうやって文章にすると、何だか支離滅裂なサウンドを連想してしまうけど、そんな力技感が感じられないのは、メンバーそれぞれの技術的ポテンシャルの高さ、そしてリーダーいまみちのプロデュース能力に拠るところが大きい。

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 ビジュアル的にも十分キャラ立ちしてるしUKニューウェイヴの加工輸入サウンド+深いリヴァーブのギターは独自性が強かったし、「ふしだら」「よこしま」「悪徳」など、Jポップではあまり使われないけど英語的な語感の言葉に光を当てて新たな価値観を生み出したり、アーティストとしてのバービー=いまみちの功績は大きい。
 一歩間違えれば、斜め上のイタいサブカル・バンドで終わっちゃってたはずなのに、奇跡的なキャラクター・バランスの均衡と、80年代イケイケだったソニー戦略とうまくフィットしたことによって、後世まで語り継がれ愛されるバンドとなった。
 でも、時代を先導してたわけじゃないんだよな。あくまで脇道を独り全力疾走してた感が強いのが、バービーの特異性である。

 GS~はっぴいえんどをルーツとした「正調」ロックの歴史と、アングラ~ニューウェイヴから連なる「裏街道」ロックの歴史という2本の縦軸があったとして、その時系列とは違うベクトルで活動してきたのが、バービーである。ていうか、80年代ソニーそのものが独自の時系列を形成していたこともあって、一般的なロックのルーティンとは微妙にずれたアーティストの多いこと。米米や爆風スランプだって、ソニーがなかったら決して表に出てこれなかった連中だ。逆に言えば、一般的なロックのフォーマットとは距離を置いてきたこと、その距離感こそが彼らの確固たるオリジナリティの形成に役立ったとも言える。

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 たまに雑誌やネットの企画で出てくる「日本のロックの歴史」において、バービーが大きくフィーチャーされることは、あんまりない。同時代の代表的バンドとして連想するのが、レベッカやBOOWY、ブルーハーツといったところだけど、バービーの扱いといえば「その他大勢」、メインで取り上げられることはほぼない。記号化されたキャラクターと、音楽以外に起伏の乏しいバンド・ストーリーは、いわゆるロック村の住人にとっては感情移入しづらいのだ。
 劇的なサクセス・ストーリーとかメンバー・チェンジとか恋愛スキャンダルでもあれば、いい意味での生臭さが出たのかもしれないけど、そういった人間臭さが出た後期、バンドはすでに修復不可能、活動休止に入ってしまっていた。日本人的なウェット感を表に出さず、あっさり解散の道を選んだあたりにも、つかず離れずの距離感を保ち続けていたバンド内のパワー・バランスが窺える。

 で、彼らにとって2枚目のアルバムとなったのが、1985年リリースの『Freebee』。デビュー作からわずか8か月でリリースされ、オリコン最高18位をマークしている。
 ソニーのアーティストによくありがちなパターンだけど、デビューして間もなくの彼らはキワモノ扱いの枠に組み込まれていた。ロックの通常パターンにはない男女ツイン・ヴォーカルというスタイルが「ロック版ヒロシ&キーボー」と称され、しかもロックの常套句にはない言語感覚のタイトルや歌詞がまた、いわゆる「本格派」のロック村からは敬遠されていた。
 かつて70年代、「日本語でロックは可能か?」という命題があって、有名無名も含めて業界内では一大論争となったらしいけど、80年代に入ると躊躇なく英語を自在に操る佐野元春が現れ、そして桑田佳祐がさらに一歩踏み込んで、「英語っぽく聴こえる日本語」の多用によって、そんなしちめんどくさい垣根を取り払ってしまった。
 そこからは「英語でも日本語でも、メロディに乗ってればどっちでもいいんじゃね?」的にユルいムードに移行してゆくのだけど、85年はまだその過渡期にあたっており、70年代の残党がまだ幅を利かせていた。なので、バービーのファンはもっぱら、過去のしきたりや先入観とは無縁なティーンエイジャーが多くを占めていた。

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 で、そんなイロモノ枠の先入観が取り払われるようになったのが、ここからだったんじゃないかと、今になって思う。その決定打となったのが、U2~Steve Lillywhiteへのリスペクトとなった「チャンス到来」、そしてソニー的人生応援歌の源流のひとつとなった「負けるもんか」の2曲。
 どちらもいまみちによる強烈にクセの強いサウンド・デザインによって、既存の意匠を使いながら、結局はオリジナリティの方が勝る仕上がりになっている。アルバムの主軸となる2曲の存在によって、ティーンエイジャーへの認知度は一気に広まることになる。


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1. midnight peepin'
 ミディアム・スローに聴こえるのに、タイトなドラム・プレイと地表をうねるベース・ラインがスピード感を演出している。ギターとヴォーカルを取っ払っても十分成立してしまうところに、バービーの奥深さがある。ギター・フレーズ自体はオーソドックスだけど、サスティンの効いた響きはほどよく空間を埋める。この奥行き感も、バービー・サウンドの魅力である。

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2. 負けるもんか
 12インチ・シングルで発売された、バービー初期の代表曲のひとつ。1.はほぼコンタのソロだったけど、ここでは杏子が大きくフィーチャーされる。ハスキーでハスッパな女を演じさせたら、彼女の右に出る者はいなかった。コンタもまたハスキーな性質であったけれど、杏子のような「憂い」がなかったため、時に一本調子になってしまうところを、勢いの良さでカバーしている。いい意味だよ、これって。



3. チャンス到来
 こちらも先行でシングル・カットされたミディアム・バラード。俺がバービーを知るきっかけになった曲。PoliceとJesus and Mary Chainの奇跡的な融合を軽々と実現するいまみちのコンポーザー能力は、同世代の中でも抜きん出ていた。考えてみればバービー、ほとんどシンセって使ってないんだよな。ほぼギターだけでメロディ・パートやっちゃうんだから、そのアレンジ能力はずば抜けている。

「チャンス到来 転がり込んで 秘密のジェスチャー」

 長い友達で気心も知れあって、お互い気があるのもわかっているはずなのに、きっかけがつかめずあと一歩が踏み出せない。そんな距離感の詰まり具合と曲の進行がうまくシンクロしている。



4. マイティウーマン
 ほとんどワンコードで進行する、ライブ映えするノリ一発のロック・チューン。間奏のコンタのサックス・ソロがPoliceへのオマージュっぽいのと、カッティング・ギタリストいまみちの迫真のプレイが堪能できる。

5. でも!?しょうがない(Riverside Mix)
 冒頭の杏子の「バカバカバカ」が強烈な印象を残す、歌謡曲テイストの濃いロック・チューン。こちらもシングル・カットされており、初期の代表曲として安定した人気を保っている。こうして聴いていると、ギター・ソロにそれほどこだわりのないいまみちのスタイルは、同じくリフ勝負のPete Townsendを連想させる。彼もまた、コンポーザー気質だったしね。

6. 悪徳なんか怖くない
 こちらも杏子の「なんてウソつきなの!!」という絶叫フレーズが頭に残るナンバー。こうして書いてると、なんだか一発芸扱いだよな。でも、当初はその破天荒さこそが彼女の魅力だったのだ。ひらつくスカートからのぞく美脚とあわせて。

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7. ドンマイ ドンマイ
 基本、自分で歌わないいまみちが作曲しているため、一応、2人のキーには合わせているんだろうけど、バービーの曲は総じてどれもフラット気味なケースが多い。循環コードをわざと外すようなサビを持つこの曲は、そのフラットさがうまく作用して、男の子の複雑な心境をうまく表現している。気のある女友達が彼氏とうまく行かなくなって、愛憎半ばでその相談に乗る男の感情の揺れが、妙にリアル。よく書けたよな、こんな歌詞。

8. ラストキッス
 この曲のみ、ヴォーカル・作詞作曲ともコンタの手によるもの。サビの突然の転調具合や着地点の見えないコード進行といい、不思議な感触のナンバー。でも考えてみれば、バービーとしてデビュー前、いまみちと組んで間もない頃、2人で目指していたのはこんなメロディだったのかもしれない。

9. タイムリミット
 続いて杏子のソロ。普通なら、デュエットと好対照に、女性としての弱さを表現するようなサウンドになりそうなところを、相変わらずいまみち、好き放題にフリーキーなギターでサウンドを染めている。メロディ自体は歌謡曲の系譜にあるロッカバラードなだけに、いい意味でのいびつさが際立つ。

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10. ダメージ
 ラストを飾るのは、コアなバービー・ファンの間では人気の高い、いわば隠れ名曲。「もとどおりにランデブー」。このフレーズを冒頭に持ってきた時点で、当時のいまみちが最高の作詞家であったことを証明している。
 サウンドメイカーとしての評価はもともと高かったいまみち、ただ四半世紀以上経っている今だからこそ、バブル以前の普通の男女の憂いを切り取るコピーライト力は、もっと評価されてほしい。



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北海道の中途半端な田舎に住むアラフィフ男。不定期で音楽ブログ『俺の好きなアルバムたち』更新中。今年は久しぶりに古本屋めぐりにハマってるところ。
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