好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

ストリート・スライダーズ

ポップ路線のスライダーズ最終コーナー - ストリート・スライダーズ『Screw Driver』

news_xlarge_streetsliders_screwdriver_jk 1989年リリース、リミックス・ベスト・アルバム『Replays』を挟んだ7枚目のオリジナル・アルバム。前作の『Bad Influence』、これがオリコン初登場3位と、愛想もサービス精神もない彼らとしては、なかなかの好記録をマークしている。特別、メディアに積極的に出演するわけでもなく、トップ10に入るようなシングル・ヒットがないにもかかわらず、快挙とも言えるチャート・アクションを見せた。
 『天使たち』リリース頃から地道に続けていた、ソニー家内制手工業的な「パチパチ」「ビデオ・ジャム」を活用したビジュアル展開が実を結び、スライダーズのアルバムが大きくヒットする機運は盛り上がっていた。アルバム・リリースと合わせて全国ツアーを敢行、レコード売上に大きく寄与するはずだったのだけどしかし。
 ツアー直前になって、ドラムのズズがバイク事故によって大怪我を負い、予定はすべてキャンセルとなる。ソニーとしては、チケット売り上げも好調だったため、ドラムの代役を入れることも提案したのだけど、バンドの総意として、メンバー以外の音を入れることを拒否、そのまま活動休止状態になってしまう。

 ソニーからやんわりと、「助言」という名の上から目線な提案やら、外堀を埋めるようなソフトな圧力もあったのだろうけど、その辺はどこ吹く風、彼らがまともに聞くはずもない。だってハリーだもん。
 取り敢えず「蘭丸がやりたがってるから」「バンドみんなで決めたことだから」、これまではメジャー展開も渋々受け入れてきたけど、1人欠けるとなると話は別。アンサンブルは最初から組み直しになってしまい、バンドは別物になってしまう。失礼を承知で言うけど、テクニカル面だけで言えばズズよりうまいドラマーはいるだろうけど、ハリーや蘭丸が求める音やリズムを即叩けるかと言えば、これも話は別になる。そこら辺がバンド・サウンドの難しさであり、醍醐味でもあるのだけど。
 どちらにせよ、人見知りでぶっきらぼうで不愛想なハリーが、そうそう新メンバーと馴染めるはずもない。

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 ドラム・ベース・ギターという最小限の編成で、ブルースをルーツとしたロックンロール・バンドは星の数ほどいるけど、長らくその頂点に君臨し、最も成功しているのRolling Stones。異論はないよね。
 シンプルなブルースのカバーからスタートして、多少の紆余曲折はあれど、「ロックがビジネスとして成立する」ことを証明したのは、彼らの功績である。ライブのエンタメ化やパッケージング、ディスコやドラムンベースなど、旬のサウンドをちょっとずつ取り入れてアップデートし続け、彼らは不動の地位を築いた。単にコツコツ同じブルースばっかり演じていたわけじゃないのだ。
 魑魅魍魎が跋扈するエンタテインメントの世界をサヴァイヴしてゆくためには、戦略を司る参謀が必要不可欠となる。その役目を担っていたのが、ご存知Mick Jaggerだったというわけで。

 「ロックが金になる」というビジネスモデルは、70年代以降に定番フォーマットとして、急速な発展を遂げることになる。AerosmithもAC/DCもRCサクセションも、キャリアの節目で積極的にメディアとコミットし、広く世に知られることによって大衆性を得た。どれだけ良い音楽をやっていようとも、多くの人に伝わらなければ、バンド運営は先細りしてしまうのだ。
 スライダーズ自身、本当にそういった途を望んでいたのかどうか―。まぁ売れないよりは、売れる方がよっぽどいいに決まってる。できるだけ自分たちのスタンスを崩さぬまま、当時のソニー戦略に乗っかったことによって、スライダーズは思惑以上の支持を得るようになる。多分に蘭丸あたりが一番乗り気で、それでハリーが「しゃあねぇなぁ」といった風に付き合ってたんじゃないかと思われる。ズズとジェームズ?「まぁ好きにしろよ」ってな感じで。

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 もし彼らがソニー・メソッドに乗らず、細々と小規模のライブハウスを回る途を選んでいたとしたら―。
 それほど語り継がれることもなく、せいぜいアングラ・シーンの片隅に記憶される程度の存在で終わっていたことだろう。もともとハリー自身、レコード契約にはあんまり乗り気じゃなかったみたいだし、もっとマイペースな活動を望んでいた節がある。そのまま解散せずに細々と活動し続けていたかもしれないし、それともいつの間に自然消滅していたかもしれないし。

 で、この活動休止というハプニングが、彼らにとってのターニング・ポイントとなった。特にハリー。
 取り敢えず蘭丸に付き合う形で、これまでイヤイヤながらソニー・メソッドに乗っかっていたけど、なんかもうめんどくさくなっちゃったんだろうな。彼のテンションは急速に冷めてゆく。もともと、自由奔放にギターをかき鳴らして「ゴキゲンだぜベイベー」と歌っちゃうタイプなので、それ以外の些事にはとんと興味がないのだ。
 まぁ不謹慎ではあるけれど、「これまでさんざん振り回されてきたんで疲れちゃったし、バンドも稼働してないんだから、これを機にゆっくり休もうかな」とでも思ってたんだろうな。
 蘭丸もまた、スライダーズがメジャーになったことによって注目を集め、ソロ活動が増えている。人を寄せ付けない雰囲気を撒き散らしていたハリーに比べ、蘭丸は外部とのコミットにも積極的だったため、自然と人脈は広がってゆく。そうすると自然、これまでのようなベーシックなロックンロールだけじゃなく、ファンク・ビートなど他のジャンルにも興味を持つようになるのは、いわば当然の流れ。

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 一度動き始めてしまったシステムを止めるには、最初に投入した以上のエネルギーが必要になる。望む/望まないにかかわらず、すでにソニーのヒット・システムに取り込まれていたスライダーズもその例に漏れず、開店休業というバカンスの間にも、何らかのアクションを求められることとなる。
 「せっかくだったらスライダーズと違うことやろうぜ」といった経緯かどうかは不明だけど、何となく始めたのが、ハリーと蘭丸2名によるアコースティック・ユニット「ジョイ・ポップス」である。
 バンド再開までの繋ぎというか暇つぶしのユニットであったため、具体的な成長戦略やらビジョンやらをきっちり決めてスタートしたわけではないので、残された音源はシングル1枚のみ。しかも、スライダーズと蘭丸ソロとの抱き合わせによるシングル・セットでの販売である。言っちゃ悪いけど、在庫処理的なやり方だよな。バンド側としては大して売る気なさそうだし。

 ジョイ・ポップスとしての活動はほぼフェスやイベントに限定されており、ソロでのライブは行なわれていない。なので、生で見られた人は、かなり限られている。
 さらに数は少ないけど、テレビ出演時の動画が残されており、今ではYouTubeでも簡単に見ることができる。シンプルな白一色のスタジオで、溝口肇ストリングス・カルテットをバックに、ハリーと蘭丸はアコギを掻き鳴らしている。無精ヒゲを生やしたハリーを見るのは、かなり珍しい。やっぱ気持ちの中ではオフなんだろうな。
 アコギを弾く彼らの姿というのはかなりレアで、バンドではまず見られないアプローチである。グルーヴ感とは対極のサウンドであり、これはこれで枯れた趣きがあって良いのだけど、まぁ彼ら手動のアイディアじゃないよなまず。斜め上のスカしたディレクターの発案に、蘭丸が乗り気だったから一応話には乗ったのだろうけど、ハリーにとっては暇つぶし程度の余技だったんじゃないかと思われる。

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 そんな課外活動を経てズズが復活、再度スライダーズのメジャー化戦略は仕切り直しとなる。その成果として形になったのが『Screw Driver』なのだけど、前2作とは違って原点回帰的なロックンロールが大きくフィーチャーされている。反面、『天使たち』〜『Bad influence』で展開されていた、ロックンロール以外のアプローチをバンバン持ち込んでいた蘭丸のカラーは、ちょっと薄れている。
 キャッチーなメロディを持つ曲は、シングルカットされた「ありったけのコイン」くらいで、他の曲では骨太な4ピース・ロックへの回帰が窺える。言っちゃえば地味だよな。
 ちなみにアルバム・リリースを控えたスライダーズ、この時期には記念すべき「夜ヒット」初出演を果たしている。そこでは最も知名度の高い「Boys Jump The Midnight」を披露しており、既存ファンが狂喜乱舞したことは当の然、新規ファンの獲得にも大きく寄与した。お茶の間で家族が集まってテレビを見ている時間帯に、彼らのようなガレージ系のサウンドが流れることが少なかった時代だったため、そのインパクトはかなりのものだった。
 なので、彼らのレパートリーの中では最も聴きやすい「Boys Jump The Midnight」のようなナンバーを期待した新規ファンにとって、この『Screw Driver』は、ちょっととっつきにくいアルバムである。何十回も聴いてきた俺でも、たまに聴きたくなるくらいだし。
 聴けば聴き込むほど。新たな発見も多いアルバムではあるのだけれど、一見さんにはちょっと敷居が高いのかな。

 もしもの話、ズズの事故がなくて、彼らがそのままメジャー路線を突き進んで行ったとしたら、一体どうなっちゃってたのか。
 バブル期というご時勢ゆえ、化粧品のCMソングに起用されていたかもしれないし、「笑っていいとも」のテレフォンショッキングにも出演していたかもしれない。いやないか、あんな無口なハリーが生放送を承諾するとは思えないし。
 多様な方向性として、ハードでラウドなスライダーズ本体と並行して、ブルース・フィーリングを漂わせるアコースティック路線のジョイ・ポップスとの両立も、実験の一環として面白い試みだったんじゃないかと思われる。

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 ほんと最近になってハリー、蘭丸と電話で会話をした、とのこと。やっぱメールやラインじゃないんだな。特別、具体的にどうこうではなく、「最近どう?」と、軽く言葉を交わした程度。ただそれだけだ。
 もともと、言葉が多いタイプではない。言葉がなくても通じるのがこの2人だし。ギターがあれば、もっと近づけたかもしれないけど、まだその時期ではないのだろう。
 ハリーは蘭丸のことが気になり、そして蘭丸は淡々と、でも嬉しそうにTwitterでつぶやいた。
 まぁゆっくりと。前を向いて一歩ずつ。

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1. 風の街に生まれ
 まんまStonesオマージュのロックンロールがオープニングを飾る。セミアコっぽい間奏のギターは、わりと珍しい。
 基本、ノマドなスタンスのハリーなので、ロックンロールのキャラクターとしては典型的に、「お前しだいさ」と突き放した言葉を投げかけている。一聴すると無愛想な態度だけれど、ちゃんとその後、「誰かが呼んでるはずさ」と付け加えている。単なる破滅キャラではないのだ。

2. Oh! 神様
 ホーン・セクションと絡むギター・プレイが粋でいい。これもStonesだよな。ブルスとホンキートンクとのハイブリッドを聴かせるバンドは、当時の日本では彼らかボ・ガンボスくらいだったよな。

3. かえりみちのBlue
 カントリー・ロック的にゆったりしたビートの、抒情的なナンバー。ファンの間では根強い人気がある。ぶっきらぼうな口調ながら、どこか人間くささが感じられるのが、親近感が湧いてしまう。そりゃそうだ、ハリーだって仙人じゃないし。まぁこれ以降の90年代はなかば世捨て人みたいな感じだったけど。

4. Baby, Don't Worry
 アルバム・リリース直前にリリースされたシングル。ここまでちょっとポップだったりルーズな曲調が多かったけど、ここに来てタイトなリズムとソリッドなギター・プレイがギュッと凝縮されている。アンサンブル全体に緩急がつけられているため、音の奥行きが生まれている。手クセみたいなコードやメロディなのに、なんでこんなカッコいいんだろう?



5. Hey, Mama
 こちらもソリッドなリズムをベースとしたハード・ブギ・チューン。蘭丸を中心としたコーラスが相変わらず脱力してしまうけど、サウンド自体はめちゃめちゃグルーヴィー。

6. Yooo!
 スライダーズ流のダンス・チューン。だって「踊れ」って言ってるんだもん。蘭丸のカッティングがファンク・マナーなので、演奏だけ抜き出せばファンキーさ満載なのだけど、やっぱりハリーの声は踊れるムードが出ない。まぁ縦ノリじゃなくて横ノリのリズムだから、それはそれでいいか。

7. おかかえ運転手にはなりたくない
 ハリーの個人的色彩が強い、ファンの間でも地味に人気の高いブルース・タッチのバラード。彼が書くバラードのメロディはバタ臭さが少なく、むしろ日本人にとっては親しみやすい歌謡曲的なとっつきやすさがある。こういったところが大衆性を勝ち得たところなのだろう。
 いくら友達や仲間とはいえ、彼の中には誰も踏み込めない境界線がある。もちろん、そんなのは誰にだってあるのだけれど、ハリーの場合、その範囲がとてつもなく広いのだ。我々が知っているハリーとはほんの一部でしかない。どれだけ距離を詰めようとも、彼は自我の中心でひっそり膝を抱えている。一番近い存在だった蘭丸でさえ、伸ばした手は届かない。
 それは今も続いている。

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8. Rock On
 シンプルなリフを中心に組み立てられた、アルバムに必ず1曲は入っている、他メンバーによるナンバー。最初は蘭丸かと思ってたけど、これってジェームスなんだってね。どうりでなんか違うと思った。指摘してくれた人、ありがとう。
単純な構造のブギだけど、それが逆に良い方向へ向いているんだよな。だからと言って好きというほどじゃないけど。

9. ありったけのコイン
 アルバム・リリースよりだいぶ先行してリリースされたリード・シングル。オリコンでは最高34位を記録しているように、ビギナーにとっても間口の広いサウンドに仕上げられている。「Boys Jump the Midnight」に代表されるアッパー・チューンとは対極的に、日本人にもなじみの深い情緒あふれるフォーク・ロック調にまとめられていることによって、新たな一面が鮮烈に浮かび上がった。
 「ありったけ コインかき集めて 飲んだくれ お前とどこへ行こう」
 金はないけど時間だけはたっぷりある、モラトリアムな青春時代の情景を切り取った、リア充でもオタクでもない、大多数のコミュニティとは無縁の所で生きてきた者たちへのノスタルジーが刻み込まれている。



10. いいことないかな
 ヴォーカルにもバッキングにも薄くエフェクトをかけた、スライダーズの十八番と言えるハード・ブギ。全員に見せ場があるアンサンブルは、ラストを飾るにはふさわしい。古典ブルースにならった歌詞はネガティヴだけど、それを笑い飛ばしちゃうようなサウンドのグルーヴ感が濃い。やっぱバンドが好きなんだな、ハリーは。


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80年代ソニー・アーティスト列伝 その1 - ストリート・スライダーズ『天使たち』

1200x1200-75 多分、今の人はあまり知らないだろうけど、80年代のソニー(現SME)はCBSとエピック、2つのレコード会社に分かれていた。
 同じ企業グループでわざわざ別会社にしているくらいだから、一応それぞれに特色があり、1968年に設立されたCBSは、山口百恵や松田聖子などのアイドル歌謡曲から、大滝詠一や尾崎豊などのポップ/ニュー・ミュージック系まで、比較的ソフト・サウンディングの広い範囲の音楽をカバーしていた。
 で、1978年にCBS内レーベルから独立分社化したエピックは、CBSでフォローしていないジャンル、ロックやニュー・ウェイヴ系などを主に取り扱っていた。初期の代表的アーティストとしては、佐野元春や一風堂、シャネルズなんかが有名どころ。まぁクセの強いメンツである。

 で、今回のストリート・スライダーズ、知ってる人なら予想はつくと思うけど、もちろんエピックのアーティストである。CBSアーティストのようなキラキラ感は、あるわけない。そういったポジションのアーティストではないのだ。
 ていうか、実は彼ら、特別エピックを象徴するアーティストでもない。そういったカテゴライズを拒否した、ある意味オンリー・ワン、孤高の存在的なバンドなのだけど、シリーズ一発目はどうしても彼らを取り上げたかったので、ここで紹介。

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 彼らのサウンドの特徴をあらわす例えとして、「Rolling Stonesと村八分の融合」という表現が用いられることが多い。ワイルドでシンプルなロックン・ロールという点において、Stonesとリンクする部分は多いけど、そのフォロワー的バンドである村八分を引き合いに出すのは、昔からちょっと疑問に思っていた。
 デビュー当初に醸し出していた、ネガティヴな暴力性とミステリアスなバンド・イメージ、ステージや取材で露骨に見せる不遜な態度が、往年の70年代ロック・バンド的イメージと相まって、ひと括りに捉えられたのだろうけど、実際に音源を比較してみると、双方の違いは歴然としている。
 シンプルなテンポと、ドライブするツイン・ギター・アンサンブルを中心としたロックン・ロールがベースとなっているのは同じだけど、アングラの臭いを引きずった村八分が、スキャンダラスな歌詞世界と破綻寸前の演奏、ヴォーカルのチャー坊の強烈なパーソナリティがセールス・ポイントだったのに対し、スライダーズも同じく、暴力的な歌詞やタイトルのインパクトは強かったものの、演奏はあくまでクレバーで、飛び道具に頼ったステージングではない。むしろライブ・パフォーマンスは淡々としており、一見熱いライブに見えても、ヴォーカルのハリーを始め、メンバーのプレイはいつもどこか冷めきった印象が強い。
 パフォーマンス的な部分を強調することによって、その存在だけは日本のロック史に残っているけど、バンド存命中は遂にまともなスタジオ録音アルバムや代表曲を残せなかった村八分。この違いはいろいろあるのだろうけど、一番大きいのは「バンド」として機能しているかどうか。スライダーズの場合、ヴォーカル兼サイド・ギターのハリーと、メイン・ギターの蘭丸が2トップで目立ってはいたけれど、バンドの屋台骨であるリズム・セクション、ズズ(dr)とジェームス(b)の存在が大きかったため、ライブが収拾不可能になることはなかった。
 「ロック」をやりたいのか、それとも「ライブ」をやりたいのか、の違いである。

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 スタートはこの手のロック・バンド同様、彼らもまた手本としていたのは、『Let it Bleed』以降、Bryan Jonesが事実上脱退してからのStonesだったけど、アルバム・リリースとライブを重ねるにつれて、ガチャガチャしたバンド・アンサンブルが次第に整理され、曲調のバリエーションも増えてゆく。これはバンド自体の演奏力の進化の賜物でもあるし、また、それに伴うハリーのソング・ライティング・スキルの進化とも直結する。
 で、これまでのステージから一気に飛躍しようと思い立ったのは、エピックからの要請だったのか、それともバンド自身が変化を望む時期に差し掛かっていたのか―。
 前作『夢遊病』が比較的好セールスを記録したこともあって、レコーディング予算がアップ、エピック側のコーディネートによって、これまでとは違って、ミュージシャン畑のプロデューサーがつくことになる。

 ブレイク寸前のBOOWYから近年の早川義夫まで、ジャンルに関係なく幅広いアーティストを手がけていた佐久間正英、四人囃子〜プラスチックスを経て、こちらもかなりクセのある人である。自らも現役ミュージシャンという強みを活かして、サウンド・メイキングが未熟なバンドに対し、かなり具体的かつテクニカルなアドバイスができるため、現場の評判も良かった。それでいてきちんとセールスに繋げることもできるため、レコード会社的にも重宝されていた。

 当時のスライダーズのレコーディングといえば、ほぼスタジオ一発録り、細かなミックスやエフェクトにこだわることは、彼らの美学が許さなかった。
 なので、この佐久間の起用によって、『夢遊病』から実験的に導入されていたゴシック要素にプラスして、リアルタイムのニュー・ウェイヴのノウハウがもたらされ、サウンドは明らかに変化している。
 基本はこれまで同様、Stonesフォーマットのルーズなロックンロールながらも、深いゲート・リバーヴや、強力にイコライジングされて歪んだ音色のギター・サウンドなど、UKニュー・ウェイヴ、特に4AD系のエッセンスを積極的に導入している。
 ありそうでなかったStonesとBauhausとの奇跡的な融合は、これまでスライダーズに興味がなかった層にもアピールしたため、潜在的なファンの掘り起こしに貢献した。

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 この『天使たち』のサウンドが、ほんとにバンドの望む方向性だったのか、それは神のみぞ知るところだけど、それまでレコーディング自体にさほど興味がなかったハリーがその後、ギター+ベース+ドラムの基本編成だけでなく、ブラスやシンセなど、他のアイテムにも興味を持つようになったことは、バンドにとっては一つの進化である。
 その変容はとどまることを知らず、Sex & Drug & Rock'n' Rollのトライアングルで円環していた歌詞の世界観が広がりを見せ、次のアルバム『Bad Influence』収録「風が強い日」で見事結実する。

 佐久間によるスライダーズのコンテンポラリー化は、新規ファンの獲得と、バンドのメジャー契約継続によって、その後のバンド運営に明確な道筋をつけた。
 ハデなエフェクトやスッキリしたサウンド・プロダクションによって、外面的な変化はあったけど、根幹の部分は何も変わってない。ハリーはいつも通りのマイペース、バンドを壊さない程度に新味を持ち込む蘭丸、いつも無言ながらも重厚な存在感でリズムを支えるズズとジェームス。
 とは言っても、古参ファンの中ではこのアルバム、結構賛否両論だったらしく、従来通りのルーズなロックンロールを求めていた者は、ここから離れてしまうケースも多かった。
 ただ、そこの部分だけを大事にしていても、前に進むことはできない。
 「ロックンロールは進化できるものだ」と、かつてKeith Richardsは言った。
 ロックする事は誰でもできるけど、ロールすること、転がり続けて行くためには、何かを捨てることも必要なのだ。


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1. Boys Jump The Midnight
 冒頭の、何か得体の知れない不穏を想起させるハリーのギター・ソロ。けれど曲が始まると、ノリの良いいつものゴキゲンなロックンロールだった。これを、あの夜ヒットで演奏したのをリアルタイムで見たのだけれど、そのまぁカッコイイこと。
 バンドとしての代表曲だけあって、いろいろと映像が残っている。カラオケにも入っているので、認知度は一番高い。
 初期のファンほど、この曲に拒否感を示す。特に『がんじがらめ』あたりまで残っていた倦怠感、デカダンな雰囲気が薄れ、あっけらかんとしたロックンロールになっているのが気に食わないのだろう。
 ―いいから聴けよ。
 単純にゴキゲンなロックン・ロールの何が悪い。シンプルなものほど、人にはダイレクトに届きやすいのだ。



2. スペシャル・ウーマン
 重いベースと、ゲート・エコーをバリバリ効かせたリズム・セクションががんばっているナンバー。スライダーズはリズムがしっかりしているのがデビュー当時より定評があり、よってこの曲もリズムが立っており、イイ感じのダンス・チューンになっている。
 Stonesだって"Miss You"など、思いっきりディスコ・サウンドへ振り切った曲もあるけど、ロック・バンドのダンス・チューンとしては、日本のスライダーズの方が有能。佐久間がブラス・セクションで彩りを添えているけど、サウンド自体は盤石でビクともしない。それだけ曲・アレンジのベースがしっかりしているということ。



3. Back To Back
 こちらも基本はロックンロールながら、リズム・セクションがノリノリのため、良質のダンス・チューンになっちゃっている。このアルバムでの蘭丸のギター・プレイは、多分この曲が一番冴えわたっているんじゃないかと思われるけど、あの印象的なリフ中心のハリーのプレイもなかなか。ていうか、なんだ全部いいじゃねぇか。
 この当時隆盛だった12インチ・シングル・ヴァージョンもリリースされているのだけど、冒頭のギター・リフが左右にパンされており、いかにもダンス・ミックスっぽくなっているのだけど、躍動感はオリジナルの方が強い。いや、それだけ良くできてるんだって。



4. 蜃気楼
 アクセントで入ってるアコギの使い方は、やっぱりStonesっぽく聴こえてしまう。スライダーズとしてはマイナー調のメロディが引き立っている曲で、ちょっと気を抜くとフォークっぽくなってしまうのだけど、ハリーの吐き捨てるようでいて丁寧なヴォーカル、それにしっとりしそうな曲でも全力でプレイするリズム・セクションが作用して、きちんとロックになっている。
 でもあれだよな、敢えて言っちゃうと、ちょっとギターがクリア過ぎ。音の分離が良すぎてロックを感じなくなった、というのも、初期のファンが離れちゃった要因なんだろうな。

5. VELVET SKY
 サビのメタル・パーカッションがプログレっぽく聴こえてしまうのは、やはりプロデューサー佐久間だからか。初期の退廃さを想起させる曲だけど、やはり演奏力・表現力も向上によって、ベーシックなロックンロールからの進化が見えてくる。

6. Angel Duster
 1.同様、これが起爆剤となって一気にファン層が広がった。俺もこの曲で初めてスライダーズを知った、自分的にも大事な曲。
 ロックというのがノリが良いモノだけじゃないこと、単に気持ちイイことだけがロックじゃなく、時には自ら傷を負うことも必要であることを、この曲から学んだ。
 ギターの音色はこれが一番エフェクトを強くかけており、アラビックな響きのサウンドはニュー・ウェイヴというフィルターを通過して、オンリー・ワンの響きになっている。



7. Bun Bun
 ここらで息抜きなのか、思いっきり意表をついて、どシンプルなロックンロール。似たような曲、RCもやってたよな。こういったブルース経由のロックンロール、もとはもちろんChack Berryなのだけど、シンプルだからこそバンド自体の技量が問われる曲でもある。

8. Lay down the city
 蘭丸のヴォーカルによる、こちらもちょっと息抜き的なナンバー。まぁギタリストが余技で歌いそうな曲なので、あまり厳しいことは言えないけど、たまにはこんなのもいいんじゃね?的な曲と思ってもらえればよろしい。

9. Shake My Head
 ギターの音色は思いっきりXTCなので、これは佐久間か蘭丸が持ち込んできたと思われる。ハリーもXTCなんか聴くのかな?まぁ誰かが聴いてるのを耳にはしてるだろうけど。
 こういったダウン・トゥ・アース的なブルース丸出しの曲に、このギター・サウンドは結構発明なんじゃないかと思うのだけど、多分、海外の誰かがやってるのかな?

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10. Up & Down Baby
 またまた蘭丸ヴォーカルのナンバー。当時の彼はほんと中性的なルックスで、ある意味スライダーズのビジュアル面を大きく担っていたため、営業政策上、彼メインの曲もいくつかは必要だった。ギタリストゆえ、どうしてもなんちゃってヴォーカルになってしまうのだけど、彼目当ての女性ファンが多かったため、これはこれでよかったのだろう。

11. NO DOWN
 再びハリー登場。このギターもかなり音色をいじっているのだけど、これはこれでハリーも気に入っているよう。シンプルな構造のロックンロールなので、ちょっとやそっとのエフェクトでは曲は壊れない。
 実はメロディはかなりポップで、コード進行にはBeatlesの影響も垣間見える。そりゃそうだよな、何が何でもStones一筋ってわけじゃないだろうし。

12. Party Is Over
 これって思いっきり”Street Fighting Man”だったことを、今回久しぶりに聴き返してみて初めて気づいた。モロだよな、これ。
 パクリと言いたいのではなく、「うまく消化してるんだな」という優しい目線である。

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13. 嵐のあと
 後の"風が強い日"の前哨戦とも言える、かなり身に詰まされた情緒的な歌詞が印象的。でもハリーのキャラクターなのか、どれだけウェットに傾いても、発せられる言葉はとてもドライに聴こえてしまう。




 スライダーズ解散後、ソロとしてマイペースな活動振りのハリー、もともとプロモーション的な活動には消極的で、今もそれはあまり変わっていない。
 一応オフィシャル・サイトもあるのだけど、何しろ本人からの情報がかなり少ないので、ほんと簡素なインフォメーションくらいしかネタのない状態が続いている。
 -でも俺は俺で、どうにかやってるぜベイビー。
 そう言いながら飄々と生きる、ハリーの生き方もまた、憧れの人生のひとつである。



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この頃から動じなかった、ハリーの唯我独尊ぶり - ストリート・スライダーズ 『Bad Influence』

133000363885513113353_ssbi_20120223222718 1987年リリース7枚目のアルバム。好セールスを記録した前作『天使たち』の勢いもあってオリコン初登場3位という、愛想もキャッチーさもないバンドにしてはかなりの好成績を収めた。ライブ中MCもなく、唯一最後にサンキュー、アンコールはなし。いま思えば相当の大物である。

 1987年といえば、レコードとCDとの出荷数がイーブンになった頃、なので音楽業界全体がメディアの世代交代の波に乗って、活況を呈していた。それと並行して、インディーズ・シーンで活動していたアーティストらが徐々に頭角を現してきており、ロキノンやパチパチを筆頭とした雑誌メディアも尻馬に乗って部数を増やしていた。
 空前のバンド・ブームが本格化するのはもう少し後なのだけど、この頃からライブハウスでの青田買いが始まり、ほぼ下積みも無しでいきなりデビューするバンドが相次いだ。その中には今でも第一線で活躍している者もいるけど、その他大多数は時代の徒花、アマチュアに毛が生えた程度の連中も少なくなかった。
 なので、大方の泡沫バンドは青春の1ページに黒歴史を残して時代に埋もれていった。

 実際にインディーズ・シーンを盛り上げたのは、宝島周辺のキャプテンやナゴム所属のアーティストが主だったのだけど、その現象をうまく商売に転化し、利益を生むシステムを作り上げたのがソニーである。80年代初頭から独自に行なっていたSDオーディションの開催によって、バンド・ブームの牽引役となるアーティストらを囲い込み育成し、来るべきブームに備えて下地作りを行なっていたのは、慧眼だったのか、それとも単なる偶然だったのか。どちらにしろ、当時のソニー・スタッフがめちゃめちゃ有能だったことに違いはない。

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 で、その本格的なブーム到来前から着実にファン層を広げていたスライダーズ、基本はStonesフォロワー的なステレオタイプのブルース・ロックだったのだけど、外部から招聘したプロデューサー佐久間正英によって、「スライダーズ・メジャー化計画」が行なわれていた。
 ベーシックなサウンドは残しながらも、DX7系のキラキラエフェクトやブラス・セクションを導入して、ライト・ユーザーの獲得を図った。素材剥き出しの無骨なサウンドを壊さない程度にマイルドなデコレーションを施し、「ちょっとワルでルーズなロックンロール・バンド像」というのは、バンド側としては本意じゃなかったかもしれないけど、甘いポップ・ロックに飽きた層には充分アピールできたんじゃないかと思う。

 サウンド面のイニシアチブを握るのは、多くの曲を書き、ヴォーカルも務めるハリーなのだけど、このアルバムではもう1人のギター担当である蘭丸の発言力が増している。佐久間のサウンド・デザインを積極的に吸収し、バンド・サウンドをその方向へ導いていったのは、彼の貢献が大きい。これまで消極的だった異ジャンルの導入、特にファンク・テイストのサウンドなんかは、蘭丸がいなければありえなかったわけで。
 当然ハリーはその辺無関心を装ってたのだけど、まぁ不貞腐れた顔をしながら「オーライベイベェ」なんて調子で、バンド・サウンドの活性化に付き合ったんじゃないかと思われる。リズム隊はまぁいつも通り。

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 そういったスライダーズのメジャー化は、デビュー当時からの古いファンには迎合路線と映り、賛否両論分かれたのだけど、サウンドのルーティン化を回避するためには、新しい血の導入は必然だったというのが、俺の見解。
 どのバンドでもそうだけど、ファンのニーズに応えることが使命感となって、拡大再生産のループにはまってしまうと、マンネリの末のいがみ合いか懐メロ化に陥ってしまう。
 どうしても彼ら、「和製ストーンズ」という枕詞で形容されがちだけど、和製ストーンズと称されたバンドはこれまでも多々あったわけで、しかもそのほとんどは短命である。イメージが固定化されてしまうと、柔軟な変化に対応できないのだ。
 で、そんなバンドの総本山であるStonesもまた、ただバカ正直に古典ブルースばかりやってたわけではなく、節目ごとに新メンバーの入れ替えやらファンクに傾倒したりディスコまがいの曲をやったり、オーバー・プロデュースとも言えるEDMバリバリのサウンドにまで手をつけた挙句、今世紀に入ってからやっと落ち着いたのか、原点回帰的なシンプルなロックンロールに帰属した次第。

 そもそもハリー自身はメジャー・デビューそのものに難色を示しており、「いつもの感じでいつものように、それでオッケーさベイベェ」って心の中で思いながら、マイペースなライブ活動さえ続けられればそれでよかったのだろうけど、SDオーディションへの出場を説得した蘭丸からすれば、それだけでは満足できなかったのだろう。
 その後のキャリアを見てもわかるように、「ラブラブあいしてる」から麗蘭まで、幅広いバイタリティーの持ち主である蘭丸、一番初めの課外活動が甲斐よしひろのソロ・プロジェクトであったように、何がなんでもロックンロールの人ではない。外の世界を見ることによって、中にいては見えてこないものも見えてくるはず。

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 で、そんな蘭丸を傍目で見て、ハリー自身にも心境の変化があったのか、それとも前から漠然と思ってはいたのか。
 この時代から、ハリーの書く詞の世界観が大きく広がりを見せることになる。
 まぁベーシックなロックンロールの基本フォーマットである、酒だ女だ暴力ばかりではネタも尽きるだろうし、違ったテーマを取り上げてみたくもなる。長く続けることによって、初めて見えてくることもあるのだ。
 ソニー系アーティストをわかりやすく皮肉った”Easy Action”や、シンプルに削ぎ落とされた言葉ながら、予想以上に詩情あふれる”風が強い日”など、ロックンロールにしては文学性の強い歌詞は、特に理屈っぽいロキノン周辺で絶賛された。ただのStonesのパクりじゃないことを表明した、真にオリジナルの傑作である。
 「シンプルなロックンロールをどう発展させてゆくのか」。
 Keith Richardsの名言だけど、それをすでに日本のロックンロール・バンドが実践していたのだ。

 ほんとはここからツアーも始まるはずだったのだけど、ズズの負傷によって予定がすべて白紙となり、スライダーズは活動休止を余儀なくされる。
 もしこのままツアーを行なってアルバム製作に入ったら、バンドのキャラクターからして、サイケデリック・ポップ寄りのサウンドに振り切れちゃうこともありえたかもしれない。そのテンションを鎮めるためなのか、ハリーと蘭丸はユニットJoy-Popsにて、スライダーズとはちょっと違ったアプローチのシングルを制作、うまくガス抜きが行なわれた。
不意のアクシデントが彼らにとってのクール・ダウンとなってリフレッシュできたため、その後の方向性がブレずに済んだことは、バンドとしても良い結果になった。


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1. ダイヤモンドをおくれよ
 ルーズなテンポのロックンロールからスタート。

  ダイヤモンドをおくれよ オレたちに
  くだけちった 昨日 引きかえに

 ライブ・ヴァージョンはスタジオよりテンポが速く、こちらの方が俺は好み。いつも思うことだけど、蘭丸、あんまり歌わない方がいいと思う。

2. ドント・ウォナ・ミス・ユー
 心なしかポジティヴなテイストのロックンロール。何しろハリーの声が明るい。サビでのハネ具合もちょっとカワイイ。

DontStopTheBeat

3. イージー・アクション
 先行シングル・カットされた、話題作であり問題作。当時ブームとなったカリスマ系アーティストを思いっきりおちょくった歌詞が、ごく一部で物議を醸した。モデルとなったのが大友康平やら尾崎豊やらと言われているが、真偽は今も不明。
 とにかくどのフレーズも皮肉が効いてて、抜粋するのも難しいくらいだけど、ほんの一部だけ。ここが一番好き。

  世界を変えるなんて できない相談だぜ
  いつもトビキリ Rock’n’ Roll
  オレたちゃこれだけ

  鼻歌で Easy Action
  横目で Bye Bye
  悪いけど Easy Action
  かまわず やらせてもらうぜ

 スライダーズのPVはシンプルだけど珍しいアプローチのものも多く、特にこれは異色。ロック・バンドなのに演奏せず、ただスタジオ内でダベりながら飲んでるだけ。でも、それが普段着っぽくて良い。ハリーと蘭丸が談笑してる様、ジェームスが氣志團っぽい扮装でいるのを楽しむのも一興。



4. ベイビー、途方に暮れてるのさ
 本格的なレゲエ・ナンバー。当時の日本のロック・アーティストで、ここまで本格的なレゲエ・ビートを使ったバンドはあまりいなかった。モッズがちょっとやってたくらいで、メジャー・アーティストではほぼ皆無だったはず。この辺はClashの影響も多分ある。
 享楽的なカリビアン・レゲエではなく、陰鬱としたムード漂うジャマイカン・レゲエになっているのは、やはり硬派なロック・バンド。なので、歌詞も重く澱んでいる。
 突き抜ける空は青いはずなのに、ここだけはどんより雲が下りている。

5. 道
 気怠さの漂うダウナーなミドル・ナンバー。タイトル同様、一歩間違えれば演歌のようなメロディ・ラインが情緒的だけど、そこは80年代ソニー・サウンドのプロダクションによるクリアな音質がウェットさを和らげている。
 聴いていると、いつもジャックスを連想してしまう。彼らがハードなギターとリズムを手に入れたら、こんなサウンドを創っていたのかもしれない。

6. サンシャイン・アイ・エンジェル
 60年代UKサイケデリックを思わせる、蘭丸のソロ・ナンバー。賛否両論あるだろうけど、俺的には彼のソロ・ヴォーカルに興味はない。だって、甘いんだもん。

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7. ホールド・オン
 ソリッドで疾走感あふれるノリのよいロックンロール。キャッチーでありながら危うさも持ち合わせた、Stonesのエッセンスをうまく日本的にアレンジできたナンバー。スライダーズのパブリック・イメージをいい意味で凝縮しているので、ファンの間でも人気に高かった曲。Youtubeで見た、この曲から”Boys Junp the Midnight“へ繋がる流れには、鳥肌が立ってしまう。

8. Hyena
 アルバムも後半だというのに、アッパーなナンバーが続く。もっと曲順を前に置いてもよかったんじゃないかと思われるけど、まぁ今さら大きなお世話か。

9. ドント・ストップ・ザ・ビート
 ミドル・テンポのファンク・テイストなポップ・ナンバー。パワー・ポップなサウンドは大抵、もっと鍵盤系やブラス系やらを入れてゴチャゴチャし過ぎて音が汚れてしまいがちだけど、ここではリズム隊が頑張ってリードしているため、下品なひびきになっていない。サビも覚えやすいので、シングル・カットもされており、PVも作られている。相変わらずソニー系PV紹介番組『ez』の流れで制作されているため、変な方向に凝り過ぎたビジュアルになっている。ドーランを塗りたくったハリーの肌の質感が妙。



10. 風が強い日

  丘に登って 見渡していると
  ざわめいた街並 まるで嘘のようさ
  きっとみんな 自分だけの場所を
  守ることに 夢中なんだろう



 ラストを締めくくるのは、これまでの喧騒とは打って変わって、穏やかなスライドの調べ。ベース・ラインも丁寧にリズムを運ぶ。ハリーは相変わらずの酒灼けの喉だけど、なんかそれさえも緩やかな流れに乗って心地よく聴こえる。
 こういった世界観もありなんだな、とスライダーズに対して見方が変わってしまった、今でも大事に歌われているナンバー。




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北海道の中途半端な田舎に住むアラフィフ男。不定期で音楽ブログ『俺の好きなアルバムたち』更新中。今年は久しぶりに古本屋めぐりにハマってるところ。
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