好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

ストリート・スライダーズ

ストリート・スライダーズ 『Nasty Children』


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  マジか。スライダーズが再びステージに立つ。ただ、これが本格的な活動再開なのかどうか。
 -と、実は春頃に書き出して、大方書き終わっていたのだけど、ズルズル引き伸ばしてるうちに武道館はおろか、ライジング・サンも終わってしまった。いつの間に月日は流れ、ただいま全国ツアー真っ最中。すっかりタイミング逃してしまった結果、今に至る。
 現時点で唯一のニュースソースである公式サイトでは、ツアー詳細やグッズ物販など、ほぼ業務連絡のみで、至ってシンプル。よくあるツアーメンバーの集合写真や動画メッセージなんてのは、一切なし。相変わらずの無愛想ぶりだ。
 多くのファンからすれば、再結成自体が奇跡だったため、メンバー自ら情報発信するなんて誰も期待してなかったし、そういう意味で言えば予想通り、逆説的にファンのニーズに沿ってはいる。そんな中、饒舌とは決して言えないけど、ジェームスと蘭丸は時々、X(旧Twitter)でつぶやいていたりして、時代の変遷を感じたりするのだけど、孤高のハリーは相変わらず。逆に饒舌だったら、それはそれで、なんかイヤ。
 ここ数年、ハリーのソロでズズとジェームスが客演したり、ほぼ四半世紀ぶりにハリーと蘭丸によるJOY-POPSが再結成ツアーしたりで、徐々に再結成の機運が高まりつつあったのは確かである。ただ2020年、ハリーが肺ガンを発症して長期休養に入ったため、それどころではなくなってしまう。
 その後、体調も徐々に回復し、いつも通りのマイペースでソロ始動、どうにかスケジュール調整やら根回しやらが済んで、このタイミングでの再結成となった。いくら周りがどうこう言ったり動いたとしても、結局はハリー次第なのだ、このバンド。
 傲慢なワンマンではないけど、ハリーが「また一緒にやる」と言えば、周りはせっせと動いてしまうのだ。だって、また見たいから。
 いまのところ、ツアーファイナルは10/26大阪で、追加公演の予定はなさそう。実はメンバーの中で最もアクティブに活動しているのがジェームスで、11月からライブハウス・ツアーが予定されている。
 スライダーズ再結成以降、5月武道館から8月ライジング・サンまで中途半端なブランクがあったのだけど、この間にもジェームス、地方中心にライブハウスを巡っている。おそらく彼のツアーが先に決まってて、それ前提でスケジュール組んだんじゃないかと思われる。フロント2トップじゃなくて、ジェームスがキーパーソンだったなんて、人生ってやっぱわかんない。
 正直、ソロツアーをキャンセルしてスライダーズでやった方が、集客も収益も段違いなはずだけど、あくまでソロ活動優先という方針が徹底していることが、この活動状況から見えてくる。蘭丸あたりはおそらく、麗蘭以外は全部すっ飛ばして、スライダーズに専念したいんだろうけど。
 今後は多くのベテラン・バンド同様、各自ソロを優先、何年かに一度、スケジュール合わせて短期集中で活動し続けてゆくのだろうか。今どきは「解散」って言い切るより、「長い長い活動休止→適当な頃合いで再始動」ってパターン多いし。
 ジェームスのソロツアーが11月いっぱいまでなので、年末にまた何か動きがあるかもしれない。フェス関連で考えられるのがカウントダウン・ジャパン、またはニューイヤー・ロックフェスといったところ。
 WOWWOWが武道館生中継を仕切っていた流れから、長期密着してるかもしれないし、いろいろ妄想は尽きない。一回くらいシャレでテレビ出演、例えばMステかSONGSあたりが、ダメもとでオファーしてみるとか。もうしてるのかな。

 1990年、10枚目のスタジオ・アルバムとして、『Nasty Children』がリリースされた。特別、ヒットシングルが収録されているわけでもなく、ドラマCMのタイアップも、当然あるわけがない。
 いくつかの音楽雑誌でのインタビュー程度のプロモーションだったにもかかわらず、オリコン最高12位と、なかなかのチャートアクションを記録している。ユーミンバブル真っ只中の百花繚乱なラインナップの中、無骨な彼らのサウンドは、明らかに異色だ。よく売れたよな。
 ライブ動員も好調で、フェスに出演したらメインアクト待遇、CDセールスも安定していたのだけど、地味目な楽曲中心で構成されたこのアルバム以降、メディア露出も少なくなってゆく。おそらくハリーの意向が強く働いたのか、ライブ中心にシフトしたのも束の間、次第に活動ペースもスローダウンし、第一線からフェードアウトしてしまう。
 約5年の沈黙を経て、スライダーズは最期の力を振り絞って、2枚のスタジオ・アルバムを残す。でも、そこまでだった。

 そんな彼らの活動経緯をザックリ分けると、おおよそ3期に大別される。
 ① デビュー〜『天使たち』まで
 ② それ以降〜1度目の長期休養
 ③ 活動再開から解散まで。

 細かい線引きするとキリがないけど、ファンもメディアも、だいたいこんな印象なんじゃないかと思われる。ズズの骨折やら夜ヒット出演やらJOY-POPS始動やら蘭丸ソロ活動やら、いろいろな角度での節目はあるのだけど、厳密にしちゃうとめんどくさいしわかりづらいので、その辺は割愛。
 ① 「初期ストーンズのフォーマットを借用してるけど、むしろブルース要素の強いガレージパンク」が出発点。地道なライブ活動によってバンドの演奏レベルは向上、また各メンバーの音楽嗜好が楽曲に反映されて、ブルース一辺倒からの脱却が垣間見える。
 「粗暴な荒々しさ」っていうか、ほぼそれしか印象にない『SLIDER JOINT』から2年強で『夢遊病』に行き着いてしまった彼ら。楽曲のベーシックな部分は大きく変わってないけど、ドラッグのトリップ状態を想起させるダウナーなテイストは、のちのUS音響派に直結している。そこまではちょっと盛りすぎだけど、同時発生的にアメリカ・インディーでもその萌芽があったのは確か。
 ②  名実ともにスライダーズ黄金期。固定ファンに支えられてライブ動員もレコードセールスも増え、当初から不変だったふてぶてしいキャラが、この辺から浸透してゆく。
 外部プロデューサーやスタジオミュージシャンの積極起用によって、従来のベーシックなロックコンボにホーンやシンセが加わり、ライトユーザーにも敷居が低くなっている。2023年現在もライブ定番であり、認知度の高い「Angel Duster」「Boys Jump the Midnight」は、うっすら耳にしたことのある人も多いはず。
 この時期のネタを引っ張ると長くなるし、以前まとめて書いてるので、できればこっちを参照。




 アクは強いしとっつきづらいし、話しかけてもロクな返事が返ってきた試しがない。とはいえ、まったく浮世離れしてるわけでもなく、おそるおそる頼んでみれば、大抵のことはやってくれる。
 表情は計りづらいけど、案外悪い気はしてなさそう。まぁ相当気は使うけど。
 そんなスライダーズだったけど、この『Nasty Children』前後あたりから、様子が変わってくる。ズズ骨折による最初の活動休止以降、蘭丸のソロ活動が活発になったあたりから、多彩なコンテンポラリー王道路線のレールからはずれ、粗野で朴訥なサウンドへ回帰してゆく。
 周囲の提案を受け入れて、一応付き合ってはみたけど、やっぱ性に合わないのを自覚したのか。もともとハリー、メジャーデビューに前向きじゃなかったし。

 書き下ろした曲をメンバーに聴かせ、アンサンブルを揃える。ライブでやってみて反応見ながら、またリハで、いろいろ直したり削ったり足したり。そうやって少しずつ、レパートリーを増やしてゆく。
 できるだけライブのテンションそのままで、レコーディングに挑む。客前じゃないため、調子合わせるのでまたひと苦労だけど、現場でまたいろいろ試したり。
 完パケした素材をもとに、またライブで調整してみたりアドリブかましたり。初期のスライダーズは、そんな好循環ループが成立していた。手間も時間もかかるけど、結局のところ、それが一番効率がいい。
 人気も知名度も上がってゆくに従って、ライブ本数も会場もスケールアップしてゆく。本人たちの知らないうちにスケジュールがどんどん埋められ、余裕がなくなってくる。
 ふとした合間にギターをいじる余裕も少なくなり、制作ペースも落ちてくる。とはいえ、アルバムのリリーススケジュールは決まっているため、スタジオ入りするギリギリまで苦心惨憺し、どうにかこうにかひねり出す。
 スタジオ入りしてもできてない場合もあり、そうなると、いろいろ妥協せざるを得ない。ライブやリハで試すプロセスはすっ飛ばされ、充分練り上げられないまま、録って出しが当たり前になる。
 楽曲のクオリティが落ちたわけではない。たとえハリーがちょっとスランプだったとしても、そこはバンドの強み、どうにか形にはなる。
 ただ、ハリーが頭の中で描いていた仕上がりとは、微妙に違ってくる。いくら気心知れているメンバーとはいえ、本当のところは誰もわからない。みんな自分のことでさえ、隅々までわかってるとは言い切れないのに。

 前作『Screw Driver』以降、スライダーズのリリース・ペースは落ち、主にライブ主体の活動にシフトしてゆく。アルバムリリース→プロモーションツアーの円環ループを、おそらく自らの意思で断ち切った彼らはその後、ひたすらステージに立ち続けた。
 エピックとのリリース契約もあるから、いくらかはスタジオに入って音合わせしたり、デモ作成くらいはしていたのだろうけど、思うような形にならなかったのかもしれない。幅は広がったけど、深みが足りない。または、その逆かもしれないし。
 で、『Nasty Children』。長期休養に入ること前提で作られたのか、素っ気なく先祖返りしたような楽曲で占められている。
 以前のような引きの強いキラーチューンはなく、ロックコンボの原点に返ったシンプル・イズ・ベスト。キャリアを重ね、いろいろ潜り抜けた後でしか出せない熟練の深みはある。あるのだけれど。
 ハリーが抱えている闇はもっと深く、もっと暗かったのかもしれない。




1. COME OUT ON THE RUN 
 軽快なリフから始まるオープニング・チューン。キャッチーで覚えやすいメロディだし勢いもあるけど、重厚なリズムがどっしり地に足をつけて、浮わついた感を抑えている。
 少し前だったら高揚感あるサビメロで盛り上げてブーストかけるところだけど、手前で踏みとどまっている。
 求めている音は、そういうんじゃない。そういうことなのだろう。

2. CANCEL
 やや荒ぶったハリーのヴォーカルが印象に残る、こちらもネチッこいギターの音が煽るブルース・ロック。ライトユーザーへの配慮なんてカケラもない。

3. IT'S ALRIGHT BABY
 「多彩なアルバム構成?何それ?」的なワンパターンのブルース・ロック。前曲より、こっちの方が南部っぽさが強い。
 よく言えば様式美を追求した、シンプルなロックンロールではあるけど、単純な原点回帰ではない。キャリアを重ねたことで、デビュー時とはテクニックも解釈の仕方も違っている。
 伝統芸とはいえ、保守的ではない。単なるルーティンでは出せない音の厚みと重さは、ベテランならではの味。

4. FRIENDS
 ここでちょっとペースダウン。テンポゆるめでしっとりした、でもちゃんとロックンロールとして成立しているナンバー。
 切ないしっとり感は「ありったけのコイン」っぽい得意のアプローチだけど、ここではもっとカラッとした無常感、「歌はただの歌」という刹那さに満ちている。一時、ハリーの描く歌詞が深読みされたり意味性を深掘りする風潮があったのだけど、そういうめんどくさい外部の雑音を一笑に付してしまう潔さが、全編に流れている。 

5. LOVE YOU DARLIN'
 「レゲエ・ビートを取り入れたロック」じゃなくて、ロックバンドがプレイするルーツ・レゲエ。空虚でありながら重いリズムは、異様な存在感を放っている。
 日本のアーティストがレゲエにアプローチする際、大方はゆるく享楽的なビートにフォーカスする場合が多いのだけど、彼らの場合、当然だけどそんな陽キャな側面は見られない。通常セオリーである8ビートやファンクではなく、質感の違うリズムを選んだ必然が見えてくる。

6. THE LONGEST NIGHT
 ほぼ3コードで押し通した、シンプル極まりないロックンロール。ほんと愛想はないけど、この時期の彼らの本質に最も肉薄している。
 解釈のしようがないベタな歌詞や凝った捻りのない演奏など、結局、ハリーが志向していたのは、こういったサウンドだったんじゃなかろうか。偉大なるワンパターンを繰り返すことで、幅より深みを目指す。
 ひたすら愚直に基本パターンを繰り返す演奏。その円環の果てには、理想のサウンドが見えてくるのかもしれない。

7. ROCKN'ROLL SISTER
 そんなトラディショナルなルーツロックの深みに足を踏み入れながらも、現世との橋渡し的な役割を担っていたのが蘭丸だった。積極的に新たなアプローチをバンドに持ち込み、スライダーズがカビの生えたブルースもどきバンドに陥らなかったのは、明らかに彼の功績である。
 あるのだけれど、でも正直、彼のヴォーカル・ナンバーは…。歯切れ悪い物言いになってしまうけど、まぁそういうことだ。ハリーのちょっとひと息タイム的に、アルバム・ライブで一曲程度なら、まぁ。っていうところ。これ以上、言わせるなよ。

8. 安物ワイン 
 このアルバムの中ではメロディも明確で、『Bad Influence』あたりに入っていても違和感ないキャッチーなナンバー。歌詞は深読みしようがないくらい不器用な男のラブストーリーだけど、サウンドの素っ気なさと合わせるなら、このくらいベタでいい。
 無理やりシングル切ったら、そこそこ好評だったんじゃないかと思うのだけど、もうシングル・リリースなんて興味なかったんだろうな、この時期。ジャケット撮影したりPV作ったりで時間取られるより、ライブがしたい。そんな心境だったのだろう。

9. PANORAMA
 ラス前にフッと力を抜いたロッカバラード。おおよそスライダーズ、以前はサイケやファンク・テイストの楽曲があったり、辛うじて「多彩」と形容できる瞬間もあったのだけど、もうこの辺からはロックンロールとバラードの2本立てしかない。
 朗々としたヴォーカルとカラッとしたリズム、無骨だけど憂いのあるギター。たったそれだけだけど、これらが合わさると…、やっぱモノクローム。彩りを求める人たちじゃないけど。

10. DON'T WAIT TOO LONG
 ラストはちょっと趣が違って、このアルバムの中ではポップ寄り。ギターの音も心なしか浮遊感あるし、リズムも軽やか。
 この時代においても、決して新しい音ではなかった。ユーミン・バブルやバンドブームが華やかだった反面、こういったアウト・オブ・デイトな音楽にも、確実な需要があった。
 ヒット曲を否定する気はないけど、こういう音もないと、風通しが悪くなる。





ポップ路線のスライダーズ最終コーナー - ストリート・スライダーズ『Screw Driver』

news_xlarge_streetsliders_screwdriver_jk 1989年リリース、リミックス・ベスト・アルバム『Replays』を挟んだ7枚目のオリジナル・アルバム。前作の『Bad Influence』、これがオリコン初登場3位と、愛想もサービス精神もない彼らとしては、なかなかの好記録をマークしている。特別、メディアに積極的に出演するわけでもなく、トップ10に入るようなシングル・ヒットがないにもかかわらず、快挙とも言えるチャート・アクションを見せた。
 『天使たち』リリース頃から地道に続けていた、ソニー家内制手工業的な「パチパチ」「ビデオ・ジャム」を活用したビジュアル展開が実を結び、スライダーズのアルバムが大きくヒットする機運は盛り上がっていた。アルバム・リリースと合わせて全国ツアーを敢行、レコード売上に大きく寄与するはずだったのだけどしかし。
 ツアー直前になって、ドラムのズズがバイク事故によって大怪我を負い、予定はすべてキャンセルとなる。ソニーとしては、チケット売り上げも好調だったため、ドラムの代役を入れることも提案したのだけど、バンドの総意として、メンバー以外の音を入れることを拒否、そのまま活動休止状態になってしまう。

 ソニーからやんわりと、「助言」という名の上から目線な提案やら、外堀を埋めるようなソフトな圧力もあったのだろうけど、その辺はどこ吹く風、彼らがまともに聞くはずもない。だってハリーだもん。
 取り敢えず「蘭丸がやりたがってるから」「バンドみんなで決めたことだから」、これまではメジャー展開も渋々受け入れてきたけど、1人欠けるとなると話は別。アンサンブルは最初から組み直しになってしまい、バンドは別物になってしまう。失礼を承知で言うけど、テクニカル面だけで言えばズズよりうまいドラマーはいるだろうけど、ハリーや蘭丸が求める音やリズムを即叩けるかと言えば、これも話は別になる。そこら辺がバンド・サウンドの難しさであり、醍醐味でもあるのだけど。
 どちらにせよ、人見知りでぶっきらぼうで不愛想なハリーが、そうそう新メンバーと馴染めるはずもない。

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 ドラム・ベース・ギターという最小限の編成で、ブルースをルーツとしたロックンロール・バンドは星の数ほどいるけど、長らくその頂点に君臨し、最も成功しているのRolling Stones。異論はないよね。
 シンプルなブルースのカバーからスタートして、多少の紆余曲折はあれど、「ロックがビジネスとして成立する」ことを証明したのは、彼らの功績である。ライブのエンタメ化やパッケージング、ディスコやドラムンベースなど、旬のサウンドをちょっとずつ取り入れてアップデートし続け、彼らは不動の地位を築いた。単にコツコツ同じブルースばっかり演じていたわけじゃないのだ。
 魑魅魍魎が跋扈するエンタテインメントの世界をサヴァイヴしてゆくためには、戦略を司る参謀が必要不可欠となる。その役目を担っていたのが、ご存知Mick Jaggerだったというわけで。

 「ロックが金になる」というビジネスモデルは、70年代以降に定番フォーマットとして、急速な発展を遂げることになる。AerosmithもAC/DCもRCサクセションも、キャリアの節目で積極的にメディアとコミットし、広く世に知られることによって大衆性を得た。どれだけ良い音楽をやっていようとも、多くの人に伝わらなければ、バンド運営は先細りしてしまうのだ。
 スライダーズ自身、本当にそういった途を望んでいたのかどうか―。まぁ売れないよりは、売れる方がよっぽどいいに決まってる。できるだけ自分たちのスタンスを崩さぬまま、当時のソニー戦略に乗っかったことによって、スライダーズは思惑以上の支持を得るようになる。多分に蘭丸あたりが一番乗り気で、それでハリーが「しゃあねぇなぁ」といった風に付き合ってたんじゃないかと思われる。ズズとジェームズ?「まぁ好きにしろよ」ってな感じで。

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 もし彼らがソニー・メソッドに乗らず、細々と小規模のライブハウスを回る途を選んでいたとしたら―。
 それほど語り継がれることもなく、せいぜいアングラ・シーンの片隅に記憶される程度の存在で終わっていたことだろう。もともとハリー自身、レコード契約にはあんまり乗り気じゃなかったみたいだし、もっとマイペースな活動を望んでいた節がある。そのまま解散せずに細々と活動し続けていたかもしれないし、それともいつの間に自然消滅していたかもしれないし。

 で、この活動休止というハプニングが、彼らにとってのターニング・ポイントとなった。特にハリー。
 取り敢えず蘭丸に付き合う形で、これまでイヤイヤながらソニー・メソッドに乗っかっていたけど、なんかもうめんどくさくなっちゃったんだろうな。彼のテンションは急速に冷めてゆく。もともと、自由奔放にギターをかき鳴らして「ゴキゲンだぜベイベー」と歌っちゃうタイプなので、それ以外の些事にはとんと興味がないのだ。
 まぁ不謹慎ではあるけれど、「これまでさんざん振り回されてきたんで疲れちゃったし、バンドも稼働してないんだから、これを機にゆっくり休もうかな」とでも思ってたんだろうな。
 蘭丸もまた、スライダーズがメジャーになったことによって注目を集め、ソロ活動が増えている。人を寄せ付けない雰囲気を撒き散らしていたハリーに比べ、蘭丸は外部とのコミットにも積極的だったため、自然と人脈は広がってゆく。そうすると自然、これまでのようなベーシックなロックンロールだけじゃなく、ファンク・ビートなど他のジャンルにも興味を持つようになるのは、いわば当然の流れ。

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 一度動き始めてしまったシステムを止めるには、最初に投入した以上のエネルギーが必要になる。望む/望まないにかかわらず、すでにソニーのヒット・システムに取り込まれていたスライダーズもその例に漏れず、開店休業というバカンスの間にも、何らかのアクションを求められることとなる。
 「せっかくだったらスライダーズと違うことやろうぜ」といった経緯かどうかは不明だけど、何となく始めたのが、ハリーと蘭丸2名によるアコースティック・ユニット「ジョイ・ポップス」である。
 バンド再開までの繋ぎというか暇つぶしのユニットであったため、具体的な成長戦略やらビジョンやらをきっちり決めてスタートしたわけではないので、残された音源はシングル1枚のみ。しかも、スライダーズと蘭丸ソロとの抱き合わせによるシングル・セットでの販売である。言っちゃ悪いけど、在庫処理的なやり方だよな。バンド側としては大して売る気なさそうだし。

 ジョイ・ポップスとしての活動はほぼフェスやイベントに限定されており、ソロでのライブは行なわれていない。なので、生で見られた人は、かなり限られている。
 さらに数は少ないけど、テレビ出演時の動画が残されており、今ではYouTubeでも簡単に見ることができる。シンプルな白一色のスタジオで、溝口肇ストリングス・カルテットをバックに、ハリーと蘭丸はアコギを掻き鳴らしている。無精ヒゲを生やしたハリーを見るのは、かなり珍しい。やっぱ気持ちの中ではオフなんだろうな。
 アコギを弾く彼らの姿というのはかなりレアで、バンドではまず見られないアプローチである。グルーヴ感とは対極のサウンドであり、これはこれで枯れた趣きがあって良いのだけど、まぁ彼ら手動のアイディアじゃないよなまず。斜め上のスカしたディレクターの発案に、蘭丸が乗り気だったから一応話には乗ったのだろうけど、ハリーにとっては暇つぶし程度の余技だったんじゃないかと思われる。

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 そんな課外活動を経てズズが復活、再度スライダーズのメジャー化戦略は仕切り直しとなる。その成果として形になったのが『Screw Driver』なのだけど、前2作とは違って原点回帰的なロックンロールが大きくフィーチャーされている。反面、『天使たち』〜『Bad influence』で展開されていた、ロックンロール以外のアプローチをバンバン持ち込んでいた蘭丸のカラーは、ちょっと薄れている。
 キャッチーなメロディを持つ曲は、シングルカットされた「ありったけのコイン」くらいで、他の曲では骨太な4ピース・ロックへの回帰が窺える。言っちゃえば地味だよな。
 ちなみにアルバム・リリースを控えたスライダーズ、この時期には記念すべき「夜ヒット」初出演を果たしている。そこでは最も知名度の高い「Boys Jump The Midnight」を披露しており、既存ファンが狂喜乱舞したことは当の然、新規ファンの獲得にも大きく寄与した。お茶の間で家族が集まってテレビを見ている時間帯に、彼らのようなガレージ系のサウンドが流れることが少なかった時代だったため、そのインパクトはかなりのものだった。
 なので、彼らのレパートリーの中では最も聴きやすい「Boys Jump The Midnight」のようなナンバーを期待した新規ファンにとって、この『Screw Driver』は、ちょっととっつきにくいアルバムである。何十回も聴いてきた俺でも、たまに聴きたくなるくらいだし。
 聴けば聴き込むほど。新たな発見も多いアルバムではあるのだけれど、一見さんにはちょっと敷居が高いのかな。

 もしもの話、ズズの事故がなくて、彼らがそのままメジャー路線を突き進んで行ったとしたら、一体どうなっちゃってたのか。
 バブル期というご時勢ゆえ、化粧品のCMソングに起用されていたかもしれないし、「笑っていいとも」のテレフォンショッキングにも出演していたかもしれない。いやないか、あんな無口なハリーが生放送を承諾するとは思えないし。
 多様な方向性として、ハードでラウドなスライダーズ本体と並行して、ブルース・フィーリングを漂わせるアコースティック路線のジョイ・ポップスとの両立も、実験の一環として面白い試みだったんじゃないかと思われる。

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 ほんと最近になってハリー、蘭丸と電話で会話をした、とのこと。やっぱメールやラインじゃないんだな。特別、具体的にどうこうではなく、「最近どう?」と、軽く言葉を交わした程度。ただそれだけだ。
 もともと、言葉が多いタイプではない。言葉がなくても通じるのがこの2人だし。ギターがあれば、もっと近づけたかもしれないけど、まだその時期ではないのだろう。
 ハリーは蘭丸のことが気になり、そして蘭丸は淡々と、でも嬉しそうにTwitterでつぶやいた。
 まぁゆっくりと。前を向いて一歩ずつ。

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1. 風の街に生まれ
 まんまStonesオマージュのロックンロールがオープニングを飾る。セミアコっぽい間奏のギターは、わりと珍しい。
 基本、ノマドなスタンスのハリーなので、ロックンロールのキャラクターとしては典型的に、「お前しだいさ」と突き放した言葉を投げかけている。一聴すると無愛想な態度だけれど、ちゃんとその後、「誰かが呼んでるはずさ」と付け加えている。単なる破滅キャラではないのだ。

2. Oh! 神様
 ホーン・セクションと絡むギター・プレイが粋でいい。これもStonesだよな。ブルスとホンキートンクとのハイブリッドを聴かせるバンドは、当時の日本では彼らかボ・ガンボスくらいだったよな。

3. かえりみちのBlue
 カントリー・ロック的にゆったりしたビートの、抒情的なナンバー。ファンの間では根強い人気がある。ぶっきらぼうな口調ながら、どこか人間くささが感じられるのが、親近感が湧いてしまう。そりゃそうだ、ハリーだって仙人じゃないし。まぁこれ以降の90年代はなかば世捨て人みたいな感じだったけど。

4. Baby, Don't Worry
 アルバム・リリース直前にリリースされたシングル。ここまでちょっとポップだったりルーズな曲調が多かったけど、ここに来てタイトなリズムとソリッドなギター・プレイがギュッと凝縮されている。アンサンブル全体に緩急がつけられているため、音の奥行きが生まれている。手クセみたいなコードやメロディなのに、なんでこんなカッコいいんだろう?



5. Hey, Mama
 こちらもソリッドなリズムをベースとしたハード・ブギ・チューン。蘭丸を中心としたコーラスが相変わらず脱力してしまうけど、サウンド自体はめちゃめちゃグルーヴィー。

6. Yooo!
 スライダーズ流のダンス・チューン。だって「踊れ」って言ってるんだもん。蘭丸のカッティングがファンク・マナーなので、演奏だけ抜き出せばファンキーさ満載なのだけど、やっぱりハリーの声は踊れるムードが出ない。まぁ縦ノリじゃなくて横ノリのリズムだから、それはそれでいいか。

7. おかかえ運転手にはなりたくない
 ハリーの個人的色彩が強い、ファンの間でも地味に人気の高いブルース・タッチのバラード。彼が書くバラードのメロディはバタ臭さが少なく、むしろ日本人にとっては親しみやすい歌謡曲的なとっつきやすさがある。こういったところが大衆性を勝ち得たところなのだろう。
 いくら友達や仲間とはいえ、彼の中には誰も踏み込めない境界線がある。もちろん、そんなのは誰にだってあるのだけれど、ハリーの場合、その範囲がとてつもなく広いのだ。我々が知っているハリーとはほんの一部でしかない。どれだけ距離を詰めようとも、彼は自我の中心でひっそり膝を抱えている。一番近い存在だった蘭丸でさえ、伸ばした手は届かない。
 それは今も続いている。

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8. Rock On
 シンプルなリフを中心に組み立てられた、アルバムに必ず1曲は入っている、他メンバーによるナンバー。最初は蘭丸かと思ってたけど、これってジェームスなんだってね。どうりでなんか違うと思った。指摘してくれた人、ありがとう。
単純な構造のブギだけど、それが逆に良い方向へ向いているんだよな。だからと言って好きというほどじゃないけど。

9. ありったけのコイン
 アルバム・リリースよりだいぶ先行してリリースされたリード・シングル。オリコンでは最高34位を記録しているように、ビギナーにとっても間口の広いサウンドに仕上げられている。「Boys Jump the Midnight」に代表されるアッパー・チューンとは対極的に、日本人にもなじみの深い情緒あふれるフォーク・ロック調にまとめられていることによって、新たな一面が鮮烈に浮かび上がった。
 「ありったけ コインかき集めて 飲んだくれ お前とどこへ行こう」
 金はないけど時間だけはたっぷりある、モラトリアムな青春時代の情景を切り取った、リア充でもオタクでもない、大多数のコミュニティとは無縁の所で生きてきた者たちへのノスタルジーが刻み込まれている。



10. いいことないかな
 ヴォーカルにもバッキングにも薄くエフェクトをかけた、スライダーズの十八番と言えるハード・ブギ。全員に見せ場があるアンサンブルは、ラストを飾るにはふさわしい。古典ブルースにならった歌詞はネガティヴだけど、それを笑い飛ばしちゃうようなサウンドのグルーヴ感が濃い。やっぱバンドが好きなんだな、ハリーは。


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80年代ソニー・アーティスト列伝 その1 - ストリート・スライダーズ『天使たち』

1200x1200-75 多分、今の人はあまり知らないだろうけど、80年代のソニー(現SME)はCBSとエピック、2つのレコード会社に分かれていた。
 同じ企業グループでわざわざ別会社にしているくらいだから、一応それぞれに特色があり、1968年に設立されたCBSは、山口百恵や松田聖子などのアイドル歌謡曲から、大滝詠一や尾崎豊などのポップ/ニュー・ミュージック系まで、比較的ソフト・サウンディングの広い範囲の音楽をカバーしていた。
 で、1978年にCBS内レーベルから独立分社化したエピックは、CBSでフォローしていないジャンル、ロックやニュー・ウェイヴ系などを主に取り扱っていた。初期の代表的アーティストとしては、佐野元春や一風堂、シャネルズなんかが有名どころ。まぁクセの強いメンツである。

 で、今回のストリート・スライダーズ、知ってる人なら予想はつくと思うけど、もちろんエピックのアーティストである。CBSアーティストのようなキラキラ感は、あるわけない。そういったポジションのアーティストではないのだ。
 ていうか、実は彼ら、特別エピックを象徴するアーティストでもない。そういったカテゴライズを拒否した、ある意味オンリー・ワン、孤高の存在的なバンドなのだけど、シリーズ一発目はどうしても彼らを取り上げたかったので、ここで紹介。

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 彼らのサウンドの特徴をあらわす例えとして、「Rolling Stonesと村八分の融合」という表現が用いられることが多い。ワイルドでシンプルなロックン・ロールという点において、Stonesとリンクする部分は多いけど、そのフォロワー的バンドである村八分を引き合いに出すのは、昔からちょっと疑問に思っていた。
 デビュー当初に醸し出していた、ネガティヴな暴力性とミステリアスなバンド・イメージ、ステージや取材で露骨に見せる不遜な態度が、往年の70年代ロック・バンド的イメージと相まって、ひと括りに捉えられたのだろうけど、実際に音源を比較してみると、双方の違いは歴然としている。
 シンプルなテンポと、ドライブするツイン・ギター・アンサンブルを中心としたロックン・ロールがベースとなっているのは同じだけど、アングラの臭いを引きずった村八分が、スキャンダラスな歌詞世界と破綻寸前の演奏、ヴォーカルのチャー坊の強烈なパーソナリティがセールス・ポイントだったのに対し、スライダーズも同じく、暴力的な歌詞やタイトルのインパクトは強かったものの、演奏はあくまでクレバーで、飛び道具に頼ったステージングではない。むしろライブ・パフォーマンスは淡々としており、一見熱いライブに見えても、ヴォーカルのハリーを始め、メンバーのプレイはいつもどこか冷めきった印象が強い。
 パフォーマンス的な部分を強調することによって、その存在だけは日本のロック史に残っているけど、バンド存命中は遂にまともなスタジオ録音アルバムや代表曲を残せなかった村八分。この違いはいろいろあるのだろうけど、一番大きいのは「バンド」として機能しているかどうか。スライダーズの場合、ヴォーカル兼サイド・ギターのハリーと、メイン・ギターの蘭丸が2トップで目立ってはいたけれど、バンドの屋台骨であるリズム・セクション、ズズ(dr)とジェームス(b)の存在が大きかったため、ライブが収拾不可能になることはなかった。
 「ロック」をやりたいのか、それとも「ライブ」をやりたいのか、の違いである。

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 スタートはこの手のロック・バンド同様、彼らもまた手本としていたのは、『Let it Bleed』以降、Bryan Jonesが事実上脱退してからのStonesだったけど、アルバム・リリースとライブを重ねるにつれて、ガチャガチャしたバンド・アンサンブルが次第に整理され、曲調のバリエーションも増えてゆく。これはバンド自体の演奏力の進化の賜物でもあるし、また、それに伴うハリーのソング・ライティング・スキルの進化とも直結する。
 で、これまでのステージから一気に飛躍しようと思い立ったのは、エピックからの要請だったのか、それともバンド自身が変化を望む時期に差し掛かっていたのか―。
 前作『夢遊病』が比較的好セールスを記録したこともあって、レコーディング予算がアップ、エピック側のコーディネートによって、これまでとは違って、ミュージシャン畑のプロデューサーがつくことになる。

 ブレイク寸前のBOOWYから近年の早川義夫まで、ジャンルに関係なく幅広いアーティストを手がけていた佐久間正英、四人囃子〜プラスチックスを経て、こちらもかなりクセのある人である。自らも現役ミュージシャンという強みを活かして、サウンド・メイキングが未熟なバンドに対し、かなり具体的かつテクニカルなアドバイスができるため、現場の評判も良かった。それでいてきちんとセールスに繋げることもできるため、レコード会社的にも重宝されていた。

 当時のスライダーズのレコーディングといえば、ほぼスタジオ一発録り、細かなミックスやエフェクトにこだわることは、彼らの美学が許さなかった。
 なので、この佐久間の起用によって、『夢遊病』から実験的に導入されていたゴシック要素にプラスして、リアルタイムのニュー・ウェイヴのノウハウがもたらされ、サウンドは明らかに変化している。
 基本はこれまで同様、Stonesフォーマットのルーズなロックンロールながらも、深いゲート・リバーヴや、強力にイコライジングされて歪んだ音色のギター・サウンドなど、UKニュー・ウェイヴ、特に4AD系のエッセンスを積極的に導入している。
 ありそうでなかったStonesとBauhausとの奇跡的な融合は、これまでスライダーズに興味がなかった層にもアピールしたため、潜在的なファンの掘り起こしに貢献した。

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 この『天使たち』のサウンドが、ほんとにバンドの望む方向性だったのか、それは神のみぞ知るところだけど、それまでレコーディング自体にさほど興味がなかったハリーがその後、ギター+ベース+ドラムの基本編成だけでなく、ブラスやシンセなど、他のアイテムにも興味を持つようになったことは、バンドにとっては一つの進化である。
 その変容はとどまることを知らず、Sex & Drug & Rock'n' Rollのトライアングルで円環していた歌詞の世界観が広がりを見せ、次のアルバム『Bad Influence』収録「風が強い日」で見事結実する。

 佐久間によるスライダーズのコンテンポラリー化は、新規ファンの獲得と、バンドのメジャー契約継続によって、その後のバンド運営に明確な道筋をつけた。
 ハデなエフェクトやスッキリしたサウンド・プロダクションによって、外面的な変化はあったけど、根幹の部分は何も変わってない。ハリーはいつも通りのマイペース、バンドを壊さない程度に新味を持ち込む蘭丸、いつも無言ながらも重厚な存在感でリズムを支えるズズとジェームス。
 とは言っても、古参ファンの中ではこのアルバム、結構賛否両論だったらしく、従来通りのルーズなロックンロールを求めていた者は、ここから離れてしまうケースも多かった。
 ただ、そこの部分だけを大事にしていても、前に進むことはできない。
 「ロックンロールは進化できるものだ」と、かつてKeith Richardsは言った。
 ロックする事は誰でもできるけど、ロールすること、転がり続けて行くためには、何かを捨てることも必要なのだ。


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1. Boys Jump The Midnight
 冒頭の、何か得体の知れない不穏を想起させるハリーのギター・ソロ。けれど曲が始まると、ノリの良いいつものゴキゲンなロックンロールだった。これを、あの夜ヒットで演奏したのをリアルタイムで見たのだけれど、そのまぁカッコイイこと。
 バンドとしての代表曲だけあって、いろいろと映像が残っている。カラオケにも入っているので、認知度は一番高い。
 初期のファンほど、この曲に拒否感を示す。特に『がんじがらめ』あたりまで残っていた倦怠感、デカダンな雰囲気が薄れ、あっけらかんとしたロックンロールになっているのが気に食わないのだろう。
 ―いいから聴けよ。
 単純にゴキゲンなロックン・ロールの何が悪い。シンプルなものほど、人にはダイレクトに届きやすいのだ。



2. スペシャル・ウーマン
 重いベースと、ゲート・エコーをバリバリ効かせたリズム・セクションががんばっているナンバー。スライダーズはリズムがしっかりしているのがデビュー当時より定評があり、よってこの曲もリズムが立っており、イイ感じのダンス・チューンになっている。
 Stonesだって"Miss You"など、思いっきりディスコ・サウンドへ振り切った曲もあるけど、ロック・バンドのダンス・チューンとしては、日本のスライダーズの方が有能。佐久間がブラス・セクションで彩りを添えているけど、サウンド自体は盤石でビクともしない。それだけ曲・アレンジのベースがしっかりしているということ。



3. Back To Back
 こちらも基本はロックンロールながら、リズム・セクションがノリノリのため、良質のダンス・チューンになっちゃっている。このアルバムでの蘭丸のギター・プレイは、多分この曲が一番冴えわたっているんじゃないかと思われるけど、あの印象的なリフ中心のハリーのプレイもなかなか。ていうか、なんだ全部いいじゃねぇか。
 この当時隆盛だった12インチ・シングル・ヴァージョンもリリースされているのだけど、冒頭のギター・リフが左右にパンされており、いかにもダンス・ミックスっぽくなっているのだけど、躍動感はオリジナルの方が強い。いや、それだけ良くできてるんだって。



4. 蜃気楼
 アクセントで入ってるアコギの使い方は、やっぱりStonesっぽく聴こえてしまう。スライダーズとしてはマイナー調のメロディが引き立っている曲で、ちょっと気を抜くとフォークっぽくなってしまうのだけど、ハリーの吐き捨てるようでいて丁寧なヴォーカル、それにしっとりしそうな曲でも全力でプレイするリズム・セクションが作用して、きちんとロックになっている。
 でもあれだよな、敢えて言っちゃうと、ちょっとギターがクリア過ぎ。音の分離が良すぎてロックを感じなくなった、というのも、初期のファンが離れちゃった要因なんだろうな。

5. VELVET SKY
 サビのメタル・パーカッションがプログレっぽく聴こえてしまうのは、やはりプロデューサー佐久間だからか。初期の退廃さを想起させる曲だけど、やはり演奏力・表現力も向上によって、ベーシックなロックンロールからの進化が見えてくる。

6. Angel Duster
 1.同様、これが起爆剤となって一気にファン層が広がった。俺もこの曲で初めてスライダーズを知った、自分的にも大事な曲。
 ロックというのがノリが良いモノだけじゃないこと、単に気持ちイイことだけがロックじゃなく、時には自ら傷を負うことも必要であることを、この曲から学んだ。
 ギターの音色はこれが一番エフェクトを強くかけており、アラビックな響きのサウンドはニュー・ウェイヴというフィルターを通過して、オンリー・ワンの響きになっている。



7. Bun Bun
 ここらで息抜きなのか、思いっきり意表をついて、どシンプルなロックンロール。似たような曲、RCもやってたよな。こういったブルース経由のロックンロール、もとはもちろんChack Berryなのだけど、シンプルだからこそバンド自体の技量が問われる曲でもある。

8. Lay down the city
 蘭丸のヴォーカルによる、こちらもちょっと息抜き的なナンバー。まぁギタリストが余技で歌いそうな曲なので、あまり厳しいことは言えないけど、たまにはこんなのもいいんじゃね?的な曲と思ってもらえればよろしい。

9. Shake My Head
 ギターの音色は思いっきりXTCなので、これは佐久間か蘭丸が持ち込んできたと思われる。ハリーもXTCなんか聴くのかな?まぁ誰かが聴いてるのを耳にはしてるだろうけど。
 こういったダウン・トゥ・アース的なブルース丸出しの曲に、このギター・サウンドは結構発明なんじゃないかと思うのだけど、多分、海外の誰かがやってるのかな?

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10. Up & Down Baby
 またまた蘭丸ヴォーカルのナンバー。当時の彼はほんと中性的なルックスで、ある意味スライダーズのビジュアル面を大きく担っていたため、営業政策上、彼メインの曲もいくつかは必要だった。ギタリストゆえ、どうしてもなんちゃってヴォーカルになってしまうのだけど、彼目当ての女性ファンが多かったため、これはこれでよかったのだろう。

11. NO DOWN
 再びハリー登場。このギターもかなり音色をいじっているのだけど、これはこれでハリーも気に入っているよう。シンプルな構造のロックンロールなので、ちょっとやそっとのエフェクトでは曲は壊れない。
 実はメロディはかなりポップで、コード進行にはBeatlesの影響も垣間見える。そりゃそうだよな、何が何でもStones一筋ってわけじゃないだろうし。

12. Party Is Over
 これって思いっきり”Street Fighting Man”だったことを、今回久しぶりに聴き返してみて初めて気づいた。モロだよな、これ。
 パクリと言いたいのではなく、「うまく消化してるんだな」という優しい目線である。

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13. 嵐のあと
 後の"風が強い日"の前哨戦とも言える、かなり身に詰まされた情緒的な歌詞が印象的。でもハリーのキャラクターなのか、どれだけウェットに傾いても、発せられる言葉はとてもドライに聴こえてしまう。




 スライダーズ解散後、ソロとしてマイペースな活動振りのハリー、もともとプロモーション的な活動には消極的で、今もそれはあまり変わっていない。
 一応オフィシャル・サイトもあるのだけど、何しろ本人からの情報がかなり少ないので、ほんと簡素なインフォメーションくらいしかネタのない状態が続いている。
 -でも俺は俺で、どうにかやってるぜベイビー。
 そう言いながら飄々と生きる、ハリーの生き方もまた、憧れの人生のひとつである。



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北海道の中途半端な田舎に住むアラフィフ男。不定期で音楽ブログ『俺の好きなアルバムたち』更新中。今年は久しぶりに古本屋めぐりにハマってるところ。
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