好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

#Jazz Funk

この夏、思いのほか大ヒットしちゃったジャズ・ファンク - Cookin' On 3 Burners ‎『Blind Bet』

folder ちょっと前だけど、今年の夏の話。Electro Deluxeのニュー・アルバムがそろそろリリースされる、という情報が入ったので、「そう言えば、フランスのヒット・チャートで彼らのポジションって、一体どの辺なのだろう?」と何となく思いついて調べてみると、それをすっ飛ばすくらいビックリしちゃったことがあったので、今さらながらピックアップ。

 フランス出身のKUNGS(クングス) という、もうすぐ20歳のアーティストがいる。トランス方面はほぼまったく範囲外の俺にとって、彼はまったく未知の存在である。KUNGSが取り扱う主なジャンルは、フレンチ・ハウスやプログレッシブ・ハウス、いわゆるトランス/EDM系なので、さらに俺の住む世界とはまったく違う人である。EU圏は彼らのようなDJが活動しやすい環境が整っており、各国のクラブ・イベントを回るだけでも十分食っていけるようになっている。実際、年収1億というトップDJも結構いる、とのこと。あくまでクラブ系ド素人である俺が小耳にはさんだ程度の情報なので、深いところは各自で調べてみて。

 で、そんな若干18歳でデビューしたKUNGS君、3枚目のシングルとしてリリースしたのが、「This Girl」。Cookin’ on 3 Burnersファンなら誰でも知ってる、2009年リリースされた2枚目のアルバム『Soul Messin'』収録曲、オーストラリアの歌姫と称されることも多いKylie Auldistをゲスト・ヴォーカルに迎えたオールド・スタイルのソウル・ナンバーである。
 彼がどんな経路でこの曲を知ったのかは不明だけど、素材の魅力を感じ取ってクラブ用にリミックスを施してリリースしたところ、あれよあれよの大ヒット。フランス・ドイツではチャート1位を獲得、UKでも最高2位をマークし、他EU諸国でも軒並みトップ10圏内に入っている。
 若年層中心のクラブ・シーンを意識した、アーティスト本人らがほぼ出演しない、ストーリー仕立てのMVというのも、ヒットした要因のひとつだろう。むさ苦しいオジサン3人と、決してフォトジェニックとは言えない女性シンガーでは、ビジュアル的に間が持たないしね。



 リミックスとは称しているけど、KUNGSのやったことと言えば、ちょっとしたEDM風エフェクトと間奏の付け足しくらいで、原曲のイメージはほぼそのまんまである。なので、数は少ないけど確実に存在する世界中のCookin’ on 3 Burners 、またはKylie AuldistファンにとってはKUNGS様々と言っても良い。先月、札幌のGAPの店内でBGMでこれが流れてきて、あぁやっと日本にも伝わってきたんだな、とちょっと嬉しくなってしまった。

 すっかりトップDJの座に君臨することになったKUNGS君だけど、DJという性質上、彼らとのコラボもワンショットであり、今後の動向は素材選び次第にかかっている。普通のミュージシャンと違って、まったくの無から有を創り出すという制作スタイルではないので、そうそうヒットを連発できるものでもないけど、まぁがんばって欲しい。多分聴き続けることはないけどね。
 便宜上、コラボということになっているけど、正確にはリミックス素材を提供しただけ、という立場のCookin’ on 3 BurnersとKylie Auldist。今回、彼らが何か事を起こしたわけではなく、言ってしまえばKUNGSがたまたま拾い上げてくれただけ、だいぶ前に制作した楽曲が世界レベルのリバイバル・ヒットになって棚ボタ的なラッキーに巡り会ってしまった。
 おかげで今年の夏、EUで最も再生回数の多かったバンドがCookin’ on 3 Brunersという、何とも不可思議な状況になった。うん、書いてみても何か変な感じ。

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 今回のヒットにバンド側も気を良くしたのかどうかは不明だけど、Kylieと行動を共にする機会も多く、現在、彼女が行なっているオーストラリア国内ツアーにはほぼ帯同している。もともと母体のBamboosが国内ではそこそこの存在になっていたため、知名度はあったはずなのだけど、ここに来ての突然の大ヒットが功を奏し、ライブはほぼソールド・アウトが続いている。このまま行けば、来年からの展開も変わってくるのかもしれない。
 メジャー化を目論むジャズ・ファンク・バンド。何だか反語的表現だな。

 マニアの間では好評だった『Soul Messin’』後、実はバンドの状況は大きく変わっている。先ほど母体がBamboosと書いたけど、そのBamboosとの兼任メンバーであり、言いだしっぺだったリーダーLance Ferguson、2013年を最後にグループを脱退、入れ替わりにDan West (g)が加入している。バンドの持ち味であるリード楽器が変わってしまえば、普通ならもう別バンドと言っても良さそうだけど、所属レーベルのFreestyleはそのままだし、基本はJake Masonのハモンド・オルガンがメインなので、大幅な変化は見られない。
 Lance自身もプロデューサー&スーパーバイザー的なスタンスで関わっており、自身のHPでも普通に新譜のインフォメーションを行なっているので、関係が険悪になったとは考えにくい。そのLance自身がBamboos以外にも、あちこち別プロジェクトに手を出してしまうため収拾がつかなくなり、とりあえずバンド運営的に安定してきたCookin’~から身を引くことにした、というのがホントのところだろう。

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 で、今回紹介するのはLanceが抜けた後、2014年に発売された3枚目のオリジナル・アルバム。基本的なジャズ・ファンク路線は変わらないのだけど、これまでになくブルース色が強く、比例してジャズ・テイストはちょっぴり薄めになっている。全11曲中6曲にゲスト・ヴォーカルが入り、Kylieの出番は2曲、他4曲は男性がヴォーカルを取っている。そのせいか泥臭さが増してマニッシュな印象が強くなったことが、バンドの新機軸。とは言っても前に書いたようにLanceはある程度フィーチャーされているらしく、ジャケットにも彼の名前は残っており、Danのクレジットはない。この辺はレコーディング時のタイムラグがあったようで、ほぼ全て録り終わってからのメンバー・チェンジらしい。
 思うに、国内ではすっかりメジャー・バンドとしてのポジションを確立してしまったBamboosが、さらなるワールドワイド戦略の一環として、万人向けのコンテンポラリー路線に移行しちゃったため、その反動で趣味性に走ったことが要因と思われる。ポピュラリティを得ることは二の次で、Bamboosではマニアック過ぎてやりづらいことをやるために拵えたプロジェクトなので、それはそれで良いことなのだけど。実際、極上のジャズ・ファンク路線は一部マニアには歓迎されていたし。

 そんな路線変更の最中での、この降って湧いたかのような「This Girl」大ヒットである。正直、Bamboosよりも売れてしまったがため、今後は大幅な軌道修正も考えられる。バンドの今後の方向性の道筋をつけ、地道なジャズ&ブルース・バンドとして独り立ちできるようになった頃合いを見て手を引き、Bamboosでのグローバル展開を目論んでいたはずのLance。レーベル・オーナーとしては喜ぶべきことだけど、やっぱ複雑だよね、ミュージシャンとしては。
 俺的にはジャズ・ファンク、男性ヴォーカルよりむしろ女性ヴォーカルの方が好みなので、今後あり得る路線変更には期待したいところ。ただ、これってあくまでまぐれ当たりみたいなものだから、あんまりクラブ・シーンに接近し過ぎないでね。基本のバンド・サウンドあっての大ヒットなんだから。あまりEDM/トランス寄りになっちゃうのも考えものだから。


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Cookin' On 3 Burners
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1. Skeletor
 ライブのオープニングを思わせる、シンプルなインスト・ナンバー。名刺代わりのような3分間。それぞれのソロをフィーチャーするのは定番。ベースレスでここまで思いグルーヴを出せるのは、やはりバンドのボトムがしっかりしているから。

2. Flat On My Back (feat. Tex Perkins)
 ディープ・サウスを思わせるフレーズに続き、泥臭いダミ声を聴かせるのは、オーストラリアのブルース・バンドDark Horsesのリーダー兼ヴォーカルのTex Perkins。80年代初頭から活動している人で芸歴は長い。声質からもっと年配のブルース・マンかと思ってたけど、写真を見るとバブル臭の残るアラフィフ白人だった。

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3. You Got The Better Of Me (feat. Jason Heerah)
 初期モータウンを思わせるポップ・ソウル・チューンでヴォーカルを取るのは、オーストラリアのヴィンテージ・ソウル・グループElectric EmpireのJason Heerah。ハッピーな気持ちにさせてしまう歌声は、ついつい口ずさんでしまいたくなり、体も反応してしまう。Electric Empire自体はもう少し70年代ニュー・ソウルっぽさも加味したモダンなサウンドなので、こちらもオススメ。

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4. Losin' Streak (feat. Daniel Merriweather)
 ホーンが入ったりしてサウンドが分厚くなる。そのElectric Empireっぽさが出た洗練されたサウンドでヴォーカルを取るのは、ソロ・シンガーDaniel Merriweather。2009年にはMark Ronsonプロデュースでアルバム・リリース、UK最高2位まで入る大ヒットを記録したのに、その後はなぜか活動が停滞、もっぱらレコーディング主体の活動を続けている。
 34歳という若さもあって声に張りがあり、ここまで出てきた男性ヴォーカリスト3人の中では最もサウンドにフィットしている。どっぷりブルースより、このくらいのライト・ファンクが彼らには合っている。

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5. Blind Bet
 再びインスト・ナンバー。なぜかリズムが人力グラウンド・ビート。そこにハモンドとシンセ音源のストリングスが絡む、ちょっぴり実験的なナンバー。後半のギター・サイケ的なサウンドは80年代を想起させる。

6. Last Man Standing (feat. Harry Angus)
 感傷的なソウル・バラードでヴォーカルを取るのは、またまたオーストラリア、ミクスチャー・ロック・バンドCat EmpireのHarry Angus。歌メロがはっきりしたマイナー・チューンは、大抵の日本人の心の琴線を揺さぶる。バンドはあまり前面に出ていないけど、ホーンのスタックスっぽさは絶品。

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7. The Spanish Job
 100人中99人がVenturesを連想してしまう、ストレートなサーフ・ロック。俺より上の世代なら、グループ・サウンズを思い出すかもしれない。日本人のDNAに刷り込まれてしまった、多分下の世代でも同じことを思ってしまうナンバー。

8. Chew You Up (feat. Kylie Auldist)
 やっとここで定番のKylie登場。もはや勝手知ったる固定メンバーでのセッションのため、安心して聴いていられる。盤石のドラム・ビートと安定のギター・リフ。ヴォーカルを引き立てるためのオカズ。あうんの呼吸で繰り出されるプレイに応じる、いつものディーヴァ振り。
 そこに冒険はない。けれど、これ以上足すことも引くこともない、熟成されたサウンドの結晶が、ここにはある。



9. The Vanished
 ギターをメインとした、人力グラウンド・ビートをバックに従えたメロウ・インスト。こうやって聴いてると、ほんとジャズっぽさは少なくなっちゃったな。これがバンドの進化なのだろう。
 ヴォーカル抜きトラックのように聴こえるのは、気のせい?

10. Mind Made Up (feat. Kylie Auldist)
 8.同様、こちらもKylieをフィーチャーした60年代風ヴィンテージ・ソウル・ナンバー。いつもの安定感はまるでBamboosみたいだね、と言ってしまいそう。
 「This Girl」効果で味を占めたのか、それとも純粋に注目されるようになったのか、つい最近になってこの曲、フィンランドの若きリミキサー Lennoによってクラブ用リミックスを施され、コラボ・シングル化されている。俺が思ってる「クラブ・リミックス」的に、ここではKUNGSよりもっとカット・アップしりエフェクトを大胆にかけたりなど、原曲をあくまで素材として扱い、Lenno オリジナルの作品として仕上げられている。
 でも、それが好きかどうかはまた別。あまりにダンス・チューン寄りになってしまったトラックは、日本ではちょっと馴染みづらく、「This Girl」ほどは受け入れられないんじゃないかと思われる。
 この方向性は、「あ、やっちまったな」といった印象。



11. Of Dice & Men
 この手のバンドの定番、ラストはエピローグ的なインスト。ショウはもう終わり。かすかな余韻を残しつつ、ヴォーカルはとっとと舞台袖へ。8割がたの満足感を得て、バンドはステージを降りる。
 そうそういつも完全燃焼ばかりしていられない。ツアーはまだまだ続くのだ。



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単純だけど、デカい音というのは強い - Funkshone 『Shining』

folder 2008年リリース、UKジャズ・ファンク・バンドのデビュー・アルバム。以前2枚目を紹介した時はあまりインフォメーションも少なかったのだけど、今年初めにシングル「Soul survivor」 がリリースされ、そろそろ活動再開しそうなので改めてご紹介。

 UKのこのジャンルでの有名どころは、先日紹介したNew MastersoundsとSpeedometerで、どちらもコンテンポラリーなジャズ・テイストが強いのが特徴である。それに対してクラブ寄り・ファンク寄りなのがBaker Brothersで、前者よりもダンス・シーンからの支持が多い。
 大きく分けるとこの2つに大別されるのだけど、Funkshone はどちらかといえば後者、ファンク色が強く、ヴォーカル・ナンバーも多い。ていうかジャズの香りはほとんどない。この手のバンドでは定番のJB’sベースのサウンドなので、ボトムの低いビート感がウリとなっている。
 特にバンマスであるMike Bandoniがドラマーということもあって、単純に鳴り物系、ドラムの音がデカい。時にデカすぎるくらいなのだけど、リーダーだけあってトータル・バランスを考えているので、うるさく感じず聴くことができる。それだけ演奏スキルの高いメンツを揃えてるし、女性ヴォーカルのJaelee Smallもバッキングに負けないディーヴァ振りなので、結果的にどのパートもデカイ音となっている。ミキサーの人、大変なんだろうな。

 すごく昔のロキノンだったと記憶してるけど、ある日本人ミュージシャンが知り合いのライブを観に行った時のこと。そこは中規模のライブハウスで、一般的なスタンディングではなく、レストラン形式のゆったりした作りで、生演奏を楽しみながら食事を楽しむスタイルのハコだった。同業者が見に来ることも多く、興が乗れば同業者が飛び入りの演奏を行なったりすることもあった。
 その時、ステージで演奏していた知人のバンドは、お世辞にも有名とは言えないセミプロ・バンドだった。ほぼそこをベースとして活動しており、コンスタントにステージに立っているおかげもあって、テクニック的には申し分のないものだった。
 安心して聴くことはできる。でもそれだけだ。ライブに来てくれた観衆を虜にすることはできるけど、もっと大きなフィールド、マスへの強い訴求力があるかといえば、「それはちょっと…」と躊躇してしまう、そんなよくあるバンドのひとつである。
 その日も80パーセント程度の満足度の中、ライブは滞りなく進行していた。予定調和な部分もあったかもしれない。しかし、年季を積んだバンドに求められるのは、そういうことだ。
 
Funkshone_in_Norway

 最初に気づいたのは観客だったか、それともバンド・メンバーだったのか。誰かが前のテーブルの集団に気がついた。ちょうどChaka Khanのステージで来日していたRufusの面々だった。彼らも自分たちのステージを終え、遅めの夕食兼打ち上げの最中だった。
 ここら辺がRufusだったか、それともChicだったかはっきり覚えていないのだけど、とにかく彼らの存在にみんなが気づき始めた。もしかして、その日のChaka、またはChicのライブ帰りに寄った人もいたのかもしれない。
 ステージ上のメンバーも彼らに気づき、世界的なバンドに敬意を表して観客に紹介した。ていうかRufusでいいな、もう。
 せっかくなので、ダメもとで「ステージに上がって演奏してくれないか」とリクエストしてみた。知名度的にはそこまでではないけど、一応は世界的に有名なバンドがいるのだから、観客も盛り上がらないはずがない。歓声は次第に大きくなり、最初は遠慮していたRufusらもその気になってきた。ステージ後で疲れてはいるけど、ライブでのテンションをまだ引きずったままだ。やらない理由がない。

 というわけで、軽い気持ちで引き受けたRufus。まぁガチのステージではない。ほんの余興だ。
 当然、自前の楽器は持ってきていないので、ステージにあったモノを使うことになる。他人によって使い込まれた楽器には独自のクセがあり、きちんと使いこなすにはちょっとしたコツがいる。それを掴むまでが大変なのだ。
 しかし、ちょっとした音合わせの後、飛び出してきたその音は…。
 とんでもないものだった。
 明らかに、音の鳴り方が違う。
 今日初めて触れた楽器のはずなのに、彼らはちょっと音合わせしただけで音響特性を把握し、最大限のポテンシャルを引き出す術を得た。何も大げさなことはしていない。彼らとしてはいつも通り、いつもの所作だ。
 同じ楽器であるはずなのに、持ち主が奏でる音とは、響きがまるで違っている。何気なく弾いてる風でありながら、彼らはその楽器の持てる力をすべて引き出し、倍以上の音圧で観客を圧倒した。

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 彼らの音を聴いていると、そんなエピソードを思い出す。
 どのステージだって、完璧な条件が揃っているわけではない。むしろ、あれが足りないこれが足りないなど、マイナス条件の方が多いはず。とんでもなく条件の悪いハコだってあるだろうし、観客だって柄が良いわけでもない。
 でも最初はみんな、ここからスタートしたのだ。リバプールのローカル・バンドに過ぎなかったBeatlesだって、一皮むけたのはハンブルグでのドサ回りでいろいろ揉まれたからだし、まだカルト的人気に甘んじていたPrinceが、Stonesの全米ツアーのオープニング・アクトに異例の抜擢を受け、これまでにない大観衆の前に立ったはいいけど、大ブーイングの嵐に意気消沈、半ベソをかきながらステージを降りた、というのはけっこう有名な話。

 ネット環境の発達によって、以前よりも作品発表のハードルはずっと低くなり、極端な話、外へ一歩も出なくても、プロレベルの楽曲を世界中へ同時配信することも可能になった。まともに楽器が弾けなくても、チャチャッとマウスを操ることによって、一応は形になるモノを作り出せるようになった。かつては物理メディアに頼らざるを得なかった流通手段も、今ではデータ配信が主流となったおかげで、新規参入が容易になったことは、ネット時代の功績のひとつではある。
 あるのだけれど、それと同時にCDを含めた音源自体が売れなくなり、特に海外ではストリーミング・サービスの台頭によって、音源を手元に保存するという感覚が薄れてきているのも事実。ほんとに音楽でメシを食って行くのなら、逆に積極的に外に出てパフォーマンスを見せていかなければならない時代に移行しつつある。
 事実、Madonna クラスの大物でもCD販売には見切りをつけ、全世界を股にかけて大規模ライブを行なうというビジネス・モデルを確立している。その先駆者的存在がStonesで、近年では「アルバム・リリースに合わせてのツアー」という形態すら超越して、ベスト盤リリースだ50周年だという体で、結構マメに世界中を飛び回っている。今年10年振りに出るみたいだけどね。

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 なので、Funkshoneを始めとするライブ主体のバンドにとっては、やりやすい時代になりつつある。ビルボードやitunesのチャート・アクションだけでは推し量ることのできない、地道なドサ回りが評価される状況は、それこそBeatles登場による大量販売時代以前の50年代に酷似している。場数を踏むことが即実績に繋がるというのは、ある意味健全な状態なんじゃないかと思われる。
 幸い、ジャズ・ファンク・バンドのオファーについては、世界的に安定した需要がある。ただし大人数な分だけフットワークは悪く、何をするにも経費もバカにならないため、どうしてもEU圏内での活動がメインになってしまう。さらに上のレベルに行くためには、マスへ迎合した音楽性やらビジュアル面の強化やら、これまでとは違う展開を考えないとならないのだけど、多分そういうことにはならないと思う。
 それこそが、現代ジャズ・ファンク・バンドの矜持である。


シャイニング
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1. Let The Drums Speak
 タイトル通り、ほとんどドラムのみ、低音のホーン以外はMikeの独壇場。それでもついつい聴き入ってしまうのは、アタックのひとつひとつに歌心があるから。

2. The Raw
 歌姫Jaeleeによるファンキー・チューン。ヴォーカル・ナンバーなのに、相変わらずドラムの音はデカい。歌を引き立たせる気などなく、まるでステゴロの真っ向勝負。でも最終的には強いよなぁ、女って。

3. Deeper Love
 再びヴォーカル・ナンバー。やっぱりジャズ・ファンク系のバッキングは安定したプレイが持ち味なんだというのがわかる。ファンキーさはMAXなのに、なんでここにメロウなアルト・サックスが入るんだろう。しかもちゃんとマッチしてるし。
 ビッチっぽく吐き捨てるようなヴォーカルは、正しくバンドを支配下に置いている。



4. Purification Parts 1 & 2
 もともとは2006年にリリースされたシングル。クラブ界隈では話題になったらしいけど、正直その頃はジャズ・ファンクに興味なかったので、詳しい所はわかんない。
 メロディ楽器ではなく、リズム楽器がメインというのはあまりないので、競争率はかなり低い。まぁ、だから狙ってるわけじゃないとは思うんだけどね。

5. Droppin'
 こちらも2008年にリリース済みのシングル。ヴォーカル・ナンバーでもドラムは相変わらず。しかし、これだけドコドコ鳴ってるのに、ちゃんとヴォーカルが負けてないというのは相当なレベルの証。

6. Run For It! 
 タイトルもストレートに、ほんと走るようなリズムのインスト・チューン。恐らく一番ファンク要素が強いのがこのナンバー。16で刻まれたギター・カッティングもきちんと聴こえるし、埋もれがちなベースの音もしっかり聴こえている。やっぱりエンジニアの底力も大きな要因だと思う。

7. Stop The Bus
 細かなドラミングの業がそこかしこで炸裂するインスト・チューン。ライブで言えばJaeleeちょっと休憩中。2007年、シングルで発売されたのが最初。

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8. The Strut
 さらに連発、インスト・ナンバー。ここではドラムがちょっとオフ気味、ホーン・セクションとギターが前面で頑張っている。Mikeちょっと休憩中。

9. Wired
 ちょっとジャズ・テイストを強めたヴォーカル・チューン。コード進行がちょっと不安定だけど、そこを力技で乗り切ってしまうバンドの底力。このアルバムのインストでは、これが一番俺好み。



10. Panama
 70年代ジャズ・ファンクの創世記に活躍したRoy Porterのヒット・ナンバー。様々なアーティストから、カバーやらサンプリングされまくったインスト・チューンだけど、その辺は詳しく知らない。それでも何らかの形でワンフレーズくらいは聴いたことがある人も多いはず。

11. Hotwheels (The Chase) 
 70年代に一時流行したブラックスプロイテーション映画「ゴードンの戦い」のテーマ挿入曲のカバー。通りで妙な疾走感があると思った。こちらもホーン・セクションが活躍しているけど、やはりドラムはデカい。とにかくデカい。

12. It All Comes Back To This
 ラストはやっぱりMikeによるドラム・ソロ。音のデカさだけじゃなく、きちんとバック・ビートも自然と考慮されているのが手練れの証拠。
 でも、もっとJaeleeに振ってもイイと思うよ。




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やっとアルバム2枚目のMocambo達 - Mighty Mocambos 『Showdawn』

folder 今年に入ってからリリースされた、Mocamboレーベル主宰のバンドMighty Mocambos、単独名義では2枚目のアルバム。これまでは地元EUを拠点としたライブやらサポートやら、日本からは動向が掴みづらい活動が多かったのけど、昨年あたりからLee FieldsやAfrica Bambaataaらレジェンドとのコラボ・シングルが続々リリースされた。それがアルバム1枚分くらい溜まったので、今回こういった形でまとめられた次第。
 特にBambaataaとの共演が話題になったけど、その関心はむしろ「まだ生きてたの?」という反応が多かったのが正直なところ。wikiで調べてみると、決して引退してたわけではなく、断続的ながらもコンスタントな活動ペースなのだけど、ヒップホップ系には今でもそんなに興味がない俺の認識不足。日本ではあまり情報が入って来ないのと、どうしてもヒップホップ創世期に活躍してたイメージが強いので、それ以降の活動状況が見えづらいのだ。
 とはいえ業界内においては最古参の部類に入るレジェンド扱い、サイクルの早いこのジャンルにおいては別格扱いなのだけど、まだまだ日和ったりせず現役感が漂っているのは、やはりフロンティアならではの証。

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 で、Mighty Mocambos、主要メンバーは
 Sascha Weise(ds)
 Victor Kohn(b)
 Sebastian Nagel(g)
 Bjorn Wagner(g)
 Bernhard Hummer(bs、as)
 Sebastian Drescher(tp、flh)
 Philip Puschel(tp、flh)
 Ben Greenslade-Stanton(tb)
 Pascal Dreckmann(per)
 Hank Dettweiler(key)
 という10名による布陣。 この手のバンドによくあるように、メイン以外のバンドを掛け持ちでやってる者も多く、特にギターのSebastian とチューバのBen は複数のバンドにもよく顔を出しているようだけど、それを全部追ってゆくのはとても不可能。その他にもMocambo レーベル所属アーティストのレコーディングにもたびたび参加しているおり、その辺はさすが生真面目なドイツ民族、精力的な活動ぶりである。
 そりゃ自分たちのレコーディングも落ち着いてできないわけで。

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 ドイツのアーティストで俺が連想するのがKraftwerkとTangerine Dreamくらい。いずれも60年代から活躍しているクラウト・ロックの流れのアーティストである。Bonny Mもドイツだったのは今回初めて知った。まぁ聴いたことないけど。あと80年代でみると”ロックバルーンは99”でビルボードで唯一ドイツ語でチャート・トップに立ったNENAがいる。
 そんなわけで、ほんと近年のドイツのポピュラー音楽についてはさっぱりわからないというのは、多分俺だけじゃないはず。大抵の洋楽ファンも、ほとんど似たような知識しかないんじゃないかと思う。
 あとはせいぜいScorpions。これも70年代だ。

 なので、いま現在のドイツのヒット・チャートがどうなってるのか、主にYoutubeを回って調べてみた。ほんとつい最近のチャートなので、Adeleが1位というのは鉄板として、続く国内アーティストはどれもダンス系ばかり。EDMやオートチューンが中心のビート・メインのサウンドが人気を博しているのは、何もドイツが特別なわけじゃなく、今世紀に入ってからの世界的な流れの主流。で、海外組といえば、他国と変わらずEnya やColdplay が上位に入っており、ざっくり見ると国内/海外が半々といった印象。こうした割合というのも世界的にほぼ変わらず、海外の新しい音楽が輸入されることによって国内アーティストのモチベーションも高まり、相乗効果によって活性化が計られる。
 そう考えると、すっかりガラパゴス化してしまった日本の異常さが際立っている。別に過度な情報統制がされてるわけでもないのに、欲しい音楽は自ら能動的に動かないと見つけることができない。

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 そういった音楽市場のため、どう好意的に見ても彼らのような音楽がバカ売れする状況ではないのだけれど、ドイツを含むEU 圏というのは人の行き来がしやすい分、日本と比べてニッチなニーズのバンドが活動しやすい利点がある。さすがにアメリカのマーケットには及ばないけど、何しろ国の数が多いので、各国単体の市場を集めると、どうにか食って行けるくらいの稼ぎにはなる。
 特にライブ・シーンにおいて彼らのような生演奏主体のバンドは、ビジュアル的には地味だけど、大所帯でのグルーヴィーなセッションは観客のウケも良くフェス映えするので、常に一定の需要がある。各国の大小フェスを順繰りに回って、さらにそれに合わせて会場周辺のクラブを回っていると、それだけで夏のツアーは成立してしまう。
 なので、彼らの夏はあっという間に過ぎてゆく。

 そんな風に忙しいにもかかわらず、可能な限りあちこちに顔を出す世話焼きの彼ら、おかげで自分たちの活動にまでなかなか手が回らず、リーダー・アルバムとしてはこれがやっと2枚目。レーベル運営だって決して順風満帆ではないはずで、細々した事で忙しいのだろう。
 多忙のおかげでなかなかバンド活動に専念できないんだろうなと思っていたのだけど、なんと彼ら、バンド本体とは別名義でBacao Rhythm & Steel Bandというカリビアン風味のファンク・バンドも並行して行なっている。半分シャレでやっているようなものだけど、こちらはこちらでマジメにやってるらしく、コンスタントにシングルもリリースしている。本業だって手が足らないはずなのに、何やってんだと言いたくもなるけど、こういったのは好きでやってることなので、あまり真面目に怒っちゃいけない。ジャズ・ファンク・バンドがいろいろ仕事を掛け持ちしてるのは、至極普通のことである。

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 残業や休日出勤とはまったく無縁であるはずのゲルマン民族がこれだけ精力的なのは、仕事だと思っていないからなのだろう。どれほど少ない観客の前でも全力で演奏したり、連日レコーディングだセッションだと駆けずり回っていられるのは、好きでやってることだからであって、ビジネスは的には二の次と考えているフシがある。
 もちろんレーベルだって慈善事業じゃないから、採算合わせに事務方がいろいろ頭を巡らせているのだろうけど、まぁスケベ心が前面に出過ぎない程度にがんばってほしい。

 なので彼等、日本に行く暇などない。EU圏内での活動で手いっぱいである。


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Pヴァイン・レコード (2015-03-18)
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01. Road To Earth (With Peter Thomas)
 良くありがちな名前のPeter Thomas、調べてみるとドイツ映画音楽界では伝説級のアレンジャー/コンポーザーで今年でなんと御年90歳。そんな大御所がチンピラ・ファンク・バンドとのコラボを快諾するとは、なかなか懐の深いお方。日本で言えば服部克久がゲスの極み乙女とコラボするようなもので、そのあり得なさがわかっていただけると思う。
 妖しい60年代のSFかスパイ映画のようなオーケストレーションをバックに、いつも通り通常営業のMocambo達。このミスマッチ感を狙ってくるとは、なかなかの余裕。

02. It's The Music (With Afrika Bambaataa, Charlie Funk, Hektek & Deejay Snoop)
 このアルバム最大の話題作がこれ。Bambaataa率いるZulu Nation一派が参加して、見事にMocambo達を自在に操っている。こういう人力ヒップホップって、近年のビッグビート一色になっちゃったラップ界よりも俺は馴染みやすくて好きなのだけど、あまりやってくれる人たちがいないのが現状。



03. In The Dark (With Nichola Richards)
 イギリスの新人シンガーらしいけど、詳しい情報があまりない。Vicki Andersonあたりが歌ってそうなシスター・ファンクなナンバーだけど、そこまでダイナマイト・ヴォーカルといった感じではなく、このアクの少なさが逆にバンドとの親和性を高めている。でも、ソロだとちょっと個性が薄いのかな。俺的にはそのサッパリ感も好きなのだけど。

04. The Spell Of Ra-Orkon
 今回はインストとヴォーカル・トラックを交互に挟んだ曲構成になっており、こちらはインスト・ファンク。アーシーなギターの響きとハモンドとの絡みが絶妙。ホーン・セクションにもきちんと見せ場を作っているのだけど、これをたった3分に凝縮している見事さ。これがライブだと、延々続けるんだろうな。

05. Political Power (With Afrika Bambaataa, Charlie Funk & Donald D)
 再びBambaataa一派登場。タイトルからもわかるように、結構メッセージ性の強いナンバーで、これはMocamboとZulu Nationとのガチのぶつかり合い。どちらも引かず音でのバトル振りは手に汗握ってしまう迫力。ちょっと大げさだけど、そのくらいスリリング。かつ勝手に腰が動いてしまうダンス・チューン。

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06. Drifting Stars
 激しい攻防の後はひと休み、スロー・ファンクでペース・ダウン。レコードではここでA面終了。

07. Not Get Caught (With DeRobert)
 アメリカはテネシー州を拠点として活動するディープ・ソウル・シンガーをフィーチャー。洗練さとは無縁なファンキー・ヴォーカルはMocamboとは高いシンクロ率。このまま40年前のStaxのレコーディング・スタジオに連れていったら、とんでもない傑作が仕上がったんじゃないかと思う。このアルバムの中では、Mocambo的に一番相性がいいんじゃないかと思う。



08. Locked & Loaded
 
09. Catfight
 インスト・ファンクが2曲続く。特にこの09ではあのマルチ・プレイヤーShawn Leeが参加しており、摩訶不思議なエフェクトが飛び交う泥臭いスペース・ファンクを披露。これまでとちょっと毛色の違うアーティストとのコラボは、バンドとしての度量の深さを感じさせる。

10. Hot Stuff (With Afrika Bambaataa, Charlie Funk & Deejay Snoop)
 3たび登場のBambaataa一派。今回はこのコラボにて、あのStonesをカバー。ヴォコーダーの使用によって妖しさ満載のスペース・ディスコに仕上がっている。ラップ・パートはほとんどなく、とにかく「Hot Stuff」と言いたいだけのヴォーカル陣。そして、それを盤石に支えるMocambo達。ごく一部でだけどヒットしたのが頷ける。



11. The Showdown
 タイトル・トラックはインスト。オープニングとループするようなシネマライクなサウンド。俺の想像したのはマカロニ・ウエスタン。




The Future Is Here
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北海道の中途半端な田舎に住むアラフィフ男。不定期で音楽ブログ『俺の好きなアルバムたち』更新中。今年は久しぶりに古本屋めぐりにハマってるところ。
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