日本の90年代ベスト・アルバム・ランキング的企画では、必ずと言っていいほどランク・インする傑作『家庭教師』をリリースした後の岡村ちゃんだけど、その後の産みの苦しみから伴う創作上のスランプは、およそ5年の長きに渡っている。
ほんとはもっと早くできるはずだった―。誰もが、そして岡村ちゃん自身も思っていたことだろう。
渡辺美里のブレーン的立場という、裏方からスタートした岡村ちゃんのキャリアは、その後徐々に実績を重ね、満を持したあたりでソロ・デビューに至る。最初は80年代ソニー的サウンドのフォーマットに則った音作り、それから試行錯誤の末、Princeをお手本とした密室ファンク・サウンドと、松田聖子を代表とする歌謡曲的ペンタトニック多用のコード・メロディの融合の末、オンリー・ワンの純国産ポップ・ファンク・サウンドを創り出した。
理想とする音を具現化するため、思いつく妥協は徹底的に排除、録音されるすべての音に「岡村靖幸」という痕跡を残したいがため、ほとんどすべての楽器を自分で演奏するようになった。いま聴くと、テクニック的には稚拙な面も窺えるけど、岡村ちゃんが全身全霊を込めて鳴らす音は、スタジオ・ミュージシャンが出す無難で流麗な音とは明らかに違っている。
レコーディングにまつわるほぼすべての作業に岡村ちゃんは積極的に介入し、純度100%に近い濃厚エキスの塊のようなサウンドは、ファンに対しても常に挑戦的で、ある種踏み絵的な覚悟を強いる。単にBGMとして聴き流すことも可能だったけど、少しでも興味を抱く者なら、強引に岡村ちゃんワールドに引き込まれてしまう。ほぼ混じりけのない、岡村ちゃん成分100%の濃厚なフォン・ド・ヴォ―は、猛烈にクセになって狂信者になる者と、Princeのエピゴーネンとして拒絶反応を起こす者に二極化した。
理想とする音を具現化するため、思いつく妥協は徹底的に排除、録音されるすべての音に「岡村靖幸」という痕跡を残したいがため、ほとんどすべての楽器を自分で演奏するようになった。いま聴くと、テクニック的には稚拙な面も窺えるけど、岡村ちゃんが全身全霊を込めて鳴らす音は、スタジオ・ミュージシャンが出す無難で流麗な音とは明らかに違っている。
レコーディングにまつわるほぼすべての作業に岡村ちゃんは積極的に介入し、純度100%に近い濃厚エキスの塊のようなサウンドは、ファンに対しても常に挑戦的で、ある種踏み絵的な覚悟を強いる。単にBGMとして聴き流すことも可能だったけど、少しでも興味を抱く者なら、強引に岡村ちゃんワールドに引き込まれてしまう。ほぼ混じりけのない、岡村ちゃん成分100%の濃厚なフォン・ド・ヴォ―は、猛烈にクセになって狂信者になる者と、Princeのエピゴーネンとして拒絶反応を起こす者に二極化した。
先行シングルになるはずだった”ターザンボーイ”は、基本『家庭教師』で培ったサウンドをほぼ踏襲している。多分この時点では、『家庭教師』の続編的なサウンド・コンセプトを掲げて進行していたんじゃないかと思われる。音に迷いがなく、自信に満ちあふれたヴォーカルが、それを表している。
しかし…、肝心のアルバムの完成は難航した。
先行シングル→アルバム・リリース→全国ツアー、というのが当初の流れだったと思われるので、アルバムが完成する前提でツアー予定・テーマは組んでしまっており、そうそうスタジオに籠っているわけにもいかない。
岡村ちゃん的にも、そしてニュー・アルバム待ち望んでいたファン的にも、非常に中途半端な気持ちの中、ツアーはそこそこの好評を得て終わる。
しかし…、肝心のアルバムの完成は難航した。
先行シングル→アルバム・リリース→全国ツアー、というのが当初の流れだったと思われるので、アルバムが完成する前提でツアー予定・テーマは組んでしまっており、そうそうスタジオに籠っているわけにもいかない。
岡村ちゃん的にも、そしてニュー・アルバム待ち望んでいたファン的にも、非常に中途半端な気持ちの中、ツアーはそこそこの好評を得て終わる。
この当時の岡村ちゃんのインタビューを読んでみると、「歌詞が書けない」ことをについての発言が多い。多分岡村ちゃんのことだから、サウンドやメロディに関しては、もちろんスランプもあるだろうけど、それほど大きな挫折はなかったはずだ。実際この5年の間にも、他アーティストからの作曲依頼もちょくちょく受けており、セールス結果の良し悪しはあれど、きちんと個々のキャラクターに合わせたサウンド・歌詞をコーディネートしている。対象が第三者なら、客観的な視点で創ることは容易なのだろう。
ただ、自分の事となると話は違ってくる。これまでのファンは、当然100%岡村靖幸の濃縮エキスを待ち望んでいるだろうし、岡村ちゃん自身だって、妥協した物は出したくないはずだ。
当然、自分自身の中のハードルは上がっている。特に歌詞、「ベイベェ、僕の気持ちをわかってほしいんだ」的な内容はどうなんだろう?もっとストレートでむき出しの言葉を、もっと詰め込んでみたいけど、それじゃもう曲の形を成さない、じゃあ、もっとリアルな言葉とは?
当然、自分自身の中のハードルは上がっている。特に歌詞、「ベイベェ、僕の気持ちをわかってほしいんだ」的な内容はどうなんだろう?もっとストレートでむき出しの言葉を、もっと詰め込んでみたいけど、それじゃもう曲の形を成さない、じゃあ、もっとリアルな言葉とは?
その後、喉の不調や対人関係のトラブル、他にも多分プライベート的な問題もあったらしく、数回の発売延期を経て、どうにかリリースにこぎ着けたのが1995年。先行シングルであったはずの”パラシュート・ガール“からは、もう4年の歳月が流れていた。
で、オリコン最高8位という、非常に微妙なセールスで終わっている。この頃のヒット曲と言えば、ドリカムやミスチル、そしてユーミンもまだミリオン・ヒットを飛ばしていた頃。ビーイング・グループの勢いが一段落し、小室サウンドの台頭が始まった頃でもある。そんな時期に、これほど一個人のキャラクターが強すぎるサウンドが一般的に浸透するはずがなかった。
で、オリコン最高8位という、非常に微妙なセールスで終わっている。この頃のヒット曲と言えば、ドリカムやミスチル、そしてユーミンもまだミリオン・ヒットを飛ばしていた頃。ビーイング・グループの勢いが一段落し、小室サウンドの台頭が始まった頃でもある。そんな時期に、これほど一個人のキャラクターが強すぎるサウンドが一般的に浸透するはずがなかった。
クオリティ的には自信があったはず。ただ、大傑作『家庭教師』の後ということで、かなり割を食っている、ちょっとかわいそうな立ち位置のアルバムである。
ただ、リリースから20年近く経って、時代背景を抜きにして聴いてみると、『家庭教師』のハイパー進化形、岡村ちゃんエキスがさらに濃縮されたアルバムだということがわかる。これはがもっとコンテンポラリーなスタイルにプロデュースされていたのなら…、というのは今さらだけれど、まぁどっちにしろライト・ユーザーにまで浸透するサウンドではない。ただファンとしてこのアルバムは、岡村ちゃんを理解するためには避けては通れないものなのだ。
ただ、リリースから20年近く経って、時代背景を抜きにして聴いてみると、『家庭教師』のハイパー進化形、岡村ちゃんエキスがさらに濃縮されたアルバムだということがわかる。これはがもっとコンテンポラリーなスタイルにプロデュースされていたのなら…、というのは今さらだけれど、まぁどっちにしろライト・ユーザーにまで浸透するサウンドではない。ただファンとしてこのアルバムは、岡村ちゃんを理解するためには避けては通れないものなのだ。
もしかすると、岡村ちゃん的には黒歴史的なアルバムなのかもしれないけど、このムッとしたイカ臭さの詰まった(褒め言葉)サウンドは、俺的には昔の彼女の写った写真を見ているかのような、こそば痒くて懐かしくって、でもそんなに引きずりたくないような、でも忘れることはできないアルバムである。
1. あばれ太鼓
岡村ちゃん初のインスト作品。純粋なインストゥルメンタル作品というよりは、歌入れしていないバック・トラックっぽい仕上がりになっている。サウンドも作り込んでタイトルも決定して、仮ヴォーカルまで入れたはいいけど、どうにも納得行く歌詞が書けず、最終的にこんな感じで仕上がっちゃった、という感じ。
岡村ちゃんくらいのキャリアなら、この程度の曲ならいくらでも作れるはず。鼻歌でアコギをかき鳴らしていれば、すぐ二、三曲はできあがっちゃうんだろうけど、やはり問題は歌詞。5年振り、満を持して放つ復活アルバムの一発目にこれを入れるとは、さすが岡村ちゃん、常人とは感覚が違うのがわかる。
岡村ちゃんくらいのキャリアなら、この程度の曲ならいくらでも作れるはず。鼻歌でアコギをかき鳴らしていれば、すぐ二、三曲はできあがっちゃうんだろうけど、やはり問題は歌詞。5年振り、満を持して放つ復活アルバムの一発目にこれを入れるとは、さすが岡村ちゃん、常人とは感覚が違うのがわかる。
2. 青年14歳
アルバムの中でも最も人気の高い曲。『家庭教師』サウンドの進化形と考えてもいいくらい、それだけオリジナリティに満ち溢れている。スイング・ジャズのエッセンスと密室ファンクとのハイブリットに、支離滅裂な歌詞を暑苦しくシャウトする岡村ちゃん。そう、歌詞の意味なんて細かいところにこだわらず、あらゆるものを突き抜けた極北の彼方でダンスしまくる岡村ちゃんが、そこにはいる。
”野蛮でノーバンで 冗談で暮れる 青年14歳“
韻を踏む以外は何にも考えてなさそうなフレーズだけど、いやいや、イカ臭い14歳を通過した男なら、何となく共感できると思う。
3. クロロフィル・ラブ
『Lovesexy』期のPrinceのサウンドを想起させる、濃厚ファンク。Princeの場合、Sly Stoneに倣って、音を「抜く」作業によってリズムの真空を創り出す手法だったけど、岡村ちゃんの場合は様々なエフェクト音を足して足して足してなので、とっ散らかった印象が強い。バック・トラックとしてはすごく好きなのだけど、歌詞があまりに散文的でまとまりがないため、アルバムの中では印象が薄い。
4. ターザン ボーイ
オリジナルのシングル・リリースは1991年なので、3.よりもう少し聴きやすく開かれた楽曲。歌詞自体も「もてたくてもてたくって」というイカ臭さを前面に押し出しており、歌詞の変遷としてはやはり『家庭教師』の延長線上だけど、「君のために ライオンと戦える男でいたい」というメッセージは、すべての男にとって切実なものでなければならない。
5. 妻になってよ
比較的早い段階で仕上がっていた曲で、1992年の段階でシングル・カットの予定もあったそうだけど、まぁしなくて正解だったと思う。
しっとり落ち着いたサウンドに激情ヴォーカルが絡む、”イケナイコトカイ”タイプのバラードだけど、多分女性関係で悶々としていた思われる、当時の岡村ちゃんの切実な思いが伝わってくる。ただ、世間一般が岡村ちゃんに求めているのは、残念ながらこういった感じじゃない。シングル・リリースするにはパーソナルな部分が濃すぎるのだ。
その辺を、岡村ちゃんも周辺スタッフも、わかっていたんじゃないかと思う。
その辺を、岡村ちゃんも周辺スタッフも、わかっていたんじゃないかと思う。
6. パラシュート★ガール
5.の後にレコーディングされた曲。『家庭教師』フォーマットの曲どれにも言えることだが、どれも2.の革新性の前では霞んで見えてしまう。
こちらもシングル・リリース当時は岡村ちゃんのポップ・ファンク新曲として認識されていたのだけど、アルバムに収録されて横並びになると、シングルとして既発表曲と新曲との差が大きく感じられる。制作時期の違いによって統一感が失われている、というのがこのアルバムについてよく指摘されていることである。ただ、それを抜きにして単体で評価すると、やはり優良な岡村ちゃんフォーマットのちょいエロ・ポップである。はすっぱな女を演じるCHARAもいい味出している。
こちらもシングル・リリース当時は岡村ちゃんのポップ・ファンク新曲として認識されていたのだけど、アルバムに収録されて横並びになると、シングルとして既発表曲と新曲との差が大きく感じられる。制作時期の違いによって統一感が失われている、というのがこのアルバムについてよく指摘されていることである。ただ、それを抜きにして単体で評価すると、やはり優良な岡村ちゃんフォーマットのちょいエロ・ポップである。はすっぱな女を演じるCHARAもいい味出している。
7. どぉしたらいいんだろう
過去作“どぉなっちゃってんだよ”で、世間にロックに女の子にメディアに対して、不満をぶつけまくった岡村ちゃん、その瞳には迷いはなく、「俺に着いてこいよ!!」的なアプローチで歌い叫び腰を振った。
しかし、ここでの岡村ちゃんは、また思い悩み苦しむのだ、前作で自信を持って克服した課題に。
サウンド的にはニュー・タイプとなっており、こちらはほんとカッコイイ。ただ、その思い悩むのが鬱々となるわけでなく、「どぉしたらいいんだろう」という歌声は軽やかで、しかも巻き舌だ。
しかし、ここでの岡村ちゃんは、また思い悩み苦しむのだ、前作で自信を持って克服した課題に。
サウンド的にはニュー・タイプとなっており、こちらはほんとカッコイイ。ただ、その思い悩むのが鬱々となるわけでなく、「どぉしたらいいんだろう」という歌声は軽やかで、しかも巻き舌だ。
ちなみにアウトロがちょっと前作”(E)na”へのオマージュ。
8. Peach X’mas
NHKのクリスマス・スペシャル番組用に制作された曲。アルバムと同時発売された、本当の意味での先行シングルである。
ゴージャスでドラマティックなサウンドに、エモーショナルなヴォーカルが絡む、これぞ岡村ちゃん!!とでも言うべきベスト・トラック。せっかくのクリスマス・イヴに何の予定もない、全国の童貞どもに勇気を与える岡村ちゃんのメッセージが熱い。
ゴージャスでドラマティックなサウンドに、エモーショナルなヴォーカルが絡む、これぞ岡村ちゃん!!とでも言うべきベスト・トラック。せっかくのクリスマス・イヴに何の予定もない、全国の童貞どもに勇気を与える岡村ちゃんのメッセージが熱い。
「教えてあげるんだ お前のPower お前の実力を
本気出せば こんなもんだぜ どーだまいったか Girl」
かつてこれほど、こじれた男たちに勇気を与えてくれる曲があっただろうか?
9. チャーム ポイント
8.が「本家」なら、こちらは「元祖」の先行シングル。曲調としては『家庭教師』フォーマットだけど、サウンドは完全にニュー・タイプとなっており、うまい感じで新旧が融合している。歌詞も硬軟取り混ぜた時事問題に触れており、その辺が”どぉなっちゃってんだよ”とのリンクが感じられる。やはり「好きなんだぜベイベェ」だけじゃ、そんなにバリエーションは望めない。
5年間岡村ちゃんがスランプに陥っていた原因は、すべてここに現われている。現実と妄想とをミックスした歌詞へリアルを求めるがあまり、サウンドの先鋭化との乖離が大きくなる。そのジレンマに苦しむことによって、音楽からの逃避が結局、あの不幸な事件の連鎖へと繋がり、つい近年までその状態は続いていた。
5年間岡村ちゃんがスランプに陥っていた原因は、すべてここに現われている。現実と妄想とをミックスした歌詞へリアルを求めるがあまり、サウンドの先鋭化との乖離が大きくなる。そのジレンマに苦しむことによって、音楽からの逃避が結局、あの不幸な事件の連鎖へと繋がり、つい近年までその状態は続いていた。
「毛だってもっと隠せよ」
「しょっぱくピリ辛 泣かす旅に出るよ」
「しょっぱくピリ辛 泣かす旅に出るよ」
大して意味もないのだけど、岡村ちゃん渾身のサウンドに乗せて歌われると、これらのフレーズが言霊となって大きく意味を成す。
つい先日のスマスマ出演により、全国の岡村ちゃんファンが再び盛り上がっている。長らく関心が薄れていた昔のファンたちにも、一気に認知度が高まった。
嵐の番組じゃなくって、SMAPだから岡村ちゃんを盛り立ててくれた、という声も聞く。確かに嵐だったらコラボしても面白くないだろうし、トークでもあまりいじってもらえず、中途半端に終わったことだろう。
嵐の番組じゃなくって、SMAPだから岡村ちゃんを盛り立ててくれた、という声も聞く。確かに嵐だったらコラボしても面白くないだろうし、トークでもあまりいじってもらえず、中途半端に終わったことだろう。
シングルもリリースされたし、そろそろフル・アルバムの準備もしてるんじゃないかと思われるけど、またプレッシャーがかかると独りで何かとこじらせてしまうので、信頼できる若手のブレーンとまったり進行でやってほしい。
いつまでも待ってるよ、岡村ちゃん。
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