491位 Harry Styles 『Fine Line』
元ワン・ダイレクションという前置きも必要なくなったビッグネーム:ハリー・スタイルズ2枚目のアルバムが初登場。去年リリースの『Harry’s House』が「細野晴臣『Hosono House』にインスパイアを得て制作した」という小ネタを知って「おぉっ」と一瞬思ったけど、考えてみればワン・ダイレクションもハリーも、ましてや細野さんも代表曲以外、ちゃんと聴いたことがなかったのだった。
「聴いてたつもりで実はちゃんと聴いてないアルバム」って、まだいっぱいあるんだよな。はっぴいえんども、通して聴いたのは1枚もない。今さらどう向き合っていいのか、熟年夫婦みたいな気持ちになってしまう。
俺世代の洋楽ボーイズグループといえば、ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックやテイク・ザットなど、主に欧米勢中心だったのだけど、そっち方面はいまKポップだもんな。ますますついていけそうにない。
緻密なマーケティングとプロデュースに沿った、耳障りよく心地よい、ハズレの少ない万人向け。当たり前だけど、ひねくれた洋楽好きにはヒットしないサウンドで統一されている。大規模なプロジェクトチームによって入念に段取りされた、破綻の少ない音。
このアルバムがファーストインプレッションだったら、また違う人生もあったんだろうけど、あいにく世代が違いすぎるし、そもそも、こんなめんどくさい文章書く連中は相手にしていないのだハリー・スタイルズ。
前回491位はAlbert King 『Born Under a Bad Sign』。今回は圏外。
492位 Bonnie Raitt 『Nick of Time』
つい声に出して読みたくなるけど、日本ではそれほどの人気ではない「ボニー・レイット」、89年のヒット作が大きくランクダウン。主に70年代に活躍して、80年代はほぼまるまるスランプ期、これがカムバック作だったのだけど、リアタイでは聴いてないはず。
ロック名盤ガイドに載るほどの代表作はないけど、名前だけは知ってたボニー・レイット。なんとなくスージー・クアトロと同じくくりかと思っていたのだけど、このアルバムではMOR寄り、スターシップやハートを聴いている層への親和性が高い。
方向性に行き詰まった中堅・ベテランがレーベル主導のマーケティングに乗っかって、外部ライター導入・シンセ多めのサウンドに手をつけると、おおむね従来ファンにガン無視されるのが常だけど、彼女の場合、そこまでポリシーを曲げた風は見られない。クレジットを見ると、プロデューサーはあのドン・ウォズ。あぁそれで納得。あまりゴテゴテ飾る手法の人じゃないし。
しかし80年代後半から90年代全般に至るまで、落ち着いた中堅ベテラン系のギターロックは、どれもクラプトンっぽく聴こえてしまうのは俺だけだろうか。そのクラプトン本人は今ランキングではまったくカスってもいない。時代のあだ花って言い方はしたくないけど、トレンドの先端は枯れるのも早い。
他のランキングは、『Give It Up』が496位→495位ときて、今回は圏外。
前回492位はEurythmics 『Touch』。今回は圏外。
493位 Marvin Gaye 『Here, My Dear』
問答無用の名作『What’s Going On』『Let’s Get It On』の二大巨頭の影にかすみ、20世紀中は駄作もしくは黒歴史扱いされていた邦題『離婚伝説』。一応、要約的に間違ってはいないんだけど、キワモノ的な邦題が災いして、まともな評価がされていなかった『Here, My Dear』。今世紀に入ってから少し見直されてきてはいるけど、2枚組をまともに聴き通すのは、正直ちょっとツラい。
スティーヴィー・ワンダー同様、「愛と平和の人」というキャッチフレーズが独り歩きして、長らく誤解を受けていたマーヴィン、このアルバムを受け入れるか否か、ひとつの踏み絵となる作品でもある。言ってしまえばベトナム戦争もセックスも離婚も、彼にとってはすべて歌の素材、歌詞や言葉はそれほど重要ではなかったわけであって。
丹念に重ねられた自声コーラスと、アタック音を抑えたコンガ/パーカッションのリズム、ほぼリード楽器と化しているマーヴィンのウィスパーヴォイス。『What’s Going On』から始まったサウンドの探究はここでピークを迎えている。
高潔な反戦歌から下世話なメイク・ラブ、元妻への贖罪まで、テーマなんて何でもいい。そんな決意が垣間見えるのだけど、そこまで強い人じゃなかった。この後も彼の迷走は続く。
このアルバムについては以前、レビューしているので、もう少し深いところはこちらで。
シンディ・ローパーもオフコースもカバーしている「What’s Going On」、今回は浜田省吾。カバー専門の別プロジェクト:The J.S. Inspirations名義、実質ツアーバンドによるリラックスしたセッション。新たな切り口を求めるものではないけど、大人の余裕から醸し出されるアンサンブルは、いつもの浜省より前のめりにならずに聞くことができる。
前回493位はWilco 『Yankee Hotel Foxtrot』。今回は225位。
494位 The Ronettes 『Presenting the Fabulous Ronettes』
フィル・スペクター『Back to Mono』に続き、60年代ガールズグループ唯一のアルバムが崖っぷちでランクイン。こっちはどうにか踏みとどまったけど、代表作とされている『A Christmas Gift for You from Phil Spector』は今回は圏外。
みんな定番はずして投票したら、こんな結果になったのかね。もともと投票の絶対数は少ないので、その煽り食ったんじゃないかと思われる。
昔のアルバム定番の全12曲、レイ・チャールズ『What'd I Say』のカバーを除き、ほぼスペクター作の楽曲が並んでいるけど、乱暴に言っちゃえばどれも「Be My Baby」のバリエーション。二番煎じ三番煎じというより、手持ちの作風が少ない人だったんだろうな、と改めて思う。またはそれだけ「Be My Baby」の完成度が突出していたというか。
モータウンっぽいポップソウルも入っているけど、これってどっちが本家なんだろ。おそらく相互に影響され合ったか同時多発的なサウンドだったのか。まぁモノラルで大編成コンボで音圧上げると、どうしてもこんな音に辿り着いちゃうっていうか。
ちなみに当時のビルボードランキングを見てみると、最高96位とかなりショボい。まだアルバムが「シングルの寄せ集め」という時代を象徴する事実である。
古今東西多種多様のカバーが存在する「Be My Baby」、「せっかく」というのはちょっと違うけど、マーヴィン・ゲイに続き、こっちも浜省ヴァージョンで。イントロは一応ウォール・オブ・サウンドを指向しているけど、歌に入るといつもの浜省。
前回494位はMGMT 『Oracular Spectacular』。今回は圏外。
495位 Boyz II Men 『II 』
ボビー・ブラウンやキース・スウェットと並んで、80年代末〜90年代初頭のニュージャックスウィング・ムーヴメントを牽引したボーイズⅡメンの2枚目が初登場。現代まで連綿と続くオラオラ系/パリピのルーツとなるボビ男がヒップホップ成分多めだったのに対し、彼らはもう少しソフトにアーバンに、ブラコン/R&B系のアプローチで、一般女性層にも幅広い人気があった。
バブル期の一時的なブームとして、あまり顧みられることの少なかった90年代ブラックミュージックも、四半世紀を経てようやく再評価の機運が高まっているっぽい。20世紀では、メアリー・J. ブライジもこういうランキングに入ることはなかったし、シフトチェンジは確実に進んでいる。
日本に例えればビーイング周辺が該当するのだけど、懐メロ的な切り口が多く、深く突っ込んだ分析する視点は、今のところなさそうである。80年代シティポップもあらかた掘り尽くされた感もあるし、あと10年後くらいかね。その前にやっとこうか俺が。まずは中古CD集めからスタートだ。
リアタイではちゃんと聴いたことなかったけど、新譜が出るとあちこちのメディアでパワープレイされていたため、記憶にある曲も多い。おそらく日本においては、彼らの時代くらいまでが「洋楽」として、お茶の間にもそこそこ認知されていたんじゃないだろうか。あくまで私見だけど、日本のライトな洋楽ユーザーにとっては、このくらいベタでメロディアスなブラコンがちょうどいい。
前回495位はBonnie Raitt 『Give It Up』。今回は圏外。
496位 Shakira 『Dónde Están los Ladrones』
『Rolling Stone』という雑誌の性格上、ロック系の名盤が上位ランクインしているのはまぁわかるとして、順位が下るにつれて混沌としてジャンルレスな並びになっていたりする。特にカントリーやラテンポップ勢の初登場率が多く、ヒップホップにも肉薄、2000年代以降のロックなんて影も薄い。
正直、次回ランキングに入るのはちょっと微妙なメンツが多いのも事実だけど、旧来ロックのポジションは今後も地滑り的な凋落をまぬがれない。こじつけて言えば、これも多様性なのだろうけど、個人的に普段聴くものは、やっぱり80年代に落ち着いてしまう。人それぞれっていうのも、また多様性だし。
で、そんなラテンポップの女性シンガー:シャキーラが初登場。現代アメリカにおけるヒスパニック系の勢力は日に日に増しており、エンタメ界に限らず、政治経済面においても強い影響力を持ちつつある。
ダンスポップありシェリル・クロウみたいなロックチューンあり、かと思えばバタくさいカントリーロックもありで、世界進出を視野に入れたコンテンポラリー仕様のサウンド構成になっている。一聴するとクセ強なスペイン語ナンバーも、情熱的な歌唱スタイルとの相性が良く、インド映画のサントラみたいな錯覚を覚えたりもする。
前回496位はBoz Scaggs 『Boz Scaggs』。今回は圏外。
497位 Various Artists 『The Indestructible Beat of Soweto』
1985年にリリースされた、南アフリカアーティストのコンピレーション。大きくランクダウンしたけど、どうにか踏みとどまった。
当時、南アフリカに駐在していた白人2人によって、国内でヒットしている楽曲を集めたものなので、アフリカ音楽=呪術的なアフロビートを想像すると肩透かしを食う。ある程度、70〜80年代の西洋ロック/ポップスを通過してきた世代が中心なので、465位キング・サニー・アデよりずっと聴きやすい。
変にドロっとしておらず、パーティーソングみたいなお気楽さが漂ってはいるけど、当時はまだアパルトヘイト真っ只中、純粋な音楽性への興味は前提としてあるけど、未開の地のキッチュな物珍しさ的な視点もあって、編纂されたんじゃないかと思われる。90年代に韓国のポンチャックが小ブームになったけど、それと同様の視点だったんじゃないか、と。
ほぼタイミングでポール・サイモン『Graceland』がリリースされ、西欧の文化搾取だのパクりだの散々叩かれていた記憶があるけど、悪気はなかったものと信じたい。土着的と思われていたアフリカ音楽を、世界仕様のコンテンポラリー/西欧的な解釈で作っちゃうと、誰がやってもあんな風になってしまう。「コンドルは飛んでいく」の方がどストレートなフォルクローレだし、こっちの方がよっぽど正直なアプローチだ。
前回497位はWhite Stripes 『White Blood Cells』。今回は圏外。
498位 Suicide 『Suicide』
インパクト強いジャケットデザインが印象的で聴いたつもりになってたけど、実は一度も聴いたことなかったスーサイドのデビュー作がランクダウン。77年リリースなので、時系列的にはニューヨークパンクのカテゴリなのだけど、60年代サイケの風味もあればインダストリアルっぽい破壊衝動もあったりして、分類のしづらいサウンド。
一番わかりやすい例えとして、ジャーマンプログレの要素もあるよな、と思ったけど、そんなの知ってる人の方が少ないので、全然例えになっていない。ギターレスの裸のラリーズ?ゴス成分濃い目のエレポップ?ダメだ、適当な言葉が見つからない。
斜め上の思考と頭でっかちな模索が一巡した結果、静かな破滅の予感と狂気。無機質なリズムボックスとシンセの響きは、強迫観念と被害妄想を湧き立たせる。10分に及ぶ大作「Frankie Teardrop」は、「Sister Ray」に対する彼らなりのアンサーソングだったのか。ヴェルヴェッツ風味も感じるし。
特筆すべきは彼ら、壮大な大風呂敷となるこのデビュー作で終わらず、その後も断続的に活動し続けたという事実。こういうのって一発の衝撃がでかいから、続けるのは難しいはずなんだけどな。ただ、そういったグダグダさもまた伝説の一部として機能するわけであって。
前回498位はThe Stone Roses 『The Stone Roses』。今回は319位。
499位 Rufus & Chaka Khan 『Ask Rufus』
代表作とされているソロ初期作はカスリもせず、ルーファスでのランクインとなったチャカ・カーン、ラス前にやっと登場。俺的には、ウケ狙いとしか思えない「チャカカーン」サンプリングをイントロに使った「I Feel For You」の印象が強すぎて、リアタイではちゃんと聴いてなかったけど、ソウル・ディーヴァ系を遡っていくと、どうまわり道したって彼女にたどり着く。
ファンキーなフィメール・ヴォーカルというイメージの強いチャカだけど、ここではほぼクルセイダーズ「Street Life」みたいなジャジー・チューン「Close the Door」を筆頭に、それほど汗をかかないスタイルの楽曲も多い。この頃はすでにソロ活動も並行して始めていたため、かぶらないように棲み分けしていたのかもしれない。
今年『Rolling Stone』が発表した「これまでで最も優れたシンガー200人ランキング」にて、チャカは29位に入っているのだけど、自分より上位に入っている女性シンガーを痛烈にこき下ろしている。5位マライア・キャリーには「ワイロで買収している」、22位アデルの22位には「もういい、私はやめる」。25位メアリー・J・ブライジはもうメタクソ。長くなるので詳しいところはこちらで。
ホイットニー・ヒューストンのカバーがきっかけで広く知られることになった「I'm Every Woman」だったら、日本でも誰かやってんじゃね?と思って調べてみたのだけれど、そこにたどり着く前に、ソロデビュー作収録の「A Woman In a Man's World」をしばたはつみが手がけていることを知ってしまった。しかも、日本語歌詞で邦題「はずみで抱いて」と来たら、もうこっちにするしかない。オリジナルに劣らぬファンキーなヴォーカルもそうだけど、演奏もまた秀逸。和モノチューンとして再評価されているのもうなずける。
前回499位はB.B. King 『Live in Cook County Jail』。今回は圏外。
500位 Arcade Fire 『Funeral』
大トリ500位は、現代アメリカではすっかりマイノリティかつ貴重な存在になってしまった、正統ロックバンド:アーケイド・ファイアのデビュー作。前回ランキングから大きくランクダウン、他のアルバムは影も形もない。
現在進行形のロックって、アメリカではほんと廃れちゃってるんだな。変にメインストリームに媚びたりせず、生真面目で良質なサウンドなんだけど、はみ出したりおイタする部分がないので、行儀良く収まっちゃってる。
「良質な物を作り続けていれば、きっと誰かが評価してくれる」というロック性善説に基づいて作られたサウンドは、イヤいいんだけどさ下世話さが足りないのか。基本はU2フォロワー的なギターロックな彼ら、『Achtung Baby』に近づくことはできても、「Discothèque」や「Vertigo」にはリスペクトもなさそう。
でも、そんな力技も時には必要なのだ、ロックという音楽は。
前回500位はOutKast 『Aquemini』。今回は49位。