451位 Roberta Flack 『First Take』
去年、死亡説が流れたけど、きっぱりデマと否定された、どっこい生きてるロバータ・フラックのデビュー作が初登場。ただ筋萎縮性側索硬化症という難病ゆえ、現在は闘病中。無事を祈ろう。
永遠のスタンダード「やさしく歌って」のイメージが強すぎて、っていうか日本ではほぼそれだけの印象だけど、海外ではバラード中心に多くのヒット曲を持つソングライターとして、認知度も高い。80年代以降はピーボ・ブライソンとのR&Bデュエットが多く、ピンで注目されることは稀になったけど、シンガーとしてもっと評価されてもいい人である。
このアルバムが制作された時のロバータは32歳、当時としても遅咲きのデビューだった。大人の歌手として売り出そうとするレーベルの判断だったのか、はたまた彼女の意向だったのかは不明だけど、ロン・カーターはじめ、ほぼジャズ寄りのミュージシャンで固められている。
なので、「リズム&ブルース臭が薄い洗練されたバラード」という彼女のパブリックイメージとはほぼ真逆な、ジャジーでゴスペルライクなヴォーカルスタイル中心で、メロウさは感じられない。ただ、アーティスティックなこだわりを貫こうとする頑なさが、張り詰めたテンションがギリギリのところでせめぎ合っている。
その切実さは、半世紀経った今も聴く者の心を揺れ動かす。
世界中でカバーされまくっている「やさしく歌って」、もちろん日本でも人気でいろいろな人が歌っているのだけど、ほぼみんな正面からのアプローチで、そんなぶっ飛んだアレンジはあまりない。
正直、どの曲もバラード仕様に精巧にカスタマイズされているため、中途半端なアレンジを許さないので、やや変化球的なカバーを。シティポップ界隈で注目を集めた井田リエ&42ndストリートが「Feel Like Making Love」を日本語カバーしているのだけど、邦題が「ひらめきラヴ」。アレンジ自体はほぼストレートなポップバラードだけど、日本語詞が秀逸。歌ってみれば、あぁなるほど、って納得してしまう。
前回451位はAmy Winehouse 『Back to Black』。今回は33位。
453位 Nine Inch Nails 『Pretty Hate Machine』
452位 Diana Ross & The Supremes 『Anthology』
ジャケットを替えたり曲順を替えたり、おそらくその世代それぞれの『Anthology』があるはずなのだけど、基本、中身はほぼ同じの定番2枚組ベストが、微妙にランクダウン。正直、1枚ものでも十分事足りるけど、俺的には80年代末に買った2枚組CDの印象が強く、それなりに愛着がある。このシリーズのマーヴィンとテンプス、ジャクソン5はかなりの回数聴き返した想い出。
ちなみにモータウン、創成期から女性アーティスト/グループに力を入れており、マーヴェレッツやグラディス・ナイト、タミー・テレルやマーサ&ヴァンデラスなど、決してマイナーと言い切れないメンツが揃っていたのだけど、今回ランキングされているのは、シュープリームスと394位ダイアナ・ロスのみ。アルバム時代以前のアーティストゆえ、こういうランキングの時はどうしても分が悪い。
久しぶりに通して聴いてみて、そりゃ録音の古さはしょうがないにしても、ダイアナ・ロスのウィスパー・ヴォイスはひとつの発明だったのだな、と改めて思う。泥臭くソウルフルで声がデカいことが最低条件だった女性シンガーのセオリーをとことんはずした、細いウィスパー・ヴォイス抜きでは、ベリー・ゴーディ&スモーキー・ロビンソンのポップ・ソウルがヒットすることもなかったんじゃないか、と。
歌番組やライブでのみ発表されたものも含めれば、べらぼうな量となるシュープリームスのカバーだけど、ここはシンプルに「シュープリームスの日本版」と言い切っちゃっても差し支えない、キャンディーズのカバーメドレー。特別音源化はされていないみたいだけど、一定の需要があるのか動画で簡単に見ることができる。
彼女らのエネルギッシュなパフォーマンスだけではなく、近年になって再評価されているライブサポートのMMP(ミュージック・メイツ・プレイヤーズ)らの熱演も必聴。
前回452位はJohn Prine 『John Prine』。今回は149位。
453位 Nine Inch Nails 『Pretty Hate Machine』
90年代アメリカ・オルタナ界で頭角を表したナイン・インチ・ネイルズのデビュー作が初登場。あまりこの界隈は通ってこなかった俺だけど、なぜかリアタイでこの次の『The Downward Spiral』は買っており、一回聴いてギブアップしてしまった記憶がある。
この後に出てくるカン同様、世の中に絶望したり鬱屈したりする者にはうってつけなこのバンド、陰のオーラが激強なため、狭く深く根強い人気を持っているはずだけど、ここではやっと初登場。しかもこのデビュー作のみ。
個人的に入り口が『The Downward Spiral』だったため、緻密に構築されたテクノ+インダストリアル・メタルという印象だったのだけど、このデビュー作ではまだ確立されていない。よく言えば幅広い音楽性、悪く言っちゃえばとっ散らかってる印象。
ついでなので、彼らの中ではわりと有名な『Broken』も聴いてみたのだけど、前述の要素が高純度で抽出されてて、俺的にはこっちの方が好み。昔なら敬遠していた音だけど、一周回った今だったら、正直カンより面白い。
湧き上がる鬱屈や抑圧を吐き出しても、それを余すことなく表現する技術が追いつかない。頭の中だけで考えてシミュレートされたサウンドへのもどかしさと葛藤、そしてその悪循環。
稚拙なあまり、自傷へ向かう衝動。実際は事に踏み切れないやるせなさ。
ここには、そんな情念が詰まっているのかもしれない。
前回453位はEPMD 『Strictly Business』。今回は圏外。
454位 Can 『Ege Bamyasi』
名前を見ると、思わず口に出して言いたくなってしまう「ダモ鈴木」。そんな彼が在籍していたジャーマンプログレ・バンド3枚目のアルバムが初登場。すごくざっくり言えば、それぞれが現代音楽とロックとジャズと電子音楽を持ち寄って好き勝手に演奏して、それをそのまま放り投げた、そんなサウンド。
こうやって書いても、全然言い表せてない。具体的に言えねぇよこんな音。
いわばアバンギャルドの代名詞、ロック聴きかじりの背伸びした高校生が食いつくバンドなのだけど、ここにきてやっと初登場っていうのが、逆に不思議。これまでランクインしてなかったんだ。
40年くらい前のロック名盤ガイドでは、すでに伝説の存在の位置付けだったカン、アルバムはすべて廃盤だったため、実際に聴いた者は少なかった。人づてで「なんかすごいらしい」と小声でささやかれる、そんなバンドがカン。
80年代末頃、ドイツでサラリーマンに転職していたダモ鈴木が、なぜかロキノンで短いインタビューを受けていた。おそらく彼にとって黒歴史扱いだったのか、活字で読んでもそのぶっきらぼうぶりが伝わってきた。
で『Ege Bamyasi』、3枚目ということで初期に比べれば音楽的にまとまっているらしい。他のアルバムも聴けばその変遷がわかるのかもしれないけど、正直そんな気は起きない。
多分、中高校生だったら聴いてたな。中学生のくせにピンク・フロイドにかぶれてた当時の俺。
前回454位はAlice Cooper 『Love It to Death』。今回は圏外。
455位 Bo Diddley 『Bo Diddley/Go Bo Diddley』
インパクト強い名前がよく知られているけど、あんまり曲は知られてない、ロックンロール創成期の代表的アーティストのひとり、ボ・ディドリーの初期作品が、大きくランクダウン。落ちてはいるけど、踏みとどまりはしている。
同じカテゴリのリトル・リチャードやバディ・ホリーもジェリー・リー・ルイスも、なんだかんだで最低一枚はランクインしているため、この枠は順位変動はあっても、今後も安定株であり続けると思う。日本史で例えると、本能寺の変や応仁の乱みたいなポジションだもんな。
名前と同じくらい特徴的でインパクトの強いマッチ箱ギターは、ここ最近もフットボールアワー後藤がカスタマイズして使っていた。見た目のウケ狙い的な側面は大きいだろうけど、結構ディープな嗜好の人なので、純粋なリスペクトもあったと信じたい。
これまでまともに聴いたことがなかったため、今回初めて通して聴いてみたアルバム通して聴いたみたのだけど、正直、どれがどの曲か判別がつかない。一聴して誰の曲か明らかなジャングルビートは、単純な8ビートとの明らかな差別化であり、強力な武器なのだけど、でも正直、どれも同じに聴こえてしまう。
もう2、3回聴き返せばわかるかもしれないけど、それじゃ学習になってしまうので、またちょっと違ってくる。まっさらな10代で聴いていれば、全然衝撃度も違っていたかもしれない。もうそんなまっさらな心じゃないもんな、50過ぎると。逆に新鮮に受け止めても気持ち悪いだけだし。
ギターメインのロックバンド中心に、日本でもカバーしているアーティストは多いのだけど、やはり彼らははずせないボ・ガンボス。ここではカバー曲ではなく、なんとボ本人参加のコラボ曲を。
タイトルはまんま「ボ・ガンボス」。どちらかといえばジャングルビートより、コッテリ泥くさいガンボ風味が強い。憧れのスターと共演できて嬉しさのあまり、相変わらずのテンションMAXで対峙するどんとと、余裕しゃくしゃくでそれを受けるボとの対比が面白い。
前回455位はLos Lobos 『How Will the Wolf Survive?』。今回は431位。
456位 Al Green 『Greatest Hits』
ロバータ・フラック同様、ソウル史に名を残すベテランゆえ、なんとなく名前は知ってるけど、日本ではどうにもパッとしない、そんなアル・グリーンのベストが大きくランクダウン。シュープリームス同様、彼もまたオリジナル以上にベストアルバムが量産されているため、このアルバムじゃなくても全然構わない。正直パッケージ変わっただけで、中身はどれもおんなじだから。
日本ではソウルシンガーへの定型句として「ソウルフルなシャウト」という言葉があるように、「血管切れそうなくらい大声で叫ぶ」ことを褒め言葉として使うことが多い。彼のようなソフトなヴォーカルスタイルは、日本では「ブルースを感じない」と一蹴されて、また別のカテゴリ「ブラコン(ブラック・コンテンポラリー)」に放り込まれて一緒くたにされてしまう。
「ブラコン=大衆に媚を売った商業的音楽」といったレッテル/偏見のもと、ピーボ・ブライソンもアレキサンダー・オニールもジェームズ・イングラムもテディ・ペンタグラスも全部ひとまとめにされ、思考停止のまま、きちんとした評価の対象とされていなかった。いまはだいぶ改善されているけど、90年代くらいまではみんな、ノンシャウトで朗々と歌い上げるシンガーはみな、そんな扱いだった。
同じくノンシャウトのダイアナ・ロスは、シュープリームスで培ったイメージをかなぐり捨ててディスコ路線に舵を切り、どうにか爪痕を残すことができた。対してグリーン、そのキャリアのピークにガールフレンドへのDVをきっかけに牧師に転身、一時、表舞台から身を引いてしまう。そこでキャリアが止まってしまったことから、特に日本ではイメージが定着してしまったのでは、と勝手に思っている。
彼のレパートリーの中で最もよく知られている「Let's Stay Together」をスカパラがカバー。デビューからしばらくはインストスカファンク中心だった彼ら、収録アルバム「グランプリ」がターニングポイントとなって、ゲストヴォーカルを迎えたコラボ曲が増えてゆくことになる。
ホーンが多め以外はほぼオリジナルに準じた、ゆったりしたスロー・ソウル。これでシンセが入ってきたらブラコンだけど、生演奏中心なので、極上な大人のソウルとして仕上げられている。
前回456位はMarvin Gaye 『Here, My Dear』。今回は493位。
457位 Sinéad O'Connor 『I Do Not Want What I Haven't Got』
今年7月に亡くなったシニード・オコーナー2枚目のアルバムが初登場。このランキング集計時(2020年)、表立った活動もなくほぼ隠遁状態だった彼女、なんでこのタイミングでフィーチャーされたのが、ちょっと不思議。おそらくだけど、当時ポリコレに過剰反応した「RollingStone」のポリシーが反映されているのか。
いわば昔の江頭や出川のようにキモ扱いだったプリンスが書いた「Nothing Compares 2 U」は、全米・全英ともにNo. 1ヒット、ほぼ無名のアイルランドのシンガーは、ワールドワイドな知名度を獲得した。当時、シーンの中心はマドンナやカイリー・ミノーグなど、フェミニンを売りにしたタイプが大勢を占めており、シニードのようにスキンヘッドのユニセックスな出立ちと過激な言動は、日本でもなかばゴシップ的に動向が伝わってきた。
俺的に彼女の言動で一番インパクト強かったのが、ディラン30周年ライブでのアカペラ独唱。みんな彼への敬意を込めて代表曲をカバーする中、力強くボブ・マーリー「War」だもの。ディラン信者のブーイング、ハンパなかったよなアレ。
ただ一周回って考えると、手放しな賛美礼賛というのも、ディランにそぐわない、とも思う。全世界が注目するあの場所でこそ、あのパフォーマンスを演じたことは、再度検証しても良かったんじゃなかろうか。まぁ、やらかしちゃったことで生きづらくはなっちゃったけど。
多かれ少なかれデフォルメされた「女性」を前面に押し出すことがセオリーとされていたポピュラー女性シンガーの中、ダンス要素のないメッセージ性強いトラックの数々は、どの曲も流し聴きを許さないエゴの強さが浮き出ている。スタッフが保険的な意味合いで時流に合わせたのか、当時流行っていたポリス「見つめていたい」インスパイアなギターロックも入っており、それはそれでよくできた80年代ポップでいいんだけど、シニードが歌う必然性がちょっと薄い。
いろいろ生きづらい人だったな。
前回457位はMy Morning Jacket 『Z』。今回は圏外。
458位 Jason Isbell 『Southeastern』
ジョージア州アセンズで結成された、骨太なサザン・ロック/オルタナ・カントリーをプレイするバンド、ドライヴ・バイ・トラッカーズを脱退したジェイソン・イズベル4枚目のソロアルバムが初登場。ほぼタワレコのレビューの引き写しだけど、バンドもアーティストもまったく未知数。
ほぼ日本語での情報がなく、アメリカ以外ではほぼ無名だけど、国内では絶大な人気を誇るという、典型な内需型アーティスト。なにしろタイトルがストレートに「南東部」だし、もう他のマーケットなんて見向きもしない、全ベットそこに注ぎ込んでいる。
アーティストもファン双方、それで充分と思っている、そんな音楽。誰も損はしていない。
今どきのダンスポップやオルタナ風味を取り入れて、若い層を取り入れようだなんて微塵も考えない、ど直球の正調フォーク。アルバムの流れにメリハリをつけるためか、大味なアメリカン・ロックもあるけど、基本はセミリタイアしたようなレイドバックなサウンドでまとめられている。
そんなに泥臭く感じられないのは、アコースティックにもかかわらずカントリーっぽさが薄いおかげもある。なので、もう少しバンドサウンドを厚めにすれば、ブライアン・アダムスやスプリングスティーンみたいになってたのかもしれないけど、本人もそこまで望んじゃいないだろうな。ベテランが冒険できる時代じゃないし。
前回458位はElton John 『Tumbleweed Connection』。今回は圏外。
459位 Kid Cudi 『Man on the Moon: The End of the Day』
カニエ・ウエストに見出されたラッパー:キッド・カディ2008年のデビュー作が初登場。当然、俺は知らない。
EDMをバックトラックに使ったスムースラップが特徴らしいけど、いまだビギナーの耳なので、他のラップと比べて違いはほぼわからん。ただ、カニエとコラボしたトラックはフロー多めなので、そこだけはちょっと惹きつけられるけど、大方はそんな印象に残らない。
ただ、見た目も育ち良さそうだし過剰にオラついていないし、それを反映してか、広く開かれたコンテンポラリーな音。英語なのでメッセージはあるのかどうかもわからないけど、耳障りの良さは伝わってくる。別に皮肉でもなんでもなく、いい意味で。
前回459位はThe Drifters 『The Drifters' Golden Hits』。今回は圏外。
460位 Lorde 『Melodrama』
「ロード」と読む、ニュージーランドの女性アーティストが初登場。デビュー作がいきなり全英・全米で首位獲得、その後も大物アーティストからコラボ希望で引っ張りだこだったらしいけど、2018年、突然すべてのSNS書き込みを削除して隠遁生活に入ってしまう。以降は活動も謎に包まれ、神出鬼没の状況とのこと。
最初から持ち上げられ過ぎた反動なのか―。「それだけ自我を確立している」「強いエゴに支えられている」のだと思いたいけど、逆にいろいろめんどくさい人なのかもしれない。あまり思い詰めるとシニード・オコーナーみたいになっちゃうかもしれないので、好きにほっといた方がいいんじゃね?と勝手に思ってしまう。
近年の女性アーティストといえば大方、EDMダンスポップかバロックポップのどっちかだと勝手に思っているのだけど、彼女の場合、そのどちらっぽさもあるけど、どちらにも軸足を置いていない。前者のあっけらかんさも後者の内省感とも、位相が微妙にずれている。
そう考えると彼女、新たなジャンルの創造者なのかもしれない。ビリー・アイリッシュほどサウンドがこじれてもいないし。
前回460位はHole 『Live Through This』。今回は106位。