好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

「Rolling Stone Magazine 500 Greatest Album Of All Time」全アルバム・レビュー:281-290位

281位 Harry Nilsson 『Nilsson Schmilsson』
(初登場)

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 ニルソンといえば「ウィズアウト・ユー」のオリジナル歌った人と思われがちだけど、実はこれ、バッドフィンガーのカバーだったんだな。今回初めて知った。
 アラフィフの俺より下の世代だと、マライア・キャリーで知った人も多いはずだけど、きらびやかなハイトーン・ヴォイスを引き立たせる重厚ドラマティックなアレンジは、明らかにニルソン・ヴァージョンをベースとしている。「ウィズアウト・ユー」とはこうあるべき、というガイドラインを作ったのが、ニルソンの功績ひとつである。
 対して、元祖オリジナルのバッドフィンガーだけど、そんな二者と比較して聴いてみると…、ちょっと残念な仕上がりである。現役活動時から、何かとついてなかったバンドの珠玉の一曲ではあるのだけれど、バンド・メンバーのみの簡素なアレンジはデモテープのようで、イマイチな物足りなさが漂ってくる。
 この美メロに必要なのは、過剰なロマンチシズムであり、深いエコーに彩られたストリングス&ホーン・セクションであることを見出したのが、ニルソンだった。ジャンルは全然違うけど、石川ひとみ「まちぶせ」もそんな感じだもんな。今じゃ誰も三木聖子ヴァージョンなんて知らないし。
 いにしえのロック・ファンにとっても、「ウィズアウト・ユー」以外の印象が薄く、せいぜいジョン・レノンの飲み友達程度の印象しかないニルソン。代表的なアルバムは何かと問われれば、ちょっと答えに詰まってしまう。
 このアルバムも聴いてみると、「ウィズアウト・ユー」 一色というわけではなく、多彩なスタイルの楽曲が並んでいる。どの曲にも彼独自のロマンチシズムが反映され、才能の片鱗があちこちに転がっている。ヴォーカリスト:ニルソンの魅力を余すことなく引き出す、コンポーザーとしてのセンスは、エルトン・ジョンより上回っている瞬間もある。




 「シャイニン・オン 君が哀しい」がスマッシュ・ヒットした80年代ソニーのバンドLOOKを経てソロ・デビューした鈴木トオルが、「Without You」をカバー。確か化粧品のCMタイアップだったはずで、TVで聴いたことある人も結構多いはず。マライア並みのハイトーン・ヴォイスの持ち主のため、彼の持ち味が存分に発揮されている。イヤ普通に今でも聴ける。
 前回281位はMary J. Blige 『My Life』。今回は126位。




282位 Frank Sinatra 『In the Wee Small Hours』
(101位 → 101位 → 282位)

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 アメリカ・エンタメ界の大御所として、陰に日向に長らく君臨したシナトラ、唯一のランクイン。彼の全盛期とされる50年代は、カジノやクラブでのステージが活動の拠点であり、アルバム制作は優先事項ではなかった。
 シナトラに限らず、60年代以前に活躍したヴォーカリストはみなシングル中心で、能動的にオリジナル・アルバムを製作するのはレアケースだった。そんな状況で、ベストじゃなくてこのアルバムがランクインしたのは、それだけ支持されているということなのだろう。
 ステージの合間に、映画やラジオに小まめに出演して知名度を上げ、短いスパンでシングルを売ることが、当時の一流エンターテイナーの処世術だった。ある程度、シングルリリースが溜まると、それらを寄せ集めて作るのがアルバムであり、ヒット曲が多く収録されていることが、良いアルバムの条件だった。
 こう書いてしまうと、現在に通ずるところが多い。小難しいコンセプトやトータル・バランスをすっ飛ばし、小出しにしたシングルを最後にまとめてリリース。サブスクや配信がメインとなった2020年代、アルバムの意義は先祖返りしつつある。
 同時代のシンガーと比べて、声量に恵まれなかったシナトラにとって、テクノロジーの進歩に伴うマイク性能の向上は追い風だった。これによって彼特有のクルーナー・ヴォイスが活き、無理に力まなくても明瞭な音でのパフォーマンスが可能になった。
 現代まで連綿と続く、男性ジャズ・スタンダード・ヴォーカルのフォーマットは、シナトラによって確立された。されたのだけど、それ以降、このジャンルの進化は止まり、シナトラ・スタイルの拡大再生産がいまだ続いている。
 シナトラ以上、または違う角度からのアプローチを持つシンガーもいたのだろうけど、彼ほどの大衆性を獲得するには至らなかった。再生産の連鎖は衰退につながり、そしてゼロに収束する。その日はいつになることやら。




 日本人による「マイ・ウェイ」カバーといえば、尾崎紀世彦・布施明の二代巨頭が定番だけど、シド・ビシャス・オマージュなアプローチで歌ってるのが、ブランキー・ジェット・シティ。ジャンクでガレージな、いつものブランキー節であり、同時にシドの先進性を彷彿とさせる。って、アイツはただやらされてただけか。
 他のランキングは、『Songs for Swingin' Lovers!』303位→308位ときて、今回は圏外。
 前回282位はMuddy Waters 『Folk Singer』。今回は圏外。




283位 Donna Summer 『Bad Girls』
(初登場)

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 鬼才ジョルジオ・モルダーが創造したミュンヘン・ディスコの申し子:ドナ・サマーの代表アルバムが初登場。70年代ディスコの再評価は、80年代ユーロビート以降の早い段階から始まり、以降、世紀をまたいだ現在では、リバイバルを超えたスタンダードとして定着している。なので、ランクインは妥当。
 MIDI機材以前のディスコは、シンプルな8〜16ビートとコード進行が主流だった。心拍数に近い、ほど良いBPMとリフレインの多いキャッチーなメロディは、それほど熱心ではない音楽ユーザーからの支持も熱かった。
 そりゃ当たりはずれも多かったはずだけど、「ノリ良ければいいんじゃね?」的な懐の深さ、いろんな意味でのユルさは、このジャンルの特徴である。同じダンス・ミュージックである、ニュー・ジャック・スウィングもユーロビートもテクノ・トランスだと、細かくカテゴライズされていることもあって、そんな余裕には欠けてるんだよな。
 そんなドナ・サマーの、誰でも知ってる「ホット・スタッフ」収録アルバムが、これ。アナログ2枚組というボリュームなので、ディスコ・チューン以外にも取りそろえてるんだろうな、って思っていたのだけど、ほほ全部「ホット・スタッフ」だった。ここまで徹底してると、逆にすごい。
 ステレオを前に、じっくり対峙して聴くのではなく、パーティやディスコで流しっぱなしにすることを想定して作られたアルバムなので、これはこれでいいんだろうな。導入部が落ち着いたバラードだったので、「おっ、さすがにちょっと味変えてきたな」って思ったら、すぐに転調して結局「ホット・スタッフ」になっちゃった「Dim All the Lights」など、徹底したブレのなさは、職人の仕事だ。
 前回283位はBarry White 『Can't Get Enough』。今回は圏外。こっちも70年代ディスコなんだけど、ちょっとメロウすぎたかな。




284位 Merle Haggard 『Down Every Road: 1962-1994』
(圏外 → 477位 → 284位)

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 若い頃は札つきの不良少年、重刑者御用達のサン・クエンティン刑務所にまで堕ちたところを、慰問に訪れたジョニー・キャッシュのステージを見てカントリーに開眼、出所後は更生してアメリカを代表するシンガーになったマール・ハガード。そんな破天荒な経歴を持つ彼のベストが大幅急上昇、って一体何があった。日本で言えば泉谷しげるあたりかな。彼は前科ないけど。
 カントリー界では大物とされる、ジョージ・ジョーンズやウィリー・ネルソンとコラボしていたり、アメリカでは同等クラスで名の知られた存在らしいけど、日本ではほぼ知名度がなく、俺も今まで知らなかった。彼のようなカントリー・フォークは、アメリカ国内ではいまだ根強い支持があるため、わざわざグローバル展開しなくてもやっていけたことが、日本で知られなかった要因である。
 初期のニール・ヤングにも通ずる、男性でもセクシーに感じてしまうバリトン・ヴォイスは、うまくプロモートしていれば、日本でもそこそこ需要を生み出せたと思うのだけど、ジャケットやポートレートから伝わってくる暑苦しいマッチョイズムは、かなりニーズが限られるだろうな。粗野でゴツゴツした顔立ちに加え、尾崎紀世彦ばりの長いもみ上げは、ちょっとダメ押し感が強い。
 そういった周辺情報は置いといて、ソングライターとしてのハガードは、前科者という経歴を隠さず、刑務所や施設で得た教訓、そして友達についての歌を歌った。
 過去の自身を反面教師とし、それゆえ倫理観が高まったことからか、当時のヒッピーを非難する歌を書いた。
 身近で平穏で日常的な題材を歌うことが多いカントリー界において、彼は思ったことをダイレクトに吠えた。明快なスタンダードを残すことはなかったけど、そんな彼の姿勢は後世に受け継がれている。
 他のランキングは、『Branded Man』が、第1版476位、以降は圏外。
 前回284位はCars 『The Cars』。今回は353位。




285位 Big Star 『3rd/Sister Lovers』
(448位 → 449位 → 285位)

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 現役活動時はほぼ無名、80年代以降に若手インディー・バンドからの熱烈なリスペクトによって再評価、その後はパワー・ポップのルーツとして、ポジション確立したビッグ・スターの3枚目が、大幅ランクアップ。最初の2枚は全然売れず、一応このアルバムも完パケしたのだけど、どのレーベルも前向きじゃなかったためお蔵入り、意気消沈したバンドはそのまま解散してしまう。その4年後、初期2枚がリイッシューされて再評価が盛り上がり、そこでようやくリリースされたという、なんともややこしい経緯をたどったアルバムである。
 80〜90年代インディー/オルタナ/ローファイ・バンド、要はロキノン推しからの人気が異常に高く、「とりあえずビッグ・スターに影響受けたっス」って言っとけば間違いない、そんな空気があった。グラム・ロックとパンク・ムーヴメントの狭間の真空地帯で活動していた彼ら、力んだハードコアや斜め上のスノッブに走らず、ちょっとメロディアスなロックンロールは、拙いバンド・キッズにとっては、敷居が低くて親しみやすかったことが察せられる。
 そんな彼らがなぜ売れなかったのか、ちょっと気になって調べてみると、初期2枚をディトリビュートしていたのがスタックスだったことを知った。オーティス・レディングやサム&デイヴを輩出した、あのソウルの名門スタックスである。ロックとはほぼ無縁だったのは、俺でも知ってる。
 レコードさえ出してくれるのがそこしかなかったのはわかるけど、でもよりにもよって、なんでスタックスと。エイベックスが浅川マキと契約するようなもので、どう考えてもお門違い。
 なので、スタックスじゃなく、コロンビアやワーナーのような、ロック/ポップス系の営業ノウハウを持ったレーベルと契約していれば、彼らの運命もまた違っていたのかもしれない。
 他のランキングは、2枚目『Radio City』が399位→405位ときて、今回359位。デビュー作『#1 Record』が430位→434位ときて、今回474位。
 前回285位はStevie Wonder 『Music of My Mind』。今回は350位。




286位 Red Hot Chili Peppers 『Californication』
(395位 → 401位 → 286位)

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 一般的に彼らの代表作といえば、出世作の『Blood Sugar Sex Magik』が筆頭に上がるところだけど、俺が最初にレッチリに食いついたのは、このアルバムからだった。ファンクとロックとハードコアをいっぺんにプレイすることを発見した『母乳』、問答無用の大名曲「Give it Away 」「Under the Bridge」が収録されているだけでもうお腹いっぱいの『Blood Sugar Sex Magik』が、ロック・ファンからの支持が多いのだけど、狭くディープなロック村から一歩踏み出して、広範な支持を得るようになったのは、ここからだった。
 『Californication』がリリースされた1999年は、マーケットの主流はヒップホップに取って代わって久しく、ロック・アーティストにとっては不遇の時代だった。そんな逆風の中、マニアの多い外盤ショップの枠を超え、玉光堂のような地場CDショップでも売れていた『Californication』は、ある意味、奇跡的な存在でもあった。っていうのは持ち上げ過ぎか。
 普通のロック・バンドがメジャー展開をする場合、シンセやホーン・セクションを導入してサウンドに厚みを出したり、親交のある有名ミュージシャンをゲストに呼んで箔づけしたりするものだけど、彼らの場合、『Californication』はちょっとメロディ路線になったかな?っていう程度で、4人によるハイパー人力パフォーマンスは変わってない。ていうか、むしろパワーアップしていたりもする。
 タイトル・チューンの「Californication」、なんか頭悪い造語だよなぁって思ってたのだけど、歌詞を読んでみると、また印象が違ってくる。肥大化したハリウッドの栄枯盛衰や搾取、儚くも夭折したカート・コバーンへの郷愁などが綴られており、決して能天気な内容ではない。
 そう考えるとこのアルバム、レッチリ視点による、世紀末の「ホテル・カリフォルニア」となのかもしれない。




 「Coco d'Or 」なる日本人アーティストが、癒し系サンバ/ボサノバ・アレンジで「By the Way」をカバーしており、一体誰?って調べてみると、元SPEEDヒロ:島袋寛子がその正体だった。ジャズ・プロジェクト時の名義らしく、これがジャズ?って印象だし、彼女のポテンシャルが活かされてるとは言い難いし、ていうかレッチリ・テイストは完全強力脱臭されているしで、あれこれ言いたいことは尽きないけど、でも本人とファンが満足してるんだったら、それでいいんじゃね?って結論。
 前回286位はAl Green 『I'm Still in Love With You』。今回は306位。





287位 The Byrds 『Mr. Tambourine Man』
(228位 → 233位 → 287位)

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 274位『ロデオの恋人』に続き、バーズのデビュー作がランクイン。カントリー・ロック以前の彼らの作品は、ベストで十分補完できると思うのだけど、根強いファン層に支えられているのが、60年代バンドの特質である。
 そこそこ活動期間が長かったこともあって、初期と末期とでは音楽性がガラッと違う彼ら、その初期はほぼディラン人気にあやかったフォロワー的ポジションであり、同時に優秀な翻訳者でもあった。一聴するだけでは朴訥で愛想のないディランのメロディを、彼らは耳なじみの良い軽快なバンド・アレンジによって、ヒット性のある形に仕立てた。もし彼らの存在がなかったら、タイトル曲も今ほど広まっていなかったことは間違いない。  
 もともと手っ取り早くプロテストの波に乗っかっただけで、フォークに殉ずる気は薄かったディラン、辛気臭い弾き語りスタイルには早めに見切りをつけ、ビートルズやストーンズのようなポップ・スターを夢見てエレキに転向したのだった。
 だったのだけど、なんか違う。軽やかさはなくて無骨、ポップというには堂々とし過ぎている。華やかさとは縁遠い、のちのザ・バンドやアル・クーパーだもの。そりゃ女の子がキャーキャー言うはずもない。
 なので、何かとしちめんどくさいメッセージや暗喩をすっ飛ばし、流麗なハーモニーやほどほどのビート感でメロディを引き立たせたバーズやピーター・ポール&マリーらのアプローチは、ある意味では正しかったことになる。換骨奪胎とまでは言わないけど、ディランの楽曲を大衆レベルに翻訳し、ヒット・チャートに送り込むことで、歌詞が軽視されていたポピュラー音楽のセオリーを書き換えたわけだし。
 90年代に入ってからのバーズの評価は、主にカントリー・ロックのルーツとして、前述の『ロデオの恋人』『名うてのバード兄弟』あたりがクローズアップされるようになるのだけど、そのアプローチは真面目すぎて、ポップさには欠ける。腰が軽くてチャラいポップ・ソングを歌う、この時期の彼らの方が、肩が凝らなくて楽に聴ける。
 前回287位はX 『Los Angeles』。今回は320位。




288位 The Modern Lovers 『The Modern Lovers』
(377位 → 382位 → 288位)

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 「トーキング・ヘッズのジェリー・ハリソンが在籍していたバンド」という予備知識のみ、あんまり期待しないで初めて聴いてみた。「トーキング・ヘッズはデヴィッド・バーンのワンマンバンド」という先入観が抜けていなかった俺、聴いてみて、後悔した。全然カッコいいじゃねぇか、モダン・ラヴァーズ。
 厳密に言えばこのアルバム、1972年に大方完成したのだけど、デビュー前にバンドが解散しちゃったため、お蔵入りとなってしまう。その後、リーダー:ジョナサン・リッチマンはメンバーを総入れ替えした新生モダン・ラヴァーズでメジャーデビュー、その流れで3年経ってようやくリリースされたという経緯を持つ。前述ビッグ・スターもそうだけど、パンク以前のインディー・シーンは何かととっ散らかっていて、こういったややこしい経緯を辿るバンドやアルバムが多いこと多いこと。
 いわばプレ・パンク期、メジャーや既存のミュージック・シーンからはみ出してしまった、主にアングラなライブハウスをベースとして活動したバンドやアーティストのひとつで、まぁ当たりはずれの落差が激しいんだけど、そんな中では光っている存在である。乱雑で行き当たりばったりで独りよがりではあるんだけど、でもそんなデメリットさえ負のパワーとして作用してしまう、突出したセンスの塊。
 ただ、そのセンスが無軌道かつ過渡期だったこともあって、短命は避けられない流れだったのかね。ビッグ・スター同様、後世にリスペクトされるカルト・バンドの典型で、多分、このまま活動継続しても、そこまでブレイクすることはなかっただろうし、短命だったからこそ、再評価もされたんだろうし。
 ジョン・ケイルが関わっているトラックでは、リッチマンによるヴェルヴェッツ・フォロワーの嗜好がモロに出ているのだけど、それに匹敵するほど全編に漂っているのが、ドアーズのエッセンス。すでに夭折していたジム・モリソンというカリスマ・ヒーローの存在感、ダウナーな文学性が大きく影を落としている。
 能天気なヒッピー神話が崩壊し、ジジくさいレイドバックにも魅力を感じない、大都会の底辺で渦巻く黒い焦燥感を、衝動として音で表現したのが、ヴェルヴェッツとドアーズだった。パブ・ロックの系譜とされる初期UKパンクと違って、NYパンクは彼らの影響下から派生したものであり、そもそもの成り立ちはまるで違っている。
 -なんか脱線してきちゃったな。長くなりそうなので、今度ちゃんとまとめて書こう。
 前回288位はGrateful Dead 『Anthem of the Sun』。今回は圏外。




289位 Björk 『Post』
(369位 → 376位 → 289位)

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 従来ロックの話法をほぼ使わず、トリップホップやEDMを軸としたサウンドが話題となった、ビョークのソロ2枚目。カチッと作り込んだバックトラックに合わせてピッチを揃えるようなタイプではなく、自由度の高い即興性に重きを置いたことによって、シャーマン気質の彼女のヴォーカルが引き立っている。
 オチなし・クライマックスなしのミニマルなDTMトラックからインスパイアされて、パッションの爆発を奏上するビョーク。曲を書き、歌うという行為を超え、降りてきた旋律を外に出す。異空間と現界との橋渡しとして、ビョークはリンクを探り、そして、ただ出す。
 異端児ばかりを集めたオルタナティヴ・ロック/ポップの枠組みにおいても、ビョークのキャラクター、そしてヴォイスは突出して異端だった。既存のポップやロック、ダンスという言語との齟齬、ミスマッチ感とは、演出でもなんでもなく、身をよじる彼女の嗚咽と叫びだった。
 ソロ・デビュー作は、シュガーキューブス以降の展開として、ベターではあったけれど、それしか選択肢がなかったからあってベストとは言えず、彼女の居心地の悪さは依然変わらなかった。世間から隔絶された部族の巫女ならともかく、世紀末に生きるビョークの詔は、地に足がついた言葉と旋律、そして演出が必要だった。
 ひとつの楽器として、またサウンドの一部として作用し、かつ記名性の高いヴォーカルは、不定形のテクノ/アンビエントなフォーマットとの相性が最良だった。紆余曲折いろいろあったけど、ここでひとつの最適解となったのが、この『Post』だったと言える。
 前回289位はKinks 『Something Else by The Kinks』。今回は478位。




290位 OutKast 『Speakerboxxx/The Love Below』
(初登場)

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 彼らのキャリアのピークに発表され、最大のセールスを記録した、5枚目にして2枚組の大作。ビッグ・ボーイとアンドレがそれぞれ1枚を担当し、ボリューム感満載なんだけど、案外聴けてしまう。
 前半が正統ヒップホップ、後半がヴァイパーウェイヴなR&Bテイストと、ある程度、大まかなサウンド・コンセプトはあるのだけれど、差異はそんなにない。そこそこ曲調はバラエティ感があってバラけているので、ギャングスタ・ラップのような一本調子ではなく、冗長なムードはうまく回避している。
 ただ、メンバー間で音楽性の相違が出てくると、ユニット的には危険信号であり、これ以降、彼らの活動はペースダウンし、そして解散してしまう。コンポーザーとしてどっちも優秀だったし、ポリシーもしっかりしていたからこその発展的解消ではあるんだけれど、フロー主体のトラックは、2022年現在にも通ずるセンスを感じさせる。
 そこまで積極的に好きというわけではないけど、なんか憎めなくて気になってしまう、数少ないヒップホップユニットのひとつ。R&Bトラックだけ抜き出すと、案外すんなり聴けてしまう。やっぱ長いんだな2枚組って。
 前回290位はAl Green 『Call Me』。今回は427位。







「Rolling Stone Magazine 500 Greatest Album Of All Time」全アルバム・レビュー:271-280位

271位 Mary J. Blige 『What's the 411? 』
(初登場)

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 90年代R&B界を席巻したメアリー・J・ブライジのデビュー・アルバムが初登場ランクイン。ランキング初版の2003年時点では、まだ「懐かしの90年代ヒット曲」という扱いだったため、まだ歴史的な位置づけはされていなかったのだけど、四半世紀経って変なバイアスもなくなり、ようやく検証されるようになった、ということなのだろう。
 90年代前半のヒットチャートの中心は、ニュー・ジャック・スウィングかヒップホップ・ソウルで埋め尽くされていた。ロキノンやミュージック・マガジンを筆頭とした、当時の洋楽雑誌メディアはおおむね硬派だったため、彼女のようなヒットチャート常連の楽曲を取り上げることはなく、なので俺もこの辺はそれほど詳しくない。
 ただ、わざわざ自分から探さなくても、ラジオやクラブやら飲み屋やらで、この辺の楽曲はしょっちゅうオンエアされていたため、実体験と連動して記憶に残っている。日本の洋楽マーケットがまだ大きかった時代で、誰が歌ってたか知らないけど、覚えてる曲はたくさんある。俺世代の音楽ファンは、案外広く浅くいろいろな音楽に触れている。
 物心ついた頃、ヒップホップが身近にあった世代がデビューし始めたのが90年代に入ってからで、メアリーはそれよりちょっと世代は上なのだけど、もともとの素養であった古いゴスペルやソウルと、やや後づけのヒップホップとをうまく対象化して、洗練されたR&Bに昇華させている。取ってつけたようなサンプリングやグラウンド・ビートを乱用せず、卓越した歌唱力を引き立たせるアイテムとして、ちゃんと大衆に支持されるビートとメロディを両立させている。
 今後もそこまで掘り下げて聴く気はないんだけど、テクニックとエモーションに裏づけされたソウル・バラードは、単純に聴いてて聴いてて心地よい。でも、オープニングの電話のプッシュ音と、取ってつけたようなバスタ・ライムスのラップは、やっぱ時代を感じさせるよな。
 前回271位はThe Beach Boys 『The Beach Boys Today!』。今回は466位。




272位 The Velvet Underground 『White Light/White Heat』
(289位 → 293位 → 272位)

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 かつてのロック名盤ガイドにおいて、ヴェルヴェッツといえばデビュー作とこの2枚目が至高とされていた。敢えて付け加えるとすれば、「ルー・リード脱退寸前のライブ」という謳い文句で蔵出しリリースされた、粗悪な音質のライブ盤くらいで、あとは抜けがらという扱いだった。
 ウォーホルの思いつきで制作された企画モノだったにもかかわらず、結果的にのちのアンチ・コマーシャルなロックのマイルストーンとなったデビュー作、ウォーホルの威光から解き放たれ、ていうか放り出されたことで逆に奮起したジョン・ケイルの才気煥発ぶりの暴走が象徴的な2枚目。「ケイル在籍時こそ至高」とされていた時期が長かったよな、ヴェルヴェッツ。
 同性愛やドラッグなど、いち早くセンシティヴなテーマを歌い、マーケット的には黙殺された彼らは、さらに倫理観から外れた言葉をテーマを歌い、それに伴ってサウンドは混迷を増してゆく。エンディングの見えないフリー・セッションは、伝統的なロックンロールをベースとしながら、ノイジーな爆音と歪みで空間を埋め尽くした。
 刹那で痛々しい、自虐の円環に自ら収まることを選び、初期ヴェルヴェッツは自爆した。ここで終わったなら、もしかして彼らは泡沫バンドとして埋もれていたのかもしれない。
 ただ、そこそこ知られるようになったヴェルヴェッツの看板を使いたがる者が、わずかながら存在した。また、契約を振りかざすホワイトカラーのそそのかしによって、ヴェルヴェッツは息絶え絶えに活動を続けた。
 そんなグダグダのエピローグも含め、初めてヴェルヴェッツの伝説は完結した。末期の迷走があってこそ、「シスター・レイ」のカオスは説得力を持つ。
 前回272位はSleater Kinney 『Dig Me Out』。今回は189位。




273位 Gang of Four 『Entertainment!』
(482位 → 483位 → 273位)

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 UKパンク黎明期に数々の伝説を残したバンド、ギャング・オブ・フォーのデビュー作が大幅ランクアップ。「エンタテインメント」というタイトルが象徴するように、ファンクやレゲエ、スカと多種多様なリズムを取り込んだ楽曲群は、3コードと8ビート一色の同世代バンドとは一線を画している。
 「ロックンロールの復権」という明快なコンセプトのもと、初期UKパンク・シーンからは、有象無象含めて様々なバンドが輩出された。その多くは前述したような初期衝動の思い込みだけで突っ走り、低レベルな自己満足の末、短命で終わるのがほとんどだった。
 そんな混迷した状況において、デビューからすでにここまでテクニカルで、それでいて荒削り感も残していたのがギャング・オブ・フォー、っていうかリーダー:アンディ・ギルだったと言える。同世代のクラッシュが覚醒して無双状態に入るのは『London Calling』からだし、ピストルズはそもそも、音楽性云々で語るバンドじゃないし。
 リズム・アプローチ面から見て、ロックとファンクの相性はもともと良く、彼ら以前にも多くのバンドが取り入れてきた。シンコペーション気味でBPMを早くすれば、多少テクが追いつかなくても、そこそこ聴けるトラックができてしまうので、手を出しやすいのだ。
 これがアルバムに1〜2曲程度なら、バラエティ感という演出になるのだけど、あんまりやり過ぎるとテクの拙さが露呈されてしまう。ある程度、考えながらプレイできるレコーディングならともかく、主力のライブで再現となると、大抵グダグダになっちゃうし。
 リズムだけに重点を置かず、基本のギター・ロック、ウィルコ・ジョンソンにインスパイアされたアンディのギター・プレイが最も活かすアプローチが、たまたまファンクっぽくなったりスカになったり、ということなのだろう。変にまとめようとせず、時にいびつにさえ聴こえるアンサンブルは、パンクとは縁の薄いグルーヴ感を醸し出しており、それはのちのミクスチャー・ロックのルーツとなっている。
 この時代周辺のパンク〜ニューウェイヴを強くリスペクトし、実際に多数のレパートリーにフィードバックしてきたのが、布袋寅泰。ゴシックからパワーポップ、ハードコアまで、あらゆる音楽を吸収し、ドメスティックな味つけを施すことによって、UKサウンドを日本に定着させた功労者である。キワモノ的な「仁義なき戦い」テーマは副次的なものであり、様々なパフォーマンスも、ちょっと旺盛なサービス精神なだけに過ぎない。




 そんな布袋少年のマニアックな一面がクローズアップされたのが、ギャング・オブ・フォーのトリビュート・アルバムへの参加。トム・モレロやレッチリ、キリング・ジョークなど、錚々たるメンツなので、もうノミネートされただけでも奇跡だし、割り振られたのは再結成後の曲ではあるけれど、どうにか爪痕を残そうと張り切ったのか、いつもより気合の入ったデジ・ロックに仕上げている。
 前回273位はSmokey Robinson & the Miracles 『Going to a Go-Go』。今回は412位。




274位 The Byrds 『Sweetheart of the Rodeo』
(119位 → 120位 → 274位)

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 ディランのカバー「ミスター・タンブリン・マン」のヒットで好調なスタートを切り、その後もフォーク・ロックの旗手として、安定してシングル・ヒットを連発していたバーズ。メンバーの脱退や新規加入を繰り返していたため、実は音楽性の変遷も甚だしい。
 一時はサイケデリックロックに色目を使っていた時期もあったけど、ヒッピー・シーンの終息と連動してバンド自体もレイドバックしてゆき、ここに来て行き着いたのがカントリー・ロック。ロック・アーティストが方向性に迷ってカントリーに回帰するというのはよくある話だけど、彼らの場合、ちょっと事情が違っている。
 初参加のグラム・パーソンズはこれがメジャーデビューだったけど、すでにカントリー・シーンでは若手筆頭株として注目の的だった。向こうみずで勢いある若手のパーソンズがメンバーらを焚きつけ、ナッシュビルでのレコーディングを推し進めた。
 結果、環境に流されたことで、従来のバーズとは似ても似つかぬ「どカントリー」のアルバムとなったのが、この「ロデオの恋人」。ついこの前まで「ターン・ターン・ターン」や「霧の8マイル」歌ってたバンドとは思えない。
 新入りの若手が古いバンドを牛耳ってしまうのは、フリートウッド・マックやイエスなど、実はよくあることなのだけど、パーソンズの場合、アルバム・リリース前に脱退してしまう。さんざん方向性振り回して放り投げた彼も彼だけど、それを許しちゃったバンドもバンドだよな。
 「これからはレイドバックっすよ」とかなんとか煽てられ、「ザ・バンドが好評だし、そっちに乗っかるか」とでも思ったのか、まじめにカントリーに向き合っているマッギンほかメンバーたち。デヴィッド・クロスビーがいたら、ヘソ曲げてやらなかっただろうけど、すでに彼は脱退、マッギンさえ押さえておけば、バーズは意のままだった。
 ただ『ロデオの恋人』、パーソンズ主導によってゲスト・ミュージシャンもカントリー畑の人選となっており、よくできてはいるんだけど、ちゃんとし過ぎて聴き通すのは結構疲れる。多分、パーソンズ自身も、ちょっとまじめにやり過ぎた反省もあって、もう少しロック色を強くしたフライング・ブリトー・ブラザーズの結成に動いたんじゃないのかね。
 他のランキングは、デビュー作が『Mr. Tambourine Man』が228位→233位と来て、今回287位。ヒット曲「ロックン・ロール・スター 」収録の4枚目『昨日よりも若く』、126位→127位と高位にいただけど、今回は圏外。「ロデオの恋人』の前作『名うてのバード兄弟』も、170位→171位から、こちらも圏外。これも一時、再評価の機運あったんだけどな。
 前回274位はLaBelle 『Nightbirds』。今回は圏外。パティ・ラベルが在籍していたグループ唯一のアルバムで、オールド・ディスコの定番「レディ・マーマレード」は、誰もが知ってる「誰歌ってるのか知らないけど、一回以上は耳にしたことのある曲」。




275位 Curtis Mayfield 『Curtis』
(初登場)

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 ラジオ・オンエアを重視して、3分前後で起承転結をまとめるポップ・ソウルを量産していたインプレッションズを脱退、長尺によって生み出されるグルーヴ感に加え、重厚な問題提起を訴える「ニュー・ソウル」という概念を生み出した、カーティスのデビュー作にして問題作。ていうか、今までランクインしてなかったんだ。
 山下達郎がフェイバリット推ししてることで、日本ではいまだにマニア好みと思われがちだけど、「Move on Up」のイントロが「関ジャム」のオープニングに使われていることもあって、昔よりはほんの少し、一般的な認知も広まったんじゃないかとは思う。思うけど、あの番組のファンがこのアルバムにたどり着く確率は、かなり低いだろうとも思う。
 本来の持ち味でありスウィートなソウルをベースに、ジャズやファンクのエッセンスを取り込み、さらに幼少期に刷り込まれたハリウッド映画音楽からインスパイアされた、効果的なストリングスとのミックスは、カーティスによって広まった。大サビとフックのメロディが必須なシングルの製作手法ではなく、ゆるやかなテーマに基づいた組曲形式でアルバムを構成するのも、ソウルの世界では異端だった。
 強烈なビートやアタック音を極力用いず、しなやかなパーカッションとリズム・ギターを入念に積み重ね、ホーンやストリングスで味つけするのが、この時期のカーティス確立したサウンド・プロダクトだった。サウンドと歌詞の主張が強いこともあって、ヴォーカルは声を張り上げず、柔らかなファルセットを多用した。ていうか、声質がサウンドを希求したのか。
 ソロ以降のカーティスはもっぱらサウンド志向のため、インプレッションズ時代のようなキャッチーなメロディを持つ楽曲が少なく、そんなわけで日本人カバーも少ないのだけど、EGO-WRAPPIN'が「Move on Up」をやっていた。確かにこの人たち、日本のミュージック・シーンでは一貫して浮いてたもんな、いい意味で。




 彼らの楽曲がもともと、80年代以前のソウルやジャズをベースとした音楽性なだけあって、納得ゆく仕上がり。アレンジはほぼまんまコピーなんだけど、ほぼスタジオ・セッション一発録りによる臨場感には、強力なリスペクトを感じてしまう。
 前回275位はEminem 『The Slim Shady LP』。今回は352位。




276位 Radiohead 『The Bends』
(111位 → 111位 → 276位)

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 メロディアスなブリット・ポップに刹那なシューゲイザーのエッセンスを入れたことによって、ライバルとの差別化に成功したレディオヘッド。普通ならそこでひと段落というところが、さらに予想の斜め上を突っ走り続け、いまどの辺の立ち位置にいるのか、おそらく自分たちでもきちんと把握していないと思われる、それがレディオヘッド。
 そんな彼らの、ロック・バンドとしては最後のアルバム、またぎりぎりブリット・ポップの範疇で語ることのできる2枚目のアルバムが、あらら前回より大きくランクを下げている。もはや世間的に、彼らは『OK Computer』以降のバンドということなのか。
 「オアシスとブラーどっちが強い?」と盛り上がっていた俗世間をよそに、スウェードやパルプのような大衆路線になびかず、彼らはロックの正道を追求し続けた。「クリープ」だけの一発屋って思われたくない気持ちも多少はあったんだろうけど、ぼんやりと見えかけていたビジョンの実現が、鬼才トム・ヨークを覚醒させた。
 彼の覚醒はここで終わらず、その後も無双状態を維持させたまま、21世紀に突入することになる。いやロキノン界隈だけじゃなく、実際に日本でも売れてたんだよ『OK Computer』。
 ただ、この『The Bends』以降、極端にエクスペリメンタルやエレクトロニカ導入に走らず、オーソドックスなバンド・スタイルの発展型がどんな風になっていたのか、それを聴きたいファンも多かったのも、また事実。俺のようなアラフィフ世代なら、そう思っている人は多いはず。
 歴史にifはありえないけど、この時期のアウトテイクなんかがあったら、それなりに需要はあるんじゃないかとと思われる。多分、ブート界隈で落ちてるのかね。
 前回276位はParliament 『Mothership Connection』。今回は363位。




277位 Alicia Keys 『The Diary of Alicia Keys』
(初登場)

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 2020年『Alicia』に続き、2021年末、わずか1年でオリジナル・アルバム『Keys』をリリースしたアリシア・キーズ。コロナ禍以上にアメリカを席巻しているBLMに触発されたのか、ここにきて創作意欲が爆発している。
 そんな彼女の2枚目となるアルバムが初登場。タイトルの雰囲気からして、これがデビュー作だとずっと勘違いしてた。まぁ日本で大きくフィーチャーされるようになったのはここからだし。
 王道コンテンポラリー/R&Bバラード中心のシンガーと思われがちだけど、アルバムではアップテンポのナンバーも歌っており、守備範囲は広い。当たり前か。バラード一色だったら、どんなに上手くても中だるみしちゃうし。
 日本では圧倒的に「If I Ain't Got You」のインパクトが強く、オーソドックスなR&Bバラード専門のシンガーと受け取られがちで、ノラ・ジョーンズと同じくくりで語られることが多いけど、実際の彼女はもっとアクティヴかつ攻撃的である。近年の旺盛な創作意欲も、特にアメリカ国内ではコロナ禍よりも深刻なBLM問題に触発されてのものだし、メッセージ性の強い楽曲も多い。
 むしろ「お行儀の良いピアノ・シンガー」というパブリック・イメージは、ほんのわずかな期間、ていうか一部のバラード曲だけにクローズアップしたものに過ぎない。彼女自身、過去を否定することはないだろうし、原点であることに変わりはないけど、俺的にはイメージを上書きし続ける彼女の攻めの姿勢が、割と好きである。
 多分、歌番組などでカバーされることも多かった「If I Ain't Got You」、現時点で確認できたのが絢香の歌うヴァージョン。CD化はされておらず、主にライブのみだったらしいけど、上手い人なので普通に聴ける。欲言えば、MISIAあたりで聴いてみたいよな。
 前回277位はJanet Jackson 『Rhythm Nation 1814』。今回は339位。




278位 Led Zeppelin 『Houses of the Holy」
(148位 → 148位 → 278位)

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 人がZEPについて饒舌に語るのは、おおよそ4枚目までであり、その後のアルバムはサラッと流されるのがほとんどである。ただ、半世紀も前に活躍していたバンドなので、もはや重箱の隅っこまで語り尽くされ、再評価だってもう何度目か。
 数年に一度、多分、ジミー・ペイジの懐具合と連動して行なわれるリマスター商法も、そろそろネタ切れ感がハンパない。どうにか4枚目以降の商品価値を高めようと、業界総出で盛り上げようとしている感は伝わってくるのだけど、この『聖なる館』も含め、市場の反応は冷ややかだ。だから言ってんだろ、こっちをどうにか盛り上げろよ『Presense』。
 そこまで入れ込まなかったはずだけど、それでも4枚目まではちゃんと買っていた俺にとって、ZEPの魅力はというと、野人のようなヴォーカルとドラム、強引にひとつのサウンドとしてまとめ上げるギター、なんかいつも空気のベース、これら4つのせめぎ合いの妙だった。アンサンブルなんて眼中にない、とにかくデカい音、本能のまま紡ぎ出されるサウンドのバトルロイヤルこそが、ZEP唯一無二のアイデンティティだった。
 時おり見せていトラディショナル・フォーク路線も、爆音の合間の箸休めとして、それくらいならまぁいいんだけど、そればっかりだと眠くなってしまう。「天国の階段」だって、終盤のヘヴィーなパートがあるからこそ名曲なのであって、全編フォーキーだったら、そこまで騒がれなかったことだろう。
 キャリアを重ねるにつれ、爆音ドラムと絶叫ヴォーカルを抑え、バランスを考えたアンサンブルを志向するようになることを、人は成長と呼ぶのだろう。スターダムにのし上がったことでがむしゃらさを忘れ、器用に多彩に手広くやりたかったのはわかるんだけど、求めてるのはソコじゃないんだよな。
 レゲエをいち早く取り入れたりシンセで新機軸を披露していたり、第4の男の貢献度が、目に見えて増えている。その辺はバンドっぽさがある。「ZEPじゃなければ普通にいい曲」っていうのもあるんだけど、わざわざそんなの、好んで聴こうとは思わないし。




 ギャング・オブ・フォーとかぶっちゃったけど、世界のHOTEIが移民の歌をカバーしていた。おそらくZEPは後追いだったはずの布袋、ここでは前者のようなファン意識は薄く、オリジナリティを強く打ち出したテクノ・ハードコアに仕上げている。ギターリフのフレーズがあまりにインパクト強いため、ZEPのイメージ解体までには至ってないけど。
 前回278位はオムニバス 『Anthology of American Folk Music』。今回は圏外。




279位 Nirvana 『MTV Unplugged in New York』
(307位 → 313位 → 279位)

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 オリジナルだけにとどまらず、死後リリースされた追悼ライブ・アルバムまでランクインしているニルヴァーナに対し、フー・ファイターズはランクインなし。もう四半世紀以上のキャリアを誇り、ロックの殿堂に入るほどのベテランなんだから、彼らにも脚光当ててもいいんじゃないの?と思ってしまう。聴いたことないけど。
 当時、実力派アーティストの登竜門として、MTVの人気コンテンツのひとつだったアンプラグド、アンプやエフェクトを用いないライブ一発撮りスタイルのプログラムは、今も不定期で続いている。今でいうFirst Takeのルーツと言えば、伝わるかね。
 出演当時はまだ、グランジ・ブームに乗っかった泡沫バンド程度の扱いだったニルヴァーナ、ここでのセットリストはヒット曲を外し、アルバム収録曲やカバーで構成されている。ガレージ・バンドの代名詞とされている、ラウドな轟音や性急なビートが封印され、普通の若手バンドなら尻込みするところだけど、ごく普段着のアコースティック・セットで、至ってマイペース。多くの同世代バンドと比べて、積んでるエンジンがそもそも違ってたんだよな。
 カートのカバー・ストーリーを抜きにして、先入観抜きで聴いてみると、無骨でありながらメロウなギター・プレイと歌声、そしてポップなメロディ・センスの卓越さが浮き上がってくる。ボウイの「世界を売った男」のカバーも、いつものスタイルで歌っているだけなんだけど、発表当時のボウイの厭世感や承認欲求が憑依して伝わってくる。




 このアルバムには未収録だけど、おそらくカバー率が相当高いと思われる「Smells Like Teen Spirit」、日本でも様々なジャンルから参戦してカバーに挑んでいるのだけど、多分、最もイメージから遠いと思われる鬼束ちひろのヴァージョンを。中身とスピリットは極端にオルタナティブな彼女、ここではセルフイメージに沿ったバラードで歌い上げている。
 前回279位はDavid Bowie 『Aladdin Sane』。今回は圏外。エッ、これが圏外?




280位 50 Cent 『Get Rich or Die Tryin'』
(初登場)

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 2003年リリースのデビュー作が初登場。もう20年近く前の作品なので、ジャンル内ではもうクラシックなんだよな。
 ただ俺的に、そんなに古さは感じられない。ディープなマニアならともかく、ヒップホップの優劣はおろか、時代性もあまり把握してない俺なので、最近の作品と比べてどう違うのかどう進化しているのか、それらがわからない。
 多分、リリックや細かなソースネタの処理なんかは違うんだろうけど、そう考えると、こういったギャングスタ・ラップって、風化しづらいジャンルなのかもしれない。時事ネタを聴き分けられるくらいの英語ネイティブならともかく、多くの非英語圏ユーザーにとっては、最新作とシャッフルすると、聴き分けるのは極めて難しいと思われる。
 そんな50セント、最近は何やってるんだろと調べてみると、マドンナのヌード・ピンナップを揶揄する発言で本人に抗議され、すかさず謝罪したけど受け入れられず、大人の対応をするよう、冷静に諭されてる始末。同じラッパー相手ならビーフとして盛り上がるところだけど、相手が悪すぎる。
 前回280位はU2 『All That You Can't Leave Behind』。今回は圏外。エッ、これが?彼らの原点回帰作として、評判も良かったし売れたんだけどな。みんなU2には、ちょっと冷たすぎる。






「Rolling Stone Magazine 500 Greatest Album Of All Time」全アルバム・レビュー:261-270位


 261位 Beastie Boys 『Check Your Head』
(初登場)

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 俺的にはあんまりあんまり響かなかった125位『Paul's Boutique』の3年後にリリースされた、ビースティーズ3枚目が初登場。ちゃんと聴くのはこれが初めてだけど、『Paul's Boutique』よりずっと気に入っている。
 半分ウケ狙いのようなデビュー作が予想以上にバカ売れしてしまってヒップホップ路線継続が決まり、それならそれでもう少し「らしく」やろうとしたのが『Paul's Boutique』だったのだけど、ちょっとヒップホップに寄せた感が強く出過ぎている。引き出しを多くしようと試みたのか、ダスト・ブラザーズによるプロデュース・ワークを否定するわけじゃないけど、ビースティーズ3人のキャラが薄まってしまった。
 当時、セオリーとして確立されつつあったヒップホップ・マナーの原型として、確かに『Paul's Boutique』ってうまくまとまっているんだけど、最初にシーンに登場した頃のうさん臭さが弱まってしまったことも、また事実。白人でヒップホップをやる彼らの存在は、シーンでは確実に異端であり、そんなはみ出し加減が彼らの個性であったはずなのだけど、情勢に同調しちゃったら、存在意義がなくなっちゃうわけで。
 ヒップホップか、またはロックかという二元論をすっ飛ばし、カッコよければ何でもアリのミクスチャー・ロックへ舵を切ったのが、この『Check Your Head』。サンプリングもドラム・ループもギター・カッティングも、曲ごとにコンセプトを使い分ける手法を取ったことによって、ジャンルレスの面白さ痛快さに満ちあふれている。
 何でもかんでも紋切り型のラップでまとめてしまうのではなく、痙攣した変拍子リズムを多用したインスト・ナンバーからは、デビュー時の実験精神が復調している。案外って言ったら失礼だけど、演奏スキルはそこそこ高い。
 前回261位はGrateful Dead 『American Beauty』。今回は215位。




262位 New Order 『Power, Corruption & Lies』
(初登場)

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 短命に終わった前身ジョイ・ディヴィジョン『Closer』が211位と健闘しているのに対し、もう40年以上活動しているニュー・オーダーは、これが初登場。ニルヴァーナがライブ・アルバムまでランクインしているのに対し、フー・ファイターズが影も形もないのと同様、こういった全年代対象のランキングでは、残された方はどうしたって分が悪い。彼らだって一生懸命やってはいるんだけど、そういう地道な努力が必ず報われるわけでもないのが、特にこの世界の常であって。
 10代の俺が読んでいた頃のロキノンは、主にUKニューウェイヴ中心の誌面構成だった。当時はギターロックが圧倒的優位に立っており、そんな中、無機的なEDMをメインとしたニュー・オーダーの存在は、異質なものに映った。
 シド・バレットの不在によって生じた虚無を、切迫した使命感で埋めることによって、ピンク・フロイドは思わぬ形で肥大化していった。ジョイ・ディヴィジョンの残党も当初、従来のポスト・パンク的アプローチを試みたが、空虚を通り越して散漫になるばかりだった。
 イアンの不在を「最初からなかったもの」として扱うのではなく、虚無との共存を図ったのが「Blue Monday」だった。いわば鎮魂歌として書かれたその曲を、彼らはクラブ仕様のダンスビートに彩った。
 過剰なセンチメンタリズムを排し、暴力的いや享楽的なテクノビートで虚無を埋め尽くそうと試みたが、埋まるはずもなかった。「Blue Monday」は予想以上に世界中でバカ売れし、そして彼らは大衆的な人気を得た。
 ある意味、ケリをつけることのできなかった彼らは、その後も冗長なリフレインとフェルマータとを繰り返した。曖昧な動機を引きずったまま、彼らの演奏は死ぬまで続く。
 他のランキングは2枚組ベスト『Substance』が357位→363位ときて、今回は圏外。これさえあれば、彼らの代表曲はほぼカバーできるので、むしろこっちを推したい。
 前回262位はCrosby, Stills & Nash 『Crosby, Stills & Nash』。今回は161位。




263位 The Beatles 『A Hard Day's Night』
(384位 → 307位 → 263位)

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 一応、徐々にランクアップしてはいるけど、こんな中途半端なところにビートルズのアルバムがランクイン。この200位台の傾向として、往年の名盤が経年劣化して迷い込んでくるか、または21世紀以降のリリースで、まだ名盤としての評価が広まっていない成長株に大別され、『A Hard Day's Night』は珍しいパターン。
 ファンの中では、どのアルバムも名作とされているビートルズだけど、客観的に見れば当たりはずれもあるわけで、例えば『サージェント・ペパーズ』や『Abbey Road』を押し退けて、これがトップ推しになることは、まずあり得ない。熱狂的なファンはいるだろうけど、おそらくごくごく少数だろうし。
 もちろん、この時期もヒット・シングルを連発しているし、特に「Can't Buy Me Love」は、彼らのロックンロール・ナンバーの中でも、飛び抜けた完成度だと思っている。ただアルバム全体としては、通常の音楽活動に加え、映画撮影も入ったことで多忙を極め、正直、やっつけ仕事的な粗雑さは否めない。
 レコーディングの時間も充分に取れなかったのか、ピッチがずれたりリズムがモタったり、粗雑さを勢いで乗り切っているのが、ちょうどこの時期にあたる。まだ流行りのビート・グループに過ぎなかった当時の彼ら、「後世に残る名盤を作るんだ」という気負いは、まるでなかった。
 なので、このような「録って出し」みたいなスタイルでよかったのだ当時は。ただ、キャリアを重ねてアーティストとしての自我が芽生えることで、彼らの姿勢は変化してゆく。
 まだ歴史的名盤を作る気概はまるでなかったけど、もう少しちゃんとレコーディングしたいのと、延々続く連日のツアーは、確実に彼らのストレスを高めていた。
 星の数ほど余りあるビートルズのカバーだけど、ほぼ全曲、この時代の楽曲中心でアルバム作っちゃったツワモノが、なんと日本にいた。その名はつんく♂。
 NHK-BSの企画がらみでロンドンレコーディングを行ない、音色はもちろん細部までこだわり抜いた楽曲が並んでいる。完コピが目的なので、創造性を問うものではないけど、功成り名を遂げた男の余裕は、贅沢なサウンドプロダクトにあらわれている。







 前回263位はTracy Chapman 『Tracy Chapman』。今回は256位。




264位 Pink Floyd 『Wish You Were Here』
(207位 → 211位 → 264位)

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 ビートルズに続き、またよく知られた名盤。内容云々は別にして、邦題『炎〜あなたがここにいてほしい』は、日本のディレクターのベスト・ワークだと思う。
 全世界でバカ売れした『狂気』以降、フロイドは大物バントとしてのポジションを確立する。「ぼんやりとした不安と陰鬱な思索」を軸とした基本コンセプトは、その後もプログレ初心者の範となり、表面的な意匠を真似た多くのフォロワーを生み出した。
 主に自身の内面を執拗に描き続けていたロジャー・ウォーターズは、月の裏側に潜むシド・バレットを「かつての自分自身の片割れ」として位置づけ、「狂ったダイヤモンド」と敬意を表して歌った。自分に敬意を表しているだけだから、いわば屈折した自己愛の極みとも言えるけど。
 『狂気』の完成とバカ売れによって、「バレット以降」というしがらみを払底したウォーターズが次へ向かったのが、自己の相対化、内なる仮想敵であるバレットの決算だった。レコーディング中に姿を見せた、デブでよろよろの禿げた中年男バレットは、ウォーターズの可能性のひとつふぁった。ほんの些細なきっかけ次第では、彼もまたバレットと紙一重の存在だった。
 前作ほどではないけど、『炎』は世間に支持された。コンセプトを外部に求めた『Animals』も、まぁそこそこ支持された。ただ、ウォーターズを中軸としない物語は、インパクトに欠けていた。
 これら2つの作品を過渡期と決めつけるのはちょっと乱暴かもしれないけど、不安と思索を怒りに変換し、分裂した自我を多彩に描き切った『The Wall』が飛び抜けている。通俗的なポップやロックのフォーマットを用いながら、バンドのブランド力を高めた『The Wall』と比べて、やっぱ地味なんだよなこの2つ。
 『狂気』『The Wall』が語り尽くされ再評価し尽くされ、アーカイブや派生コンテンツもそろそろ底をついてきた昨今、そろそろ次の推しアルバム育成が課題となっているフロイド。まだそれほど擦られてない『炎』『Animals』がリコメンドされる日が来るのか。
 前回264位はGrateful Dead 『Workingman's Dead』。今回は409位。




265位 Pavement 『Wowee Zowee』
(初登場)

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 カリフォルニアを拠点としたバンドなのに、なぜかアメリカではブレイクせず、UKウケが良かったペイヴメント3枚目のアルバムが初登場。ガチャガチャしながらも聴きやすい正統ローファイ・サウンドからは、独特の憂いが漂っており、カラッとドライで殺伐としたアメリカでは、そんなところが大きなブレイクに至らなかったのか。
 ダイナソーやソニック・ユースらとひとくくりにされることが多く、その気になればメジャー移籍して大きなブレイクも可能だったはずだけど、インディーにこだわりが強かったため、局地的な盛り上がりで終わっている。よく言えばこだわりなんだけど、まぁどの時代にも頑なな連中ってのはいるわけで。
 アナログは一応2枚組だけど、実際に使っているのは3面で、4面は音源は収録されていない。ジョー・ジャクソンもやってたな、そんなの。
 前回265位はRay Charles 『The Genius of Ray Charles』。今回は圏外。




266位 The Beatles 『Help!』
(328位 → 331位 → 266位)

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 またビートルズ。こちらもサントラだ。『A Hard Day's Night』同様、こちらもランクを上げている。
 思うに、前回2012年時点でのビートルズ関連のリリースは『Yellow Submarine』のリミックスくらいで、一般ユーザーまで巻き込むほどのインパクトに欠けていた。その後の10年は、『サージェント・ペパーズ』を皮切りに50周年エディション・シリーズが毎年話題となり、相乗効果で他のアルバムも再発見されたんじゃないかと思われる。
 ほぼ2年弱で主演映画を制作するほどの人気だったビートルズだけど、この時点でも基本、泡沫アイドルの売り方に変わりなかったのか、ストーリー的には安直な作りである。「収録曲のPVを小芝居で繋いでる」という指摘は昔からあるけど、「人気のあるうちに稼いじゃえ」的な方針だったことから、だから何?ということになる。
 少なくともマネジメント側に長期的なビジョンがあったとは思えず、リリース契約に振り回されて馬車馬のように働かされていたのが、当時のビートルズの置かれた現状だった。その恩恵として、世界各国で持て囃されたり勲章もらったりはあったのだけど、それだけじゃ埋め合わせられないストレスは破裂寸前だった。
 「タイトル曲はもともと、あんな軽快なロックンロールじゃなく、もっと悲痛な叫びのはずだった」と、のちにジョンレノンは語った。発表当時、その嘆きは望むべく形ではなかったけど、アーティストの内面をさらけ出したという意味においては、大きなターニング・ポイントになったんじゃないだろうか。
 でもこのバンド、やたらターニング・ポイント多いんだよな。







 『Covers』発売中止騒動で怒髪天に達していた清志郎が、その年の日比谷野音ライブで「Help!」をカバーしている。理不尽な経緯が拍車をかけ、怒涛の創作意欲がフル回転していたこの時期、彼は大量の楽曲を書き、そして独自の感覚で意訳したカバー曲を歌った。
 怒りに任せた前のめりだけならトゲトゲしくなるだけど、正しいことは正しいと言える素直な気持ちと照れ臭さとが相まって、単なる暴走に終わっていない。シリアスになりながら、どこかプッと吹き出してしまう余裕こそが、清志郎の魅力のひとつだと思う。
 前回266位はBlood, Sweat & Tears 『Child Is Father to the Man』。今回は圏外。




267位 Minutemen 『Double Nickels on the Dime』
(407位 → 413位 → 267位)

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 80年代アメリカのポスト・パンク/ハードコア期に活動していたバンド、ミニットメン。ヴォーカル:Dブーンの事故死により、惜しくも短期間の活動に終わったけど、シンプルなロックンロールをベースとしたサウンドは、後進バンドに大きな影響を与えた。らしい。ていうか、今まで存在すら知らなかった。
 性急なビートや見かけのバイオレンスに頼らず、ほとんどデモ・テイクみたいな無骨なサウンドバンドなんだけど、なんだメッチャいい。当時はブラック・フラッグやハスカー・ドゥなど、ゴリゴリのハードコアがアンダーグラウンドの主流と思っていたのだけど、こういったバンドもいたんだな。もっち早く知ってりゃよかった。
 彼らにとって3枚目となるこのアルバム、いわば集大成となる2枚組大作で、なんと45曲が収録されているのだけど、大半の曲が1分台後半、最長で3分ちょっとと、ソリッドな曲が並んでいる。ムダなインプロや冗長な演奏を削ぎ落としたアンサンブルは、多彩なバリエーションを生み出している。ちくしょう、知らなかったのが悔やまれるな。
 アナログ4面の内訳として、メンバー3人がそれぞれ1面を担当、残り1面は片面に収めきれなかった曲やカバー曲で構成されている。キャリアのピークにあった彼らのやりたかったことを、とにかく全部詰め込んじゃったアルバム。
 なので、コンセプトなんてまるでないし、普通、ここまで行っちゃうととっ散らかってしまうものだけど、一旦スタートすると、最後まで聴き通してしまう。なんだこのテンションは。リアルタイムで聴いてなかったことが、ほんと惜しまれる。
 前回267位はThe Who 『Quadrophenia』。今回は圏外。




268位 Randy Newman 『Sail Away』
(317位 → 322位 → 268位)

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 ヴァン・モリソンやジョニ・ミッチェルらと並び、一般層への浸透は薄いけど、知る人ぞ知るマニア好みのソングライターとして知られているランディ・ニューマンの初期代表作がランクイン。いわゆるミュージシャンズ・ミュージシャンというポジションは、「名前は聞いたことあるけど曲は聴いたことがない」とほぼ同義で、日本では長らくそんな扱いだった。
 シンガーソングライターとしての彼は70年代にピークを迎えており、80年代に入ってからは寡作になり、徐々に忘れられた存在になっていた。そんなはずだったのだけど、いつの頃からかサントラ制作に活動をシフトしており、今じゃピクサー映画の常連として、大きな成功を手中にしている。まさか、こんな風になるとは思わなかったよな。
 70年代の西海岸音楽シーンから台頭してきた人なので、シンガーソングライターの系譜で語られることが多いけど、実際にアルバムを聴いてみると、最初の印象とはちょっと違ってくる。当時のトレンドだったフォークやロックの作法で書かれた曲は少なく、むしろそれ以前の忘れ去られたジャンル、ヴォードビルやスウィング・ジャズ、50年代以前の映画音楽など、多様な音楽的素養から抽出した楽曲が多くを占めている。
 なので、同世代のジャクソン・ブラウンやイーグルスらではなく、もう少し前の世代に属するヴァン・ダイク・パークスと紐づけた方がスッと入ってくる。そういえば今回、『Song Cycle』入ってなかったな。これもロック名盤では常連だったはずだけど。
 ラグタイムやロックやピアノ・バラード、あらゆるスタイルを器用に使い分けることによって、すでに独自のポジションを確立したランディ・ニューマン。英語ネイティヴの人が歌詞を読むと、痛烈な皮肉を通り越して、ねじ曲がった性格の悪さが際立ってるらしい。
 ある意味、そんな性根の持ち主だからこそ、表面上は天真爛漫な「トイ・ストーリー」や「モンスターズ・インク」のスコア書けるんだろうな。作品自体に罪はない。
 邦題「サイモン・スミスと踊る熊」を矢野顕子がカバーしている。もともとカバーの多い人だけど、当然、こちらもいつものアッコちゃん風味に料理している。男の子と熊がダンスしながら街を闊歩する内容だけど、何かのメタファーなんだろうか?英語って難しい。







 他のランキングを見てみると、2枚目『12 Songs』が350位→356位と来て、今回は圏外。4枚目『Good Old Boys』も389位→394位と来て、こちらも圏外。全滅。
 前回268位はPaul Simon 『Paul Simon』。今回は425位。




269位 Kanye West 『Yeezus』
(初登場)
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 また出たよカニエ。もう何枚目だ。
 ここまでで6枚がランクインしており、本ランキングではこれが最後。そうか、ちょっと寂しいな。嘘だけど。
 数々の名盤やトップグループ常連盤を押しのけて、今回のランキングで17位をマークした代表作『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』の後にリリースされた本作、もう大抵のことは成し遂げてしまい、一時の気の迷いがあらわとなったアルバムである。どんな突飛な事をやっても受け入れられるし、反面、アンチの意見も多いけど、その分、話題には事欠かない。みんなの人気者、カニエ・ウエスト。
 神をもじったタイトルといい、アーティスト・ブランドを放棄したパッケージデザインといい、急速に高まったカリスマ性を制御できずに翻弄されるさまがあらわになっている。この辺りからカニエ、音楽の話題よりむしろゴシップ面でフィーチャーされることが多くなってゆく。
 EDMからラップからR&Bからファンクから、もうあらゆるジャンルを詰め込んだカタログ的なサウンドは、総じて焦燥感が漂い、ぶつけようのない怒りが空回りしている。それはそれでアーティストとしてのリアルな姿であり叫びなのだけど、本人としてはやり切れないよな。辛かったよな、カニエ。
 今年に入ってカニエ、ついにこれまでの名を捨てて、正式にYeに改名してしまった。あれだけ前評判を煽った『Donda』も早々と収束してしまい、天敵ドレイクにも負けてしまう始末。今後、どうなるやら。
 前回269位はJesus and Mary Chain 『Psychocandy』。今回は圏外。




270位 Kacey Musgraves 『Golden Hour』
(初登場)

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 現在のアメリカのガールズ・カントリー・ポップにおいて、代表格となっているケイシー・マスグレイヴスが初登場。トラディショナルなカントリー風味をわずかに残したアコースティック・サウンドは、アッパー・チューン中心のテイラー・スウィフトより本流に近く、甘い声質もあって、一般層への人気も高い。
 尖ってないフィオナ・アップルという印象で、90年代スウェディッシュ・ポップが好きだった人なら、そのアクの少なさが気にいると思う。EDMダンス・ポップの音圧に疲れちゃった人も、これなら抵抗なく入ってゆける。
 「カントリー」とひとことで言っても、その裾野の広さははかり知れず、我々日本人にとっては想像の範囲を超えている。バンジョーやフィドルによって奏でられるペンタトニックなメロディを基本として、近年のコンテンポラリー・ポップから伝統的なブルー・グラスまで、まだ聴いたことないけど、カントリー・ラップなんてジャンルも存在するらしい。もしかすると、ランキング下位に入ってるかもしれないので、それは添えでちょっと楽しみだ。
 とはいえ、かつてのJ-POPもなかなかのカオスで、海外から見ればイミフな面も多いかもしれない。いまはだいぶ細分化が進んで形骸化してしまったけど、かつてはミニモニもガガガSPも徳永英明も、全部まとめてJ-POPって総称してたもんな。考えてみれば、結構乱暴だ。
 で、ケイシーだけど、きちんと最大公約数を想定してプロデュースされており、時おり見せるハスキー・ヴォイスの憂いが心地いい。凡庸なソフト路線に終わらず、シリアスなソングライターとしてのプライドが、歌詞やリズムにアクセントをつけている。俺的には、テイラー・スウィフトより聴きやすい。
 前回270位はThe Rolling Stones 『Some Girls』。今回は468位。







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北海道の中途半端な田舎に住むアラフィフ男。不定期で音楽ブログ『俺の好きなアルバムたち』更新中。今年は久しぶりに古本屋めぐりにハマってるところ。
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