好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

You're_Under_Arrest

ゲンズブールの「逮捕しちゃうぞ♡」 - Serge Gainsbourg 『You're Under Arrest』

folder 1987年にリリースされた17枚目、オリジナルとしては最後のアルバム。御年59歳だったにもかかわらず、母国フランスでは最高2位にチャートイン、プラチナ・ディスクを獲得している。
 フランスのプラチナ・ディスク基準は10万枚以上なので、数字だけ見ると「えっ、そんなもん?」と思ってしまいがちだけど、そもそもフランスのCD/レコードのマーケット規模は意外に小さく、日本と比較するとほぼ4分の1程度。人口が日本のほぼ半分という条件にしても、あまりに少なすぎる購入率ではある。
 ただこのようなデータがあるからといって、単純に「フランス人って音楽を聴かないの?」という状況ではない。記録メディアの購入は少ないけど、オペラやミュゼットの勃興からわかるように、劇場やカフェなどの生演奏でのリスニング・スタイルが、伝統的に続いている。「街に音楽があふれている」とはよく言ったもので、某団体にガッチガチに縛られた日本と違い、音楽との接し方に違いが表れている。

 単純計算で日本に置き換えると、プラチナ・クラスで40〜50万枚程度の売り上げということになる。ポツポツとミリオンが出ていた80年代日本だと、いわゆる中堅どころといった成績である。
 でも考えてみれば、すでに還暦に近いベテラン・アーティストが、現役バリバリの若手と競り合うほどのセールスを売り上げていたのだから、それがやはりアーティストの地力なのか、それとも当時の若手の不甲斐なさだったのか。
 セールス・ポジションとキャリアを基準として、今の日本で例えれば小田和正や山下達郎あたりなのだろうけど、作風や素行でいえば…、かつての遠藤ミチロウやパンタあたりだろうか。そのくらいこの親父、パンクよりパンクイズムが突き抜けている。

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 つい最近まで、音自体まったく縁がなかったのだけど、Serge Gainsbourgというアーティストがいるのは、一応知っていた。ただ、今も昔もラジオでオンエアされることはほとんどなかったので、聴く機会がなかった。もしかして、NHK-FMのディープな番組を漁れば見つけられたかもしれないけど、どちらにしろ北海道の中途半端な田舎の高校生が進んで聴く音楽ではなかった。

 「女優Jane Birkinの内縁の夫。ちなみに、どんな女優なのか、何の映画に出てるのかは知らない」
 「同じく女優であり歌手Charlotte の親父。一時、Lenny Kravitz と付き合ってて、一度2人でロキノンの表紙を飾った」
 「無数の女性と浮き名を流した、めちゃめちゃプレイボーイ」
 「エロい歌詞や言動で、何かと物議を醸した人」

 彼についてパッと思いついたことを、ほぼそのまんま書き出してみると、こんな感じになる。ほぼ雑誌の斜め読み程度の情報だけど、多分あながち間違ってないはず。
 こんな俺に限らず、大抵の日本人が持っている彼についてのトリビアは、せいぜいこの程度と思われる。音楽活動がメインのアーティストであるはずなのに、肝心の音楽がほぼ伝わっていないことが、Gainsbourgの低い知名度と直結している。

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 今でこそDaft Punkを筆頭に、世界でも有数のテクノDJを輩出しているフランスだけど、アメリカ/イギリスが中心だった80年代洋楽シーンでは、ほぼ黙殺された状況だった。70年代を駆け抜けたMichel Polnareff の全盛期はとうに過ぎ、フランスで活動するアーティストの情報が入ってくるのは、ほんと稀だった。
 「フランスといえばシャンソン、シャンソンといえばアダモ」といった具合に、21世紀に入るまでは、まともなインフォメーションが成されない状態が続くことになる。一応、「フランス 音楽 アーティスト」でググってみると、90年代ロキノンでちょっとだけレコメンドされていたTahiti 80や、「えっ、この人たちもフランス出身?」とちょっとビックリしたGipsy Kingsなどが検索でヒットする。でも、マニアックな支持に終わった前者もそうだけど、後者なんてフレンチっぽさ全くねぇし。

 で、改めてレビューするにあたり、俺の浅い先入観の真偽を確かめようと、前述のトリビアを改めて調べ直してみたところ、まぁ大体間違っていなかった。上っ面の知識だったけど、案外覚えてるもんだな。当時は大して興味なかったはずなのに、ゴシップ的な記事って忘れないものだ。
 さらにも少し深く突っ込んで、wikiやら個人ブログなんかで調べてみると、まぁ出てくること出てくること。世に出た作品よりGainsbourg本人の方が面白いんじゃないかと思ってしまうくらい、何かとネタの宝庫である。

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 「エロいことはほとんど知らない(という設定の)18歳の少女アイドルFrance Gallに、フェラチオを想起させるエロい暗喩を含めた歌「Les Sucettes」(邦題「アニーとボンボン」)を提供、後になって歌詞の内容を知ったGall、あまりの恥ずかしさと怒りのあまり、数ヶ月に渡って引きこもるほどのショックを受ける」
 「フランス革命を讃えた国歌「La Marseillaise」を、革命をイデオロギーとして含む音楽であるレゲエ・ヴァージョンにアレンジして発表、当然各方面からブーイング。特に某退役軍人からは、コンサート会場に爆弾を仕掛けた旨の脅迫電話があったが、「俺は屈しないぞ!」とステージで名言、男を上げる。ちなみに後日、その退役軍人とは飲み仲間になる」。何だそりゃ。
 「高額な重税への抗議行動として、生放送のテレビ出演時、「どうせ税金で取られちまうんだから」と、500フラン札(日本の1万円札に相当)にライターで火をつけて燃してしまう。ある意味、強烈なパンクイズムだけど、大多数の庶民からは「金持ちのお遊び」としてしか見られず、逆に顰蹙を買う」

 反骨精神あふれる50代を経て、円熟の60代へ移行したGainsbourg。
 名実ともに国民的スター/大御所となって、少しは丸くなったのかと思いきや、今度は当時13歳だったCharlotte を引っ張り出し、結構エグい内容の近親相姦ソング「Lemon Incest」をレコーディング、併せて、何かと誤解を誘発するエロいPVまで発表しちゃったものだから、またまた良識派を含め多方面から非難を浴びることになる。ブレない人だよな。
 その後も丸くなる気配を見せず、大衆にも良識派にも右にも左にも迎合しない「俺流」を貫いたGainsbourg。ジゴロ的な振る舞いで一世を風靡した青年期を経て、無精ヒゲまじりで毒舌を吐きまくるその風貌は、日本で言えば晩年の勝新太郎とその姿がダブる。
 そういえば彼もずっと「俺流」だったよな。自我を貫くとみな、あんな風貌になるのだろうか。

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 実際のところは不明だけど、その風貌や生き方から察するに、恐ろしく孤独な人だったんじゃないかと思われる。それでいて、退屈なのをひどく嫌って。そんなやり切れない想いが、晩年は露骨に態度や言動に出て。勝新にも通ずるよな、これって。
 自己愛が強い、猛烈な構ってちゃん。ほんとは独りでいるのが好きなのに、それでいて無視されるとヘソを曲げ、歩み寄られるとソッポを向いてしまう。
 そんな人間にとって、すべての事柄は刹那的なものでしかない。奇抜な言動で世間を騒がせても、また逆に、どれだけ賞賛を浴びる作品を産み出したとしても、満足することはなかったのだろう。すべては自分の上っつらを通り過ぎてゆくものでしかないのだ。
 どうにもならないことをわかっていながら、黙って何もしないでいると、それはそれで退屈で、抑え切れない衝動が悪意に形を変えて、口から飛び出す。
 あぁめんどくさい人。

 そんな偏屈オヤジとして人生を折り返したGainsbourg。80年代に入るといろいろ悟ったのか、音楽的オピニオン・リーダーとしてのポジションから自ら身を引くようになる。
 「自分でいろいろ仕切っても不満が出てくるし、エネルギー消費だってハンパない。どうせ何をしたって不満が残るんだから、だったらいっそ、周りにお膳立てしてもらった方が楽なんじゃね?」
 ほんとにそう言ったのかどうかは不明だけど、晩年に差し掛かった80年代の2作品は、どちらもアメリカでレコーディングされている。
 ここでの彼はちょっぴりピアノを叩いているだけで、バック・トラックはほぼプロデューサー任せ、ヴォーカルに専念している。ヴォーカルといったって、メロディを奏でることはほとんどなく、しゃがれた声でボソボソ聞き取りづらい独白を連ねるだけ。
 クレジットに目を通すと、名の通ったミュージシャンは参加していない。ていうか、ほぼ無名のプレイヤーばかり。多分、プロデューサーBilly Rushの人脈でかき集められた、「取り敢えず間に合わせ」臭が隠せない。ただ唯一、Jeff BeckやJohn McLaughlin らのレコーディングに参加していたTony "Thunder" Smith というプロのドラマーが全面参加しているおかげもあって、演奏全体はメリハリがあってボトムもしっかりしている。
 まぁシーケンス・ビートを基盤としているので、どうやったって、そこそこのクオリティは保てるのだけど。

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 二日酔いの余韻を引きずりながら、朦朧とした状態でマイクの前に立つGainsbourg。無機的なビートをバックに、殴り書きした自筆のメモ紙を見ながら、覇気もなくボソボソ物語を紡ぐ。
 無名のナレーターとジャンキーの黒人少女サマンサを中心に展開するコンセプト・アルバムということだけど、当然フランス語が主体なので、訳詞が必要になる。英語と違って、何となく知ってる単語をピックアップして大よそを理解する、という手法が使えない。俺が入手した盤は輸入モノなので、当然意味はほとんどわからない。ググってどうにか概要を掴むことで精いっぱい。でも、それでいいんだよな。意味なんて、わからなくてもいいんだよ。

 誰が聴こうが聴くまいが、もうそんなことはどうでもいいのだろう。彼ほどのアーティストになると、人に聴かせるというより、むしろ自身の内なる声との対話がメインとなる。我々にできることは、ただその呟きに耳を傾けるだけだ。
 歌声とも言えない言葉の礫は、フランス語を介さない者さえ、強引に振り向かせる。もちろん、BGMには適さない音楽だ。

 ― あぁ退屈だ。
 サウンドにかき消された声なき声は、そう呟いている。

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1. You're Under Arrest
 60近くになって、こんなヒップなトラックを作ってしまうとは。てかプロダクション任せだったんだろうな。ステレオタイプにファンキーなベーシック・トラック、そして無愛想なモノローグ。そう思い出した、スネークマン・ショーだ。ジングルでこんな感じだったよな。もちろんGainsbourgが後出しだけど、サックスのブロウが本家と比べてクール。



2. Five Easy Pisseuses
 1.のベーシック・トラックをまんま流用して、タイトル・コーラスを入れたような曲。要は彼が紡ぎ出す物語が重要であって、サウンドなんてどうでもいいのだろう。それでいて、やたらクオリティの高いデジタル・ファンクに仕上がっているのだけど。「Pisseuses」はもちろん英語「Pieces」のフランス語なのだけど、少女性愛「Pissy」とかけているらしい。やっぱりエロだった。

3. Baille Baille Samantha
 邦題「悲しみのサマンサ」。「バイバイ」に聴こえるから単純に「悲しみ」という言葉をあてたのだろうけど、「Baille」とはどうやら「桶」のことらしい。Gainsbourgのことだから、エロい隠喩だと思ってしまうのは深読みしすぎなのか?

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4. Suck Baby Suck
 Chuck BerryやBill Haleyなど、往年のロックンローラーへのリスペクトを歌い上げてるっぽいのだけど、基本はエロ。「ベイビー」を「吸う」んだから、結構直接的にエロいことを呟いている。これが許されるんだから、芸風って大事だな。勝新もある意味、何したって許されたもの。

5. Gloomy Sunday
 邦題「暗い日曜日」。国民的シャンソン・シンガーDamiaが初出の、知ってる人は知ってるはずの「自殺ソング」。「暗い日曜日に女性が亡くなった恋人を想い嘆くというもので、最後は自殺を決意する」といった救いのない曲は、何百人もの自殺者を産み出した(諸説あり)。日本も含め各国で放送禁止・発禁を食らったにもかかわらず、カバーをする者が絶えないという、何かとお騒がせなこの楽曲。その不吉さゆえ、優秀なアーティストを引き付ける魔力があるのだろう。
 モダン・サウンドのシャンソン、といった趣きで、俺的には結構気に入っているのだけど、訳詞を読んだらドン引きなんだろうな。なので、訳詞も読んでないし、自分で訳す気もない。



6. Aux enfants de la chance
 「Come Together」みたいなイントロから始まる、しっとりAOR的なスロー・ファンク。もうサウンドだけで俺好みの世界なのだけど、これがカラオケだけだと気が抜けた感じになるんだろうな。やはり頑固オヤジのモノローグがあってこそ、曲全体が締まる。

7. Shotgun
 大味なアメリカン・ロックっぽいイントロが安っぽく感じられ、タイトル・コーラスも陳腐なアレンジだけど、やはりGainsbourgの肉声が入ることによって、どうにか聴くことができる。しかしコードや旋律とは無関係のところで淡々と告白するGainsbourg。レコーディング・ブースという空間でうなだれながら、無造作に言葉を繰り出すその様は、ある意味王者の風格である。ただ、家来のいない王者だけれど。

8. Glass Securit
 これだけメロディを想起させるようなサウンドなのに、頑なに旋律を奏でることを拒むクソ親父。爽やかなギターの調べもシルキー・ヴォイスのコーラスも関係ない。彼の心は彼らの前にはいない。その居場所は孤独な暗所、深く寒い海の底だ。

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9. Dispatch Box
 タイトルは「アタッシュ・ケース」の意。手クセの多いカッティングもだいぶ慣れてきて、ライトなファンク・サウンドはヒットチャートにフィットする。3分弱ながらヒットの要素は可能な限り詰め込まれている。ヴォーカルは抜きにして。シンセポップ/ファンク路線はもう何枚か続けて欲しかったな。

10. Mon legionnaire
 ラストはÉdith Piafも歌ったシャンソンの古典のカバー。チープなDX7サウンドと軽いギター・カッティング、エコーの効いたバスドラの3点セットは、俺を含む80年代サウンド愛好家にとって、手放しで絶賛してしまうサウンド・メイキングである。逆に言えば、多少楽曲やヴォーカルに難があっても、これさえ揃っていればそこそこ聴けてしまうというのが、俺の悪いクセでもある。しかも間奏で、なかなかエモーショナルなサックス・ソロまで入った日には、もう垂涎もの。
 ちなみにストーリーのラスト。ナレーターはサマンサと一夜を共にした後、彼女を置き去りにして、フランス外人部隊に参加する。

 陳腐なストーリーだな。でもいいんだよな、これで。


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やればできるじゃん、メロウなやつも - Miles Davis 『You're Under Arrest』

folder 1985年リリース、もう何枚目になるかはちょっと不明だけど、復活後としては4枚目のスタジオ・アルバム。発売2,3週間で10万枚以上売れたらしく、当時のMilesとしてまたジャズのカテゴリーの中では断トツの売り上げではあったけど、ポピュラー総合で見るとUS111位UK80位という、決して高いとは言えないチャート・アクションで終わっている。逆に言えば、これはMilesだからここまで善戦したのであって、他のジャズ・アーティストなどはもっと散々たる成績である。ちなみに日本ではオリコン最高45位。まだまだ威光が衰えてなかった証拠である。
 フュージョン/クロスオーバーという最後の足掻きを70年代で見せた時点でジャズのポピュラリティは終焉となっており、セールス的な面だけで見れば、80年代というのはオーソドックスなジャズにとって苦難の時代の始まりでもある。ただ、ジャズ本体はいまだ瀕死の状態が続いたままではあるけれど、そのジャズのエッセンスを巧みに活用して作られた音楽というのは連綿と息づいている。世界的にもジャズ・フェスティバルというのは地域に根差した恒例のイベントとなっているし、意識高い系御用達の音楽と言えば、大抵がジャズっぽいムードのものばかりで、ジャズ全体が衰退しているわけではない。そのフォーマットは確実にエンタメ界に、そして日々の生活にもしっかり根を下ろしている。

 この時期のMilesにとっての大きな変化が、長年連れ添ったプロデューサー兼エンジニアだったTeo Maceroとの別れ。60年代末~70年代にかけての一連のアルバムにおいて、単なるエンジニアの領域を超えて創造的なテープ編集を強行し、Milesの思惑以上のクオリティのアルバムをバンバン仕上げていったTeo。そんな彼に対し、決して口にはしなかったけど、全幅の信頼を置いてテープの切り貼りを一任、やみくもに録り溜めたマテリアルを丸投げして、自分は酒に女にドラッグに酔いしれていたMiles。
 30年物長きにわたるコラボレートにいかなる亀裂が生じたのか、最終的には彼ら2人にしかわかり得ない事情、まぁそれも「あうん」の呼吸で言葉少なだったとは思われるけど、特にMilesの方向性が大きく変化していたこと、その流れにTeoが対応しきれなかったことは大いに考えられる。
 じゃあMilesの目指すところが何だったのかと言えば、はっきり言ってしまえば金、そしてヒット曲である。
 復活以降にサウンドの柱となっていたジャズ・ファンクは、70年代のダウナーな狂気に満ちたサウンドとは一変して、もっと明快なリズムを持ったためにダンサブルに、そしてラジオのエアプレイを意識したかのように、コンパクトな尺になっていた。
 ヒット・チャートへの渇望があからさまになったのは楽曲だけではなく、ジャケットもスタイリッシュなMilesのポートレートが使用されている。もともと60年代からジャズ界においてはファッション・リーダー的な存在であって、70年代はサイケ色が強くなってどこか勘違い感も否めなかったけど、ここではデザイナーズ・ブランドに身を包んだMilesがアーティスト然とした表情でポーズを決めている。決めてはいるのだけれど、メジャーのアルバムでマシンガンを持つことはないだろ、とは俺の私見。

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 60年代末のエレクトリック期から始まった、アルバム片面をまるごと使う長尺曲を何曲か収めただけのダブル・アルバムというリリース形態は、MTVが主流となった80年代中盤ではすっかり時代遅れのものと化していた。ある意味、ロックンロール創世記の3分間ポップ・ソングへの回帰というレイドバックが主流となり、その流れに順応できないアーティストは自然にスポイルされていった。
 ジャズもそうだったけど、このトレンドとは正反対のベクトルを持つプログレ勢の被害は大きく、メインストリームに見切りをつけてニューエイジの方向へ行ったり、または中途半端にAOR路線に手を出してファンの顰蹙を買うバンドまで様々だった。ま、後者はELPなのだけど。その中で負のスパイラルをうまく回避したのがYesやAsiaで、超絶インタープレイは残しつつも楽曲はコンパクトに、外部のライターや気鋭の若手まで動員してシングル・ヒットを連発、その強引な蘇生術が功を奏したこともあって、今日の地道な活動継続につながっている。
 で、ジャズ・シーンはこの80年代をどう乗り越えたのかといえば、正直乗り越えようとする気力さえ失っていた、というのが正直なところ。前述したように、多ジャンルからのジャジー・テイストの導入が盛んになったこともあって、ジャズというジャンルが完全に崩壊したわけではなかった。ただし内実は過去の焼き直しにとどまっており、革新的なサウンドが発明されたのかと言えば、それはちょっと口ごもってしまうくらいである。
 もちろん80年代ジャズがまったく不毛だったというわけではなく、Wynton Marsalisのような新世代のスターも生まれてはいる。いるのだけれど、よく知られてるようにWyntonはガッチガチの保守派、過去の伝統を忠実になぞった新・伝承派として頭角を現したのが世に出るきっかけだったほどで、正直伝統を守ってゆく決意はあるのだろうけど、多ジャンルへの冒険心が薄く、どうにも小さくまとまったまま、というのが現状である。

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 そういった小ぶりな若手の不遜な態度に噛みつくように、ひたすら本流とははずれたジャズ・ファンクを追求していたMiles。未整理のグルーヴを追求していた70年代よりスッキリしたアンサンブルにはなったけど、黒人固有の正体不明なリズムのキレは相変わらず優れたものだった。休業前は自らバンマスとしてスタジオ内やステージ上を縦横無尽に動き回り、絶対君主としての振る舞いを見せていたのだけど、80年代の復活後は執拗なまでのサウンドの追及もトーン・ダウンしてゆく。
 あれだけメンバーに睨みをきかせていたレコーディングにもあまり顔を出さなくなり、バック・トラックはもっぱらプロデューサーに任せっぱなしとなる。アンサンブルも含めたヘッド・アレンジもGil Evansに丸投げで、自身は最後にチョロッとソロを吹き込むだけ。まるで大御所演歌歌手のようなポジションになってしまっている。
 Milesの場合、自ら発掘してきたミュージシャンもそうだけど、帝王というネーム・バリューのおかげもあって、常に優秀なブレーンが周りを取り囲んでいたため、極端にミスマッチなサウンドに仕上がっているわけではない。一応、モダン・サウンドに準じた見栄えの良い音に仕上がってはいる。でも、ただそれだけだ。そこにMilesの音楽的な主張はない。付け焼刃的にヒップホップのエッセンスを導入してはいるけど、それもどこかちぐはぐだし、はっきり言っちゃえばMilesじゃなくてもいい音ばかりである。取り敢えず今風のサウンドに引けを取らぬよう、マネしてみました、といった体なので、音に思い入れが薄い。

 本来ジャズという音楽は、「何でもあり」が許されるジャンルだった。その時その時のトレンドを巧みに吸収し、うまく加工して自分たちのレパートリーとして発表するのが当たり前だった。ボサノヴァだってラテンだって、ジャズというフィルターがなければ、ここまで世界中に広まることはなかったはず。
 なので、当時のポピュラーのヒット・ソングを矢継ぎ早にカバーするのも、至極当たり前のことだった。Milesもまた、キャリアの初期に「枯葉」や「My Funny Valentine」をカバーしている。今ではすっかりColtraneで有名になった”My Favorite Things”だって、もとは映画『Sound of Music』の挿入歌だった。「イパネマの娘」やら「Summertime」など、多ジャンルにおいてジャズの影響力でヒットにつながったスタンダードは数多い。キャリアの長いミュージシャンなら、誰でも一度や二度は手を付けている行為である。
 ただ、長らくオリジナル曲ばかり演奏していたMilesがカバーをプレイするのは久しぶりだったことと、ヒットしてまだ日が浅いナンバーを選んだことで「売れ線狙い」として決めつけられてしまったこと、そしてこれが結構大きいと思うのだけど、2曲とも同じCBS所属のアーティストの手によるものだったため、「Milesのくせに」安易にタイアップに飛びついてしまったのか、と受け取られてしまった。復活から数年経って、そろそろアーティスト・パワーも落ちかけていたため、ますます格落ち感が漂っていたのも事実。

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 体調は相変わらず思わしくなく、ソロ・プレイもヘロヘロで力少なく、当然、全盛期の面影はない。ただ、それが逆に周囲の奮起に繋がったのか、すっかり生きた化石となったMilesをフォローし、みんなで盛り上げてゆくんだ、という思いがこのアルバムからは漂ってくる。ちょっと例えは古いけど、メインのジャイアント馬場の試合を盛り上げるため、前座の全日若手レスラーらが力を合わせて会場をヒート・アップさせているような、どこか優しいムードが基調としてある。
 「帝王、ちょっとこれやってみましょうよ」「よっしゃよっしゃ」という若手との掛け合いにも素直に応ずるMiles。若手の登竜門として、大きく門戸を開き続けているMiles。その姿勢は昔となんら変わらない。ただ、以前よりも目くじらを立てず、取り敢えず若いモンの言う通りやってみっか、的な腰の軽ささえ感じられる。
 そんな中で収められているのが、MichaelとCyndi Lauperの2曲。若手に勧められた曲が気に入ったのと、もしかしたら売れちゃうんじゃね?的な山師的な判断がこの2曲に集約されている。
 生臭くはあるけれど、決して不快ではない。やるからには徹底して、一吹入魂とでも例えられるような、印象的なフレーズを奏でるMiles。そこら辺がレジェンドと称される所以である。


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1. One Phone Call / Street Scenes
 現代風ジャズ・オペラとでも形容できる、「ポリスとこそ泥」的な寸劇を軸に、愛想のないリズムが全編を支配する。今ではすっかり大御所のJohn Scofieldのオブリガードもここでは無難にまとめている。
 Stingがフランス人警官の役どころで出演しているのだけど、当初、ベースのDarryl Jonesの口利きでスタジオ見学だけの予定だったのが、急きょレコーディングに参加することになった、という逸話がある。この後、Stingは制作中だった自身のソロ・アルバムのためにDarrylを引き抜き。しかもSting参加によってギャラが発生してしまい、その支払いでCBSとひと悶着、レーベル移籍の引き金になったという、いろいろといわくつきのナンバー。
 ちなみにMilesの出番は少なく、存在感も薄い。オープニングなのに、これでいいの?

2. Human Nature
 とはいっても、ここで思いっきり存在感を出す帝王。オリジナルはご存知Michael Jackson、1983年ビルボード最高7位のヒット・チューン。7位とはずいぶん低いと思われそうだけど、大ヒット・アルバム『Thriller』からは多数のシングル・カットがされており、この曲は5枚目。そりゃインパクトも薄くなるよね。
 ほぼ独自性もないシンプルでストレートなバッキング、時代を感じさせるシンセの音色、Scofieldもひたすらリズムを刻むだけ。
 なので、Milesのソロが光っている。この時期にしては珍しく饒舌に、しかも時にウェットなプレイを見せている。晩年のセット・リストではほぼ定番のナンバーとなっていたため、それだけ楽曲が気に入ったということなのだろう。決して売れ線狙いで、と言ってはいけない。
 実は俺が最初に聴いたのはライブ・ヴァージョン。ミックス・テープのサイトで見つけたのが、1989年モントルー・ジャズ・フェスティヴァルのChaka Khanとの共演テイク。Youtubeでも見ることができるけど、ここでの2人は神々しささえ感じられる。ほんと、音楽の神が降りてきた、というのはこういったことを指すんだな、と思えた瞬間。



3. Intro: MD 1 / Something's On Your Mind / MD 2
 シンセの古臭さが気になってしまうけど、2.に続いてMilesのプレイも調子がいい。しかしそれより気になってしまうのが、Milesの甥っ子Vince Wilburnのドラム・プレイ。オリジナリティもなく、無難で味もないプレイが曲を壊してしまっている。これじゃ安手のフュージョンだ。ジョン・スコも引っ込み過ぎ。もうちょっと頑張れよ。
 
4. Ms. Morrisine
 Darrylの8ビート・ダウン・ストロークによってロック・テイストを感じさせる、ブルース・テイストのナンバー。こういったシンプルな曲でこそ、Milesのソロは光る。終盤のJohn McLaughlinのソロがまた哀愁を掻き立てる。

5. Katia Prelude

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6. Katia
 そのMacLaughlinの当時の夫人、フランス人ピアニストKatia Labèqueの名前からインスパイアされた、かどうかは知らないけど、たまたまスタジオにいたんじゃないかと思われる。旧知の仲だけあって、ついついイジりたくなってしまうのだろう。
 やっぱりこれはMilesとMcLaughlinのアルバムなんだな、と思える瞬間が多々みられる。2人のインタープレイの掛け合いは気心の知れたセッションという生易しいものではなく、まさしく真剣勝負。『Jack Johnson』から14年、機は熟し、再度のつばぜり合いは引き分けとなった。

7. Time After Time
 こちらも超有名、永遠のスタンダードとなったCyndi Lauper一世一代の名曲のカバー。オリジナルは1984年、ビルボード首位の栄冠にも輝いた。
 そこまでベタに有名な曲であるはずなのに、そしてほんと素直にメロディをなぞっているだけなのに、このピュアさはなんだ。 ヴォーカルが入ってない分、メロディの美しさがすごく引き立っている。そしてMilesもまた、この旋律に自ら酔いしれている風もある。あまりに完璧に組み立てられたメロディは、生半かな気持ちで吹くわけにはいかない。
 余計なアドリブも入れずただ素直に、それだけでいい。
 Milesによって新たな視点で注目され、使い捨てのヒット曲に終わらずに済んだ奇跡のナンバー。



8. You're Under Arrest
 16ビート高速ファンクのタイトル・ナンバー。なんかリズムが違う、と思ったらやっぱりAl Fosterだった。熟練の技がすべて良いとは言わないけど、親類のコネで入ってきた男はやっぱり評価されづらい。こうやって比較して聴いてみると、悲しいくらいテクニックの差が歴然としているのがわかる。だってジョン・スコだってプレイが全然違うもの。

9. Medley: Jean Pierre / You're Under Arrest / Then There Were None




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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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