folder 2010年結成、今年リリースされた5年振り3枚目のフル・アルバム。UKジャズ・ファンク界では中堅どころで、この手のバンドによくあるように、コンスタントなシングル・リリースもあったので、実質的なブランクはほとんどなし。ただ、シングルと言っても、ほとんど7インチレコードが主流の世界のため、日本ではほぼ流通がない状態が続いているのが、このジャンル全体の伸び悩みの一因でもある。
 クラブシーンでのレコード需要は世界的に伸びてはいるのだけど、CDに比べると、まだまだ比較の対象外、特に日本においては取り扱い店舗すら限定されてるのが実情である。

 メンバーは
 Malcolm Strachan (trumpet) 
 Atholl Ransome (tenor saxophone, flute) 
 Rob Mitchell (alto saxophone, baritone saxophone) 
 Ben Barker (guitar) 
 Kenny Higgins (bass) 
 Luke Flowers (drums) 
 Dan "JD73" Goldman (keyboards) 
 というラインナップ。
 最近のバンド系全般に言えることだけど、特に目立ったキー・パーソンやスター・プレイヤーがいるわけでもなく、何となく言い出しっぺやバンマスが成り行き上リーダーを務めているのが実情である。なので正直、誰がどれなのか、俺自身もさっぱりわからない。
 ジャズ・シーンはいまだテクニック至上主義が強いため、カリスマ性の強いプレイヤーによるリーダー・アルバムも多いのだけど、ジャズ・ファンク・シーンにおいては、あまりそういった動きもなく、チーム・プレイが中心となっている。あまりビジュアル面で映えそうな人たちもいないしね。

 一口でジャズ・ファンクと言っても、その中でも細かなカテゴリー分けがあって、彼らはファンク寄りのサウンド、近年の傾向であるエレクトロニカやブレイク・ビーツの導入とは縁が薄く、どちらかといえばオールド・スタイルのバンドである。バンド名や構成メンバーからわかるように、ホーン・セクション中心のバンドなので、往年のJB’sスタイルへのオマージュが強いバンドを想像してもらえればわかりやすい。

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 で彼ら、一般的な知名度は薄いけど、業界内でのホーン・セクションとしてのオファーは引きも切らない状況であり、そのおかげもあってバンド運営は比較的安定している。彼らのような生音主体のバンドは、サウンドの性格上、どうしても大人数になってしまうため、経済面は常に永遠の課題である。もともと大きなセールスを上げられるジャンルではないので、CDを含めた物販はわずかな上、メンバー全員で分けると、そりゃもう微々たるもの。
 なので、どのバンドもメンバー各自、外での仕事、応援やゲストなんかを小まめに行なって生活して行くことになる。どこのバンドでも、まとまったホーン・セクションを抱えて行くのは難しいのだ。

 そんな中で彼ら、今は亡きAmy Winehouse、またMark Ronson、New Mastersoundsらのライブやレコーディングにも参加しているため、バンドの経済面はもちろんのこと、常にセットでの参加が多いため、アンサンブル面においてもブレが少ない。課外活動が多いと、どうしても結束力は弱くなりがちだけど、始終一緒に行動しているため、まぁたまに衝突はあるだろうけど、久し振りに顔を合わせて音合わせに苦労することもない。

 ただ、その課外活動が好評過ぎるため、いざ自分たちのレコーディングを行なうにも、スケジュールを合わせるのが難しい。演っている音楽の性質上、DTMでシコシコ独りで創る音楽ではないので、ある程度の人数が揃わないと成立しないのだ。しかも予算は限られてるので、そんな長い時間スタジオを押さえるわけにもいかず、やれる事は限定されてしまう。シングル中心のリリースになってしまうのは、こういった理由もある。

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 で、どうにかスケジュールを空けて予算も確保して制作されたこのアルバム、前2作と比べると、曲調もバラエティに富んでおり、実際レビューなどの評判も良い。しかもオリジナル・レーベル、そしてほぼすべてのレコーディングをプライベート・スタジオで行なっている。ここに至るまでは、ビジネス的な苦労も多々あったと思うけど、そういった条件をクリアすることによって、可能な限り自分たちの目が行き届く活動が行なえるようになったことは、バンドの精神安定的にも良い。
 他アーティストの客演がバンドの視野を広げる結果となって、それがサウンドとなって現れている。純正ブラス・バンドとしてのプライドが強過ぎて、アルバム全体の流れにメリハリが少なかった点も、今回はうまく改善されている。
 インストばかりでなく、ヴォーカル・ナンバーを増やすことによって、ジャズ・ファンク・ファン以外も充分取り込める作りになっている。ホーン・セクションをメインに立てるこだわりを抑えて、間口を広げようとするバンド側の企業努力を感じさせる。

 音楽本体だけでなく、TwitterやFacebookの更新もマメに行なっており、徐々にではあるけれど、世界的に認知度は高まってきている。実際、俺のTwitterアカウントにも彼らからアクセスがあり、北海道でCooolなラジオ・ステーションはどこだ?と聞かれたので、地元のFM North Waveと返信しておいた。
 全部が全部チェックしてるわけではないけど、もしノース・ウェイブで彼らの曲がオンエアされてたとしたら、もしかするとほんの少しは彼らの手助けになってるんじゃないかと、勝手に思っている俺。
 いいじゃん、ちょっとは妄想したって。


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1. Return of the Haggis
 みんなのHaggisが帰ってきたぜ!的な、オープニングに相応しい軽快なナンバー。ショウの幕開けで徐々にメンバーがステージに集まり、それぞれにスポットライトが回ってくるのが目に浮かぶ。
 ちなみにこのナンバー、CDのみの収録で、LPレコードには未収録。収録時間の関係もあるので仕方ないけど、ちょっともったいない。アナログ・ヴァージョンで聴きたい人は、EPが発売されているので、探してみよう。

2. Give Me Something Better (feat. John McCallum)
 ちょっとAOR調のミドル・テンポ・ナンバー。シャレオツでモダンなテイストなので、Incognitoなどのアシッド・ジャズが好きな人なら、きっと気に入るはず。俺的に、ドライブ中に夕方のFMからこれがかかってきたら、もう言うことなし。シチュエーションが思い浮かぶナンバーである。



3. It Ain't What You Got (feat. John Turrell)
 こちらも70年代ニュー・ソウルの流れのファンク・チューン。John Turrellはイギリスのノーザン・ソウルやファンクをベースにしたユニット「Smoove & Turrell」の片割れ。ファンキーなヴォーカルを聴かせるので、てっきり黒人かと思ってたら、普通にそこらにいそうな白人だったのには、ちょっとビックリ。UKファンクは奥が深い。

4. Keep It Tight
 LPではこれがオープニングとなるインスト・ナンバー。ギターをメインとすることによって、フットワークの良いファンクといった趣き。コーラスはまんまMetersなのは、マネじゃなくってリスペクト。

5. Digging in the Dirt
 引き続きインスト・ナンバー。ちょっぴりダンス・クラシックスっぽい女性コーラスがツボ。オープニングの”Just Begin”がセクシー。JB’sほどのアクティヴさはないけど、この横ユレリズムの心地よさはクセになる。

6. I Can't Stop the Feeling (feat. Lucinda Slim)
 先行シングル・カットされた、若きファンク・ディーヴァによるファンキー・ダンス・チューン。ほぼ同時期に彼女のソロ・アルバムがリリースされており、そこにMalcolmとAthollが参加しており、その縁もあってゲスト・ヴォーカルに参加。あまりアルバム・リリースに力を入れておらず、2009年にシングルでデビューしてから、今年やっと初アルバムが出た状況。こういったシンガーがまだまだ埋もれているのだから、UKは侮れない。



7. Doin' It
 コンパクトにまとめられたインスト・ファンク。こちらもブギー・ファンク的なダンス・チューン。ライブで鍛えられたせいもあって、とにかくノセるのがうまい人たち。

8. Outta My Head (feat. John McCallum) 
 再びJohnの登場。やはりダンクラ系というかブギー・ファンク色が濃い。Chicっぽいコーラスはご愛敬。
 ところでJohn McCallum、俺の検索の仕方が悪いのか、どうやってもカナダの政治家しか名前が出てこない。

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9. You've Got to Keep on Bumpin'
 後半はほんとパーティ・チューンで固めたのか、こちらもダンクラ風のインスト。クラヴィネットの響きがまた70年代を想起させ、ひと回り巡って逆に新しく聴こえてしまう。
 
10. Return of the Haggis (X Rated) 
 メンバー自らによる掛け声のようなコーラスが、多分”X Rated”。まぁショウの締めくくりということで楽しく終わろうや、というムード。ライブも終盤、みんな気をつけて帰れよ‼と言われてるみたい。
 でも、気持ちよく帰れそうだ。もうちょっと、この空間にはいたいけどね。



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