-ソウル&ファンク・バンド、シャロン・ジョーンズ&ザ・ダップ・キングス(Sharon Jones And The Dap-Kings)のリード・シンガー、シャロン・ジョーンズ(Sharon Jones)がすい臓癌からの合併症のため死去。シャロンは2013年に癌と診断。その後、手術と治療を行って一時音楽シーンに復帰するものの、2015年に癌が再発していました。60歳でした。
(amass)
癌であることを告知された後のSharonは、ある程度の中・長期的な休暇を挟みながら、ライブにレコーディングにゲスト出演に精力的に顔を出していた。去年はDavid Byrneのトリビュート・ライブにも参加してオーディエンスの注目を総取りしてしまう、圧倒的なパフォーマンスを披露していたし、今年の夏はもっぱら夫婦ブルース・ロック・バンド Tedeschi Trucks Bandと全米を回っていた。ジャンルは違えど通ずるものがあったのか、今年の夏は何かと彼らのセッションに呼ばれてパフォーマンス映像が公開されたり、断続的ではあるけれど快方に向かいつつある姿を見ることができた。
ついこの前は、あのIggy PopとDavid Bowieの「Tonight」をデュエットしたり、これまでソウルのカテゴリーで収まっていたのが、より花広い交友関係が築かれつつあった。
ここまで業界内でSharonブームが盛り上がったのは、昨年から制作中だった彼女の半生とライブ・パフォーマンスを交えたドキュメンタリー映画『Miss Sharon Jones!』の前評判とリンクしている。冷静に考えてみると、ワールドワイドでは大きなセールスを挙げているわけでもない、主にニューヨーク周辺で活動しているローカル・ソウル・バンドのヴォーカルが映画の主演に抜擢されること自体、極めて異例である。そんな彼女と共演をオファーする大物ミュージシャンが引きも切らなかったことから、やはり何かしら通ずるものがあったのだろうし、フォトジェニックなパフォーマンスに惹かれるものがあったのだろう。少なくともDaptoneが映画プロジェクトに積極的だったとは思えない。彼らも自分たちのことで精いっぱいだし。
予兆は8月のEUツアーのキャンセルからあった。復帰後にリリースされたクリスマス企画アルバム『It's a Holiday Soul Party』で健在ぶりをアピールしていたのだけど、まだ60前だっただけに癌の進行は予想以上に早かった。本人も、周囲もその辺は承知の上だったのだろう。これまでとは畑違いのストレスがあったに違いない映画撮影も、体を気遣うならストップさせるべきだっただろうけど、それでも彼女はカメラを回すことを拒みはしなかった。多分、残された命を考えると、少しでも歌えるうちにその姿を収めておくことが、自分にも、そしてファンにも納得行く結果に落ち着く、と判断したのだろう。
彼女が所属していたレーベルDaptoneは、60年代ヴィンテージ・ソウルを真空パックから開封したような、ある意味時代遅れのサウンドを主に取り扱っている。ダイナミック・レンジと録音トラック数の多さによって、音圧自体は現代の主流サウンドと引けを取らないようになってはいるけど、やはり古臭い。AMラジオで聴いたら時代感覚を失ってしまうようなサウンドばかりである。なので、決して万人受けするような音楽ではない。かつて60年代にティーンエイジャーだった者が懐古的に聴き直すわけでもない。彼らの主力ターゲットはもっと若い世代のレアグルーヴ愛好家だ。
そういった戦略で自転車操業を続けてきたレーベルの性格上、マーケットはどうしてもニッチなものになってしまう。なので、瞬間的にバカ売れする類のものではなく、ゆっくりじっくりと、ロングテールで地道に売れ続ける音楽である。どんな時代でも一定数、彼らのような音を求める層は存在する。
そんな事情もあって、ヒットチャートの常連的なポストにはたどり着けなかったけど、デビュー後は一度も契約が切れることもなく、コンスタントにシングルやアルバムをリリースしていた。着実に実績は積み上がっていて、『Miss Sharon Jones!』公開を間近に控え、次回作ではチャート・アクション的にも期待を持てそうだ、と誰もが思っていた。レーベル・メイトであるCharles Bladleyが、EUシングル・チャートにランクインするようになっていたため、それに続いてSharon もまたEU本格進出の足掛かりを得た。
そんな矢先、突然の訃報である。
1956年、アメリカ南部のオーガスタで、6人兄弟の末っ子として生を受けたSharon Lafaye Jonesは、ブルックリンの高校・大学に進んだ。その傍ら、多くの敬虔な黒人に倣ってゴスペル・シンガーからキャリアをスタートさせ、銀行勤務と並行しながら地元のR&B、ファンクバンドを渡り歩いた。80年代に入ってからは、バック・コーラスとして多くのレコーディングに参加、後にDaptoneに入るきっかけとなったLee Fieldsのレコーディング・セッションを機に、もっぱら裏方だった彼女にデビューのチャンスが巡ってくる。
1996年、シングル「Damn It's Hot」でデビューした頃、彼女はすでに40歳を迎えていた。いくら満を持しての実力派シンガーと言っても、ちょっと遅咲き過ぎるくらいのデビューである。
その小柄な全身からみなぎる彼女の破裂的なヴォーカルや、熱狂的なステージ・パフォーマンスは草の根的に口コミが口コミを呼び、当時所属していたレーベルDescoのコンピレーション・アルバムには高確率で収録されるまでになるのだけれど、NYの弱小インディー・レーベルでは単独名義のアルバムを制作できるほどの体力はなかった。これは大多数の弱小零細レーベルだとよくある話で、大量のアルバム在庫を抱え込むほどの資本がないため、どうしても低単価のシングル中心のリリースになってしまう。そのシングルだって、レーベルの基礎体力以上に爆発的に売れてしまうとバックオーダーが追い付かず、売れまくったがゆえに倒産、という逆転現象を引き起こしてしまう事例だってある。会社が潰れない程度にほどほどに売れてくれた方が、会社としては好都合なのだ。
Sharon自身としては、シングル・リリースだけでも降って湧いたような話であり、アルバム・リリースまでの野心は想像もつかないので持てなかった、というのが実情。取りあえず名刺代わりにシングルを切ってレパートリーを増やし、それが話題になることでライブ動員が安定してくれれば、といった程度の心積もりだった。セッション・シンガーとして、レーベル内外で声をかけられることも多く、バッキングを務めるDap KingsらもAmy WinehouseやMark Ronsonなど、UKの一流どころとのセッションやレコーディングに忙殺されていた。週末の趣味的なバンド活動は、外部活動による生活基盤の安定のもとに成り立っていた。
そんな状況が変わり始めたのが、DescoのオーナーだったGabriel Roth とPhilip Lehmanとが袂を分かってレーベルは発展的解消、RothとNeal Sugarmanによって創設されたDaptoneに移籍してからである。自らインスト・ソウル/ファンク・バンド Sugarman 3を率いるSugarmanの意向を受け、アルバム・リリースをひとつの柱としたDaptoneが第一弾アルバム・アーティストとして指名したのがSharonだった。前述のLee Fieldsと並んで看板アーティストとなったSharonは、その後、5枚のオリジナルと2枚のコンピレーションを残し、今年は『Miss Sharon Jones!』のサントラをリリースした。
コンスタントに2年の1枚程度の割合で安定したクオリティのアルバムを残した彼らだけど、その個性がもっともよく表れているのは、やはりシングル中心で編まれたコンピレーションである、というのが俺の主観。時期はバラバラだけど、Daptoneのアーティストは基本、自社スタジオでアナログ・レコーディング、バンドのプレイヤビリティは絶妙の安定感のため、ツギハギ感はほとんどない。
2004年から2011年くらいまで、ほぼ10年の足取りがここに収められており、これから聴こうとする人には最適なんじゃないかと思われる。この手のバンドあるあるだけど、シングル中心・売り切り在庫なしのパターンが多いため、まだ日本にそれほど生息していないと思われるSharon Jonesマニア以外のライト層にも十分アピールできるラインナップとなっている。
訃報をきっかけに存在を知り、再評価されるというパターンは昔から多い。死後の遺産を発掘してリリースする作業は今後になると思われるので、今のところはこれが一番とっつきやすい。
彼女の新しい歌を聴くことは、もうできない。
でも、今後も時々、思い出すことはできる。取りあえず、今はそれだけで十分だ。
今年もBowieやPrinceを始め、好きなアーティストをずいぶん見送ってきた。
残された作品を聴き続けること、そしてこうやって時たま思いを書き留めておくこと。
誰に頼まれたわけではないけど、多分、これからも俺はそんな行為を続けるのだろう。
Soul Time!
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1. Genuine Pt. 1
2004年リリース6枚目のシングル。日本人からすれば馴染みの深いチンドン屋風のオープニングは、親近感を持ってしまう。古来の土着性のダンス・ミュージックという点で共通点は多い。SharonよりはむしろDap-Kingsにフォーカスを当てたミックスは、アナログ・シングル特有の音圧を引き出している。
2. Genuine Pt. 2
1.の続き。ヴィンテージ・ソウルによくあったスタイルだけど、アナログ・ディスクのカッティング・レベルの維持と、ラジオ・オンエアでかかりやすくするため、長尺の曲を二分割して収録するケースが多かった。21世紀に入ってからも、そういったソウル・マナーにこだわる辺りが、Daptoneが支持される理由。
3. Longer and Stronger
2010年アメリカで公開された映画『For Colored Girls』のサウンドトラックより収録。タイトルから何となくわかるように、黒人女性を主軸とした人生模様を描いたオムニバス・コメディで、キャストがWhoopi GoldbergやなぜかJanet Jacksonなど、映画にはほとんど明るくない俺でも知ってるメンツが出演している。日本では未公開だったらしく、俺自身も未見。
ストーリー・コンセプトに基づいた選曲となっており、クレジットを見ると、Sharon以外にもLalah HathawayやLeona Lewis、懐かし枠ではGladys KnightやNina Simoneもピックアップされている。
スタックス系のホーン・セクションがカントリーっぽくプレイしたような、郷愁漂うスロー・チューンは、映像が目に浮かぶよう。見たことないけどね。
4. He Said I Can
2011年リリース、出世作となった4枚目『I Learned the Hard Way』リリース後にリリースされたシングル。その後、すぐにこの『Soul Time』に収録されたため、この時点でもっとも新鮮なSharonたちのパフォーマンスが封入されている。
ファンキーなワウワウ・ギターとオルガン、ホーン・セクションとの軽快なコール&レスポンスなど、聴きどころ満載のチューン。ほぼワン・コードで押し通しているのに、この表情の豊かさといったら。
5. I'm Not Gonna Cry
3枚目のアルバム『100 Days, 100 Nights』のレコーディングと同時期に録音され、シングル・オンリーでリリースされたナンバー。南部テイストの濃い演奏は泥臭く、初期の彼女らの音楽性を象徴している。バンドの方向性がSharonメインに移行し、ソウルっぽさが強まるのはもう少し後から。
6. When I Come Home
2010年リリースのシングル。初期より洗練されたソリッドなファンキー・チューン。ますますJBっぽさが堂に入りつつある。ギターのオカズと音色が黒っぽさを助長させている。
7. What If We All Stopped Paying Taxes?
かなりストレートなタイトルのジャンプ・チューン。2004年リリースということでDap-Kingsの黒っぽさがハンパない。この後はAmy Winehouseプロジェクトの参加を経て、ゴツゴツ角の尖った演奏が次第に丸みを帯びてゆくのだけど、ここではまだキレッキレの頃。特にテーマがテーマなだけに、Sharonのヴォーカルも攻撃的。
8. Settling In
シングル・カットされた『100 Days, 100 Nights』のタイトル・チューンのB面収録曲。多分同時期にレコーディングされたと思われるけど、なぜかドップリ黒いスロー・ブルース。こういった曲も歌えるのはわかるけど、やはりもっとダンサブルで熱いサウンドの方が、彼女の声質には合っている。まぁB面だし、ちょっとやってみたかったんだろうな。
9. Ain't No Chimneys In The Projects
2009年、クリスマス・シーズンにリリースされたシングル。この時期になるとDap-KingsとSharonとのパワー・バランスもいい塩梅となり、どちらの良さも引き立ったプレイとなっている。
甘くて切なくて、それでいて楽しみなクリスマス。そんなムードを盛り上げるには絶好のチューン。結果的に生前最後となった企画アルバム『It's a Holiday Soul Party』にも再録された。
10. New Shoes
2011年リリースのクリスマス・シングル。サウンド的にはソウル間が薄く、勢いと疾走感が印象強い。それでもどんな音でも自分たちの音として聴かせてしまう力技が、この時点で確立されている。
11. Without A Trace
ゴスペル色が強いサウンドで、ここでのSharonは通常のファンキーな勢いではなく、もっと言葉を噛みしめるようにエモーショナルなヴォーカライズとなっている。この曲だけどうしても初出がわからなかったのだけど、多分ダウンロード・オンリーかこのアルバムのみ収録だと思われる。
12. Inspiration Information
前曲に続き、こちらもしっとりヴォーカルを聴かせるスロー・チューン。2009年のコンピレーション『Dark Was the Night』収録、オリジナルはShuggie Otis、1974年の作品。ファンクを通過してからのオールド・ソウル風味は、聴き手を和ませる。パーティもそろそろ終わり。帰る時間だな。
お疲れさま。ゆっくり休んでね。
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