news_xlarge_streetsliders_screwdriver_jk 1989年リリース、リミックス・ベスト・アルバム『Replays』を挟んだ7枚目のオリジナル・アルバム。前作の『Bad Influence』、これがオリコン初登場3位と、愛想もサービス精神もない彼らとしては、なかなかの好記録をマークしている。特別、メディアに積極的に出演するわけでもなく、トップ10に入るようなシングル・ヒットがないにもかかわらず、快挙とも言えるチャート・アクションを見せた。
 『天使たち』リリース頃から地道に続けていた、ソニー家内制手工業的な「パチパチ」「ビデオ・ジャム」を活用したビジュアル展開が実を結び、スライダーズのアルバムが大きくヒットする機運は盛り上がっていた。アルバム・リリースと合わせて全国ツアーを敢行、レコード売上に大きく寄与するはずだったのだけどしかし。
 ツアー直前になって、ドラムのズズがバイク事故によって大怪我を負い、予定はすべてキャンセルとなる。ソニーとしては、チケット売り上げも好調だったため、ドラムの代役を入れることも提案したのだけど、バンドの総意として、メンバー以外の音を入れることを拒否、そのまま活動休止状態になってしまう。

 ソニーからやんわりと、「助言」という名の上から目線な提案やら、外堀を埋めるようなソフトな圧力もあったのだろうけど、その辺はどこ吹く風、彼らがまともに聞くはずもない。だってハリーだもん。
 取り敢えず「蘭丸がやりたがってるから」「バンドみんなで決めたことだから」、これまではメジャー展開も渋々受け入れてきたけど、1人欠けるとなると話は別。アンサンブルは最初から組み直しになってしまい、バンドは別物になってしまう。失礼を承知で言うけど、テクニカル面だけで言えばズズよりうまいドラマーはいるだろうけど、ハリーや蘭丸が求める音やリズムを即叩けるかと言えば、これも話は別になる。そこら辺がバンド・サウンドの難しさであり、醍醐味でもあるのだけど。
 どちらにせよ、人見知りでぶっきらぼうで不愛想なハリーが、そうそう新メンバーと馴染めるはずもない。

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 ドラム・ベース・ギターという最小限の編成で、ブルースをルーツとしたロックンロール・バンドは星の数ほどいるけど、長らくその頂点に君臨し、最も成功しているのRolling Stones。異論はないよね。
 シンプルなブルースのカバーからスタートして、多少の紆余曲折はあれど、「ロックがビジネスとして成立する」ことを証明したのは、彼らの功績である。ライブのエンタメ化やパッケージング、ディスコやドラムンベースなど、旬のサウンドをちょっとずつ取り入れてアップデートし続け、彼らは不動の地位を築いた。単にコツコツ同じブルースばっかり演じていたわけじゃないのだ。
 魑魅魍魎が跋扈するエンタテインメントの世界をサヴァイヴしてゆくためには、戦略を司る参謀が必要不可欠となる。その役目を担っていたのが、ご存知Mick Jaggerだったというわけで。

 「ロックが金になる」というビジネスモデルは、70年代以降に定番フォーマットとして、急速な発展を遂げることになる。AerosmithもAC/DCもRCサクセションも、キャリアの節目で積極的にメディアとコミットし、広く世に知られることによって大衆性を得た。どれだけ良い音楽をやっていようとも、多くの人に伝わらなければ、バンド運営は先細りしてしまうのだ。
 スライダーズ自身、本当にそういった途を望んでいたのかどうか―。まぁ売れないよりは、売れる方がよっぽどいいに決まってる。できるだけ自分たちのスタンスを崩さぬまま、当時のソニー戦略に乗っかったことによって、スライダーズは思惑以上の支持を得るようになる。多分に蘭丸あたりが一番乗り気で、それでハリーが「しゃあねぇなぁ」といった風に付き合ってたんじゃないかと思われる。ズズとジェームズ?「まぁ好きにしろよ」ってな感じで。

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 もし彼らがソニー・メソッドに乗らず、細々と小規模のライブハウスを回る途を選んでいたとしたら―。
 それほど語り継がれることもなく、せいぜいアングラ・シーンの片隅に記憶される程度の存在で終わっていたことだろう。もともとハリー自身、レコード契約にはあんまり乗り気じゃなかったみたいだし、もっとマイペースな活動を望んでいた節がある。そのまま解散せずに細々と活動し続けていたかもしれないし、それともいつの間に自然消滅していたかもしれないし。

 で、この活動休止というハプニングが、彼らにとってのターニング・ポイントとなった。特にハリー。
 取り敢えず蘭丸に付き合う形で、これまでイヤイヤながらソニー・メソッドに乗っかっていたけど、なんかもうめんどくさくなっちゃったんだろうな。彼のテンションは急速に冷めてゆく。もともと、自由奔放にギターをかき鳴らして「ゴキゲンだぜベイベー」と歌っちゃうタイプなので、それ以外の些事にはとんと興味がないのだ。
 まぁ不謹慎ではあるけれど、「これまでさんざん振り回されてきたんで疲れちゃったし、バンドも稼働してないんだから、これを機にゆっくり休もうかな」とでも思ってたんだろうな。
 蘭丸もまた、スライダーズがメジャーになったことによって注目を集め、ソロ活動が増えている。人を寄せ付けない雰囲気を撒き散らしていたハリーに比べ、蘭丸は外部とのコミットにも積極的だったため、自然と人脈は広がってゆく。そうすると自然、これまでのようなベーシックなロックンロールだけじゃなく、ファンク・ビートなど他のジャンルにも興味を持つようになるのは、いわば当然の流れ。

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 一度動き始めてしまったシステムを止めるには、最初に投入した以上のエネルギーが必要になる。望む/望まないにかかわらず、すでにソニーのヒット・システムに取り込まれていたスライダーズもその例に漏れず、開店休業というバカンスの間にも、何らかのアクションを求められることとなる。
 「せっかくだったらスライダーズと違うことやろうぜ」といった経緯かどうかは不明だけど、何となく始めたのが、ハリーと蘭丸2名によるアコースティック・ユニット「ジョイ・ポップス」である。
 バンド再開までの繋ぎというか暇つぶしのユニットであったため、具体的な成長戦略やらビジョンやらをきっちり決めてスタートしたわけではないので、残された音源はシングル1枚のみ。しかも、スライダーズと蘭丸ソロとの抱き合わせによるシングル・セットでの販売である。言っちゃ悪いけど、在庫処理的なやり方だよな。バンド側としては大して売る気なさそうだし。

 ジョイ・ポップスとしての活動はほぼフェスやイベントに限定されており、ソロでのライブは行なわれていない。なので、生で見られた人は、かなり限られている。
 さらに数は少ないけど、テレビ出演時の動画が残されており、今ではYouTubeでも簡単に見ることができる。シンプルな白一色のスタジオで、溝口肇ストリングス・カルテットをバックに、ハリーと蘭丸はアコギを掻き鳴らしている。無精ヒゲを生やしたハリーを見るのは、かなり珍しい。やっぱ気持ちの中ではオフなんだろうな。
 アコギを弾く彼らの姿というのはかなりレアで、バンドではまず見られないアプローチである。グルーヴ感とは対極のサウンドであり、これはこれで枯れた趣きがあって良いのだけど、まぁ彼ら手動のアイディアじゃないよなまず。斜め上のスカしたディレクターの発案に、蘭丸が乗り気だったから一応話には乗ったのだろうけど、ハリーにとっては暇つぶし程度の余技だったんじゃないかと思われる。

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 そんな課外活動を経てズズが復活、再度スライダーズのメジャー化戦略は仕切り直しとなる。その成果として形になったのが『Screw Driver』なのだけど、前2作とは違って原点回帰的なロックンロールが大きくフィーチャーされている。反面、『天使たち』〜『Bad influence』で展開されていた、ロックンロール以外のアプローチをバンバン持ち込んでいた蘭丸のカラーは、ちょっと薄れている。
 キャッチーなメロディを持つ曲は、シングルカットされた「ありったけのコイン」くらいで、他の曲では骨太な4ピース・ロックへの回帰が窺える。言っちゃえば地味だよな。
 ちなみにアルバム・リリースを控えたスライダーズ、この時期には記念すべき「夜ヒット」初出演を果たしている。そこでは最も知名度の高い「Boys Jump The Midnight」を披露しており、既存ファンが狂喜乱舞したことは当の然、新規ファンの獲得にも大きく寄与した。お茶の間で家族が集まってテレビを見ている時間帯に、彼らのようなガレージ系のサウンドが流れることが少なかった時代だったため、そのインパクトはかなりのものだった。
 なので、彼らのレパートリーの中では最も聴きやすい「Boys Jump The Midnight」のようなナンバーを期待した新規ファンにとって、この『Screw Driver』は、ちょっととっつきにくいアルバムである。何十回も聴いてきた俺でも、たまに聴きたくなるくらいだし。
 聴けば聴き込むほど。新たな発見も多いアルバムではあるのだけれど、一見さんにはちょっと敷居が高いのかな。

 もしもの話、ズズの事故がなくて、彼らがそのままメジャー路線を突き進んで行ったとしたら、一体どうなっちゃってたのか。
 バブル期というご時勢ゆえ、化粧品のCMソングに起用されていたかもしれないし、「笑っていいとも」のテレフォンショッキングにも出演していたかもしれない。いやないか、あんな無口なハリーが生放送を承諾するとは思えないし。
 多様な方向性として、ハードでラウドなスライダーズ本体と並行して、ブルース・フィーリングを漂わせるアコースティック路線のジョイ・ポップスとの両立も、実験の一環として面白い試みだったんじゃないかと思われる。

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 ほんと最近になってハリー、蘭丸と電話で会話をした、とのこと。やっぱメールやラインじゃないんだな。特別、具体的にどうこうではなく、「最近どう?」と、軽く言葉を交わした程度。ただそれだけだ。
 もともと、言葉が多いタイプではない。言葉がなくても通じるのがこの2人だし。ギターがあれば、もっと近づけたかもしれないけど、まだその時期ではないのだろう。
 ハリーは蘭丸のことが気になり、そして蘭丸は淡々と、でも嬉しそうにTwitterでつぶやいた。
 まぁゆっくりと。前を向いて一歩ずつ。

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1. 風の街に生まれ
 まんまStonesオマージュのロックンロールがオープニングを飾る。セミアコっぽい間奏のギターは、わりと珍しい。
 基本、ノマドなスタンスのハリーなので、ロックンロールのキャラクターとしては典型的に、「お前しだいさ」と突き放した言葉を投げかけている。一聴すると無愛想な態度だけれど、ちゃんとその後、「誰かが呼んでるはずさ」と付け加えている。単なる破滅キャラではないのだ。

2. Oh! 神様
 ホーン・セクションと絡むギター・プレイが粋でいい。これもStonesだよな。ブルスとホンキートンクとのハイブリッドを聴かせるバンドは、当時の日本では彼らかボ・ガンボスくらいだったよな。

3. かえりみちのBlue
 カントリー・ロック的にゆったりしたビートの、抒情的なナンバー。ファンの間では根強い人気がある。ぶっきらぼうな口調ながら、どこか人間くささが感じられるのが、親近感が湧いてしまう。そりゃそうだ、ハリーだって仙人じゃないし。まぁこれ以降の90年代はなかば世捨て人みたいな感じだったけど。

4. Baby, Don't Worry
 アルバム・リリース直前にリリースされたシングル。ここまでちょっとポップだったりルーズな曲調が多かったけど、ここに来てタイトなリズムとソリッドなギター・プレイがギュッと凝縮されている。アンサンブル全体に緩急がつけられているため、音の奥行きが生まれている。手クセみたいなコードやメロディなのに、なんでこんなカッコいいんだろう?



5. Hey, Mama
 こちらもソリッドなリズムをベースとしたハード・ブギ・チューン。蘭丸を中心としたコーラスが相変わらず脱力してしまうけど、サウンド自体はめちゃめちゃグルーヴィー。

6. Yooo!
 スライダーズ流のダンス・チューン。だって「踊れ」って言ってるんだもん。蘭丸のカッティングがファンク・マナーなので、演奏だけ抜き出せばファンキーさ満載なのだけど、やっぱりハリーの声は踊れるムードが出ない。まぁ縦ノリじゃなくて横ノリのリズムだから、それはそれでいいか。

7. おかかえ運転手にはなりたくない
 ハリーの個人的色彩が強い、ファンの間でも地味に人気の高いブルース・タッチのバラード。彼が書くバラードのメロディはバタ臭さが少なく、むしろ日本人にとっては親しみやすい歌謡曲的なとっつきやすさがある。こういったところが大衆性を勝ち得たところなのだろう。
 いくら友達や仲間とはいえ、彼の中には誰も踏み込めない境界線がある。もちろん、そんなのは誰にだってあるのだけれど、ハリーの場合、その範囲がとてつもなく広いのだ。我々が知っているハリーとはほんの一部でしかない。どれだけ距離を詰めようとも、彼は自我の中心でひっそり膝を抱えている。一番近い存在だった蘭丸でさえ、伸ばした手は届かない。
 それは今も続いている。

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8. Rock On
 シンプルなリフを中心に組み立てられた、アルバムに必ず1曲は入っている、他メンバーによるナンバー。最初は蘭丸かと思ってたけど、これってジェームスなんだってね。どうりでなんか違うと思った。指摘してくれた人、ありがとう。
単純な構造のブギだけど、それが逆に良い方向へ向いているんだよな。だからと言って好きというほどじゃないけど。

9. ありったけのコイン
 アルバム・リリースよりだいぶ先行してリリースされたリード・シングル。オリコンでは最高34位を記録しているように、ビギナーにとっても間口の広いサウンドに仕上げられている。「Boys Jump the Midnight」に代表されるアッパー・チューンとは対極的に、日本人にもなじみの深い情緒あふれるフォーク・ロック調にまとめられていることによって、新たな一面が鮮烈に浮かび上がった。
 「ありったけ コインかき集めて 飲んだくれ お前とどこへ行こう」
 金はないけど時間だけはたっぷりある、モラトリアムな青春時代の情景を切り取った、リア充でもオタクでもない、大多数のコミュニティとは無縁の所で生きてきた者たちへのノスタルジーが刻み込まれている。



10. いいことないかな
 ヴォーカルにもバッキングにも薄くエフェクトをかけた、スライダーズの十八番と言えるハード・ブギ。全員に見せ場があるアンサンブルは、ラストを飾るにはふさわしい。古典ブルースにならった歌詞はネガティヴだけど、それを笑い飛ばしちゃうようなサウンドのグルーヴ感が濃い。やっぱバンドが好きなんだな、ハリーは。


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