地元フランスを中心に活動しているため、いまだ日本ではそれほど話題に上らない、なのに俺的には盛り上がってる現役ジャズ・ファンク+ちょっぴりエレクトロ風味とラップも少しのバンド、Electro Deluxe。今回紹介するのは2010年リリース、3枚目のオリジナル・アルバム。
どのバンドもそうだけど、デビューから一貫したコンセプトを持って活動していたとしても、ターニング・ポイントが訪れることがある。短命のバンドならともかくとして、それなりにライブの数もこなし、アルバム・リリースも定期的に行なっていたら、メンバーの出入りによって新しい血が導入されたり、また不動のメンバーでも外部活動や嗜好の変化によって、主旨が変わることも多い。
Electro Deluxeもその例に漏れず、当初はGael Cadoux(key)とThomas Faure(sax)を中心とした、スタンダード・ジャズ+エレクトロorラップというサウンド・コンセプトでスタートした。まだホーン・セクションが正規メンバーじゃなかったため、今ほどファンク臭は少なく、曲によってはまんまアシッド・ジャズっぽくなってしまうという、今とは似つかないスタイルでの活動だったのだ。
当時はリード楽器がキーボードとサックス1本だったため、サウンドの幅を広げるにも限界があったのと、まだそれほどライブ活動に積極的でなかったため、バラエティを持たせる苦肉の策で、スタジオ・ワークの比重が大きかった。
当時はリード楽器がキーボードとサックス1本だったため、サウンドの幅を広げるにも限界があったのと、まだそれほどライブ活動に積極的でなかったため、バラエティを持たせる苦肉の策で、スタジオ・ワークの比重が大きかった。
ただ、それでも地道にコンスタントに活動を継続してゆくと、フランス国内でもそこそこ好評を期すようになり、口コミによってライブ動員も増えてオファーが増えてくる。それに伴って同好の士が集うようになったのか、いつの間にかホーン・セクションが正規メンバーになり、ゲスト・ヴォーカルも増えてきた。あれよあれよと言う暇もなく、いつの間にか大所帯となって、ついには『Electro Deluxe Big Band』と称して、総勢18名でのライブ&アルバム・リリースにまで至った次第。
無理に背伸びすることなく、地道にバンドの地力をつけてきた結果なのだろう。
無理に背伸びすることなく、地道にバンドの地力をつけてきた結果なのだろう。
で、いろいろ乗り越えてきた末にリリースされたこの『Play』では、それまでのアシッド・ジャズ的クラブ・サウンドはすっかり後退し、メインとなるのは重厚なリズム・セクション、それに絡むホーン・セクションの音の壁、そして多彩なゲスト・ヴォーカル陣による、フィジカルなグルーヴである。これまで人員的・予算的に苦肉の策だったエレクトロ風味で間に合わせる必要がなくなり、ほぼ自前の生音で賄えるようになったのだから。
このころはまだ正式メンバーではなく、あくまでゲスト・ヴォーカルの一人という扱いだったJames Copleyが数曲でプレイしているのだけれど、やはりこの人が一番インパクトが強い、ていうかアクが強い。Ben L'Oncle Soul、Gael Fayeなど、個性的なラッパーを相手取って、また地力の強いバンド・セクションにも一歩も引けを取らず、あの暑苦しい顔・アクションで一際存在感を放っている。
思えば、このCopleyとの出会いというのが、多分バンドとしてのターニング・ポイントだったのだろう。
思えば、このCopleyとの出会いというのが、多分バンドとしてのターニング・ポイントだったのだろう。
アシッド・ジャズのサウンド・フォーマットはもともと、クレヴァーな黒人女性ヴォーカルとの相性が最も良く、Electro Deluxeもデビュー当初はインストor女性ヴォーカル・ナンバーの二本立てをメインとしてやってきたのだけれど、アシッド・ジャズに徹するには、バンドの個性が強すぎたのだろう。女性ヴォーカルを引き立たせるため、演奏陣が必要以上にかしこまってしまったあまり、無難なプレイでお茶を濁してる場面も見受けられる。
彼らの持ち味はビッグ・バンドでこそ発揮されるものだし、その音の壁に負けないヴォーカルは、シャウト型の女性ではなく、多少テクニック的には難がありながら、熱血バカ的なタイプの方が合うのだろう。狭いスタジオの中でリズム・パターンの打ち込みに精を出したり、ヴォーカルのニュアンスに合わせたトラックの修正など、彼らの性ではない。
彼らの持ち味はビッグ・バンドでこそ発揮されるものだし、その音の壁に負けないヴォーカルは、シャウト型の女性ではなく、多少テクニック的には難がありながら、熱血バカ的なタイプの方が合うのだろう。狭いスタジオの中でリズム・パターンの打ち込みに精を出したり、ヴォーカルのニュアンスに合わせたトラックの修正など、彼らの性ではない。
で、このアルバム、ヴォーカル・ナンバーありラップ・ナンバーありインストありという、2ndまでの流れを引き継いだ構成になっているのだけれど、やはりどうしても注目してしまうのが、Coplayのプレイ&パフォーマンス。
写真を見てもらえれば一目瞭然だけど、一般的な二枚目ではない。味のある表情といった方がいいかもしれない。で、なんとなく想像できるように、うまく立ち回れるような人ではない。どちらかと言えば胡散臭い感じが漂う、はっきり言って不器用な人である。
テクニックがないとは言わないけど、そういったテクニカルな面で注目されようとは思っていないはずである。むしろ常にハイパーMAXなテンションで突っ走り、汗だくになり、唾を飛ばし、大ぶりなアクションによって、その膨大なカロリー消費量が観客を魅了してしまう、そういった人である。なぜか知らねど満ち溢れてくる「根拠のない自信」のようなものが、どうにも最初はアクが強くて受け入れづらいのだけれど、いつの間にかクセになってしまって、終いには応援せざるを得なくなってしまう。
テクニックがないとは言わないけど、そういったテクニカルな面で注目されようとは思っていないはずである。むしろ常にハイパーMAXなテンションで突っ走り、汗だくになり、唾を飛ばし、大ぶりなアクションによって、その膨大なカロリー消費量が観客を魅了してしまう、そういった人である。なぜか知らねど満ち溢れてくる「根拠のない自信」のようなものが、どうにも最初はアクが強くて受け入れづらいのだけれど、いつの間にかクセになってしまって、終いには応援せざるを得なくなってしまう。
近年のフランスのアーティストとして俺が知ってるのは、せいぜいDaft Punkくらいだけど、多分ほとんどの人は俺と同レベル程度の知識だと思う。フランス出身であるという以外、彼らとの共通点は見いだせないのだけれど、そのフランス繋がりによるものなのか、サウンドからジャケットからフォト・セッションからPVから漂うシャレオツ感はハンパないものがある。やはりフランス人、頑固で排他的な性格だけれど、センスだけは相変わらずキレッキレである。
エレクトロ・デラックス Ben l’Oncle Soul 20Syl from. Hocus Pocus ベン・ロンクル・ソウル ヴァンシール from. ホーカスポーカス
Pヴァイン・レコード (2010-10-06)
売り上げランキング: 175,116
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01.Play
02.Please Don't Give Up
ジャジーでニュー・ソウルの匂いさえ感じさせるメイン・ヴォーカルは、フランスのモータウンからデビューしたBen L'Oncle Soulによるもの。当時はまだデビュー前だったけど、すでに充分な存在感を放っている。
やはり演奏が最高。ヴォーカルに合わせたジャジー・ヒップホップの流れなのだけれど、シンプルなバンド・セットながら、グルーヴ感が凄い。
03.Black And Bitter
ここで我らがCopley登場。ちょっとアイドリング気味なしっとり大人しめのナンバー。この時期のサウンドは、まだジャズ8:エレクトロ2くらいの配分で構成されているため、エフェクトの部分がヴォーカルのダイナミズムをちょっと減じている。いやカッコイイのだけれど、彼にはもっとメチャクチャに歌い上げてほしい。
04.California
05. Between The Lines
このアルバムのハイライト的楽曲。こちらもBen L'Oncle Soul参加だけど、同じくフランスを代表するヒップホップ・バンドHocus Pocus の20syl(ヴァンシールと読むらしい)によるラップが前面に押し出されている。こちらもElectro Deluxe同様、生音でのライブが評判を呼んでおり、互いの共通点は多い。
ネチッこいBenのヴォーカルは、正統なニュー・ソウルの流れを汲んだスタイルに徹しており、攻撃的なラップとジャズとファンクを絶妙にブレンドしたサウンドとのギャップが心地よい。ライブだとCopleyが歌っているのだけれど、会場が一体となるのがわかる、ほんと盛り上がる曲。
06.Let's Go To Work
ラップ・パートはフランスのヒップホップ・バンドMilk Coffee and SugarのGael Fayeという若手。Copleyによるヴォーカル・パートは英語なのだけれど、ラップはフランス語なので、もうさっぱりわからん。でもこの何ともミスマッチ感は、これはこれでいい感じ。
導入部から中盤まではごく普通の良質なジャズ・ファンクなのだけれど、終盤になるにつれて、どうにもプログレ的な混沌とした展開になるのが、いつもながらスリリング。
07.Mousse
08.Where Is The Love
ちょっとくぐもったスモーキーなヴォーカルを聴かせるBenに合わせて、気だるい感じのネチッこいスロー・ファンクをプレイするバンドがいい仕事。
しかしこのBen、ほんとこのアルバムでは大活躍しており、曲調に合わせて様々な表情を使い分けている。ソロ作品を動画で見てみたのだけれど、レコード会社のせいなのか、どうにもポップ・ソウル的な売り方なので、ちょっともったいない。こっちの路線の方がずっとクールなのにな。ま、でも売れないけどね。
09.Old Stuff
10.Fine
後にレコーディングの常連となるNyr Raymondをフィーチャーした、ジャズ寄りのナンバー。どことなく秋のフランスの散歩道を連想させる。とても映画的な情景を喚起させる、地味だけれどイマジネーションの広がりやすい曲である。
11.Talking About Good Love...
もはやライブでは定番のアッパー・チューン。疾走感に溢れながらタメがあり、グルーヴ感タップリというのは、ジャズ・ファンク系のナンバーでは貴重。こちらも前曲同様、Nyrをフィーチャー。日本ではほとんど知られてないし、俺も詳しくはほとんど知らないけど、味のあるシンガーである。
12....Talking About Good Love
ややSlyっぽさも感じさせる、シンプルなバッキング、凝ったリズムの小品。音がスカスカながらもファンクっぽさを感じさせるのは、どことなくZappを連想させる。タイトルは同じながら、まったく対照的な印象を感じさせる2曲。
13.Chasseur de tetes
14.Sorry
12.の空間を活かしたファンクと、10.のメロウ・ジャズとのいいとこ取りで作られたラスト・ナンバー。ファンクにしてはお行儀よく聴こえてしまうのは、フランス訛りの英語だからと言えるし、ジャズにしてはエモーショナルさがちょっと、と言えるのは、こちらもやはり上品さが漂うため。
なので、次回作で大きくCopleyをフィーチャーしているのは、そういった理由もあるのだろう。あそこまで豪快でわかりやすいダイナミズムがないと、ライブ映えがしない。
演奏のニュアンスを聴かせるのではなく、もっと奥底から湧き出る熱い想いをたぎらせて、無様にヨレヨレになりながら歌い踊りプレイする、そんな姿が人の心を動かし、そして笑い涙するのだ。
オフィシャル・サイトでツアー予定を見ると、4月にチョロっとスイスを廻り、またずぅっとフランスをくまなく廻り、でちょっとドイツに顔を出した後、またフランスのドサ廻り、という相変わらずのマイペース。何しろ19人の大所帯だけあって、そんな遠くへも行けないのだろう。取りあえずバンドは維持できているようなので、存続してるうちは、まだ日本に来てくれる望みもあるものだ。
いやほんと、そろそろ来ねぇかな。
Home (Deluxe Version)
posted with amazlet at 16.02.19
Stardown (2014-09-15)
売り上げランキング: 58,490
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エレクトロ・デラックス Ben l’Oncle Soul 20Syl from. Hocus Pocus ベン・ロンクル・ソウル ヴァンシール from. ホーカスポーカス
Pヴァイン・レコード (2010-10-06)
売り上げランキング: 250,944
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