デビュー作『Look Sharp』と2作目『I’m The Man』がストレートなタテノリ・パンク(を装った高度なロックン・ロール)、3枚目『Beat Crazy』でレゲエに色目を使い、4枚目『Jumpin’ Jive』では、何をとち狂ったのか、本格的な1920年代ジャイヴ・ミュージックにまで手を伸ばしたJoeが行きついた先は、人種のるつぼNYだった。ここでGraham Maby以外の従来のバンド・メンバーを一掃し、心機一転、前代未聞のポップ・アルバムを完成させた。
節操がないというのか音楽的な探求心が強いというのか、はたまたただ単に落ち着きがないのか、とにかく様々なジャンルにあっちこっち手を出し、縦横無尽に動き回っていたのが、当時のJoeの印象である。
あくまで一般論として、大きなヒットが一つあると、大方のミュージシャンやレコード会社は、更なる二匹目のドジョウの存在を捕まえようと目論むため、できるだけそのイメージを崩さぬまま、拡大再生産を図るものである。もちろん、ほとんどのミュージシャンの場合、ヒットはおろか、人知れずして消えゆくパターンの方が遥かに多いのだけど、Joeの場合、あまり大きな圧力はなかったらしい。まぁ確かに商売優先で考えるのなら、『Jumpin’ Jive』のようなアルバムをリリースしようとはしない。
Joe自身も自分のポジションは一応認識はしていたようで、レコード会社主導による大掛かりなプロモーション活動はあまり行われず、ライブを中心とした草の根的な、ブレの少ない活動を現在も行なっている。そんなマイペースな活動にもかかわらず、意外にセールス的にはほぼ及第点ともいうべき成績を収めている。
トータルの数字は多分それほどでもなさそうだけど、デビュー作から『Big World』まではUSトップ40に入っており(サントラ『Mike's Murder』を除く)、同じ英語圏とはいえ、大概が苦労しているUKのミュージシャンの中では恵まれている方。
Royal Academy of Music出身という、クラシック畑のミュージシャンがアメリカで受け入れられるのは少し意外だけど、ただ単純にゴキゲンな、それでいて少しモダンなロックン・ロールとして認知されていたのだろう。
理屈はいらないのだ、だってロックン・ロールなんだもん。
Royal Academy of Music出身という、クラシック畑のミュージシャンがアメリカで受け入れられるのは少し意外だけど、ただ単純にゴキゲンな、それでいて少しモダンなロックン・ロールとして認知されていたのだろう。
理屈はいらないのだ、だってロックン・ロールなんだもん。
当時Joeが所属していたA&Mは、もともとミュージシャンであるHerb Alpertらによって設立された会社であり、比較的自由というか緩いというか、ミュージシャンの自主性を重んじていた。
代表的なアーティストとしてPoliceやCarpenters、Quincy Jonesがおり、こうして並べてみると、かなり支離滅裂な組み合わせである。一見まとまりがなさそうだけど、どのアーティストにも共通して言えるのが、どこかひと癖あってアクが強く、一筋縄ではいかない連中ばかりである。
そんな彼らを呼び寄せる磁力というのか、他のレコード会社には収まりきれない連中の吹き溜まり的要素が、この会社にはある。もちろん、吹き溜まりと言ってもそれぞれのレベルは相当なものだけど。
そんな中、メジャーでありながら独自の配給網はそれほど強くなく、十分なプロモーションも行なわれないA&Mにおいて、Joeは試行錯誤しながら、自らの音楽レベルを高めていった。そんな求道的なアーティスト・モラルを尊重する気風が、この頃のレコード会社にはまだあった。
代表的なアーティストとしてPoliceやCarpenters、Quincy Jonesがおり、こうして並べてみると、かなり支離滅裂な組み合わせである。一見まとまりがなさそうだけど、どのアーティストにも共通して言えるのが、どこかひと癖あってアクが強く、一筋縄ではいかない連中ばかりである。
そんな彼らを呼び寄せる磁力というのか、他のレコード会社には収まりきれない連中の吹き溜まり的要素が、この会社にはある。もちろん、吹き溜まりと言ってもそれぞれのレベルは相当なものだけど。
そんな中、メジャーでありながら独自の配給網はそれほど強くなく、十分なプロモーションも行なわれないA&Mにおいて、Joeは試行錯誤しながら、自らの音楽レベルを高めていった。そんな求道的なアーティスト・モラルを尊重する気風が、この頃のレコード会社にはまだあった。
デビュー前のストックも交えた最初の2枚を最後に、それ以降のJoeのアルバムは、ロックン・ロール一辺倒の内容から脱皮して、様々な音楽性をやたらめったら導入するようになる。純正のロックン・ロールの割合はアルバム・リリースごとに減少してゆき、サルサ、レゲエ、ジャズなどのワールド・ミュージック的要素やエッセンスを絡めた曲の割合が多くなってゆく。
前述したように、長らくクラシック系の勉強をしてきただけあって、もともとロックに対してさほど執着があるわけではなく、というかむしろ単純なロックを毛嫌いしていたため、こういった流れは自然の結果でもある。
今作『Night & Day』ではロックへの拒否反応がピークに達したのか、ロックン・ロールの象徴であるギター音の排除を行なっている。ミュージシャン・クレジットに目を通し、そして実際に音を聴いてみても、ギターの音色は聴こえない。ほとんどのリード楽器は、ピアノかホーンに限られている。
とにかくロック的なテイストを悉く排除し、またはロック以外のサウンドに置き換えて構築されたのが、この『Night & Day』である。
とにかくロック的なテイストを悉く排除し、またはロック以外のサウンドに置き換えて構築されたのが、この『Night & Day』である。
その姿勢こそがまさしくロック以外の何物でもない、というのは穿った見方だろうか。
Night & Day
posted with amazlet at 16.02.11
Joe Jackson
A&M (1989-10-20)
売り上げランキング: 47,613
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1. Another World
サルサっぽいオープニングからJoeが吠える。出だしはかなりヤケクソ気味な荒れたヴォーカルだけど、すぐに持ち直す。
このアルバムでの鍵盤系はほとんどJoeの演奏だけど、主旋律を司る、カリンバっぽいエスニック調の軽めのエレピ、重厚なピアノの音との対比が良い。
このアルバムでの鍵盤系はほとんどJoeの演奏だけど、主旋律を司る、カリンバっぽいエスニック調の軽めのエレピ、重厚なピアノの音との対比が良い。
2. Chinatown
前曲と切れ目なく続く、不穏なムードのオープニング。どことなく20世紀初頭のギャング街のチャイナタウンを想起させる。チープなスパイ映画のサウンドトラックっぽさはJoeの狙い通りだろうか。
同じくピアノの音が分厚い。通常のリード楽器であるギターと置き換えた、というべきだろうけど、ここはむしろ、あまりにもギターレス編成での演奏が良かったため、ギターの入る余地がなかった、もし無理に入れたとしても曲調が変わってしまい、まったくの別物になってしまうことをJoeが察知したのだろう、と思いたい。
同じくピアノの音が分厚い。通常のリード楽器であるギターと置き換えた、というべきだろうけど、ここはむしろ、あまりにもギターレス編成での演奏が良かったため、ギターの入る余地がなかった、もし無理に入れたとしても曲調が変わってしまい、まったくの別物になってしまうことをJoeが察知したのだろう、と思いたい。
3. T.V. Age
さらにシームレスに曲は続く。同じくエスニック調で、Joeのラップっぽいヴォーカルを、ちょっぴりだけ聴くことができる。
タイトルが象徴するように、TVのチャンネルをザッピングしているかのように、4分足らずの中で曲調がコロコロ変わるのだけど、せわしない印象はない。
タイトルが象徴するように、TVのチャンネルをザッピングしているかのように、4分足らずの中で曲調がコロコロ変わるのだけど、せわしない印象はない。
4. Target
まだまだ曲は終わらない。アフリカンなミニマル・リズムを基調とした、カリンバっぽいピアノが特徴。その上に80年代DX7プリセットの懐かしのシンセ音が乗り、そのミスマッチ感が時代を感じさせる。多少意識的なミュージシャンなら、他ジャンルとの融合を真剣に取り組んでいた頃である。
5. Steppin' Out
結局A面はすべてひと繋がり、一つの組曲と思ってもらえれば良い。そのシメが、最初にシングル・カットされたこの曲。
同じくプリセット・シンセのソロに乗せて、幾分しっとりしたヴォーカルでJoeが丁寧に歌っている。UK・USともシングル・チャートで最高6位まで上った、今でもJoeの代表作。
Joe Jackosnといえばコレ、というかコレしか知らない人も多いだろう。あまりにポップな仕上がりのため、Joeの長年のファンの間ではあまり重要視されていないけど、ここまでヒットしたからには、多くの大衆の心をつかんだ何かがあるのだろう。
ただJoe自身もプレイするのに飽きているのか、これ以降のライブではスロー・バラードのアレンジで歌っており、レコードのままのアレンジで歌われたことはほとんどない(敢えて言えばBBCライブくらい)。
同じくプリセット・シンセのソロに乗せて、幾分しっとりしたヴォーカルでJoeが丁寧に歌っている。UK・USともシングル・チャートで最高6位まで上った、今でもJoeの代表作。
Joe Jackosnといえばコレ、というかコレしか知らない人も多いだろう。あまりにポップな仕上がりのため、Joeの長年のファンの間ではあまり重要視されていないけど、ここまでヒットしたからには、多くの大衆の心をつかんだ何かがあるのだろう。
ただJoe自身もプレイするのに飽きているのか、これ以降のライブではスロー・バラードのアレンジで歌っており、レコードのままのアレンジで歌われたことはほとんどない(敢えて言えばBBCライブくらい)。
6. Breaking Us In Two
ここからB面。一応A面が「Night Side」、B面が「Day Side」という括りらしいけど、Joe本来の正統なバラードはB面に集中しており、あまり昼っぽさは感じられない。むしろ多国籍なA面の方に夜の妖しさが感じられる。
ライブでも定番のナンバーであり、このアルバムからは2枚目のシングル・カットなのだが、それでもUS18位まで上がっている。
決してポップではないのだけど、大人のバラードである。それが当時のカフェバー文化の発展の一翼を担ったのだろう。
決してポップではないのだけど、大人のバラードである。それが当時のカフェバー文化の発展の一翼を担ったのだろう。
7. Cancer
A面の流れを汲んだ、サンバのリズムがDay Sideっぽいけど、曲が進むにつれて、ただの明るい曲ではないことがわかってくる。陽光燦々とした南国の陽射しの中、青っちょろい不健康な顔立ちの男が、一心不乱にピアノを叩いている。
ピアノとは打楽器である、そしてここは真昼の暗黒。
ピアノとは打楽器である、そしてここは真昼の暗黒。
8. Real Men
6.同様、こちらもライブの定番であり、ファンの間でも特に人気の高い曲。なぜかオランダのみでシングル・カットされて、17位まで上がっている。
Joeによる冒頭の流れるピアノから徐々にテンションが上がって行き、サビでは哀しき雄叫びを上げている。ギターを入れてもそれほど違和感もなさそうだけど、それではアルバムの調和が取れなくなることをJoeが恐れたのだろう。
随所に流れる弦楽四重奏も良いアクセントとなっている。
Joeによる冒頭の流れるピアノから徐々にテンションが上がって行き、サビでは哀しき雄叫びを上げている。ギターを入れてもそれほど違和感もなさそうだけど、それではアルバムの調和が取れなくなることをJoeが恐れたのだろう。
随所に流れる弦楽四重奏も良いアクセントとなっている。
9. A Slow Song
長らくライブのエンディングを飾っていた、アルバムのシメとして相応しい曲。ファン、アーティストともども思い入れが深く、長らく愛されてきた曲である。
基本、とてもシンプルなバラードだけど、世界一周ともいえる音楽的冒険を、このアルバムの中で縦横無尽に行ない、すべてをやり尽くした上でたどり着いたのが、この曲である。
特別なギミックや技術を弄することなく、ただピアノに向かいながら、感情の赴くままタイトルを連呼するJoeの姿は、ある意味神々しく映る。
基本、とてもシンプルなバラードだけど、世界一周ともいえる音楽的冒険を、このアルバムの中で縦横無尽に行ない、すべてをやり尽くした上でたどり着いたのが、この曲である。
特別なギミックや技術を弄することなく、ただピアノに向かいながら、感情の赴くままタイトルを連呼するJoeの姿は、ある意味神々しく映る。
このアルバムによって、アメリカでゴールド・ディスク(100万枚)を獲得し、Joe Jacksonは一流アーティストの仲間入りを果たす。作品クオリティと大衆の支持とが見事に合致したことは、時代の流れも良かったろうし、タイミングも絶妙だったのだと思う。どちらが欠けてもうまくはいかないのだ。
この路線に確信を得たJoeは更に音楽的な探求心を強め、今度はジャズにターゲットを変え、こちらも傑作『Body & Soul』をリリースすることになる。
ちなみに後年、Joeは諸々のトラブルによって鬱病を患い、しばらく表舞台から遠ざかることになる。
周囲の尽力などによって徐々に回復することになるのだけど、そのリハビリ過程でで制作されたのが、もろ続編の『Night & Day Ⅱ』である。同じ道を通ることを良しとしなかったJoeが、初めて過去を振り返り、続編を作った唯一の作品である。
そこに至るまでの事情は色々あったろうが、傑作とまでは行かずとも、こちらも秀作である。
周囲の尽力などによって徐々に回復することになるのだけど、そのリハビリ過程でで制作されたのが、もろ続編の『Night & Day Ⅱ』である。同じ道を通ることを良しとしなかったJoeが、初めて過去を振り返り、続編を作った唯一の作品である。
そこに至るまでの事情は色々あったろうが、傑作とまでは行かずとも、こちらも秀作である。
Joe Jacksonについてはもう少し続けたいので、また次回。
ジョー・ジャクソン
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