51YKeXcJuWL 1991年リリース、Costelloワーナー移籍第2弾のアルバム。メジャーの販売力とCostelloのアーティスト・パワーとの相乗効果によって、US最高55位UK5位という成績は、彼にとってはまぁアベレージはクリアかな?といったところ。
 この頃のCostelloのバック・バンドはRude 5、『King of America』からの付き合いになるJerry ScheffやMarc Ribotらと組むことが多く、アメリカン・トラッドを強く意識したサウンドを志向しており、活動ベースもアメリカを中心としている。
 その辺の影響なのか、当時の写真では結構なモジャヒゲを蓄え、一見するとカントリー・シンガーみたいな風貌となっている。かつてのソリッドで切れ味鋭いパンキッシュなイメージはどこにもない。すっかりメジャー・アーティスト化した大物振りの風格が漂っている。

 ワーナー移籍によってグローバル展開が可能になったほか、この時期Costelloの転機となったのが、Paul McCartneyとのコラボレーションである。
 もともとは2人でコラボ・アルバムを制作する予定で、実際、結構な数の楽曲がレコーディングされたのだけど、大人の事情でもあったのか、それぞれのソロ・アルバムに振り分けられた。まぁPaulと何かやるというのは、本人たちの意思だけではどうにもならないこともあるのだろう。

 そのPaulの影響もあったのか、この時期からCostello、創作技法の変化が作品に表われている。
 これまではぎゅうぎゅう音を詰め込んだ譜割りで饒舌に、英国人特有の皮肉とペーソスを交えた言葉遊び満載の歌詞を量産していたのだけど、ポピュラー界有数のソングライターの創作アプローチを目の当たりにすることによって、心境の変化があったのだろう。小手先の辻褄合わせではなく、真摯に音楽のミューズと対峙しているPaulの姿勢は、これまでにも多くの人々の心をつかみ、そして癒やし、また発奮させてきた。
 その影響下にあったのはCostelloも例外でなく、間近で作業することによって、その影響はさらに顕著になり、彼のスタイルも変化することになる。既存のロックンロールやソウル、またはカントリーなど、これまで手持ちの技法を基本としたソングライティングから、Costello独自の創作スキルを確立した瞬間である。

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 そんなPaulもまた、まだ当時は跳ねっ返りの気性を残していたCostelloに大きく影響を受けている。
 John Lennonを失ってからのPaulは、やる事なす事ケチがつくことが多く、特にCostelloに出会う前の80年代後半になると、もう現役アーティストとしては終わったもの扱いされていた。
 日本で大麻所持により拘留され、ライブ中止になったヤケクソもあって、そろそろ何かと行き詰まっていたWingsを解散、バンド・サウンドの反動なのか、小品集的な地味なソロ・アルバムの目玉として、『Off the Wall』でアゲアゲ状態だったMichael Jacksonとのデュエットを入れてスマッシュ・ヒットしたはいいものの、そのレコーディングの最中に著作権の重要性をMichaelにレクチャーしたことが仇となり、そのMichaelかBeatles時代の楽曲権利を買収されてしまう始末。
 ちょっとルーティンを変えてみようと映画製作に乗り出すものの、かつてのBeatles映画同様の陳腐なプロットが80年代に通用するはずがなく、興行的には失敗。やっぱり音楽しかないんだと思い直し、Johnに匹敵するパートナーとの共同作業を計画するも、Paulと対等にガチでやり合える漢がそんな簡単に見つかるはずもなく、ようやくオファーを取りつけたのが、10ccのGraham Gouldman。それなりのキャリアの持ち主のため、まぁそれなりに滞りなく作業は進行したものの、彼の作風はPaulと似たようなサウンド・アプローチだったため、Johnの時ほどの化学反応は起こらなかった。なので、出来上がったのはこれまで同様、小さくまとまった小粒な小品集、単にこれまでの拡大再生産に終わってしまった。
 80年代の時点ですでにロック・レジェンド扱いされていたPaul、表立って意見できる者などいるわけがない。どうしたって周囲に集まるのはイエスマンばかりになってしまう。

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 そこで登場したのがCostelloである。生粋の英国人らしく辛辣なその物言いは、Paulの方向性に確実に影響を与えた。ちょっと過去の自分の模倣をすれば、すかさず類似点を指摘してくるわ、渾身のメロディが書けたと思って披露すると、「ダサい」の一言で片付けられるわ、これまで久しくダメ出しされた経験を味わってなかったPaulにとって、大きな転機に繋がったんじゃないかと思われる。

 作品自体もそうだけど、CostelloがPaulに対して行なった最大の功績は、ライブでBeatlesナンバーをもっとやってもいいんじゃね?と助言したことに尽きる。
 Wings時代は過去の自分との決別という意味合いで、演奏するのはほんの数曲程度、ファン・サービス的に申し訳程度のものだった。その後は映画のサウンドトラックで大々的にセルフ・カバーしてみたものの、前述したように映画がコケてしまったこともあって、ちょっと自信喪失気味だったんじゃないかと思われる。
 過去に囚われたままだと前には進めない。かといって、それまでの自分がやってきたことが間違いだったのかといえば、そんな事はない。Paulが間違ってるというのなら、ほとんどすべてのアーティストが間違ってるはずだ。
 まぁそこまで熱く語ったわけじゃないけど、取り敢えず軽く背中を押してくれたおかげで、だいぶ楽になったんじゃないかと思う。

 Costelloとの共作も収録されているアルバム『Flower in the Dirt』のツアーでは、ほぼ半分近くがBeatlesナンバーという大盤振る舞い。しかもそれが懐古的な視点ではなく、きちんとアップ・トゥ・デイトなアレンジを施され、これまで失望しまくっていたファンはPaulの前線復帰を喜び、またBeatlesなんて古臭いと思ってた若い層にも好評だった。特にライブ活動から引退していた後期Beatlesナンバー、『Abbey Road』のB面メドレーなんてこれまでライブで聴くことができなかったのだから、Costello様々である。

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 で、今回のCostello、前作『Spike』同様、バラエティに富んだサウンドを展開しているのだけど、あちらが陽とすれば、こちらは陰、少し大人しめのサウンドである。この辺はある程度戦略的なものもあったのだろうけど、2枚で1組と考えたり方がわかりやすいんじゃないかと思う。
 自己紹介的に幅広い手の内を披露した『Spike』に対し、こちらの『Mighty Like a Rose』では、その幅をもう少し掘り下げた、アーティストライクな作りになっている。パンク/ニュー・ウェイヴ特有の初期衝動的な爆発力ではなく、作品のベクトルは熟成された完成度へと向かっている。そのサウンドはMOR的、いわゆる大人のロックだ。
 なので、これまでのロック・ユーザーだけがターゲットではなく、対象はもっと幅広い。レコードではなくCD、コンポーネント・ステレオではなくカー・ステレオで聴くことを想定したサウンドである。Phil CollinsやDire Straitsなど、かつてロックを聴いてたビジネスマンが、昔を思い出して仕事や家族サービスの合い間に聴くような、そんなシチュエーションが想像できるサウンドに、Costelloは挑戦している。

 このまま変に円熟味が増してきちゃって、Rod Stewartのようなロック演歌路線に行ってしまうのかなと、当時はちょっと気に揉んでいた俺。まぁ円熟しきったメンツの揃ったRude 5とのライブでも、Costelloだけは相変わらずツバを飛ばしてがなり立てていたし、しかもこの時期、当時は未発表の『Kojak Variety』セッションでは、デビュー間もない頃を彷彿とさせる、ブチ切れたロックンロールをかましていたのだから、自身の中でバランスを取ってたんじゃないかと思われる。

 Rodもまた、今じゃすっかりアメリカ右翼御用達のバラード・シンガーのイメージが定着してるけど、もともとはRon WoodやJeff Beckと渡り合っていた、根っこはゴリゴリのロックンローラーである。いい意味でCostelloもまた、彼のような二面性を両立させたスタイルを目指してたんじゃないかと思われる。
 それを象徴するエピソードとして、当初はこのアルバム、Attractionsとのセッションも予定に入っていた。ただ、Costelloとメンバー達、特にBruce Thomasとの感情面での折り合いがつかず、彼らが顔をそろえる事はなかった。Costelloにとって、その二面性を表現するために、未だ尖って粗削りな彼らのサウンドが必要だったのだ。
 でも、それにはもう少し時間がかかることになる。


Mighty Like A Rose
Mighty Like A Rose
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Rhino/Warner Bros. (2009-03-02)





1. The Other Side Of Summer
 Costello版Beach Boys的解釈のナンバーとよく形容されているポップ・ナンバー。シングルとしてUK43位はまぁこんなものとして、US専門チャートでは1位を獲得と、それなりの成果は出ている。



2. Hurry Down Doomsday (The Bugs Are Taking Over)
 なぜかNick Loweがベースで参加。思いっきりセカンド・ラインの泥臭いファンク・リズムのロックなのだけど、どの辺でNickが必要だったのか、よくわからない。ていうか、ファンクよりはカントリー系の人だし、Nickって。
 Jim Keltner(dr)とJames Burton(g)がそろった時点で泥臭くなるのは必須だけど、Marc Ribotによる』変態エフェクトがサウンド全体を引き締め、オーソドックスなスワンプ・ロックからの脱却を果たしている。

3. How To Be Dumb
 『Armed Forces』あたりに入ってても何ら違和感のなさそうな、ポップ要素の強いロック・サウンド。Larry Knechtelのピアノがまた、80年代臭さを彷彿とさせる。
 当初、クレジットを見る前まで、これがPaulとの共作なのかと思ってたのだけど、Costelloの単独作だった。多分、Paulとの共作後に作られたナンバーだと思われる。

4. All Grown Up
 こうしたバラードも、以前はもっと捻ったコード進行で組み立てられていたのだけど、そこをもっと素直な構成で、しかも4分という短さながら、壮大なスケールを感じさせるようになったのは、やはりPaulの影響が大きかったんじゃないかと思われる。
 ギターでこういった曲は作れない。ピアノにしっかり座って作られた曲。

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5. Invasion Hit Parade
 ちょっと演劇がかった、音楽劇の挿入歌的なナンバー。そのせいか、この曲のみCostelloのクレジットがおなじみDeclan Patrick MacManus、本名でのプレイとなっている。

6. Harpies Bizarre
 タイトルを見て思い出すのが、あのA&Mサウンドど直球のソフト・ロック・バンドHarpers Bizarreなのだけど、よく見るとスペルが違っていた。でも、サウンド的にはその辺にインスパイアされたようなソフト・ロック。ハープシコードの響きなんてそのまんま。

7. After The Fall
 ストレートなバラードにスパニッシュなギターを絡めることによって、秘めたる情熱を感じさせる、Costelloファンはピンポイントでやられてしまうキラー・チューン。あまりに他のナンバーのインパクトが強いので埋もれがちだけど、サウンド的にはずっとネガティヴさが漂うのもまた、Costelloの隠された本質である。

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8. Georgie And Her Rival
 こちらも『Armed Forces』っぽいよなぁと思ってしまうポップ・ロック。音を詰め込んだ譜割りに加えて、これでもかと詰め込んだ言葉遊びと語呂優先の歌詞。終盤のコーダがBeatlesっぽい。

9. So Like Candy
 これがPaulとの共作だったことに違和感を覚えたのは、多分俺だけじゃなかったはず。彼とのコラボなら、もっとポップなサウンドをイメージしていたのだけど、こういったバラードは予想外だった。でも何年も経ってから聴いてみると、フックの効いたメロディラインにその痕跡が窺える。
 一応、シングル発売もされているのだけど、目立った実績はなかったらしい。すごくわかりやすくていい曲なのに。



10. Interlude: Couldn't Call It Unexpected No.2

11. Playboy To A Man
 これもPaulとの共作。9.がPaulによるCostello的解釈とすれば、こちらはCostelloがヴァーチャルでBeatlesを演じてみましたよ的なプレイになっている。ただ、そこらのコピー・バンドのような芸のない模倣になるのではなく、きちんとプロのミュージシャン的解釈を入れており、Paulが敬愛するLittle Richardのエッセンスを投入して、独自のハイパー・ロックンロールに仕上げている。
 Paulがいなければできなかったけど、彼抜きでも充分カッコいいと思ってしまうナンバー。

12. Sweet Pear
 ニューオーリンズの老舗ブラス・バンドDirty Dozen Brass Bandとの共演。過度に泥臭くならず、かといってソフィスティケートされ過ぎて骨抜きになるでもなく、ちょうどいい匙加減。この辺がメジャー・サウンドのバランスの絶妙さが窺えるナンバー。マニアック過ぎず、かといってうるさ型も納得させてしまう、俺的にはこのアルバムのベスト・トラック。特に間奏の泣きのギター・ソロは圧巻。
 ほんとならこのスタイルでアルバム1枚残してほしかったけど、当時のCostelloの音楽性はこれだけでは収まらなかった。



13. Broken
 前妻Cait O'Riordanとの共作による、ミステリアスな雰囲気のナンバー。ほぼライブでは演奏されたことがないので、多分Costello自身も忘れちゃってるんじゃないかと思われる。そりゃ前の奥さんと作った曲だもの、あんまりいい感じはしないよな。

14. Couldn't Call It Unexpected No.4
 最後はカントリー・タッチのユルいナンバーでエンディング。『Imperial Bedroom』あたりのテイストに近い、やや後期Beatles的なホーンやチェンバレも入っており、どことなくホッコリしたムードで聴いてしまう。
 Costelloの場合、エンディングはあまり大げさにならず、どこかハッピー・エンド的に締めることが多い。性格だよね、これって。




Unfaithful Music & Soundtrack
Unfaithful Music & Soundtrack
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Elvis Costello
Ume (2015-10-23)
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