好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Mick_Jagger

「あれだ、その、なんかイケてるヤツ」。 - Mick Jagger 『She’s the Boss』

mick_jagger-just_another_night_s EMI最後のオリジナル・アルバムとなった『Undercover』をリリース後、Stonesの面々はツアーに出る案に首を縦に振らず、そのまま長期間の休養に入る。CBSへ移籍するための調整期間として、あまり表立った活動ができなかった、というのが表立った理由になっているけど、当時から囁かれていたMickとKeithとの不仲がピークに達していたため、とても顔を合わせられる状態じゃなかった、というのが真相である。
 シールを剥がしたらナニが見えるという、「週刊現代」の袋とじを思わせるエロいジャケットや、MTVでの放送禁止狙いで制作された、無闇に過激で扇動的なPVなど、何かと前評判の高かった『Undercover』だったけれど、セールス的にはイマイチだった。マスコミ向けの話題には事欠かなかったけれど、肝心の中身が竜頭蛇尾、予告編だけでお腹いっぱいになってしまう代物だった。
 大方Mick主導で組み立てられたコンセプトによって、同時代性を意識した最先端サウンドで埋め尽くされていた。ラップやヒップホップの薄~い上澄みのエッセンスや、腰の弱い軽い響きのエレドラなど、これまでのStonesサウンドとは別の要素が多く注入されていた。
 流行に目鼻の効くMickならではのプロデューシングが反映された快作と言いたいところだけど、正直、誰もStonesにそんな路線は求めていないのだった。しかもMick、80年代に入ってからは、その嗅覚もワンテンポ以上ズレてるし。

 セールスが伸びないのを、レコード会社のサポートやプロモーション体制が悪いから、とアーティストがなじるのはよくある話だけど、EMIからすれば、この場合はちょっと違うんじゃね?と言いたかったはずである。
 条件が折り合わなかったから契約延長に至らなかったわけで、そんな冷めた関係性のアーティストを、わざわざ経費をかけてプッシュするはずがない。どうせいなくなっちゃう連中に金を使うんだったら、まだ伸びしろのあるDuran Duranや、安定したドル箱のQueenに投資した方が、まだ前向きである。ビジネス的には、それが当たり前の話だ。
 一応、かつては多大な収益をもたらした功労者であるからして、それ相応のプロモーション体制は取るけど、まぁ正直、売れたらラッキーかな?程度の心持ちだったんじゃないかと思われる。下手な新機軸のオリジナルより、ヒット曲満載で確実な売上を見込めるベスト・アルバム『Rewind』に力を入れる方が、よっぽど効率も良い。

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 EMIからCBSの移籍交渉において、Stonesサイドで主導権を握っていたのはMickである。近年、長らく財務面を請け負っていたマネージャー、Rupert Loewensteinの回想録が出版されたけど、そういった有能なブレーンを身内に引き寄せ、株式会社Rolling Stones を世界有数の企業に育て上げたのは、ビジネスマンMickの慧眼によるところが大きい。
 対照的に、音楽面においてはしつこいくらい口うるさいけれど、ビジネス面ともなると丸っきし人まかせにしてしまうのが、Keith Richardsという漢である。Keith同様、 Charlie Wattsもビジネス面には疎い人だし、Ron Woodは当時まだ準メンバー扱い、発言権などもちろんない。あっても口出さないか、この人だったら。そしてBill Wyman。この頃はすでに脱退を視野に入れていたため、どうでもよくなっていたはず。どっちにしろ、蚊帳の外かこの人も。
 なので、Mick以外のメンバーはほぼ丸投げ、最後に契約書にサインするだけの存在である。彼ら的には、「そういった面倒ごとはぜーんぶMickがやってくれてるんだし、俺たち別に口出すことなんてなくね?」といった具合。

 この時、CBSとの契約において、Mick はStonesだけじゃなく、自身のソロ契約も併せて交渉を進めていた。メンバーにさえ知られぬよう、事は慎重に水面下で進められた。
 マスコミもそうだけど、知られて最も面倒な存在なのがKeithである。今はそれほどこだわりは薄くなったけど、バンド愛が強かった当時の彼にとって、Stones 以外の活動とは、それすなわち「悪」なのだ。
 純粋にバンド活動に専念していれば、よそで活動しようだなんて、思うはずがない。そう断言してしまうのが、Keithという漢である。
 バンド愛という情熱においては、MickもまたKeithに劣らないはずだけど、想いだけじゃバンド運営は続けられない。長らく同じメンツで活動していると、次第に飽きもくる。マンネリ打破のため、ちょっと違ったアングルでやってみたいな、と思ったって不思議ではない。

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 Keithが主導するレコーディング・スタイルは、昔からあんまり変化がない。
 まずは長期間、録音スタジオをブッキングして、「ベーシック録り」と称したジャム・セッションからスタートする。たまに友人知人のミュージシャンがゲストに入ったりするけど、基本はCharlieやRonnyを中心にこじんまりと、オーソドックスな3コード・プレイである。
 ただ、これが長い。ひたすら長い。
 純粋な楽器プレイだけじゃなく、曲間でミーティングを行なったり昔話に花を咲かせたり、または小休止がてら、各自ドラッグを補給したりなど、中断も多い。その間もテープは回しっぱなしなので、膨大な素材の山ができあがる。ブートとして流出するのは大抵この段階のトラックが多く、まぁどれを聴いても漫然とした演奏が続く。そこから素材として使えそうなトラックを選び出して、やっと本番。これが毎回、アルバム制作ごとに繰り返されるのだ。
 経営者であるMickからすれば、それら一連の作業はとても非効率で、看過できるものではない。なので、セッションごとに自分なりの新機軸や改革案を提示してきた。
 -いつまでもブルース・コードばっかってのも何だから、たまにディスコやレゲエのリズムでやってみよう。これがヒップホップのリズムだよ、ちょっとやってみて。生ドラムもいいけど、いま流行ってるのはシモンズやエレドラだよCharlie、ちょっと叩いてみてくんない?

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 そんな涙ぐましい努力にもかかわらず、結局できあがってくるのは、いつものStones 印サウンド。どれだけ最新のトレンドを吹き込んでみても、あのメンツでは、何をやってもいつもの泥臭いブルースになってしまう。
 ブルース・マンの真似ごとから始めたバンドだったはずなのに、いつに間にか真似ごとが熟練の域に達し、何をやってもStonesサウンドになってしまう。バンドのアイデンティティが盤石になったがゆえ、小回りが利かなくなってしまったことは、バンドにとって幸か不幸、どっちなのか。

 -じゃあStones はもう動かしようがないから、もっとナウい連中とやってみたら、俺が思うようなサウンド、できるんじゃね?
 そんなシンプルな動機で作られたのが、この初ソロ・アルバム『She’s the Boss』である。コンセプトはシンプルに、
 「あれだ、その、なんかイケてるヤツ」。
 実際、Mickがそんな風に言ったかどうかは不明だけど、いい意味での曖昧さが全編に漂っている。具体的なサウンドのビジョンなんて、もはやそんな些事にこだわるMick Jaggerではない。
 とにかく・新しければ・それでいいのだ。
 そんなフワッとしたコンセプトでオファーされたのがNike Rogers であり、Bill Laswell だった、という次第。イケてるサウンドをイチから作るより、その大元をヘッドハンティングした方が、話は早い。何しろ金ならあるのだ。
 とはいえ、単なる流行りモノだけで固めてしまったら、「10代20代のリスナーに迎合した」と思われがち、「ジジィ無理すんな」と罵倒されるのがオチである。ある程度のセールスを確保するため、シニア・ミドル層からの信用失墜は回避しなければならない。
 最大購買層であるStonesコア・ユーザー向けの対策としてMick、ここで大物豪華ゲストを投入している。Keithに匹敵するクラスのギタリストとして選ばれたのが、Jeff Beckだった。もともとMick Taylor の後釜として、Stonesに加入していたかもしれない人なので、これで話題性ゲット。音楽性の合う・合わないは、この際どうでもいい。
 同じ理由でBill人脈から引っ張ってきたのが、Herbie Hancock。正直、目立ったプレイは見られない。いいんだよ、そんなの。「Rockit」で売れたんだから、これも話題性は充分。

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 とは言えフタを開けてみると、UK6位US13位という、なんとも微妙なチャート・アクションで終わってしまった『She’s the Boss』。考えてみれば、大物バンドのヴォーカリストのソロ・アルバムって、あんまり売れた試しがない。多分、河村隆一くらいじゃない?バカ売れしたのって。
 ここでMickがやりたかったのは、とにかく「Stones じゃできないサウンド」、ていうかできるだけStonesから遠く離れた「あれだ、その、なんかイケてるヤツ」だった。KeithやRonnyじゃ追いつかぬバカテク・ミュージシャンをふんだんに使い、Duran Duran やFrankie goes to Hollywood らと並べても引けを取らない、「ナウいヤング」をターゲットにしたサウンドとしてまとめ上げた。
 ただ、有能な人材と潤沢な予算があるからといって、必ずしも傑作が生まれるわけではない。『She’s the Boss』がまさしくそれで、Stonesの名作アルバムなんかと比べちゃうと、正直インパクトは弱い。1985年という時代にフィットしたモダン・サウンドゆえ、後年になって再評価される類のサウンドではない。むしろ、多くの80年代アルバム同様、シンセまわりのエフェクトなんて恥ずかしいレベルだし。

 金と手間のかかったサウンドであることは明白だけど、時代の風化に耐えるモノではないことも、また事実。ただひとつ、まったく風化していないのが、Mickのヴォーカル。そのアクの強さだけは、時代を超越する唯一のサウンドである。
 結局のところ、どんなサウンドでも,Mick が歌うとぜーんぶStones になってしまう。そんな逆説的証明となったのが、この『She’s the Boss』だった、というオチ。
 ただ、この時点でのMickは、そんな呪縛に気づいていない。
 Keith主導で製作された『Dirty Work』を横目に鼻で笑いながら、再びヒットチャート狙いで制作されたセカンド・アルバム『Primitive Cool』は、前作のセールスを大きく下回ってしまう。
 誰も「ポップ・スター」Mick Jagger なんて求めていなかった、というマーケットの意思表示である。



She's the Boss
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1. Lonely at the Top
 初ソロ・アルバムのトップを飾るのが、Stonesのアウトテイクのリメイク。何だそれ。ブートでも有名な音源だったらしく、ちょうどYouTubeにあったので聴いてみたところ、ボトムの効いた早めの8ビートのロックンロール。これはこれで好きだけど、まぁ確かに完成前だな、全体的に。
 無愛想なオリジナルをソフィスティケイトさせるために招聘したのが、Jeff Beck。間奏の変態ソロは絶品。当時はもうピックを使ってなかったはずだけど、それでこんな音出せるんだから、さすがギター馬鹿一代。対して同時参加しているPete Townshend。まぁ比べちゃ可哀想だよな。どちらかといえばコンポーザー・タイプの人だし。



2. 1/2 a Loaf
 挨拶代わりのトップ・チューンが派手なのはまぁいいとして、コンサバティヴなバンド・アンサンブルでまとまっているのが、この曲。ドラムがSteve Ferroneっていうのが良かったんだろうな。Jeff同様、変態性の高いギターを弾くEddie Martinezのプレイも、ここでは小気味いいスパイスとして機能している。

3. Running Out of Luck
 逆回転っぽく変調したプロローグから始まる、ソリッドなロック・チューン。Stonesではありそうでなかったタイプの楽曲に仕上がっているのは、リズムがSly & Robbieだから。まるで打ち込みかと思ってしまうジャストなリズムは、深く重く、そしてなぜかヒンヤリと冷たい感触が残る。熱くなり過ぎず走らないビートは、Mickの放つ熱と絶妙なコントラストを描く。

4. Turn the Girl Loose
 当時流行っていたパワー・ステーション・サウンドを移植したのは、Nile Rogers。インパクトの強いリズム・アレンジは時代を感じさせる。ブルースをベースとしたハード・ブギは、彼の真骨頂。Stonesでは得られなかったメリハリのあるソリッドなサウンドは、ヴォーカルの猥雑さを引き立たせている。

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5. Hard Woman
 まぁアルバムだから、こういったバラードも構成上、必要にはなる。まるでChicagoかSteve Perryのようなドラマティックなオケをバックに、臆面もなく切々と歌い上げるMick。ロマンチストなんだろうね、案外。でも、シングルにすることはなかったんじゃないかと思う。

6. Just Another Night
 Mickのソロと聞いて、真っ先にコレを連想する人は多い。リード・シングルとしてリリースされ、US12位の大ヒット。コレが売れたから、アルバムも売れると踏んだんだろうなきっと。
 名ギタリストJeff Beckの多彩なプレイが光るトラックなのだけど、リズムやエフェクトがうるせぇ。ヒップホップのリズムとマリアッチのギター・プレイとのハイブリットはBill Laswellならではのアプローチだけど、やっぱシモンズはねぇわ。軽いもん。



7. Lucky in Love
 Carlos Alomarとの共作にもかかわらず、パーソネルにはクレジットされていない不思議。こちらもSly &Robbieによる盤石なリズムをベースに、Jeffがブルース・プレイを披露しているのだけど、シンセがやっぱり賞味期限切れ。他のパートががんばってる分だけ、目立つよな。まぁこれも味か。

8. Secrets
 演奏的には同じアプローチだけど、こっちはモダン・ブルースをベースにしたソリッドなロックに仕上げており、疾走感がカッコいい。これは全然、今でも通用するよな。そう思ってクレジットを見ると、サウンド・プロデュースはNile Rogers。ダンサブルなリズム・アレンジは職人芸。

9. She's the Boss
 フェミニズムの視点に立ったMick Jaggerとして、リリース当時はセンセーショナルな話題となったタイトル・トラック。なので、楽曲単体での評価がまともにされておらず、そこがちょっと可哀想なトラックである。Stonesでは成しえない、アクセントの効いたファンク・テイストの16ビートは、カチッとまとまったダンス仕様にビルドアップされている。






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200回記念第2弾 - 俺の好きな80年代の洋楽たち その2

Freddie Mercury 『The Great Pretender』

The_Great_Pretender_Single_1987 1987年のQueenは、結果的にオリメンでは最後となった『Magic』ツアーを終え、各自ソロ活動を行なっていた頃。アルバム未収録曲で、何のタイアップもないのにもかかわらず、UK最高4位に入ったのは、純粋なアーティスト・パワーの力、また英国人のFreddie愛の賜物。
 今もそうだけど、通常、シングルはアルバム制作中のリサーチとして、または完パケ後に前評判を煽るために景気づけにリリースされるものであり、単体企画でリリースされるケースはあまりない。Freddieはこの前後、初ソロ・アルバム『Mr. Bad Guy』とMontserrat Caballéとのコラボによるオペラ・アルバム『Barcelona』をリリースしているのだけど、この2つとの関わりはまったくない。ていうか、このシングルだけ、ディスコグラフィーの中ではポッと浮いている。
 もしかすると、この時期にソロ・アルバムを計画していて、実際に制作作業に入っていたのかもしれないけど、結局、この時期のアイテムがリリースされることはなかった。ほぼ定期的にアーカイブの整理作業が行なわれているにもかかわらず、発掘される気配もなさそうなので、ほんとにタマがないのだろう。
 シングル以外、ほんとに出来が悪かったのか、それとも単なる好奇心か。-多分、まとまったセッションを行なえるほどの気力・体力が失われていたのだろう。もはや時間は残されていなかった。

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 そんなことを杞憂だと思わせてしまう、まったく体力的な不安など感じさせないのが、この曲、ていうかPV。
 これを見ると、我々日本人がFreddieの何を知っていたのか、何たるかをきちんと理解していなかったことを思い知らされる。伝説として昇華し、いつの間にか聖人化されている空気があるけど、そんなもんじゃない。彼の本質はただの「過剰な自分好き」だ。
 とにかくあふれ返るほどの自意識、そしてむせ返るほどのナルシシズム、それでいて自分をきちんと対象化、つい笑っちゃえるように第三者化できるクレバーな視点。歌うのはFreddie自身だけど、コーラスも自分、寸劇のモブ出演も自分、とにかく自分で埋め尽くされている。
 「異常」の進化形を「過剰」であるとすると、この曲が最も最適なケーススタディ。ここまで過剰さが極まると、その濃密さは却って清々しくさえあり、関西のオバチャンの如く強烈な自意識とサービス精神は、聴く者・見る者の心を鷲掴みにする。
 -Freddieと同じ時代を生きてよかった、と我々世代は誇りに思い、若い世代は、リアルタイムで彼に出会えなかったことを悔やむだろう。オリジナルはPlattersの1955年のスマッシュ・ヒットだけど、正直、ちゃんと聴いたのは今回調べてみたのが初めて。それくらい、オリジナルを完全に凌駕した稀有なケース。


 
 -そうさ、俺は大嘘つきさ。
 もっと、騙して欲しかった。
 もっと、いろんな胡散臭さを見せて欲しかった。


神々の遣い~フレディ・マーキュリー・シングルズ
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Mick Jagger 「Lonely at the Top」

img_0 Mick Taylorが抜けた後のStonesで行なわれた後任探しのオーディションが、かの有名なGreat Guitarist Hunt。次回作『Black and Blue』のレコーディングを兼ねて長期に行なわれ、有名無名を問わずかなりのミュージシャンがセッションに参加してのだけど、大よそはRon Woodに内定しており、当時、彼が加入していたFacesと契約問題がクリアになるまで行なわれた出来レースだった、というのが最近の定説。
 有名どころでは、Rory Gallagher や Peter Frampton、Steve Marriott が参加したらしいけど、こういうのって、当時からマーケティングに長けていたMickお得意のハッタリくさいので、どうもいまいち信用しづらい。いろいろ手段を講じ過ぎてグダグダになってしまうのは、それだけStonesという企業体が個人の手には負えなくなっていた、という証でもある。
 で、公式音源は残されていないけど、そこに参戦していたのがJeff Beck。彼独特のプレイ・スタイルからして、どうしたってKeithとは相性悪そうだし、これこそいかにも眉唾っぽい感じもあるけど、Jeff自身、それがオーディションだったかどうかは定かではないけど、レコーディング・セッションには参加した、と証言している。
 当時のStonesのレコーディングと言えば、とにかく延々とテープを回しっぱなしにして、KeithとCharlieを主軸としたブルース・セッションが有名だけど、これがまたスケール主体のエンドレス、レイドバックより緩慢とした冗長なプレイが中心だった。当時、『Blow by Blow』でギター・インストに新たな可能性を模索していたJeffが我慢できるはずもなく、オーディションは物別れに終わった。どうせRonに決まってたんだろうけどね。

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 ただ、そんな彼のプレイ、ていうかKeithじゃなくて名前がそこそこ知られてるんだったら、誰でもよかったんじゃないか、と思ってしまうキャスティングをしたのが、初ソロ・アルバムを制作中だったMick Jagger。新規にソロ契約を結んで初のアルバムということで気合いも並々ならぬものがあり、今では考えられないほどの豪華メンツが参加している。このトラックでもそのJeffのほか、Pete TownshendやHerbie Hancockがプレイしている。ただ、その2人のプレイは正直、どこでどうやってるのかわからないくらいだけど。
 当時、Keithとは最悪の関係だったMick、Jeff 同様、ダラダラ続いて終わりの見えないレコーディング・セッションに嫌気がさし、もっと80年代らしくシステマティックに、ていうか自分主導で制作進行したかったことを、アルバム全体で強く打ち出している。プロダクションはしっかり整備され、ある意味Stonesの持ち味だったダルでルーズな雰囲気は一掃されている。なので、どのトラックもスッキリした音質・サウンドでまとめられている。
 「聴きやすいStones」というのもどこか相反する気がするけど、これがMickにとっての理想形であったということなのだろう。「Keith主導じゃ作れなかったよな?」とでも言いたげなMickの不適な笑みが思い浮かぶ。
 で、この時期のJeffのプレイはといえば、ピック弾きをやめてフィンガー・ピッキングに移行しており、昔からその傾向はあったけど、楽譜には書き起こせない変態プレイにさらに磨きがかかっていた頃である。普通のブルース・スケールのオブリガードなのに、弦のアタック音がまろやか過ぎて、どこか変な響き。ハーモニクスとも微妙に違う、独特のサウンドはJeffならではのものだけど、人のセッションでやることじゃないだろ。


 
 「もしもKeithがいなかったら」という前提で構築された80年代コンテンポラリーの中で、どこか浮いてるJeffの音。これがMickの思惑通りの仕上がりだったのかどうかは不明だけど、その後、Mickのこういったアプローチは聴かれないし、初来日公演にも同行しなかったので、結果的には「やっちまった」感が強い。
 ただ、楽曲自体はKeithとの共作のため、レベルは高い。ていうか、なんでStonesでリリースしなかったの?と思ってしまうくらい、テンションの高いナンバー。それだけ当時の彼らのソングライティングが冴え渡っていた証でもある。


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Julian Cope 『World Shut Your Mouth』

Julian_Cope_-_World_Shut_Your_Mouth 80年代初頭のポスト・ロック・ムーヴメントでバンド・デビュー、その後、ソロになってからはUKネオ・サイケの流れを汲んだアルバムを発表した。80年代末くらいまではライブも積極的に行なわれ、インフォメーションも定期的に更新されていたのだけど、90年代に入ってからはインディーでのリリースが中心となり、情報も途絶えてしまった。
 Wikiのディスコグラフィーを見ると、21世紀に入ってからもコンスタントに音源リリースは続いており、ちゃんと音楽活動は行なわれているようである。近年の写真を見ると、「何かすごい遠くへ行っちゃったなぁ」感が強いのだけど、創作意欲が旺盛であることに変わりはないようである。ただ、頑固そうなオヤジになっちゃったな。もう少し色気があれば、Iggy Popみたいになれたかもしれないのに、
 日本では久しく名前が挙がることもなかったのだけど、近年になって彼が注目を浴びたのが、本業の音楽活動ではなく、著述家・研究家として。
 なぜか日本のロックの創生期を詳細に調べつくし、主観も含めて克明に書き記した大著『ジャップ・ロック・サンプラー』が、主な舞台であるはずの日本において、あまり大きく話題にならなかったのは寂しいことである。こういった検証作業というのは本来、日本人のお家芸であるはずなのだけど、いまの日本の音楽業界では、そこへリソースを回せるだけの余力はないのだろう。

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 様々な音楽的な変遷はあったJulianだけど、そんな彼が最もオーソドックスな、そしてコンテンポラリーなロックに近づいたのが、この時期。 
 デビュー・アルバムのタイトルと混同しがちだけど、収録されているのは3枚目のアルバム『Saint Julian』。あぁややこしや。しっかりビルドアップされ、ストレートなロックンロールでありながら、丁寧にミックスされたサウンドは分離が良くて、しかもまとまりもきちんとある。時代に即したロックンロールは、大衆の支持を得やすい。実際、UK19位はまぁまぁとして、USでも84位にチャートインしている。カレッジ・チャートでも支持されるライトなオルタナが、Julianの方向性と一致していた幸福な時期である。
 音源だけでも充分心掴まれるけど、ホントにお勧めなのは、当時、話題となったPV、特徴的なマイク・スタンドを駆使したパフォーマンスは、単純にロックのカッコよさを体現したものだった。
 混じりっけのないピュアで、それでいて破壊的な美の追求を体現した、ただの潔いロックンロール-。


 
 これを視ると、そんなことを想う46歳。


Saint Julian: Deluxe Edition
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Julian Cope
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Marty Balin「Hearts」
 
41CRcfyVkSL 1981年リリース、Jefferson Airplane の創設メンバー & ヴォーカリストとして活躍、その後もJefferson Starshipに出たり入ったりを繰り返し、今はStarshipなのかAirplaneなのか、何だかよくわからない活動を続けているMarty。FunkadelicとPerliament同様、まぁどっちも似たようなものなのだけど、どちらにしろ、地道な活動を続けているのはうれしいこと。
 そんな彼が一時、ソロ・アーティストとして、ほぼ唯一放ったヒットというのが、これ。US最高8位、日本でもステレオのCMソングとして起用され、小学生の俺が好きになった洋楽のひとつである。
 この時期にヒットしていたChristopher Cross同様、当時はAORサウンドの全盛期、単純にきれいなメロディのきれいな曲が、普通にヒットしていた時代である。Scatman Johnや‎tATuのような「ネタ」で売れるのではなく、いい曲が素直にラジオから流れていた。当時のヒット曲は洋楽・邦楽問わず、メロディ・ラインがしっかりしたものがきちんと評価されて、セールスに直結していた。大々的なプロモーション展開やマーケティング戦略なんて大げさなものではなく、もっとミニマムな、有線や口コミ、ラジオの評判で徐々に広がってゆく、健全な時代だったのだろう。自分で言うのもなんだけど、なんかイヤな書きかただなぁ、懐古厨みたいで。


 
 当時は「売れ線を意識し過ぎている」として、あまり検証もされて来なかったAORも、21世紀に入ってからは専門ディスク・ガイドや「Free Soul」の影響などで再注目されるようになっている。世界中で80年代懐古ブームというのは連綿と続いているけれど、特に日本での盛り上がりは安定しているらしく、かなりマイナーなクラスのアーティストのリイシューも進んでいる。こういったチマチマしたのって、やっぱり日本ならではの企画。残念ながら、前述したJulian Copeのように、体系的に太い幹のような総論をまとめることには向かないのだけど。
 で、そのAORというのも玉石混合であり、単にブームに乗っかっただけの泡沫アーティストでは、再評価も進んでいない。例えばAir Supplyなんてのは、確かに流麗なサウンドだったけど、ほんとそれだけ、何も残らない。いや、俺の主観だけど。同時期に流行っていたはずだし、多分、ヒット曲も連発していたはずなのだけど、どうしてか耳に残っていない。
 Martyもそうだけど、同時代・同カテゴリーのMichael Sembello だって、もとはStevie Wonderを始めとして、大物アーティストのバッキングを務めていた人だし、Boz Scaggs だって、ソロ・デビューは60年代半ば、結構な下積みを経験している。ひらめきだけではどうにもならない、泥臭い経験値というものが必要なのだ。
 特にAOR=Adult-Oriented Rockという言葉の由来にもあるように、歳月を経て地道に積み重ねた大人の味がにじみ出て来ないと、時代のあだ花としてだけの存在になってしまう。

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 当時、桑田佳祐が半分余興で、「嘉門雄三」名義でライブを行なった。ほぼ洋楽のカバー曲で構成されたセットはレコード化されたけど、いまだCDでも復刻されておらず、ライト・リスナーにとっては幻の音源となっている。俺もこのレコード自体は聴いたことがないけど、ラジオでしょっちゅうオンエアされていたため、エアチェックして何度も聴いていた。
 その中で選曲されていたのが、この曲だった。まだ洋楽コンプレックスから脱却しきれていなかった桑田のヴォーカルは、決してテクニック的に秀でたモノではなかったけど、若さゆえの勢いとエモーションに満ちていた。
 サザンがただのヒット曲バンドではない、ということが中学生なりに理解できた、そんなきっかけの曲でもある。


Balin
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Roger 「I Want to Be Your Man」

Roger_-_I_Want_to_Be_Your_Man 1987年にリリースされた、Roger最大のヒット曲にして、いまだラブ・ソングの定番として生き残っている、永遠のマスターピース。
 あの変態ベーシストBootsy Collinsプロデュースでデビューしたファンク・グループZappのリーダーとして、確実にファンクの流れを変えていった。70年代までのファンクが、主にJames Brownのエピゴーネン的なバリエーションだったのに対し、ヴォコーダーを効果的に使い、ディスコ・シーンにも果敢に肉薄した彼ら独自のサウンドは、唯一無二のポジションを創り上げた。あまりにオンリーワン過ぎて、その後のフォロワーがイマイチ育たなかったのは残念だけど。
 Cool & the Gangより重いけど、Ohio Playersより洗練されているZappのサウンドは、日本人にはちょっとわかりづらい面があったのだと思う。俺もZappのアルバムは一応持ってるけど、正直、そんな頻繁に聴くほどでもないし、どれがどの曲なのか、主要曲以外ははっきりわからない。
 Zappが本国アメリカでどんなポジションだったのか。80年代初頭まではトップ40に入るくらいには売れていたみたいだけど、4枚目の『New Zapp IV U』では100位にも入らないくらいにまで凋落している。このRogerの大ヒットによって、一時は持ち直したように思えたけど、Zappとして5枚目のアルバムでは、再びチャート圏外。
 兄弟で結成されたバンドのため、良い時は鉄の結束だったけど、一旦歯車が狂ってしまうと、その血縁の近さが仇となってしまう。公私を含めて様々な問題がこじれ、終いにはリリース契約を失ってしまう。
 リーダーである以前に家族として、バンドの修復に尽力していたRogerだったけど、実兄に射殺されてしまう結末となってしまったことは、アメリカ音楽界にとっては大きな損失だった。 

roger-troutman
 

 クリスマス間近だったと思う。
 当時、札幌に住んでいた俺は会社の帰り、忘年会シーズンで人通りの多い、すすきの近くの繁華街を歩いていた。
 ネオン街の夜空では星は見えなかったけど、大粒の雪がチラついていた。
 あるビルの前で、この曲がガンガン大音量で鳴っていた。
 その当時で、リリースされてから2、3年は経っていたと思う。
 あ、あの曲だ。
 懐かしさに駆られて足を止め、頭上のスピーカーの方を見上げた。
 ビルの壁に、サンタがいた。
 10階建てくらいのビルの壁に、5メートル程度のサンタのオブジェが、壁を煙突に見立ててよじ登っているところだった。
 こうして文章で書こうとすると伝わりづらいけど、そのシチュエーションは俺にとって完璧なものだった。捻くれてた20代だったけど、感動すらしていたかもしれない。
 足を止めて泣いてしまった、と書けばドラマティックだけど、さすがにそれはなく、その場は普通に通り過ぎた。でも、そのシーンは長いこと、俺の心のどこかにしっかりと残った。
 その冬は、何度もそのビルの前を通ったけど、それっきりRogerの歌が流れる瞬間に出会うことはなかった。他のクリスマス・ソングが流れていても、Rogerの時のようなマジックは訪れなかった。



 この曲を聴くと、そんなことを思い出す。
 俺の中では、この曲はあのシーンとセットなのだ。


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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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