folder ほぼ事前アナウンスも無く突如リリースされた、Joe Jacksonの2015年ニュー・アルバム。この11月時点の情報では、今のところ日本リリースの予定はなし。前作『Duke』は一応、直輸入仕様でリリースされてはいるのだけど、正直俺も日本盤の現物は見たことないし、多分今回もそのうちどこかからリリースされるかもしれないけど、同じような扱いなんじゃないかと思う。
 だいたい日本でのJoeの扱いといえば、『Night & Day』周辺の作品くらいしかインフォメーションされておらず、あとはせいぜいデビュー・アルバム『Look Sharp!』がニュー・ウェイヴ期の代表作としてピックアップされるくらい。まぁ世界レベルにおいても似たような認知しかされていないので、ここ30年くらいは地道な活動に甘んじている状況である。近年は来日もしてくれなくなったから、取り上げる目立った話題もないという悪循環。

 そんなわけで、日本にはあまり情報は入ってこないけど、それでも精力的に活動は続けている。アルバム・リリースの間隔が広くなっているのは、ほかのベテラン・ミュージシャン同様、致し方ないことだけど、ライブ活動はコンスタントに行なっている。アルバム・プロモーション目的のツアーだけでなく、恒常的なライブ活動をメインに据えたミュージシャンが多くなっているのは、世界的な傾向である。

 パンク~ニュー・ウェイヴ期は4ピース編成のストレートなロック・バンド・フォーマット、『Night & Day』以降のアーバンAOR路線では、ホーン・セクションを導入した大編成ビッグ・バンド、21世紀に入ってからのJoe Jackson Bandリユニオンを経て、近年はさらにシンプルな3ピース編成、自身のピアノ&ヴォーカルにドラム、ベースを率いて、主にEU圏内を中心に公演活動を行なっている。身軽なフォーマットゆえ、基本、小さな会場を小まめに回るスタイルになっているのは良しとしても、もっとライブ感あふれるダイナミズムを見せてもらいたいのも正直なところ。

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 そういった想いもあって、以前『Big World』のレビューで書いたのが、現在の基本フォーマットである3ピース・スタイルだけじゃなく、単発でもいいから別のコラボレーションを試してみるのもアリなんじゃないかという内容。
 今のJoeのセールスから考えると、パーマネントな形での大所帯バンド編成を維持してゆくことは困難なので、逆にJoeが単身どこかの国へ乗り込んで、イキのいい地元のジャズ・ファンク・バンドとガッツリコラボしたら、面白いんじゃないかと。たとえば日本にも、いろいろ個性的かつテクニカルなバンドが揃っているので、ある程度まとまった期間滞在してもらって、じっくりサウンドを練り上げてみれば、と書いたのだけど。

 で、今回のアルバム。舞台は日本じゃなかったけど、結構俺が書いたことに近いコンセプトになっている。ニューヨーク、アムステルダム、ベルリン、ニューオーリンズ各地でのセッションから4曲ずつセレクトし、1枚のアルバムにまとめている。レコードで言えば、2枚組ABCD面の構成となっており、一応各面ごとにサウンド・スタイルも変えている。なかなかめんどくさい作業だったと思われるけど、我々が気にすることではない。
 こういうのが好きな人なのである。

 深刻な鬱状態を無為に過ごした90年代を経て、今世紀に入ってからのJoeはフル・スロットルの活動ぶりである。初期Joe Jackson Bandを再結成して、全盛期とまったく変わらぬハイ・テンションのロックンロール・アルバム『Vol.4』を発表後、それに伴う世界ツアーのライブ・アルバム『Afterlife』も併せてリリース、その後もシンガー・ソングライター的なソロアルバム『Rain』を経て、トリオ編成のヨーロッパ・ツアーを行ない、こちらもライブ・アルバム『Live Music Europe 2010』をリリース、で、前述のDuke Ellingtonトリビュート・アルバム。
 近年は『Rain』から繋がる、ピアノ中心のサウンドになっていたのだけど、同じアプローチであるはずの『Night & Day』とは違ってホーン・セクションもなくなっちゃって、ちょっと寂しいサウンドになってしまい、このまま枯れて行っちゃうのかなぁと思ってたのが正直なところ。

Joe-Jackson

 で、ここに来て突然覚醒したのか、あらゆるジャンルを縦横無尽にサヴァイヴするJoeの復活である。俺が求めてたジャズ・ファンクも入ってるし、従来のストレートなロック・ナンバー、またフィドルを効果的に使用した実験色強いポップナンバーも収録されている。
 思えば80年代のJoeは、「いかに既存のロックから遠ざかるか」をテーマに、ジャズやラテン、カリプソなどあらゆるジャンルの音楽を飲み込み咀嚼して、従来のロック/ポップ・ユーザーへわかりやすい形にして届けていた。そのジャンルレスな活動スタイルは、唯一無二オンリーワンのもので、音楽への純粋たる求道者的な佇まいは、多くの音楽通だけでなく、幅広いすべての洋楽リスナーにもアピールするものだった。
 それが近年では、その求道者たる方向性が純化の方へ向かってゆき、雑多な音楽性が薄れていた。キャリアを積んだアーティストが向かう方向としては必然なのだろうけど、新しい音楽に接した時の驚きも薄れてゆくのは、ちょっと寂しい気もしていた。
 そんな流れから急展開、雑食性のJoe Jacksonの再始動である。
 

Fast Forward
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Joe Jackson
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(New York Sessions)
1. Fast Forward
 クレジットにはないけど、ピアノはほぼJoe自身だと思われる。時代を超えたスタンダードとなるべき、悠然と堂々としたメロディ・ライン。目先の流行りに捉われない、Joeオリジナルのサウンド。自信に満ちあふれたオープニング・ナンバー。



2. If It Wasn't For You
 ちょっとポップめながら、疾走感あふれるビート・ロックになっているのは、盟友Graham Mabyがリズムを引っ張っているから。もう「あ、うん」の呼吸なんだろうね、この2人って。ドラムのBrian Bladeはもっぱらジャズのフィールドで活躍してた人らしいのだけど、今どきのジャズ・ミュージシャンだけあって、ロック系のビートも難なくこなせる人。サプライズはないけど、安心して聴くことができるリズム・セクション。

3. See No Evil
 Tom Verlaineといえば、あの70年代NYパンク・シーンのTelevisionのあの人かと思ってたら、ほんとそうだった。Joe恒例のカバー・シリーズだけど、今回は結構意外なところを突いてきた。
 なので、これまでTom Verlaineは聴いたことがなかったのだけど、Youtubeで初めて聴いてみたところ…、まんまじゃねぇか、これ。Bill Frisellが手慣れた感じでプレイしている情景が思い浮かぶ。

4. Kings Of The City
 珍しく、リズム・ループ使用だけど、アーバンチックなバラードに合っている。80年代を彷彿とさせる、メリハリの効いたナンバー。『Body & Soul』期っぽくて、往年のJoeが好きな人にはズッパマリなはず。

 Bill Frisell - guitar 
 Brian Blade - drums
 Graham Maby - bass 
 Regina Carter - violin

(Amsterdam Sessions)
5. A Little Smile
 ここからはオランダ録音。19世紀から活動しているロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団とのセッションを収録。クラシックはほとんど知らないので、調べてみると200年超の歴史を誇る由緒正しいオーケストラ。ポピュラー・ミュージックとの共演はほとんどなかったらしいけど、アカデミックな楽理を学んでいたJoeとの相性は、まぁ悪くはない。
 Joeも完全にアウェーながら、ピアノ一本でオーケストラのサウンドに挑んでいる。



6. Far Away
 ここでゲスト・ヴォーカルを取るMitchell Sinkは、若干14歳の少年だけど、ブロードウェイにも出演歴のある、れっきとしたミュージカル・スター。壮大なドラマの幕間のような曲なので、単体では聴く気はないけど、アルバム単位ではメリハリとして、大きく作用している。
 ストリングス・アレンジもこれ見よがしではなく、控えめかつドラマティック。これまでの経験上、Joeにとってはお手のもの。

7. So You Say
 その6.をInterludeにしたかのような、こちらもドラマティックな小品。どことなく日本人好みなメロディは、ムード歌謡っぽく聴こえる瞬間もあり。布施明あたりが歌ってくれたらハマりそうだけど、さすがにちょっと古いか。徳永かな、今だと。

8. Poor Thing
 このAmsterdam Sessionをコーディネートしたのが、ダブルStefanなのだけど、この2人、もともとは地元オランダのバンドZuco 103の中心メンバー。ブレイクビーツとブラジル音楽のハイブリッド・サウンドをメインとしているのだけど、嫌みにならない程度のラテン・テイストはなかなかクール。ボサノバっぽさがシャレオツ。
 ここではそのラテンっぽさはほとんどなく、完全にJoeのカラーになっている。もともと脱ロック的なサウンドを志向していた時期もあるJoe、いつもと違うリズム・パターンになっても、即座に対応できちゃうところは、さすがベテラン。



 Stefan Kruger - drums 
 Stefan Schmid - keyboards
 members of Royal Concertgebouw Orchestra 
 Mitchell Sink - vocals

(Berlin Sessions)
9. Junkie Diva
 ドイツのセッションなのに、3人中2人はアメリカ人。ベースのGregはアバンギャルド方面で長らくやってた人で、主な共演者がJohn Zone、Tom Waits、Ornette Colemanと、錚々たるディープなメンツ。Earlは基本ジャズの人だけど、Jeff BeckやThe Theともレコーディングしたりなど、こちらも守備範囲の広い人。Dirkは地元ドイツで様々なコンセプチュアルなユニットに顔を出してるギタリスト。なので、ちょっとプログレ臭がある。
 そんなメンツを集めてできたのが、なぜかこんなストレートなAOR的ロック。いやいいんだけど、いい意味でちょっと拍子抜け。メンツで音を聴くのではない、あくまで出来上がった音で判断しないとね。

10. If I Could See Your Face
 と思ってたら次。ノイズ系ギターが延々鳴りまくっている。Joeのオルガンもクラシックっぽい弾き方でプログレ臭バリバリ。なかなかドラマティックな構成となっており、こういったのがやりたかったんじゃないかな、ベルリンでは。
近年、こういった曲には女性ヴォーカルをサブで入れてたりしてたのだけど、ここではJoeが独りで頑張っている。そうだよ親父、できるだけ独りで歌ってくれよ。

11. The Blue Time
 Joeには珍しく、変則アフロ・ビートを使用。大きくフィーチャーされてないので目立たないけど、コード多用のJoeのピアノにはフィットしている。タイトル通り、夜の深い闇を思わせる、佳曲バラード。

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12. Good Bye Jonny
 1930年代ベルリンで流行したキャバレー・ソングとのことだけど、なんで知ってんだ、こんな曲?ご当地ソング的な扱いなんじゃないかと思われる。まぁテクニック云々をどうこうって曲じゃないしね。

 Greg Cohen - bass
 Dirk Berger - guitar 
 Earl Harvin - drums 

(New Orleans Sessions)
13. Neon Rain
 ニュー・オーリンズとJoeとのコラボレーションは全然予想がつかず、これがアルバム一番のクライマックス。もともとヨーロッパ的な視点から第三世界の音楽を加工輸入していた人なのだけど、これまでブルース界隈のアプローチはなかったため、ちょっと意外だった。
 大勢の野太い男性コーラスが入ってること自体、これまでの流れではなかったこと。このキャリアにして、彼の中で何かが変わろうとしているのだろうか。

14. Satellite
 ニュー・オーリンズ・セッションの主軸は、地元のジャズ・ファンク・バンドGalacticが全面的にバッキングを担当。ブルースやヒップホップ・テイストも強い、ほんと何でもありのバンドで、多分このアルバムの中のメンツでは、もっとも知名度が高いはず。まぁ日本じゃ無名だけどね。Donald Harrisonという人は、これはもうメインストリーム・ジャズの第一線で活動しており、リーダー・アルバムも多数リリースしている人。なので、これはかなり贅沢なセッションとなっている。
 これまでのJoeと同じようなギター・カッティングなのに、同じように聴こえないのは、やはり土着性が強いリズムのおかげ。同じようなプレイのはずなのに、色合いが違って見えるのがバンド・マジック。

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15. Keep On Dreaming
 これもいつものJoeと同じコード進行のはずなのに、セカンド・ラインのリズムによって、全然違うテイストに感じてしまう。泥臭いJoeというのもなかなか悪くない。バンド自身も、逆にここまでロックに接近したサウンドはあまりないので、新鮮だったんじゃないかと思う。リズムもそうだけど、Joe自身のピアノ・プレイにタメがあるのも、なかなかの趣き。

16. Ode To Joy
 ラストはあまりしんみりとしないのが、Joeのアルバムの定石。新しいリズム、質感に強く惹かれたのか、ここではJoe、自分の歌は少し引っ込め、Galacticにリードを委ね、楽しそうにキーボードをプレイしている。



 Stanton Moore - drums
 Robert Mercurio - bass
 Jeff Rains - guitar 
 Donald Harrison - saxophone



 各セッションで4曲のみレコーディングということはないはずなので、今後何らかの形でアウトテイクがリリースされると思うのだけど、各パートずつアルバム1枚作れるくらいのマテリアルが残ってたなら、面白い展開になるんじゃないかと、何かと想像は尽きない。
 楽しみだな、こりゃ。



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