好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

Eurythmics

美しい多重エゴの結晶 - Eurythmics 『Savage』

folder 1987年にリリースされた6枚目のオリジナル・アルバム。一般的な人気に火がついた『Be Yourself Tonight』、さらにアリーナ/スタジアム・バンドへの飛躍としてコンテンポラリー・サウンドで固めた『Revenge』と続き、世界的ユニットとしてのポジションを盤石にするのかと思ったら、一転してダークで暴力的な側面を強く打ち出した問題作になっている。
 ライブのダイナミズムを巧みに移植したバンド・アンサンブルや、多彩な豪華ゲストをバッサリ切り捨て、強力なネガティヴの磁場を放つサウンドが主旋律となっている。慈愛的かつポップな躍動感を内包した「There Must be an Angel」を期待した一般ユーザーは、その変貌振りに当惑するしかなかった。なので、UKでのセールスは半減、前作までトップ10には入っていたUSチャートにおいても、最高41位と低迷した。

Eurythmics_INAM

 長期に渡る2回の世界ツアーを経て、ちょっと疲れた2人は一旦距離を置き、休養や個人活動へと軸足を移す。いくらビジネスライクな関係とはいえ、元夫婦が始終顔を突き合わせていたわけだから、何かと割り切れないストレスも溜まったのだろう。
 もともとサウンド・プロダクションには不干渉だったAnnie Lenoxは、早速バカンスへ繰り出す。同じくDave Stewartも暫しの休息に入るのだけど、この時期の彼はワーカホリックというか野心が勝っていたというか、バカンスもそこそこに切り上げて、次回作の構想を練り始める。最新型のシンクラヴィアを携え、プログラマー Olle Romoとたった2人、フランスはノルマンディーの古城に設置されたスタジオに篭るのだった。
 ほとんどのベーシック・トラックは、この2人だけで作られた。DaveによるギターとドラマーでもあるOlleの生音以外は、ほぼシンクラヴィアで構成されている。バンド・スタイルでレコーディングされた『Revenge』とは、まったく逆のベクトルを向いている。躍動感やダイナミズムもすべて緻密にシミュレートされたものであり、収録された音のひとつひとつにDaveの思慮が込められている。バンド演奏による偶然性を排除して、自分の頭の中にある音だけを、ひとつひとつ丁寧に配置してゆく作業。やっぱ機材オタクだよな、この人って。



 サウンドの方向性が固まった時点で、レコーディング作業はパリへ移り、ここでAnnieが招集される。多少の打ち合わせはあったのだろうけど、長い年月を共に過ごしたパートナーDaveとの間に、そんなに言葉はいらない。ていうか、もうこの時期になると、ユニットとしての寿命は見えていたと思われる。「話し合わなくても」と「話すことがない」とでは、明らかに違うのだ。
 デモテープやDaveとの言葉少ない対話から、これまでとは明らかに異質、『Revenge』以前とは正反対のサウンドになることは、ある程度予想していたのだろう。ヒットチャート仕様だった『Revenge』とは対極の世界観を、Annieも幻視することになる。
 華やかなエンタテインメントの「光」で隠されていたDaveの内面の「澱」は、ヴァーチャルな疑似バンド・サウンドとして、吐瀉物の如く排出される。同様に抑圧されていたAnnieの「闇」もまた、ここに来て急上昇カーブで覚醒、一気呵成に吐き出される。強迫観念と被害妄想にまみれた言葉、それらは硬い礫のごとく、無造作に強く吐き捨てられる。
 「澱」と「闇」が混在して産み出された「憎悪」。肥大化した悪意は2人の力だけでは表現しきれず、さらなる具現化を希求する。そのために旧知の映像ディレクターSophie Mullerがプロジェクトに呼び出され、『Savage』収録曲すべてのMVを製作するに至る。
 そこまで徹底的に深淵を掘り下げることによって、『Savage』的世界感は円環を描き、完成に至った。



 前述したように、「There Must be an Angel」で確立された、「ポップで力強く、慈愛を放つ」ユニットEurythmics のイメージは、『Savage』によって粉々に打ち砕かれた。ここで彼らが放つサウンドの闇の深さは、一聴すると初期のゴシック調テクノ・ポップを彷彿とさせる。
 中途半端なダンス・ポップ・バンドTourist の解散の経緯を踏まえ、初期Eurythmicsのサウンドは、従来とはまったく正反対、打ち込み主体の無機的なシンセ・ビートは、クレバーなロジックの積み重ねで構成されていた。そのサウンド・コンセプトに呼応して、Man-Machineと化したAnnieは感情を押し殺し、ノン・セクシャルなフェイスを貫いた。ヒットを渇望して、マスへの接近を強調したTourist時代のアンチとして、Eurythmicsは大衆へ媚びない純音楽的ユニットとして誕生したはずだった。だったのだけれど。
 皮肉なことに、単調なシンセのブロックコードを基調とした「Sweet Dreams」がダンス・シーンで好評を期す。ポスト・パンク以降とMTVの隆盛とが複合要因となって、ある種キワモノ的扱いだったAnnieの風貌がまず注目され、次にサウンドが注目された。何がどう転ぶかなんて、誰にもわかったものではない。

 シーケンス主体のゴシック・サウンドという点では、『Savage』も共通している。別の観点からすれば原点回帰と言えるかもしれない。ただ、同じ閉塞性と言っても、知名度の低さゆえフォロワーの少なかったデビュー当時と比べて、一旦はミリオン単位の共感を獲得してからの突然の方針転換は、意味合いが違ってくる。
 地道に築き上げてきたポジションや共感を切り捨てるのは、並大抵の勇気ではおぼつかない。いや、それは勇気ですらない。そこにあるのは、長い間、いびつな形で封じ込められた衝動だ。それは理性で抑えられるものではない。こみ上げてくるものを吐き出さざるを得ないだけなのだ。それを商品の形を成すように取り繕う作業。歪んでいる。
 取り立ててアバンギャルドな構造ではない。きちんとしている。一般流通を前提として作られているので、意味不明なモノではない。
 一応、ポップの意匠に揃えられたサウンドの裏では、通り魔的な問答無用の暴力、それに対峙する弱者の過剰な妄想が、通底音として流れている。
 救いもなければ、先行きも見えない。底の抜けた虚無が、音の塊としてそこにある。
 エゴの洪水、強い徒労感が残る音。音楽に癒しを求めるのなら、このサウンドは明らかにnonだ。



 リリース25周年を期して行なわれたDaveのインタビューを読んでみたのだけど、何だか拍子抜けしてしまう。何でこんなサウンドになっちゃったのか、Dave自身の中できちんと整理できていないのだ。
 レコーディング・プロセス、また技術的なエピソードについては饒舌で、できるだけ真摯に答えようとしているのはすごく伝わってくるのだけど、発言はどうも落としどころが見つかっていない。肝心の動機、whyが伝わってこないのだ。
 ストレスの溜まる長期間ロードに加え、レコーディングオタク気質をこじらせている彼にとって、大衆向けのパワー・ポップの量産とは、クリエイティヴとは相反するものだった。言っちゃえば器用貧乏的な性質のDaveにとって、ニーズに応じたサウンド・プロデュースはお手の物だったけれど、そればっかり求められると、ちょっと違った方向性も試してみたくなるものだ。
 マスとのリンクを辛うじてつなぐ程度のポップ性を残しつつ、強いエゴを反映した『Savage』は、極めて暴力的なコンセプトで彩られた。「共感を得る」とか「ユーザーとの一体感」とは無縁の、極めてパーソナルな音。
 ただ、その怒りの対象が外へ向けてなのか、それとも自身に対してなのか。
 そのぶつける先が曖昧なのだ。



 華麗なヒットメイカーとしてのEurythmics は『Revenge』で終わり、その後の彼らは初期とも中期とも違う、まったく新たな人格を獲得したはずだった。
 この後、さらにダーク・サイドを掘り下げて行くのか、それともここで膿を出し切ったことによって、再度躁的なポップ・ソングへ回帰するのか、はたまたまったく別のベクトルを目指すのか。
 -次回作は何が飛び出してくるかわからない。そんな行き先不明の期待感があったはずなのに。
 彼らが選んだのは、そのどれでもなかった。ポップ・スターとしての膿を出し切った後に残ったのは、パーソナルな個、Ann Lenox とDavid Allan Stewart という2つの一個人だった。個人としての確立を得た2人が混じり合うことはなくなり、音楽のマジックは消えてしまった。

 気の抜けたような『We too are One』。きちんとできている。確かに一人前の大人の仕事だ。
 でも、そこにいるのはEurythmics ではない。DaveとAnnie、2人のソロ・アーティストによって作られた音楽。かつての強い記名性はなく、何となくEurythmics っぽい音楽。
 こうすることでしか、Eurythmics を終わらせることができなかった。『Savage』の製作はそれだけ、互いの身を削る作業だったのだ。
 ユニットとして掘り下げるものは、もうない。なので、ここで終わって正解だったのだろう。



Savage
Savage
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RCA Records Label (2011-04-11)





1. Beethoven (I Love to Listen To) 
 先行シングルとしてリリースされ、UK最高25位。なぜかノルウェーやニュージーランドなどスカンジナビア方面ではトップ10に入り、高い評価を受けた。初期のサウンド・プロダクションのフォーマットを使用しながら、構成力は段違い。ポリリズミックなシンセ・ベースがそこはかとない狂気をあおっている。
 PVでは、貞淑で平凡な主婦に扮したAnnieが、狂気に囚われてアイデンティティの崩壊、最後には別人格のディーヴァAnnieに変貌してしまう。どちらが本性なのかは不明だけど、案外グラマラスなAnnieのドレス姿を堪能するのも一興。



2. I've Got a Lover (Back in Japan) 
 以前のアルバムに収録されていたら、もっとバンド・グルーヴを前面に押し出したギター・ロックになっていたのだろうけど、ここではクールな打ち込み主体のサウンドでまとめられている。その分、Annieのヴォーカライズの多様性が引き立っている。
 PVでは基本、ユニセックスなAnnieが主人公なのだけど、合間合間に過去のライブ映像が挿入されている。中には日本公演も。

3. Do You Want to Break Up? 
 サウンドもヴォーカルも、基本は全盛期のEurythmicsそのものだけど、過去の自分たちをなぞっているかのような、作りモノ感が拭えない。もともとまっ正直なポップを演じるのではなく、定石からちょっとポイントをズラしたサウンドを志向していた彼らだけど、ここでは過去の自分たちをもパロディ化した、どこか醒めた目線でのプロダクションである。
 PVを観れば、それは歴然。そのズレ方がハンパないから。1.で登場した主婦Annieが再登場しているけど、もはや貞淑さはない。顔はすっかりディーヴァに侵食されている。
-アルプスの山中を模したセットをバックに、チロリアン音楽隊に囲まれながら、躁的引きつり笑意を浮かべながら歌い踊る主婦Annie。こうして書いてみると、気色悪い映像だな。

4. You Have Placed a Chill in My Heart
 壮大なスケール感で演出された王道ポップ・バラード。このアルバムの中では最もEurythmics「らしい」楽曲でもある。その分、このラインナップの中では浮いており、目立たないのが惜しまれる。4枚目のシングルカットという、付け足しのようなポジションではあるけれど、UK16位まで上昇したのは、やはりこの辺のサウンドにニーズがあったことがわかる。
 サウンド同様、壮大で荒涼とした大地にたたずむユニセックスAnnieから、PVは始まる。場面は変わって、スーパーでやたら洗剤ばかり買い込む主婦Annie、時々ディーヴァAnnieがフラッシュバックのようにインサートされる。3つの顔を持つAnnieそれぞれの顔の中、最もピュアでエモーショナルな感性を持つのは、ユニセックスAnnieである。
 でも、それも本当の顔なのかどうか。



5. Shame
 こういった従来タイプの楽曲を、こんな地味な場所に配置してしまうところが、セールス不振の要因だったんじゃないかと思われる。以前なら確実にシングル候補だったはずだけど、まぁタイトルがタイトルだし。彼らのベクトルは、そういったまっ正直なポップ・ソングではなかった、ということなのだろう。
 PVでは初めてDaveが登場。上半身裸(全裸?)の2人が、ひたすら恋人のように愛しあい抱擁を重ねるだけの内容。映像的には美しい。でも、かつて恋人同士だったことを思えば、それは何だか気持ち良いものではない。そういった皮肉も含めて、自虐的な香りさえ漂う。

6. Savage
 神々しささえ漂う王道バラード。安っぽいストリングスなんか入れず、シンクラヴィアとギターだけでまとめているのはDaveの美学。何でもかんでも弦を入れちゃう安直さとは、一線を画している。
 PVはディーヴァAnnieの美しさが際立っている。堕天使の如く清廉とした表情。これもまた真実のAnnieなのだ。



7. I Need a Man
 3枚目のシングルとしてリリースされ、UK最高26位。でもUSダンス・チャートでは6位まで上昇している。
 ひとことで言っちゃえば、「地下室に幽閉されたサイコパスのマリリン・モンロー」。これに尽きる。アメリカでは最初にシングル・カットされたため、『Savage』といえばこの曲の印象が最も強い。シンプルなロックンロールとダンスのハイブリット、この種の曲はどの時代でも強い。
 限定の輸入盤シングルは金属缶に封入されており、そのプレミア感につられて買ってしまったのが、俺。金がない時に売っちゃったけど、惜しいことをした。持っとけばよかったな。

8. Put the Blame on Me
 ちょっと気だるさの漂うゴシック・ダンス・ポップ。サビも覚えやすいし、ファンキーなバックトラックもカッコいいしで、非の打ちどころのないナンバー。だからさ、なんでこんな地味な配置なの?もったいない。

9. Heaven
 抑制されたシンセ・ビートを主軸とした、構造としては実験的な楽曲。だって、ずっとHeavenとしか歌ってないんだもん。ディーヴァAnnieも肩の力を抜いて、まどろむ様な表情を見せている。主婦Annieが浸食し始めている。もはや人格の境界線は曖昧だ。

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10. Wide Eyed Girl
 初期サウンドに近いものを感じさせながら、サウンドの構成力もヴォーカルの多彩さも、レベルが上がっていることを感じさせる。以前ならバンド・アンサンブルの勢いで押し通していたところを、きちんとシミュレートした上でクライマックスや破綻を演出している。

11. I Need You
 Daveによるアコギのみをバックに、ギミックを使うこともなくストレートに歌うAnnie。ここまで変幻自在な側面をこれでもかと見せていた分、装飾を取り払ったアンプラグド・サウンドは効果的。
 普通にやればこのくらいのことはお手のものなのに、なかなかまっすぐにやろうとしない。あまり人がやろうとしないことを実現させるのが、Eurythmicsというユニットのはずだった。それが変に人間的に覚醒しちゃってつまんなくなっちゃったのが、『We too are One』である。



12. Brand New Day
 ラストはAnnieによる多重アカペラ・コーラスでスタート。こういった実験性は、やはり彼らの真骨頂である。後半はシンセが入って曲調が変わり、慈愛あふれるポップ・チューンとして昇華。
 PVは少女たちによるバレエからスタートし、曲調が変わると共にAnnieが登場する。いつものユニセックスAnnieの表情は、とても柔和だ。最後のカーテン・コールによるエンディングも、とても和やか。ここだけは悪意のかけらもない。








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実験を繰り返した末の自然体な小品集 - Eurythmics 『Peace』

folder 80年代中盤に「Sweet Dreams」で注目されたEurythmics は、当時隆盛を極めていた男女シンセポップ・デュオの流れで登場したものの、他のどのグループより異彩を放っていた。大抵のシンセポップのバックトラックが、ヤマハDX7やシンクラヴィアなどの最新機材を使い倒し、時に息づまるほど隙間のないサウンドで埋め尽くされていたのに対し、プログレ的素養もある彼らのサウンド・デザインは、アコースティック楽器と同列の配置を施すことによって、ちょっと独自のスタンスを築いていた。
 特に「Sweet Dreams」は、不穏さを煽る無機的かつシンプルなブロックコードを効果的にあしらい、初期の彼らが活動拠点としていたドイツ的なバロックのテイストも醸し出していた。他の有象無象が奏でる安易でキャッチーなサビ中心で構成された楽曲よりも、一聴して素っ気ないメロディでありながら、きちんと対峙して聴くと、プロによって十分練られた重層的なサウンドがマニアからライトユーザーにまで、幅広く支持された。

 イギリス出身だったのにもかかわらず、前進バンドTouristsが主にドイツで活動していたこともあって、当初からグローバル展開に積極的だった彼らのサウンドは、当時のヒットチャートのラインナップにおいて、ここでもまた異様さに満ちている。
 テクノポップというにはあまりにオルタネイティヴな質感が強い彼らのサウンドは、正直売れ線だとかキャッチーだとかいうものではない。ないのだけれど、それでも彼らの80年代のほとんどは、ヒットチャートの常連というポジションを堅持していた。特にアメリカではディスコ・チャートでかなり健闘したので、プログレ的なコンセプトを抜きにして、単純に踊りやすい音楽として受け止められている。
 アメリカというのはマーケットが大きいせいもあって、どうしても最大公約数的にアッパー系の音楽ばかりが注目されがちなのだけど、Pink Floydの『狂気』が長いことチャートインしていたように、ネガティヴでダークサイドな部分も多い音楽にも一定数の需要がある。Eurythmicsの後にもCureやMorrisseyがアリーナ・クラスの会場をソールドアウトしていたように、厨二病的アーティストに心酔し自己投影してしまう層がどの時代にも存在する。
 Marilyn Mansonが売れちゃう国だもの。そう思えば不思議でもなんでもないか。

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 この時点でのEurythmics人気は、あざといほど中性的でエキセントリックな女性ヴォーカルAnnie Lennoxのキャラクターに負うところが多かった。
 時代的にMTV全盛ということもあって、ビジュアル的にインパクトの強い彼女のキャラクターは、純粋な音楽以外にも、ファッション風俗的な側面においてもある種のパイオニア的存在として、人々に強く印象付けた。返して言えば、それはまたトリックスター的な騒がれ方、キワモノ的な一面でもあるのだけれど。ユニセックスな風貌は時に暴力的でシステマティックを強調しており、サイボーグに擬した無表情には愛想のかけらもなかった。
 ダンサブルに特化したデジタル・ビートをベースとしたバックトラックは、下積みの長かったDave Stewartによって計算高く作り込まれていた。大抵のテクノポップのサウンドメイカーらは、日進月歩で更新されてゆく機材のスペックのスピードに追い付けず、代わり映えしないプリセットでお茶を濁すばかりだった。逆にスタジオワークが大好きなシンセマニアがコツコツ組み立てたサウンドは、オタク知識をフル活用してスペックを最大限活用し、他アーティストとの差別化を明確にした音作りを行なっていたのだけど、肝心のメロディがダメダメだったりヴォーカル・ミックスが二の次にされていたりなど、珍奇な音の響きばかりが取り沙汰されて、ポピュラリティの獲得にまでは至らなかった。
 優秀なオペレーターはマシン操作に長けてはいるけれど、それはソングライティング能力とはまったく別の問題である。オペレーターはあくまで机上のシミュレートに基づくプログラミングまでが職務であって、クリエイティヴな作業を行なうには別のスキルが必要となるのだ。
 自らもプレイヤーであり、ソングライターでもあったDaveがEurythmicsを商業的成功に導けたのは、先天的なのかそれとも後天的なのか、そういった能力にも長けていたことが、時代のあだ花として埋もれずに済んだ要因である。

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 デビューしてからしばらくは、サウンド担当であるDaveがバンド運営の主導権を握っている。前進バンドTouristsもDaveが多くの楽曲を制作しており、根っこの部分はEurythmicsと変わらないのだけど、ヒットしたのはBay City Rollersのカバー「I Only Want to Be with You」がUK4位US83位という、何とも微妙なスマッシュ・ヒット程度の一発屋で終わってしまう。時流に合わせたニューウェイヴ風味のポップ・ロック的アレンジは、正直Annieのキャラクターとはマッチしていない。PVを見ると、半ばヤケクソ気味なハイテンションだし。
 稀代のヴォーカリストAnnie Lennoxを引き立たせるためには、もっとダークでゴスで救いのないシンセ・ベース主体のミニマル・ビート、性別不詳のビジュアル・イメージこそが必要だったのだ。ユニセックスという概念がまだ一般的でなかった80年代、「男装の麗人」と言えば宝塚くらいしか連想できない日本人にも、彼女のキャラクター・デザインは大きなインパクトを与えた。

 US・UKにとどまらず、ワールドワイドな成功を収めた彼らだったけど、キャリアを重ねるに連れ、次第にAnnieのパワー・バランスが強くなってゆく。
 テクノ的ロジックで考えると、メインであるはずのAnnieもまた構成楽器の一部に過ぎず、サウンド全体のバランスを考えると感情を抑えたヴォーカライズで処理されるのだけど、状況は刻一刻と変わってくる。ビッグセールスに伴う世界ツアーを重ねることによって、アリーナ・クラスの会場に見合ったロック的イディオムをAnnieが欲し、Daveもまたライブ映えするような楽曲を制作するようになる。

Eurythmics

 ロジックよりもフィジカル。ライブでの起爆剤的なアッパー系の楽曲が多くなる中、次第にシステマティックだったユニットにもライブ・メンバーが増え、バンド的なグルーヴを見せるようにもなる。ノンセックスのアンドロイド的なアーティスト・イメージを固持していたAnnieも、時々普通の人間としての喜怒哀楽を見せるようになる。
 そんな彼女の一面、慈愛にあふれた笑顔を見せて話題になったのが、彼らのもうひとつの代表曲である「There Must be an Angel」。当時、すでに「愛と平和の人」としてキャラクターが定着していたStevie Wonder がハーモニカで参加、彼らの代名詞でもあったシンセ・ベースもここではほとんど響かず、代わりに神々しくゴスペルへと昇華するコーラスが彩りを添えている。80年代特有のエコーの深いドラムもここでは控えめで、すべてはAnnieという存在をドレスアップするかのように、緻密に注意深く配置されている。
 テクノポップというカテゴリーを超えた、80年代のスタンダード・ナンバーができあがった瞬間だった。能面のように冷徹な表情を崩さなかったAnnieの笑顔によって、Eurythmicsというブランド・イメージは表現の幅を広げていった。

 普通なら、この路線でしばらく畳み掛けて、AOR的な展開に行くはずなのだけど、何を思ったのか、ここで再び彼らは覚醒する。
 80年代的「自立した女」としての理想形を確立したAnnieは、円熟の路線を拒否、邪悪で陰険、「天使」とは両極端のデーモニッシュなキャラクターを自らに憑依させる。普段は午後のティータイムを楽しむ貞淑な人妻だが、一旦豹変すると糖質っぽさ全開、淫らで妖艶なディーヴァが脳内で生み出した憎悪と狂気の産物-、それが『Savage』である。
 暴力的な歌詞と被害妄想的な密室サウンド、憎悪と狂気を露わにしたコンセプトは、これまでのポップ路線と完全に逆行した、破壊と混沌の象徴だった。このコンセプトに基づいて全曲MVが製作されたのだけど、まぁ通して見ると疲れること。圧倒的なオーディオ/ビジュアルのクオリティは有無を言わせぬ仕上がりだけど、とにかく息詰まり感がハンパない。
 そこに救いはなく、あらゆるものが投げ出されたまま、放置されている。

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 ここで一旦、Eurythmicsは終幕となる。ゼロからMAXまで、メーターはすでに振り切れてしまったのだ。『Savage』で臨界を突破してしまったからには、もう新たに手を付ける余地は残されていなかった。
 勢いの余力で制作した『We too are One』はきっちり作り込まれていたけど、どこか「お仕事感」的な残務処理、坂道の惰性運転的な佳作として受け入れられた。ここで最後にClashのようにとんでもない駄作でも作ってしまえば、もしかして後世の評価も違ってたのかもしれないけど、やはり彼らは音楽に対してとても真摯な態度で向き合っていたのだ。
 リリース後、彼らは別々の道を歩むことになる。2人でやり切れることはやり尽くしてしまい、残された新境地はそれぞれ独りで叶えるべきものだった。
 過去の再生産を嫌い、2人はまったく別々の道を歩んだ。「独自の音楽性の追求」という共通項を残して。

 そんな彼らが10年ぶりに再結成してリリースしたのが、この『Peace』。
 よくある再結成話にあるように、食い詰めたメンバーが過去の栄光にすがって、という流れではない。Annieはソロ・アーティストとして国民的シンガーの位置にいたし、Daveも自分メインの活動は地味だったけど、裏方として、またStonesが休養中でヒマなMick Jaggerとつるんで何かしら活動していた。それぞれが10年の節目を経て、必要性を感じて2人で曲を作り、そしてアルバムをリリースした。
 そのアルバムを携えて、彼らは大々的な世界ツアーを行なったが、それはそこまでの関係に終わった。当然のように、彼らはそれぞれの道に戻り、新たなソロキャリアを築くことになった。
 恒久的なプロジェクトではなく、アニバーサリーとして、ハッピー・エンドを彼らは選んだ。
 2人で音を出すのは楽しい。でも、いま求めているのはそれだけじゃないのだ。

Eurythmics-Beatles-Grammy-Tribute

 実は俺、再結成してライブを行なっていたところまでは知ってたけど、フル・アルバムまで作っていたのを、ほんとつい最近まで知らなかった。なので、この『Peace』を聴いたのもつい最近。
 大抵の再結成バンドがニュー・アルバムを出すとボロクソに罵倒される流れから、21世紀に入ってからはライブ・パフォーマンスのみ、またはせいぜいシングル程度、フル・アルバムまでは制作されない傾向にある。再結成Policeだって結局、ニューアイテムはなかったしね。
 そういった流れから、まさかアルバムを作ってるだなんて思ってもみなかったのだ。再結成ツアーでは日本に来なかったせいもあるのか、リリース・プロモーションも地味だったらしいし。でもEU諸国ではゴールドやプラチナムも獲得しているくらい需要があったので、多分俺が知らなかっただけか。

 オリジナル・メンバーであるDave StewartもAnnie Lennoxも揃っているけど、ここで鳴っている音はかつてのEutythmicsとは趣きが違っている。以前2人でやり尽くした実験は、大きな成果を得た。でも、また実験を繰り返すということは、純粋な意味での「実験」ではなくなってしまう。それはただの「屈折」だ。
 それぞれ2人とも、Eurythmicsというベースを基に、ソロで10年、違うベクトルでキャリアを築いてきた。じゃあ今度は、実験ではなく、ただ単に2人そろってあまり考えず、まず音を出してみよう。それが最後の「実験」だ。
 ノスタルジーでもなければ、時代におもねるわけでもない。ここで鳴っているのは、2人のソロ・アーティストが「せーの」で出した音だ。最初のセッションではお互い探り探りな面もあっただろうけど、長い年月を共に過ごした2人だと、10年というブランクは大した問題ではない。結局できあがったのは、あぁやっぱりEurythmicsだね、という音だった。
 奇をてらった問題作でもなければ、ロートルバンドが惰性で鳴らす音でもない。ただただシンプルに、きちんと音楽に向き合ってきた者のみに出せる音が、このアルバムには詰まっている。


Peace
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1. 17 Again
 Daveのアコギから始まるオープニング。弦をこする音がアンプラグドっぽさを演出しているけど、Annieのヴォーカルが入るといつも通りのゴージャスなEurythmics。ドラムの音もオーソドックスで、これ見よがしなシークエンスも使ってない、堂々としたスケール感あふれるバラード。
 これまでのキャリアを振り返るナンバーをトップに入れてしまう辺り、バンドという存在に対して第三者的に向き合える余裕が窺える。



2. I Saved the World Today
 Annieのソロ傾向が強く出ている、メロディアスなバラード。もともと神経質的な傾向のある人なので、こういったニュアンスを重視した楽曲を歌い上げるのは、Annieの特性に合っている。中盤のホーンとストリングスの絡みがBurt Bacharachっぽく聴こえてしまうのは、その辺を狙っているのか。『Be Yourself Tonight』以降の方向性を思わせる。



3. Power to the Meek
 「デジタル機材をうまく盛り込んだStones」的なサウンドは、こちらはやはりDave的なもの。決して美声とは言い難いAnnieのヴォーカルが、ここではいい感じにダルでマッチしている。時にガナリ声でコール&レスポンスを繰り返す彼女もまた、構成の要素のひとつである。

4. Beautiful Child
 Daveのプロデュースの卓越した面のひとつに、アナログ・シンセの使い方が挙げられる。旋律のエッセンスとしてストリングスを効果的に使う人は多いけど、リズミカルに使える人はあまり多くない。ここでもメインはアコギのアルペジオで、あえて人工的な響きを対比させることによって、絶妙のコントラストを演出している。

5. Anything but Strong
 こういった「技巧的なヴォーカル」と「プリセットよりちょっとだけいじりました」的なDTMとのミクスチャー・サウンドを聴いていると、『We too are One』以降の彼らの方向性が見えてくる。あくまで「もしかして」の仮定の話だけど、この路線の深化と円熟というベクトルならば、ユニットとしての寿命はもう少し長かったのだろうか。
 まぁ難しいか。ツアーさえなければ行けたんだろうけど。

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6. Peace Is Just a Word
 で、このようなAOR的路線のレコーディング・ユニットとしての存続もアリだったと思うのだけど。こちらはDaveとAnnieとのバランスがうまく拮抗したパワー系バラードなのだけど、難しかったんだろうな。当時はアルバム・リリース=長期ツアーだったし。

7. I've Tried Everything
 初期のテクノポップ的なシークエンスをベースとしながら、やはりメインとなるのはAnnieのヴォーカルとDaveのギター。もともと正面切ってギター・ソロを延々弾きまくるというタイプの人ではなく、バッキングに徹して時々印象的なオブリガードを効かせる、というのがスタイル。そこら辺がやはり、テクノ的イディオムの人なんだろうな。

8. I Want It All
 アルバム構成的にちょっとダレてくる頃なので、ここでロック色の強いアッパー・チューン。ていうかガレージ・ロック。ミックスが絶妙なので、ガレージ独特のチープ感はまるでない。巧妙にシミュレートされたデモテープといった塩梅。彼らに貧乏臭さは似合わない。

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9. My True Love
 とにかくギターを弾きまくるDave。やっぱりうれしかったんだろうな、2人でやるのが。バラードでもなんでも、とにかくアルペジオでぶっこんで痕跡を残している。ていうか、ギターで参加でもしない限り、実質Annieのソロになっちゃうしね。

10. Forever
 そういえばピアノが出てなかったな、ここまで。俺的には最もお気に入りのスロー・チューン。ソロ初期のPaul McCartney的なバックトラックに対し、Annieはかなり熱のこもったヴォーカルを見せる。ベテランのポップ・ユニットの「あるある」として、彼らもまた後期Beatlesの路線を踏襲している。

11. Lifted
 ここまで比較的アダルト・コンテンポラリーなタッチのサウンドでまとめられていたこの『Peace』、今さら小手先の冒険・実験作に手を出す気もないのだろうけど、ラストはゴスペルの西欧圏的解釈とも取れるバラード。変に余韻を残すこともなく、過剰にドラマティックでもない、現役感を十分に残して終幕。




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200回記念第2弾 - 俺の好きな80年代の洋楽たち その1

 ほんとは邦楽編同様、「レーベルくくり」とか「カバー曲くくり」とか、「オリコンにチャートインした洋楽曲くくり」など考えていたのだけど、結局うまくまとまらず、非常にザックリしたくくりとなってしまった。
 なので、ディープなくくりはまた次回。

Aerosmith 「Dude (Looks Like a Lady)」

Aerosmith+-+Dude+-+5-+CD+SINGLE-34918 1987年リリース、9枚目のオリジナル・アルバム『Permanent Vacation』からの先行シングル・カット。US14位UK45位。
 80年代に入ってからは、度重なるドラッグ渦に加え、過密スケジュールによるストレスからメンバー間の不仲が深刻化していたAerosmith。80年代の前半を仲違いしたまま各自好き勝手にやっていたため、バンドのコンディション的にもセールス的にも、完全に負のスパイラルに陥っていた。特に主要メンバーであるSteven TylorとJoe Perryとの確執が丸く収まるまでに時間を要した。
 どっちにしろ、時代はすっかりLAメタルと産業ハード・ロックの二本柱が隆盛であり、もし彼らが70年代のスタイルのまま活動を継続していたとしても、居場所はなかっただろう。彼らの代名詞であった「Sex, Drug & Rock'n' Roll」は、すでに古典芸能と化していたのだ。彼らが現役シーンに再浮上するには、これまでとは違うバンド運営が必要だった。
 
 そんな矢先、Run D.M.C.によるカバー「Walk This Way」が、US最高4位の大ヒットを記録する。ほぼワンコードで押し切ってしまう力業のハードロック・ナンバーは、サンプリングやカットアップの技はほとんど使用されず、MCによるライムとスクラッチはほぼ添え物、逆にゲスト参加したStevenとJoeの強烈なキャラクターが改めて脚光を浴びた。日本で言えば、コロッケのモノマネで再浮上のきっかけを掴んだ美川憲一のようなものである。美川もそうだったけど、そこで変にアーティスティックな態度を取らず、エンタテインメントとして開き直りのスタンスで彼らに協力したことが、その後の成功に繋がったのだと思う。主役を喰ってしまう設定のPVも傑作だったしね。

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 そんな経緯もあってなのか、Geffin移籍後は、従来のバンド・メンバーのみの楽曲制作にこだわるのではなく、積極的な外部ライターの起用も行なうようになる。これは当時、泡沫LAメタル・バンドのひとつに過ぎなかったBon Joviを大ヒットに導いたプロデューサーBruce Fairbairnの意向が大きかったのだけど、そういったアドバイスも素直に聴けるようになったのが、ここからである。
 俺にとってのAerosmithとは、「普及型Stones」とか「B級バンドの最高峰」といった位置付けなので、キャッチーなメロディと明快なキャラクターが売りのバンドだと思っている。なので、シリアスなアルバム・アーティストというより、ベタなシングル・ヒットでこそ持ち味が発揮されるバンドなのだ。なので、その後のアルマゲドン主題歌も俺は昔から大好きである。ていうか映画が好きすぎるので、曲のタイトルがすぐ出てこないくらい。あ、「Miss a Thing」か。
 このアルバムから彼らの復活劇が始まり、他にも大ヒットしたバラード「Angel」というキラー・チューンも収録されているけど、俺世代にとってAerosmithとのファースト・コンタクトとなったのが、この曲のPV。ちょっとパチモン臭さの漂う廉価版Stonesとしての佇まいが、逆に開き直ることによってのポピュラリティーを強調している。
 見た目もサウンドもわかりやすい、これ以上はないというくらい「ルーズなロックンロール」のプロトタイプ。チャラい若造がやったらグダグダになりそうなところを、ベテランの力技、そしてきちんとセッティングされたプロダクションによって、緻密に構成されている。どんな仕事でもそうだけど、段取りをきちんとしておかないと、結果がついてこないのだ。
 ダルなブルース・タッチのハード・ロックと、70年代ブラス・ロックとのハイブリッドは絶品。こういうのってやっぱ、プロデューサーの手腕が出るな。




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Eurythmics 「I Need a Man」

Eurythmics+I+Need+A+Man+82610 1987年リリース、6枚目のアルバム『Savage』から3枚目のシングル・カット。UK26位US46位を記録している。のちにDave StewartはMick Jaggerと豪華バンド「SuperHeavy」を結成することになるのだけど、ここではそのStones的エッセンス、ディストーションをバリバリ効かせたギター・ロックに仕上げている。
 悪魔が憑依したMarilyn Monroeのようなビッチな出で立ちのAnnie Lennox、それまでは性的要素を限りなく排除した中性的なルックスだったのが一転、既存イメージに捉われないビジュアルを展開している。ファースト・シングル「Beethoven」では、ソファで編み物してる普通の主婦を演じてるし。
 ちなみにこの2曲は連作PVとなっており、強迫観念によって次第に追い込まれ、壊れてしまった主婦Annieはビッチ化、この曲で主役となる。さらにおまけがあって、次のシングル「You Have Placed A Chill In My Heart」ではこの2人に加え、通常ヴァージョンのAnnieがメインとなり、三者三様の共演となる。
 UK1位を記録した85年のシングル「There Must Be an Angel」で一気にメジャー化した彼ら。それまでは「中性的な女とヒゲ面男によるダークなテクノ・ポップ・デュオ」といったイメージが強く、お茶の間ウケするタイプのアーティストではなかったけれど、この辺から日本でも紹介されることが多くなった。

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 普通のアーティストなら、ここからさらなるメジャー展開を図って、二番煎じ・三番煎じの楽曲で畳みかけるか、それか逆にひねくれたアングラ・マイナー路線へ移行してしまうかどっちかなのだけど、彼らはどちらの道も選ばず、潔くメジャー・シーンに踏みとどまりながら、イメージの固定化を嫌った独自路線を貫いた。こういったアプローチは、70年代のBowieと通ずるところが多い。
 Dave が丹念に創り上げた無機質テクノポップ・サウンドに、ユニセックスなルックスとマッチした、ドスの効いたAnnieのソウルフルなヴォーカルを載せるのが初期のスタイルだったのだけど、キャリアを積むに従ってAnnieのアーティスト・エゴが増大、それに引っ張られるかのように、シンセを中心に構築されたDaveのサウンドもまた、次第にテクノ要素が減衰、生音比率も高くなってゆく。YazooもPSY・Sもそうだけど、男女のテクノポップ・コンビは大抵、女性が強くなった末に発展的解消となるのが常である。




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Fleetwood Mac 「Big Love」

fleetwood-mac-big-love 1987年リリース、Fleetwood Macにとって15枚目のアルバム『Tango in the Night』からの先行シングル。UK9位US5位は、久々の現場復帰のスタートしては、上々の滑り出しとなった。
 ほとんど解散状態だった彼らにとって5年ぶりとなったこのアルバム、実質は、音楽的リーダーLindsey Buckinghamがソロ・アルバム制作中のマテリアルをモチーフとしたもので、そこにそれぞれソロ・キャリアを築いていたStevie Nicks と Christine McVie が曲を持ち寄った形となっている。当然、彼女たちがまともにプレイするはずもなく、サウンド・メイキングはLindsey に丸投げ、彼女らはほぼ自曲のメイン・ヴォーカルとちょっとしたコーラスのみの参加となっている。
 元祖レコーディング・オタクのLindsey であるからして、こういった彼女らのオファーを受けることは、願ったりかなったりである。どうせ他のプロデューサーにやらせたとして、あれこれ口を出してしまうだろうし、それならいっそ全部自分でやった方がいい、というところに落ち着いてしまう。彼がやったらやったで、女性2人からの注文があぁだこうだとうるさいけど、彼にとってはそういったオファーにいちいち応えることも、充実感のひとつなのだ。まぁプレイの一環だな。
 当然、バンド名の由来となったMick Fleetwood と John McVie 。相変わらず、彼らの貢献度は薄い。ていうか、ほぼ何もしていないに等しい。一応、リズム・セクションでクレジットされてはいるけど、それだって怪しいものである。あのLindsey なら、取り敢えずレコーディングだけさせておいて、後で総差し替えしそうだし。

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 このアルバムのリリース時点で、彼らはすでにオールド・ウェイブに属しており、現に代表作『Rumours』『Tusk』はMOR~AORの名盤として評価が確定していた。「ライトでメロウな大人のロック」という位置づけだったはずだし、マーケットもまた、そういったオーソドックスな路線を望んでいたはず。はずなのだけど、このアルバムで脱退を決めていたLindseyのやりたい放題が爆発しているのが、この『Tango in the Night』である。
 特にこの曲は、レコーディング・オタクの趣味・嗜好がダイレクトに反映された、変態ポップの極致。マリアッチを想わせるギターは、偏執的なミュートとコンプとが入り混じった人工的な音像を創り出している。密室的でありながら浮遊感あふれる、スタジオで加工しまくりました的なサウンドだ。
 熱くエモーショナルで、それでいて過剰なLindseyのヴォーカルは、特に高音パートは神経質的に空間を響かせる。PVでの彼の顔は、必死に堪えているけど、泣き出しそうな不安定さを抱えている。ネックをやたら立て、ストラップを長くしたギターの構えも変だし。
 そして彼とヴォーカルを分けるのは、デビュー当時から妖女と謳われ、そして今もまだギリギリ、ごく一部では謳われているStevie Nicks 。ヴォーカルと言っても、そんなきちんとしたものではなく、要するに「喘ぎ声」。彼女の最もセクシーなヴォイスをサンプリング処理して、疑似的なデュエットして仕上げることに精を挙げるLindsey。どっちもやっぱり変だ。


 
 社内恋愛の元相手と職場を共にする気分は、一体いかがなものなのだろうか。彼らほど長いキャリアになると、もうそんなことも気にならなくなるのかな。まぁこのバンドの男女関係はもうほんとグッチャグチャなので、この程度は単なる羞恥プレイの一環だったのかもしれない。本題とずれるので、その辺はwikiで調べてみて。いやほんと、昼ドラ顔負けだから。
 そう、彼こそ「遅れてきたポップ馬鹿」の称号に相応しいアーティストだ。この時点で、地位も名誉も名声もすでに築いていたはずなのに、ここに来て密室ポップの才能が爆発、メジャー・シーンの中で大きく攻めるサウンドを提示してきた。


Tango In The Night
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Chris Rea 「Driving Home For Christmas」

Chris-Rea-Driving-Home-For-Christmas 当初は、いまだCMでも耳にする機会が多い「On the Beach」で書こうと思っていたのだけど、彼について調べてるうち、「あぁこの曲はChris Reaだったんだな」と知って、やっぱりこっちにした。言われてみればあのしゃがれ声、確かに彼だ。
 もともとシングルのみのリリースでいわゆる企画モノ、1988年の初リリース時にはUK53位程度だったけど、徐々にクリスマスの定番ナンバーとして定着し、UKにとどまらず世界中で知られたナンバーになっている。
 もしかしたら俺だけかもしれないけど、これがChris Reaの曲だったとは知らず、これまで来た次第。ていうか、「On the Beach」だって誰が歌ってるのか、知らずに聴いてる人も多いと思われる。
 アーティスト自体は存在感が薄いけど、名曲はしっかり後世に受け継がれている。こういうのって、ある意味、ソングライターとしては理想なのかな。時代を超えて残る歌をひとつでも残すことができれば、ある意味、幸福なのかもしれない。
 彼の曲全般に言えることだけど、決してサービス満載の楽曲ではない。酒とニコチンで焼かれたようなスモーキー・ヴォイスに加え、サウンドは至ってシンプルだ。特別、凝ったコードやメロディでもない。むしろ、バックボーンとなっているのは古いブルースであり、そこから由来する無愛想なサウンドは、甘いポップ・ヒットに辟易した大人の耳を惹きつける。

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 AOR的な販売戦略のもと、彼の80年代は主にシャレオツ感を漂わせる孤高のアーティストとしてメディアに露出していた。根っからのブルース・ロック・マスターである彼の作風は何ら変わらなかったのだけど、そのぶっきらぼうな所作と作風が、アーバンかつトレンディな時代にたまたまマッチした。中身は何も変わってないのに。
 Gary Moore もそうだったけど、あまりに過剰なヒット・システムに組み込まれてしまうと、その反動なのか、突然、地味なブルース回帰を行なうのが、UKブルース・マンの特徴である。これまでのビジョンとかけ離れたポジションに居心地が悪くなってしまったのか、この後、Reaは急激なブルース回帰を行ない、大作『Blue Guitars』をリリース後、しばらく沈黙期間に入る。その大作というのが、何とCD11枚組。Princeのブート並みに膨大な物量である。やっぱ英国人って変わってるよな。ていうか、それで普通なのか。
 そんな偏屈さも頑固さも一旦脇に置いて、聖なる夜を家族で過ごすため、早く家へ帰ろうよ、と素直に語りかけるのが、このナンバー。
 仏頂面はいつもと変わらないけど、どこか楽しそう。カクテル・ピアノとストリングスの調べに乗せて、珍しくリズムに体を揺らせているのが想像できる。
 クリスマス・シーズンに公開されるアメリカ映画のハッピーエンド。
 何となく、そんなシーンを連想してしまう。
 ファニーでロマンティックで、それでいて誰もがついついホッコリしてしまう曲。
 皮肉屋ばっかりの英国人も、クリスマスがテーマとなると、素直にいい曲を書く。




The Very Best of
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Grace Jones 「La Vie en Rose」

Gracejoneslavieenrose 80年代というくくりで書いてきたけど、「Free Soul」シリーズのコンピに入ってたこれをたった今聴いてて、グッと持っていかれたので、ここで紹介。調べてみると、1977年リリースだった。
 俺にとってのGrace Jones とは、やたら前衛的なファッションで世間を騒がせた、今で言うLady Gagaのルーツ的な人という位置づけで、正直、まともに音源を耳にしたことがなかった。特に俺が10代の頃の彼女は『007』や『コナン・ザ・グレート』での個性派女優といったイメージが強く、はっきり言っちゃうとイロモノ的なポジションだった。
 そんな絶頂期にリリースされたアルバム『Slave to the Rhythm』のジャケットは、俺の中の先入観をさらに増幅させた。この時期の彼女はミュージシャンというよりもパフォーマー的なスタンスでの活動が多く、コンセプチュアル・アート的な作品が多かった。この時期の作品をYoutubeでチラッと聴いてみたけど、まぁ時代の産物かな、といった印象。改めて聴き直す気は正直ない。
 フランスの国民的シャンソン・シンガー Edith Piaf によって世に出たスタンダード・ナンバー、ってそのくらいはわかるよね。日本では越路吹雪ヴァージョンが有名だし、近年では山下達郎がア・カペラ・スタイルでカバーしていた。調べてみると、モー娘。の飯田圭織もカバーしてるらしい。聴いたことないけど。

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 そんな幅広いジャンルのシンガーがカバーしているので、様々なスタイル、それぞれの「La Vie en Rose」が存在する。正直、古臭いスタンダード・ナンバーと思っていたので、俺自身、この曲に思い入れはほとんどない。
 そういったフラットな状態で耳にして、引き込まれちゃったのが、このヴァージョンだった。
 Grace Jones と聴いて想像するような、アブストラクトで挑発的なサウンドではない。むしろ限りなくオーソドックス、真っ当なカバーとなっている。フィリー・ソウル・サウンドの中枢だったシグマ・スタジオで、モデル上がりのジャマイカ娘に、有名シャン総・ナンバーをカバーさせるという、こうして書いてみるとキワモノめいた組み合わせなのに、それらがすべて奇跡的にピッタリと噛み合い、普遍性を放つ傑作が誕生している。
 これが偶然の産物なのか、はたまた巧妙に仕組まれた戦略だったのか。まぁ多分前者だろうけど、それを実行に移した当時のレーベルIslandの慧眼ぶりと言ったら。デビュー作でこれほどの貫録を見せつけてしまったのだから、普通ならこの路線を突き詰めてゆくところだけど、そこに収まらず破壊する方向を選ぶGraceもまた大したもの。

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 何しろ67歳を過ぎてるのに、公衆の面前でこんなパフォーマンスを行なってしまうくらいだから、その前衛性は計り知れない。
他のアルバムも聴いてみなくちゃな。
彼女に限らず、聴いてない音楽はいっぱいあることに気づかされた。




Portfolio (Reis)
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Grace Jones
Ume Imports (2006-08-01)
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 邦楽編同様、こちらも長文になった。後半5曲はまた次回。





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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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