folder 1985年からロキノンを読むようになった俺にとってのファーストJoniは『Dog Eat Dog』。この時期のJoniは高度なプレイヤビリティを封印、これまで敬遠していた無機的なシンセ・サウンドに果敢に挑戦している。熟練ミュージシャンの技術スキルに頼らず、あくまで他のアーティストと同じ条件のもと、どれだけオリジナリティを表現できるのか、を追求しており、これはこれで好きなのだけど、多分一番聴いてるのは、ジャズ/フュージョン・サウンドを導入し始めた、この『Court and Spark』だと思う。

 めちゃめちゃキャリアの長い人である。遡ればウッドストックの時代から活動しているので、ひと括りに「こういったサウンド」とまとめることは難しい。
 一応、サウンドの傾向として、俺なりにざっくり区切ってみたのが、これ。
 
 ① シンガー・ソングライター期(デビュー~『For the Roses』まで)
 ② ジャズ/フュージョン期(『Court and Spark』~『Shadown and Light』まで)
 ③ AOR的コンテンポラリー・サウンド期(『Wild Thing Run Fast』~『Taming the Tiger』まで)
 ④ オーケストラ・アレンジでセルフ・カバー期(『Both Sides Now』と『Travelogue』)
 ⑤ 引退表明後の復活(『Shine』~現在)

 分類の仕方は人それぞれだけど、まぁ②くらいまではほぼ間違ってないと思う。それ以降はいろいろ解釈が分かれると思うけど。
 こういった分類のほかに、これまで制作に関わってきたミュージシャン・エンジニア達、まぁ要するに男性遍歴だけど、「恋多き女」として評されるJoni、これまでDavid CrosbyやJames Tylor、Jaco Pastoriusなど、付き合う男によってそのサウンドが変わるという、一歩間違えれば田舎のミーハー娘と大差ない価値観での分類の仕方もあるのだけれど、まぁそれはまた別の機会に。

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 今回取り上げるのは②の時期、一般的にも名作が集中している、と評価の高い時期でもある。俺的にもよく聴くのはこの時期が多いのだけれど、①の時期、シンガー・ソングライターとしてのJoniは、正直苦手である。一応①から⑤まで、ひと通りは聴いているのだけど、初期の3枚を聴いたのは、多分2、3回程度、初期の名盤とされている『Blue』だって、重すぎてきちんと聴いたことがない。
 ちゃんと聴けばいい曲も多いのだろうけど、ほぼギター1本か、せいぜいバックにアコースティック・ピアノ程度、シンプルに削ぎ落とされたサそのウンドは、俺にはどうにも重い。あまりに飾り気ないJoniの声は、滲み出る情念が強すぎて、時に聴く者を不安へ誘う。男が聴くには、重すぎる女なのだろう。
 英語がネイティヴな者なら、多分そこまでの威圧感はないのかもしれない。だって俺、中島みゆきではそんな風に思ったことがないもん。
 俺が初期のJoniの良さをわかるようになるまでは、まだ歳月が必要なのかもしれない。

 なので、一度引退表明してからの時期、⑤の作品も俺的にはイマイチ。だってつまんないんだもん。純粋に楽曲の良さ「だけ」を堪能するのなら、このようなシンプルなアレンジがいいのだろうけど、俺は「本質」だけを求めてるんじゃないのだ。その他にも付随した「ムダ」な雑味も含めての嗜好であって、精進料理をたしなむには、まだちょっと早すぎる。
 理屈ではわかっているのだけど、やっぱまだ時間が必要なようで。

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 Laura Nyroのレビューでも書いたことなのだけど、彼女もまた、非常に通好みのアーティストである。同業者であるミュージシャンにもファンは多く、俺の知る限りではPrinceがキャリアの初期に影響された、と明言している。トリビュート・アルバムが企画されれば、多くの優秀なアーティストが挙って参加するし、またクオリティも高い。
でもセールスはイマイチ、というのが、この種のアーティストの特徴でもある。グラミー獲得など、それなりの実績はあるのだけど、多分すべてのアルバム・セールスを累計したとしても、Taylor Swiftの1枚にも及ばないはず。
 それでもレコード会社としては、文化遺産的な意味合いで受け止めているのか、メジャーでの契約が切れたことはなく、カタログには常に残っている状態である。

 もともとの販売数が少なくせいもあるのだけれど、ブック・オフを覗いても、JoniのCDが置いてあるのを見たことがない。1度手に入れてしまうと、なかなか手放せないのだろう。日常的にヘビロテになるタイプの音楽ではないけれど、どこか常に手元に置いておきたいアーティストである。

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 このアルバムは、これまで無骨なサウンド・ディレクションだったJoniにとって、大きなターニング・ポイントになっている。これまでは楽曲のクオリティの高さを信じて、シンプルなアコギ中心でレコーディングしていたのを、ここからはガラリと手法を変え、フュージョン系のミュージシャンを大量起用したことにより、音の厚みが格段に増している。
 Joniの楽曲の特徴としてよく語られているのが、変幻自在なコード進行、どこに終着するのか予測のつかないメロディ。バンド・アレンジならあまり目立たないけど、ほとんど装飾のない、初期のフォーク・サウンドを聴いてみると、どこか調和の取れてない、いびつなメロディ・ラインがそこかしこに見受けられる。日本人好みのヨナ抜き音階とは次元の違う進行なので、分かりづらい、または起伏の少ないメロディが馴染みづらい、という意見も多い。
 これがジャズを通過していると、自然とテンション・コードが理解できるようになり、「そういうのもアリだよね」となるのだけれど、それには長きにわたる経験が必要となる。そこに至るまでが、俺も長かった。
 考えてみれば大多数のアメリカ人だって、ほんとに好きなのはカントリー調の泣きのメロディ、またはスムース・ジャズと地続きのブラコン・サウンドだし、そこは日本と事情は同じである。

 なので、こんなキャッチーさのカケラもないアルバムが、いくら70年代とはいえ、上位にチャート・インしたというのは、極めて特殊な例である。最先端のサウンドで飾り付けられた、最強のメロディ、ヴォーカルが、ここにある。


Court & Spark
Court & Spark
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Joni Mitchell
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1. Court and Spark
 Joni自身によるピアノの弾き語りからスタート。ここから少しずつ目立たぬよう入ってくるリズム隊。このアルバムでほぼ全編を担当しているのが、John Guerin(Dr)、Wilton Felder(B)、Larry Carlton(G)の面々。いずれも手練れのミュージシャンらしく、あくまでJoniの引き立て役としての役割。
 ここではあくまでゆったりと、これまでのアコースティック路線を基調としたサウンド。静かなオープニングだ。

2. Help Me
 ビルボード最高7位まで上昇した、このアルバムに限らず、Joniの曲の中では明るめのサウンドのナンバー。タイトルが示す通り、歌詞自体はそれほど明るいモノではないけれど。ここでリズム隊が初めて自己主張。それと、ここでの主役はやはりTom Scott。ここで使用しているWoodwindsというのは、いわゆるクラリネットなど木管楽器の総称。
 きちんとアレンジや構成が練られたサウンドなので、普通に聴きやすい。ハイハットを多用したリズムも、ロックに飽きた耳には心地よい。



3. Free Man in Paris
 2.とほぼ同じコード進行が続く。同じくJoniの中ではポップな曲。ここでバンド隊が少し変更して、コーラスに参加しているのはDavid CrosbyとGraham Nash。この頃、Davidとの関係は惰性になっており、何となく義務感半ばでくっついていたのだけれど、後のJacoの登場によって、捨てられる運命にあるDavid。まぁこの頃はCS&Nがヒットしていたので、彼も女には困ってなかったのだろうけど。
 フュージョン・サウンドとの奇跡的な融合が成功しているにもかかわらず、歌ってる内容は、仕事をさぼりたがるDavid Crosbyの愚痴が主題。英語だからいい感じに聴こえるけど、もうちょっと何とかならなかったの?と思ってしまう内容。まぁシャレで歌っているのだろうけど、そのシャレが後年まで残ってしまっているので、下手すると黒歴史になってしまいそう。

4. People's Parties
 このアルバムでは全編Joni自身がアコギを弾いているのだけれど、この時代にこれだけきれいな音でストロークを録れたというのは、録音技術ももちろんだけど、やはりテクニックの部分が大きい。特にこの曲はアコギが主役となっており、彼女が名手と呼ばれているのがわかる。
 
5. Same Situation
 4.とメドレー形式の組曲となっており、同傾向のナンバー。今度はピアノが主役となっており、この辺は今後のフュージョン路線の原型となるソフト・サウンディングが展開されている。ここで初めてストリングスが使用されているのも、曲のムードを壊さない程度でマッチしている。


6. Car on a Hill
 LPではここからB面。メロディが立った曲なので、ちょっと親しみやすい。ブルース色濃いWayne Perkinsの浮遊感あふれるギター・プレイが、フュージョン・テイスト満載。Joni自身による多重コーラスは倍音が多く、夜聴くと不安げになってしまう時があるので注意。

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7. Down to You
 B面ではメインとなる、5分超のピアノ・バラード。ここでJoniはピアノとクラヴィネットをプレイ、ここはあまり他人を入れたくなかったのか、ほぼ独りで創りあげたオーケストレーション以外はDavidらコーラス隊のみ。歌詞も重いラブ・ソングなので、ある意味Davidへの当てつけのような曲。

8. Just Like This Train
 シンガー・ソングライターとしてのJoniが堪能できる、アルバムのフックとなるナンバー。こちらもメロディを引き立たせたアレンジなので、聴きやすい。この人はピアノに向かうと鬱々とした感じになってしまうので、ギターの方がイイ感じの軽みが出て親しみやすくなる。一見、強面なのだけど、笑ったらカワイイ表情、それがJoni。
 置き去りにされた負け惜しみの歌詞は相変わらず重いので、サウンドがこのくらい軽い方がちょうどいい。

9. Raised on Robbery
 あまり知られてないけど、Joniにとって唯一と言っていいロックンロール・ナンバー。まるで”Johnny B. Good”のようなリズムに乗って軽やかにスイングするJoni。演奏陣も楽しそうで、Tom Scottもこのアルバムで唯一、ブロウするサックスを聴かせている。
ここでギターで参加しているのがRobbie Robertson。まぁカナダ繋がりだし、何かと接点はあったのだろう。こういう人が一人入っていると、同じバンドでもノリがまるで違ってくる。それがバンド・マジックというやつなのだろう。

10. Trouble Child
 饗宴は終わり、ここから一気にジャズ・テイストが濃くなる。この終盤2曲が好きになってきたのは、俺が年を取った、ということ。だって、昔だったら全然興味なかったもの。
 ミュート・トランペットの響きは、当時のロック・ファンにとっては新鮮に映ったんじゃないかと思う。こういったサウンドはヒット・チャートではなかなか出会えなかったはずだし。



11. Twisted
 前曲のChuck Findleyによるトランペット・ソロから切れ目なしに続く、本格的なジャズ・ナンバー。このアルバムの中では唯一のカバー曲で、ジャズ・シンガーAnnie Rossの1952年のヒット曲。
youtubeでオリジナルを聴いてみたところ、Annieの方はちょっと硬い歌い方なのだけど、対するJoniはセクシャリティは前面に出したヴォーカルを聴かせている。まぁオマケの曲みたいなものなので、シャレっぽく歌ってみたのだろう。オリジナル曲なら、絶対しないはず。
 曲中で掛け合いを披露しているCheech Marin、Tommy Chongは、それぞれアメリカのコメディアン。歌詞の内容もスタンダップ・コメディアンがステージで披露しているような小噺風なので、起用に至ったんじゃないかと思う。




 今年になって動脈瘤で倒れたJoni、最近のステートメントでは、「順調に回復している」とのこと。もうあまり無理はできないだろうけど、まずは生きていてほしい。
彼女のような生き方の人は、創作活動とは「業」のようなものであり、意識が続く限りはそこへ向かわざるを得ない。それは誰のためでもない、
 生きること、それはすなわち表現し続けること―。
 彼女のためにあるような言葉である。


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