choke-50b115e9c67ac 1990年にリリースされた2枚目のアルバムで、当時の全英チャートでは最高2位。3曲のスマッシュ・ヒット・シングルを収録しており、デビュー・アルバムに続いてのヒット・アルバムになった。
 この年のUKシングル年間チャートを見てみると、何故か1位がElton John、かと思えばSinead O'Connorが、あのPrince作”Nothing Compare to U”で上位にランク・インしており、以下有名なところではMadonna “Vogue”、キワモノ枠として、あのインチキ・ラッパーVanilla Iceが続く。そんなカオスなラインナップの中、本アルバム収録曲”A Little Time”が堂々13位に入っている。アコースティックを基調としたソフトなサウンドはいつも通りだけど、彼らのナンバーの中では比較的毒の少ない歌詞だったのも、ヒットの要因だったと思われる。

 当時はニュー・ウェイヴの延長線上にあったギター中心のサウンドから、ヒップホップ/ハウス・ビートの勃興期で、次第にリズム主体のサウンドが勢いづいていた頃、New OrderやDepeche Modeらが切り開いたサウンドが一気に花開いた頃でもある。MC HummerやEMF、Soul Ⅱ Soulなど、これまでの80年代常連組から一気に世代交代が進んでいる。
 とは言ってもみんながみんな、激しいビートやサウンドを求めていたわけではない。時代的にはマンチェスター・シーン真っ只中ではあったけど、英国人すべてがレイヴ・パーティに参加するはずもなく、大多数の善良な市民は、それこそElton JohnやBeautiful Southのようなゆるいサウンドを求めていたのだ。
 ちなみに同じ1990年、日本のオリコン年間チャート1位は”おどるポンポコリン”、次に”浪漫飛行”、ひとつ飛ばしてたまの”さよなら人類”と続く。似たようなもんだなこりゃ。

 前進バンドHousemartinsの時代から、ネオ・アコ・サウンドを基調とした爽やか系健康的なポップを志向していた彼ら、そこからビッグ・ビートの祖とされているNorman Cook、通称Fatboy Slimが抜けて新バンド Beautiful Southになるわけだけど、そこでサウンドのビート担当が抜けることによって、残るメロディ担当がメインとなる。
 で、彼らのメイン・ターゲットというのが、いわゆるその他層、音楽的にコアなサウンドを求めるユーザーではなく、もっと裾野の広い範囲、極論すれば、一家に一枚、イギリスの平均的な家庭になら必ずあるElton JohnやBeatles、Cliff Richardの横に並べられることを想定したサウンド作りを行なっていた。
 
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 国民の大多数を占める一般庶民に根ざした的確なマーケティング、といえば聞こえは良いけど、まぁ彼らの場合、特別にナニするでもなく、普段通りにしていれば、それがそのまま的を射ているので、そうした苦労はしていなかったと思う。
 最大公約数に合わせた中庸なサウンドは、適度に耳触りが良く、鼻歌でハミングしやすく、それでいて後に残らない。基本、スタンダードになりやすい曲調なのだけど、どぎついエログロな歌詞が、単純に聴き流せる イージー・リスニングにならないよう、そこは踏みとどまっている。きれいな歌声で流麗なメロディに乗せて、マニアックな歌詞を口ずさむという、彼らのオリジナリティーは既にこの時点で確立している。
 思えば国民的歌手の枠を飛び越えて、王室からナイトの称号まで受けてしまったElton Johnもまた、詞曲はまともながら、ゲイという性癖の反動からなのか、かつてはエキセントリックなキャラクターをステージで演じており、ポップ・ミュージックを選んでしまった男たちの業を感じる。

 庶民的なのはサウンドだけでなく、見た目もそのまんま、労働者階級の工場帰りのようなそのファッションは、もはやカジュアルを通り越している。はっきり言って、ほとんど普段着なのだけど、だからといっていきなり揃いのスーツでスタイリッシュに決めても、違和感しかない。
 いや待てよ、シャレでやってみたら、一、二回はアリか。

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 基本、デビュー当初から音楽性が固まっていたため、サウンド的な変遷で目立ったものはない。そもそも解散したのも、セールスの落ち込みによってバンド活動が維持できなくなったためであって、特別仲違いしたわけでもない。バンド・ストーリーによくある「存続の危機」やら「音楽性の衝突」など、そういったドラマ性とは無縁の連中である。
 なので、正直どのアルバムから入っても、それなりのクオリティは保証されている。乱暴に言ってしまえば、どれを聴いてもそんなに変わりはない。安定したクオリティと言えばカッコいいけど、代わり映えのしない人たちでもある。
 活動末期になって、レコード会社の要請だったのか、旧友Norman Cookを招聘してリズム面の新機軸を打ち立てようとしたことはあったけど、さすがのFatboy Slimもそのゆるい作風を根底から崩すことはできず、大幅な路線変更は叶わなかった。

 ちょっと話は逸れるけど、ラーメン屋におけるプロとアマの違いとして、「安定した仕事」というのが第一に挙げられる。
 潤沢な予算と時間を使えば、たとえ素人でも美味しいものができる。筋の良い者なら、プロ顔負けのラーメンも作れるかもしれない。なので、アマチュアほど手間暇を惜しまず、ディテールにも凝るので、かなりの確率でそれなりのモノができる。
 問題はその次だ。今日120パーセントのラーメンができた。でも、次の日は80パーセントの出来だった。また次の日は50パーセントかもしれない、でもその次は150パーセントで挽回してやる。
 これじゃダメなのだ。
 プロの条件とは、コスパとかマーケティングとかいろいろ基準はあるけど、ここで最も大事なのは、「商品の安定供給」だ。毎日ラーメンを作る上において、もちろん常に100パーセントが理想だけど、そうそううまく行くものではない。なので、客に出せる最低ラインだけは決めておく。90パーセントなら90パーセント、それ以下のラーメンは出さないようにする。それが商売の基本だ。
 もしかして、たまたま85パーセントのラーメンを客に出してしまうかもしれない。作る側にしては何百杯の中の一つでしかないけど、そのお客がここでラーメンを食べる機会は、一生に一度しかないかもしれないのだ。
 なので、常に同じクオリティの商品を安定して供給するということは、プロとしての最低条件である。

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 プロのポップ職人である彼らもまた、できるだけ生産ロスを出さない考えのもと、常に80パーセントの作品を安定供給してきた。大きな失望もなければ、大きく心を動かす感動も少ない。でも、最大公約数的な考えでいけばOKなのだ。
 常に定番の味のラーメン同様、彼らもプロとして、定番のサウンド、偉大なるワンパターンを継続していったのだろう。


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1. Tonight I Fancy Myself
 ヴォリュームを絞ったバグパイプのとモノローグのSEから始まる、フォーク・ロック調の牧歌的なナンバー。初代女性ヴォーカルBriana Corriganとの楽しげなデュエットだけど、「自動車事故」だの「切断された頭部」など、なかなか不穏なキーワードが仕込まれており、こういった曲をトップに持ってくるのが、彼らの持ち味である。

2. My Book
 シアトリカルなムード漂う、とてもネオ・アコ出身とは思えないサウンドを展開しているのだけれど、タイトル通り短編小説仕立てのナンバーなので、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。詳しい訳はちょっとわからないのだけど、google翻訳で見てみたところ、どうも狂人の日記っぽく読める。
 ちなみにこんな気色悪い歌詞なのにシングル・カットされており、一応UK最高43位。そこそこ売れてしまっているのが、彼らの恐ろしいところであり、また英国人の不可解なところ。



3. Let Love Speak Up Itself
 彼らのもう一つの持ち味である、甘くムーディな正統派バラード。ちゃんとサビに向かって盛り上がるメロディなので、こういったものを照れずに、もっと量産していれば、もうちょっと違った展開もあったと思うのだけど、余計なお世話か。
 ちなみにこちらもシングル・カットされているのだけれど、UK最高51位。どう考えたって、2.よりもキャッチーで売れ線だと思うのに、ランクは下だったのは、俺的にはちょっと不可解。そこが英国気質と言われてしまえば、それまでだけど。



4. Should've Kept My Eyes Shut
 ちょっとアバズレっぽく歌い出すBrianaのヴォーカルが映える、ミドル・テンポの、こちらもちょっぴり牧歌的なナンバー。なのに内容は要するに痴話喧嘩。女性が優勢なのか、男性ヴォーカルPaul Heatonの声も心なしか疲れ切ってやつれ切って、精彩を欠いている。そこが狙いなのだけど。

5. I've Come For My Award
 ちょっと憂いを感じさせる、マイナー調のギター・ポップ。バンドのはずなのに、あまりバンドらしさを感じさせない彼らにしては、珍しくバンド・サウンドなナンバーである。バンドバンドってクドイな、ちょっと。
 拝金主義を高らかに歌い上げるその皮肉は、やはり英国人ならでは。そのため、サウンドもハードになっている。

6. Lips
 1分足らずのブリッジ的なナンバー。まぁ歌詞も適当なので、ちょっとあまったマテリアルに手を加えた感じ。メロディは美しいので、ボツにしてしまうのが惜しかったのだろうと思われる。

7. I Think The Answer's Yes
 すごく爽やかなフォーク・ロック調のナンバーで、相変わらずメロディも流麗であるというのに、ストレスに押しつぶされそうなビジネスマンの悲哀を皮肉たっぷりに描くのは、ほんと正確悪そう。その毒素は時事問題から、何故かU2やSimple Mindsにまで飛び火し、最後には、ロープかガス、どっちでくたばろうかと苦悩しながら、終わる。
 なんじゃこれ。でも、こんなのがイギリスのごく平均的な家庭には、必ず1枚はあったのだ。

8. A Little Time
 初のUK1位と共に、EU各地でもそこそこスマッシュ・ヒットした、初期の彼らの代表曲。サウンド的には中庸と言えば中庸、ほんとクセもなく口ずさみやすいのだけど、相変わらず内容は痴話喧嘩。
 男女交互にヴォーカルを分け合うスタイルは、日本で言えばヒロシ&キーボーかバービーボーイズと決まっていた。これが本格的に90年代に突入して、もっとサウンド的に下世話になればglobeになるのだけれど、そこはちょっと早すぎた。



9. Mother's Pride
 アップ・テンポになったせいなのか、演奏パートが気合が入っているっぽい。特にベース、ちょっと目立ちづらいけど、なかなか面白いフレーズを弾いている。このサウンドじゃ目立たないに決まってるのに。
 アルバムも終盤に差し掛かり、こちらも小休止、2分程度の短い曲。

10. I Hate You (But You're Interesting)
 主にギターのストロークをバックにした、彼らにしては重苦しい曲調のナンバー。何故か後半にラグタイム・ピアノが絡んでくるけど、すぐまたフェード・アウト。これもちょっと訳が分からなかったのだけど、中盤の”Me”の連呼と言い、ちょっと壊れちゃった感じに意味不明。

11. The Rising Of Grafton Street
 大団円は爽やかなアップ・テンポのインスト。カーテン・コールのように演奏隊は総出演している。ちなみにGrafton Streetとは、アイルランドはダブリンのメイン・ストリート。英国人なら多分その意図がわかるのだろうけど、俺的には不明。




 本国イギリスではプラチナ認定、30万枚以上のセールスを記録した本作だけど、記録ではニュージーランドで最高46位にチャート・インしたくらいで、ほんとガラパゴス的な売れ方がこの時点で確立してしまっている。なかなか本国以外ではわかりづらい比喩も含まれているので、他国で売るのは難しかったのだろうけど、もともと本人らが近所のパブで週末に演奏できればそれでオッケー的な人たちなので、それもまた仕方ないか。


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