folder 1986年に発表された、Elvis Costello 11作目のアルバム。ある意味彼にとっては転機、または過渡期ともいえる時期に当たり、このアルバムを出した後、2作目『This Year’s Model』より長年バックを務めていたAttractions と決別した(数年後、『Brutal Youth』にて一時的に関係復活)。

 この人の一般的なイメージとして、もっとも有名なのが映画『ノッティングヒルの恋人』の挿入歌である「she」(もともとはMichel Polnareffのカバー)であり、また少しロックをかじってる人なら、初期2作のパンク路線がロックのディスク・ガイドの定番として紹介されてることはご存じだと思う。
 
 全キャリアを通してみると、職人的に、一貫した音楽性を追求することには、あまりこだわってない人である。むしろ目新しいムーブメントが流行れば気軽に乗っかったり(微妙にタイミングがずれていたりする)、その時々のマイ・ブームの勢いのまま、アルバム一枚作ったり。
 爆発的とまではいかないまでも、中堅どころとしてそれなりの成功を収めたかと思えば、決まったレッテルを貼られるのがイヤなのか、それとも英国人特有の皮肉っぽいアマノジャク気質が顔を出すのか、
 あまり売れそうもない、地味なアルバムを作る→
 注目されなくなったことに焦る→
 また気が変わって、目ぼしいブームに乗っかろうとする→
 反動で地味になる→
 の無限ループがCostelloの変遷である。
 
 初期のパンク・ムーブメントに乗っかった2作(『My Aim Is True』『This Year’s Model』)の後、ちょっとシングル・ヒットを狙ったり、モータウンを含めたソウル・リスペクトのアルバム(『Get Happy』)を作り、このままキャッチーな路線を行くかと思えば、その反動なのか、単身ナッシュビルへルーツ探求の旅、結果丸ごと1枚カントリーのアルバムをリリース(『Almost Blue』)してアルバム・チャートをダウンさせ、またその反動なのかレコード会社からのプレッシャーがかかったのか、当時の有名プロデューサーClive Langer & Alan Winstanleyと組み(組まされ)(『Punch The Clock』)、本意かどうかは知らないけれど、当時のMTVパワー・プレイのフォーマットにまんま乗っかったPVを作り、これまた今まで接点のなかったDaryl Hallとデュエットしている。それだけメジャー・シーンに魂を売ったはずなのに、思ったほど売れなかったのが面白くなかったのか、それとも例の英国人特有のへそ曲がり気質がぶり返したのか、再びルーツ探求の旅へ。盟友Attractionsをほったらかして、再び単身アメリカへ、今度はまさしくElvis のルーツ、Presleyの元バック・バンドを中心にレコーディング開始、今度はCostelloの名前を捨てて、本名のDeclan Patrick Aloysius MacManusを名乗り、バンド名をThe Costello Showと命名、これまた超絶地味なアルバムを作ったり(『King Of America』。これはこれで結構好き)。


 で、この後インディーズに移り、最後にAttractionsと組んで発表したのが、このアルバム。発表当時、Elvis Costelloといえば、日本でもすでにそこそこのネーム・バリューがあったはずなのに、契約上の問題によって、当初国内版は発売されず(少し経って直輸入盤の形で、ごく少量だけ流通した)、メディアの反応もイマイチ地味だった記憶がある。

 取り巻く状況としては分が悪いにもかかわらず、作品としてのクオリティは高い。メジャー・レーベルで要求された、ヒット・シングル、チャート・アクションなどの変なしがらみから解放され、旧知の仲であるNick Loweにプロデューサーを依頼(ほとんどブースで飲んだくれていただけ、という説もある)、ヤケクソの開き直りなのか、それとも充分に内容を練る時間も予算も人間関係もなかったのか、徹底したバンド・サウンドにこだわった、結果的にストレートなロック・アルバムに仕上がっている。
 
 前述したように、当時のバンドの人間関係は最悪な状態、特にベースのBruce Thomasとはこれを最後に袂を分かち、事実上Attractionsは解散してしまう(『Brutal Youth』で限定的に復活するものの、あくまで一時的なものだった)。そんな状況下のせいなのか、全キャリアを通して、Costelloのギタープレイが最も堪能できるアルバムとなっている。ほぼヤケクソ気味に、とにかく弾きまくっている印象が強い。
 楽曲も実際、「uncomplicated」、「I want you」、「I Hope You’re Happy Now」など、現在でも度々ライブで演奏される曲が多い。いい意味で円熟した現在のCostelloにとって、もう決して作ることができない、何度か訪れたソング・ライティングのピークに書かれた、愛着のある楽曲たちなのだと思う。


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1.uncomplicated
 不穏なギターの響きから始まる、アルバムのカラーを象徴する、バイオレンスな曲。行進曲を思わせる三連ドラムと、怒りに満ち溢れたCostelloのギターのみで演奏され、ほぼずっと同じ構成ながら飽きさせない、つかみはOKの楽曲。
 
 

2.I Hope You’re Happy Now
 ここから、盟友Steve Nieveも加わる。
 昨年のGlastonbury Festivalでも一発目に演奏され、ファンの度肝を抜いた。出だしがBeatlesの「Nowhere Man」を連想させる、ギター・ポップ・ライクな曲。
 
3.Tokyo Storm Warning
 ここまで3曲、Costelloは一心不乱にギターを弾きまくっている。シンプルなギター・リフと、印象的なタイトル連呼のコーラスだけでほぼ構成された、こちらもパンチの利いた曲。もちろん、日本のファンにとってはなじみ深い、思い出の多い曲。

  
 
4.Home Is Anywhere You Hang Your Head 
 ここでちょっと一息、テンポをスローに、でも抑圧された怒りが満ち溢れた曲。昔は冒頭の3曲のインパクトが強く、地味で印象の薄い曲に思われたけど、こういったのもいいな、と思えてくるのが、年を取った証拠なんだろうな。 

5.I Want You
 ほとんどソロ弾き語りの曲。バンド名義ながら、こんな濃い目の激情バラードを入れてしまうあたり、決して一枚岩ではなかった、当時のスタジオの空気が感じられる。

  
 
6.Honey, Are You Straight or Are You Blind? 
 Steveの気の抜けたキーボードの音色が、「Watching the Detectives」を連想させる、最初は脱力してしまいながら、中盤に差し掛かるあたりから盛り上がる、これまた怒りまくったCostelloがいる。2分足らずの短い曲ながら、インパクトは充分。 

7.Blue Chair
 シングル発売もあったらしいけど、何しろプロモーションがほとんどなかった状態だったので、存在を知ったのは、後日発売されたコンピレーション(『Out Of Our Idiot』)でだった。
 ミドル・テンポでポップなアルバム・バージョンと、少し走ったリズムでラウドなシングル・バージョンとでは、ファンの間でも好みが分かれているけど、俺的には適度にポップなアルバム・バージョンの方がしっくり来る。
 緊張感の張りつめたアルバムの中の、一服の清涼剤的な良曲。

  
 
8.Battered Old Bird
 ちょっと鬱気味になってしまいそうな、暗闇の奥底から響いてくるようなギターのストローク、それに乗せて歌う、こちらもどマイナーでダークなCostelloのヴォーカル。バラードとしては感情の昂ぶりがかなりマックスなのだけど、陰鬱としてしまうのだろうか、その後、あまりライブで演奏した記録は少ない。
 
9.Crimes of Paris
 
Betlesライクな構造の、カントリー・テイストも入ったポップ・ソング。ちなみにコーラスで参加のCait O'Riordanは当時Pogues所属、後にCostello夫人の座に収まることになる。なるのだけれど、後に離婚。付き合い始めのカップルらしく、軽快なサウンドだけど、「パリの犯罪」というタイトルが示すように、内容は皮肉満載。 

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10.Poor Napoleon 
  「貧しいナポレオン」とは、まさしくCostelloを指す。まるで自分が裸の王様である、とでも揶揄するかのように。
 ここでもCaitが曲中モノローグで登場。やっぱり思い出したくないのか、その後ライブでの演奏回数はごくわずか。普通にライブ映えするナンバーなので、聴けた人はほんとラッキー。 
 
11.Next Time Round
 最後は大団円的に、ここではNick Loweもアコギで参加。こう言った曲を聴くと、CostelloはほんとBeatlesが好き、またはルーツとして色濃く残っているのがわかる。初期BeatlesのJohnとPaulを模した、サビの多重コーラス振りからは、楽しげな表情のCostelloが思い浮かぶ。でも、Nickのヴォーカルじゃダメなんだろうな。俺としては結構好きなのだけど。



 半ばヤケクソ気味に初期衝動をそのままぶつけたようなアルバムを作り、ある意味発展的解消を行なった後、一転、今度はワーナーとワールドワイド契約を結ぶ。その後はメジャーな活動がしばらく続くのだけれど、それはまた次回のCostelloで。



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