folder 近年の女性シンガーの中では圧倒的にキャラが強くてゴシップも多く、それでいてただの流行りものではない、記名性の強いヴォーカライズで世間を魅了したAmy、非業の死からそろそろ4年経過しているのだけど、今ではすっかり話題に上ることもなく、潮が引いたように忘れられつつある。亡くなった直後はそれなりにエンタメ業界にも激震が走り、アウトテイクをかき集めたようなラスト・アルバム『Lioness: Hidden Treasures』がリリースされたのだけど、その後はこのBBCライブがリリースされたのみで、それ以降の動きはほとんどない。未発表音源や他アーティストによるトリビュートの動きもあると思っていたのだけど、そういった盛り上がりもなさそうである。

 音楽業界に限らず、現在エンタテインメントの第一線で活躍するアーティストには、その才能とは別に、コンプライアンスの遵守が強く求められている。かつてのようなドラッグまみれで自堕落なロックン・ロール・ライフを送る者への風当りは強く、今じゃチャンスすら与えられない状況が続いている。
 スキャンダラスな言動やパフォーマンスによって注目を浴び、スターダムにのし上がる行為自体は、今でも続いている。しかし、一旦ヒットを産む存在になると、そこから路線変更を強いられる。ソフィスティケートされたエンタメ業界において、ファッションとしてのアウトローは、今でも十分セックス・シンボルとしての需要はあるけど、あくまでビジネスとして割り切って演じなければ、次第に隅に追いやられてしまう。イメージの世界以外では、常識人としての立ち振舞いが求められるのだ。

 そういった制約を窮屈に思っていたのか、はたまたそこまで考えが及んでなかったのか。結果的に破滅的な生涯ばかりが取り沙汰されるAmy、ある意味、生まれ来る時代を間違えてしまったんじゃないかと、都度思ってしまう。

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 Amyと同じような流れを歩んだアーティストで、俺が真っ先に思い出したのがJanis Joplin。彼女もまたAmy同様、本当に心を開ける友人や恋人が周りにいなく、孤独な生涯を短く生きた人である。キャリアの絶頂でオーバードースで亡くなってしまった部分も、Amyと重なっている。ちょうど次のアルバムのレコーディング途中だったため、残された音源をどうにかこうにかつなぎ合わせ、追悼盤として『Pearl』が作られ、皮肉にもJanis最大のヒットとなったのは有名な話。
 Janisの場合、その後も破天荒な生き様が70年代ロック特有のロマンチシズムと合致して、無数のフォロアーやインスパイアされた作品も含め、彼女自身の発掘音源も時々リリースされているのだけど、Amyに至っては、そういった動きもほとんどない。

 Janisが亡くなったのが70年代初頭、当時はまだロック・ビジネスも黎明期で、彼女のように波瀾万丈なストーリーも、話題性のひとつとして寛容に受け入れられるような雰囲気はあったのだけれど、現在ではAmyのようなアーティストにとって生きづらい時代になっている。表舞台での破天荒ぶりは許容されているけど、一旦プライベートに返ると、良き家庭人としての側面を見せなければならないのだ。

 Amyの場合、生前フル・アルバムとしてリリースされたのは実質2枚、死後に1枚と、物量的にはかなり少ない。しかも最近のリリース傾向として、1年も経たないうちに2枚組デラックス・エディションが出るという流れ なので、すでにマテリアルが使い尽くされている状況である。実際の活動期間も短いため、掘り返したとしてもリリースできるほどのクオリティのアイテムがどれだけあるか。
 あとはライブ発掘に期待するしかないのだけど、これまた末期はアル中の度合いがひどすぎて、まともにフル・ステージ演じ切れなかったケースも多々なので、さてどれくらい残っているか。

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 Mark Ronsonのディレクションによる華々しいデビューによって、主にポップのフィールドで活躍してた人だけど、本来はBilly HolidayやHelen Merrillの流れを汲んだ、正統なジャズ・ヴォーカルの人である。特にそのスキャンダルに翻弄された生き方は、Billyと被る部分が多い。
 AmyとBilly、そして前述のJanisにも言えることだけど、どうしてもこの3人、スキャンダラスな面ばかりが強調されてしまい、純粋に音楽的観点での評価がしづらいところがある。音楽と対峙するその姿勢はとても真摯であるのだけれど、どうしても音楽自体より、そのバックボーン、音楽以外の生きざまやら行動様式に注目が行ってしまうことは、アーティストとしては不幸なスタンスである。

 Amyに絞って話を進めると、コンディションの違いはあれど、どのライブでも一回一回が真剣勝負、全身全霊を込めて感情を叩きつけるような姿勢でステージに上がっている。なので、ライブ・テイクを聴いてみると、どれひとつ同じ歌がないことに気づかされる。いい時は歴史に残る名演になるのだけれど、悪い時は、そりゃもう呂律も回らないくらいひどいもので、とにかくムラがある。
 ユルい構成によるサプライズが許容された昔と違って、緻密に構成されたエンタテインメントが求められる現代において、玉石混交な彼女の歌は規格外なのかもしれない。

 だけど、音楽に規律を求め過ぎるのは、ちょっと違うんじゃないかと思ってるのは、俺だけじゃないはず。


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1. Know You Now (Live At Leicester Summer Sundae 2004)
 デビュー・アルバム『Frank』収録。スタジオ・ヴァージョンはシンプルなバッキングでAmyのヴォーカルを引き立たせるサウンドだったけど、ここではホーン・セクションが目立っており、Amyの歌もサウンドの一部に過ぎない。
 やはり生バンドが入ると気合も違うのだろう。

2. Fuck Me Pumps (Live At T In The Park 2004)
 同じく『Frank』収録。UKでは4枚目のシングルとして切られ、最高65位。まだ”Rehab”フィーバー前なので、この時期のシングルはどれもチャート・アクションは弱い。
 基本、スタジオ・テイクと変わらないシンプルなアレンジで、60年代ソウルとジャズの融合した形。ジャジー・ソウルではない。そんな洒落たテイストの曲ではない。

3. In My Bed (Live At T In The Park 2004)
 『Frank』からの3枚目のシングル・カット。これだけの数のシングルがあったということは、アルバムもそれなりのアクションだったのだろう。最終的にはUKではプラチナ獲得まで行ってるのだけど、多分”Rehab”以降のセールスも多かったと思われるので、リリース直後の動向は、ちょっとわからない。
 スタジオ・テイクはMark Ronsonコーディネートによるムーディーな現代版ビッグ・バンド的アレンジだったのだけど、ここではブラス・セクションが大活躍している。俺的には、スウィング時代のディーヴァが甦ったという設定の、スタジオ・ヴァージョンも好き。
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4. October Song (Live At T In The Park 2004)
 この時期もそうだけど、Amyは主にバック・バンドDap-Kingsとの行動が多かった。以前も書いたけど、Amyとのコラボによってバンドの維持費を稼ぎ、そこで得たノウハウや資金をSharon Jonesとの活動につぎ込む、というループだったのだけど、近年ではSharonとの活動も軌道に乗り、安定した活動振りである、と言いたいのだけど、肝心のSharonも最近体調がよろしくない、とのこと。無事を祈りたい。
 ここまでがデビュー間もないAmyのパフォーマンスが聴けるのだけれど、まぁ見事に変わってないアバズレ振り。手練れのバンドの振り回し具合、そしてどれだけAmyが脱線しようとも、最終的には帳尻を合わせてくるバンド陣。絶妙なコラボレーションが堪能できる。

5. Rehab (Live At Pete Mitchell 2006)
 ここから2枚目『Back to Black』収録曲が続く。UKではチャート最高7位だけど、世界各国でゴールド、プラチナムを獲得しまくった、言わずと知れた大ヒット・ナンバー。日本でもFMを中心にヒットしたし、結構TVでもサウンド・クリップとして、いろいろなところで使われている。なので、老若男女、知ってる人は意外に多い、データだけでは計り知れない認知度を誇る楽曲でもある。
 ここでのアレンジは至ってシンプルなため、ドスの効いたAmyのヴォーカルが前面に出て迫力が引き立っている。Rehabの意味は文字通りリハビリ。その後の経緯を思うと、歌詞が突き刺さってくる。

6. You Know I m No Good (Live At Jo Whiley Live Lounge 2007)
 こちらもUK最高18位にとどまったけど、同じく人気の高い曲。俺的には”Rehab”よりこっちの方が好きだし、実際ネットでもこの曲へのリスペクトは高い。50~60年代の古いジャズ・ソングかと思ってたのだけど、後にオリジナルと知って、ちょっとビックリ。2枚目でこの貫禄だったのだから、さらにキャリアを積んだら、とんでもない存在になってたんじゃないかと思うのだけど、うまくいかないものだ。



7. Just Friends (Live At Big Band Special 2009)
 この曲もそうだけど、『Back to Black』における双頭プロデュース体制というのはかなり的を射ていたんじゃないかと思ってしまう。ヴィンテージなソウル・テイストのジャズ・ヴォーカル・ナンバーはSalaam Remi、キャッチーなポップ・ソウルはMark Ronsonと役割分担することによって、アルバム的にもバラエティ感が出、チャートでも十分健闘できるスタイルを、この時点ですでに築き上げていた。
 実はスタジオ・テイクはちょっと大人しめなのだけど、やはりここはDap-Kings、そろそろヘロヘロになりつつあったAmyをサポートしつつ煽り立てている。

8. Love Is A Losing Game (Live At Jools Holland 2009)
ご存じイギリスの有名な音楽番組『Later With Jools Holland』からのテイク。時々CSミュージック・エアでも再放送しているので、うまくいけば見れるかもしれない。
 この曲もスタジオ・テイクは無難なポップ・バラードなのだけど、ここではAmyがドスを効かせたジャズ・バラードに仕上げている。ミックスのせいなのか、ピアノのアタック音も強く、演奏陣も力が入っている。やはりJools Hollandの前では手を抜けないのか?
 
9. Tears Dry On Their Own (Live At Jo Whiley Live Lounge 2007)
 UK最高16位まで上昇した、こちらもファンの間では人気の高い曲。なので、追悼盤『Lioness: Hidden Treasures』にも初期ヴァージョンが収録され、ここでもまだ元気な声の頃のAmyのヴァージョンで収録されている。俺的にAmyは『Lioness: Hidden Treasures』が最初だったため、どうしてもこのヴァージョンが基本となってしまっている。



10. Best Friends, Right (Live At Leicester Summer Sundae 2004)
 ヴォーカル・プレイとしては、多分これがベスト・テイク。もっとも声も通ってるし、フェイクやアドリブも効いている。ジャズ・ヴォーカル特有の崩し加減が苦手なビギナーも多いのだけど、このレベルなら充分人を惹きつけられる。

11. I Should Care (Live At The Stables 2004)
 ただ、この曲以降になると、本格的なジャズ・ヴォーカルが多くなる。まぁアルバム構成上そうなったのだし、普段のライブでも、何曲かはこのようなスタイルのスタンダード・ジャズを演っている。
 もともとは1944年、Bing Crosbyに書かれた曲ということなので、スウィングの入ったジャズ・ソングである。

12. Lullaby Of Birdland (Live At The Stables 2004)
 同じライブから、もう1曲。Birdlandはもちろん、Charlie Perkerのライブハウスにちなんだもので、こちらもゴリゴリのジャズ・ナンバー。Ella FitzgeraldのためにGeorge Shearingが書いたことは、いま知った。

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13. Valerie (Live At Jo Whiley Live Lounge 2007)
 オリジナルは2006年UKインディー・バンドZutonsによるもので、2006年のワールドカップで頻繁にメディアに使用され、イギリスではお馴染みの曲らしいけど、まぁそんなことは俺もいま初めて知ったくらい。
 Mark Ronsonとのフィーチャー・シングルとしてリリースされ、こちらもUK2位、EU圏でも数々のトップ10入りを果たしている、近年にしてはめずらしくジャズ・テイストの強いポップ・ソング。

14. To Know Him Is To Love Him (Live At Pete Mitchell 2006)
 これも昔から有名な、Phil Spectorによるオールディーズ・ポップ・ソング。シンプルなバッキングに、素直なヴォーカルを乗せる、ゆったりとした秋の夜長を感じさせる、夜にピッタリのナンバー。



 と、ここまで書いてから、Amyのドキュメンタリー映画がひっそり公開されていたのを、すっかり忘れていた。7月にイギリスで上映されたのだけど、その後日本で公開されるのか、それともDVDのみの発売なのか、情報は入ってこない。そこそこのヒットはしたようだけど、まぁ作品の性質上、大々的なロードショーというわけにはいかないようだ。
 本国イギリスでは、まだ忘れられていないことがわかっただけでも、充分としよう。



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