folder 1996年リリース、17枚目のオリジナル・アルバム。ワーナーに移籍してから企画モノが多かったCostello としては、『Brutal Youth』以来、2年ぶりの新曲アルバムとなる。「他アーティスト提供曲のセルフ・カバー」&「他アーティストへ提供することを想定して書かれた楽曲」で構成されているので、厳密な意味で言えば「全曲書き下ろし」ではないのだけれど、ほとんどの曲が初出ということなので、まぁざっくり言っちゃえばオリジナルみたいなものである。あぁめんどくせぇ。
 チャート・データを見ると、UK28位・US53位という、まぁまぁのアベレージ。ワーナーでは最後のオリジナルとなってしまったため、正直、それほど力を入れてプロモーションされたわけではない。
 この後、ベスト・アルバム『Extreme Honey』をリリースして、ワーナーとは契約終了、すでにマーキュリーとのワールドワイド契約が決まっていたため、いわば敗戦処理的ポジションのアルバムである。セールス推移やプロモーション体制において、不満は山ほどあったのだろうけど、マーキュリーの件も決まっていたこともあって、多分売れようが売れまいが、どっちだってよかったのだろう。
 そもそもこの人、レコード会社に対してボヤくのは、今に始まったことではない。「まぁた始まったよ」と、多くのファンは思っていたはずである。

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 ワーナー時代のCostello は、4枚のオリジナル・アルバム以外にも、やたら多方面へ足を突っ込み首を突っ込み、フットワークの軽い活動を展開している。その行動範囲はやたら広範に渡り、良く言えば精力的、悪く言っちゃえば、脈絡なく支離滅裂である。
 ワーナーとのワールドワイド契約を機に、Costelloは活動の拠点をアメリカへ移すことを決意する。世界レベルで本格的にブレイクするのなら、やはりエンタメの中枢に身を置いておいた方が、何かと都合が良かったためである。
 F-Beat / コロンビア時代とは段違いの予算とプロモーション体制をバックに従え、これまでのUK発パワー・ポップから、大幅にアメリカン・コンテンポラリーに寄せた2作『Spike』 『Mighty Like a Rose』をヒットさせた。Paul McCartney やRoger McGuinnら豪華ゲストを迎えてはいるけど、単にネーム・バリューに頼るだけでなく、Mitchell Floom やT-Bone Burnett ら堅実なコンポーザーも揃えたことで、従来ファンにも訴求できるサウンドを作り上げた。

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 コンテンポラリーAOR路線は、アメリカはもちろん、世界中でも好セールスを記録した。以前、ポップ・スター路線に色目を使ったはいいけど、思ったほどの結果を残せなかった『Punch the Clock』『Goodbye Cruel World』で味わった雪辱を、ここで克服したのだった。
 達成したとなると、もう満足しちゃったのか、その後はCostello 、ワーナーによるコントロールから逃れるように、音楽性があっちこっちフラつくようになる。あ、それは昔からか。
 次にリリースしたのが弦楽四重奏Brodsky Quartet とのコラボ・アルバム『Juliet Letters』。シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」にインスパイアされ、「ジュリエットに宛てた手紙」というテーマで作詞された作品、というコンセプトで作られており、そりゃ芸術性やアーティストとしての必然性は高いのだろうけど、まぁ売れるはずないよな。本人も売れるとは思ってなかったみたいだし。
 その後はロック/ソウル・クラシックスのカバー・アルバム『Kojak Variety』、何を急に思い立ったか、解散状態のAttractionsを招集、原点回帰のラウドなロック・アルバム『Brutal Youth』を作って、再びBruce Thomasと大ゲンカ。「ソリが合わない」って、そんなの昔っから、わかってたことじゃん。なんでわざわざ、蒸し返したりするの。

 どういった契約内容だったかは不明だけど、この時期のCostello 、ワーナーの外でもいろいろやらかしている。大抵はワンショットの単発契約だったと思われるけど、UKのプログレ・バンドGryphon のメンバーだったRichard Harveyと、BBCからの依頼でテレビのサントラを作ったり、UKのメルトダウン・フェスティバルにジャズ・ギタリストBill Frisell と出演、地味なライブ・アルバムをリリースしたりしている。
 どれも、メジャーでは取り扱いづらいプロジェクトである。マイナーなジャンルにも目移りしてしまうのは、これまた昔からのクセなのだけど、もうベテランなんだから、あちこち脇道それないで王道行けよ、と余計な心配さえしてしまうのが外野である。

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 もともとデビュー当時から、多様な方向性とヘソ曲がりが性分で、あっちへフラフラこっちへフラフラ、音楽性が定まらない人である。
 考えてみればCostello 、同じコンセプトのアルバムを2作続けると、次は思いっきり真逆の方向へ方向転換してしまう傾向がある。
 『My Aim is True』と『This Year’s Model』は、リリース時期が近かったのと、デビュー前のストックが多かったせいもあって、どちらも「パブ・ロックの延長線上に位置するパンク寄りのロックンロール」というスタイルだったけど、次の『Armed Forces』では、原石のカドが取れて、「ヒット要素も多いパワー・ポップ系」のサウンドに進化している。
 前述のポップ・スター希望アルバム『Punch the Clock』『Goodbye Cruel World』不発で打ちひしがれた後は、単身アメリカへ発ち、思いっきりレイドバックしたカントリー/ロックンロール・アルバム『King of America』をリリース、厭世観に囚われた改名騒動を引き起こす。
 で、再度メジャー展開を、とワーナーに移籍して『Spike』『Mighty Like a Rose』をリリース。ようやくアメリカでも浸透してきたかな、と思ったら気が抜けちゃったのか、全然違う路線の『Juliet Letters』、といった次第。
 ここらでもうひとつ、開き直って『Spike』2的なアルバムでも作っておけば、セールス的にも安定してたんじゃないかと思われるけど、それよりもアーティスティックな探究心の方が勝っちゃうのが、やはりCostelloである。まぁ、そこまでのスケベ心はない人だしね。そう考えると、Rod Stewartってすごいよな。

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 で、ワーナーの最後に出してきたのが、『All This Useless Beauty』。これまでの支離滅裂なカタログ・ラインナップからは予想できなかった、熟練した職人による泰然とした作風でまとめている。断続的にノー・コンセプトでレコーディングされた楽曲たちは、どれも違う個々の輝きを放ちながら、「Elvis Costello」という強力なプリズムによって一点に集約され、ひとつの完成された組曲を形作っている。
 時に彼の書く楽曲は、「何をやってもコステロ」という記名性の強さによって、一般ユーザーに浸透しづらい部分がある。どれだけメジャーになろうとも、商業性から大きくはみ出た個性は、スタンダードとなるにはアクが強すぎた。
 ここでのCostello は、自分以外のシンガーが歌うことを前提に楽曲を書き下ろしているため、自身の個性は若干抑え気味になっている。よって、本人は意識していないだろうけど、どうしても滲み出てしまうキャラクター・エゴを後退させ、純粋な楽曲の良さ・普遍性が引き立った。
 地味ではあるけれど、末永く聴き続けていられるアルバムである。あ、それって通常運転のCostelloか。


All This Useless Beauty
All This Useless Beauty
posted with amazlet at 17.09.02
Elvis Costello
Warner Bros UK (1996-05-08)
売り上げランキング: 445,950



1. The Other End of the Telescope
 'Til Tuesdayの女性ヴォーカルAimee Mannとの共作による1988年のナンバー。さわやかなカントリー・ポップのAimeeヴァージョン(Costelloもコーラス参加)の「粗野な女性がちょっと無理したポップ・アレンジ」感も良いのだけれど、ここでのCostelloは正しく王道ストレートの正攻法バラード。その後の正攻法スタンダード集『Painted From Memory』への布石とも取れる。Attractionsの演奏も抑制が効いており、アウトロのSteve Nieveのピアノ・ソロも完璧。シングル・カットはされているけど、UK最高96位。確かにシングル単体で目立つキャッチーさはない。いい曲だけどね。

2. Little Atoms
 Bruceのベース・サンプリングがループでずっと鳴っている、続けて落ち着いたバラード。ここでもCostello、とてもヴォーカル・プレイに気を遣っている。かつて、既存のスタンダードを壊す側だったCostelloが、ここではそのスタンダードのポジションに収まっているのだけれど、ひいき目じゃなくても、凡百の懐メロや二番煎じバラードとは一線を画している。目新しいサウンドも積極的に導入しながらも、先人へのリスペクトも忘れぬ姿勢。過去の良質な音楽遺産をベースに新たな視点を見出すという、考えてみれば極めて真っ当な手法である。

3. All This Useless Beauty
 1992年に発表された、イギリスのフォーク・シンガーJune Taborに提供されたバラード。他人へ提供したきりではもったいないと思ったのか、構成もメロディもすべての調和が取れている。アレンジも双方、大きな違いはない。Attractionsも堅実なバッキングに徹しており、とにかく歌を聴かせる演奏である。



4. Complicated Shadows
 ここまで冒頭3曲がバラードという、なかなか珍しい構成。ここまでシックなテイストでまとめられているのは、後にも先にもほとんどない。あ、『North』があったか。
 ネットリしたオープニングのロック・チューン。抑えた演奏だったバンドも、ここでは一気にフラストレーションを爆発させるかのように、ギアを上げている。Costelloもギターをかき鳴らしており、従来使用のAttractionsのプレイが堪能できる。
 手数の多いBruce Thomasの存在感は議論の分かれるところだけど、こういったアップテンポのナンバーでは相性は決して悪くないと思う。初期のサウンドが好きな俺的にはアリなのだけど、ロック一辺倒の人ではないので、スロー・テンポになるとちょっとウザくなっちゃうのかな。

5. Why Can't a Man Stand Alone? 
 「Deep Dark Truthful Mirror」を思わせる、Al Greenからインスパイアされたようなディープ・サウス・テイストのソウル・バラード。と思ってたら、Sam & Daveからインスパイアされた曲、とのこと。そうだよな、もっと泥臭いもの。

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6. Distorted Angel
 ドラム・ループと不安感漂うコード進行が印象的な、彼にとって珍しいタイプの楽曲。こういった凝った構成に敢えて挑んでいることから、常に前へ進む姿勢、目新しモノ好きなスタイルが窺える。シングルではトリップホップで一世を風靡したTrickyにミックスを委ねており、俺的にはすごく食いつくサウンドではないのだけど、「あ、こういったことをしたかったんだ」と腑に落ちた覚えがある。

7. Shallow Grave
 Paul McCartneyとの共作。彼とのコラボは「Veronica」「So Like Candy」など多岐なジャンルに渡っており、これは50年代のロックンロール/ロカビリーをモチーフとしている。ある意味、すでに完成されたジャンルなので、それほど新味を付け加えることはできないのだけど、イントロやサビ前のドラム・ロールなど、Paul単独では無難な仕上がりになってしまうところを、Costelloのヘソ曲りテイストでスパイスを利かせている。

8. Poor Fractured Atlas
 正攻法で書かれた、すごく地味なバラード。コードも特別凝った組み合わせは使われていない。でも、今回聴き直してみて、メロディ、ヴォーカルとも最も惹きつけられたのが、この曲だった。小細工も何もない、ほぼピアノだけがバックの、混じり気なしの「ただの歌」。普遍的な楽曲というのは、こういったものを指すのだろう。

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9. Starting to Come to Me
 ブルーグラスとロカビリーをくっつけたような軽快なナンバー。『Almost Blue』『King of America』でも同様のアプローチはあったけれど、ここでは前2作に漂っていた閉塞感はなく、一皮むけて突き抜けた爽快感に満ち溢れている。肩の力を抜いてサラッとプレイしているのは、アーティストとしての成長なのだろう。

10. You Bowed Down
 1991年、元ByrdsのRoger McGuinn提供曲のセルフ・カバー。初出時もCostelloとのデュエットでリリースされており、試しに聴いてみるとアレンジもほぼそのまんまだった。McGuinnといえば独特の12弦ギターということになっているけど、60年代サウンドはあんまり詳しくない俺にとっては、やはりこれはCostelloがオリジナル。
 中盤のフェイザーを通したヴォーカルや逆回転ギターが、当時のサイケ・ポップなムードを醸し出してるような気がするけど、ごめん、Byrdsにはあんまり興味ないので知ったかぶりはできない。
 シックなアルバムの中、こういったポップ・テイストの曲は必要だよね。

11. It's Time
 このアルバムのクライマックス。ていうかワーナー時代の締めくくりとして、最高のバラード。ウェットかつ激情あふれるヴォーカルとバンド・プレイをクールダウンさせるため、敢えてシーケンス・ドラムを入れるアイディアは秀逸。Costelloが考えたのか?いやそこまで器用な人じゃないよな。やっぱりNieveだよな。デラックス・エディションのデモ・ヴァージョンだと、何だか勢いだけの中途半端な曲だし。
 もはや円熟の域に達していたAttractionsであるからして、単なるイケイケだけのプレイだと空回り振りが目立ってしまう。逆に抑制したアレンジを施すこと、そして緩急をつけたヴォーカライズによって、楽曲の良さを最大限に引き出している。



12. I Want to Vanish
 3.同様、June Taborに提供されたナンバーのセルフ・カバー。ラストはCostelloとNieve、そしてBrodsky Quartetとのコラボ。最初は『Juliet Letters』のアウトテイクかと思ってたけど、どうやら新録であるらしい。
 堂々としたクラシック・テイストの正統派バラードは、後を引かぬ3分程度の小品にまとめられている。変にドラマティックに壮大な楽曲を持ってこないところは、やはりCostelloである。その辺は照れなのだろうか。




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エルヴィス・コステロ
ワーナーミュージック・ジャパン (2017-05-31)
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Singles Box Set
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Elvis Costello Steve Nieve
Warner Bros / Wea (1996-12-03)
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