好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

無記名の音楽

ひっそり現われ、姿を消す。忘れられた頃に脚光を浴びた、「無記名の音楽」 - Alice Clark 『Alice Clark』

folder  どこから来たかわからない音楽というものがある。
 得体が知れない、と言うと不気味なようだけど、出所不詳の音楽と言えばよいのか、ごくたまにそういった音がある。
 これだけポピュラー音楽の歴史も長くなると、砂上の楼閣のように埋もれてしまった音楽も多々あるわけで、その中でうまくサルベージされた物はごく僅か。
 ていうか、たとえ十年程度でも、後世に残る音楽の方が稀な存在であり、この世に生まれ出てきた音楽のほとんどは、ほぼ誰にも知られることなく、ひっそりとフェード・アウトしていった物の方が多いのだ。
 
 このAlice Clarkという女性の唯一のアルバムもまた、そういった類の音楽である。
 まず、デビューの経緯がはっきりしない。オリジナル・リリースのレーベルであるメインストリームは当時ジャズ/ジャズ・ファンク系の老舗だったが、それがどうしてこんな畑違いの「モロ」ディープ・ソウルのサウンドを手掛けたのか。多分、当時キャリアのピークだった Aretha Franklinの二番煎じを狙いに行ったと思われるが、あいにくそこまで売れることはなかった。
 作品のクオリティは申し分なかったのだけど、やはりジャズ系のレーベルだけあって、ソウル/ポピュラー系へのプロモーションが不得手だったのだろう。レーベルとしてもあまり力を入れてなかったのか、それともノウハウがなかったのか、あまりプロモーションも行なわれず、ほんと、ただ「リリースしただけ」といった感じだったらしい。
 
 セールス実績を残せなかったことにより、契約はワン・ショットで終わるのだけど、その後の彼女の足取りは不明である。その後も地道にライブを行なった風でもなく、ひっそり表舞台(というほど華やかでもないが)から姿を消している。記録にも残らないくらい場末のクラブばかり廻っていたのか、それとも完全に身を引いたのか。それすらもはっきりしない。

Alice-Clark2

 James Masonのレビューでも書いたけど、文字通りオンリー・ワンのアルバム、「無記名の音楽」である。突然何の脈絡もなく姿を現わし、そして何事もなかったかのように完全に姿を消す。
 よって、残ったのは純粋に音楽だけ。
 
 Aliceがほんとに脚光を浴びるのは90年代に入ってから。世界的なレア・グルーヴ・ムーヴメントによって、過去のジャズ、ファンク、ソウル、ラテンなどの音源が再発見されるようになり、レア物の発掘が盛んに行なわれるようになった。イギリスのアシッド・ジャズ界隈のオムニバスに収録され、注目を浴びたことが発端となった。
「この女は誰だ?」
 日本でも橋本徹提唱による「Free Soul」ムーヴメントによって、世界中にその歌声が飛び火した。その後も地味ながらもロング・テール型の需要によって徐々に評価が定着し、今ではディープ・ソウルのルーツ的名盤、レア・グルーヴの入門編として定番の位置にある。
 
 1972年という年はディスコ・ブーム前夜であり、ソウル系に絞ってみると、Roberta FlackやAl Greenが全米チャートで上位にランクインしている。泥臭いディープ・ソウルやソフィスティケィトされたニュー・ソウル系のアーティストがまだ元気だった最後の時代だ。そんな中、当時女性シンガーの最高峰とされていたのが、前述のAretha Franklinである。女性シンガーの誰もがArethaのように歌いたいと思っていたし、Aliceもまた例外でなく、彼女の影響下にあった。

090714aliceclark02

 俺的には、またAlice好きな人なら大抵そうだろうけど、やはりどうしてもArethaとの比較で聴いてしまうことが多い。ちなみに俺は断然Aliceのヴォーカルの方が好み。
 ネーム・バリュー的には圧倒的にArethaの方が優位だったため、昔から何枚も Arethaのアルバムは聴いていた。その中で好きな曲もいくつかあるし、今でも決して嫌いなわけじゃないのだけれど、何というか、Arethaの自信に満ちあふれ過ぎるヴォーカル・スタイルには、時々辟易してしまうことがある。ゴスペル・シンガーの家系に生まれ育ったArethaにとって、「歌う」ということはすなわち「生きる」ことと同義であり、そういったバックボーンに裏付けされた自信によって、彼女は 「Queen of Soul」の称号を得た。多くの人の心を大きく震わせるその声は、ポジティヴな確信に満ちあふれている。
 
 それに引き替え、Aliceのヴォーカルにそういった力はない。不特定多数の大衆の心に届くほどのカリスマ性は持ち合わせていない。もしArethaと並んで歌ったとしても、その声量・声質によって、確実にArethaの方に軍配が上がるだろう。ただ、一聴して大きく響くことはないけれど、その歌声は時間をかけて緩やかに、しかし確実に人の心を捉える。
 それこそが MainstreamのプロデューサーBob Shadの狙いどころだったのかもしれない。
 Arethaのようにバック・バンドを食ってしまいかねない爆発力のヴォーカルよりも、ジャズ的なサウンド・デザインによって、ヴォーカルも楽器の一部として捉え、他の楽器と並列して組み合わせるには、このくらい抑えた声質の方がトータル的にはフィットするのだ。
 
 まだ生きているのか、そしてまだ歌っているのかすらわからないけど、とにかく音楽は残った。ただ、後年まで記録として残ってしまうことが、Alice本人の望んでいたことだったのか。
 それは誰にもわからない。


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1. I KEEP IT HID
 もともとは70年代アメリカのシンガー・ソング・ライターJimmy Webb作のカバー。一番有名なのはLinda Ronstadtのヴァージョンだけど、基本はMOR的で中庸なポピュラー・ソングなのだけど、この曲にグルーヴィーなソウル・テイストを吹き込んだのはAliceの功績。
 冒頭の 「Deep down ~」の歌い出しから、この曲をすっかり自分のモノにしてしまっていることがわかる。Aliceのヴァージョンを聴くと、前者2人のヴォーカルが物足りなく感じてしまう。ていうか、俺はAliceで最初に知ったので、このヴァージョンが基準になってしまっている。
 Aliceの声の伸びが良い。全体的にフラット気味の発声がセクシーで、それに絡むギターのオブリガード(Cornell Dupreeらしいけど、クレジットにはない)も最高のサザン・ソウル。
 
2. LOOKING AT LIFE
 オリジナルはイギリスのシンガー兼女優のPetula Clarkで、こちらも王道のポピュラー・ソング。オリジナル・ヴァージョンは壮大なオーケストレーションがドラマティックさを演出しているのだけれど、Aliceのヴァージョンはもっとエモーショナルに、サザン・ソウル・マナーに基づいた音作り。
 しかし、この選曲がAliceの本意だったのか、それともプロデューサーの意向だったのだろうか。ステージでの定番曲だったとしたら、いい選曲センス。これをうまく料理できたのも、 Bernard Purdie(Dr)やGordon Edwards(B)らによる演奏のたまもの。終盤のフェイクからして、Aliceがもっともノッていた曲だというのがわかる。

 
  

3. DON’T WONDER WHY
 Stevie Wonder作による、こちらもエモーショナルなヴォーカルが聴けるナンバー。オーケストレーションを入れてドラマティックな展開のStevieに対し、リズムとホーン・セクションによるシンプルなサザン・ソウルを演じている。
 しかし、これもバックの演奏がノリにノッている。ドラムはドッカンドッカン、ベースもブォンブォンッと鳴りまくっている。やはりヴォーカルの力によって演奏のテンションも上がるのだろう。
 ちなみに Stevieのヴァージョンもオススメ。アレンジこそモータウンのフォーマット通りだけど、曲自体は既に完成されており、3部作のレベルにまで達している。
 
4. MAYBE THIS TIME
 女優兼シンガーLiza Minnelliの代表作『Cabaret』中の挿入曲のカバー。それほど熱心な映画ファンじゃないので、さすがに見たことはない。Youtubeでちょっと見てみたところ、やはりこれはこれでオリジナルも良かった。ていうか、Lizaすげぇ。
 Aliceは基本クールに歌っており、やはりミックスによってバック・バンドの存在感が強い。これもやはりプロデューサーの意向が強いのだろう。もちろん、Aliceの卓越したヴォーカル・テクニックがあってこそだけど。
 
5. NEVER DID I STOP LOVING YOU
 Free Soul系のコンピレーションではもはや定番となった、今で言う「神曲」。このアルバムの中では数少ないオリジナル曲で、やはりAliceの力の入れようも違う。アレンジ、ヴォーカル、演奏すべてが完璧なバランスで噛み合っており、あっという間の2分間。特にイントロのドラム・ロールとGordonによるベースの独特なフレーズ。ほんの1秒程度だけど、これを聴くだけでも価値がある、そんな曲。
 後にオーストラリアのディープ・ファンク・バンド Bamboosがライブでカバー。ライブCDにもこのまんまのアレンジで収録されているので、ゼヒ一聴を。

 

6. CHARMS OF THE ARMS OF LOVE
 ここからアルバムB面、ペンタトニック・スケールによる、日本人好みな曲。往年の昭和40年代歌謡曲チックな香りがプンプン。欧陽菲菲か和田アキ子あたりが歌ったら、日本でも受けたかもしれない。
 
7. DON’T YOU CARE
 こちらもレア・グルーヴ系のコンピレーションやミックス・テープに収録される率の高い、ファンキーなトラック。後半のブレイク、バックがドラムのみになってバンドを煽るAlice、そしてそれにまた絶妙に絡んでくるGordonのベースが気持ちいい。クールなリフをキメるホーン・セクションが、強制的にリズムを取らせてしまう。
 
8. IT TAKES TOO LONG TO LEARN TO LIVE ALONE
 アメリカのジャズ・シンガーPeggy Leeがオリジナル。
 しっとりした歌唱のオリジナルに沿って、Aliceにしては抑えたヴォーカライズなのだけど、やはりバックが好き放題にノッテしまい、ヴォーカルの陰影が目立たなくなってしまっている。この曲だけはちょっとオーバー・アレンジだったんじゃないかと思う。
 楽器と並列に考えたヴォーカル・ミックスと言えばそれまでだけど、もう少し何とかなんなかったの?と思ってしまう。
 ただ、バンドが悪いわけではない。ヴォーカルを抜きに考えれば、バンドのテンションは絶頂に達してるので、できれば分けて聴きたいくらい。

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9. HARD HARD PROMISES
 今度はホーン・セクションが悪ノリ。もちろんいい意味でだけど。そこにリズム・セクションが乗っかって、もうノリノリのファンキー・ナンバーになっている。これだけバンドに煽られて、Aliceも相当疲れたかと思う。
 アルバム中唯一、声が裏返っている曲。
 
10. HEY GIRL
 ラストは少ししっとりと。もともとはCarole King & Gerry Goffinによるオールディーズだけど、一般的に有名なのはやはりDonny Hathawayのライブ・ヴァージョン。
 オリジナルよりもDonnyのヴァージョンを手本として組み立てられたアレンジだけど、やはりバンドがノリッノリとなって、原曲とは似ても似つかぬファンキー・ナンバーに変貌してゆく。なんでこの曲でサックスが思いっきりブロウするんだよ、確かにかっこいいけどさ。主役は Aliceのはずなのに。
 
 




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無記名の音楽として世に出されるはずだったアルバム - Prince 『Black Album』

folder 活動歴の長いアーティストになるほど、様々なしがらみが付きまとってくる。レコード会社の都合やファンの勝手なニーズに、いちいち従順に応えていくと、本来自由であるはずの表現活動の幅は、次第に先細りになってゆく。ただ、とにかく必死なデビュー間もない頃は、そんなことを考える者は少ない。
 最初に世に出る頃は、それまでの蓄積を吐き出すだけで精いっぱい。数年後のビジョンまで視野に入れて行動しているのはほぼ皆無、ほとんどのアーティストにとっては、次のレコーディング契約・次のライブ会場ブッキングを継続させることにしか、意識が行かない。
 それでも無我夢中にもがいた末、どうにかセールス・動員数などで結果を出し、ようやく次のアルバム、ライブができる目処がつく。規模やランクはあれど、大方はこのサイクルの繰り返しだ。
 デビューして数年までの行動はすべてアウトプット、これまでの自分の貯金を切り崩す作業・身を削る作業が主なため、当然アイディアはすぐに枯渇する。そんなにそんなにデビュー前から、革新的なアイディアを蓄積している者はいない。そこでアイディアを仕入れる作業、インプットが必要になる。それは座学や実践もそうだけど、異ジャンルの他者との交流によって生まれる場合もある。創作のアイディアを受信するアンテナを広げ、自ら様々な場所に出向き、情報を収集してゆくことが必要になる。そして、そこからが本格的にアーティストとしてのスタート地点になる。
 ほとんどのアーティストはそこへ行き着く前に息切れ/ネタ切れして、そしてフェード・アウトしてゆく。もう少し世渡りの上手い者は、過去のアイディアの拡大再生産で凌いでゆく。そのような選択肢が潔いとは思わないが、次第に過酷になりつつある音楽業界をサヴァイヴしてゆくためには、必要悪な生き残り策ではある。
 
 そういった小手先の技を使う必要がない、革新的なアイデアが常日頃湯水のように湧き出てくる者もいるにはいるけど、そういった天才肌タイプの人間はごく少数、限られた数しかいない。
 昔ならJimi HendrixやFrank Zappaあたりだろうけど、存命している中での代表格と言えば、お待たせしましたPrinceである。

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 とはいっても、芸術の神に微笑まれる時期というのはごくわずか、彼もまた一生涯にわたって才気煥発だったわけでなく、本当に創作力のピークだったと言えるのは、デビュー当時の70年代後半から80年代いっぱいくらいまで(『絶頂期』の解釈については、様々な意見がある)、以降はサウンド的な進歩は微々たるもので、凡百のアーティスト同様、やはりこれまでアウトプットしてきたパーツの拡大再生産に甘んじている。
 
 で、この『Black Album』、ちょうど創作力のピーク、時期で言えば『Sign “O” the Times』と『Lovesexy』の間にリリースされる予定だったアルバムである。当時のPrinceのワーカホリック振りは今でも語り草となっており、大量の未発表曲ストックがこの時期に集中している。
 自前のスタジオ「Paisley Park」を所有していたPrinceにとって、レコーディングを行なうということは、即ち息をするのと同然の行為であり、とにかく思いついたら昼夜を問わず、手当たり次第にテープを回していたらしい。夢の中でアイディアが生まれたため飛び起きて、真夜中にバンド・メンバーを呼びつけた、という胡散臭い逸話も残っているけど、まぁ当時は独裁者同然に振る舞っていたらしいので、多分ほんとのことなのだろう。

 まずは何曲かレコーディング→なんとなくアルバム・コンセプトを決める→テーマに沿った曲を選ぶ→アルバム一枚に繋いで微調整、といった風に、結構システマティックにレコーディングは行なわれ、まるで工業製品のようにぞくぞくアルバム単位のマテリアルが製造されていった。
 
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 『Black Album』においても、最初はほぼこの流れで制作された。かなりディープなファンク寄りの曲が多く出来上がるに連れ、次第にコンセプトも固まってゆく。
 どうせやるならもっとマニアックに、セールスは度外視でやってみよう。せっかくならもっと「ど」が付くくらいのファンクで、これでもかというくらい「濃い」アルバムを作ろう。契約枚数オーバー?だったら名前も出さない顔も出さない、ブートみたいな真っ黒ジャケットで出しゃいいんじゃね?
 -ま、だいたいこんな感じで作っちゃったんじゃないかと思う。ただ最終的にPrinceがチキンになったおかげで、最終工程寸前で発売差し止めになっちゃったけど。
 
 サウンドについてはこれまで散々語られているので、知らない人でも何となく知ってると思うけど、問答無用のファンク・ミュージックである。
 言い訳しようのない、真性の「ど」が付くファンク。
 前作『Sign “O” the Times』では、全方位的なコンテンポラリー・ミュージックの片鱗を見せたPrince、今回はポップに振り切り過ぎた反動なのか、「一見さんお断り」の看板を掲げた密室ファンクを緻密に創り上げ、そして無造作に、何の飾りもなく放り投げてきた。あまりに閉鎖的な空間で鳴っているので、自己完結してしまうがあまり、最早どこへ繋がることもない、出口なし袋小路の音楽。当時のPrinceの体臭がツンと臭ってくる、そんなアルバムである。


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1. Le Grind
 リズム・トラックだけで、もう何時間も聴いていたいくらい、とにかく気持ちいい。シンセの使い方にZappっぽい瞬間があるけど、どこからどう切り取ってもPrinceの体臭がプンプン臭ってくる。
 ホーンをひと固まりの音として扱うのではなく、エッセンス的なエフェクトとして使うのが、この人の特徴。そこが他のファンク・アーティストとの大きな違いである。なので、ダンス・チューンにもかかわらず、どこか踊りづらく密室的なのはそのせい。
 この頃よく駆り出されていたBoni Boyerの弾けっぷりが爽快。
 
2. Cindy C.
 ベシャッと響くドラムが時代を感じさせるけど、Prince自身による冒頭のファルセットな雄叫びがファンキー。ラップというには躍動感が足りないCat Gloverの「語り」が、うまくリズムと対比している。
 ホーンの使い方はジャズ・テイストも加わって、サウンドに厚みを加えている。しかしPrinceの「語り」、まぁ下手くそなラップよりは全然良い。
 でもこの人、どうしてこんなにベースを入れるのを避けるのだろうか?
 ちなみに豆知識、タイトルの由来は当時のセレブ・モデルとして名を馳せたCindy Crawford。
 
PrinceBlackminiPosters

3. Dead On It
 ギターのカッティング・ソロが絶品。さすが「Rolling Stone」で「最も正当に評価されていないギタリスト」に選ばれただけのことはある。
 俺自身としては、恍惚の表情でギター・ソロを弾きまくるPrinceよりはむしろ、こういった的確な場所でちょっとセンスのあるオブリガードを聴かせる感じの曲の方が好きである。だって、ソロに酔いしれるPrinceって、あんまりカッコよくないんだもん。
 プリセット丸出しのドラム・ループの音はショボくチープだけど、ここでは比較的マシなPrinceのラップがイイ味出している。ギターの代わりにスラップ・ベースを入れたら、さらにファンキー指数は上がるのだろうけど、そうはしないのが、PrinceのPrinceたる所以なのだろう。
 
4. When 2 R In Love
 『Lovesexy』ヴァージョンとほぼ同じ。このアルバムの中では異色の、流麗なメロディで勝負した曲。余計な装飾を省いたアルペジオと、エフェクトをかけたドラム、次第に音数が増え、中盤ファルセットの多重コーラスがもっともファンクを感じさせる瞬間。複雑なリズム・パターンに頼らずとも、ファンキー指数をあげることができるというお手本の曲。
 
5. Bob George
 ブートレグ並みにくぐもった音質のシンセ・ドラムに合わせて「語る」Prince。思いっきりエフェクトを変えて低音にしているため、最初本人だとは思えなかった。その別人のようなPrinceが不穏なバック・トラックに合わせて語り、霧の遥か向こうで響き渡るギター・ソロ。
 いわゆる一般的なファンク・サウンドではないのだけれど、どこかP-Funk的な、負のパワーを内包した攻撃的なデンジャラス・ファンク。あまりに攻撃性が強いため、普通のアルバムに当てはめることは不可能。
 『Black Album』とは、まさしくこの曲のためにあるアルバムだろう。

prince1987

6. Superfunkycalifragisexy
 チープなシンセ和音から始まる、タイトルから想起されるイメージとは裏腹に、疾走感のあるファンク・ナンバー。元ネタはもちろん映画『Mary Poppins』挿入曲” Supercalifragilisticexpialidocious”から。
 ちなみに日本のバンドBOOWYも同時期、” SUPER-CALIFRAGILISTIC-EXPIARI-DOCIOUS”という、ワン・スペル違いの曲をリリースしていた、というのは、あまりいらない情報か。
 曲調としては、これぞPrince!といった感じの、優秀なファンク。そうだよ、こういったのを求めてたんだよ、やりゃできるじゃん、とでも言いたくなってしまう、ノリッノリでいて、しかもどこかクールさを感じさせる、ドライな質感。
 
7. 2 Nigs United 4 West Compton
 6.と同じく疾走感溢れる極上のファンク・チューン。7分という長尺のインスト・ナンバーのため、やはりPrince名義でリリースするのはちょっと…、といった感じの曲。こういった通常のアルバム・コンセプトから外れてしまう曲も受け入れてしまうのが、この『Black Album』の懐の深さだろう。
 リリース当時はダルいインストが退屈で、歌が入ってればもっといいのに、と思っていたけど、世間的にも俺的にも、状況はかなり変わってきた。この後、いち早くインターネットに興味を持ったPrinceは『NPG Music Club』を設立、メジャーではリリースしづらい曲を次々に独自配信するようになり、その中にはジャム・セッションを延々と収録した物も含まれており、Princeのような多作アーティストにとっては良い時代になってきた(と言っても数年で飽きてしまい、すぐ活動は休止してしまうのだけど)。
 俺的にはここ数年、新旧問わずジャズ・ファンク系の音を漁るようになってきたので、このようにファンキーなインストは、結構ツボである。
 
8. Rockhard In A Funky Place
 『Parade』に入っててもおかしくない、このアルバムの中では比較的マイルドなファンク・チューン。ややスローなミドル・テンポも聴きやすい。
 中盤のギター・ソロはPrinceのベスト・プレイの一つ。決して引き出しの多い人ではないけど、やはりこのリズム、このエロいヴォーカルの後ろで鳴っていると、より効果を発揮する音である。
 本人的にはSantanaの影響が多いと言っているのだけど、いやいやどう聴いてもジミヘンでしょ、これって。




 四半世紀も前のアルバムだけあって、どうにも音が軽いのが弱点。初リリース予定当時は、既にレコードからCDへの移行時期だったため、LPは未聴だけど、やはりリズムの音質自体、現代のサウンドと比べると貧弱だ。どうにかリマスターしてほしいのは全世界のファンの願いなのだけど、何しろワーナーとの関係が微妙なため、それもなかなか進展しない状況が続いている。
 『Purple Rain』30th Annversary Editionはどうなった?
 ほんと、どうにかしてほしいものである。


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多分あまり知られてない、『無記名の音楽』 - James Mason 『Rhythm Of Life』

folder グーグルで「James Mason」で検索しても、出てくるのはイギリスの古い映画俳優の名前ばかりで、ジャズ/フュージョン・ミュージシャンJames Masonについては、ほとんどヒットして来なかった。wikiでも一応調べてはみたのだけど、この『Rhythm Of Life』のこと以外、経歴・バイオグラフィー・ディスコグラフィーその他諸々の詳細は、ほとんどわからなかった。
 
 ギタリストとして、Roy Ayersの元にいたところまでは、割とよく知られているけど(といっても、世界中のレア・グルーヴ・マニアのごく一部だけだろうけど)、まともなソロ・アルバムはこれくらいしかないので、それ以前・以後のことはほとんど知られていない。
 生きてるのか死んでるのか、もし生きていたとして、ミュージシャンとしては現役なのか隠遁状態なのか。1980年ごろ、日野皓正のアルバムにチラッと参加したらしいけど、これは未聴なので、結局わからずじまい。
 それくらい謎のヴェールに包まれた、乱暴に言っちゃえば、それほど関心を持たれなかった人である。
 
 1977年リリース当時も、それほど売れたわけではない。当時の新人アーティストの慣例として、アルバム契約もワン・ショットだったと思われる。
 これが売れれば次のアルバム制作もあり得たのだろうけど、あいにくフュージョン・ブームに乗っかるにはナイーヴすぎたのかもしれない。Herbie Hancockほどの下世話さと政治力があれば、また歴史は違っていたのだけど、セールス的にも次を期待されるほどの成績は残せなかった。なので、その後は表舞台へ出ることもなく、そのまま時代に埋もれてしまう羽目となる。

ダウンロード

 彼が脚光を浴びたのはもっと後年、世界的なレア・グルーヴ・ムーヴメントでの再評価がきっかけだった。最初はヒップホップから、主にサンプリング・ソースとしての需要だった。
 ブームの最初の頃なら、James BrownやCurtis Mayfieldなど、ソウル/ファンクの有名どころから引っ張ってくればよかったのだけど、みんながみんな同じ音源を使いまわしてると、次第にそれも飽きられてくる。市場が爛熟化してゆくに連れ、まだ誰も手をつけてないソースを使って差別化を図らないと、生き残ってはゆけないのだ。
 そういった事情もあって、世界中の場末の中古レコード店のエサ箱は、クリエイター達によって発掘されることになる。時代の流れに埋もれたジャズ・ソウル・ファンク・フュージョンの旧作が彼らによってサルベージされ、「隠れた名作」というレッテルを張られ、市場に再出荷された。
 Jamesのこのアルバムも、リリースから15年の歳月を経て、DJや研究家によって再発見されて脚光を浴び、今ではレア・グルーヴ界ではスタンダードとなった。
 
 解明されている個人情報がほぼ皆無のため、アーティストのネーム・バリューなどの周辺情報を抜きにした、残された音楽のみが純粋に評価された、アーティストとしては、ある意味究極の理想である。「無記名の音楽」とは、最高の褒め言葉だろうか。
 
 初ソロ・アルバムだけあって、かなりの気合の入り方が窺えるけど、ジャズ/フュージョンというジャンルにしては珍しく、特にマルチ・プレイヤーとしての才能が開花。本来の担当楽器であるギターはおろか、ピアノやフェンダー・ローズ、ムーグなどの鍵盤系を操ることはおろか、アレンジ・プロデュースもほぼ独自で行なっている。
 
 時代的な背景もあるのだろうけど、どちらかといえばフュージョン寄りの人である。70年代のジャズ・シーンにおいて、正統なモダン・ジャズはほぼ衰退しており、この時期にジャズで身を立てていこうとすれば、スタジオ・ミュージシャンかフュージョンの途へ行くか、はたまたこのJamesのアルバムのように、ファンク成分を混ぜたジャズを演奏することがトレンドとなっていた。 
 ほとんどの曲がヴォーカル入りなので、普通のソウル、ファンク好きの人でも充分楽しめるだろうし、こうした演奏メインの音楽に新しい価値観を見出す人も、少なからずいると思う。俺もその一人だ。


Rhythm of Life
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James Mason
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1. Sweet power your embrace
 James自身のアープによるイントロから、印象的なギターのカッティング。ジャズ/フュージョンの場合、ある程度の基準で演奏テクニックが保証されているので、変にギターの音色にエフェクトをかける必要がなく、ごまかしのないクリア・トーンを聴くことができる。
 2分半も経ってから、やっとClarice Taylorのヴォーカルが入る。力強くありながら、曲に合わせて抑えたヴォーカル。Justo Almarioによるスタンダード・ジャズ・スタイルのサックス・ソロと、Jamesによる激しいギター・ソロが絡み合ってフェード・アウト。

 
 
2. Good thing
 Clariceの独壇場。レア・グルーヴのコンピに何度も収録された、クールなソウル・ナンバー。ギターはそれほど効いてなく、Jamesはトータルなサウンド・メイキングに徹している。
「パッパラッパッパー」と薄くかかるバック・コーラスもソウル・マナーに則っている。
 
3. Free
 Mustafa Ahmedによるコンガのアフロ・ビートとJamesのアープが絡む。
 ここでの主役はNarada Michael Waldenによる正確なハイハット。
 今ではプロデューサーとしての名声が上になってしまったNarada Michael Walden、かつてはジャズ・ミュージシャンとしての活動もコンスタントに行なっていた。これだけ曲を引っ張るドラムが叩けるのに…。
 ある時期から、Whitney Houstonに魂を売ってしまった結果なのだろう。
 
4. Mbewe
 ブリッジ的なインストの小品。ここはJustoの伸びやかなサックスが主役。ギター・カッティングに混じる生ピアノが心地よい。
 ところでこれ、何て読むの? 
 
5. Funny girl
 再びClariceの出番。これもよくコンピに収録されたり、ミックス・テープで使われたり、汎用性の高い音である。
 ジャズ/フュージョン系全般に言えることだけど、どれも非常に録音が良い。エンジニア達も効果的なマイク・セッティングや録り方を熟知しているのだろうし、ミュージシャン達もまた、楽器の鳴らし方をよく理解しているのだろう。マスターの状態が良い分だけ、後年再発売される際もリマスター効果は大きい。
 ロック・ポップス系の場合だと、昔の録音はやっつけ仕事的な物が多く、しかもテープの保存状態もぞんざいなので、最新のリマスターを施したとしても、妙に古臭く聴こえる場合が多い。一時的な流行ものとしての認識が強かったため、末永く残るように作る必要はない、と現場も上層部も判断していたのだろう。
 それに引き替えジャズの場合、昔からテープ管理も比較的良かったこと、また流行もの的なエフェクトをあまり使用していない分、風化することが少ない。
 この曲など、特にヴォーカルを含むすべてのパートが適切な状態で録音されており、それぞれの音が太く、独自の存在感を醸し出している。

 
 
6. Slick city
 シャッフル・ビートに乗って、横揺れしたClariceがハンド・クラップしながら、軽快に踊り歌う姿が思い浮かぶ、ノリのよい曲。やっぱりNarada Michael Walden(ナラダマイケルウォルデン、と一気に言いたくなってしまうような名前だな、これ)のドラムが歌っている。

 
 
7. Rhythm of life
 タイトル曲。少し走ったシャッフル・ナンバー。
 ドラムがDwayne Perdueに代わってるが、Narada Michael Walden同様、リズムが走る走る。
 Jamesが久しぶりにカッティングとソロと両方でフル回転、一番弾きまくってる曲である。Clarieも演奏に引っ張られて力が入るのか、声が太い。

8. Hey hey hey
 2分弱のブリッジ。タイトル通り、掛け声メインで作られた、シンプルなナンバー。後半でJames 自身のヴォーカルも聴ける。
 下手ではないけど、いかにもミュージシャンが片手間で歌ってみました風なので、若干の照れが見られる。ここで開き直って、もう少し色気があれば、George Bensonも夢じゃなかったのに…。
 
9. I've got my eyes on you
 これもよくコンピで聴ける曲。Dwayne参加のセッションは、どれもリズムが良い意味で走っている。
 ClariceとJustoの掛け合いが最高。一番歌い上げている曲だと思う。
 同じようなリズムなのに、ドラムが違うと、これだけヴォーカルの力の入れ具合も違ってくる、という良い見本。
 あっ、Jamesもモチロンいい味出してます。

 
 
10. Dreams
 ラストは少し軽めに。
 この辺りの曲を、いまのミュージシャンがアシッド・ジャズ風にカヴァーしてくれれば、もう少し知名度も上がるのに、と思う。
 けど、まぁ上がんないか、今どきアシッド・ジャズじゃ。
 でも俺はちょっと聴いてみたい。




 一般的にジャズのオススメといえば、Miles DavisやJohn Coltrane、Bill Evansなどの、いわゆるジャズ・ジャイアンツの面々をお勧めすることが無難なのだろうけど、ロックやポップスを聴いてきた耳で、いきなり歌が入ってない音楽を聴いても、そんなに楽しめないと思う。
 俺自身も若い頃、お勉強感覚でモダン・ジャズを片っぱしから聴いていたけど、次第にどれも同じに聴こえてきたので、一時期聴くのをやめてしまった。無理に聴いたとしても、やはり興味の薄いものは好きになれないのだ。
 ネーム・バリューに躍らされるのではなく、例えば俺のように、レア・グルーヴ経由でジャズ/フュージョンの世界に入った方が、ずっと間口は広いだろうし、好みの音を探す作業は楽しいものである。しかも、自分で苦労して探し求めたアイテムは、ずっと自分の宝物になる。



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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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