好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

佐野元春

プライベートの元春のリアルなアルバム - 佐野元春 『Heart Beat』

folder 1981年リリース、元春2枚目のアルバム。デビュー作『Back to the Street』からほぼ1年のインターバルを経てリリースされたこの作品、前作同様、チャート的には苦戦した。

 当時のオリコン・アルバム年間チャートを見てみると、1位が寺尾聰、2位が大滝詠一ロンバケ、3位がなぜかアラベスクといった布陣。上位2つを見ればわかるように、既存のフォークやロックから脱却してソフィスティケートされたAOR的シティ・ポップのニーズが高まっていることがわかる。50位以内ギリギリに南佳孝もランクインしており、徐々にではあるけれど、難しい顔をして考え込む音楽だけでなく、享楽的な80年代を象徴した、新世代によるライト感覚のサウンドが若い世代に受け入れられつつあった。
 ただこれも極端な例で、他のメンツを見てみると、松山千春やオフコース、中島みゆきがベストテンに食い込んでおり、まだまだフォークの流れを汲んだニュー・ミュージック勢が強いことも事実。
 これがもう少しすると、尾崎豊や渡辺美里など、さらに新世代の躍進が始まって、チャート上での世代交代も行なわれてゆくのだけど、それはもう少し後の話。

 元春の出世作と言えるのがタイトル曲収録の3枚目『Someday』であり、その前哨戦であったのがナイアガラ・トライアングルだとすると、この時期はまだ「期待のニュー・カマー」というポジション。まだまだ影響力が云々といったレベルではない。
 で、その『Someday』と『Back to the Street』に挟まれたこの『Heart Beat』、雑誌やメディアでの紹介では、いわゆる過渡的な作品、本格的なブレイク前の習作扱いになっていることが多い。その後の作品と比べると、統一感が少ないため、バラエティに富んではいるけど、ターゲットが定まらない印象なのと、わかりやすいシングル・ヒットが収録されていないため、どうしても地味な扱いになってしまう。
 新規ユーザーにはアピールしづらいアルバムだけど、その反面、年季の入ったファンにとってはそのセールス・ポイントの弱さゆえ、逆に愛着が湧いている人が多い。実際、マス以外のメディア、個人ブログやアマゾン・レビューなどでの熱い書き込みは多い。そのポジションの地味さゆえ、何か力を入れて語りたくなってしまう魅力を秘めている。

佐野元春

 初期の元春のサウンドのベースは、アメリカの70年代シンガー・ソングライターに端を発する、ストリート感覚あふれるロックが主体となっている。既存のフォークやニュー・ミュージックと違って、メロディと譜割りのバランスにこだわらず、横文字言葉を1音節に詰め込むことによって、洋楽テイストの強いサウンドを創り出した。
 小節という決まりごとに捉われず、語感とリズムを重視することによって、その響きはその後の日本のロック/ポップスに大きな影響をもたらした。時にウェットなメロディに流れながらも、ドライな質感を失わずにいるのは、デビュー当時から確立したスタイルに拠るものである。
 決して美声とは言えないハスキーな声質もまた、ニュー・ミュージック勢との差別化に寄与している。情緒的な日本のメロディとはマッチしづらいため、逆にそれがベタなバラードでも過度に感情的にならずに済んでいる。

 そのシンガー・ソングライター的側面でも、デビュー・シングル”アンジェリーナ”がBruce Springsteen への強いオマージュだったのに対し、この『Heart Beat』ではむしろBilly Joel的、ピアノからインスパイアされたようなナンバーが多い。『Back to the Street』がE Street Bandサウンドをモチーフとした曲が多かったのに対し、ここではソロ・スタイル、ピアノの弾き語りだけで成立するナンバーが多く占められている。もちろん”ガラスのジェネレーション”のようにアッパーなナンバーも含まれているけど、特にレコードB面にあたるトラックでは、バラードが集中している。

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 なので、どこかプライベートな空気感を持ったアルバムである。アッパー・チューンであるはずのナンバーも、よく聴いてみるとエコー成分が少なく、狭いスタジオで作り込まれたような、デッドな音の響きである。その平板さを自身のダブル・ヴォーカルで埋め合わせているのだけれど、やはりどこか密室的な雰囲気が漂っている。
 その内輪的ムード、親密な仲間たちが集って演奏したトラックを、カセット・テープに録音して独り枕元で聴いている―、そんな情景がよく思い浮かぶ。

 ただ当然だけど、そんな個人的な色彩の強いアルバムが不特定多数のユーザーにアピールできるかといえば、それはちょっと難しい。収録されている個々の曲は、その後の元春のキャリアにおいても重要な位置を占めており、ライブでもいまだ重要なポイントでプレイされている。ライブを重ねることによって、それらの曲は洗練され、次第にブロウ・アップされてゆくのだけど、ことアルバム全体では地味な印象であることは拭えない。

 実際、俺もこのアルバムを聴いたのは『No Damage』の後、リアルタイムでこれがリリースされたとしても、多分手を出さなかったんじゃないかと思う。多分そう思ったのは俺だけじゃないはずで、最初の元春のアルバムとしてこれを選ぶ人は少ないと思う。
 ただ、『Back to the Street』で見せた荒削りなロックンロール・フォーマットや、次作『Someday』において著しく開花したポップ・センスではなく、純粋な楽曲クオリティを求めるのなら、初期においてはこのアルバムが最も秀でている。
 よそ行きではないプライベートな元春の実像が最も色濃く現れているので、完成度という面においてはちょっと劣るけど、長く追いかけてきたファンにほど人気の高いアルバムである。


Heart Beat
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1. ガラスのジェネレーション
 アルバム発売前にリリースされた、元春2枚目のシングル。今でも初期の元春の最高傑作と言えばコレ、というファンも数多いけど、当時はほとんどと言っていいくらい話題にならなかった。
 軽快なリズム、ちょっとハスキーで母性本能をくすぐる、少年のまんまのヴォーカル、Phil Spectorを意識した広がりを感じるサウンド。これだけのモノがたった3分間のポップ・シンフォニーの中に凝縮されている。

  ガラスのジェネレーション
  さよならレボリューション
  つまらない大人にには なりたくない

 これから先もずっと永遠に語り継がれるこの一節。
 ちなみにこれは2番の最後なのだけど、実は俺、ここよりも冒頭の「見せかけの恋ならいらない」にシンパシーを感じていた。これを聴いた時はまだ十代で、大人という存在に自分がなってゆくことに、いまいち実感が湧かなかった。また、「見せかけでもいいから振り向いてほしいんだ」という逆説的な思いこそ、まだヘタレだった十代のリアルでもあった。



2. NIGHT LIFE
 で、これは3枚目のシングルとして、アルバムと同時発売された。スロー・テンポのゴキゲンなロックンロールといった、当時の元春のパブリック・イメージと寸分違わないナンバー。あまりにハマり過ぎるため、ちょっとインパクトには欠ける。『Back to the Street』で獲得したわずかなファンへ向けて、期待に応えたようなサウンドなので、後追いで聴く分にはちょっと物足りない。あまりに優等生的ロックンローラーなのだ。

3. バルセロナの夜
 マッタリしたムードでありながら、リズムがタイトなため、ベタに流されないバラード・ナンバー。テナー・サックスがちょっと頑張りすぎる部分はあるけど、ミドル・テンポに設定したこと、また歌詞もほとんど英語が含まれておらず、普段着のシンガー・ソングライター的スタイルのため、スッと言葉が入って来る。

  時々2人は 言葉が足りなくて
  確かなものを 失いそうになるけど
  愛してる気持ちは いつも変わらない

 こういった言い回しって、やっぱり大人にならないとわからない。

4. IT`S ALRIGHT
 シングル1.のB面収録。タイトなロックンロール・ナンバーで、やはり『Back to the Street』の延長線上のサウンド。
 と、否定的になりかけたのだけど、考えてみれば81年当時、日本でのロックンロール状況は決して活況ではなかった。懐古的なオールディーズ・バンドか自虐的なパロディが主流で、こうしたベーシック・タイプのロックンロールをプレイする新規アーティストは皆無だった。ロックンロールを延命させるためには、彼のような新しい血が必要だったのだ。

Night20Life

5. 彼女
 レコードで言えばA面ラスト、王道のバラード。小細工も仕掛けも何もない、言い訳不要のピアノ・メイン、壮大なストリングス。ベタといえばベタだけど、けれどそれがちっとも陳腐に聴こえないのは、やはり楽曲の持つ力か。
 「彼女」とは、かつて公私を共にしたパートナー佐藤奈々子のことかと思われるけど、まぁ断定はできない。奈々子をモチーフとして、それまでの女性像を重ね合わせて凝縮した結果が、この曲の「彼女」なのだろう。
 ここでの元春は彼女への変わらぬ想いを胸に秘めながら、それでも前に進んでいこうとしている。時にペシミスティックな瞬間もあるけど、そう自分に言い聞かせないことには、前に進めないのだ。

6. 悲しきレイディオ
 『Back to the Street』で世間に提示した「ロックンロールの復権」を、見事に形にしたのが、これ。ヴォーカル・スタイル、サウンドから、現在進行形のロックンロールである。過去の模倣ではない。過去のロックンロール・レジェンドらをリスペクトしつつ、敬意を表しながらも、そこから新しいスタイルを確立した。
 俺がこのアルバムで最も食いついたのがこれで、長年俺のフェイバリットだった。今では3.と同着になっているけど、最初に聴いた時のインパクトはこれが一番。何から何まで、すべてが理想形。そしてまた、ここからさらにロックンロールを進化させていった元春もすごい。



7. GOOD VIBRATION
 シングル2.のB面曲。う~ん、実はこれ、ほとんど思い入れがない。当時のアメリカ西海岸的AORサウンドの意匠を借りたポップ・ソングなのだけど、どうにもインパクトが薄い。元春の声も心なしか気が入っておらず、突然挿入される女性コーラスもちょっと違和感あり。このレビューを書くため、久し振りに通して聴いてみたけど、やっぱダメだ、どこかしっくりしない。

8. 君をさがしている(朝が来るまで) 
 で、その8.と同じ方向性ながら、ちょっとやる気が出てきたのか、Byrds的フォーク・ロックのフォーマットを使いながら、かなりぶっ飛んだ内容の歌詞を乗せている。
 かなりストーリー性を強調しているため、元春のヴォーカルもどこかドラマティックで、時にモノローグ的なシャウトが漏れている。でもサックス、ちょっと響きが軽すぎ。

9. INTERLUDE

10. HEART BEAT(小さなカサノバと街のナイチンケールのバラッド)
 今もライブで重要な位置を占める、8分にも及ぶ大作。時期によってピアノ・メインになったりギターがリードしたりなど、ライブによってあらゆるアプローチが試された曲である。といってもこの曲に限らず、ライブでがらりとアレンジが変わった曲は数多くあるのだけれど。
 ほぼ独白、弾き語りのような世界は、熱狂的なファンには受け入れられたけど、やはり長尺過ぎるため一般に広がる機会が少なく、『No Damege』でも収録は見送られた。特別なストーリーはなく、ある種ナルシスティックな世界観が終始流れているため、受け入れる側もある程度、心してかからないとちょっとキツイ。

  訳もなく にじんでくる
  涙を拭い
  車のエンジン・キーに ゆっくり
  手を伸ばしたのさ

 




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大滝詠一の業界フィクサー振りが発揮された、夢のコラボレーション - 大滝詠一・佐野元春・杉真理 - 『Niagara Triangle Vol.2』

1200x1200-75 1982年にリリースされたナイアガラ・トライアングル・シリーズの第2弾。と言っても、第1弾リリース時、時代は大滝詠一にとっては逆風の頃、山下達郎も伊藤銀次も無名の若手ミュージシャンだったため、それほど大きな盛り上がりも見せず、速攻廃盤となった。なので、世間的にはこれが実質的な初お目見えとなった。
 大滝以外は常に若手ミュージシャン2人を起用する、というコンセプトのもと、今回のメンツは佐野元春と杉真理。どちらも音楽業界ではそこそこキャリアは積んでいたけど、一般的な認知はvol.1と大して変わらない程度だった。

 一応3人とも、当時はソニー系列のレーベル所属だったため、レコード会社の違いによる調整は比較的スムーズに行ったと思っていたのだけど、逆にグループ内から生ずる微妙な上下関係がこじれたため、企画自体がアウトになりかけたらしい。そこを大滝が、2人が出演するライブ・イベントにサプライズ登場、観客の前で大々的に告知して既成事実を作り、そこから話を進めていった、とのこと。
 まぁどうにか結果オーライで良かったけど、今の時代なら契約が複雑過ぎて、絶対まとまらない案件である。まだルーズな70年代を引きずっていた80年代初頭の音楽業界だからできた力業である。こうしたフィクサー的な役割、楽しんでやってたんだろうな、この人。

 前年リリースのロンバケの勢いもあってか、オリコン最高2位、年間チャートでも10位とかなりの売れ行きだった。前年末のシングル『A面で恋をして』のスマッシュ・ヒットが前評判を煽る形となり、話題性はあったのだろうけど、この時点では大滝以外、ほとんど知名度がなかったにもかかわらず、である。

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 ちなみに、ロンバケ・リリース後のナイアガラ・レーベルは怒涛のリリース・ラッシュを展開している。
 3/21にロンバケ・リリース後、4/1には過去のアーカイブ7枚を一挙再発、そして7/21にはロンバケのインスト版アルバム『Sing a Long Vacation』、そして年末には過去アーカイブをひとまとめにして、さらにコンピレーション2枚プラス新規ユーザー向けにナイアガラ第1期の詳細解説書とも言うべき『All About Niagara』を同梱したボックス・セット『Niagara Vox』をリリースしている。
 もちろんすべてはロンバケの大ヒットによって派生した企画であるのだけれど、ちょっと考えてみればわかるように、これだけの物量をいきなり短期間で用意できるわけがない。当然、それなりの準備期間は必要だったのだけど、ここでちょっと疑問が生じてしまう。
 ロンバケ以前は、はっきり言って収益性のかけらもなく、むしろ負債が原因で閉鎖の憂き目に遭った第1期目ナイアガラ・レーベル。なので、ロンバケがヒットする確率はかなり低い、と誰もが予想していたはず。こういった企画は通常、ヒットの兆しが見えてきて、ある程度期間を置いてからスタートするのが常である。なのに、このリリース・スケジュールだと、ロンバケが「ほぼ高確率でヒットすること」前提で進められたとしか思えない。
 それかまたは、フィクサーとして暗躍した大滝とソニーとの密約説など、考えればキリがない。

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 Miles Davis『Star People』のレビューでも書いたのだけど、このアルバム・リリース時の俺は中学生、やっとFMに興味が出始めた頃である。何となく名前だけでも聴いたことのあるアーティストが特集されたら、とにかく片っぱしからエア・チェックしており、彼らもまたその中のひとつだった。
 なので、特別狙って聴いたわけでもなく、新聞のラジオ欄をチェックして、たまたま聴いたのが、NHK-FMの「ニュー・サウンズ・スペシャル」だった。内容はほとんど覚えていないのだけど、やたらハイ・テンションで饒舌な杉、今と変わらずスクエアな口調でロジックな語りの元春、時々ボソッとオヤジ・ジョークを挟みながら、マイペースな語りぐちの大滝というのが、当時の印象。
 いわゆるプロモーション出演なので、アルバムの曲を間に挟みながらの軽快なトークで番組は進行したのだけど、いかにもギョーカイ人っぽい言葉のやり取り、そしてこれまでの歌謡曲やニュー・ミュージックとも質感の違う世界に、田舎の中学生は魅了され、番組終了時にはすっかり虜になっていた。
 どこか懐かしくありながら、分厚い音の壁をぶち立てる大滝、元春のはっちゃけたロックンローラー振りは、田舎の中学生にとっては、これまでとはまるで別世界の洗練された音楽として映ったのだ。杉は…、あんまり印象に残ってない。Gilbert O'SullivanやBeatles直系のポップ・センス、今は好きだけどね。

 前から思っていたのだけど、ここでの大滝のスタンスについて。
 佐野が「ちょっとやんちゃな末っ子のロックンローラー」、杉が「やや浮世離れして楽天家のポップな次男」と考えると、長男としての大滝の役回りは何だったのか、ということ。総合プロデュースという役割ではなく、彼がここで担った音楽性は何だったのか。
 
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 大滝詠一というアーティストは、ほんと日本のロックの黎明期から活動していた人だけど、そのキャリアの半分以上は裏方作業とご隠居状態で占められており、純粋にミュージシャンとして活動していたのは、10年強程度である。さらに脚光を浴びて活動していた時期というのは、ほんの4〜5年程度に絞られる。多分本人の中ではプロデューサー、またはレーベル・オーナーが本職なのであり、裏方意識の強い人である。
 なので、このアルバムもミュージシャンとしてのエゴよりもむしろ、アルバム全体トータルとしての完成度を優先している。ナイアガラ・トライアングルの初期コンセプトとして、若手ミュージシャンのショー・ケース的な意味合いを持っているので、プロデューサー的判断としては、あくまで狂言回し、大滝自身はそれほど目立たなくても良く、よって2人よりもインパクトの少ない楽曲を提供している。

 ほんとは一言で、ナイアガラ・サウンドとはこういうものなんだ、と言ってしまえば話は終わるし、無理やりカテゴライズする必要もないのだけど、敢えてジャンル分けするのなら…。
 あ、要するに歌謡曲なんだよな、と考えればスッキリする。
 ロンバケに引き続き、作詞を引き受けた松本隆。かつての盟友であり、また当時、歌謡界でブイブイ言わせていた売れっ子作詞家である。『Each Time』のレビューでも書いたのだけど、彼のウェットな感性が、ベタになるギリギリのラインを回避した、日本的情緒を想起させるサウンドとメロディを求めることによって、大滝のサウンドも変化していった。
 リズムにこだわるサウンド・メイキングのあまり、第1期ナイアガラ終焉時には音頭にまで到達してしまった大滝が次に向かったのは、メロディの追求だった。正確には日本人の琴線に直接響くメロディを引き立たせる、参加ミュージシャンが一斉に合奏することによって生じるナチュラルな音圧の構築だった。
 ゴージャスなサウンドは、小細工のないストレートなメロディを生み出し、芸術性と大衆性の両立によって、より大きな支持を得ることになった。その王道サウンドに言い訳はなく、新しい形のスタンダードなフォーマットとなり、松本によって創造された新感覚の歌謡曲となった。


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1. A面で恋をして
 オリコン最高14位。資生堂化粧品秋のキャンペーン・ソングとして、それなりに売れたのだけど、CMに出演していたモデルのスキャンダルによって、放映して1週間で自粛、当時放映されていたTBS「ザ・ベストテン」においても、「もうすぐベストテン」コーナーで出演か?!とも噂されていたのだけれど、結局噂で終わってしまった因縁の曲。
 サウンドはど直球のスペクター・サウンドであしらわれており、本人はそうは言ってないけど、どう見ても売る気マンマンのテクニックを披露している。まぁ単独名義じゃないし、若手にミソつけるわけにもいかないものね。



2. 彼女はデリケート
 
  “出発間際にベジタリアンの彼女は
         東京に残した恋人の事を思うわけだ
    そう、空港ロビーのサンドウィッチ・スタンドで。
    でも彼女はデリケートな女だから、
         コーヒーミルの湯気のせいで、
    サンフランシスコに行くのをやめるかもしれないね“
 
 シングル・ヴァージョンにはない、印象的なモノローグからスタート。ちょうど同時代の村上春樹と同じ匂いを感じるのだけど、俺的に双方のスノッヴな世界観は、当時の憧れでもあった。同世代でそういう人は、結構多いはず。
 元春の曲の中でも1,2を争う疾走感、あっという間の3分間。Buddy Hollyの現代版とも言うべきロックンロール・サウンドは、他のアーティストの追随を許さぬパワーにあふれていた。
 ちなみに、もともとは沢田研二に書き下ろされた曲で、そちらも軽快なロックンロールに仕上げている。

3. Bye Bye C-Boy
 もともとはデビュー前に作られていた、元春のポップ寄りナンバー。多分、ナイアガラ的なものを入れた方が良い、という元春の判断によって、ストックから引っ張り出してきたんじゃないかと思われる。ちょっとフォーク・テイストも入って、当時としても古臭く聴こえたのだけれど、まぁこういった一面もアリっちゃアリ。
 
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4. マンハッタンブリッヂにたたずんで
 歌詞にはマンハッタンもNYも出てこないのだけど、スノッヴなキーワードが自然に溶け込んでおり、どこか永遠の旅行者的な佇まいさえ感ぜられる、元春初期の傑作。
 基本はフォーク・ロックなのだけど、敢えてギターを前面に出さず、ベーシックなリズムと鍵盤系を多用、珍しく女性ヴォーカルをバックに従えることによって、これまでと、そしてこの後もあまり類を見ないサウンドになっている。

 「ストレートに誰かに愛を告げて
 その愛がまた 別の愛を生む世界」

 なのに、ここでの元春はその後すぐ、「そんな夢を見てた君はクレイジー」と言い放ってしまうのだ。歌詞中にあるように、どこかでシニカルで、それでいてどこか地に足のついていない、不思議な感触の曲。



5. Nobody
 John Lennonをテーマに書いたということで、思いっきり初期Beatlesのオマージュとして、精巧に仕上がっている。パロディやパクリという次元ではない、古くなることのない永遠のポップ・ソング。

6. ガールフレンド
 ついさっき知ったのだけど、もともとは旧友竹内まりやに書いた”目覚め"の歌詞をリライトしたセルフ・カバー。ベッタベタなポップ・バラードで、ちょっと甘さがキツイのだけれど、まぁ当時のまりや向けだから、ファニー過ぎるメロディは致し方ない。

7. 夢みる渚
 シングル・カットもされた、杉のナンバーの中でも歴代トップ3に確実に入ってくる、人気の高い曲。ホント優等生的なポップ・ナンバーなのだけど、ここまでBeatles、特にPaulのサウンドを消化してた人は、日本ではほとんどいなかった。歌詞中の「Long Vacation」というキーワードを使ってても、嫌味が見られないのは、やはりこの人の人徳。
 
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8. Love Her
 もしかすると、このアルバムの中では最も完成されたポップスかもしれない。すぐ口ずさめてしまう歌詞、過剰でない程度のBeatlesへのサウンド・オマージュ、特に70年代までのPaulが憑依したようなポップ・センス、ラストのコーダで徐々に熱が入る杉のヴォーカルも、完璧。

9. 週末の恋人たち
 Elton Johnのポップ加減がBilly Joelのロックンローラー振りを抑えつけてしまったようなサウンド。この時期としては珍しく分厚いストリングスを導入、かなりポップス寄りの老成したポップスを演じている。この頃の元春は、今で言う「意識高い系」なオーラが漂っており、現実の生活と遊離したライフスタイルを歌にすることが多かった。ある意味、今も浮世離れしたようなキャラクターだけど、それを貫いていってるのは、この世代の特徴。

10. オリーブの午后
 本人曰く、松田聖子”風立ちぬ”のアンサー・ソング的スタンスの楽曲である、とのこと。まぁ確かにテイストは似てるだろうけど、この人の場合、後付けのこじつけも結構多いため、話半分に聴いておいた方がいい。結果的に似ちゃったんだろうけど。
 歌詞はもう、なんてこともないリゾート・ソング。改めて歌詞に目を通してみたけど、イメージ先行で中身はない、と言っていい。これでいいのだ、だってリゾート向けの歌だもの。

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11.  白い港
 こちらも改めて聴いてみると、ヴォーカルが一番熱が入ってるのは、この曲だと気がついた。なんかすごく朗々と歌ってたようなイメージがあったのだけど、全編に流れるストリングスが錯覚させただけで、かなりフレーズごとに丁寧に歌っているのがわかる。
 レコーディング自体も、多分ストリングスは別録りだろうけど、基本サウンドはロンバケで確立したオール・キャスト一発取り。後半の鍵盤系のダイナミズムは、今じゃ再現できない。

12. Water Color
 最初に聴いた中学生の頃、一番好きなナンバーがこれだった。当時の北海道の夏は今と違い、もっと曇り空も多くて肌寒い日も多かったけど、この曲から想起させる、本州の長い夏休み、突然の夕立の情景に憧れたものだった。

「斜めの 雨の糸 破れた 胸を縫って」

 こういった詩的な情景、宮沢賢治を思わせる描写こそ、中学生の心を鷲づかみするものだった。



13. ハートじかけのオレンジ
 『Each Time』収録”魔法の瞳”に直結する、シンセを中心としたエフェクトをメインにサウンドを構成したらどうなるか?という実験のもとに作られたような曲。ポップでファニーでメロディアスでいて、そして可能な限り歌詞から意味を取り去った、完璧なポップ・ソング。具体的なキーワードばかりながら、散文詩のような言葉の羅列は、メッセージや主張を読み取ることを拒否している。
 メロディはいろいろなオールディーズからのオマージュにあふれているので、親しみやすく口ずさみやすい。ナイアガラーの人なら、「このフレーズは1958年にマイナー・ヒットした何とかからの~」と分析しているのだろうけど、俺的にはそこにあまり意味を見いだせないし、そこまで深く掘り下げるよりは他の音楽を聴いていた方がいいので、そういったのはパスで。




 杉はパブリック・イメージ通りの中期Beatlesサウンドを演じきったのだけど、ここでの元春は、あらかじめ想定された枠内でのロックンローラー、いわゆるナイアガラ・ユーザー向けのロックンロールで収まってしまっている。それが大滝からの無言のプレッシャーだったのか、それとも自らの思い込みで枠組みを作ってしまったのか。
 どちらにせよ、元春の一面でしかないポップ・サイドの強調は、ここでは不完全燃焼に終わっている。なので、そのポップ性とバンド・サウンドの融合を実現した次のシングル『Someday』で勝負をかけることになる。



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俺の中での元春は、ここでひと区切り - 佐野元春 『Cafe Bohemia』

folder 『Visitors』をリリースした後の佐野元春の動向に気を揉んでいたのは、これまでのファン、そして新たに獲得したファンだけでなく、同世代の日本人ミュージシャンらもまた、同じ想いだった。
 決してヒット・チャートには馴染みそうもない、荒削りでありながら、しかし理性的に制御されたパッションを内包したそのサウンドは、80年代チャートの中心を担っていた歌謡曲と比較して、明快でもポップでもなかったのだけど、前作『No Damage』の余波も手伝って、オリコン年間チャート22位の好セールスを記録した。
 当時の日本において、ヒップホップというジャンル自体がほぼアンダーグラウンドな存在だったにもかかわらず、それを大々的に取り入れて、しかも商業的にもキッチリ結果を出したのだから、同業者としては強いリスペクトと共に、危機感も大きかったんじゃないかと思う。

 このアルバムがリリースされた1986年前後というのは、元春に限らず、日本のメジャー・シーンにいるアーティストにとって、様々な形はあれど、大きな転機を迎えることが多かった。商業的に肥大化したサザンを一旦休養した桑田佳祐は、原点に立ち返るべくKuwata Bandを結成、ストレートなロックン・ロールを追求することによって、サザン以外の可能性を模索していたし、日本人離れしたファンクネスとずば抜けた歌唱力を持って一躍シーンに躍り出た山下達郎は、これまでの必勝パターンとは真逆のベクトル、内省的な歌詞と箱庭的に作り込んだデジタル・サウンドとの融合に苦悶し、長い袋小路の岐路に佇んでいた。
 「歌謡ロック」と揶揄されることも多かったBOOWYは、コンポーザー布袋のビジョンである、ニュー・ウェイヴ以降のUKアバンギャルドと、一見ドライながらドメスティックな共感を得る歌詞とのハイブリットなサウンド、その完成度の高まりと共に行き詰まり感がメンバー全体に蔓延し、その短いキャリアに自ら潔い終止符を打とうとしていた。
 これまで築き上げてきたキャリアに対して、少しでも真摯なスタンスのアーティストなら、作品クオリティの維持と商業的成功との両立を成し遂げている元春の一挙一動は、注目に値するものだったと思われる。

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 それだけ内外に影響を与えた『Visitors』だったけど、元春自身はそこから更にヒップホップを掘り下げることはしなかった。
 ここ日本において本格的にヒップホップを根づかせるためには、ワン・ショットのインパクトではなく、言い方は悪いけど、二番煎じか三番煎じまで畳みかけていかないと、定着しないはずである。なのに元春、『Visitors 2』的なアルバムを作らなかったのは、もちろん戦略的な面もあるだろうけど、常に進歩することを求められるトップ・アーティストとして、ひとつの色に染まらない、特定のカテゴリに収まりたくない、ある種の反抗心のようなもの、それと使命感もあったのだろう。

 時たま出演するバラエティやインタビューでの発言でも知られるように、基本マジメな人である。ただ、大多数の人より価値基準や行動規範がちょっとズレているだけで、空気を読まず我が道を行く思考回路については、あまり突っ込んじゃいけないところ。一歩間違えれば社会的に孤立してしまいそうなところを、基本ピュアネスにあふれている元春、本人としてはそれがごく普通の事柄であり、何事においても誠実に答えているだけなのだから。

 当時の元春が目指していたのは、洋楽の安易な移植ではないロックを日本に根付かせること、そして、いまだ現時点においても知名度の高いナンバー”Someday”に凝縮されているように、基本ポジティブなメッセージを伝えるため、ロック・ミュージックという手段を使っていた。そりゃ中にはネガティヴなテーマの曲もあるけど、基本はその人柄から窺えるように、真摯でピュアなメッセージである。
 シリアスでリアルなメッセージを伝えるのに、当時のストリート・カルチャーに深く根付いていたヒップホップというサウンドは有効だったけど、サウンドというツールは、あくまで伝達の手段である。そこにこだわりを持つことは決して悪いことではないけど、そこへの執着が強すぎると、本来伝えるべきメッセージがボヤけてしまう。器ばかり磨き上げてもダメなのだ。

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 『Visitors』で糸口を掴んだばかりのヒップホップ・サウンドも、そこを一点集中で突き詰めるのではなく、これまで学び得たノウハウの一つとして、更に貪欲な吸収を行ない、そしてそれらをミックスし練り上げこねくり回した結果として、この『Cafe Bohemia』がある。

 お茶の間レベルで理解できるレベルにまで噛み砕いたアバンギャルド・サウンドとロック的イディオムとの融合を見事結晶化させた『Visitors』に対し、今回の『Cafe Bohemia』、表面上はワールドワイドでジャンルレスな音楽の追求、スタイリッシュなジャケット・デザインから窺えるように、その気だるい居ずまいから、以前のポップ性を擁したロックン・ローラーの姿は想像できない。Style CouncilやStingからインスパイアされた、ジャジーなinterludeは、ロック的衝動やダイナミズムからは最も遠いところで鳴っている。
 ただ同時に、表面的にはロック的サウンドから遠ざかりながらも、ロックの構成要素であるパッションは減じず、抽出されたメッセージ性に最もこだわっていたのは、日本においては元春が第一人者であったことは誰も否定できない。

 ロック的イズムへのこだわりが強くなるあまり、敢えてサウンドの比重を弱め、言葉そのものの持つ力を引き出したのが、この頃から始まるスポークン・ワード(ポエトリー・リーディング)である。もともとは1950年代のビート・ジェネレーション時代に端を発し、その代表的作家Jack KerouacやAllen Ginsbergらによる、ニューヨークのライブハウスでの詩の朗読パフォーマンスなのだけれど、不定期レギュラーとなっている教育テレビ『ザ・ソングライターズ』での1コーナーとして、目にした人も多いはず。
 ロック的演出を一旦剥ぎ取り、言霊本来の力と朗読力のみによって繰り広げられる、言葉のぶつけ合いと受け合い。そこはステージという多人数:1という構図ではなく、見る人によってそれぞれ解釈が違い、結果、1:1という、至極パーソナルな関係性が築かれている。その真剣勝負は互いに極度な緊張状態を誘発し、結果、体力の減少が著しい。安易なジェスチャーやメロディでごまかそうとしない所に、彼の潔さがうかがい知れる。


Cafe Bohemia
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ソニー・ミュージックダイレクト (2013-02-20)
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1. Cafe Bohemia (Introduction)

2. 冒険者たち Wild Hearts
  ちなみにこのアルバム、これまでの元春のアルバムはすべてソロ名義だったのに対し、ここから何枚かは”with Hertland”と併記されている。レコーディング、ライブ双方を精力的に行なっていた頃であり、バンドとしての一体感が、これまでとは明らかに違っている。
 何というか、百人が百人とも、「これはロックだ」というサウンドではない。ヴォーカルは明らかに元春そのものなのだけれど、ホーン・セクションを前面に出したソウル・テイスト濃いサウンドは、日本人単独では出せなかったグルーヴ感がある。
 でも、これが元春の目指すところの、ロックなのだ。

3. 夏草の誘い Season In The Sun
 肩ひじ張ってない歌詞が、俺は好き。『Someday』以前に頻発していた、ちょっとスカしたシティ・ボーイのシニカルな呟きより、このようなストレートなメッセージを爽やかに歌えるようになった、この時代の元春のファンは今も多い。

 そうさ これが君への想い 何も怖くはない 
 Just One More Weekend いつでも 君のために戦うよ 
 Smile Baby 汚れを知らない 小鳥のように

-G3FHU36I0Ocq

4. カフェ・ボヘミアのテーマ Cafe Bohemia

5. 奇妙な日々 Strange Days
 このアルバムの中では比較的ストレートなロック。ちょっとエスニック入ったピアノなど、そこかしこで正しくストレンジな音が入ったりなどして、普通のサウンドでは済ませようとしない、チャレンジ・スピリットが強く出ている。

6. 月と専制君主 Sidewalk Talk
 ちょっとアフリカン・ポリリズムのエッセンスが入った、ちょっと奇妙な質感の曲。後年、このタイトルでセルフ・カバー・アルバムをリリースするのだけど、何かしら思うところがあったのだろう。地味だけど、なんとなく記憶に残り、妙にクセになる曲である。これまでの、そしてこれ以降の元春にも見当たらない、不思議な浮遊感のある曲である。
 後半のブギウギ・ピアノとホーン・セクションとの掛け合い、ルートを外れそうでいて、きちんと本筋は外さないベース・ラインなど、ほんとバンドの一体感が出ていて、レコーディングも楽しげだったことが想像できる。

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7. ヤングブラッズ Youngbloods
 1985年2月、国際青年年のテーマ曲としてシングル・リリース。年間チャートでも63位と健闘した。やっとまともにトップ10ヒットとして世間に認められたのが、この曲である。確かにNHKなんかでは頻繁に流れていたため、タイアップ効果も大きかったとは思うけど、でも、この曲にはそれを超えたパワーがみなぎっている。
 直訳すれば「若い血潮」と、いきなりダサくなってしまうけど、それを恥ずかしげもなく堂々と歌えるのが、やはり元春である。そのポジティヴなパワーの前では、ちょっとした恥じらいなどは吹き飛んでしまう。
 この頃の元春としては珍しく、カタカナ英語が頻発した歌詞なのだけれど、力強いバンド・サウンドがそのうすら寒ささえ吹き飛ばしてしまう。
 元旦に撮影されたという、この有名なPV、ほんと何度見てもワクワク感が募る。 

 冷たい夜にさよなら
 その乾いた心 窓辺に横たえて
 独りだけの夜にさよなら 木枯らしの時も 月に凍える時も
 いつわりに沈むこの世界で 君だけを固く抱きしめていたい



8. 虹を追いかけて Chasing Rainbow
 ちょっとDylanのフェイクっぽいヴォーカルが時たま気怠くイイ感じなのだけど、もしかしてただ単にキーが高いだけなのかもしれない。

9. インディビジュアリスト Individualists
 暴力的なスカ・ビートに乗せた性急な元春のヴォーカルが、『Visitors』を彷彿とさせる。硬質な言葉を叩きつける元春は、すべてのリスナーへ向けてアジテーションを送っている。バンドのどの音も攻撃的である。ひたすら単調なビートを刻むリズム・セクション、変調したギター・カッティング、地底をうねるベース・ライン、どれも体制へのもがき、抵抗が見え隠れする。

10. 99ブルース 99Blues
 呪術的なアフロ・ビートと、それを切り裂く重苦しいアルト・サックスの調べ。こちらも『Visitors』サウンドの上位互換であり、様々なサウンドとのハイブリットで構成されている。
 この曲での元春はかなり饒舌。どこかトピカル・ソング風にも聴こえる、社会風刺も混ぜ込んではいるが、そこまでシリアスにならないのは、やはり根が性善説な人だからなのか。

 いつも本当に欲しいものが
 手に入れられない
 あいかわらず今夜も
 口ずさむのさ
 99 Blues


 
11. Cafe Bohemia (Interlude)

12. 聖なる夜に口笛吹いて Christmas Time In Blue
 クリスマス・ソングにレゲエ・ビートを組み合わせる発想は、これまでなかったはず。もしかして前例はあったかもしれないけど、ここまでスタンダードに残る歌になったのを、俺は知らない。それだけクオリティが高いのだ。
 クリスマス・イヴのワクワク感とクリスマス当日の「もうすぐ終わっちゃう」感を淡々と、しかもわかりやすく描写したのが、この曲。歌謡曲全盛だった当時、しかも12インチ・シングルでのリリースだったにもかかわらず、そこそこのヒットを記録したのは、純粋に曲の良さと歌詞の良さ、そしてレゲエ・アレンジの勝利だろう。

 愛している人も 愛されている人も
 泣いている人も 笑っている君も
 平和な街も 闘っている街も
 メリー・メリー・クリスマス
 Tonight's gonna be alright



13. Cafe Bohemia (Reprise)




 で、俺にとっての元春というのはここくらいまで。この後の元春はアッパーな時期とダウナーな時期とが交互に訪れている。そのバイオリズムの振り幅が大きすぎて、ちょっと聴くのが辛くなってきたファンというのは、多分俺だけではないはず。
 その後のホーボー・キング・バンドやコヨーテ・バンドとのルーツ・ロック的セッションも味わい深くて良いのだけれど、キャリアのピークを知ってしまっている俺としては、ちょっと物足りなさも感じてしまう。ただ、ここに至るまで経てきた元春の軌跡を鑑みると、もっと気合入れてよ、とも言いづらい。
 困ったものである。


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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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