folder 前回のJoe Jacksonに続き、今回もデビュー・アルバムのご紹介、同じくパンク・ムーヴメントの流れでデビューした、Elvis Costello。
 デビュー当時のCostelloとJoeとは共通点が多く、彼の場合もまた、このアルバムのチャート・アクションがUK14位US32位と、当初からイギリスはもちろんのこと、アメリカでもウケが良く、セールス100万枚に到達、ゴールド・ディスク認定を受けているところも似ている。

 アメリカという国が日本の25倍の面積であることは良く知られている。それに引き替え、総人口は日本の倍程度なのだけれど、人種の坩堝という異名を取るだけあって、様々な価値観が存在する。
 音楽の世界に特化すると、このアルバムのリリース当時の1977年、音楽業界の世界的なトレンドは断然ディスコ・サウンドだったのだけど、だからと言ってみんながみんな、そればかりに目が行っていたわけではない。今となっては猫も杓子もサタデー・ナイト・フィーバー、John Travolta一色だったように報じられているけれど、多くの人々にとってディスコ・サウンドというのは都会の若者が聴くような音楽という認識であり、南部の保守的WASPらにウケる音楽ではなかった。彼らには彼らのための音楽、古色蒼然とした昔ながらのカントリー・ミュージックが、しっかりと生活に根付いていた。
 以前、Blues Brothersのレビューでも書いたけど、ムショ帰りの彼らが再結成後、最初にプレイしたのは、当時、南部のどんな田舎でも必ず一軒はあったカントリー・クラブだった。Willie NelsonやDolly Partonをこよなく愛するオーディエンスの前では、彼らが得意とするソウル・レビュー・スタイルはまったくウケが悪くブーイングの嵐、そこで仕方なしにやってみせたのが『ローハイドのテーマ』、そしてこれがまた大ウケするのである。

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 こういった例に漏れず、案外アメリカというのは、地域によってはめちゃめちゃ保守的な傾向が強い。あまりに広大過ぎる国土のため、どうしても最大公約数的なものばかりがブームとして取り上げられているけれど、それすらもごく少数での盛り上がりということは、普通のアメリカ人ならとっくに気づいていた。
 CostelloやJoeが受け入れられた土壌というのも、アメリカではほんのごく一部なのだけれど、ゴールド・ディスクを獲得するくらいなので、それなりのニーズは確実にある。少なくとも、イギリス全土を束ねても適わないくらい、裾野はだだっ広い。

 考えてみれば、パンク・ムーヴメント襲来の70年代後半アメリカでは、彼らのようにベーシックなロックン・ロールをプレイするアーティストがあまりいなかったことも、ヒット要因の一つである。
 そのパンク・ムーヴメントだけど、今でこそ歴史の転換点として大仰に伝えられているけれど、前述したように、音楽業界全体に影響を及ぼすだなんて、とてもとても。ましてやセールス面だけで取り上げたとしても、もろもろのディスコ・サウンドと比べて、そりゃもうお話にならないくらい。
 ロックのカテゴリーで当時チャート・トップに君臨していたのはEaglesとFleetwood Macであり、どちらにしろロックン・ロールと呼ぶには、あまりにかけ離れたメンツばかり。
 ある意味隙間産業、ニッチな部分のニーズにスッポリうまく嵌まったのが、彼らイギリスのパンク・ロッカーらなのであった。

 芸名にElvisを使用(ちなみに本名はDeclan Patrick Aloysius MacManusという、Elvisとは何の関係もない)、ジャケットでの出で立ちは、まんまBuddy Hollyという、往年のロックンローラーへのリスペクト満載といった趣きだったので、その辺は多少、ユーザーへ向けての戦略的な部分があったんじゃないかと思われる。

 Joeの場合もそうだけど、この時代にリリースされたアルバムは昔から、『パンク・アルバム50選』などというお題目のディスク・ガイドで、ほぼ定番としてリストアップされており、最早さんざん紹介され尽くされている。
 なので、ちゃんと聴いたことがないのに聴いた気になってしまっている、または逆にヘソを曲げて聴く気になれないという場合も多い。

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 これは音楽全般に言えることだけど、評論家やリスナーから名盤という位置に祭り上げられてしまったがため、「これは名盤なんだから」と自分に言い聞かせながら、クソつまんない音楽を聴いちゃってる人も結構多いはず。何の予備知識もないままプログレや古典ブルースを聴いてみても、どれも同じように聴こえてつまらないだけだし、物によってはいつの間にか寝てしまったりなど、むやみなセレクションによって挫折して聴かずじまいのジャンルは以外と多い。

 個人的にもう何百回も聴いてるこのアルバムだけど、しばらく聴いてなかったので、今回久しぶりに車の中で聴いてみたら、あらビックリ、ほとんど覚えてる曲ばっかりだった。
 最近はそうでもないけど、一時期海外のブートCDに凝っていたことがあって、Costelloのライブもいろいろ漁っていたのだけれど、どの年代においても『My Aim is True』からの選曲が必ず1,2曲はある。この人のライブ選曲の特徴として、ワーナー以前:以後の割合がほぼ7:3くらいなので、必然的に初期の曲が多くセレクトされる傾向にある。多分、今もその割合はそんなに変わってないんじゃないかと思われる。

 このアルバムのレコーディング時点では、Attractionsはまだ参加しておらず、代わりにバックを務めたのが、あのHuey Lewis & The NewsのThe Newsの方、このNewsの主要メンバーが中心となって行なわれたというのは、結構有名な話。
 当時新興レーベルだったStiffとしては、バンドで売り出すと経費が嵩むので、最初はソロで売り出す予定だったらしい。しかもプロデュースは、レーベル・メイトであるNick Lowe、このNickもまた、具体的なプロデュース作業はほとんど行なわず、ミキサー卓の前にどっかり座って飲んだくれるだけだった、ということなので、まぁインディーズ・レーベル特有のアバウトさも手伝って、比較的雑な扱いだったことがうかがえる。
 
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 デビューしてから間もなくAttractions結成、その後、英米を中心としたツアーが始まるのだけれど、まぁその数の多いこと。当時のツアー・データを見ると、ほとんど移動日もなしに、月20日以上はライブの予定が詰め込まれている。それだけなら当時のバンドも似たようなものだけど、そのうちのいくつかはダブル・ヘッダー、昼夜二回公演という日も見受けられる。
 それだけ需要があった、廻れるところはとにかくブッキングしまくったのだろうけど、その辺にバンドのコンディションなんてまったく考慮しない、労基?何それ?というスタンスのマネージメントの姿勢がうかがえる。
 そしてまた、それすらを跳ね返すバンドの勢い、どうにか這い上がろうとする若さとパワーがビシビシ伝わってくる。いやほんと、何枚かはオフィシャルでもリリースされているけど、初期のライブはネットで漁りまくるほどの価値は絶対ある。大きな声では言えないけど、俺もいくつか持ってるし。

 そんな熱気や野心、そして現状不満を見事サウンドとして封じ込めた、姿勢としてのパンク、次の『This Year’s Model』もそうだけど、俺にとっては極上のロックン・ロールなアルバムである。
 パブ・ロックっぽさも強いけどね。


My Aim Is True (Dig) (Spkg)
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Elvis Costello
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1. Welcome to the Working Week
 ほんの1分半程度の短い曲だけど、疾走感は群を抜いている。導入部→メロディ→サビ→再びメロディ→最後にサビ、という展開が凝縮されている。アルバム一曲目の自己紹介的な出だしは完璧。しかもこの曲、Costello自身も血糖値が上がるのか、近年の演奏でもほぼ同じテンションでプレイしている。
 ちなみに当時、シングル”Alison”B面でリリース。A面でもいいんじゃないかと思えるくらいのクオリティだけど、ちょっと尺が足りないか。



2. Miracle Man
 ちょっとポップなロックン・ロール。最初からアメリカ・マーケットを意識していたかのような、覚えやすくノリやすい曲である。今になって聴いてみると、ちょっとドラムの手数が多いかな?Pete Thomasならもっとシンプルに、スクエアなドラムだったと思う。

3. No Dancing
 ドラムがやはりアメリカ寄り、出だしがもろ”Be My Baby”である。このドラム・パターンはどの年代においても人気があるので、やはりこの曲もよくライブで演奏されている。あと、コンテンポラリーなサウンドを目指していたのか、どのアルバムに比べてもコーラスの厚さが目立つ。アメリカ勢が多いという先入観なのか、Doobie Brothersあたりと印象が被ってしまう。

4. Blame It on Cain
 ちょっぴりブルース・スケールも引用している曲。ほぼサビ一発みたいな曲だけど、この時期にブルース成分を入れてきたのは、やはりアメリカ勢の為せるワザか。

5. Alison
 “She”があれだけ爆発的にヒットするまでは、多分これがCostelloの中では一番有名な曲だったはず。長年のファン、そして俺にとってもすっかりお腹いっぱいの曲だけれど、でもしかし、やはり聴くといいんだよな、これ。
 これだけ長いキャリアなので、様々なパターンの曲を作ってきたCostello、当然「どっかで聴いたことない?」ってな曲も数多く存在するのだけれど、この”Alison”タイプの曲はこれ以降、作られていない。Costelloのバラードといえば、後年になるにしたがって音数が少なくなり、スロー・テンポを朗々と歌い上げることが多いのだけれど、ここまで速いテンポのマイナー・コードの曲は、多分俺が知る限りではこれくらいだと思う。最初から完成されたポップ・バラードを作ってしまったがため、これ以上の曲が作れなかったのだろうか?
 ちなみにシングル・リリースもされているのだけれど、当時はUS・UKともチャート・インはなし。USは仕方ないとして、UKについてはちょっと不思議。なにやってんだ、英国人っ。



6. Sneaky Feelings
 ここでA面ラスト。比較的アメリカ寄り、ミディアム・テンポのロックン・ロール。A面はポップな面を強調しているのか、それほど攻撃的な曲はない。これも歌いやすくノリやすいナンバー。

7. (The Angels Wanna Wear My) Red Shoes
 ここからがB面。
やっと「怒れる若者」としてのCostelloが登場する。これまでとレコーディングのメンツは変わらないはずなのだけれど、サウンドの攻撃性がまるで違っている。
この曲もライブで長年レパートリーに加えられており、1.同様、当時と変わらないテンションで歌い継がれている。

8. Less Than Zero
 記念すべきデビュー・シングル。こちらもどこにもチャート・インせず。うん、デビューにしてはちょっと、インパクト弱いよな。いや、いい曲なんだけどね、シングルとしてはちょっと、華がなかったんじゃないかと思われる。

9. Mystery Dance
 そう考えると、こちらの方が断然シングル向き。Presleyの現代的解釈とでも言うような、性急な8ビート。間奏のギターがカントリー・ロックっぽいところも、初期Presley の意匠をそのまま受け継いでいる。1.同様、こちらも1分半程度のめちゃくちゃ短いナンバー。
 
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10. Pay It Back
 ちょっとテンポの遅いロックン・ロール。9.の後に聴くと、なんかモッサリ感があって胃もたれする感じなのだけど、単体で聴けば普通に良質のナンバー。

11. I'm Not Angry
 タイトル通り、パンクな曲。パンクの名盤と呼ばれているこのアルバムだけれど、ほんとに性急なビートと怒りに満ちたメッセージを兼ね備えたナンバーというのは、実は数少ない。B面は比較的アップ・テンポの曲が多いのだけれど、それでもそれ以上に若干レイド・バック気味のナンバーが多いのは、やはりバックがアメリカ勢が多くを占めている影響だろうか。

12. Waiting for the End of the World
 そういった数少ないパンク・ナンバーが続く。こちらもギターのレイド・バック感が強く、一瞬、UK産であることがわからなくなる場合もある。ただビートはきちんと英国風味を醸し出している。

13. Watching the Detectives
 初リリース時、UKオリジナル盤には収録されておらず、日本盤のみのボーナス・トラック扱いだったのだけど、現行CDでは普通にこのポジションで収録されている。
 シングルとして、UK15位US108位、初めてチャート・インした、”Alison”と並んで最初期の名作の一つ。
 この時期に既にレゲエ・ビートを取り上げていたこと、アルバムとはレコーディング・メンバーが違い、ここで初めてSteve Nieveがキーボードで参加していること、Detective(探偵)という、ロックとは馴染みづらそうな単語を使ってヒットさせたことなど、書きたい事はいろいろあるのだけれど、やはり肝心なのは音。
 こちらはUK勢が中心のメンツ、演奏もCostello自身を含めて4人という最小限のフォーメーションで挑んでいる。ソリッド感がまるで違うこと、余韻を残すことのない、シャキッとした音の響きもまた、この曲の魅力の一つである。






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