活動歴の長いアーティストになるほど、様々なしがらみが付きまとってくる。レコード会社の都合やファンの勝手なニーズに、いちいち従順に応えていくと、本来自由であるはずの表現活動の幅は、次第に先細りになってゆく。ただ、とにかく必死なデビュー間もない頃は、そんなことを考える者は少ない。
最初に世に出る頃は、それまでの蓄積を吐き出すだけで精いっぱい。数年後のビジョンまで視野に入れて行動しているのはほぼ皆無、ほとんどのアーティストにとっては、次のレコーディング契約・次のライブ会場ブッキングを継続させることにしか、意識が行かない。
それでも無我夢中にもがいた末、どうにかセールス・動員数などで結果を出し、ようやく次のアルバム、ライブができる目処がつく。規模やランクはあれど、大方はこのサイクルの繰り返しだ。
それでも無我夢中にもがいた末、どうにかセールス・動員数などで結果を出し、ようやく次のアルバム、ライブができる目処がつく。規模やランクはあれど、大方はこのサイクルの繰り返しだ。
デビューして数年までの行動はすべてアウトプット、これまでの自分の貯金を切り崩す作業・身を削る作業が主なため、当然アイディアはすぐに枯渇する。そんなにそんなにデビュー前から、革新的なアイディアを蓄積している者はいない。そこでアイディアを仕入れる作業、インプットが必要になる。それは座学や実践もそうだけど、異ジャンルの他者との交流によって生まれる場合もある。創作のアイディアを受信するアンテナを広げ、自ら様々な場所に出向き、情報を収集してゆくことが必要になる。そして、そこからが本格的にアーティストとしてのスタート地点になる。
ほとんどのアーティストはそこへ行き着く前に息切れ/ネタ切れして、そしてフェード・アウトしてゆく。もう少し世渡りの上手い者は、過去のアイディアの拡大再生産で凌いでゆく。そのような選択肢が潔いとは思わないが、次第に過酷になりつつある音楽業界をサヴァイヴしてゆくためには、必要悪な生き残り策ではある。
そういった小手先の技を使う必要がない、革新的なアイデアが常日頃湯水のように湧き出てくる者もいるにはいるけど、そういった天才肌タイプの人間はごく少数、限られた数しかいない。
昔ならJimi HendrixやFrank Zappaあたりだろうけど、存命している中での代表格と言えば、お待たせしましたPrinceである。
とはいっても、芸術の神に微笑まれる時期というのはごくわずか、彼もまた一生涯にわたって才気煥発だったわけでなく、本当に創作力のピークだったと言えるのは、デビュー当時の70年代後半から80年代いっぱいくらいまで(『絶頂期』の解釈については、様々な意見がある)、以降はサウンド的な進歩は微々たるもので、凡百のアーティスト同様、やはりこれまでアウトプットしてきたパーツの拡大再生産に甘んじている。
昔ならJimi HendrixやFrank Zappaあたりだろうけど、存命している中での代表格と言えば、お待たせしましたPrinceである。
とはいっても、芸術の神に微笑まれる時期というのはごくわずか、彼もまた一生涯にわたって才気煥発だったわけでなく、本当に創作力のピークだったと言えるのは、デビュー当時の70年代後半から80年代いっぱいくらいまで(『絶頂期』の解釈については、様々な意見がある)、以降はサウンド的な進歩は微々たるもので、凡百のアーティスト同様、やはりこれまでアウトプットしてきたパーツの拡大再生産に甘んじている。
で、この『Black Album』、ちょうど創作力のピーク、時期で言えば『Sign “O” the Times』と『Lovesexy』の間にリリースされる予定だったアルバムである。当時のPrinceのワーカホリック振りは今でも語り草となっており、大量の未発表曲ストックがこの時期に集中している。
自前のスタジオ「Paisley Park」を所有していたPrinceにとって、レコーディングを行なうということは、即ち息をするのと同然の行為であり、とにかく思いついたら昼夜を問わず、手当たり次第にテープを回していたらしい。夢の中でアイディアが生まれたため飛び起きて、真夜中にバンド・メンバーを呼びつけた、という胡散臭い逸話も残っているけど、まぁ当時は独裁者同然に振る舞っていたらしいので、多分ほんとのことなのだろう。
まずは何曲かレコーディング→なんとなくアルバム・コンセプトを決める→テーマに沿った曲を選ぶ→アルバム一枚に繋いで微調整、といった風に、結構システマティックにレコーディングは行なわれ、まるで工業製品のようにぞくぞくアルバム単位のマテリアルが製造されていった。
自前のスタジオ「Paisley Park」を所有していたPrinceにとって、レコーディングを行なうということは、即ち息をするのと同然の行為であり、とにかく思いついたら昼夜を問わず、手当たり次第にテープを回していたらしい。夢の中でアイディアが生まれたため飛び起きて、真夜中にバンド・メンバーを呼びつけた、という胡散臭い逸話も残っているけど、まぁ当時は独裁者同然に振る舞っていたらしいので、多分ほんとのことなのだろう。
まずは何曲かレコーディング→なんとなくアルバム・コンセプトを決める→テーマに沿った曲を選ぶ→アルバム一枚に繋いで微調整、といった風に、結構システマティックにレコーディングは行なわれ、まるで工業製品のようにぞくぞくアルバム単位のマテリアルが製造されていった。
『Black Album』においても、最初はほぼこの流れで制作された。かなりディープなファンク寄りの曲が多く出来上がるに連れ、次第にコンセプトも固まってゆく。
どうせやるならもっとマニアックに、セールスは度外視でやってみよう。せっかくならもっと「ど」が付くくらいのファンクで、これでもかというくらい「濃い」アルバムを作ろう。契約枚数オーバー?だったら名前も出さない顔も出さない、ブートみたいな真っ黒ジャケットで出しゃいいんじゃね?
どうせやるならもっとマニアックに、セールスは度外視でやってみよう。せっかくならもっと「ど」が付くくらいのファンクで、これでもかというくらい「濃い」アルバムを作ろう。契約枚数オーバー?だったら名前も出さない顔も出さない、ブートみたいな真っ黒ジャケットで出しゃいいんじゃね?
-ま、だいたいこんな感じで作っちゃったんじゃないかと思う。ただ最終的にPrinceがチキンになったおかげで、最終工程寸前で発売差し止めになっちゃったけど。
サウンドについてはこれまで散々語られているので、知らない人でも何となく知ってると思うけど、問答無用のファンク・ミュージックである。
言い訳しようのない、真性の「ど」が付くファンク。
前作『Sign “O” the Times』では、全方位的なコンテンポラリー・ミュージックの片鱗を見せたPrince、今回はポップに振り切り過ぎた反動なのか、「一見さんお断り」の看板を掲げた密室ファンクを緻密に創り上げ、そして無造作に、何の飾りもなく放り投げてきた。あまりに閉鎖的な空間で鳴っているので、自己完結してしまうがあまり、最早どこへ繋がることもない、出口なし袋小路の音楽。当時のPrinceの体臭がツンと臭ってくる、そんなアルバムである。
言い訳しようのない、真性の「ど」が付くファンク。
前作『Sign “O” the Times』では、全方位的なコンテンポラリー・ミュージックの片鱗を見せたPrince、今回はポップに振り切り過ぎた反動なのか、「一見さんお断り」の看板を掲げた密室ファンクを緻密に創り上げ、そして無造作に、何の飾りもなく放り投げてきた。あまりに閉鎖的な空間で鳴っているので、自己完結してしまうがあまり、最早どこへ繋がることもない、出口なし袋小路の音楽。当時のPrinceの体臭がツンと臭ってくる、そんなアルバムである。
プリンス
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1. Le Grind
リズム・トラックだけで、もう何時間も聴いていたいくらい、とにかく気持ちいい。シンセの使い方にZappっぽい瞬間があるけど、どこからどう切り取ってもPrinceの体臭がプンプン臭ってくる。
ホーンをひと固まりの音として扱うのではなく、エッセンス的なエフェクトとして使うのが、この人の特徴。そこが他のファンク・アーティストとの大きな違いである。なので、ダンス・チューンにもかかわらず、どこか踊りづらく密室的なのはそのせい。
この頃よく駆り出されていたBoni Boyerの弾けっぷりが爽快。
ホーンをひと固まりの音として扱うのではなく、エッセンス的なエフェクトとして使うのが、この人の特徴。そこが他のファンク・アーティストとの大きな違いである。なので、ダンス・チューンにもかかわらず、どこか踊りづらく密室的なのはそのせい。
この頃よく駆り出されていたBoni Boyerの弾けっぷりが爽快。
2. Cindy C.
ベシャッと響くドラムが時代を感じさせるけど、Prince自身による冒頭のファルセットな雄叫びがファンキー。ラップというには躍動感が足りないCat Gloverの「語り」が、うまくリズムと対比している。
ホーンの使い方はジャズ・テイストも加わって、サウンドに厚みを加えている。しかしPrinceの「語り」、まぁ下手くそなラップよりは全然良い。
ホーンの使い方はジャズ・テイストも加わって、サウンドに厚みを加えている。しかしPrinceの「語り」、まぁ下手くそなラップよりは全然良い。
でもこの人、どうしてこんなにベースを入れるのを避けるのだろうか?
ちなみに豆知識、タイトルの由来は当時のセレブ・モデルとして名を馳せたCindy Crawford。
ギターのカッティング・ソロが絶品。さすが「Rolling Stone」で「最も正当に評価されていないギタリスト」に選ばれただけのことはある。
俺自身としては、恍惚の表情でギター・ソロを弾きまくるPrinceよりはむしろ、こういった的確な場所でちょっとセンスのあるオブリガードを聴かせる感じの曲の方が好きである。だって、ソロに酔いしれるPrinceって、あんまりカッコよくないんだもん。
プリセット丸出しのドラム・ループの音はショボくチープだけど、ここでは比較的マシなPrinceのラップがイイ味出している。ギターの代わりにスラップ・ベースを入れたら、さらにファンキー指数は上がるのだろうけど、そうはしないのが、PrinceのPrinceたる所以なのだろう。
俺自身としては、恍惚の表情でギター・ソロを弾きまくるPrinceよりはむしろ、こういった的確な場所でちょっとセンスのあるオブリガードを聴かせる感じの曲の方が好きである。だって、ソロに酔いしれるPrinceって、あんまりカッコよくないんだもん。
プリセット丸出しのドラム・ループの音はショボくチープだけど、ここでは比較的マシなPrinceのラップがイイ味出している。ギターの代わりにスラップ・ベースを入れたら、さらにファンキー指数は上がるのだろうけど、そうはしないのが、PrinceのPrinceたる所以なのだろう。
4. When 2 R In Love
『Lovesexy』ヴァージョンとほぼ同じ。このアルバムの中では異色の、流麗なメロディで勝負した曲。余計な装飾を省いたアルペジオと、エフェクトをかけたドラム、次第に音数が増え、中盤ファルセットの多重コーラスがもっともファンクを感じさせる瞬間。複雑なリズム・パターンに頼らずとも、ファンキー指数をあげることができるというお手本の曲。
5. Bob George
ブートレグ並みにくぐもった音質のシンセ・ドラムに合わせて「語る」Prince。思いっきりエフェクトを変えて低音にしているため、最初本人だとは思えなかった。その別人のようなPrinceが不穏なバック・トラックに合わせて語り、霧の遥か向こうで響き渡るギター・ソロ。
いわゆる一般的なファンク・サウンドではないのだけれど、どこかP-Funk的な、負のパワーを内包した攻撃的なデンジャラス・ファンク。あまりに攻撃性が強いため、普通のアルバムに当てはめることは不可能。
『Black Album』とは、まさしくこの曲のためにあるアルバムだろう。
いわゆる一般的なファンク・サウンドではないのだけれど、どこかP-Funk的な、負のパワーを内包した攻撃的なデンジャラス・ファンク。あまりに攻撃性が強いため、普通のアルバムに当てはめることは不可能。
『Black Album』とは、まさしくこの曲のためにあるアルバムだろう。
6. Superfunkycalifragisexy
チープなシンセ和音から始まる、タイトルから想起されるイメージとは裏腹に、疾走感のあるファンク・ナンバー。元ネタはもちろん映画『Mary Poppins』挿入曲” Supercalifragilisticexpialidocious”から。
ちなみに日本のバンドBOOWYも同時期、” SUPER-CALIFRAGILISTIC-EXPIARI-DOCIOUS”という、ワン・スペル違いの曲をリリースしていた、というのは、あまりいらない情報か。
ちなみに日本のバンドBOOWYも同時期、” SUPER-CALIFRAGILISTIC-EXPIARI-DOCIOUS”という、ワン・スペル違いの曲をリリースしていた、というのは、あまりいらない情報か。
曲調としては、これぞPrince!といった感じの、優秀なファンク。そうだよ、こういったのを求めてたんだよ、やりゃできるじゃん、とでも言いたくなってしまう、ノリッノリでいて、しかもどこかクールさを感じさせる、ドライな質感。
7. 2 Nigs United 4 West Compton
6.と同じく疾走感溢れる極上のファンク・チューン。7分という長尺のインスト・ナンバーのため、やはりPrince名義でリリースするのはちょっと…、といった感じの曲。こういった通常のアルバム・コンセプトから外れてしまう曲も受け入れてしまうのが、この『Black Album』の懐の深さだろう。
リリース当時はダルいインストが退屈で、歌が入ってればもっといいのに、と思っていたけど、世間的にも俺的にも、状況はかなり変わってきた。この後、いち早くインターネットに興味を持ったPrinceは『NPG Music Club』を設立、メジャーではリリースしづらい曲を次々に独自配信するようになり、その中にはジャム・セッションを延々と収録した物も含まれており、Princeのような多作アーティストにとっては良い時代になってきた(と言っても数年で飽きてしまい、すぐ活動は休止してしまうのだけど)。
俺的にはここ数年、新旧問わずジャズ・ファンク系の音を漁るようになってきたので、このようにファンキーなインストは、結構ツボである。
リリース当時はダルいインストが退屈で、歌が入ってればもっといいのに、と思っていたけど、世間的にも俺的にも、状況はかなり変わってきた。この後、いち早くインターネットに興味を持ったPrinceは『NPG Music Club』を設立、メジャーではリリースしづらい曲を次々に独自配信するようになり、その中にはジャム・セッションを延々と収録した物も含まれており、Princeのような多作アーティストにとっては良い時代になってきた(と言っても数年で飽きてしまい、すぐ活動は休止してしまうのだけど)。
俺的にはここ数年、新旧問わずジャズ・ファンク系の音を漁るようになってきたので、このようにファンキーなインストは、結構ツボである。
8. Rockhard In A Funky Place
『Parade』に入っててもおかしくない、このアルバムの中では比較的マイルドなファンク・チューン。ややスローなミドル・テンポも聴きやすい。
中盤のギター・ソロはPrinceのベスト・プレイの一つ。決して引き出しの多い人ではないけど、やはりこのリズム、このエロいヴォーカルの後ろで鳴っていると、より効果を発揮する音である。
本人的にはSantanaの影響が多いと言っているのだけど、いやいやどう聴いてもジミヘンでしょ、これって。
中盤のギター・ソロはPrinceのベスト・プレイの一つ。決して引き出しの多い人ではないけど、やはりこのリズム、このエロいヴォーカルの後ろで鳴っていると、より効果を発揮する音である。
本人的にはSantanaの影響が多いと言っているのだけど、いやいやどう聴いてもジミヘンでしょ、これって。
四半世紀も前のアルバムだけあって、どうにも音が軽いのが弱点。初リリース予定当時は、既にレコードからCDへの移行時期だったため、LPは未聴だけど、やはりリズムの音質自体、現代のサウンドと比べると貧弱だ。どうにかリマスターしてほしいのは全世界のファンの願いなのだけど、何しろワーナーとの関係が微妙なため、それもなかなか進展しない状況が続いている。
『Purple Rain』30th Annversary Editionはどうなった?
ほんと、どうにかしてほしいものである。
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