いま現在のGodley & Cremeの評価というのはもっぱら先鋭的な音楽性について取り上げられたものが多い。大抵形容詞的に使われているのが、「密室ポップの伝道師」やら「ギター用アタッチメントGizmoの開発者」やら、一風変わったポップ馬鹿的な扱い。
もともとが変態ポップ・バンド10ccの変態エフェクト担当だったこともあって、オーソドックスなポップ志向だったGraham Gouldman、Eric Stewartと袂を分かったのも、そういった変態性を追求していきたかったから。
もともとが変態ポップ・バンド10ccの変態エフェクト担当だったこともあって、オーソドックスなポップ志向だったGraham Gouldman、Eric Stewartと袂を分かったのも、そういった変態性を追求していきたかったから。
ロック通史においてはそうなのだけど、MTV全盛の80年代を通過してきた俺世代にとって、Godly & Cremeとは断然、先鋭的な映像クリエイターとしての印象が強い。
一番有名なのはやはりPolice、特に『Synchronicity』以降からStingソロまでの一連の作品群。今回改めてビデオグラフィーを調べてみて、「え、これも作ってたの?」とビックリしちゃったのが、Herbie Hancock “Rock It”とBeatles “Real Love”。言われてみれば、どっちも同じ感じだよな。
MTV全盛期に多かったのが、映画並みの予算をかけたことを謳い文句にしたPV。考えてみればこれって、映画本編に対してのコンプレックスの裏返しなのだけど、ただの宣伝用映像が映画のクオリティにまで近づいたのだと言いたげに、やたらとストーリー性を重視したドラマ仕立てになったり、曲本編よりドラマ部分が長尺になった作品も現れた。
イントロが始まるまでに陳腐な小芝居が続き、しかもそれが大抵、とてつもなくつまらない。予算自体はそれなりにあるけど、映画界にコンプレックスを持つスタッフが多かったせいもあって、変な芸術性や作家性が前面に出ちゃってるケースもあった。なので、テーマとは乖離した映像が延々と続き、本来の目的である楽曲がただのBGMになってしまったことも多かった。
ヘヴィメタ/ハード・ロック系によく見られる傾向として、やたらパツキンの女性がビキニ姿で大勢現れる、それに囲まれてロックン・ロール・ライフを満喫するアーティスト、そんな女性らに振り回されて最後はフラれてしまう、というまぁよくあるロマンティック・コメディ的なプロットは定番だった。
イントロが始まるまでに陳腐な小芝居が続き、しかもそれが大抵、とてつもなくつまらない。予算自体はそれなりにあるけど、映画界にコンプレックスを持つスタッフが多かったせいもあって、変な芸術性や作家性が前面に出ちゃってるケースもあった。なので、テーマとは乖離した映像が延々と続き、本来の目的である楽曲がただのBGMになってしまったことも多かった。
ヘヴィメタ/ハード・ロック系によく見られる傾向として、やたらパツキンの女性がビキニ姿で大勢現れる、それに囲まれてロックン・ロール・ライフを満喫するアーティスト、そんな女性らに振り回されて最後はフラれてしまう、というまぁよくあるロマンティック・コメディ的なプロットは定番だった。
ワン・アイディアながら、「そうきたか」的に秀逸だったa-ha ”Take on Me”のような作品も稀にはあったけど、その多くは映画の延長線上の映像であり、肝心の音楽を蔑ろにしている粗製乱造の作品が多かった。
そんな中、彼ら2人がディレクションした作品はアーティストからの評判も良く、今でも充分鑑賞に堪えうるクオリティをキープしている。これは基本、職業的映像作家ではなく、自らが現役アーティストという立場からの目線で、音楽をメインに据えた映像制作を心掛けているのが大きい。
映像畑出身のディレクターだと中途半端な作家性が抑えきれず、それが楽曲コンセプトとのズレとなってしまうのだけど、彼らにとってサウンドをメインに据えるのは当たり前のことである。なので、彼らの制作したPVはどれもオーディオ・ビジュアルとのシンクロ率が高く、評判が評判を呼んで、アーティストから直接のオファーも多かった。
映像畑出身のディレクターだと中途半端な作家性が抑えきれず、それが楽曲コンセプトとのズレとなってしまうのだけど、彼らにとってサウンドをメインに据えるのは当たり前のことである。なので、彼らの制作したPVはどれもオーディオ・ビジュアルとのシンクロ率が高く、評判が評判を呼んで、アーティストから直接のオファーも多かった。
で、肝心の音楽作品。最初に書いたように、かなり趣味性に走った実験的ポップ志向が多い。ていうか、はっきり言ってしまうとスタジオ遊びの延長線上の作品が多い。彼らの音楽の形容として、よく「おもちゃ箱をひっくり返したようなサウンド」という表現が用いられるけど、正確に言えば「箱」ではなく、「おもちゃ」そのものを分解して組み立てて、それを繰り返した末、何だか正体不明のモノができちゃった的な、好奇心と探求心の塊のようなサウンドである。
「ここのコーラス、ギターとユニゾンさせてみよう」「このフレーズ無限ループしてみよう」「もう原形わかんないくらいエフェクトかけてみよう」「このリズム・ボックスの電圧いじったらどうなるんだろう?」ってな具合。
要はスタジオに籠ってチマチマ機材をいじってるのが好きなだけなのだ。何しろ、あの”I’m Not In Love”をほぼ人力で創り上げてしまった2人である。
考えてみれば、この人たちのライブって聴いたことがない。昔からブートでも流出した話を聴かないので、多分ほとんどやったことがないのだろう。素材がオーディオかビジュアルかの違いだけで、スタジオでやってることはほとんど変わらない。
考えてみれば、この人たちのライブって聴いたことがない。昔からブートでも流出した話を聴かないので、多分ほとんどやったことがないのだろう。素材がオーディオかビジュアルかの違いだけで、スタジオでやってることはほとんど変わらない。
で、キャリアの一旦ひと区切りといった感じだったのか、久し振りにスタジオ・ワークに本腰を入れて作ったのがこれ。A面がこれまでリリースした曲のリミックス・メドレー、B面がシングル・コレクションという構成なので、まぁ今で言うところのリミックス・ベスト・アルバム(そのまんまか)。
純粋な新曲が入ってないのは、多分スケジュールの都合も考えられるけど、そのほとんどの時間はこのA面リミックス・メドレーで費やされたんじゃないかと思われる。MIDI黎明期だった当時でも、すでにフェアライトなどのサンプリング機材は普及しており、特に彼らのようなスタジオ・ワーク・メインのアーティストならその辺も熟知していたはずなのに、相変わらずの人力作業、昔ながらのテープの切り貼り作業で作られている。当時の機材の進化は飛躍的だったはずで、初リリース当時よりも効率良く高クオリティの作品が作れるはずなのに、相変わらずのチマチマ振りは変わっていない。
乱暴な言い方をすると、メイン・コンテンツであるリミックスと、既存のシングルの寄せ集めであり、アルバム至上主義の人間からすれば邪道なのだけれど、考えてみればハズレ曲なしのお買い得盤という見方もできる。
ヒストリー・ミックス Vol.1+2(紙ジャケット仕様)
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ゴドレイ&クレーム
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1. Wet Rubber Soup / Cry
10ccを含む全キャリアを俯瞰したベスト盤的メドレー。"Rubber Bullets"、” Life is a Minestrone”、”I’m Not in Love”を軸として、当時のトレンドだったヒップホップ「的」(あくまで「的」、一生懸命勉強しましたよ的な理系的グルーヴは感じられる)リズムを各曲を繋ぐブリッジとして使用している。クレジットはされていないのだけど、冒頭のナレーションやエフェクトなど、細かな素材をデビュー・アルバム『Consequences』他、ほぼすべてのアルバムからちょっとずつ借用している。
大量のマテリアルを凝縮し構成するため、この曲だけで当時の売れっ子プロデューサーを3名も贅沢に使用(Trevor Horn、Nigel Gray、J. J. Jeczalik)、3週間かけてサンプリングやらテープの切り貼りやら時たま実験などを駆使して、そこにさらに”Cry”を無理やり合体させて、18分の大作が出来上がった。
ここまで作り込まれたトラックだと、もはや出来不出来をとやかく言うのは無粋で、「よくやったよねぇ」と引きつり顔でねぎらうしかない問答無用の力作である。DTM機材が格安で揃う現代において、これらを模倣することは技術的にた易いけど、それでもここまで偏執狂的なセンスでまとめ上げることは至難の業だ。
これと同じコンセプトで、日本ではムーンライダーズが結成10周年記念シングルで挑戦しているのだけど(”夏の日のオーガズム“)、彼らの場合、ニュー・ウェイブを通過しているだけあって、アイディアは光っているのだけど、トラックの繋ぎなど、細かな点においてはやや粗雑さが見え隠れする。ただこれだけの複雑なトラックをライブで披露しているのは(一部テープ使用)意地だったのだろう。
"Cry"の有名なPVの衝撃は、同年代ならきっと誰もが記憶に残っているはず。世界中の人々が歌いながら徐々に表情が変わり骨格が変わり年齢が変わり性別が変わってゆくという、こうやって書いてしまうと単純なアイディアなのだけれど、それをワンショット固定カメラで実際に映像にしてしまったのは、やはり彼らの最大の功績である。「どうやって作ってるんだ、これ?」と言って欲しいがために作ってしまった、まさしく理系型アーティストの究極の到達点でもある。
そんな風に思った人が多かったのか、彼らGodley & Cremeの代表曲であり、最大のヒット曲でもある(UK19位US16位)。
そんな風に思った人が多かったのか、彼らGodley & Cremeの代表曲であり、最大のヒット曲でもある(UK19位US16位)。
ちなみに、このスタイルをもっとアクティヴにして、もっと物量と予算をかけて作り上げたのが、かのMichael Jackson “Black & White”である。
2. Light Me Up
このアルバム中、唯一書き下ろされた新曲。彼らの場合、どのトラックにおいてもそうなのだけど、録音がとてもうまいというのか、どのパートの楽器も音量にかかわらずしっかり明瞭に聴こえるのが特徴。
悪い例を挙げるとTodd Rundgren、この人なんかはとにかくアイディアを全部詰め込みたいがため、すべてのトラックに音を入れたくて仕方なく、しかもアナログ・レコードの収録時間ギリギリになるほどの長尺になることが多く、結果すべての音はコンプかけまくり、レコード内周に近い後半の曲など音が潰れまくりである。
悪い例を挙げるとTodd Rundgren、この人なんかはとにかくアイディアを全部詰め込みたいがため、すべてのトラックに音を入れたくて仕方なく、しかもアナログ・レコードの収録時間ギリギリになるほどの長尺になることが多く、結果すべての音はコンプかけまくり、レコード内周に近い後半の曲など音が潰れまくりである。
それに引き替えエンジニア的な側面も持つこの2人、そういった音質面にはとてもデリケートである。勢い一発で録りまくるアメリカ人と、細部をネチネチ作り込みたがるイギリス人との国民性の違いなのだろうか。
3. An Englishman in New York
同名異曲で有名なStingのヴァージョンがシリアスなスタンスだったのに対し、こちらはもっとウィットに富んだ世界観。Monty Python的なコーラス、ピンク・パンサーのフレーズも飛び出してくるので、”Cry”の次に人気の高い曲である。
1978年リリース『Freeze Frame』に収録され、後にシングル・カットされたのだけど、初期~中期Beatlesとの一連の仕事で名を挙げたエンジニアNorman Smithが参加している。彼らにとっては伝説の職人との仕事で浮き足立ったことだろうと思われる。浮き足立った勢いだったのか、この曲で初めてPV作りを体験、記念すべき監督デビューとなっている。
4. Save a Mountain For Me
テクノ・ポップ調の小品は、1983年リリース『Birds of Prey』の先行シングルとしてが初出。ここでは彼らの特徴である多重コーラスが特に炸裂、インドのボリウッド的サウンドの先駆けというのか、Beatles ”Tomorrow Never Knows”をもっと冗談っぽくしたコーラス・アレンジが、意外に現代にもマッチしている。
5. Golden Boy
1984年シングルのみのリリース。こちらも基本4.と同じサウンド・デザインなのだけど、やはり面白いのがPV。彼らの秀逸なPVがほぼそうであるように、こちらもオープン・リールを効果的に使ったワン・アイディアもの。非常にシンプルな作りなのだけど、見てるとクセになってずっと見入ってしまう種類の映像である。ぜひPVで見てほしい。
世界中でそこそこ売れたのと、やはり”Cry”効果なのかセールスの息が長く、リマスター・再発の繰り返しによって様々なヴァージョンが存在するこのアルバム。今回は俺が一番最初に駅前の貸しレコード店でレンタルしたアナログ輸入盤をベースに書いてみた。追加収録曲やエクストラ・トラックも存在する盤もあるけど、やはり最初に聴いたヴァージョンが一番しっくり来る。
この後、彼らはレイド・バックしたアルバムを1枚リリースした後、コンビ自然消滅の流れになるのだけど、それはもうちょっとだけ後の話になる。それはまた後日。
Cry: the Very Best of
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