トッド・ラングレン

好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

細けぇ事はいいんだよっ - Todd Rundgren 『Nearly Human』

folder 1989年にリリースされた、「ポップの魔術師」Todd Rundgren 16枚目のオリジナル・アルバム。長いキャリアにおいて初のワールドワイド契約を結んでのリリースは話題を集め、US102位はまぁしょうがないとして、UKでは久々に87位にチャートイン、再発ブームで湧いていたここ日本でも、オリコン最高85位と、小粒ではありながら存在感をアピールした。そのブーム以降、リアルタイムでは初のアルバムだったため、ミュージックマガジン界隈では盛り上がっていた記憶がある君は45歳以上。

 以前紹介した前作『A Cappella』は、「イコライジングした自分の肉声ですべての楽器パートを表現する」という、単なる思いつきを全力でやらかしてしまった実験作だったため、広く大衆にアピールするアルバムではなかった。US最高128位以外はどの国でもカスリもせず、日本でも一応リリースはされたのだけど、ジャケットも含めてキワモノ扱いだったし。
 そんな反省を踏まえたのか単なる気まぐれなのか、今回は古巣べアズヴィル・スタジオを離れ、名門スタジオ「レコード・プラント」を使用、大御所Bobby Womackとのデュエットなどゲストも豪華、ラストの「I Love My Wife」では、総勢22名のゲスト・ミュージシャンを迎え、カタルシス満載のホワイト・ゴスペルを展開している。
 それまでの密室作業中心のソロや、コロコロ音楽性の変わるUtopiaと違って、ボトムが太く直球ど真ん中、それまで培ったブルー・アイド・ソウルとストレートなロック・サウンドとのハイブリッドは、小手先の技を弄することもなく、これまでになかったグルーヴ感を醸し出している。
 やればできるじゃん。

 これまで業界内において、単に気が良くて中途半端な便利屋扱いされていたToddに転機が訪れたのは、80年代洋楽をかじっていた者なら誰もが知っている、XTC 『Skylarking』でのプロデュース・ワークである。
 本来、主役であるはずの気難し屋Andy Partridgeの意向など右から左へ聞き流し、中~後期Beatles へのオマージュを強調したサウンド・デザインと、べアズヴィル・スタジオ特有のデッドな響きのミックスは、ファン以外の耳目をも虜にした。今でも彼らのインタビュー記事といえば、当時の確執が落語のマクラ的に語られるほどである。まぁリリースから四半世紀経ち、今となっては2人ともギラついたエゴは薄くなり、互いに持ちネタ化してしまっているけど。

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 Andy同様、Todd自身にとっても彼らとのコラボはターニング・ポイントとなり、再度アーティスト活動に本腰を入れるようになる。
 LPからCDへのメディア切り替えのタイミングと相まって、ベアズヴィル時代の作品がまとめてリイッシューされたことも、Toddにとっては追い風となった。それまでコアなファンの間でさえ幻の作品となっていたアーカイブも入手が容易になり、ファン層は一気に広がった。日本でも雑誌メディアを中心に再評価の機運が高まり、新譜もないのに来日公演まで行なわれるほどの盛況ぶりだった。
 俺がToddの事を知ったのも丁度この頃で、まだ雑居ビルの2階でせせこましく営業していた札幌のタワレコで、日本未発売の『A Wizard, A True Star』のLPを買った。その後、札幌に住むようになってからCDを買い漁ったのは良き思い出。

 Toddといえば「密室ポップの魔術師」の異名で独りスタジオに篭り、特に70年代を中心に趣味的な作品を乱発していたイメージが強いけど、実際のところはUtopiaの活動も並行して行なっており、幼いLiv Tylerを養うためかそれとも家に居場所がなかったのか、かなりの頻度でツアーも行なっている。なので、一般的な宅録アーティストと違って、他人との共同作業を避けていたわけではない。ソロを作った後はバンドでのアルバム、完パケ後はそれをひっさげてライブを行なう、といったローテーションが自然とできあがっていたようである。
 彼が描いた当初の構想としては、産業ロックの前身であるアメリカン・ハード・プログレをバンドで展開して経済面を確保し、実験作や地味な作風のものをソロでやる、という予定だった。しかし実際には、地味なバラードが多いソロの方が好評を博し、ブームが過ぎると冗長さばかりが鼻につく、シンフォニック・ロック路線のUtopiaは苦戦を強いられる。
 そんな事情もあって、Utopiaの音楽性は次第にポップ色が強くなり、終いには凡庸なパワーポップ・バンドとしてフェードアウトしていった、というのは余談。

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 彼のソロ作品の傾向のひとつとして、同じくスタジオ・ワーカホリックのPrince同様、凝りに凝りまくったサウンドというのは思っていたより数少ない。トータルのアルバム・コンセプトや楽曲単位でのこだわりは相応だけど、楽器の音色へのこだわりはそれほどでもない印象。コンプをかけたりテープ逆回転を使ったり、経験則に基づいたギミックを使うこともあるのだけれど、それらも衝動的・単なる思いつきで使用されたものが多く、熟考を重ねたものではない。
 思いついたアイディアはとにかく片っぱしから詰め込んでしまうため、正規リリースなのに音質はブート・レベルのモノも多い。幾度にも渡るピンポン録音によってナチュラルにコンプがかかっている上、2枚組サイズの収録時間を無理やり1枚に詰め込んでしまってカッティング・レベルは下がり、さらに音は割れまくる。思いついたらすぐ手をつけないと気が済まないのか、ベテラン・アーティストにありがちな、シンセやドラムの音決めに丸一日かけるなんてことはせず、ほぼプリセットのまんまでスタジオ・ブース入りしてしまう。エフェクターだって、そんなに持ってないんだろうな。
 当然、じっくり練り上げて熟成させるなんてことは頭になく、思いついたアイディアを考えもせず、とにかくまずはプレイしてみる。ほぼ勢いのみでセッションしてしまうので、正確なピッチやリズム?何それ?といった塩梅。完璧なバンド・アンサンブルやインタープレイなんてのもあまり重要視せず、一回通してせーのでプレイしてみて、大まかな流れやソロ・パートの配分を決めると、即本チャン突入、あとは自分のパートで気持ちよくギター・ソロが弾ければ、それでオッケー。

 結局のところこの人の場合、「こうするとどうなるんだろう?」といった無邪気な少年の視点が、すべての行動パターンの発露である。
 独得のコード進行による揺らぐメロディは多くのファンの心をつかみ、Roger Powellら手練れのプレイヤーを擁するUtopiaは、自由奔放なバンマスに振り回されることもなく、完璧なバンド・アンサンブルを構築していた。
 それなのにこの人は、既存のお約束・予定調和的なものを自ら崩そうと一生懸命である。普通にバンドでやればバランスよく仕上がるのに、わざわざ全パートをマルチ・レコーディングでもって自分独りで演奏したり、わざわざ手間ヒマかけて肉声を加工して変態アカペラ・アルバムを作ったり、しまいには「インタラクティブ」と称して演奏素材をバラバラに収録、リスナー側が各自でリミックスして曲を仕上げるという、何とも微妙な作品をリリースしたり。
 すべては、単なる好奇心をきっかけとした「やりっぱなしの産物」である。そもそもこの人、この時点まで2枚続けて同じコンセプトでアルバムを作ったことがないので、新譜リリースごとに音楽性が変わり、ライト・ユーザーは皆無、ほぼコアなファンしか残らない。好きな人からすれば「何をやってもToddだよね〜、もうしょうがないんだから」といったところだけど、そりゃファン層も拡大しないわな。

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 で、『Nearly Human』。
 これまでになくコンテンポラリー向きで、外に開かれたサウンドではあるけれど、結局のところ、これもまたToddの壮大な気まぐれの具現化と捉えれば、異質でも何でもない。ていうかこの人の場合、ほとんど全部異色作ばっかだけど。
 -大掛かりな予算と豪華なゲストを使って、スタジオで一同に介してプレイしてみたら、一体どうなるんだろう?
 そんな素朴な疑問と探究心が、このプロジェクトのカギとなっている。これまでは自ら積極的に楽器を操っていたけれど、ここではシンガーとプロデュース、むしろコンダクターに徹しているため、バンド・サウンドの足腰の強さが全体にも大きく影響を及ぼしている。設備としては貧弱極まりないべアズヴィル・スタジオと違って、レコード・プラントでのレコーディングは音の仕上がりが違っており、バック・トラックの音圧は強い。
 眼前に立ちはだかるゴージャスな音の壁の前では、流麗かつ不安定なメロディの微妙な揺らぎはかき消されしまうけれど、ここでのToddはメジャー仕様のサウンドに堂々と対峙して、細かなディテールを排除したストレートなメロディ・ラインでまとめている。「細けぇ事はいいんだよっ」とでも言いたげに。
 結果的に大味に仕上がった作風は、コアなファンからは不評であり、70年代の作品と比べるといまだ正当な評価が与えられていない。直球勝負のパワーポップ風味ブルー・アイド・ソウルと捉えれば、クオリティ的には申し分ないのだけれど。

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1. The Want of a Nail
 ビルボード・メインストリーム・チャートで最高15位にチャートインした、Toddの大味なロック志向と不安定な揺らぎのメロディ・ラインとの奇跡的な融合。ゲスト・ヴォーカルのBobby Womackの参加がクローズアップされることが多いけど、俺的にはToddのヴォーカルにしか耳が行かない。この時期のBobbyは「ラスト・ソウル・マン」と称して第2のピークを迎え、Rolling Stones 「Harlem Shuffle」などロック系の客演も多かった時期だったのだけど、俺的にはこの人、演歌なんだよな。
 2分20秒当たりの転調の部分がとても美しいのだけれど、Bobbyのガサツなヴォーカルがちょっと興醒めしてしまう。生粋のソウル・ファンなら垂涎なんだろうけど。



2. The Waiting Game
 従来Toddのメロウな部分が80年代サウンドにアップデートされた、ソウル・テイストのポップ・チューン。ただこれまでと違うのは、Utopiaとは違うメンツでセッションを行なったことによる、外に開かれた楽曲であること。内に籠った落としどころのないメロディではなく、そりゃ普通の黄金コード進行とは違うけど、いつものToddよりは起承転結がはっきりした構造。やればできるのに。

3. Parallel Lines
 もともとはオフ・ブロードウェイ・ミュージカル『Up Against It!』のために書かれた楽曲。もうちょっと突っ込んで調べてみると、要は我々日本人が想像する煌びやかなショー・ビジネスの世界とは違って2軍扱い、もともとはJoe Ortonという脚本家がBeatesにインスパイアされた戯曲を読んで、さらにToddがインスパイアを受けてデモテープを作り、その中の1曲という代物。あぁややこしい。その同名タイトルのデモテープ集が1997年にリリースされているのだけれど、ごめん聴いてない。この時期のToddはいささか空回り気味だったので、まともに追いかけている人はごく少数のはず。いつかちゃんと聴かなきゃと思いつつ、ずっと後回しだな。
 ここまで言ってなんだけど、楽曲の出来としては秀逸。後にライブでもたびたび披露されるくらいだし、本人としても会心の出来と自負があるのだろうと思われる。イヤミなく、良質のAORロッカバラードとして聴いてみてほしい。



4. Two Little Hitlers
 アナログでは未収録だった、CDボーナス扱いのElvis Costelloカバー。まだCD/LP同時発売の過渡期において、収録時間の都合上、こういった扱いの楽曲が存在した時代の話。
 オリジナル・リリースが『Armed Forces』なので、Costelloのキャリアとしてはかなり初期の作品で、正直、目立った楽曲ではないので、逆にToddの選曲眼が目ざとく働いた結果に落ち着いた。リズム面を補強した以外はオリジナルとほぼ同じアレンジだったのも、Costelloファンである俺にとっては好感が持てた。
 しかし今じゃ絶対承認降りなさそうなタイトルだよな。まぁこれ以上、深追いするのはやめておこう。

5. Can't Stop Running
 Utopiaメンバー全面参加、リリース当時、ソウル・オリンピックのアメリカ応援ソングとして制作されたことで注目を浴びた、とのことなのだけど、正直記憶にない。
 そういった宣伝コメントを抜きにしても、楽曲のクオリティはめちゃめちゃ高い。やはり旧知のメンバーが入るとスイッチの入り方が違うのか、ここではTodd、思いっきりギターを弾きまくっている。またソロが映えやすい構造になってるもんな。
 キャッチーなサビのコーラスといい各メンバーのソロの見せ所ぶりといい、路線が迷走した挙句、尻切れトンボ気味に収束してしまったUtopiaとしての理想形がここにある。プログレもソウルもビート・ポップも産業ロックもすべて飲み込んだ、耳にした誰もが自然と高揚感を想起させるエモーショナルが内包されている。



6. Unloved Children
 アナログだと本来、4.のポジションに配置されていたブルース・ロック。シャッフル気味のリズム・パターンが単調になるのを防いでいる。やっぱりロック・チューンになると血が騒ぐのか、ここでも短いけれど印象的なギター・ソロを弾いている。
 こうして5.と続けて聴いてみると、あぁUtopiaというバンドはロック向きじゃなかったんだな、と改めて実感する。前述のRogerといいKasim Sultonといい、どちらかといえばシンフォニック/プログレッシヴがバックボーンだし、ブルース要素が皆無だもの。

7. Fidelity
 3.と同じく良質のAORバラード。曲調や構成もほぼ似たようなもので、でも二番煎じとはとても呼べぬクオリティのメロディが炸裂している。ここまでロック路線とフィリー・ソウル・バラードとがほぼ交互にうまく配置されており、やはりこの人はプロデューサーなんだなと思わされる。バランスの取り方ひとつでクドくなってしまいそうになるのを、うまく回避している。あんな人だけど、ちゃんと第三者的な目線は持ってるんだな。

8. Feel It
 ニュー・ソウル期のMarvin Gayeを思わせるドラマティックなストリングスで幕を開ける、以前、プロデュースしたThe Tubes『Love Bomb』収録曲のカバー。正直、Tubesはちゃんと聴いたことがないので判断しかねるのだけど、Youtubeで聴き比べてみたところでは、アレンジのテイストはそんなに変わらない。ニューウェイヴ期のバンドという以上の印象がなく、これからも俺的な興味は引きそうにないので、まぁ無難なポップ・バラードということで。

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9. Hawking
 なんとなく無難な穴埋め曲の後は、そろそろアルバムも終盤、クライマックスに向けて走り出す。タイトルが示すように、テーマがあのホーキング博士。ドラマティックかつソウルフルに彼の足跡と今後の展望を讃えている。何かと最新テクノロジー系に興味深々のTodd、ここではゴスペルライクなコーラスと咽び泣くサックスの調べによって、アーバンかつムーディな…、って宇宙論や理論物理学とは相反するサウンドだな。

10. I Love My Life
 ラストはなんと9分弱に及ぶ一大セッション。総勢30名以上をまとめるのはNarada Michael Walden。何ていうかこう、「いい」とか「悪い」とか「好き」とか「嫌い」という次元を超えて、「人海戦術」ってのはこういうことなんだな、というのを実感させられてしまう。一大絵巻。何だかんだ言っても「We are the World」だって「Do They Know y It's Christmas」だって、どんな批判や中傷も、あの圧力の前では無力だ。個人個人のパワーを結集すると、とんでもないパワーが生まれるのだ、って恥ずかしいことをつい呟かせてしまうパワーを持った問答無用のナンバー。
 ちなみに大コーラス隊のメンツの中で、なんでこの人が?というのが、Mr.BigのEric MartinとPaul Gilbert。世代的にもClarence Clemonsは何となく繋がりがありそうだけど、なんでこの人たち?






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「ひとりでできるもんっ」と開き直る、アメリカ・ポップ馬鹿 - Todd Rundgren 『Something / Anything』

folder 1972年リリース、Toddソロ3枚目にして2枚組のアルバム。前作『Ballad of』から半年ちょっとのインターバルは、全体的にリリース・スパンの短かったこの時期としても群を抜いている。同時期に創作力のピークを迎えていたアーティストとして、Frank Zappaも膨大な作品を残してるけど、彼の場合はライブ音源の編集モノが多いため、純粋なスタジオ・レコーディングの作品としては、Toddの方が実数は多い。と言っても、こういうのって別に勝ち負けじゃないけどね。
 雑誌「ローリング・ストーン」の企画「500グレイテスト・アルバム・オブ・オール・タイム」において173位にランクインしており、Toddの代表作としてこれを挙げるファンも多い。2枚組にもかかわらず、ビルボード最高29位を記録、最終的にゴールド・ディスクも獲得しており、Toddの人気はここで火が点いたと言ってもよい。当時の日本では、さすがにそこまでは売れなかったけど、一応1枚に編集した国内盤はリリースされており、そこで使用されたド派手メイクのToddのポートレートを使用したジャケットは、後の再評価時に話題になった。
 文句なしの代表作にもかかわらず、これまで取り上げてこなかったのは、正直長いから。何年かに一度引っ張り出して聴いてはほったらかし、また思い出したように引っ張り出す、といったループを繰り返して30年、もう長い付き合いなので思い入れは強いのだけど、日常的に聴くにはちょっと濃すぎる。
 なので、最近ではほとんど聴き返してなく、引っ張り出すのがめんどくさかったのが真相。でもやるよ、今回は。

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 もともとはBeatlesのフォロワー的な立場のビート・グループNazzでデビューしたTodd、当初は真っ当な4人グループとしてバランスが取れていたのだけど、60年代末というサイケデリック勃興の時代に、マージー・ビートのコピーが売れるはずもなく、セールスの苦戦に伴ってメンバーも続々脱退、末期はほぼToddのワンマン・バンドに変容してしまった末の解散、スタジオ・エンジニアの裏方仕事を経てソロ・デビュー、3人組バンドRuntを結成して2枚のアルバムを立て続けにリリースする。ここまでが、これまでのあらすじ。
 この時期のToddの立ち位置は、端的に言ってしまえば、「フォーク風味の薄いシンガー・ソングライター」といった感じである。フォークでは大きなウェイトを占める「メッセージ性の強い歌詞」やら「韻を踏んだ言葉遊び」なんかとは、ほぼ無縁である。ていうか隠喩を含んだ言葉などには興味がなく、お決まりのフレーズをノリ一発でシャウトするイメージの方が強い。言葉の力が強くなると、自然、コード進行はオーソドックスになり、メロディもシンプルなものになりがちだけど、思いついたメロディを無理やりコードにあてはめるため、まぁ不安定に揺れることといったら。
 ついでに、同時期のアメリカのシンガ・ーソングライター・シーンについて調べてみると、『Tapestry』がバカ売れしたCarole Kingを筆頭に、同じく『Hervest』がバカ売れしたNeil Young、ソロになって『There Goes Rhymin' Simon』がバカ売れしたPaul Simonが続く。『For the Roses』がそこそこ売れた、マイペースなJoni Mitchell。この頃から、彼女はちょっと異端だった。Jackson Browneのデビューもこの年だったんだな。
 今も語り継がれる名盤がボコボコ出ていたのが、この70年代前半という時代である。Eaglesもこの年だしね。

 当時彼が所属していたレーベル「ベアズヴィル」は、かつてDylanのマネージャーだったAlbert Grossmanによって、1970年に設立されている。当時はほとんど売れなかったけど、後に70年代シンガー・ソングライターの再評価ブームによって発掘されることになるJesse WinchesterやBobby Charlesが在籍していたことで、ごくごく一部では知られている。地味だけど、良質なソングライターにリリースの機会を与える、商業性を無理に押しつけないレーベル、という印象が強い。とは言っても、ある程度の収益確保を見込んでなのか、すでにブルース・バンドで実績のあったPaul Butterfieldや、UKハード・ブギ・バンドのFoghatも所属していたりして、運営のバランスは一応考えていたようである。
 で、そんな中でToddのスタンスはと言えば、アーティストとしてはもちろんだけど、そのベアズヴィル・スタジオのハウス・エンジニアも担っており、特にこの時期はスタジオに籠ってる率が高い。そういった裏方作業を請け負う見返りとして、スケジュールが空いている時は機材を自由に使い、理論そっちのけOJTで得たスキルを自分の作品にフィードバックさせていたと思われる。

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 普通、独り宅録路線に走ってしまうと、どうしても視野が狭くなりがちで、あまり一般ウケしない冗長な作品ができてしまいがちなのだけど、Toddの場合、このハウス・エンジニアとしての経験がうまく作用している。第三者的なプロデューサー視点が養われたことによって、独りよがりなマニアック路線に陥ってしまいがちなところが、うまく軌道修正されている。もともとの資質にバランス感覚が働いてできあがったのが、「ちょっとヘンテコだけど美メロ」という、Toddの基本フォーマットがここで確立されている。
 今になって冷静な視点で聴いてみると、「バンドでやった方がもうちょっと楽にできたんじゃね?」と思ってしまう部分もある。作業効率を考えるとそうなのだけど、でも、そういったことではないのだ。
 -だって、独りでどこまでできるかやってみたかったんだよっ
 彼にとって、サウンドのクオリティとかアンサンブルとか、そんなのは問題ではなかった。「独りヴァーチャル・バンド・サウンド」をどこまで追求できるか。そういった思い付きの産物が、この2枚組大作に膨れ上がったのだ。
 なので、多少リズムがモタつこうがピッチがズレようとも、そこはツッコミどころではない。
 「ズレてるよ、だからナニ?」
 重箱の隅を突っつき回るマニアたちの前で、その重箱をひっくり返し、豪快に笑い飛ばすToddの顔が思い浮かぶ。

 70年代のToddのアルバムどれにも言えることだけど、とにかくアイディアの量がハンパない。弱小レーベルのベアズヴィルでは、リリース・アイテムもそれほど多くはないので、ほぼスタジオに張り付きだったTodd、時間だけはたっぷりある。思いついたことは即実行に移せる環境にあるので、ストックは膨大になる。スタジオ・ワーク好きにとっては、夢の空間である。
 いくらプロデューサー視点を持っていたとはいえ、セルフ・プロデュースともなると歯止めをかける者がいないため、どうしてもアラは出てくるし、多少なりとも綻びも出てしまう。Toddの場合、それが顕著にあらわれるのがアイディアのまとめ方。このアルバムにも言えることだけど、とにかく収録時間が長い。
 特にベアズヴィル期のアルバムでは、とにかく思いついたことを片っぱしからレコーディングしているため、レコード片面に無理やり30分以上詰め込んだ『Initiation』に代表されるように、音質が悪いものが多い。CD時代に入ってからは、リマスターされたり高音質素材でリリースされたりして、音質向上へのたゆまない努力の跡が窺えるけど、そもそもの録音レベルがアバウトなので、正直見違えるほどの効果はない。大体が、ピーク・レベルがどうのダイナミック・レンジがこうの、といった些事にこだわる人ではない。エンジニア経験者のクセして。
 「エフェクターの種類?そんなの後でいいから、まず演奏しようよ。これ以上重ねると音が歪む?ナチュラルにコンプかかっていいじゃん」
 結果オーライよろしく、無邪気な笑みを浮かべるToddの面長顔が、つい思い浮かんでしまう。

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 「習うより慣れろ」的な方針のもと、とにかく思いついたことは全部やってみて、まぁ多少のズレや音質の悪さは見なかったことに、取り敢えず全曲完パケしてみると、どれも気に入っちゃったし、全部繋げてみると流れも良かったんで、全部入れちまえ」という経緯で仕上がったのが、この『Something / Anything』。
 普通の考えなら、ここからシングル・アルバムに仕上げるため、コンセプトを絞り込んでスッキリした流れにまとめるのだけど、それが絞りきれないのが、この人の長所であり短所でもある。
 多分、当初はプロデューサー的観点から1枚に収めようとは思ったのだろうけど、作業が進んでいくうち、ミュージシャンとしてのエゴが勝ってしまったのだろう。創作意欲のピークに達したアーティストに、歯止めをかけるのは容易でない。ましてやプロデューサーは自分自身だし。
 これも製作途中で気づいたのだろうけど、2枚組でリリース決定したはいいけど、曲が足りないのに気づく。どうしたって2枚分の曲数には足りない。かといって、今から新たにレコーディングするにも時間が足りない。今さら営業に、「やっぱ1枚にするわ」と言うこともできない。
 どうする?
 どうにか2枚組に尺を合わせるため、急遽旧知の仲間を呼んでスタジオ・セッションを敢行、完全セルフ・レコーディングのコンセプトもグダグダになっちゃったのは、この人らしい微笑ましいエピソード。
 それでも、何となく許せちゃうのは、人柄である。


Something/Anything?
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1. I Saw The Light
 第一弾シングルとして、USポップ・チャートで16位、UKでも36位のスマッシュ・ヒットを記録、カナダでも15位と、滑り出しとしては上々のリードとなった、Toddの人気投票では確実に3本の指に入る名曲。この曲に限らず、隙は多い。ドラムのアタックは安定しないし、時々挟み込まれるギター・ソロの響きもどこか不安定。しっかりリハーサルを行なってリテイクを繰り返せば、もっと見栄えの良いサウンドになったかもしれない。
 でも、そうじゃないんだよな。このヨレ具合もまた、楽曲にほど良いエッセンスを添加している。



2. It Wouldn't Have Made Any Difference
 『Runt』的なシンガー・ソングライター・タッチのバラードは、シングル第2弾としてリリースされたけど、US最高93位という、ちょっと残念な成績。当時のシンガー・ソングライター・ブームの渦中であったはずなのに、このチャート・アクションはちょっと残念。こっちの方が素直にメロウなので好き、という人も多いのにね。



3. Wolfman Jack
 で、バラードばかりだと飽きてしまうのか、ここでショーアップされたロックンロール・ナンバー。今の若い人だとピンと来ないかもしれないけど、タイトルはまんま、70年代を駆け抜けた伝説のDJへのリスペクト。小林克也が範としたマシンガン・トークは、もちろんアメリカでもカリスマ的な人気を誇り、全世界のラジオ局へ配信された。
 ここではTodd、ひとつの曲をラジオ・ショーに見立て、ノリノリのDJスタイルでプレイしている。考えてみりゃこれ、独りでやってるんだよな。ゴスペル要素も入った多重コーラスはもちろんのこと、そのテンションの高さはハンパない。

4. Cold Morning Light
 Toddの名曲として、もう1.では当たり前すぎるので、近年ではこの曲への再評価が著しい。イントロのクリアなアコギ・ソロ、中盤でのテンポ・チェンジなど、技巧を凝らした楽曲はレベルが高かったのだけど、これまでは2枚組というボリュームの中で埋もれがちだった。ミックス・テープやレアグルーヴの流れでは人気が高い。

5. It Takes Two To Tango [This Is For The Girls]
 イントロが『A Wizard, A True Star』収録のインスト・ナンバー「Tic Tic Tic, It Wears off」とリンクしており、Toddファンにはなじみの深い曲。タイトルのわりに全然タンゴっぽくないのだけど、手クセで作ったようなメロディは中毒性がある。

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6. Sweeter Memories
 骨格はシンプルなバラードなのだけど、なぜかドラムを大きくミックスしているのと、やたらと挿入されるギターのオブリガードが事態をちょっと複雑にしている。どれも思い付きの産物なのだろうけど、クセがある分だけつい引き込まれてしまう魅力がある。市井のミュージシャンが同じようなことをやると、あまりに漫然としすぎて退屈してしまうのだけど、そこはさすが一筋縄では行かない男、屈折した流れを覗かせながら、結局最後まで聴かせてしまう。

7. Intro
 レコードではB面。副題「The Cerebral Side」のご挨拶。

8. Breathless 
 で、始まると思ったらインスト。この辺は次作『A Wizard, A True Star』のA面のモチーフになったんじゃないかと思われる。ここで培われた世界観に変態性を加えて組曲にしたのが、あの壮大な組曲に成長する。

9. The Night The Carousel Burned Down
 このセクションを「知性」と名付けたTodd。A面サイド「A Bouquet of Ear-catching Melodies」が比較的キャッチーなポップ・チューンが並んでいたのに対し、ここでは顔ティックな小品が並んでいる。1曲単体で完結してるのではなく、すべてを結集させて一大シンフォニーを形成している。次作ほどまでは徹底していないので、ここで試行錯誤しているようである。まぁ4面もあるのだから、1面くらいはこういったのもあってもいいや、と思っていたのかもしれない。

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10. Saving Grace
 おどろおどろしいモノローグが不穏さを煽るけど、実際に曲が始まると、普通にポップ・ソウルの影響が素直にフィードバックされたナンバー。ギターのオブリガードが心地よく響き、今の時代に合ったアレンジにすると、ドライブ・ミュージックとしても充分機能するメロディ。

11. Marlene
 たどたどしいマリンバが印象的なポップ・バラード。中盤に変なブレイクを入れるのは、この人の特徴。一筋縄なポップ・ソングにはしないんだな。

12. Song Of The Viking
 音色からして少しバロック調のアレンジに挑戦している。当時のシンガー・ソングライターでこんなアレンジするのって、Paul Simonくらいだろうか。しかも題材がバイキング。なんだそりゃ。ロックンロール誕生以前のポップスなのかな?こういうのって。

13. I Went To The Mirror
 最初は真っ当なバラードなのだけど、次第にミステリアスなムードが全体を支配し、ゴシック調のダウナーなムードがさらに混乱を増し、なぜか終盤をブルース・セッションとなって幕引き。変な曲だよな、いつも混乱させられてしまう。

14. Black Maria
 ここからがCD・レコードとも2枚目。副題が「The Kid Gets Heavy」。タイトル通り、一発目は代表曲のひとつであるへヴィなロック・チューン。多分、ギターを弾きまくりたくて書いたと思われるナンバー。サウンド的には、きっちり作り込まれたリフやドラムの響きから、ZEPの影響が色濃い。純粋にカッコいいのひとこと。ポップ馬鹿な面ばかりが取り沙汰されるけど、基本、この人はロックンローラーなのだ。声質が細いんでマッチしてないんだけどね。でも、これは特別。曲がステキ過ぎる。



15. One More Day [No Word]
 曲調としてはポップなシンガー・ソングライター・タッチの佳曲なのだけど、Toddの歌い上げっぷりが特筆もの。彼のヴォーカライズによってスケール感が増し、ドラマティックな聞かせっぷりになっている。こういうのって持って生まれたものだから、努力うんぬんではないよね。

16. Couldn't I Just Tell You
 スタジオ・セッションっぽいブレイクから始まる、こちらもアコギを効果的に使ったハード・ロック・チューン。この曲はTodd自身お気に入りらしく、今でもセットリストに入ってる率が高い。ストレートなロック・ナンバーなので、理屈抜きでファンからの人気も高い。アメリカン・ロックの良質な部分を抽出してメジャー展開したのが、このナンバー。後のJourneyら産業ロックのプロトタイプになった。

17. Torch Song
 深いエコーのかかったピアノはスペイシーな感覚を醸し出している。でもクリアな響きにならず、若干潰れ気味なのはいつものこと。こういうところで音質向上って考えないんだな。後で直すことを考えるより、先へ進んで新たな曲を作る、という考えなんだろうな。後の初期Utopiaともリンクするプログレ的フレーズの乱れうち。

18. Little Red Lights
 再びへヴィなリフが先導するハードなロック・チューン。Toddのいつもの声なのでわかりづらいけど、バック・トラックだけ取り出すと、結構な重厚具合。Black Sabbathあたりからインスパイアされたと思われるボトムの太さは、とても2.を作った人とは思えない。こういうったのをやりつつ、ポップなものもやりたいんだろうね。
 完全宅録モードは、ここで終了。レコードD面からはセッションの寄せ集め的な帳尻合わせである。

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19. Overture - My Roots: Money [That's What I Want]//Messin' With The Kid
 1曲目は、言わずと知れたモータウンの大スタンダード。2曲目も、これも有名なブルース・シンガーJunior Wellsの1960年のヒット曲、らしい。らしい、というのは2曲目は俺、あまりよく知らなかった。だって、ブルースって苦手なんだもん。
 もともとこのアルバムのためにレコーディングされたものではなく、Todd秘蔵の1966年ライブ音源を使用。なので、とにかく音質が悪い。しかも2曲目なんて音飛びしてるし。
 故意なのか曲数稼ぎの苦しまぎれだったのか。多分、両方だろう。

20. Dust In The Wind
 で、ここからがまともなスタジオ・セッション。曲の配置的に地味なポジションにあるけど、恐らくこのアルバムの中ではベスト・テイクと言っていいかもしれない。少なくとも、俺的にはそうだ。
 後にUtopiaでToddと長らく行動を共にすることになるMoogy Klingman作曲、セッションではオルガンで参加している。当時つるむ機会の多かったRick Derringer、テナー・サックスにMichael Breckerを従え、コーラスを含め総勢13人の大所帯の一発録りでレコーディングされており、当然、音圧レベルがまるで違っている。サザン・ソウルを吸収したロック・バンドのスタイルは見事にハマっており、Todd自身のテンションも違っている。こういった場所も合うんだよな、この人は。

21. Piss Aaron
 ベアズヴィル・スタジオでレコーディングされた、シンプルなコード進行からして即興セッションと思われる。こういったブルース・ロックもやってみたかったんだろうな、好き嫌いは別にして。わざと偽悪的な表情でブルース・マンを気取ってるけど、生来のお人よしが出てしまうため、どこか抜けて聴こえてしまうのは仕方ない。

22. Hello It's Me
 20.のセッションからRick Derringerが抜け、代わりにお兄ちゃんRandyとコンバート、Brecker Brothersがここで誕生、ていうかまだ結成はされてなかったんだけどね。
 もともとはNazz時代に書かれた曲で、当時はStylisticsみたいなスロー・テンポだったけど、大編成セッションを行なうにあたり、ここではアップテンポにアレンジし直されている。フ抜けたプログレみたいなNazzヴァージョンから比べると、やはりこちらの方が聴きなれてる分もあって、ずば抜けて良く聴こえてしまう。まぁNazzヴァージョンなんて誰も知らないか。
 US5位まで上昇した、当然ながら1.と並ぶToddの代表曲。あまりに定番過ぎて、ファンの間では逆に敬遠されているけど、やっぱりこの世界観・空気感はつい馴染んでしまう。70年代の平和な部分を真空パックした永遠の名曲。



23. Some Folks Is Even Whiter Than Me
 再びベアズヴィル・セッションより。Toddにしてはよっとシリアス・ヴァージョンのロッカバラード。伴奏のサックスとピアノがカッコいい。あまりにエキサイトしすぎたのか、ギター・ソロはちょっとハシリ気味。でも、それがセッションっぽくていい。

24. You Left Me Sore
 歌い出しでつい笑ってしまい、2度もやり直してしまう、ドキュメント・タッチのセッション。メロディ・ラインはこのアルバムの中でも1,2を争う秀逸さ。さすが一流どころを揃えただけあって、ベアズヴィル・セッションとはクオリティが違っている。丁寧な作りだしね。
 このセッションで1枚まるごと作ってしまえば、また歴史も変わったのかもしれないけど―、いやないな、きっと。もしやったとしても、すぐ違う方向性へ興味が向いてしまうのがこの人だし。

25. Slut
 ラストはこれまでとは違うセッション、LAへ発ったTodd、今度はかつて共にRunt2部作を制作したTony & Hunt Sales兄弟を迎え、ソリッドなロックンロール。理屈抜きのゴキゲンなロックンロールは、ギミックなしのストレートな作り。あらゆるジャンルを網羅した幅広い音楽性。お疲れさまでした。




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ビートルズになり切ってみたアメリカのポップ馬鹿たち - Utopia 『Deface the Music』

folder 1980年リリース、バンドとして7枚目のアルバム。驚異的な多作で知られる70年代のToddだけど、前年はソロ・アルバムのリリースはなし、Utopiaとして『Adventures in Utopia』をリリース、続けてこのアルバム制作と、バンド活動のウェイトが大きくなっていた時期である。もともと当初の構想だったアメリカン・ハード・ポップ・プログレ路線(長い…)から大きく方針転換した『Adventures ~』がUS最高32位をマーク、シングル・カットされた”Set Me Free”も27位と大きく飛躍したおかげもあったため、戦略的に考えて、バンド活動に専念する方が得策という判断もあったのだろう。まぁ単にステージでガンガンギターを弾きたかったから、ツアーを続けていたのもあるけど。

 で、そんな好評を受けてバンド内のコンビネーションやアンサンブルは絶好調だったため、多分その勢いでドサクサまぎれに作られたのが、このアルバム。
 ジャケットを見てわかるように、全編Beatlesからインスパイアを受けて作られた楽曲が収録されている。あまりBeatlesに興味がない人でも、聴くと「あぁ、何となくあの曲っぽい」とわかってしまう、コンセプトはマニアックだけど間口の広いアルバムである。このフレーズはあの曲からで、このフィルインはあそこから、と重箱の隅をつつくように分析するのも良し、Beatlesマニア数人で集まってカルト・クイズに興じるも良し、いろいろと使い勝手の良いアルバムである。
 あるのだけれど、イコール大衆性とコミットしているかといえば、そんなことは口が裂けても言えそうにないアルバムでもある。
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 まぁBearsvilleレーベルだからリリースできたようなものの、普通のメジャー・レーベルなら二の足を踏みまくる、個人的な趣味性の強い内容のアルバムである。
 普通、まぐれ当たりでもスマッシュ・ヒットが生まれたのなら、畳み掛けるように二番煎じ三番煎じと、似たようなテイストのサウンドを続けてリリースするのが常套手段である。Bearsvilleもそういった路線を期待していたはずだし、業界歴の長いToddなら、そんなことはわかっていたはず。わかってはいても、どうしてもやりたくて仕方がなかったのだろう。
 結果、チャート・アクションは最高65位でストップ、何とも中途半端な結果に終わってしまった。このアルバム・リリースから少し後、John Lennon暗殺の悲報が世界中を駆け巡り、当時はオールディーズのカテゴリーにまで落ちぶれていたBeatles、ここからいま現在も続く再評価ブームが始まることになる。そういった経緯もあって、このアルバムも一応Beatlesつながりということで、便乗売り上げが見込まれたはずなのだけど、事情が事情なだけに沈痛なムードが蔓延する中、ちょっとおふざけ要素が強く受け取られたのか、話題にさえ上ることもなく忘れられていった。
 ただでさえ売れる要素がないのに、また間が悪すぎる。

 冒頭に書いたようにUtopiaというバンド、「一応」マルチ・プレイヤーであるToddが、スタジオでシコシコ地道に組み立てる密室ポップの反動で、ライブでもっとガンガンギターを弾きまくりたいという、思春期の中学生のような動機で始めたものである。ずっと自室でゲーム三昧の日常に飽きて、たまに外でヤンチャして発散というガキのメンタルと大して変わらないものだけど、まぁ男っていくつになってもそんなもの。
 で、当初はKansasや初期Journeyのような、仰々しいドラマティックな長尺コンセプト・ナンバーばかりやっていたのだけど、ライブを重ねるにつれてバンド・アンサンブルの方に関心が向いてきたのか、次第に曲が短くなっていった。サウンドの方向性もそれに連れてプログレの要素が薄くなり、いつの間にポップの側面が強くなっていった。
 当時のToddは家庭の問題も抱えていたため、そのせいかソロ・アルバムは次第に内省的なトーンになりつつあった。その反動で、ライブでは細けぇことはヌキにして、とにかく盛り上がろうぜ的な心境だったことも、要因のひとつ。
 そんな事情もあって、いつの間にかUtopia、シングル・ヒットも狙えるキャッチー路線に移行してしまった。

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 以前にTodd、ソロ・アルバム『Faithful』でBeatlesナンバー”Rain”と”Strawberry Fields Forever”の2曲を、音色からアレンジまでまんま完コピで作っているのだけど、それとはまた別のベクトルで、「これだけBeatlesが好きなんだから、もう俺がBeatlesになっちゃえばいいんじゃね?」という強烈なリスペクトの産物が、このアルバム。
 同じ方向性のアーティストといえば、真っ先にRattlesの名前が思い浮かぶけど、あれはパロディ。どこか毒があって小バカにしてる部分も見受けられるけど、Toddの場合はほんとにBeatlesになりたいんだという願望が嵩じての道楽であって、ちょっと方向性が違っている。まぁ傍目から見れば似たり寄ったりだけど。

 世の中には所謂Beatlesカバー・バンドというのが多数生息しており、その分布は世界中すみずみに至るわけだけど、そのほとんどはファッションも含めた完コピ、4ピースで演奏しやすい初期のナンバーに集中している。マッシュルーム・カットにスリム・スーツ、フロントマン2人がリード・マイク1本挟んで顔を付き合わせる、パブリック・イメージのBeatlesそのまんまのスタイルである。
 たまに末期の『Let it Be』『Abbey Road』系、70年代風ロック・バンド・スタイルのカバーをするバンドもいるけど、どちらかと言えばThe BandやAllman Brothersの系譜にあたるサザン・ロックのテイストが強く、いわゆるBeatlesらしさは希薄である。スタジオ・テクニックが主流となる中・後期の作品はライブでの再現が難しく、Paulでさえも90年代に入るまではライブではほとんどプレイしなかったくらいなので、アマチュア・バンドならさらにハードルが高くなる。
 で、「俺がBeatles」的なToddのこのアルバム、さすがプロだけあって特定の時期だけをフォローするのではなく、全キャリアを網羅した一大ストーリー絵巻といった構成になっている。Beatlesに憧れた少年が経験を積んでプロのミュージシャンとして独り立ちし、原点回帰としてこれまで得てきたスキルを投じて影響を受けたサウンドに、ちょっぴりオリジナリティを加えてまとめた研究成果が、この『Deface the Music』である。

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 で、このアルバムはそのFAB 4それぞれの要素が入っているのだけど、そのBeatlesへの惜しみないオマージュ・リスペクトは盛りだくさん、一途な思いが現れている。入念にアーカイブを分析しコラージュし順列組み合わせを駆使したそのサウンドは「もし俺がBeatlesだったら」という切実な思いの賜物である。
 ただ難を言えば、その思い入れが強すぎた弊害なのか、これまでのToddの持ち味が限定的なものとなっており、小さくまとまり過ぎちゃってるのも事実。憧れのBeatlesサウンドに少しでも近づきたいのと、世界中のBeatlesマニアの溜飲を下げることが目的化してしまって、Toddお家芸の不安定な揺れのメロディやコード進行が損なわれてしまっている。なので、シングル・ヒットの必須条件である明快なサビやフック・ラインが足りず、「あぁよく出来てるね似てるよね」程度で終わってしまってるのが、何とも惜しい。
 世界中に蔓延るBeatlesマニアだったら「あ、ここのフレーズはここから取ってきてあの曲と組み合わせて」など、前述したカルト・クイズに興じられるかもしれないけど、これまでToddやUtopiaを知らない人にいきなりこれをオススメするのは、ちょっと無理がある。

 一般的にToddのオススメアルバムといえば、大抵『Something / Anything?』か『A Wizard, A True Star』の二択であり、そこら辺はここ20年くらいそんなに変わってない。
 じゃあUtopiaのオススメは何だ?と言われると、これが案外難しい。何しろ初期と中期以降ではまったく別の音楽性なので、極めてカテゴライズしづらいバンドなのだ。
 アメリカン・ハード・ロック好きならデビュ・ーアルバムと『RA』を押さえておけば良いのだけど、中期以降は明確なアルバム・コンセプトの薄いものが多く、トータル性としてはどれもチョット惜しい感じになってしまっている。
 そうすると、消去法的にこのアルバムが一番キャッチーでコンセプト的にもまとまっているということになってしまう。なんかこれじゃない感がハンパないけど、決してBeatlesという存在がヒップじゃなかった時代背景を考えると、敢えてこの時期にこれを出してきたToddの漢気を評価したい。
 ただ単に思いつきでやってみた感も否めないけど。


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1. I Just Want to Touch You
 邦題"抱きしめたいぜ”…、ってマンマじゃん。初期Beatlesの一番キャッチーな部分からオイシイ所を引っ張ってきてまとめた印象。中盤サビが”From Me To You”っぽい。一応シングル・カットされているのだけれど、チャート・インせず。
 PVがまんま初期の雰囲気のTVショー出演を模した作りなので、これだけでも見る価値はある。 



2. Crystal Ball
 ちょっとワイルドなヴォーカル・スタイルはJohnから由来するもの。こちらは”Can’t Buy Me Love”からインスパイアされたナンバー。

3. Where Does the World Go to Hide
 “I'm Happy Just To Dance With You”のコードをメジャーにしたようなポップ・ナンバー。多分、他の成分もいろいろまぜこぜになっているのだろうけど、正直そこまでのマニアではないので、特に初期のナンバーになると解析が難しい。

4. Silly Boy
 “Help”をベースとして作られた疾走感が印象的なナンバー。これも『For Sale』期のサウンドからいろいろ引っ張ってきてると思うけど、ちょっと解析不能。マニアの人ならギターのフレーズやベース・ラインでわかるのだろうけど、そこまで詳しくないのはご勘弁。なんか間違い探しみたいでイヤじゃん、そういうのって。

5. Alone
 “And I Love Her“がベース。XTCが『Skylarking』で引用したのがこのテイスト。ただのマージ―ビート・バンドとは違う、ソフト・サウンド面のBeatlesにはToddも注目していた。
 シングル・カット第2弾としてリリースされているらしいけど、こちらもチャート・インせず。

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6. That's Not Right
 “Eight Day's A Week”そのまんま。ていうか邦題が”エイト・デイズ・ア・ウィーク・イズ・ノット・ライト”。どの曲も元ネタが併記されており、最初輸入盤で聴いてた俺は後付けでこの事実を知ったわけだけど、こういったネタばらしってのはあまりいただけない。面白さが半減しちゃうじゃないの。

7. Take It Home
 こちらもまんま”Day Tripper”。邦題は” ドライヴ・マイ・カー・トゥ・ホーム”と、まったく関係なし。こういった無関係な邦題の方が、逆にネタ解明に躍起になるので面白い。
 Beatlesつながりを抜きにして、優秀なビート・ロックに仕上がっている。Utopia特有のコーラス・ワークも絶品。

8. Hoi Poloi
 “Penny Lane”へのオマージュが強く表れたナンバー。特有のホーン・アレンジもきちんとテイストを理解の上、再現している。

9. Life Goes On
 “Eleanor Rigby”をシンフォニック・ハード・ロック風にレストアしたナンバー。ていうか邦題が”エリナー・リグビーはどこへ”。ストリングスと置き換えたシンセの音色が80年代にしてもチープだけど、ここはまぁシャレで。
 あまり作り込み過ぎてもこういうのって、周囲がシラけてしまうもの。ま、Roger Powellあたりもめんどくさそうに付き合ったんだろうけど。

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10. Feel Too Good
 “Getting Better”だよなぁ、と思って最後まで聴き、邦題を見ると、” フィクシング・ア・ホール・イズ・ゲティング・ベター”。そうか、”Fixing a Hole”だったか。
 俺が高校生の時、Beatlesが初めてCD化されることになって、そのとき神格化されていたのが『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』で、最初はありがたがって聴いていたのだけど、次第にその内輪の世界観が退屈と思ってしまってからは、ほとんど聴くこともなくなってしまった。
 なので、この時期のアルバムは俺的にちょっと思い入れが浅い。『Rubber Soul』なら結構わかってるはずなのだけど。

11. Always Late
 邦題が” マックスウェルズ・シルバー・ハンマー・イズ・オールウェイズ・レイト”と、まるっきり”Maxwell's Silver Hammer”。SEの入れ方は多分”You Know My Name”っぽい。そこに初期っぽいコーラス・ワークを入れてるので、ここではUtopiaとしてのオリジナリティがあふれている。

12. All Smiles
 “Michelle”だよね、これも。だって邦題も”ミッシェルの微笑み”。日本盤の担当ディレクターは、もうちょっとヒネリとか考えなかったのかね。ただこれを聴いてから元ネタを聴くと、当時のPaulのベース・プレイの凄さがわかってしまう。歌うベースってこういうことなんだよな、きっと。

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13. Everybody Else is Wrong
 直球勝負の”Strawberry Fields Forever”。って、以前『Faithful』でやったじゃん、完コピで。どこかやり遂げられなかった部分があったんじゃないかと思われる。中盤から"I'm The Walrus"も入ってきて、Toddなりのサイケ浮遊ワールドが展開される。
 もっとエフェクトを効かせたら雰囲気出そうなのに、なぜかほとんどノン・エコーのスタジオ・セッション的なサウンドになっている。




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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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