Huey Lewis & The Newsの前身バンドCloverを主に起用してレコーディングされたデビューアルバム『My Aim is True』、完パケした時点でのCostelloには、まだライブを行なうためのバンドがなかったため、ちょっと小休止するヒマもなく、早速バンド編成に動かなければならなかった。
いま現在もそうだけど、ソロのパンク・ミュージシャンというのは、ごく少数派である。通常ミュージシャンがデビューするにあたっては、ライブ・パフォーマンスが注目されて、口コミ効果からレコード会社が目をつけ、そこからデビューに向かっての話が進むものだけど、Costelloの場合、方々に送りまくったデモ・テープが評価されてStiffレーベルに引っかかった、という経緯なので、ちょっと事情が違ってくる。
一応デビュー前にFlip Cityというバンドで活動しているのだけど、契約できたのはCostelloのみ。よほど才能が突出していたのか、それとも他のメンバーがよっぽど使い物にならなかったのか。多分両方だと思う。
で、早速結成されたのが、ご存知Attractions。ヴォーカル兼ギターのCostelloを筆頭として、その後も長く帯同することになるキーボード担当のSteve Nieve、そしてリズム・セクションはBruce Thomas(B)とPete Thomas(D)、ちなみに同じThomas姓だけど、縁戚関係はなし。
Attractionsが結成された1977 年のライブ日程を見てみると、それはもうメチャメチャな過密スケジュール。7月イギリス国内からスタートして、移動日も含めれば、ほぼ休みなしで、あちこちの小ホールをドサ回りしている。当時のプロモーション手段といえば、ラジオかライブくらいしかなかったので、どの新人アーティストも似たような状況だったのだけど、特に彼らは急ごしらえのバンドだったため、とにかく現場で音を出してサウンドを確立させる必要もあった。
取り敢えずイギリス国内をひと通り廻りきった後、11月からはアメリカへ渡り、ほぼ年末までこちらもドサ回り、年が明けて帰国してからも、ほぼ同じペースのまま、7月までほぼ100本以上のステージをこなしている。それだけ需要もあったのだから、当時の彼らの勢いが窺える。
1970年代中盤のパンク・ムーヴメントというのは、今に続くオルタナティヴ系アーティストの礎となった部分もあるけど、反面、時代の徒花的に、一瞬強烈な光を放ったと思ったら、すぐに消滅してしまう連中も多かった。シングル1枚制作できればまだいい方で、多くのバンドはライブハウスに出演できるかできないかの時点で足踏みしてしまうのがほとんどだった。もしアルバム・リリースまで漕ぎ着けたとしても、大抵のバンドはそこでネタ切れしてしまうか、仲違いの末解散してしまうなど、結果的に伝説になってしまうバンドが多かった。
Sex PistolsだってPop Groupだって、過激なファッションやパフォーマンスを競ったバンドほど、その傾向が強かった。彼らにとって音楽とは、青春時代の初期衝動か、移り気な時代のトレンド的なものでしかなく、継続してゆくものではなかった。
そのパンク以前、シンプルなロックンロールへの回帰という点において、根っこの部分は相当似ているパブ・ロック時代から活動していたアーティストは、総じて寿命は長い。
シンプルなロックンロールからスタートしたことは同じながら、持ち前のアカデミックな音楽性によって、ジャンルを超えた活動を展開していったJoe Jackson、いびつな変拍子ギター・ポップでデビューしながらも、徐々に神経症的箱庭ポップに音楽性を変容させていったXTCなど、時代によって形を変えながら、未だに活動している人も多い。
やはりファッションだけでは、早々にネタが尽きてしまい、それほど長くは続かないのだ。
で、Costelloの話。
そんなハード・スケジュールの中、ツアーの合間にレコーディングされたのが、このセカンド・アルバム。リリースが決定したはいいけど、何しろ詰め込むだけ詰め込んだツアー・スケジュールのため、まともにレコーディングできる時間がない。なので、年末年始のツアーの空白期間を利用して、実質10日間くらいで一気に録音された。
普通のアーティストなら楽曲制作の時間もなく、途方に暮れてしまうところだけど、この頃から多作だったCostello、デビューしてからもほんの空いた時間を利用してのデモ・テープ作りは、もはや生活の一部となっており、素材は山ほどあった。しかもライブでは惜しげもなく未発表曲もレパートリーに入れていたので、ほとんどの曲は既にバンドでアレンジされていた。
『My Aim is True』のような、スタジオ・ミュージシャン中心によるレコーディングではなく、長い間寝食を共にしたメンツでの作業のため、意思疎通もスムーズ、アンサンブルもしっかり練られた状態である。あとはライブの勢いをそのまま真空パックするように、基本ワンテイク、一気呵成にレコーディングされた。
その『My Aim is True』、決して悪い人ではないのだけど、はっきり言って呑んだくれのポップ親父Nick Loweがプロデュースということもあって、比較的メロディアスでキャッチーな、口ずさみやすいナンバーが揃っている。
それに対し、この『This Year’s Model』、こちらもNickがプロデュースなのだけど、バンドでのヘッド・アレンジが前回よりも捗ったため、更にやることもなく、ブースで呑んだくれていたらしい。なので、Nickというよりはバンドの意向が色濃く反映されている。いわゆるキラー・チューンの割合は下がっているのだけど、甘さは抑えめ、サウンドの一体感が強く、アルバム1枚まるごとが一つのショウのような構成になっている。
前作ではヴォーカル&インストゥルメンタルといった感じのバンド構成ゆえ、ちょっと遠慮がちだったCostelloも、ここでは思う存分、遠慮なくギターを弾きまくり掻き鳴らしまくり、加えて吠えまくっている。パンク/ニュー・ウェイヴ的サウンドということなら、断然こっちの方がパワーがある。
デビュー2作目にして、最強のバック・バンドを従えたCostello、チャート的にもかなりの健闘ぶりで、UK最高4位US最高30位という、前作に劣らないセールスを記録した。
で、このアルバムを引っさげて初来日公演という運びになるのだけど、これがまたお騒がせもの。チケットの売れ行きが悪いことに業を煮やしたCostello、どうにか目立って注目を浴びようと、なぜかメンバー全員、日本の学生服を着て(多分Costelloに強要されて)トラックの荷台に乗り、都内でゲリラ・ライブを行なった、というのが、今でも語り継がれるエピソードである。当然その後、道交法でパクられてしまうのだけど、まぁ三面記事程度には話題になったため、ライブは連日満員、おかげでバンドもノリノリだったらしい。
結果的にどうにか丸く収まったのだけど、おかげで日本では長い間、Elvis Costelloといえば、「何をしでかすかわからないやつ」というレッテルが貼られることになる。
そしてそういった扱いは、”She”の大ヒットまで、長らく続くことになる。
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1. No Action
初っ端から疾走感あふれるナンバー。とにかく勢い一発、あっという間の2分間。出だしの囁くようなCostelloのヴォーカルから始まり、静かなオープニングかと思ったら、すぐにバンドはフル・スロットル、ギターはギャンギャン掻き鳴らしまくり、ドラムはドコドコ。ライブではもうちょっとキーボードが目立っているのだけど、ここでは断然Costelloがリードしている。
何しろコード3つしか使ってないのに、これだけ表情豊かなサウンド、今のCostelloでは成しえない、シンプルかつキャッチー、永遠のパンク・チューン。
2. This Year's Girl
少しポップ寄りのミドル・テンポ・チューン。タイトル曲だけあって、親しみやすいメロディなのだけど、Bメロが弱いせいか、地味に聴こえてしまう。ベースがウネウネ動いているのが、単純なパンク・バンドとは一線を画している。この頃のBruceはやる気が漲っている。アウトロのベース・ソロなんて、なかなか凝ってる。
3. The Beat
初期のライブでは定番だった、Steveの見せ場。ライブでのキーボード・プレイはもっとアクティヴで、ファンキーなものだったけど、ここではロック・テイストの濃い、ミドル・テンポに仕上がっている。
4. Pump It Up
このアルバムに共通してだけど、アップ・テンポのナンバーはどれも傑作。中でも俺が一番最初に聴いたCostelloの曲がこれ。確かNHK-FMで、氷室京介がゲストDJをやっていて、お気に入りの曲として、これをかけた。その時の衝撃は、今もって忘れずにいるし、なので、どうにも氷室京介に対しては悪い感情を持てない。
バンドの一体感、生み出すグルーヴというのは、こういったのを指すんじゃないかと、今でも俺の中の基準の一つである。わかりやすくキャッチーでありながら、どす黒い冒頭のリフ、ちょっと上ずったCostelloのヴォーカル、中盤のドラム・ブレイクからCostelloのHey!!の掛け声によって再び始まる演奏…。言いたいことがいっぱいあってたまらないのが、この曲。UK最高24位にチャート・イン。もっと上に行ったっていいと思う。
Status Quoがカバーしてるのはまだわかるけど、なぜかDeacon Blueまでがライブでカバーを披露していたというのは、ちょっとビックリ。想像つかないよな。
5. Little Triggers
ちょっと切ないアメリカン・ロックの香り。この辺はもしかして、Nickあたりが強引に入れるようダダをこねたのかもしれない。ライブの緩急をつけるという意味では、こういったセンチメンタルな曲もアリ。俺も昔、この曲は好きだった。でも、いま聴いてみると、これって”Alison”の二番煎じだよな、きっと。
6. You Belong To Me
これもライブでよく演奏されており、今でも時折セットリストに入っているので、多分お気に入りなんじゃないかと思う。メロディ主体のちょっと甘めのメロディだけど、演奏が硬質なビートを利かせているので、アルバムから浮いてはいない。
7. Hand In Hand
サイケな逆回転エコーから始まるオープニングが、何やら不穏な空気を感じさせるけど、Costelloのヴォーカルが入れば、それは見事なパワー・ポップのお手本。
中盤のドラム・パターンを聴けばわかるように、Phil Spectorまではいかないけど、ちょっとレコーディングでのお遊びを試してみた感じ。なので、曲も口ずさみやすく、親しみやすい。でもAttractionsの武骨なバッキングによって、甘さはそれほど感じない。
8. (I Don't Want To Go To) Chelsea
歯切れが良すぎて三味線のようにも聴こえてしまう、珍しくCostelloのギター・リフから始まるナンバー。ヴォーカル兼務のため、どうしてもストローク中心のプレイになってしまうところを、なんか急に弾きたくなってしまったのだろう。
この頃から今に至るベテラン期まで、この人の場合、エア・ギターではなく、とにかく弾きたがるというのは、いつも感心してしまう事柄。特にこのナンバー、今でも必殺キラー・チューンとして、時々演奏してるくらいだから、よほど気に入っているのだろう。それとも単にギターを弾きたいだけなのか。UK最高16位まで上昇したシングル。
9. Lip Service
何だかメロディがタイトル・チューンと似てるような気もするけど、まぁそこはスルーで。ダブル・ヴォーカルも入れてる分だけ音圧があり、アレンジも少し凝っている。
こういったアレンジの幅はやはり、英国王立音楽大学でクラシックを学んでいたSteveの貢献が大きいはず。なまじインテリゆえ、こういった肉体性の強い音楽に憧れを感じてしまうのだろう。
10. Living In Paradise
ちょっとレゲエも入った、箸休め的なポップ・ナンバー。シングルでも良かったんじゃないかと思うのだけど、本人的にはそれほど思い入れがないのか、ライブでも初期以外はほとんどプレイしていない。
11. Lipstick Vogue
性急感の強いシャッフル・ビートを難なくこなすPete。ここはとにかくビートを聴いてほしいナンバー。CostelloもBPMの速さに着いてくのが精いっぱい。
結構難しい曲のはずなのだけど、もはや手馴れてもいるのだろう、レパートリーの中ではライブ・パフォーマンスが多い方に該当する。
12. Night Rally
初版LPでは、これがラスト・ナンバー。ていうか、インパクトの強い曲に挟まれていたおかげで、存在自体を忘れていた曲でもある。もちろんアベレージは軽くクリアしているのだけど、他の曲が良すぎるのだ。
で、このアルバムがリリースされた頃にライブ・レコーディングされたのが、『Live At The El Mocambo』。当初は限定盤、そして次に初期アルバム3枚とのBOXセットでリリースされた。俺が最初に買ったのが、このBOXセットで、3枚とも持っていたのに、これだけが欲しくて仕方なく購入したことを覚えている。
『My Aim is True』『This Year’s Model』の2枚からセレクトされた曲で構成されているし、今では普通に単品販売されているので、興味のある人はゼヒ。スタジオ・ヴァージョンとはまた違った、初期Attractionsの無闇なパワーあふれるパフォーマンスが生々しく刻まれている。
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