好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

スティーヴィー・ワンダー

Stevie Wonder 第2章のスタート - Stevie Wonder 『Hotter Than July』

folder 1980年にリリースされた、なんと通算19枚目のオリジナル・アルバム。
 当時Stevieは30歳、デビューが12歳前後だったため、単純に考えれば、ほぼ年1枚のペースでフル・アルバムをリリースしていたという計算になる。早熟の天才に恥じぬ多作ぶり、と言いたいのだけど、案外これも眉唾ものである。
 Stevieがデビューした当時のモータウンは、もっぱらシングル主体のリリース戦略を取っていた。45回転の8インチの塩ビ盤に、どれだけのクリエイティビティを盛り込めるかを、メーカーが競っていた時代である。ユーザーの購買力やラジオでのエアプレイを考慮すると、何よりもシングルをいかに売っていくか、そのためにはどのようなプロモート戦略が必要かを、各スタッフが知恵を絞り技術を向上させていた。

 なので、アルバム制作とはほんとついで、ついでと言ったら言い過ぎかもしれないけど、その姿勢はシングルに向ける労力と比べれば、ほんの僅かでしかなかった。
 そもそも、アルバム用に新たに楽曲を制作する姿勢が薄い。適当なシングルのリリース枚数が溜まったら、B面曲はもちろんのこと、これまた適当なカバー曲やら没テイクやらを一緒くたに詰め込んで、取り敢えずアルバムとしての体裁を整えることが常態化していた。なので、曲順なんかも適当で、全体の流れを考えた構成?何それ?といった感じである。
 これは別にモータウンだけの話ではなく、当時のメーカーならどこでも事情は似たようなものである。なので、モータウンに限らず、60年台中盤までのアルバムリリース事情というのはアバウトだったため、通算アルバム枚数というのはあまり意味を成さない。

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 Stevieに話を戻すと、未公開映画のサウンドトラックという変則的な形態だった前作『Journey Through the Secret Life of Plants』からは1年ぶりなのだけど、そのまた前作である大作 『Songs in the Key of Life』からは、さらに3年のブランクがある。

 70年代に一世を風靡し、セールスだけでなく、グラミーを含む数々の栄冠に輝いた三部作の後、さらに新奇な才能とアイディアに満ち溢れた大作『Key of Life』をリリースしたStevie、その後はまるで憑き物が落ちてしまったかのように、ごくノーマルな作風に変わってしまったことは、よく言われている。

 Robert MargouleffとMalcom Cecilとのコラボによって、当時の最新機器ムーグをとことん使い倒し、未完成作も含めて1000曲にも及ぶ楽曲を制作したのが、Stevieの70年代前半である。この時期はとにかくレコーディングに明け暮れていたらしく、ライブ・パフォーマンスに関しては控えめである。オフィシャルのライブ音源は、まとまった形ではほぼ皆無だし、ブートでもそんなに数は出ていない。それだけ頭の中に溢れ出すアイディアを具現化するだけで精いっぱいだったことが窺える。
 なので、そのプロジェクトが一段落してしまった後のStevieは結構シリアスな虚脱状態に陥ってしまっている。あまりに濃密な時間を短期間で過ごしたため、長いインターバルをおく必要があったのだろう。

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 再び創作活動に復帰するまでには長い年月を要することになってしまったのだけど、そのStevieが鳴りを潜めていた1975年から78年というのは、同じくニュー・ソウル・ムーヴメントを牽引していたアーティストらの栄枯盛衰が如実に表れている。
 Marvin Gayeは自身の離婚騒動にまつわる壮大な独り語り『Here My Dear』をリリース後、行き詰まりの末、なぜかアメフト選手を目指していたし、Curtis Mayfieldも名作『There's No Place Like America Today』リリース後は迷走状態に入り、出来のよくないディスコまがいのアルバムを連発していた。Donny Hathawayに至っては、長年苦しんでいた鬱状態がこじれて、遂には自ら命を絶ってしまう結末となってしまう。

 なので、そう考えるとこの時期、Stevieが表舞台に出なかったのは正解だったのだろう。もしかしてレコーディング自体は続けていたのかもしれないけど、変に時流に合わせたディスコまがいの作品を出して酷評されるよりは、むしろ沈黙を守っていた方が、精神衛生上も良い。

 そう考えると、一応復帰作としてリリースされた『Secret Life』が地味な作品だったのは、その後の流れを考えると、ある意味正解だったんじゃないかと思う。Curtisのように中途半端に世間におもねった作品を作ったら、それまでのキャリアが台無しになってしまうし、かといって『Key of Life』のような作品を作るには、もうあそこまでのテンションに自分を追い込むほどの意欲はなくなってしまっている。いや、意欲はあるのだけど、同じものではダメなのだ。
 あくまでポピュラー音楽のフィールドではなく、学術的要素の濃い、未公開映画のサウンドトラックという体裁をを取ったアルバムを助走としてはさみ込むことによって、Stevieはディスコ・ブームに沸いた70年代後半を乗り切ることができた。ちょっとめんどくさい経緯だけど、そうせざるを得なかったのだ。

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 そんなこんなを経て、本格的な復帰作となったこのアルバム、『Secret Life』の次という順序を踏まえれば、決して悪いアルバムではないけど、俺のように後追いでStevieを聴く者にとっては、どうしても型落ち感は否めない。何しろ 3部作や『Key of Life』からランダムに手をつけているので、比較してしまうのは致し方ない。あそこまでの先鋭性がなくなってるのは事実。事実なのだけど、俺的にはそれほど嫌いになれないアルバムでもある。

 全体的な印象として、ロック・サウンドのフォーマットを使用した曲が多い。ギターの音色やリズム・パターンは従来のコンテンポラリーなロックそのものだし、バラード系もそれほど凝ったサウンドではなく、シンプルなバッキングでヴォーカルを聞かせるサウンドになっている。いま現在、「Stevie Wonder」というアーティストの一般的なイメージの元となった、オーソドックスなMOR的な展開になっている。

 それまでのサウンドはかなり作り込んだものが多く、聴いていると新しい発見が多く革新性もあったのだけど、実のところ聴き続けていると疲れてしまうのも事実である。『Key of Life』なんて通常の2枚組プラスアルファの大盤振る舞いのボリュームで、才能とアイディアの濃縮エキスが詰まっているのだけれど、Stevieのエゴが強く出過ぎていたり、曲によっては冗長に感じる部分もある。
 これもよく言われているのだけど、ダブル・アルバムにこだわらず、1枚に収まるように絞り込んでゆけば、そりゃもうとんでもない傑作になったんじゃないかと思われる。

 なので、このアルバムはもっとユーザー目線で、長いスパンで聴き続けられる配慮なのか、サウンド的にはオーソドックスに、分量も程よく仕上げられている。 ただ汎用のポップ・サウンドを使用したとしても、そこはやはりStevie、他のアーティストでは作り得ないメロディ・ライン、特に白玉主体の旋律は相変わらずである。ベースがしっかりしてるから聴けるけど、こんな曲、普通は作れない。


Hotter Than July
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Stevie Wonder
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1. Did I Hear You Say You Love Me
 Stevie流に解釈したディスコ・サウンド。単純な四つ打ちじゃなくて、ちゃんと考えられた構成になっている。こういったニュー・ウェイヴを通過したギターの音色は、休養前はなかった。新境地も開拓している、アルバム・リードとしては最適。
 邦題は「愛と嘘」。なんで?3枚目のシングルとして、ビルボード・ソウル・チャート最高74位。



2. All I Do
 1.から切れ目なしに続く、Paul McCartneyとやった”Say Say Say”と同じイントロのミドル・テンポ・ナンバー。コーラスにMichael Jacksonが参加しているのだけど、あまりキャラは濃くない。

3. Rocket Love
 これまであまり取り上げてなかった、メロディ主体のシンプルなバラード。3部作の中ではちょっと甘めの『First Finale』に入ってても違和感がなさそう。後半のストリングス導入部あたりから、ちょっとコード進行が不安定になるのだけど、そこをきちんと曲として成立させているのが、やはりStevieの力技。俺的にはこれ、結構好きなのだけど。

4. I Ain't Gonna Stand For It
 Eric Claptonがカバーしてから再評価が進んだ曲だけど、まぁそのまんま。Claptonって、多分オリジナルへのリスペクトが強いのか、この曲に限らず、ストレートなカバーが多い。
 ドラムの音処理が80年代っぽく軽いのと、もっとリズムを強調してファンキーなシンセの音色にすれば、俺的にはもっと満足なのだけど、時代的にこのくらいマイルドにしてやらないと、他のヒット曲から浮きまくっちゃったのかもしれない。それほど、Stevieというのは異質な存在なのだ。
 セカンド・シングルとして、US最高4位、UKでも10位まで上昇。



5. As If You Read My Mind
 サンバのリズムを応用した、俺的にはこのアルバムの中では一番好き。『Innnervisions』のモダン進化系といった感じのサウンドは、もっと評価されてもいいはず。重くないリズムながらもファンキーで、しかもクールさを忘れないヴォーカルのStevie。時々興が乗ってシャウトする様がカッコいい。

6. Master Blaster (Jammin')
 ファースト・シングルとして、US最高5位UK2位。言わずと知れた、Stevieが本格的にレゲエに取り組んだナンバー。これまでのような「レゲエ・テイストを取り込んだ」のではなく、「まんまレゲエ」。
 はっきり言ってBob Marleyそのまんまなのだけど、StevieがMarleyを敢えて模倣したのか、それともレゲエというリズム/ビートというのが、Stevieをしてもねじ伏せることのできない、それほど強烈な音楽なのか-。
 アルバム・ジャケットを象徴するような、ホットなナンバー。しかし、その汗は氷のように冷たい。

7. Do Like You
 ゴーゴーのリズムも取り込んだ、80年代以降のStevieのプロトタイプ的なナンバー。ノリが良くってちょっぴりファンキーなシャウトで、という「一般的に想像されるStevie Wonder」がここにいる。ポップな曲調なので、軽快なドラム・パターンもちょうどフィットしている。でもStevie、全体的に言えるけど、アタック音が強いよね。そこが味なのだけど。

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8. Cash In Your Face
 ちょっぴりレゲエ・ビートで、ゆったりしたリズムのミディアム・ナンバー。あまりコード感のないナンバーで、こういったのはStevieの独壇場。
 この人の凄いところは、「ただ漫然とプレイしながら、きちんと曲として成立させてしまう」点なのだけど、そこら辺はあまり取り上げられていない。逆に言えば、この曲を他の人がカバーしても、きっとうまく行かないはず。だって、通常ルーティンからは大きく外れているのだから。

9. Lately
 で、このアルバムのハイライトで、王道バラード。7.がStevieの「動」とすれば、この曲が「静」を表す、誰もが文句のつけようのないナンバー。US最高4位UK最高3位は妥当。



10. Happy Birthday
 ある意味、『Hotter Than July』は9.で完結しており、俺的にはこれ、ボーナス・トラック的扱い。Stevieということは意識してなくても、TVのサウンド・クリップとしても頻繁に使用されているため、「ポップなStevie」といえば、これを連想する人も多い。
 もともとはMartin Luther Kingに捧げた曲で、彼の誕生日を国民の祝日にする運動を後押しするために作られた曲なのだけど、そういった背景を抜きにして、優秀なポップ・ソングとして仕上げている。
 サウンドといいメロディといい、しかもきちんと織り込まれたメッセージ。啓蒙という意味でいえば、完璧なポップ・ソング。




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モータウンのお家事情1972 - Stevie Wonder 『Music on My Mind』

_SL1060_ モータウンとの契約切り替えのバタついた時期にレコーディングされたため、クオリティ的には例の3部作と何ら引けを取らない出来なのに、習作的ポジションに位置付けされているのが、このアルバム。タイミング的にもStevie自身のバイオリズム的にも、この後からが本格的なピーク・ハイの時期に当たるため、あくまでウォーミング・アップ的な立ち位置のスタンスのまま、なかなかまともな再評価に繋がっていない状況が続いている。

 若干12歳で本格デビューした Stevie、当時はモータウンの戦略上、名前に「Little」をつけることによって天才少年ぶりをアピールしていたのだけど、そんな彼も20歳、思春期を通過し声変わりすることによって、もはや「Little」が似合わない年代になっていた。音楽的にも人間的にも著しく成長し、アーティストとしての自我の目覚めも始まっていた頃である。いろいろやりたい事だって出てくるだろう。大抵の楽器演奏は自分でできたし、作詞作曲だって、ほぼ自分で賄うことも可能だった。それでもしかし、ヒット・ファクトリーであるモータウンの締め付けはシビアなもので、はやく制作上の束縛から抜け出したかったのが、本音である。

 このアルバムがリリースされた1972年頃のモータウンの稼ぎ頭の筆頭は、まずは何と言っても文句なしにJackson 5とMichael Jacksonである。デビュー・シングルから4曲連続でビルボード1位というのは、未だ持って破られていない記録だし、その勢いに乗ってソロ・デビューを果たしたMichaelもまた、モータウンの生産ラインに忠実に乗って、”Ben”をヒットさせている。次に売れていたのが、Supremesを脱退したばかりのDiana Ross。”Touch Me in the Morning”は大ヒットしていたし、女優業にも進出、Billie Holidayの伝記映画で主演を務め、すっかりセレブと化していた。こうして見ると、この頃のモータウンはポピュラー路線に迎合したMORが中心のように見えるけど、当時の猫も杓子もサイケ・ムーヴメントの波を無視することはできず、鬼才Norman Whitfieldの手によって、Temptationsはあのサイケ・ファンクのひとつの到達点である”Papa Was a Rollin' Stone”を、Edwin Starrはかなり力の入ったプロテスト・ソング”War”をヒットさせたりなど、ヒップな若者の取り込みも怠っていなかった。そのサイケ路線と並行して、巷で勃興しつつあったニュー・ソウル路線の波に乗ったMarvin Gayeは、『What's Going On』の大ヒットによって、レーベル内で独自のスタンスを築きつつあった。
 こうした別々の流れがそれぞれ、決して大所帯とは言えない独立レーベルの中で、ほぼ同時進行で行なわれていたのだから、そりゃもうしっちゃかめっちゃかである。ましてやこの頃のモータウン、本拠地をデトロイトからロサンゼルスへ移転するかしないかの頃、ある程度VIP級のミュージシャンらはともかくとして、その他の有象無象のアーティストらの細かなマネジメントまでは、とてもとても手が回らなかったのが実情である。
 なので、独立だ製作権だとわめき散らすStevieとは、スタッフ側から見れば、相当めんどくさい存在であり、いちいち手をかけていられなかった、という見方もある。
ていうかこの時期、Stevieのレーベル内においての立場は、結構微妙な位置にあった。
 
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 この時点で芸歴10年強、キャリアの節目ごとにヒット・シングルは出ていたものの、何ていうかStevieのチャート・アクションはムラが多かった。”Uptight”、”A Place in the Sun”、"For Once in My Life”、” My Cherie Amour”など、今でも充分に代表曲と言える作品がリリースされているのだけれど、そのヒットも大抵はワン・ショット、次のシングルでは大きくセールスを落としてしまい、次の勢いに続かない、という状態がループし続けていた。ここらでもう一つ、二番煎じでもいいから、似たテイストの曲をリリースしていれば、アーティスト・イメージも固まって、ヒットも出やすくなるというのに、そうはしなかった、またはできなかったのが、Stevieの60年代のプロダクションである。

 そのプロダクションの思惑と、Stevieのアーティスティックな方針との間に大きな溝があって、そこがなかなか埋めきれずにいたことが、この時期の乱高下の激しさの要因でもある。
 モータウンのレーベル・ポリシーでもある「明快なポップ・ソウル」、デビュー当初は会社の意のままに動いていたStevieだけれど、だんだんポップ・テイストのサウンドから徐々にジャズ的要素もミックスされた複雑なコード進行に基づくスタンダード・ポップが彼の持ち味となり、レーベル定番のサウンドとはかけ離れたものになりつつあった、というのがこの時代の流れである。
 モータウン的には、やはり子供らしい曲、シンプルなダンス・ナンバー中心でプロモートしていきたかったのだろうけど、まぁそんなうまくは行かないものである。

 モータウン創業者の一人であるSmoky Robinson率いるMiraclesを礎としてできあがったのが、2拍目にアタックの強いビートを入れた独特のリズム、黒人特有の泥臭いブルース臭を極力廃除したメロディ・ラインという、ヒット・ソングの黄金パターンは60年代初頭に既に完成されていた。
「Funk Brothers」と命名された名うてのスタジオ・ミュージシャンらによって、日々大量生産される分業制のバック・トラックは一定のルールに則って制作され、所属アーティストの誰が歌ってもサマになるように調整されていた。とにかく毎週のようにヒット・シングルを量産しなければならないため、James Jamersonを筆頭にしたFunk Brothersの面々は、連日膨大な量のトラックをレコーディングした。ヴォーカルは抜き、大体のコード進行とテーマを決めると、ほぼ流れ作業的にプレイをこなしていった。この時点では、誰が歌うのかは大きな問題ではない。会社の経営戦略に則ったアーティストをブースに突っ込み、そしれ歌入れさせる。これもまたレコーディング即発売決定というわけではない。毎週行なわれる営業会議において遡上に上げられなければ、そこで倉庫行き。なので、全盛期のモータウンには膨大な量の未発表音源が眠っており、その発掘作業は今でも続けられている。
 
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 どうにか法的な問題もクリアして、創作上の自由を獲得したStevie、前作『Where I’m Coming From』では、その解放感から来る勢いが先走りすぎたのか、アイディア先行でサウンドや曲がうまくまとまっていない印象もあったけど、ここではもう少し冷静になったアルバム作りを行なっている。もちろんFunk Brothersらを始めとする外部ミュージシャンにも多少は手伝ってもらっているのだけれど、ほとんどはStevie自身、そしてここから顔を出してきたのが、シンセ・オペレーターとしてクレジットされている、Robert MargouleffとMalcolm Cecilの二人によって練り上げられたもの。なので、これまでのポップ・ソウルと比べて、音の存在感・重厚感がまるで違っている。

  モータウンの場合、あくまでシングル・ヒットが最重要課題であったため、基本的な販売戦略としては、当時としてはなかなか先駆けだったマス・メディアの有効活用、特にAMラジオでのオンエアを重視していた。そのためには、ファースト・インパクトが大事なので、わかりやすく明快な、タイトル連呼のサビはもちろんだけど、パワー的には貧弱なポータブル・ラジオでの響きを重視した音作り、モノラル・サウンド特有のドンシャリ感、オーディオ的な見地では決してありえない定位のサウンドを奨励していた。多少ダンゴになったとしても、音圧の強いモータウン・サウンドは、多くのリスナーの耳に残り、無数のヒット曲を輩出した。
 で、このアルバムでのStevieだけど、もともとそうなのだけど、それほどキャッチーな音作りをするアーティストではない。テンション・コード多発の不安定な、楽理的な意味合いで言えば、かなり破綻した曲作りなのだけれど、でもStevieが歌うと、それらのバラけたピースがそれぞれピッタリはまってしまう不思議。
 このようにキャッチーさからはちょっと離れたアルバムをリリースするに当たっては、独立問題も含め、色々なダンジョンをクリアしなければならなかった事は、想像に難くない。
 それでもやらなければならなかったStevieの覚悟が赤裸々に刻まれたアルバムである。


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1. Love Having You Around
 いきなり始まるファンキーなナンバー。Ray Charlesを髣髴させるグルーヴはほぼ独りで作り上げたモノ。スクエアながら手数も多くノリの強いドラム、どこか脱力系なコーラスはもちろんだけど、やはりここでインパクトが強いのはZappより数年先駆けたトーク・ボックスの使い方。StevieとRogerのおかげか、ファンク・ミュージック以外ではほとんど使われない楽器になってしまった。
 なぜかこの曲だけSyreeta Wrightとの共作。どの辺まで関与しているのかは、前回『Where I’m Coming From』でも書いたように怪しいものだけど、この頃はまだ二人ともラブラブだったので、まぁそういうことと思ってもらえれば。



2. Superwoman (Where Were You When I Needed You)
 “You’re the Sunshine of My Life”と同じ構造の、ミドル・テンポのバラード。この辺はちょっとジャズ的なコードも使用しているため、『Innnervisions』とテイストが似ており、俺的にはこのアルバムではもっとも好きな曲。US最高33位まで上がった曲なので、この時期の曲としては有名な方。
 ここで有名なシンセサイザーT.O.N.T.O.が登場。といっても、それほどエキセントリックにこれ見よがしな使われ方ではなく、むしろ生楽器にできるだけ近づけた音色を奏でている。ちなみに正式名称は"The Original New Timbral Orchestra"、直訳すれば「独創的な新しい音色のオーケストラ」。うん、よくわからん。



3. I Love Every Little Thing About You
 リズム・トラックがかなり凝っており、こちらも俺の好きな曲。すごくハッピーなミドル・テンポのナンバーなのだけど、裏で鳴ってるFender Rhodesが恐ろしくファンキー。この時期のStevieはT.O.N.T.O.使用による面白い音色からインスパイアされた曲が多いのだけれど、こうして聴いてみると、あまりサウンドには凝らず、従来の楽器を使用してアンサンブルに凝った曲にむしろ、良い曲が多い。少なくとも、当時の流行りのサウンドよりも、こういった曲の方が風化せず、今でも普通に聴くことができる。

4. Sweet Little Girl
 ここで初めてハーモニカが登場。やっぱり、Stevieと言えばハーモニカがないと始まらない。その音にも少しエフェクトを加えているのか、ファンキー成分が増えている。思えばStevie、案外ブルース要素が少ない人でもある。ブルースの場合、もうちょっと演奏に隙というのか、感情移入ができないと、なかなか入り込めないものである。Stevieの場合、あまりにオンリーワン、完成し尽くされたトラックのため、ブルース的な憐憫の余地がないのだ。
 ほんのちょっぴりだけど、後半でSyreetaのコーラスが薄く被さっている。こうしたエッセンス的な使い方こそが、Stevieの天才たる所以である。

5. Happier Than the Morning Sun
 ここからがB面。クラビネットを効果的に使用した、朝もやに紛れたテラスを思わせる、さわやかな清涼感あふれるナンバー。すごく美しい曲なのだけど、やっぱこれって、ラジオ向きの曲じゃないよね。もうそういった俗世間の浮き沈みを超越してしまったサウンドである。若いうちなら、俺も多分飛ばして聴いてただろうけど、今の年齢になると、こういった癒し系の曲も、まぁいいんじゃない?という心境になってしまう。
 でもちょっと長いよな、この曲。5分強、ほぼずっと一本調子で曲が続くため、ちょっと飽きてしまう場合もある。3分くらいにまとめてしまえば、もう少し印象も違ったかもしれない。
 
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6. Girl Blue
 わかりやすいマイナー・コードを、これまた転調しまくって作り上げたナンバー。ちなみに共作のYvonne Wrightは、何となく想像つくように、Syreetaの姉。どちらかと言えば、自分で歌うより、裏方として作曲活動の方が多く、妹の七光りだけでなく、きちんと実績を残している。

7. Seems So Long
 後年の”Overjoyed”を想起させる、シンプルなバラード・ナンバー。曲自体はあまり趣向を凝らしているわけでもなく、ごく普通の構造だけど、ここでもやはりT.O.N.T.O.が幅を利かせている。
 エフェクトの使い方が宇宙空間を連想させ、この辺もStevieのスケールの大きさが実感できる。

8. Keep on Running
 ビルボード36位まで上昇、というわけで、当時のStevieにしては、チャート・アクションが地味だった曲。ほんとオカズが多いよね、Stevieって。ファンキー感よりむしろ、疾走感にあふれる曲が多く、当時のまったりしたフィリー・ソウルなんかを聴いてた連中の度肝を抜いた。
 後半からゴスペルっぽいコーラスがあることからわかるように、当時の彼らのアイデンティティの源である、Ray Charkesなどのミュージシャンらによって作りだされたこのグルーブ。Stevieの才能と最新鋭機材を持ち込んだ彼らとのベクトルがうまく一致した、シングルで切っても動じることのない、こちらもついつい踊りたくなってしまう曲である。



9. Evil
 『Key of Life』の’Saturn”を連想させる。ここまで5、6分強の尺の曲がズラリと並んでいるのだけれど、このラスト曲は3分少々短め。エモーショナルなヴォーカルの前では、T.O.N.T.O.の前衛性も無意味である。この辺のバラード系は、後年になっていくらでも聴けるので、俺的にはいまだ飛ばして聴いてしまう曲。




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ねぇSyreeta、これならどう? - Stevie Wonder 『Where I'm Coming From』

folder もうだいぶ前に『Innervisions』のレビューを書いたので、この流れで行けば、そりゃ当然『First Finale』にも触れないとな、と思って久し振りに聴いてみたところ…、う~ン、という感じ。
 いいアルバムだというのはわかる。クオリティも高い。ただ、『Innervisions』が自らのソウルのアイデンティティに加え、ルーツでもあり当時のトレンドだったジャズやファンクをも内包する「ネガティヴなパワー」に満ち溢れていたのに対し、『First Finale』 は一周回って角が取れてしまったというのか、ネガティヴさが減衰した代わりにハート・ウォーミングなムードが蔓延して、なんというか、イマイチ刺さってこないのだ。
 クタクタに疲れている時、または心の拠りどころにしたい時、そういった場合には「癒しの音楽」として機能するのかもしれないけど、俺がStevieに求めるのは、そういった方面ではないのだ。

 で、他のStevieのアルバムで気に入る物があるんじゃないかと思って、棚の中から引っ張り出したりパソコンのファイルを漁ってみたり、こうなりゃ徹底的に、と久しぶりにツタヤに行ってレンタルしてみたりした結果、『First Finale』や『Talking Book』より、むしろこっちの方がぶっ飛んでんじゃね?と気になったのが、このアルバム。有名な4部作前に制作されたアルバムなので、変なフィルターがかかってない分、純粋なStevie’s Musicを堪能できる。
 ちなみに今回、全部は揃えられなかったけれど、Stevieのアルバムをほぼ時系列に沿って聴いてみた結果、世間一般では「愛と平和の人」としてのレッテルが貼られ、クリエイター的には低迷期だったとされる、80年代から90年代のアルバムが、俺的には意外に良さげだった。この時期は"I Just Called to Say I Love You"など、スタンダードではあるけれど、凡庸なバラードも多く、誤解されてる面も多いのだけど、クリエイティヴィティな面から見れば、新アイテム「フェアライトCMI」が本格的に導入された頃なので、そのサウンドを活用した実験的な構成の作品も多く、案外充実してたんじゃないかと思われる。

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 で、邦題が『青春の軌跡』という、今となってみれば、まるで羞恥プレイのようなタイトルと思われがちだけど、リリースされたのは1971年、この頃の日本では、「青春」という言葉は決して恥ずかしいものではなく、むしろ時代の先端をゆくトレンド・ワードだったのだ。

 前述したようにこの作品、Stevieのディスゴグラフィにおいて、ポジション的には過渡期の作品として位置づけられている。ちょうどStevie二十歳の頃、親会社モータウンによってガチガチに固められた契約内容から自由になり、従来のモータウン流大量生産ポップ・ソウルから、天才エンジニアMalcolm CecilとRobert Margouleらの助力によって制作された4部作へと進化してゆく過程の途中の作品である。
 ほぼ初セルフ・プロデュース作品だけあって、完成度はそれほど高くない。アラも目立つ。ステレオ・タイプのモータウン・サウンドからの脱却を目指したはいいけど、差別化への想いが先走りし過ぎた感もあって、まだ技術が追いついていない面も多い。
 ただ、その溢れ出る剥き出しの野心の裏づけとして、それを補って余りあるメロディ・メーカーとしての才能、そして生来の卓越したリズム感が、Stevieにはあった。

 ちょうどこの頃からクレジットに登場するのが、当時付き合っていたSyreeta Wright。
 ピッツバーグの片田舎出身のコーラス・ガール上がりの女性と、幼少から天才少年としてチヤホヤされていた青年との間にどんな接点があったのか、今となってはわかりかねるけど、デビュー当時の彼女の写真を見てみると、コケティッシュながら野心の強そうな表情が見え隠れする。
 とは言っても、ただ野心むき出しの、何のとりえもない女だったわけではない。当時のサウンド・クリエイターがこぞって彼女とのコラボを希望したのは、天性のウィスパー・ヴォイスに惚れ込むものが多かったせいもある。他の誰も真似できない、記名性の高いその歌声は、業界内だけでなく、一般のリスナーへの求心力も強かったため、Stevieとの関係解消後も音楽活動を継続、時にゴシップ記事にまみれることもあったけど、基本コンスタントなリリース・ペースでの活動を続けていった。

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 彼女がまだ若いStevieを籠絡した、というのが後世の定説となっているようだけど、イヤイヤ、なかなかどうして、Stevieもヤリ手という点においては、彼女と引けを取らないはずである。
 いくらSyreetaが「魔性の女」だったとはいえ、Stevieもまた、幼少の頃から芸能界にドップリ浸かっていた男である。そりゃハンパないくらいの女遊びは経験済みだろうし、並大抵の色仕掛けや脅しなんぞは、軽く鼻であしらってしまえるほどのしたかさは持ち合わせている。何しろ、あの百戦錬磨のBerry Gordyと契約条件について五分で渡り合った男だ。単なる男女の関係の延長線上でパートナーになったのではない。彼が動くというのは、それなりの意味があったはずだ。
 まぁ性欲半分だったとしても、その天性の美声、また南部の片田舎から手段を選ばず這い上がってきたハングリー精神には、思うところ、共感する部分もあったのだろう。

 その後の彼女のキャリアを見ても、Leon WareやBilly Prestonなど、時代ごとに才能のある男を引き寄せてタッグを組み、Stevieほどではないにしても、それなりの売り上げのアルバムを残しているのだから、こういった吸引力もまた、一つの才能だろう。

 で、このアルバムは全曲Syreetaとの共作名義になっているのだけれど、まぁどの辺まで彼女が介入していたのかはわかりかねるけど、二人で一緒にスタジオに籠ってイチャイチャしてるうちに、何となくでき上がっちゃったのだから、Stevieへのメンタル面において、何らかの助力はあったのだろう。
 
 そう考えると、何だかJohn Lennonとオノ・ヨーコとの一連のアルバムを想像してしまう。
 あそこまでぶっ飛んじゃいないけどね。


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1. Look Around
 当時においての最新アイテム、クラヴィネットで奏でられるフーガ調のオープニング。明らかに、従来の明るく華やかなモータウン・ソングとは一線を画している。
 


2. Do Yourself A Favor
 同じくクラヴィネットをリードに、今度は複雑なファンクのリズムに、エモーショナルなヴォーカルを乗せている。サビが従来のStevieのメロディだけど、楽器の数が少ない分だけサウンドに隙間があり、その空間がまたファンク・スピリッツを強調している。

3. Think Of Me As Your Soldier
 シンプルなバラード。Stevieのバラードの特徴として、あまりソウルっぽさが感じられないことが、良く取沙汰されているけど、ジャンルを設定しないで聴いてみると、スタンダードにもなりうる、時代に流されない曲である。
 これまでも”For Once In My Life””A Place in the Sun”など、普通にポップ・スタンダードとして成立してしまう曲をサラッと書けてしまこと、そしてそれが限定的でない、多くの人の支持を受けることは、大きな才能の一つである。
 
4. Something Out Of The Blue
 まるでCarpentersのようなイントロ、そしてメロディであり、ここが前述したように、ソウル・ファンだけでなく、一般の白人ポップス・リスナーからも歓迎された才能の賜物である。ほんと、アップ・テンポならRay Charles並みに重量感を感じさせるのに、このようなポップ・バラードをかけるソウル・アーティストはそうそういない。
 
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5. If You Really Love Me
 なんかオリジナル・ラブあたりが似たような曲を書いていた記憶があるけど、何て曲だったかは思い出せない。Syreetaのコーラスがエッセンスとしてうまく作用している。ほんと、コーラスとしての声質の特異性はバツグンである。
 ホーン・アレンジが秀逸なのだけれど、惜しいのが音質。今の耳で聴けば、ヴォーカル以外が奥に引っ込んでるバランスが古臭く聴こえてしまう。この頃はまだ音質にまでこだわっている感がない。

6. I Wanna Talk To You
 カクテル・ジャズっぽいオープニング、Ray Charlesのようなピアノ弾き語りが続くが、途中イコライザーで声を変調させ、デュエットぽく仕上げ、曲調も次第に変則ミディアム・ファンクに変化する。うん、なんか変な曲。

7. Take Up A Course In Happiness
 ボードヴィルが入った軽快なジャズ・ヴォーカル・ナンバー。この頃のStevie、判読ラッピングの使い方がホントうまい。ソウル要素は薄いのだけれど、いわゆる当時のWASP層には、このくらい薄めてやらないと濃厚で受け付けがたかったのかも。

8. Never Dreamed You'd Leave In Summer
 独特ながら、十分スタンダードになりえるメロディ・ラインだというのに、あまり知られていないのは、アルバム自体のセールス不振だったからか。
 ビルボード最高62位という成績は、平均20位前後のアベレージからしても、やや低め。契約更新の煽りを受けて、あまりプロモートされなかった、身動きが取りづらかったことも考えられるが、ちょっと惜しい名曲。
 


9. Sunshine In Their Eyes
 ラストは長尺6分のバラードで締める。アルバム終盤で似たような曲調のバラードが2曲が続くのは、構成上どうなのかと思うけど、あまり曲順などには意識的ではなかったのか。
 静かなバラードで始まり、途中、調子はずれの子供のコーラスが入るのは、希望を失った子供たちについて歌った曲なので、歌詞を知らなければ、何だこれ、と思ってしまう。最後は”Hey Jude”っぽく、みんなで希望を捨てないコーラスで終わる。



 いわゆる過渡期のアルバムであり、完成度云々を語れるものではないけど、とにかく自分自身ですべてを仕切り、すべての作業工程に目を行き届かせたかったのだろう。慣れないプロデュース・ワークに困惑する面もおおかったのか、後の4部作、さらに後年の「愛と平和の人」的キャラクターと比べても、まだ不安定な部分が多い。
 ただこのアルバム、Stevieの本格的なミュージシャンとしてのキャリアのスタートが生々しく記録されており、今となってはなかなか見ることのできない、無難な路線に走ることなく、真摯にサウンドを追求している若干20歳のソウル・マンの葛藤が見え隠れしている。
 多分、直接的には貢献していないけれど、ライナスの毛布的にStevieのテンションの安定に寄与したSyreetaの尽力も、相当だと思われ。

 まとめて聴いてみると新しい発見もあったので、Stevieについてはまた次回。




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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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