好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そんなユルいコンセプトのブログです。

スティング

意識高い系ロックの最先鋒、最後の大風呂敷 - Sting『Nothing Like the Sun』

folder 先日、Peter Gabrielのレビューの時にチラッと紹介した、Sting & Gabrielのジョイント・ツアーがアメリカのコロンバスからスタートした。
 映像を見てもらえれば分かるように、左がGabriel、右がStingで、両方のバンド・セットが同時にステージに上がっている。通常、大体同じステイタスのアーティストが共同でツアーを行なう場合、前半・後半それぞれのセットに分かれた二部構成形式で進行し、実際にコラボを行なうのはアンコールで1、2曲程度、ということが多いのだけど、ここではセット・チェンジもなく、2バンドともほぼ出ずっぱりでプレイしている。


 
 曲順構成も独特で、自身の持ち歌を3曲以上ソロで続けて歌うことはほとんどなく、例えばStingが「Driven to Tears」「Fragile」とプレイすると、続けてGabrielサイドが「Red Rain」になだれ込む、という豪華すぎる展開になっている。2人で交互に「Games with Frontiers」をデュエットしたり、Gabrielが「Set Them Free」を歌ったりなどサービス精神もフル稼働、チケット代以上の価値があることに間違いはない。
 一番高いシートでも325ドル前後なので、2016年夏現在、円高傾向の日本人、特に45歳以上の洋楽好きにとってはヨダレが出ちゃうほどお得な話なのだけど、まぁ今さら買えるはずもないか。とっくの昔にソールド・アウトしちゃってるし。

 形態的には一応対バンなのだけど、場末のライブハウス・レベルの鬼気迫ったムードはなく、そこは分別ある大人同士、一方が見せ場の時は引き立たせ役としてスッと引っ込み、「どうぞどうぞ」とメインを譲り合っている。
 かつては2人ともアーティスト・エゴの権化のような丁々発止を繰り広げていたけど、すっかりアクの抜けきったここでの彼らの所作は、まるでサラリーマンの接待カラオケのよう。そんなユルいスタイルのステージなので、相手を凌駕しようとする気は、お互いまるでない。
 ユルいムードなのは観客も同じで、だだっ広いスタジアム級の会場は、コンサートというより野球観戦の雰囲気に近い。ドリンク片手にスタンドをウロついているのは普通で、StingのファンはGabrielメインの時は平気でトイレ・タイムに立ってるし、そのStingメインの時も釘付けになるのではなく、終始リラックス・モードでくつろいでいる。
 そう、スタンドからアリーナまで一体感を共有し、総立ちになる類いのライブではないのだ。ここで行なわれているのは、もっとカジュアルな、外野スタンドの芝生で寝っ転がりながらビールをあおる、そんなスタイルのライブなのだ。

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 多分アーティスト側も、通常のソロ・ライブのように、ステージ構成を緻密に組み立てたり、観客へのスタンディングを強要する感じではない。言ってしまえば「ふたりのビッグショー」的な、お茶の間で家族そろって安心して見ていられる、そんな和やかなムードに満ちている。
 ここで演じられているのは極上のエンタテインメント、ラスベガスの常設ステージに立つCeline DionやRod Stewartを彷彿させる、そんなショーである。
 ロックの歴史の長いアメリカでは、こういったジョイント・ツアーが主流となりつつある。ステージ設営など諸々の経費も半分で済むし、体力的な問題でフルセット演奏するのが辛くなってきたアーティスト側の負担も、大幅に解消される。
 なんだ、そう考えりゃいい事ばかりじゃん。

 今では懐メロショーの大御所的立場となってしまったStingだけど、そんな彼のクリエイティヴィティがまだ高く、ロックの可能性の新たな地平を切り開いていたのが、80年代後半という時代である。
 お子様向けのポップ・ソングや、お手軽なシーケンスでお茶を濁したような駄曲も多かったけど、そんなのはいつの時代も変わらないわけで、極端な話、ロックが真の意味で進歩的であった最後の時代が、この80年代後半だったと思うのだ、俺的には。
 何かと言えば「ロックは70年代まで、いや60年代で終わってしまった」と訳知り顔でのたまう連中も多いけど、その時代をリアルタイムで過ごしてきた俺にとって、ロックの全盛期はやはりこの時代なのだ。「空白の80年代」「商業性を優先した産業ロック」など、流し聴き下だけできちんと聴こうともせず、思考停止状態で昔の音楽ばかりを無条件で崇め奉ったりする輩が多すぎる。
 昔のレココレって、そんな空気が充満してたよね。

 で、Sting。
 ある意味、発展的解消を遂げたPolice解散後、彼の創作意欲はとどまるところを知らず、ソロ・デビュー・アルバム『The Dream of the Blue Turtles』リリースに伴う長期世界ツアーを終えると、あまりブランクを空けずリリースされたのが、この2枚目のアルバム『Nothing Like the Sun』。
 バブル絶頂期の1987年にリリースされたこのアルバム、当時の勢いからしてUK1位US9位は順当な実績だけど、なんとここ日本においてもオリコン1位を獲得している。確かに「We'll be Together」がCMに起用されたため、お茶の間への浸透度もそれなりにあったけど、こんな地味なサウンドがユーミンや明菜と肩を並べてチャートインしてしまうのも、まだ海外アーティストに対する憧れが強かった時代の特徴である。深夜だったけど、「ベスト・ヒットUSA」も「MTV」も普通に見れたしね。
 しかもこのアルバム、収録時間が中途半端でレコードでは1枚半、要するに2枚組で販売されていた。今はCDやダウンロード販売が主流なので、このアルバムも普通にシングル・アルバムとして分類されているけど、当時のレコードの2枚目裏はツルツルの塩ビ盤で何も録音されておらず、ちょっぴり損した気分になった人も多いはず。
 価格こそ、シングルとダブルのほぼ中間帯に設定されていたけど、「もったいない」という気持ちを強く持ってしまうのは、平均的な日本人の性である。シングルB面でもライブ・テイクでも、何かしら埋めてしまえばお得感もあるのに、と余計な助言までしてしまいそうである。まぁ、アーティストに経済性をもとめてもしょうがないか。
 当時、このアルバムがリリースされたレーベルA&Mでは、Joe Jacksonも全新曲のライブ・アルバム『Big World』において、同様のフォーマットでリリースしている。考えてみれば、JoeもSting同様、意識高い系アーティストの先鋒的ポジションであるからして、奇跡的なシンクロニシティがあったのだろうか。
 まぁ、偶然なんだろうけど。

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 ここで奏でられるサウンドは、基本前作を踏襲した「若手ジャズ・ミュージシャンのジャズ的解釈によるドライなAOR」となっており、前作に引き続いて参加のKenny Kirkland (key)、Branford Marsalis (sax) が、一層こなれたプレイを披露している。ドラムには、Gabriel 『So』でのプレイで名を挙げたManu Katché と、安定のベテラン・ミュージシャンAndy Newmark を起用しており、これまでよりさらに複合的なリズム・プレイを追求している。
 のちに公開された、デビュー・アルバムと同タイトルのドキュメンタリー映画では、若手ミュージシャンの強化合宿の如く、タコ部屋的な短期集中レコーディングが行なわれていたけど、ここでは比較的時間をゆったり取った、半年に及ぶ断続的なスタイルでレコーディングが行なわれている。
 意識高い系ミュージシャンの筆頭として、常にクリエイティヴィティを追求していた彼としては、前回と同じアプローチの作業スタイルでは、デビュー・アルバムを超えるものができないことを悟っていたのだろう。基本コンセプトは前作のそれをなぞりながらも、まったく別のアプローチを取る必然性があった。
 レコーディング時期が多岐に渡っているおかげもあって、有名無名ジャンルを問わず、バラエティに富んだミュージシャンが名を連ねている。同じロック・セレブとして王道を歩んでいたEric Claptonや、ジャズ畑の大御所Gil Evansなど、話題を集めるメンツも多い。共通しているのは、鼻につくほどの選民性、インテリジェンス臭漂う意識の高さである。
 そんな中、顔を合わせれば殴り合うことが挨拶代わりだったPolice時代の盟友Andy Summersが何食わぬ顔で参加しているけど、まぁこれは話題性というより腐れ縁と言った方がよい。ていうか、あのバンドの鬼っ子はダントツにStewart Copelandだし。

 この時期のStingは、プライベートで母親を亡くし、精神的にまいっていた頃となっている。これまでメディアに登場するたび、ユングだ同時代性だ熱帯雨林保護だArthur Koestlerだと、何かと理屈っぽい大風呂敷を広げてきた彼が、このアルバムでは素の自分、Gordon Matthew Thomas Sumnerとしてのパーソナリティを垣間見せている。
 そういったウェットな感性とは無縁の、極めてドライな純音楽主義を体現していたこれまでのSting、今でもプライベートを切り売りするタイプのアーティストではないけど、特にこのアルバムでは各曲の政治的なテーマも含め、全体的にネガティヴなトーンが影を落としている。
 前作収録の「Russians」に代表されるように、積極的な社会参加意識、ジャーナリスティックな意識の高い視点の芽生えが窺えるのが、この時期の特徴でもある。特にこのアルバムでは、その傾向が強い。
 近年はイルカ保護団体への支援表明でメディアに姿を見せたSting、ご意見番的ロック・セレブとして、常に問題意識を持ち続ける姿勢は変わらないけど、肝腎の作品内容にそれがフィードバックされていないのが、ちょっと寂しい。

 ロックにとって大言壮語、わかりやすく言えば。広げる4大風呂敷は必要である。正直、どれだけ広げようと広げっぱなしだろうと、そんなのはどうでもよい。結局のところ、ロックという音楽表現は、大多数のマスを相手にしてゆくため、明快でも小難しくても、何がしかのインパクトが必要なのだ。
 風呂敷を畳むことなど、考えなくてもよい。そのうちファンなりサポート陣がうまく畳んでくれるだろうし、むしろその乱雑な広がり具合や皺くちゃの具合こそがロックであるからして。
 前回のJoe Jacksonの時にも書いたけど、彼もまた、こぢんまりしたパーソナルな部分を見せられても、興味を惹くタイプのアーティストではない。もっとハッタリを、もっと完璧に構築された大ボラを吹ける者こそが、一流のアーティストと言えるのだ。
 そのロジックで行くと、最強なのはRobert Frippということになる。ブレないよな、あの人は。


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1. The Lazarus Heart
 オープニングはBranfordのソプラノ・サックスをリードとしたミドル・テンポ・ナンバー。なのにあまり軽快さがなく閉塞感が漂うのは、中二病的なメタファーの飛び交う歌詞。母親の亡くなる直前に見た夢から着想を得て作られた、とのことなので、重くて当たり前。ユング経由やキリスト教条主義的な観点から見ると、一条の光が差し込むシーンもあるため、まったく出口なしというわけではないのだけど、Stingのヴォーカルもどこかノリきれていない。
 しかし、冒頭からこんな重い曲を持ってくるあたり、当時の彼の切迫さが伝わってくる。でも、アンサンブルは最高。ロックというよりはAOR、しかもかなりジャズ的イディオムを添加したサウンドは変幻自在。変則リズムも気にならないくらい。あまり前面に出てないけど、時々印象的なフレーズをぶっ込んで来るのがAndy。さすがツボもわかってらっしゃる。

2. Be Still My Beating Heart
 US最高15位にチャートインしたのに、なぜかUKではシングル・カットされなかった、こちらもAndy傘下のミドル・チューン。ミステリアスな雰囲気が全編を覆っているけど、決して重苦しくない、きちんとヒット性も意識して組み立てられた、最もAOR性の高いナンバー。
 しかしAndy、エフェクト的な使い方しかされてないけど、これでよかったのかな?まぁあんまり俺が俺がという感じの人ではないし。

3. Englishman In New York
 多分、Stingのディスコグラフィの中では、1、2を争う有名曲。AOR的フュージョン・サウンドにスウィング・ジャズとレゲエを無理やり合体させてしまい、しかもそれが違和感なくすべてが融合した奇跡の曲。ただ当時のチャートを見ると、UK51位US84位というチャート・アクションにはちょっとビックリ。もう少し上に行ってると思ったのだけど。やっぱりCM曲は耳に残るので、印象としては強い。
 この曲のクライマックスは2分半を経過した当たり、軽快な突然Branfordのサックス・ソロが奏でられる中、突然挿入される地響きのようなバスドラ。優雅な旋律を打ち破るその轟音は、ただ流麗なだけに終わってしまいそうなところにインパクトを与え、永遠のスタンダードへと昇華した。



4. History Will Teach Us Nothing
 真夏の夜に奏でられる、怪しげな場末のクラブで演奏されるレゲエ・ナンバー。猥雑ながらクール、Sting含めプレイヤーは皆、こうべを垂れながら演奏に集中している。そんな曲。繰り返される「Sooner or later」のフレーズはどこか呪術的で、真夜中の迷宮に誘い込む。

5. They Dance Alone (Cueca Solo)
 UKでは4枚目のシングルとして94位という成績に終わったけど、チャート的な実績よりはむしろ、よくこんな政治的な楽曲をシングルとしてリリースした、というところに大きな意義がある。
 南米チリで起こった軍事政権による大規模クーデター。国民に愛される大統領だったSalvador Allendeに反旗を翻し、政権を奪還したのが陸軍司令官Augusto Pinochet だった。アメリカをバックに猛威を振るったPinochet 政権の残虐振りはとどまるところを知らず、国際的にも大きな批判の渦が巻き起こった。

 彼女たちは行方知らずの者たちと踊る
 死者たちと踊る
 目に見えない愛と共に踊る
 言葉にならない苦しみを抱え
 父親たちと踊る
 息子たちと踊る
 夫たちと踊る
 彼女たちは一人ぼっちで踊る 一人ぼっちで

 今ではすっかり政治家としての顔が有名になってしまったRubén Bladesのスポークン・ワードが挿入されている。その語りは冷静ながら、熱がこもっている。
 一応、Clapton やMark Knopfler が参加しているけど、正直特筆するプレイではない。音楽にイデオロギーは必要ないと思ってるけど、この曲はそんな理屈も関係なく、引き込まれてしまう。

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6. Fragile
 UK70位にランクインしたシングル・ナンバー。てか、5.同様、こんな地味な曲もシングル・カットしていたんだな、そういったのも許される時代だったんだよな。
 ニカラグアの水力発電ダムで働いていたアメリカ人エンジニア Ben Linderが、アメリカ政府の支援を受けていた反サンディニスタ軍コントラによって殺害された。アメリカ政府の資金提供を受けていた軍隊によって、1人の善良なアメリカ市民が何の罪もないのに虐殺されたことに、世界中から政府への非難が集中した。
 そんな報道を耳にして(本当に)心を痛めたStingはひとつの歌を書き上げた。

 いつまでも雨は降り続けるだろう
 それはまるで、星が涙を流しているように見える
 いつまでも雨は教え続けるだろう
 僕らがどれほど壊れやすい存在かを

 リリースから14年後、9月11日のアメリカで同時多発テロが勃発した。その日、Stingは自宅の中庭でのライブを計画していた。テロの一報を聞いて、中止も考えていたが、寸前まで迷いに迷って追悼コンサートとして敢行、すべての予定を変更して1曲目に歌われたのが、この「Fragile」だった。
 その10日後、アメリカ4大ネットワークの総力を結集して、急遽放送されたテロ犠牲者追悼チャリティ番組「America; A Tribute To Heroes」においても再び、彼はこのナンバーを歌った。
 もし再び理不尽な諍いが起こった時、Stingはこの曲を歌うのだろう。
 でも、そんな形ではあまり聴きたくないな。



7. We'll Be Together
 シングル・リリースとアルバムとの間に結構ブランクが空いてるのは、もともと日本のキリンビールのCM用に制作された曲だから。US7位UK41位と、アップテンポ系の受けが良いアメリカでは好評だった。アウトロでフェイク的に、前作「If You Love Somebody Set Them Free」のフレーズを歌ってること、またコーラスにAnnie Lennox が参加しているのが、特徴と言えば特徴。
 ファンキーでノリも良く、発売当時は俺も大好きな曲のひとつだったけど、Sting的にはあくまでCMサイズでオファーがあったから作っただけで、そんなに思い入れはないらしい。確かに後になってから聴いてみると、明らかにアルバムのトーンからこの曲だけはっちゃけ過ぎて浮いてるのと、そのはっちゃけ具合も脳天気なものではなく、どこかヤケクソ気味に映る。
 単体で聴いてれば、いい曲だけどね。

8. Straight To My Heart
 ソリッドなリズムが印象的な、ダンサブルなポップ・ナンバー。楽曲の完成度は高いのだけど、クセの強い楽曲が揃っているこのアルバムの中では、ちょっと地味に聴こえてしまう。ポリリズミックなビート主体のバッキングは、時代を超えて古びない響きを持っている。

9. Rock Steady
 ジャジーなアドリブっぽいフェイクも混じるポップ・チューン。多分、こんなセッション・スタイルのナンバーなら、いくらでも作れたのだろう。当時のStingの充実ぶりが窺える、肩の力の抜けたヴォーカルが聴いてて心地よい。

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10. Sister Moon
 「Moon Over Bourbon Street」を彷彿とさせる、スタンダード・ジャズをモチーフとしたバラード・ナンバー。Police時代との大きな違いは、スロー・テンポのバラードをプレイするようになった点が大きい。どれだけスロー・タッチにしてもStewart がリズムをいじくってしまうので、ここまでムーディにはできなかった。
 デュエットしてるかのように寄り添いながら咽ぶBranfordのホーン・プレイは、このアルバムの中では最もの見せ場。

11. Little Wing
 言わずと知れたジミヘンのカバー。これまでのセッションとは趣が違って、ここでは御大Gil Evansのプロダクションとなっており、ある意味、アルバムのクライマックスでもある。ギター・ソロもジミヘンに倣ったエモーショナルなプレイなのだけど、弾いてるのはHiram Bullock というフュージョン畑の人。調べてみると、何と日本生まれ、大阪の堺市生まれとのこと。マジで?
 で、今回オリジナルと比較するため、本家Jimi Hendrix ヴァージョンを聴いてみたのだけど、確かにJimiの方がブルース色が強く、ギター・オリエンテッドなサウンドになっている。対してStingヴァージョンは80年代という時代に即したモダン・スタイルのアレンジ。マイルドで聴きやすくなっている。Hiramのプレイもジミヘン・スタイルのマナーに則ってはいるけど、コンパクトで聴きやすい作りになっている。
 多分、世の中には多くの「Little Wing」が存在しているはずなので、いろいろ聴き比べてみるのも一興かと。
 誤解を恐れずに言ってしまうけど、これってGil Evansアレンジじゃないとダメだったの?その辺がちょっと疑問。



12. The Secret Marriage
 ラストはシンプルに、Ken Helmanのピアノだけをバックに歌う小品。短く地味なポジションだけど、メロディは恐らく全キャリアの中でも最も美しい響きを奏でている。
 こういったことをサラッとやってしまえることが、当時のStingの持つ美学だった。壮大なストリングスで締めることは、こっ恥ずかしくてできなかったのだろう。




 ここまでで、やっとレビュー199本目。
 次は200回記念、特別企画。
 そこまで大げさなモノじゃないけどね。



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最高のソロの始まりであり、そして到達点 - Sting 『The Dream of the Blue Turtles』

folder 最高傑作であると共に大ヒット作となった『Synchronicity』リリース後、Policeは活動を休止、しばし開店休業となった。グループ内の人間関係はとっくの昔に破綻しており、それに加えてバンドとしてやれる事はやり切ってしまったため、実質的な解散であることは明白だった。そんな中、『Synchronicity』ツアー終了と共にいち早く動き出したのがStingで、できあがったのがこのアルバム。
 前評判も高かったため、リリースと同時にUS2位UK3位と大ヒット、特に日本ではオリコン最高9位と、Police時代のチャート記録を塗り替えた。
 最初にシングル・カットされた"If You Love Somebody Set Them Free"は、US3位UK26位と好成績の口火を切り、最終的にはシングル・カットが6枚と、ほぼ半数が単独リリースされたことになる。今でこそ、先行リリースされたシングル数枚がまとめられてアルバム・リリースされるケースが増えているけど、80年代まではアルバムからのシングル・カットが多い時代だった。Michael Jackson『Thriller』なんて、ほぼ全部がシングル・カットされてるはず。

 Policeのサウンドの変遷を、ものすごく大ざっぱに分けてみると、「アバンギャルド・ジャズ → パンク+レゲエ → オルタナティヴ色を強めたロック・サウンド」という感じ。それぞれ別の個性を持つ3人のプレイヤーが、これまたそれぞれの音楽性を持ち寄ってハイ・レベルの演奏を披露し、最終的には過去のどのサウンドにも当てはまらない、正しくオンリー・ワンのオリジナル・フォーマットを確立した。ただそれは、同時にバンド終焉の始まりでもあった。

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 『Synchronicity』リリースによって、トップ・アーティストとしてのスタンスを確立したPoliceだったけど、その頂きの向こうにあったのは果てしなく広がる虚無、行き止まりの袋小路だった。もはやトリオ・スタイルでのクリエイティヴィティは失われており、これ以上前に進むことは単なる自己模倣でしかなかった。
 それは Sting 1人に限ったことではなく、他のメンバー Stewart Copelandや Andy Summersにとっても、思うところは同じだった。なので3人とも、ツアー終了後は、三者三様の手法でソロ・プロジェクトに着手することになる。

 もともとエスニック志向の強いStewart は、ドラマーのキャリアを活かした、アフリカン・リズムをメインとしたサウンドのアルバム『Rhythmatist』をリリースした。当時はまだそれほどメジャーではなかったアフロ・ビートとシンセサイザーとのミクスチャー・サウンドは画期的だったけど、まぁ当然ながら売れなかった。本格的なワールド・ミュージック・ブームが盛り上がる前にリリースされた作品なので、もう数年寝かせておけば、エスニックのドサクサで売れたかもしれない。

 同時期にAndyもアルバムをリリースしているのだけど、純粋なソロではなく、あのRobert Frippとの共同名義となっている。彼とプログレ伏魔殿 King Crimson の総帥との間にどんな接点があったのか、誰がそんなコラボを思いついたのか、いまいち不明である。「同郷だから」という、誰も本気で受け取らない理由があった気もするけど、まぁ多分レーベル主導のプロジェクトだと思う。どう考えても「意気投合してバンド結成」というムードの2人ではない。
 それぞれ2人の経歴から想像するに、Andy特有の空間を活かしたディレイ・サウンドと無機質なフリッパートロニクスとの融合と思ってしまいがちだけど、まったくその通り、想像してみた通りの音である。それらにほんのちょっぴり、当時最先端だったテクノ・ポップ風のオケを薄く被せており、その辺は80年代という時代を感じさせる。
 昔「ポッパーズMTV 」でこのアルバムのPVが流れたことがあって、たまたまそれを見てた俺、「あれ、以外とイケるんじゃね?」と思った記憶がある。 PV が作られるくらいだから、レコード会社的にもそこそこ力を入れたのだろうし、またそこそこ売れたのだろう。それでレーベル側が味をしめたのか、それとも2人ともメイン・バンドが休業中でヒマだったのか、再び共同名義・ほぼ同コンセプトでもう1枚製作されている。ミスマッチがうまく嵌った好例である。

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 で、 Sting の話。これまでの経歴・実績から比較すると、かなりコンパクトなバジェット、メンツ的にも地味な顔ぶれでスタートしている。その気になれば、もっと大物ミュージシャンを招聘したり、ビッグ・ネームのプロデューサーを起用した、ゴージャスなレコーディングも可能だったはず。しかしStingは過去の実績やネーム・バリューに頼ることを良しとせず、敢えて無名に近い若手ジャズ・ミュージシャンを多く起用、これまでのPoliceとはまったく違ったサウンドを、一から創り上げてゆくメソッドを選択した。
 ここでStingは、バンド・リーダーでありながらも、あくまでStingバンドの一メンバーとして振る舞っている。ボスとして威厳を振るうのではなく、あくまで音楽の前ではすべてのメンバーは平等、切磋琢磨しながらStingサウンドを創り上げてゆく同志というスタンスで参加している。
 普通のバック・バンドなら、大御所Stingの指示通り動き、彼のビジョンを最優先してしまいがちだけど、ここではSting、あくまで素材、触媒の役割を全うしている。未知の可能性を秘めた次世代ミュージシャンらによる、卓越したテクニックとパッションの応酬によって、Sting自身、予想もしなかったほどのバンド・マジックが日々生まれていった。サウンドから曖昧な予定調和は排除され、贅沢ながらも嫌みのない、キチンと均整の取れたサウンド、唯一無二の『Sting’s Music』 が完成した。

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 Sting にとってはこれがソロ・キャリアのスタートであり、また悲しいことに、これが同時に到達点でもある。ライブ・アルバムを挟んでの2作目『Nothing Like the Sun』において、ここで提示されたサウンドは完成の極みを見たけど、進み具合はごくわずかだった。これ以降、サウンド的な冒険は鳴りを潜めた。
 この後 Sting は、主にプライベートな問題(主に肉親の死)を抱えることによってテンションが下がってゆき、ごくパーソナルで地味な内容のソロ・アルバムを連発することになる。
 邦題『ブルー・タートルの夢』。
 これはSting が音楽的冒険に邁進していた頃、幸福な時代の幸福な傑作である。


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1. If You Love Somebody Set Them Free
「free, free, set them free」というコーラスが終始ループしているけど、こういった形のポップ・ソングはあまりなかったんじゃないだろうか。ていうかこれ以後もあまりない、唯一無二のStingのオリジナル。ロックにしては複雑なコード進行、ジャズにしてはポップという、どうにもカテゴライズしづらい音楽である。
 サックスのBranford Marsalisはもろジャズの人。父親は往年のジャズ・ミュージシャン、弟のWyntonもサックス・プレイヤーで、当時はWyntonの方が評論家受けが良かった。スタンダード・ジャズ至上主義のWyntonは兄のロック・フィールドへの進出に反対し、実際小馬鹿にして長年確執が伝えられていた。いたのだけど結果、参加して正解だった、というのを、この曲が証明している。
 


2. Love Is The Seventh Wave
 リゾート気分を連想させる、レゲエというより享楽的なカリビアンなリズムが印象的なナンバー。Police時代ならもう少しアップ・テンポに、キーも高めに歌っていたStingだけど、ここでのキーは低め。ポップ・ソング的に穏やかに歌うことによって、ゆったりとしたグルーヴ感が生まれている。

3. Russians
 当時、意識的な英米のミュージシャンが政治的な立場を明言すること、社会情勢に対して過激な発言を連発することは、日常的な事だった。当時最先端だったシンクラヴィアのエフェクトに包まれながら、冷戦時代のアメリカとソビエトとの対立について歌っている。
 こんな政治的主張の強い曲がUS16位UK12位にチャート・インしたのだから、当時のポピュラー・ソングがいかに社会情勢と密接していたかがわかる。
 


4. Children's Crusade
 紛争地帯の少年兵士の事を嘆く、センチメンタルな曲。ここでのBranfordの切ないソロはもちろん聴きどころだけど、Sting(b)とのリズム・セクション・タッグのOmar Hakim(Dr)もまた、複雑な展開を難なく作り出している。末期のWeather Reportに参加、その後も様々なセッションを行ない始めた頃で、当時若干23歳、売出し中の若手だった。

5. Shadows In The Rain
 Police『Zenyatta Mondatta』収録のセルフ・カバー。前述のレビューでも書いたように、Policeヴァージョンは掴みどころのない地味な曲扱いだったけど、ここでは若手ミュージシャンと組むことによって、ジャズ・テイストのジャンプ・ナンバーとして見事に蘇った。バンド・マジック誕生の瞬間が垣間見えるナンバーであり、セッションの様子が生々しく記録されている。
 このナンバーではどのプレイも光っているのだけど、特に際立っているのが、当時Marsalis兄弟周辺のセッションを集中的にこなしていたKenny Kirkland(key)による、ファンキーな間奏ソロ。フュージョン・ブームに対抗する新伝承派ムーヴメントの中でデビュー、古典に忠実なスタンダード・プレイばかりが取り上げられていたけど、このアルバムでは印象が一遍、若さを剥き出しにした荒削りともいえるグルーヴを醸し出している。

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6. We Work The Black Seam
 エスニック・ムードあふれるリズムに合わせ、感情を抑えて歌うSting。ここでは少し『Synchronicity』時代を髣髴させる、後期Policeサウンドを展開している。
 自由奔放でアタックの強いStewartと、あくまでメインストリーム・ジャズのマナーに則って、硬軟取り混ぜたアプローチのOmar。この時代のStingには、Omarのプレイがしっくりきていたのだろう。

7. Consider Me Gone
 ブルース・テイストの濃い、ジャズ寄りのナンバー。Policeの前に所属していたジャズ・ファンク・バンドLast Exitの発展型とも取れるサウンドを展開している。ジャケット・フォトが象徴するように、モノクロ調のナンバーが並ぶアルバムの中でも、この曲は特に地味さが突出している。俺自身、アルバム・リリース当時はまだ二十歳前、こういった地味な曲はガンガン飛ばして聴いてたけど、40を過ぎてくると、こういったのもアリじゃね?と寛容な心で聴けるようになっている。
 こんな曲を30台半ばで作ってしまったこと、そしてそれをマス・セールスに乗せてしまう手腕は、改めて当時のアーティスト・パワーを感じさせる。

8. The Dream Of The Blue Turtles
 タイトル・ナンバーであり、1分少々のインスト・ナンバー。ここでの主役はKirkland。セッションの合間のお遊び的肩慣らし的なナンバーと思われるが、さすが実力派ミュージシャンの集団であり、キッチリひとつの作品として仕上げている。

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9. Moon Over Bourbon Street
 Stingが唯一アップライト・ベースを使用した純粋なジャズ・ナンバー。伝統的な4ビートをバックに、荘厳なオーケストラをバックに渋く歌い上げている。音数は少ないけど、かなり時間をかけてレコーディングしたと思われ、贅沢に磨き上げられたサウンドに仕上がっている。

10. Fortress Around Your Heart
 3枚目のシングル・カットで、US8位UK49位まで上昇。最初はクレバーなプレイだった演奏陣も次第に熱が入ってきて、大きなグルーヴを作り出している。Stingの饒舌なヴォーカルがそうさせているのだ。
 キャッチーさも併せ持つポップ・ソングながら、プレイヤビリティも満足させる、微妙なバランスの基で成り立っている、Sting渾身のオリジナル・ナンバー。
 





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Policeじゃできなかったことの集大成 - Sting 『Bring on the Night』

00029183 1985年当時のStingの活動は、プロパーの音楽活動だけにとどまらず、その音楽というツールを活用して、社会運動への積極的な参加意欲を強めている。Policeの活動が軌道に乗った80年頃から、ARMSコンサートへの参加など、UKニュー・ウェイヴ出身らしく、ベネフィット関係への関心は強かったのだけど、やはり解散してからは更にフットワークが軽くなったのか、より積極的な介入を強めている。
 Band Aid & Live Aidから始まって、アムネスティ主催による全世界ツアーへの積極的参加、アマゾンの熱帯雨林保護運動啓発のため、私財を投じてのレーベル設立など、こういったことをソロ・デビュー・プロジェクトと並行して行なっていたのだから、ものすごい活動量である。

 アーティストが大きな成功を手中に収めると、70年代までは、無尽蔵な酒とドラッグに浪費して、享楽と快楽にまみれ、金も、そして自身もすり減らしてしまうのが一般的だった。
 対してSting、もちろん根はロックなだけあって、一時は快楽に溺れたこともあったけど、バンドも後期に差し掛かると、ユングだSynchronicityだとインテリ性を強め、次第に社会問題/政治問題に関する発言も多くなってゆく。
 こういった一連の発言や活動から見えてくるように、彼はいわゆるロック・セレブのハシリのような存在である。膨大に儲けた金をただ個人的に浪費するのではなく、キリスト教圏に生まれついた者の宿命として、生まれつき身についたボランティア精神、他者への施しなどをスマートに行なえる、知性も併せ持った最初のミュージシャンである。公開/非公開の寄付やボランティア活動は、海外のセレブとしては半ば義務とされているものである。Stingもまた、そういったステイタスを手に入れるため、そしてまた純粋な問題意識の芽生えのもと、本業と並行した活動を行なってゆく。
 同じようなスタンスで、現在社会問題に積極的に取り組んでいるアーティストといえば、断然Bonoの名が挙がるはず。彼もまたSting以上に熱い男で、その熱心さは彼をも上回るくらいなのだけど、どこか胡散臭さを感じてしまうのは、そのマッチョ性の強さからなのだろうか。しかも、ロック・アーティストとしてのU2はと言えば、今世紀に入ってからもイケイケモードではあるけれど、例のitunesの件で全世界から顰蹙を買ったように、どこか世間とズレまくり&いろいろとハズしまくっているのは事実。それに彼ら、俺的には『Zooropa』で終わってるし。

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 Policeの無期限活動休止が決定し、それに伴うSynchronicityツアーが終わったと同時に動き出したソロ・プロジェクト、ほぼ間を置かずに動き出した記憶がある。バカンスもそこそこに切り上げて、とにかく思いついたアイディアを具現化したくてたまらなかったのだろう。本格始動前にある程度仕込みはしていたのだろうけど、その手際の良さはほんと感心してしまうくらい。

 で、その『Synchronicity』のすぐ後だというのに、こう言っちゃ悪いけど、あれほどジャズ・テイストの濃い、80年代としてはかなり地味なアルバムをリリースしてしまうのは、よほどの信念がなければできることじゃない。
 大物ゲストをズラリと並べたり、時代に合わせた煌びやかなサウンドを志向したとしても、もはや誰も日和ったとは思わない立ち位置にいたはずなのに、この頃のStingはかなり「攻め」の状態に入っている。
 これだけジャズ・テイストが強いにもかかわらず、80年代のチャラチャラしたサウンドとも充分渡り合い、きちんと商品として成立させているのは、アーティスト・パワーに依るところも大きいけど、やはり「良い音楽を手を抜かず、きちんと作り上げた」という点が大きい。Policeの二番煎じ的なサウンドを敢えて使わず、ほんとに自分のやりたい音楽をやって、それできちんと収益を上げる。アーティストとしては、理想の形である。
 無名ながらも腕の立つ若手ジャズ・ミュージシャンを揃え、内省的かつ政治問題まで幅広いテーマを取り上げたソロ・デビュー・アルバム『The Dream of the Blue Turtles』は、世界中はもちろん、ここ日本でも大きなセールスを記録した。

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 で、そのソロ・デビュー・アルバムを引っさげて世界中をツアーで回り、各地のベストテイクを収録したのが、この2枚組ライブ・アルバム。17カ国92本という大規模なツアーは1年に渡り、その美味しい所をピックアップしてるのだけれど、まぁどのテイクも安定してること。ジャズ・ミュージシャン中心のバンド編成のため、当然テクニック的には何の心配もなく、基本、セッション大好きアドリブ大好きな人たちばかりなので、安心して聴くことができる。
 ちなみにこのアルバム、初リリース時はなぜかアメリカでのリリースは見送られている。UK16位、他ヨーロッパ各国でもトップ10入り、そして日本でも最高28位と、2枚組にもかかわらず、けっこうなセールスを記録しているというのに、である。まぁその辺はアメリカA&Mとの折り合いが悪かったのか何なのか。

 このアルバムの参加メンバーは基本、新進アーティストばかりだったのだけど、唯一ジャズ界では名が知られていたのがBranford Marsalis。もともと一族のほとんどがジャズ・ミュージシャンという、いわばジャズ界の名門という家系に生まれたため、他の兄弟に倣って、彼もこの世界に入るのは、半ば既定路線のようなものだった。
 で、他の兄弟の中で最も才能に秀でていたのが、弟のWynton。若干18歳で、あのArt Blakeyに見込まれて名門Jazz Messengersに加入したくらいなので、その実力は推して知るべし。当初はWyntonばかりが持て囃されて、他の兄弟はついで扱いだった。

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 2人がデビューした80年代初頭というのは、70年代のフュージョン・ブームが一段落した頃、Herbie Hancockはジャズ・ファンク路線と並行してV.S.O.P.の活動を本格化させていたし、Keith JarrettやChic Coreaら、いわゆるMiles Childrenの連中が率先してアコースティックへ回帰していた頃だった。そういった潮流の中で、若手ミュージシャンもまた、新たな視点で50年代のモダン・ジャズをリスペクトする「新伝承派」という勢力が台頭してきて、その流れでデビューしたのがMarsalis兄弟である。
 最初は二人とも、その新伝承派のカテゴリーの中で活動していたのだけど、考えてみれば、ちゃんとしたモダン・ジャズを聴くのなら、断然オリジナルの方がいいに決まってる。モダン・ジャズ全盛時には生まれてもいない若手が、古色蒼然としたモード・プレイを披露しても、それは単なるコピーでしかなく、演奏に感動は生まれない。そういった活動が次第に尻つぼみになってしまうのは、自然の流れ。
 なので、この新伝承派ブームはすぐに下火になってしまう。まぁレコード会社の仕掛けめいた臭いもチラついていたので、うるさ型の多いジャズ・ファンなら、すぐにメッキの剥がれが見えてしまう。

 で、そんなこんなで兄弟の路線が次第に分かれていくのだけど、デビューから一貫してスタンダードの王道を歩んでいたWynton、プライドの高さが昂じて次第にお芸術路線に走ってしまい、モダン・ジャズと並行してクラシックの世界に足を踏み込んでしまう。一時の気まぐれで始めたものではなく、今も本流のモダン・ジャズと並行して地道に活動し続けているのは、素直に感心すべきものである。
 ただ、テクニック的にも充分聴くに値するものなのだけど、それを好きこのんで聴けるかと言えば、それはまた話が別である。
 ジャズについて造詣の深い村上春樹による彼の評として、こう述べている。
「やたら前戯がうまい男みたいで、もうひとつ信用できないところがある」。
 言いえて妙、とはまさにこのこと。俺も彼のアルバムはジャズもクラシックも、ほとんど聴く気がしない。

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 で、Branfordが選んだ道というのが、Stingバンド加入。Police終了にあたって、Stingが業界内に出したオファーに乗っかった形なのだけど、それまでジャズ界でそれなりに築き上げつつあったステイタスを一旦チャラにして、新しいキャリアをスタートさせたのは、かなりの決断だったんじゃないかと思う。
 対してWynton、高尚なアーティスト路線まっしぐらの中、本流から逸れてしまったBranfordに対して、直接/間接的に批判を表明したのは、まぁ一言多い性格なので、仕方のないところ。近年では一族揃っての共演など、それなりに関係は良好のようだし、Branfordもまたルーツ音楽の探求など、Wynton同様、後ろ向きな企画ばかり続いているので、結局は同じ穴のムジナだったのは、これも仕方ないところ。
 Stingもバンドの面々も、この頃が一番クリエイティブだったことは一致している。そうした若気の至り的跳ねっ返りのエネルギーが封じ込められたのが、この実況録音盤2枚組である。


Bring on the Night (Rpkg)
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1. Bring on the Night / When the World Is Running Down You Make the Best of What's Around
 Police時代のヒット曲からスタート。11分もの長尺なのだけど、ダレる箇所はほとんどない。基本のリズム隊がしっかりしているおかげもあるのだけど、ここでやっぱり注目しておきたいのは、中盤のKenny Kirkland(P)のソロ。高速のラグタイム・プレイはStingの求めるサウンドと相性がピッタリしており、この後も長らく行動を共にしていたのだけど、34歳という若さで急逝してしまったことは、ほんと悔やまれる。
 もう一つのポイントは、同じく中盤のBranfordのプレイ。なんと、ラップを披露しているのだけど、これがまたうまい。こういったことも器用にできるのは、やはり良い意味でのサラブレッド。でも、これ聴いたらWynton、怒るよな、確かに。



2. Consider Me Gone
 『The Dream of the Blue Turtles』収録。アルバムでもスタンダード・ジャズ色が強く、地味な扱いだったけど、ここでもそのまんま、激渋なアレンジ。Stingの乾いたヴォーカルと、Branfordのソロとがうまく交差しており、しかもコンパクトに収めている。Stingの求めていたサウンドの本質は、案外これなんじゃないかと、勝手に思い込んでいる俺がいる。



3. Low Life
 Police時代の中でも地味さでは1,2を争う、1981年のシングル”Spirits in the Material World”のB面収録曲。ここで一旦、ジャズ・テイストは後退し、ちょっとAORっぽいナンバーに仕上げている。BranfordのプレイもBrecker Brothersみたいで、西海岸風。

4. We Work The Black Seam
 ここからLPではB面。『Blue Turtles』収録曲。チェルノブイリ原発事故の前年に作られた、ある意味予言的な曲で、メッセージ色が濃い。なので、アレンジもそれほどいじらず、ストレートに主張を歌い上げている。
 こういったメッセージ・ソングを歌う場合、例えばBonoなら熱くなり過ぎて時々胸焼けしてしまうくらいなのだけど、Stingの場合、そのドライな声質によって、変なくどさが抜けて、素直に聴くことができる。そう考えると、得な人だよね、Stingって。

5. Driven To Tears
 Police『Zenyatta Mondatta』収録曲。オリジナルより少しテンポを落とし、丁寧なヴォーカル・演奏を披露している。テーマである貧富の格差について、やはりいろいろ思うところがあるのだろうか、Live Aidでもプレイしてるくらい、思い入れの深い曲。ソプラノ・サックスに持ち替えたBranfordも、なかなかのプレイ。

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6. The Dream Of The Blue Turtles / Demolition Man
 タイトル・ナンバーは軽めのインストで、これはほぼオリジナル通り。メドレーとなる次曲は、Police『Ghost in the Machine』収録。この疾走感はロックではあるけれど、やはりリズムがジャズなので、このミスマッチ感がやはり、Stingの狙い通りといったところ。そのリズム隊、Omar Hakim(Dr)はこの後、様々な大物ミュージシャンから引っ張りだこになったし、Darryl Jones(B)なんて、今じゃすっかりRolling Stones御用達にまで出世してしまった。ミュージシャンにとって、今のStones加入がステイタスかどうかは微妙なところだけど、まぁ少なくとも、親に向かっては堂々としていられるんじゃないかと思う。
 後年になって、Sting自身、同名映画の主題歌用にセルフ・カバーをリリースしているのだけど、やはりこのヴァージョンが一番だと思う。

7. One World (Not Three) / Love Is The Seventh Wave
 ここから2枚目、C面に突入。メドレー1曲目は『Ghost in the Machine』収録。導入部がエスニック・ムード漂うアカペラから、徐々にリズムが入ってゆく構成。シンセによるパーカッション類がアフリカン・テイストを強めているけど、俺的にはこの曲、大陸的なアレンジのオリジナルの方が好み。
 続いての2曲目は『Blue Turtles』収録。オリジナルは単純なレゲエ・ビートだったけど、このヴァージョンはそれに加えてカリプソっぽさも添加されており、パラダイスなムードが満載。Branfordのソプラノ・サックスがまたイイ味だしているのと、ここで初めてギターが登場する。弦楽器担当はDarylかStingしかいないので、必然的に彼が弾くことになるのだけれど、インプロビゼーション的なプレイなので、ベースほどの凄みは感じない。

8. Moon Over Bourbon Street
 ほぼStingのベース弾き語りの導入部。クルト・ワイル的な世界観のもと、荘厳としたBranfordのソロ・プレイ。Stingの伴奏という点において、Branfordほどの適任者のソロイストはいない、と思えてしまうほどの名演。

9. I Burn For You
 これまた地味なナンバーで、Sting自身も出演した映画「Brimstone & Treacle」のサントラのみ収録されていたナンバー。多分、よほどのマニアでもなければ見たことも聴いたこともない曲であり、特に日本では当初、新曲扱いされており、俺自身もしばらくは知らなかった。
 言われてみれば映像的な曲だねぇ、と思ってしまいそうだけど、逆に言えば、音だけではなんともイマジネーションが掴みづらい曲。



10. Another Day
 ここから2枚目B面、最後のD面に突入。
 こちらはシングル"If You Love Somebody Set Them Free”のB面に収録。正直、シングル・ヴァージョンは印象に残らない曲だったのだけど、ライブで活きる曲の典型。冒頭のコール&レスポンスから始まり、ロック的な疾走感が心地よい。

11. Children's Crusade
 『Blue Turtles』収録。中世の少年十字軍になぞらえた、少年兵士の事を歌った曲なのだけど、5.同様、重いテーマの場合はストレートなアレンジで、メッセージ性を強めているようである。この辺がバランス感覚だよな。
 それでもやはり静かながらも燃えるBranford、Coltrane顔負けの超絶高速ソロをぶち込んでくる。

12. I Been Down So Long 
 ずっとオリジナルだと思っていたのだけど、今回初めて調べてみたところ、50年代のシカゴ・ブルースのカバーだった。俺はブルースはちょっと苦手なので、オリジナルを聴いてもピンと来なかったのだけど、このモダン・ブルース・ヴァージョンは好き。ていうか、Stingにブルースの素養があったことに、ちょっと驚いた。ここまでブルースどっぷりのナンバーは、これ以前も以降も、ほぼ皆無のはず。やはりバンドのカラーがそうさせたのだろう。



13. Tea In The Sahara
 シメはあっさりとしたアレンジのスロー・ナンバー。『Synchronicity』のラストに収録されていたナンバー。思えばこれもブルースなのだけど、スロー・テンポなので気がつかなかった。でも、「サハラ砂漠でお茶を」ってなに?いまだによくわからない。



 この後のStingはセカンド・アルバム『Nothing Like the Sun』を制作、これも傑作なのだけど、それはまた後日。



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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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