1983年リリース、YMOとしての最終作。オリコン最高5位はなんとも中途半端なセールスだけど、まぁレコーディング前から散開が決まってたので、本人たちとしても、その辺はもうどうでもよくなってたんじゃないかと思われる。
純粋なオリジナル・アルバムという意識が薄く、この時期はもうバンドとしての形態が崩壊しており、各自好き勝手にトラックを作って寄せ集めたものなので、あまり愛着もないんじゃないかと思われる。
デビュー間もなく、立て続けにリリースされた2枚のアルバム『Yellow Magic Orchestra』『Solid State Survivor』によって、YMOはテクノ・サウンドの始祖として、その後のエレクトロ系やEDM系の進化の礎となった。契約消化のため製作されたライブ・アルバム『公的抑圧』とスネークマン・ショーとのコラボ・アルバム『増殖』を経て、類型的なテクノ・ポップに飽きた彼らが次に向かったのが、ミニマル現代音楽ケチャ電子音楽その他もろもろを好き勝手にぶち込んで煮詰めてエキスだけを取り出したのが、『BGM』と『テクノデリック』。これまでの”ライディーン”や”テクノポリス”を期待してた客層はゴッソリ減ったけど、その無愛想で得体の知れないサウンドは、むしろこれまでよりも玄人筋にウケが良く、特に同時代で進行形だったUKニュー・ウェイヴのアーティストらに大きな影響を与えた。
ほんとはそこで音楽的にはやり尽くしてしまってるので、このまま解体するはずだったのだけど、もうちょっとやってみようということで、再び大きく方向転換したのが、これまた周囲の予想を大きく裏切った、アイドル風歌謡ポップ路線。ちょうどこの時期は3人とも、裏方としてアイドル歌謡のフィールドでも活躍していたため、そのフォーマットを応用して、もっとこっ恥ずかしい形に仕上げたのが、”君に胸キュン”。これを軸として、自分たちのパロディのようなアルバム『浮気なぼくら』は、再び彼らをヒット・チャートの世界に引き戻した。
で、そんなこんなで散開することが決定し、有終の美を飾る作品になったのが、この『Service』なのだけど…、地味だ、地味すぎる。一応そこそこ売れたシングル”以心電信”も収録されているのだけど、他の曲があまりにキャッチーさとはかけ離れており、かといって革新的なサウンドというわけでもない。ソロとしても、それぞれ一本立ちしているメンツばかりなので、どの曲もレベルは高いのだけど、この肩すかし感が逆にYMOらしいのかもしれないけど。
そんな影が薄いアルバムだというのに、なぜここに持ってきたのかといえば、それは俺がリアルタイムで買った、彼ら唯一のアルバムだから。もちろん後追いですべてのアルバムは聴いているのだけど、何しろ一番最初に聴いたアルバムなので、結局これが一番ターン・テーブルに乗った回数が多い結果になる。
ジングルとして、曲の合間ごとにSETによる寸劇が入っているのだけど、まぁ取り立ててどうこう言うものでもない。もともと彼ら、幸宏のオールナイト・ニッポンにレギュラー出演してコント仕立てのラジオ・ドラマをやっており、そのツテで起用されたのと、もっとぶっちゃけて言うと、フル・アルバムにまとめるには尺が足りなかったため、急遽起用されたという苦肉の策。これも『増殖』製作時のスネークマン・ショー抜擢の経緯と重なる。
こういうのってライブ感が大事なので、その場で聴いてたら面白いのだけど、繰り返し聴く種類のものではない。リリース当時から時代とズレてる感覚はあったので、別にこのユーモアを無理してわかる必要はない。
レコーディング時はすでに散開状態であり、3人ともほとんど顔を合わせることもなく、各自淡々と作業していた、とのことだけど、「これで最期」と少しは意識したのか、それなりにYMOとしてリリースできるクオリティのものに仕上げている。時期やスタジオはバラバラだけど、ミックス・エンジニアの手腕によって、全体の質感、トータル・バランスは統一されているため、ちぐはぐな感じや険悪なムードは感じられない。
ただし、それまで期待されていたテクノ・サウンドや歌謡ポップス的なテイストはほとんど感じられず、ここにあるのは進化も退化もない、アーバン・テイストのAOR的サウンドである。
日本語を多用して、キャッチーな路線を狙った前作『浮気なぼくら』とは一転、”以心電信”以外の歌詞はほぼ英詩になっている。もはや国内セールスは眼中にないのはわかるのだけど、当時の英米のトレンドとも相容れない、どこをターゲットにしているのか、行き先不明の音である。
その音の行き着く先は、どこにもない。
作られた音に手抜きはない。かといって、散開後の方向性を暗示する音かといえば、そういうわけでもない。各自、この奇妙なサウンドを作り込んだはいいけど、その後のキャリアに影響しているのかといえば、そんなことでもない。
この音は、あくまでこの時限りのアプローチであり、このサウンドはここで完結している。
入り口も、出口もない。
ただ、その進む先が見えない、帰結点のない音楽である。彼らのディスコグラフィの中でも、この作品だけはぽっかり浮いている。
YMOでありながら、限りなくYMOから遠い、無記名の音楽である。
逆に言えば、バンドの終焉としては、完璧な幕引きでもあるのだけれど。
YMO
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1. LINBO
細野・幸宏による制作。。”Limbo”のリフを膨らませた、ほぼワン・コード主体のナンバーで、単調さをリズムのヴァリエーションで補っている。なので、基本はファンクなのだけど、全然ファンクっぽく聴こえないのは、むしろミニマリズムを基調としているからか。
2. S.E.T.
3. THE MADMEN
ほぼ細野単独で作らたナンバー。リズム・マスターとしての面目躍如。ある意味、「ポップ」が取れた「テクノ」の純粋な形がここにある。1.同様、これもかなりファンキーなリズム・アレンジ。ヴォーカル・トラックもかなりドライで、日本の音楽業界へおもねった感じがまるでしない。彼流の、UKニュー・ウェイヴへの返答。
4. S.E.T.
5. CHINESE WHISPERS
幸宏制作による、このアルバムの中では最もキャッチーなサビを持つトラック。ニューロマ・テイストのマイナー・コードのメロディは耽美さを感じさせるけど、あいにく幸宏の声質が細いため、ちょっと音程が揺れ気味。まぁそこが味なのだけど。
シンセの使い方が、80年代歌謡曲を思わせる。こっちの方が先だけどね。
6. S.E.T.
7. 以心電信
先行シングルとしてリリースされ、オリコン最高23位、散開前のYMOとしては最後のシングル。前作『浮気なぼくら』でサワリの部分だけ収録され、これが本編。ちなみに、この『Service』では3人揃ってのレコーディングは行なわれず、結果的にこれが共同作業としては最後の曲となった。
フェアウェルといったムードの華やかなサウンドは、後期Beatlesからインスパイアされたもの。ちなみにこの曲、リリース当時は歌詞が引っかかって、NHKで放送禁止の憂き目に会ったのだけど、今となっては「何でこれが?」と思ってしまう理由。
8. S.E.T.+YMO
9. SHADOWS ON THE GROUND
教授と幸宏との共作。バック・トラックはまんま教授のノリで、本人いわく、かなり幸宏寄りに仕上げてみた、とのことだけど、この味も素っ気もないメロディは、どう聴いてみても幸宏のテイストではない。
ちょっと大陸的な響きのシンセと、シンプルなリズム・パターンとのミスマッチ感が絶妙。
10. S.E.T.
11. SEE THROUGH
このアルバムの中でも人気が高く、俺もこのロック的な疾走感は好き。唯一のYMO名義での楽曲なのは、シングル"過激な淑女”のB面収録曲だったため、制作時期はちょっと遡るため。
曲の構造的には5.と同じなのだけど、UKニュー・ウェイヴのドライな部分を抽出して、リズムの輪郭を強調したサウンドがメリハリを生んでいるため、ウェット感が少ないながらも、きちんと大衆にアピールするサウンドになっている。ある意味、ここがYMOとしての完成形だったのかもしれない。
12. S.E.T.「村祭」
13. PERSPECTIVE
ラストは教授の実質ソロ。後年になってからもセルフ・カバーしているくらい、本人にとってはお気に入りの曲らしいのだけど、ヴォーカルが、ねぇ…。なにも本人が歌うことはなかったんじゃないかと思うのは、きっと俺だけではないはず。
生ピアノを主体として、シンプルなリズムを被せたサウンドは、時々オリエンタリズムも感じさせて良いのだけど、本職のシンガーに歌わせたら、さらに良くなったんじゃないかと思われる。
まぁアマチュアリズムも含めての楽曲だと言われたら、それまでなのだけど。
14. S.E.T.
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