Folder 米米クラブというユニットは、実質フロントマンであるカールスモーキー石井のインパクトが強いせいもあって、一般的に彼のワンマン・バンドに見られがちである。実際のところ彼はリーダーではなく、単に表立っためんどくさい事柄を一手に引き受けているだけである。こいつなら、ちょっとおだててやれば汚れ仕事も引き受けてくれるだろう、といった体で。

 出自こそ今でいうパリピ=パーティ・バンド的なモノの発展形が米米結成のベースとなっているのだけど、ライブで頭角を現してきたこともあって演奏チームのスキルが高いことは、昔から語り継がれている。ディレクターやレコード会社からの介入や要請は多かったけれど、デビュー・アルバムはほぼ演奏差し替えもなく、それは解散するまで一貫して自分たちでサウンド・メイキングを行なっていた。ポッと出の新人で、しかも当時のソニーにおいてでは、なかなかなし得ないことである。
 もともと進駐軍相手のジャズ・バンドが母体だったクレイジー・キャッツからの例に漏れず、パロディやリズムネタをレパートリーとするコミック・バンドというスタイルは、もともとの音楽的素養がなければ成立しないものだ。有象無象と魑魅魍魎が織りなす80年代初頭の混迷したライブハウス・シーンという現場で培った、どんな有事でも動じない鉄壁のアンサンブルは、基盤のサウンドをしっかり構築し、おかげでヴォーカル陣を奔放に遊ばせることができる空間を提供した。
 あくまで「笑わせる」というスタンスであり、「笑われる」立場ではない。まともな演奏ができずに笑いを取るだけじゃ、客にボコボコにもされかねない時代だったのだ。

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 時は流れ、「じゃあ逆にぃ、演奏するフリだけやって、笑われるだけでもいいんじゃね?」というコペルニクス的発想の転換を実践したのが、金爆というバンドである。ある意味、彼らのコンセプトは潔い。でも、バンドなのかな?まぁ既存スタイルのアンチという見解だと、彼らの姿勢はパンクだな。

 職人気質的にグルーヴ感あふれるインスト・パートをベースに、伝統的なJBスタイルのステージングを披露するジェームス小野田と、典型的な昭和の二の線、バブルそのものといった軽薄ジゴロ的な狂言回しの石井、ステージに華を添えるどころか自ら幕間コントにも参加して積極的に前に出てゆくシュークリームシュの三つ巴が、ステージ上で展開されていた。文章で読んでも伝わってしまうくらい、異様な空間である。いや実際に見たらもっとエグいんだから。
 ドロドロのファンクとレトロ歌謡とムード・コーラスとニューロマ・ディスコが波状攻撃のようにステージを飲み込み、そんなグルーヴィーな空間を引き裂くかのように延々行なわれる「くっだたねぇ寸劇」との猛烈なギャップは、先物買いを求めて暗躍する各レコード会社ディレクターらの注目を集めた。
 アングラ・シーンでの流動的な活動を経てソニーと契約、特にヴォーカル・パートのキャラの強さはビジュアル的にも映え、それが当時のソニー戦略ともシンクロして大々的にプッシュされることになる。なるのだけれど。

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 解散前の米米は、初期の段階からライブとレコーディングとで、制作プロセスをきっちり分けていた。芸術肌の石井がパフォーマンス・アーティストとしての側面を見せていたのに倣って、ライブ活動に重点を置いていた。「ライブを演るために曲を作り、記録としてレコーディングする」というスタイルは、当時でも今でも日本ではあまり見当たらないスタイルである。強いて挙げれば「夜会」を続けている中島みゆきくらいか。
 ライブでは、舞台美術やコスチュームに潤沢な予算をかけ、同時代では抜きん出たエンタテインメント・ショウを構築した。対してレコードでは、ソニー戦略に則った「お行儀の良い」ライトなシティ・ポップを多めに収録する、というのが長らく彼らのダブル・スタンダードだった。初期のニューロマ・シティ・ポップ路線は耳触りも良くてラジオでもオンエアされやすく、実際、この時期の彼らを懐かしむファンも多い。

 本来なら、レコードでは最大公約数的にファン獲得率の多いポップ路線で収益を支え、その利潤をライブ制作に投資する、というのが理想のスタイルだったのだろうけど、そうはうまくいかないものである。
 石井と小野田のインパクトの強さによって、知名度こそ上がってはいたけれど、セールス的には大きなブレイクもなく、微妙な中堅どころに甘んずる期間が長かった。80年代ソニーの方針に則って、イヤイヤながらも売れ線スタイルに合わせているはずなのに、ファンのニーズはどうもそこにはなさそうである。
 ていうか、バンドとソニー双方のベクトルが合わず、それぞれあさっての方を向いていたことが、彼らの本格的なブレイクを遅らせた要因である。

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 1987年にシングル・リリースされた初期シティ・ポップ期の代表曲のひとつ「paradise」は、大ブレイク時にリリースされたリメイク・ベスト・アルバム『K2C』に収録された際、アレンジも歌詞も大幅に改変が加えられている。初回シングルでは、「元気で明るくてオシャレな」80年代ソニーのポリシーに則った、ライトなラブ・ソング的なシーン設定だったのが、『K2C』ヴァージョンでは、シャレオツ感こそグレードアップしているけど、石井演ずる主人公は女ったらしのジゴロ、世界を股にかけて縦横無尽に女のケツを追いかけ回す軽薄野郎に豹変している。
 シンセ中心に組み立てられた前者と比べ、ホーン・セクションを前面に出したバンド・アンサンブルはゴージャス化しており、口八丁手八丁の石井のチャラさが引き立っている。あ、これって地か。

 本来のコンセプトとして、爽やかでポップなメロディとライトなサウンドに乗せて、サウンドこそ既成のシティ・ポップだけど、そこにくっだらねぇ歌詞を乗せて自己陶酔しながら歌い上げる、というのが初期米米の真骨頂だった。ステージにおいて、そういったスタイルはほぼ一貫して変わらなかったのだけど、ディレクター側のジャッジによって、サウンドと調和した無難な歌詞に改変せざるを得なかった、というのが当時の彼らの置かれた状況である。で、できあがったのは、単なる無難なシティ・ポップ。これならオメガトライブと変わんないし。

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 セールス的にはまだ発展途上だった初期米米、ヒット・シングルを出すために、耳触りの良い万人向けのシティ・ポップ楽曲を優先的にフィーチャーしてゆくという戦略は、ある意味間違いではない。しかし、そういったライト路線というのは、あくまで彼らの様々な側面のほんの一部でしかなく、大勢を占めるのは盤石のバンド・アンサンブルに支えられたおバカな世界だ。
 軽めのニューロマ風味ポップやミディアム・バラードを絡めてこそ、ライブにおいても落差としてのおちゃらけナンバーも活きてくるし、セットリスト的にも構成のメリハリがつく。どっちかひとつには絞れないバンドなのだ。
 そのバランス均衡の配分、方向性の迷いこそが、彼らが長らく中途半端なメジャー、永遠の6番打者に甘んじていた要因でもある。

 「Paradise」「sûre danse」に代表されるメロディ・タイプの楽曲の対極として、「ホテルくちびる」や「東京 Bay Side Club」などのノベルティ・タイプ楽曲が位置するわけだけど、その後者タイプの曲のみを集めたアルバムも存在する。主にライブのみでプレイされていた楽曲を中心としてしており、コアなファンにとっては待望の音源化!!といったところなのだけど、まぁ正直、何度も聴き返すようなモノではない。
 本人たちも半ば冗談で、「君がいるだけで」がバカ売れしてしまったため、その勢いでリリースしたようなものであって、売る気なんてサラサラないのがミエミエだった。ライト・ユーザーにとっては拷問のようなアルバムである。内輪受けのジョークや音遊びがアルバム1枚延々と続くんだから。ただ、そんなコンセプトのアルバムを2枚(『米米CLUB』『SORRY MUSIC ENTERTAINMENT』)もリリースできてしまうのが、当時の彼らのセールスの勢いであり、またユニットとしてのレパートリーの広さでもある。

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 ほぼメロディ・タイプでまとめた小品集的な3枚目のアルバム『Komeguny』が中途半端なセールスで終わったため、米米クラブは大幅な路線変更を敢行する。
 ブレイクを見込んでソニー側の意向に沿って、ライトなシティ・ポップてんこ盛りで売れ線を目指したはずなのに、従来セールスと大して変わらなかったんだから、バンド側としては方向性が見えなくなってしまう。まぁ既定のソニー路線フォーマットには収まる器ではなかった、というところなのだけど。
 -もともとライブで地力をつけ、奇矯なパフォーマンスでネームバリューを上げてきたのだから、ライブの進行通り、テッペイちゃんばっかりフィーチャーするんじゃなくて、ジェームスやシュークリ-ムシュ、演奏陣にも大きくスポットを当てた方がいいんじゃね?
 「石井+バンド」じゃなくって、全部飲み込んでこその「米米クラブ」なんだし。

 そんなライブの方法論をそのまんまレコーディングにスライドして、さらにコラージュしてヴァージョン・アップしてできあがったのが、「KOME KOME WAR」である。どうでもいい単語の羅列で構成された歌詞は、ほんと適当。でも、そんな言葉がチャラさ全開のテッペイちゃんから発せられると、スケコマシの戯言的な説得力を生む。
 バブルの象徴とも称されるダボダボなソフトスーツでキメ、汗だくになりながらスタイリッシュを演じるテッペイちゃん。P-Funkの亜流後継者として、奇矯なメイクとコスチュームで狂言回し的に、でもここぞという時には、ファンク・マナーに則ったグルーヴィーなヴォーカルを披露するジェームス。単なるステージの華に収まらず、積極的にコントに寸劇に、ついでにコーラスも聴かせるシュークリームシュ。そして、そんなバラバラのベクトルを持つ三者三様をひとつにまとめてしまう、リーダー兼バンマスBonによって支えられた、多ジャンルから寄り集まったバンド・アンサンブル。

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 これはライブ、これはレコーディングとキッチリ分けるのではなく、ライブのセットリストを想定して、それぞれのキャラを引き立てた曲を書き、ステージの流れ的に並べてみたらアラ不思議、これまでにないくらい生き生きした「米米クラブ」というオリジナリティが確立されちゃった、という次第。
 最初から、答えは彼らの手のうちにあった。でも、それを具現化できるほどのスキルが足りなかったこと、ソニー主導の方針を覆すほどの根拠を説明しきれなかったことが、彼らのブレイクを遅らせた要因である。


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1. Introduction
 
2. 美熱少年
 JBのソウル・レビューのようなオープニング。ライブ演出と同じく、石井によるMCのあとに登場するのは、もちろんGrand Funk Master ジェームス小野田。ここでの主役は、小野田とホーン・セクションのビッグ・ホーンズ・ビー。スカパラが登場するまでは、日本のポップ・シーンにおけるホーン・セクションの代表は彼が担っていた。
 この頃はほぼ日本では紹介されてなかったけど、この猥雑さ・ゴチャマゼ感はまさしくParliament/Funkadelic。
 ちなみにタイトルは、アルバム・リリースの少し前に発刊された、作詞家松本隆の半自叙伝小説『微熱少年』からインスパイアされたもの。でも、松本の歌詞世界に漂う儚さとか繊細さは微塵もなく、単にゴロが良いから採用したようなもの。松本ファンが勘違いしてこれを聴くと、かなり失望すると思われる。

3. KOME KOME WAR
 アルバムより先行リリースされた、彼らにとって7枚目のシングルであり、オリコン最高5位にチャートイン、この時点では過去最高の売り上げと共に爆発的な知名度を広げるきっかけとなった、彼らにとってのターニング・ポイント。
 隠れ名曲として「浪漫飛行」が一部で取り上げられたり、ディスコで「Shake Hip!」がヘビロテされたりなど、10~20代への認知はすでに広まっていた彼らだったけど、お茶の間レベルにまで顔が知られるようになったのは、やはりあのインパクトの強いPVがきっかけである。恐ろしく細切れのカットアップはサウンドとシンクロするよう、緻密に計算されており、思いっきり手間ヒマかけて一生懸命、くっだらねぇことをやっている。

 オー グーテンダーク アトランダムショー
 ロック インデリジェンス アメーバ
 War ビューティフォー

 …ダメだ、あんまりにくだらな過ぎて、書き起こす気にもなれん。しかし、このくだらなさがPVとセットでうまくマッチングして、サブリミナル的な中毒性を引き起こす。ある意味、80年代ソニーの生ぬるい空気を粉砕するほどの破壊力を持つ楽曲でもある。



4. SEXY POWER
 一転して、初期シティポップ路線の楽曲なのだけど、これまでよりサビメロが引き立っているのはリズム面の強化から来るもの。シーケンスに丸投げしない手作りバンド・サウンドは、チャラさ全開で腰の定まらないテッペイちゃんをしっかり繋ぎとめ、ボトムの効いたナンバーに仕上げている。

5. BEE BE BEAT
 ここでのリードはバンド主導で、ヴォーカルはほとんど添え物。スカをベースにちょっぴりテンポの速いカリプソ、一瞬ヨーデルも飛び出したりなど、ライブ仕様の楽曲。これまでならこういったタイプは真っ先にオミットされていたのだけど、変にスタジオ・ヴァージョンにはせず、ほぼライブ・アレンジそのまんまでやり切っちゃうのは、バンドとしての自信だろう。

6. あ! あぶない!
 ギター・カッティングとホーン・セクションがメインのため、純正ファンクと思われがちだけど、ドラムは案外8ビートをもとに叩いており、その辺のフェイク加減こそが、米米が唯一無二のおちゃらけファンク・バンドとして君臨する所以だろう。まんまJBフォロワーの小野田のヴォーカル、太鼓持ちの如くカウンターをぶち込んでくるテッペイちゃんとの掛け合いは、笑いを超えた真剣勝負である。

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7. OH! 米 GOD!
 引き続き、ほぼ笑いもフェイクもない、純正凝縮インスト・ファンク。あまりにも濃縮されすぎてしまったため、ほんのわずか30秒程度の間にエッセンスが凝縮されている。

8. TIME STOP
 『Go Funk』リリース後、わずかひと月でシングル・カットされた、彼らのバラードの中でも確実にベスト3にはランクインするキラー・チューン。3.がリリースされたのがこの2か月前なので、よほどこの曲が突然変異的に強く受け入れられたことがわかる。
 メロディ・タイプの中でも、ここまでスタンダード・ナンバー的にベッタベタな楽曲はなかったため、長らくライブでも重要な位置を占めるに至った。ドロドロ・ファンクをベースとしながら、こういったウェットなメロディも料理してしまうバンド・メンバーも脂が乗り切っている。
 冒頭のBon(b)のグリッサンドから心を持ってかれ、ムード歌謡の如く切ない響きのビッグ・ホーンズ・ビー、幅広い素養を持つジョプリン得能(g)によるジャジーなソロ。メンバーの英知を結集して、ある意味スタンダードのパロディ的なモノを狙ったところ、案外出来が良くなりそうだったので、ついついみんなあらゆる引き出しを開けちゃった、といった仕上がり。まぁ結果オーライといったところで。



9. なんですか これは
 ニューウェイブ・テイストがかなり濃い、ミニマルなビートに社会風刺がちょっぴり。ライブで見るとハマりそうなノリの良さは後半ブリッジで急激にアフロが入り、再びスカ。リズムだけで出来上がったような曲なので、深く考えることはなし。踊れや踊れ。

10. FLANKIE, GET AWAY!
 彼らにしては珍しい、まっとうなロック・タイプの楽曲。「Honky Tonk Woman」をニューウェイヴ風にカバーしようと試行錯誤してたら、いつの間にかこんな風になってしまった、といった感じの仕上がり。シュークのコーラスがカワイイ。それが一番印象に残る。一生懸命ダルな感じを出してるけど、やっぱテッペイちゃんにロックは似合わない。もっとインチキな、ロック「っぽい」方が彼には合ってる。

11. 僕らのスーパーヒーロー
 なので、同じロック・ナンバーでも、ワイルドさを薄めたポップ・ロックの方が彼には合ってる。ドラムの音は完全にロックなので、逆にシンセの割合を増やした方が曲調には合っていそうなものだけど。

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12. いつのまにか
 で、どれだけおちゃらけようとロマンチストであるのがテッペイちゃんの本質であり、それはメンバー全員に共通することである。ていうか80年代を通過してきたアーティストというのは、ほぼ全員メロウな感性を持っているものである。歌謡曲で培ったドメスティックなウェット感は消せないのだ。
 メロディ・タイプの楽曲としては、キャリアの中でも1,2を争うクオリティを有している。このギャップの大きさこそが米米最大の魅力であり、それを最も素直に二面性を演出できていたのが、この時期である。

 あの日見ていた夢は 今もこの胸にあるけれど
 大人たちが言う 「見せちゃいけない」と

 時々、こういったフレーズをサラッと書けてしまうから、俺はテッペイちゃんを信じてしまうのだ。

13. 宴(MOONLIGHT MARCH)
 で、シリアスに振れ過ぎてしまったところでバランスを取るため、こういったふざけたブリッジを入れてしまうのも、彼らの美意識のあらわれ。後にアルバム全編、二の線で通してしまうようになってしまうけれど、それは大人の事情やらテッペイちゃんの勘違いやらによって脱線してしまっただけで、基本、バンドマンはナイーブな人が多い。
 スカしたポーズばっかりじゃ、それはそれでカッコ悪いじゃん。そんなのはたまに見せるだけでいいんだよ。
 それが大人の態度だよ。


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