で、やっぱもうちょっとチヤホヤされたい、せめて一回くらいはポップ・スターとしてスポットライトを浴びてみたい、という願望を抑えきれなかったのかどうかは知らないが、再び売れっ子プロデューサーClive LangerとAlan Winstanleyに制作を依頼、アメリカでのスターダム街道を目指してリトライしてみたのが、このアルバム。
前回でも書いたように、イギリスではシングル”Everyday I Write the Book”のスマッシュ・ヒット(UK28位)が作用したため、通常よりは微増の売り上げになったものの、アメリカにおいてはほぼ何も変わらず、相変わらず「通には受けの良い」スタンスは変わらなかった。
Costello自身、同世代のパンク~ニュー・ウェイヴ勢の中でも、卓越したソングライティング能力については自負していたし、多くの同世代が演奏・ヴォーカルにおいてのパフォーマンス・スキルが壊滅的だったにもかかわらず、彼はその気になればギター1本だけでオーディエンスを虜にし、優に1ステージ持たせることができるくらい、ライブ・パフォーマンスには絶大の自信があった。
ただ彼に足りないものは、不特定多数のリスナーを獲得できるほどのエンタテイメント能力、カリスマ性の希薄さだった。カリスマ性を補うための芸名「Elvis」だったのでは、というのは勘繰りすぎだろうか。
当時の彼の仮想敵として、最も大きかったのはDuran Duranである。
音楽性の勝負ではない。そう言った話なら前述した通り、負けてる要素はどこにもないし、そもそも戦っているフィールドがまるで違っている。
ただ彼が切望していたのは、ゴシップ紙の常連になったり、決めポーズをとってピンナップ・グラビアを飾ってみたり、またはホテルの裏口で安っぽい香水の匂いをまき散らしたグルーピーらに出待ちされることである。
本人的にはあまりその辺は明言していないのだけれど、本来優秀なアーティストとは、自己顕示欲の塊である。まったくそういった気がないと言えば、嘘になるだろう。まぁコロコロ変わる音楽性同様、もしほんとにそんな状況になったとしても、すぐに飽きてしまうのだろうけど、一度くらいはやって見たかったのだろう。
ちょうど離婚問題が重なったこと、またAttractionsとの関係悪化など、なんか厄年だったのか、積年くすぶっていたトラブルが一気に押し寄せたことによって、後にCostello、「そんなわけで、イマイチ本腰を入れることができなかった」とも語っている。
そういったわけで、プロデューサー主導のアルバムと思われがちだが、実際彼らが任されたのは半分で、残り半分はCostelloの、ほぼセルフ・プロデュースという分担になっている。売れ線を狙って前回丸投げしたはずなのに、なんとも微妙な結果に落ち着いてしまったため、最初は口を出すつもりはなかったが、次第に疑心暗鬼になって、結局半分は自分の流儀を押し通してしまった、という次第。
まぁその流儀も結局、売れ線からはできるだけ遠く、といった風に、ネガティヴなテーマでサウンド・メイキングされているため、何とも中途半端な仕上がりになっているのも、後の祭り。別の見方をすれば、その噛み合わなさを「こっちはCostelloで、こっちはLangerらで」と、想像しながら堪能できるアルバムでもある。
そういったわけで、プロデューサー主導のアルバムと思われがちだが、実際彼らが任されたのは半分で、残り半分はCostelloの、ほぼセルフ・プロデュースという分担になっている。売れ線を狙って前回丸投げしたはずなのに、なんとも微妙な結果に落ち着いてしまったため、最初は口を出すつもりはなかったが、次第に疑心暗鬼になって、結局半分は自分の流儀を押し通してしまった、という次第。
まぁその流儀も結局、売れ線からはできるだけ遠く、といった風に、ネガティヴなテーマでサウンド・メイキングされているため、何とも中途半端な仕上がりになっているのも、後の祭り。別の見方をすれば、その噛み合わなさを「こっちはCostelloで、こっちはLangerらで」と、想像しながら堪能できるアルバムでもある。
サウンド的には、こちらも前作『Punch the Clock』と同じスタッフで製作されているので、基本構造は同じなのだけれど、前回大きくフィーチャーされていたTKO Hornsは参加しておらず、Caron Wheelerが在籍した通称Afrodiziakら女性コーラスも不参加、Attractionsを中心として、ゲスト・ミュージシャンも極力抑えたシンプルなメンツになっている。
楽曲のスパイス的役割が不在な分だけ、曲調・アレンジもシンプルに、前作と比べてR&B、ソウル色はかなり薄めになっている。見た目の派手さが薄れた分だけ、余計な装飾がなく、純粋に曲自体の良さを引き立てた作品が多い。これはCostelloの意向もあったらしく、営業政策上、シングル向けのキャッチーでポップなナンバーも必要だが、他のアルバム収録曲については、極力Attractions単体でプレイできるようにした、とのこと。
俺的にはデュエット2曲以外の印象は薄く、前作と比べるとそれほど何回も聴いてはいないのだけれど、後年ライブで取り上げられる曲もいくつかあり、楽曲単体で見ると、光る曲も多々ある。ただ、やはり地味な印象は拭えない。
真面目に音楽をやっているアーティストにとって、80年代とはサウンドの変遷がめぐるましかったため、そんな風潮に振り回されて駄作を連発した大物も数多い。
Costelloもその一人である。
Costelloもその一人である。
Goodbye Cruel World
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1. The Only Flame In Town
ビルボード56位というまぁまぁのヒットを受けて、MTVでもたまに流れていた、Hall & OatesのDaryl Hallとのデュエット曲。この頃のHall & Oatesはほんと絶頂期、シングル・チャートでも上位の常連だった時代であり、” One on One”、” Maneater”は80年代の社会風俗特集のBGMでもよく使用されるくらい、時代の象徴だった。
Hall & Oatesは当時、白人ながらソウル・テイストの強いポップ・ソングを数々チャートに送り込み、「ブルー・アイド・ソウル」の代表的アーティスト、クオリティの高い楽曲・パフォーマンスはCostelloの理想とするところであり、Duran Duranとコラボするよりはずっと、意に適った人選だったんじゃないかと思われる。
PVも当時の80年代MTVフォーマットに則った、軽い寸劇を導入部として、小振りのディナー・ショーでDaryl Hall乱入、いつの間にかデュエットしてる、という、ベタだけど最強パターンの構成になっている。
とにかく「売れる」要素をとことんぶち込んだ結果が、また中途半端なチャート・アクションなのだけれど、まぁこの方向性ではこれが限界だったのだろう。俺はPVも曲もポップで好きだけど。
2. Home Truth
ほぼAttractionsのメンバーで固めてレコーディングされた、地味だけど味のあるポップ・ソング。時々ライブでもプレイしているので、そこそこお気に入りの曲なのだろう。
何ていうか、プロ仕様、ソング・ライティングのお手本的な整合性を感じさせる。
何ていうか、プロ仕様、ソング・ライティングのお手本的な整合性を感じさせる。
3. Room With No Number
穴埋め的なノリの良いポップ・ナンバー。ちょっぴりラテンを混ぜたリズムとSteveのキーボードが曲を引っ張るのだけれど、まぁただそれだけ。最後をドラム・ソロで締めるのが、意味不明。
4. Inch By Inch
ジャジーなテイストの、何となく夜を感じさせるナンバー。2.同様、こちらも地味だけれど、たまに聴きたくなってしまう俺。ちなみにどこかで聴いたことあるなと思ってたら、翌年にリリースされた甲斐バンドのアルバム収録曲で、ほぼそのまんまでコピーされていた。
オマージュと受け取りたいと思うのは、俺が甲斐バンドのファンだから。
オマージュと受け取りたいと思うのは、俺が甲斐バンドのファンだから。
5. Worthless Thing
ポップなアレンジのため、一聴してごく普通のポップ・ソングっぽいが、メロディ・ラインやコード進行は初期そのまんま。『Imperial Bedroom』を通過することによって、Beatlesテイストのアレンジ・構成が可能になり、サウンドに幅が広がった。
6. Love Field
久しぶりに聴いてみると、これも美メロでしかもCostelloのヴォーカルも表現力が増して来ているのに気付いた。いやこれ、名曲ばっかりじゃん。これまでは地味で気づかなかったけど、ソングライティングのスキルとしては確実の同時代のアーティストを軽く超えている。
7. I Wanna Be Loved
ここからB面。シカゴのR&Bコーラス・グループ、Teacher’s EditionのシングルB面という、よくこんなの見つけてきたなと言いたくなるくらい、どマイナーな甘茶ソウル系のバラードのカバー。ちなみにCostelloがどうやってこの曲を知ったのかというと、来日した際たまたま入手したコンピレーション・アルバムに入っていたから、とのこと。日本のレコード会社恐るべし。
で、この曲も当時イギリスでは一世を風靡していたScritti Polittiのヴォーカル、Green Gartsideを迎えてのデュエット曲。とはいってもDaryl Hallほど前に出ているわけではなく、むしろちょっと大きめのバック・ヴォーカル的な扱い。そのせいか、この曲もかなりDX7臭が強く、ポップ・エレクトロ風味になっている。
もちろん俺もオリジナルはついさっき初めて聴いたばかりだけど、この曲はやはりCostelloヴァージョンの方が馴染みはあるし、メロディの甘さを上手く活かしたアレンジになっていると思う。
ちなみにPVはGodley & Cremeが担当。ほぼ同時期に制作された”Cry”同様、ワンカット・固定アングルで4分強を持たせている。
8. The Comedians
ちなみにWarner在籍時までのCostelloのアルバムは、一時期かなり気合の入った発掘作業が行なわれ、本人監修による2枚組デラックス・エディションがリリースされている。
収録曲のオリジナル・デモやライブ・ヴァージョン、他アーティストとのコラボ曲などが大体の内訳なのだけれど、このアルバムのデモ・ヴァージョンの中で、最も本リリースよりも出来栄えが良いと思われるのが、これ。
もちろんデモなので、演奏などは拙いものだけれど、ヴォーカルが本編よりも気合が入りまくっている。こんな力強い曲だとは思わなかった、というのが正直なところ。
9. Joe Porterhouse
ちょっとポップなカントリーといった以外、あまり印象に残らない曲。まぁこういった曲も必要かな?といった程度。ライブでもあまりやったことがないので、もしかして本人も忘れてるかもしれない。
10. Sour Milk-Cow Blues
冒頭のシンセ和音に、ちょっと笑ってしまう。80年代的プロデュースではこれが正解だったのだろうが、今聴くとかなり古臭い。レトロとも言えず、ただただダサく聴こえてしまうのが、この時代の特徴である。
ブルースをモダンに聴かせるため、ドラムも音をいじっており、これもプロデューサーの思惑だったと思われるがしかし、最終的に首を縦に振ったのはCostello自身である。やはりポップ・スター的な要素として、これが必要だと思ったのだろう。
9.同様、こちらもポップなカントリー・タッチ。思えば、この後『King of America』をリリースするわけなので、これはこれで自然の流れなのだろう。普通に次作に入っていてもおかしくない曲。
この曲のみClive Langerとの共作になっているけど、”Shipbuilding”のマジックは再び起こることはなかった。
12. The Deportees Club
こちらはモダン・サウンドの意匠を凝らしたロカビリー・タッチのアップ・テンポ・ナンバー。総じてミドル・テンポのゆる~い曲が多かったため、ここでライブ・バンドとしてのAttractionsの面目躍如といった感じである。
13. Peace In Our Time
前作”Pills & Soap”以来となる、The Imposter名義でのナンバー。UKのみでシングル・カット、最高48位という成績は、やはり別名義だったため。何かを強く訴えたいとき、Costelloはこの名義を良く使っている。 最近ではずっとバック・バンドにこの名義を与えているため、あまりレア度は少なくなってしまったが、Costelloに限らず、当時のイギリスのアーティストらは不安定な政治・社会状況に常に不満を持ち、プロテスト・ソングという形でぶつけていたのだ。
平和を熱望する歌詞のため、サウンドもそんなに尖ってはいない。シンプルに穏やかに、それでいて力強いCostelloが、そこにいる。
結果的にAttractionsとの本格的な活動は、一旦ここで終了。ポップ・スターの夢潰えたCostelloはヒット・チャート狙いの音楽に見切りをつけ、時々ぶり返すルーツ回帰症候群が再発する。
で、単身アメリカへ渡って『King of America』を制作、半分をConfederatesらアメリカ勢、もう半分をAttractionsで制作する予定だったのが、思いのほかアメリカ勢との相性が良くて、結局Attractionsでの収録は1曲のみ、これがさらにバンド内の空気を悪くさせる。
Costelloにとってはもうすっかり忘れてしまったアルバムなのかもしれないが、80年代を過ごしてきた者にとっては、それなりに思い入れは深いアルバムである。近年ベテラン・ミュージシャンが行なっているアルバム全曲再現ライブ、ちょっとひねくれた英国人であるCostelloなら、あえて大方の予想を外してこの辺をセレクトしてくれそうだけど。
ベスト・オブ・エルヴィス・コステロ~ファースト 10イヤーズ
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