folder 日本ではまだあまり紹介されていない、ていうかこのアルバム、日本未発売。フランス産のバンドのご紹介。
 
 あくまで俺の私見だけど、「フランスの音楽」といって思い浮かんだのが、シャンソンかMichel Polnareff(古すぎるか?)、それかSerge Gainsbourg。でもちょっと調べてみたところ、現在のフランスは、政府主導による移民政策の強力な後押しによって、全人口の10%以上がイスラム系という、アメリカも顔負けの多民族国家になっており、前記のような古典的な音楽はむしろ少数派となっている。
 ジャズ畑のミュージシャンがJames Brownに憧れたのか、ファンク系ミュージシャンがジャズを演奏したくなったのか、それともヒップ・ホップ系DJがトラックを繋ぐだけでは飽き足らなくなったのか―。
 いろいろ経路はあるだろうが、ここ十年くらいの間に自然発生的に、しかも世界中でほぼ同時多発的に静かに盛り上がったのが、この現代ジャズ・ファンク・ムーヴメントである。
 特別、ビッグ・ヒットを放ったアーティストがいるわけではない。ただ演奏したい、聴いてもらいたい、という純粋な発想が先だって、現在でも静かに長く続いている現象である。
 
 非英語圏という言語的な問題のため、ただでさえ日本人にとっては敷居の高いフランスの音楽だけど、このバンドも含め、現代ジャズ・ファンク・バンドの多くは英語で歌っているので、比較的とっつき易い部類に入る。全世界的な流れとして、英語で歌っていればグローバルな活動ができるので、特に情報がボーダーレス化した近年では、アメリカ・イギリスなどの英語圏にこだわらず、スペインやドイツ、フランスなど、非英語圏でのリリースが多いのも、このジャンルの特色である。

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 前述したようにitunesやamazon、youtubeなどの手段によって、低コストで情報発信が瞬時に行なえるようになってきたため、口コミでの情報伝達は早いけど、メジャー・レーベルがあまり参入しづらい、すき間産業的なジャンルのため、大きなブレイクが見込めないことも、このジャンルの広がりづらさの一因でもある。
 
 日本での紹介も少ないため、情報があまりないのだけれど、2001年Gaël Cadoux(key)とThomas Faure(sax)が中心となってバンド結成、James Copley(vo) Jérémie Coke(per) Arnaud Renaville(dr)が加わり、2005年『Stardawn』、2007年『Hopeful』、2010年『Play』と3枚のアルバムをリリースしている。で、今回紹介するのが、それまでの総集編とも言うべきライブ・アルバムである。
 ちなみにバンドの正式名称はElectro Deluxe、主要メンバーは5人だけど、ゲスト・ヴォーカルやミュージシャンの参加が多いため流動的で、しかも今回のようなライブ編成、ブラス中心のビッグ・バンド総勢13名が加わると、かなりの大所帯バンドに進化する。
 調べてみて分かった情報は、ほんとこれだけ。俺自身、フランス語はネイティヴではないので、あとは勉強するしかないけど、どちらにしろ情報開示の少ないバンドではある。

 何となくのイメージなので、誤解だったらすぐ謝るけど、フランス人というのはプライドが高く、ライフスタイルや主義主張などもすごく洗練されているのだけれど、なんというかこう、英語圏と比べて閉鎖的というのか、「わかんないんだったらそっちで調べろよ、なんでこっちがわざわざ教えてやんなきゃいけないの?」的な、ぶっきら棒で不親切なイメージがある。
 HPを見ても、バイオグラフィーは制作中、簡単なディスコグラフィーとツアー・データが載せられてるだけ。もうちょっと何とかなんないの?と言いたくなる。

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 そのツアー・データを見ても、ほとんどがフランス国内のライブに限られており、せっかく認知度も上がってきているはずなのに、非常にドメスティックな活動振りである。よほど愛国心が強いのか、それとも海外渡航がヤバいメンバーがいるのか、せっかく英語で歌っているのだから、もっと幅広い活動を行なえばよさそうなのに、である。
 現実的なところで言えば、ビッグ・バンドを抱えた大所帯ゆえ、いろいろな経費が掛かるのだろう。Prince『Lovesexy』のレビューでも述べたように、バンドというのは、それはもう、存在するだけで膨大な経費がかかるのだ。
 
 基本はジャズ・バンドから始まったのだろうけど、そこにファンク要素と若干のエレクトロ風味(デビュー当時はエレクトロ色が強かったため、一聴するとただのアシッド・ジャズに聴こえる曲もあったけど、ここ最近の2枚では生音主体のため、有名無実化している)を絶妙なバランスでミックスしている。移民が多いお国柄ゆえ、ラッパーとの共演も多いので、ジャジー・ラップ好きの人にも充分アピールしやすいんじゃないかと思う。
 シンセや日雇いのミュージシャンではなく、自前のブラス・セクションを抱えているため、ジャズ要素も強く、これが一番言いたいのだけれど、物量的に他のバンドよりも音が厚い。
 
 でも売れないんだろうな、日本やアメリカだったら。
 日本ではP-VINEがすごく頑張ってくれてるんだろうけど、結局はごく小さなムーヴメントなので、いくらプロモートしたとしてもたかが知れており、横には大きく広がらない。

 コンスタントにライブを重ねているバンドなので、盛り上げ方が上手く、サマソニやFUJI ROCKなんかに出たら、それこそ日本でも人気が出るのだろうけど、何しろ大人数のため、呼ぶにしてもかなりの出費を覚悟しなければならず、主催者側が二の足を踏んでしまうのも、なんとなくわかる。
 世界中のコアなファンの間では、twitterで情報やレビューが飛び交っているのだけれど、日本では相変わらず発売すらされない有様である(しつこいかな)。


Live in Paris
Live in Paris
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Electro Deluxe
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1. Let's Go to Work
 オープニングは、当時のレイテスト・アルバム、3枚目『Play』からの曲。
 オリジナル・ヴァージョンは、演奏自体はほぼ同じアレンジながら、ラッパーGaël Fayeとの共演。ライブではJamesがほぼメインで歌いまくっている。
 ビデオを見てもらえばわかるけど、とにかく楽しそう。演ってる方も見てる方も楽しい、そんなライブ。

 

2. Black and Bitter
 こちらも『Play』より。往年のビッグ・バンド・スタイルとFunkの融合。ブリッジのハーモニカがまたドライ。
 普通ハーモニカの音色といえば哀愁を漂わせることがセオリーみたいになっているが、Jamesのハープは普通にビッグ・バンド・ジャズと果敢に渡り合っている。
 
3. California
 出だしがStevie Wonder“Too High”っぽい導入部で始まる、バンド主体の曲。
 現代ジャズ・ファンクの特徴として、インストとゲスト・ヴォーカル入り楽曲で構成されており、メジャーに近くなるほどヴォーカルの比率が高くなるのだけれど、彼らもまた例外でなく、Jamesの出番が多くなってきているが、それに比例するかのようにビッグ・バンドの出番も多くなり、エレクトロ要素は次第に少なくなってきているので、結果的にはOK。

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4. Play
 
5. Between the Lines
 彼らの中では比較的メジャーな部類に入る曲。俺もこの曲から彼らに興味を持ち始めた。
 今までジャジー・ラップというジャンルに興味がありながら、どれもいまいちピンと来なかったのだけど、この曲は目から鱗だった。ラップとの親和性を重視した、寄り添うバック・トラックではなく、ライムに負けないブラス・セクションの圧倒的なパワー、一見慇懃無礼で胡散臭いフランス人そのままのJamesとの掛け合いが、この曲を際立たせている。

 

6. Please Don't Give Up
 前曲に引き続き、こちらもライブでは定番のキラー・チューン。ビデオでは、ガタイの良い黒人ラッパーBen L Oncle Soulと、蝶ネクタイの胡散臭い中年男Jamesとの掛け合いが面白い。
 CD版では、ここまでが1枚目。

 

7. Back to the Riddle
 2枚目トップは少しシックな、ジャズ・テイストの強いサウンド。それでも相変わらずJamesのヴォーカルはねちっこい。1分半ほど過ぎてからのブラス・セクションがカッコイイ。
 
8. Point G
 
9. Old stuff
 
10. Where Is the Love
 再びキラー・チューン。オリジナル同様、6.でデュエットしたBen L Oncle Soul 再登板。ライブなので互いにエキサイトした、ねちっこい歌い方だけど、オリジナルはもう少しマイルドになっている。
 昔風の言い方なら、全体的にバタ臭いテイストのバンドなので、例えばこの曲なんかも、外資系企業のCM、例えばappleなんかが使ってくれたら、イメージ的にもマッチするんじゃないかと思うんだけど。まぁapple じゃムリか。

 

11. Talking About Good Love
 
12. …Talking After Good Love
  ややエレクトロ風味の鍵盤からの導入部、ホーン・セクションがけたたましく響き、相変わらず胡散臭いJamesのヴォーカル。ビジュアル面から見て、さすがフランスだけあって、主要メンバーの誰もが、ラフでありながらケレン味があるというのか、どいつもこいつもおしゃれ番長である。それでありながら、ひとりごっついMorrisseyのように異彩を放つ、Jamesの存在感。
 ここまで書いてみて、方向性はまるで違うのだけれど、バンドの安定した演奏力、アクの強いヴォーカルというのが、日本で言えばウルフルズに結構近いんじゃないか、とふと思ってしまった初秋の夜長。
 
13. Peel Me




 最近では胡散臭さに輪をかけたように、売れない映画俳優みたいな風貌になってきたJamesを筆頭とするElectro Deluxe、あくまで自分たちの活動ペースを崩したくないのか、当面フランスから出る気配はなさそうである。
 札幌に来るなんてことは夢物語になりそうなので、取りあえずは解散せず、時々作品を作ってくれれば、それでよい。幸い、HPをチェックしていれば、不定期にビデオ・クリップをUpしてくれるので、それがビデオ・レター代わりになってくれている。
 
 つい先日も、新しい便りが届いた。今回はスタジオ・セッション風、もう少しラフな、素のElectro Deluxe達だ。



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プレイ
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