エルヴィス・コステロ

好きなアルバムを自分勝手にダラダラ語る、そういったゆるいコンセプトのブログです。

コステロさん、立つ鳥跡を濁さず。 - Elvis Costello 『All This Useless Beauty』

folder 1996年リリース、17枚目のオリジナル・アルバム。ワーナーに移籍してから企画モノが多かったCostello としては、『Brutal Youth』以来、2年ぶりの新曲アルバムとなる。「他アーティスト提供曲のセルフ・カバー」&「他アーティストへ提供することを想定して書かれた楽曲」で構成されているので、厳密な意味で言えば「全曲書き下ろし」ではないのだけれど、ほとんどの曲が初出ということなので、まぁざっくり言っちゃえばオリジナルみたいなものである。あぁめんどくせぇ。
 チャート・データを見ると、UK28位・US53位という、まぁまぁのアベレージ。ワーナーでは最後のオリジナルとなってしまったため、正直、それほど力を入れてプロモーションされたわけではない。
 この後、ベスト・アルバム『Extreme Honey』をリリースして、ワーナーとは契約終了、すでにマーキュリーとのワールドワイド契約が決まっていたため、いわば敗戦処理的ポジションのアルバムである。セールス推移やプロモーション体制において、不満は山ほどあったのだろうけど、マーキュリーの件も決まっていたこともあって、多分売れようが売れまいが、どっちだってよかったのだろう。
 そもそもこの人、レコード会社に対してボヤくのは、今に始まったことではない。「まぁた始まったよ」と、多くのファンは思っていたはずである。

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 ワーナー時代のCostello は、4枚のオリジナル・アルバム以外にも、やたら多方面へ足を突っ込み首を突っ込み、フットワークの軽い活動を展開している。その行動範囲はやたら広範に渡り、良く言えば精力的、悪く言っちゃえば、脈絡なく支離滅裂である。
 ワーナーとのワールドワイド契約を機に、Costelloは活動の拠点をアメリカへ移すことを決意する。世界レベルで本格的にブレイクするのなら、やはりエンタメの中枢に身を置いておいた方が、何かと都合が良かったためである。
 F-Beat / コロンビア時代とは段違いの予算とプロモーション体制をバックに従え、これまでのUK発パワー・ポップから、大幅にアメリカン・コンテンポラリーに寄せた2作『Spike』 『Mighty Like a Rose』をヒットさせた。Paul McCartney やRoger McGuinnら豪華ゲストを迎えてはいるけど、単にネーム・バリューに頼るだけでなく、Mitchell Floom やT-Bone Burnett ら堅実なコンポーザーも揃えたことで、従来ファンにも訴求できるサウンドを作り上げた。

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 コンテンポラリーAOR路線は、アメリカはもちろん、世界中でも好セールスを記録した。以前、ポップ・スター路線に色目を使ったはいいけど、思ったほどの結果を残せなかった『Punch the Clock』『Goodbye Cruel World』で味わった雪辱を、ここで克服したのだった。
 達成したとなると、もう満足しちゃったのか、その後はCostello 、ワーナーによるコントロールから逃れるように、音楽性があっちこっちフラつくようになる。あ、それは昔からか。
 次にリリースしたのが弦楽四重奏Brodsky Quartet とのコラボ・アルバム『Juliet Letters』。シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」にインスパイアされ、「ジュリエットに宛てた手紙」というテーマで作詞された作品、というコンセプトで作られており、そりゃ芸術性やアーティストとしての必然性は高いのだろうけど、まぁ売れるはずないよな。本人も売れるとは思ってなかったみたいだし。
 その後はロック/ソウル・クラシックスのカバー・アルバム『Kojak Variety』、何を急に思い立ったか、解散状態のAttractionsを招集、原点回帰のラウドなロック・アルバム『Brutal Youth』を作って、再びBruce Thomasと大ゲンカ。「ソリが合わない」って、そんなの昔っから、わかってたことじゃん。なんでわざわざ、蒸し返したりするの。

 どういった契約内容だったかは不明だけど、この時期のCostello 、ワーナーの外でもいろいろやらかしている。大抵はワンショットの単発契約だったと思われるけど、UKのプログレ・バンドGryphon のメンバーだったRichard Harveyと、BBCからの依頼でテレビのサントラを作ったり、UKのメルトダウン・フェスティバルにジャズ・ギタリストBill Frisell と出演、地味なライブ・アルバムをリリースしたりしている。
 どれも、メジャーでは取り扱いづらいプロジェクトである。マイナーなジャンルにも目移りしてしまうのは、これまた昔からのクセなのだけど、もうベテランなんだから、あちこち脇道それないで王道行けよ、と余計な心配さえしてしまうのが外野である。

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 もともとデビュー当時から、多様な方向性とヘソ曲がりが性分で、あっちへフラフラこっちへフラフラ、音楽性が定まらない人である。
 考えてみればCostello 、同じコンセプトのアルバムを2作続けると、次は思いっきり真逆の方向へ方向転換してしまう傾向がある。
 『My Aim is True』と『This Year’s Model』は、リリース時期が近かったのと、デビュー前のストックが多かったせいもあって、どちらも「パブ・ロックの延長線上に位置するパンク寄りのロックンロール」というスタイルだったけど、次の『Armed Forces』では、原石のカドが取れて、「ヒット要素も多いパワー・ポップ系」のサウンドに進化している。
 前述のポップ・スター希望アルバム『Punch the Clock』『Goodbye Cruel World』不発で打ちひしがれた後は、単身アメリカへ発ち、思いっきりレイドバックしたカントリー/ロックンロール・アルバム『King of America』をリリース、厭世観に囚われた改名騒動を引き起こす。
 で、再度メジャー展開を、とワーナーに移籍して『Spike』『Mighty Like a Rose』をリリース。ようやくアメリカでも浸透してきたかな、と思ったら気が抜けちゃったのか、全然違う路線の『Juliet Letters』、といった次第。
 ここらでもうひとつ、開き直って『Spike』2的なアルバムでも作っておけば、セールス的にも安定してたんじゃないかと思われるけど、それよりもアーティスティックな探究心の方が勝っちゃうのが、やはりCostelloである。まぁ、そこまでのスケベ心はない人だしね。そう考えると、Rod Stewartってすごいよな。

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 で、ワーナーの最後に出してきたのが、『All This Useless Beauty』。これまでの支離滅裂なカタログ・ラインナップからは予想できなかった、熟練した職人による泰然とした作風でまとめている。断続的にノー・コンセプトでレコーディングされた楽曲たちは、どれも違う個々の輝きを放ちながら、「Elvis Costello」という強力なプリズムによって一点に集約され、ひとつの完成された組曲を形作っている。
 時に彼の書く楽曲は、「何をやってもコステロ」という記名性の強さによって、一般ユーザーに浸透しづらい部分がある。どれだけメジャーになろうとも、商業性から大きくはみ出た個性は、スタンダードとなるにはアクが強すぎた。
 ここでのCostello は、自分以外のシンガーが歌うことを前提に楽曲を書き下ろしているため、自身の個性は若干抑え気味になっている。よって、本人は意識していないだろうけど、どうしても滲み出てしまうキャラクター・エゴを後退させ、純粋な楽曲の良さ・普遍性が引き立った。
 地味ではあるけれど、末永く聴き続けていられるアルバムである。あ、それって通常運転のCostelloか。


All This Useless Beauty
All This Useless Beauty
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Elvis Costello
Warner Bros UK (1996-05-08)
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1. The Other End of the Telescope
 'Til Tuesdayの女性ヴォーカルAimee Mannとの共作による1988年のナンバー。さわやかなカントリー・ポップのAimeeヴァージョン(Costelloもコーラス参加)の「粗野な女性がちょっと無理したポップ・アレンジ」感も良いのだけれど、ここでのCostelloは正しく王道ストレートの正攻法バラード。その後の正攻法スタンダード集『Painted From Memory』への布石とも取れる。Attractionsの演奏も抑制が効いており、アウトロのSteve Nieveのピアノ・ソロも完璧。シングル・カットはされているけど、UK最高96位。確かにシングル単体で目立つキャッチーさはない。いい曲だけどね。

2. Little Atoms
 Bruceのベース・サンプリングがループでずっと鳴っている、続けて落ち着いたバラード。ここでもCostello、とてもヴォーカル・プレイに気を遣っている。かつて、既存のスタンダードを壊す側だったCostelloが、ここではそのスタンダードのポジションに収まっているのだけれど、ひいき目じゃなくても、凡百の懐メロや二番煎じバラードとは一線を画している。目新しいサウンドも積極的に導入しながらも、先人へのリスペクトも忘れぬ姿勢。過去の良質な音楽遺産をベースに新たな視点を見出すという、考えてみれば極めて真っ当な手法である。

3. All This Useless Beauty
 1992年に発表された、イギリスのフォーク・シンガーJune Taborに提供されたバラード。他人へ提供したきりではもったいないと思ったのか、構成もメロディもすべての調和が取れている。アレンジも双方、大きな違いはない。Attractionsも堅実なバッキングに徹しており、とにかく歌を聴かせる演奏である。



4. Complicated Shadows
 ここまで冒頭3曲がバラードという、なかなか珍しい構成。ここまでシックなテイストでまとめられているのは、後にも先にもほとんどない。あ、『North』があったか。
 ネットリしたオープニングのロック・チューン。抑えた演奏だったバンドも、ここでは一気にフラストレーションを爆発させるかのように、ギアを上げている。Costelloもギターをかき鳴らしており、従来使用のAttractionsのプレイが堪能できる。
 手数の多いBruce Thomasの存在感は議論の分かれるところだけど、こういったアップテンポのナンバーでは相性は決して悪くないと思う。初期のサウンドが好きな俺的にはアリなのだけど、ロック一辺倒の人ではないので、スロー・テンポになるとちょっとウザくなっちゃうのかな。

5. Why Can't a Man Stand Alone? 
 「Deep Dark Truthful Mirror」を思わせる、Al Greenからインスパイアされたようなディープ・サウス・テイストのソウル・バラード。と思ってたら、Sam & Daveからインスパイアされた曲、とのこと。そうだよな、もっと泥臭いもの。

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6. Distorted Angel
 ドラム・ループと不安感漂うコード進行が印象的な、彼にとって珍しいタイプの楽曲。こういった凝った構成に敢えて挑んでいることから、常に前へ進む姿勢、目新しモノ好きなスタイルが窺える。シングルではトリップホップで一世を風靡したTrickyにミックスを委ねており、俺的にはすごく食いつくサウンドではないのだけど、「あ、こういったことをしたかったんだ」と腑に落ちた覚えがある。

7. Shallow Grave
 Paul McCartneyとの共作。彼とのコラボは「Veronica」「So Like Candy」など多岐なジャンルに渡っており、これは50年代のロックンロール/ロカビリーをモチーフとしている。ある意味、すでに完成されたジャンルなので、それほど新味を付け加えることはできないのだけど、イントロやサビ前のドラム・ロールなど、Paul単独では無難な仕上がりになってしまうところを、Costelloのヘソ曲りテイストでスパイスを利かせている。

8. Poor Fractured Atlas
 正攻法で書かれた、すごく地味なバラード。コードも特別凝った組み合わせは使われていない。でも、今回聴き直してみて、メロディ、ヴォーカルとも最も惹きつけられたのが、この曲だった。小細工も何もない、ほぼピアノだけがバックの、混じり気なしの「ただの歌」。普遍的な楽曲というのは、こういったものを指すのだろう。

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9. Starting to Come to Me
 ブルーグラスとロカビリーをくっつけたような軽快なナンバー。『Almost Blue』『King of America』でも同様のアプローチはあったけれど、ここでは前2作に漂っていた閉塞感はなく、一皮むけて突き抜けた爽快感に満ち溢れている。肩の力を抜いてサラッとプレイしているのは、アーティストとしての成長なのだろう。

10. You Bowed Down
 1991年、元ByrdsのRoger McGuinn提供曲のセルフ・カバー。初出時もCostelloとのデュエットでリリースされており、試しに聴いてみるとアレンジもほぼそのまんまだった。McGuinnといえば独特の12弦ギターということになっているけど、60年代サウンドはあんまり詳しくない俺にとっては、やはりこれはCostelloがオリジナル。
 中盤のフェイザーを通したヴォーカルや逆回転ギターが、当時のサイケ・ポップなムードを醸し出してるような気がするけど、ごめん、Byrdsにはあんまり興味ないので知ったかぶりはできない。
 シックなアルバムの中、こういったポップ・テイストの曲は必要だよね。

11. It's Time
 このアルバムのクライマックス。ていうかワーナー時代の締めくくりとして、最高のバラード。ウェットかつ激情あふれるヴォーカルとバンド・プレイをクールダウンさせるため、敢えてシーケンス・ドラムを入れるアイディアは秀逸。Costelloが考えたのか?いやそこまで器用な人じゃないよな。やっぱりNieveだよな。デラックス・エディションのデモ・ヴァージョンだと、何だか勢いだけの中途半端な曲だし。
 もはや円熟の域に達していたAttractionsであるからして、単なるイケイケだけのプレイだと空回り振りが目立ってしまう。逆に抑制したアレンジを施すこと、そして緩急をつけたヴォーカライズによって、楽曲の良さを最大限に引き出している。



12. I Want to Vanish
 3.同様、June Taborに提供されたナンバーのセルフ・カバー。ラストはCostelloとNieve、そしてBrodsky Quartetとのコラボ。最初は『Juliet Letters』のアウトテイクかと思ってたけど、どうやら新録であるらしい。
 堂々としたクラシック・テイストの正統派バラードは、後を引かぬ3分程度の小品にまとめられている。変にドラマティックに壮大な楽曲を持ってこないところは、やはりCostelloである。その辺は照れなのだろうか。




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エルヴィス・コステロ
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Attractionsとの最期 - Elvis Costello 『Brutal Youth』

folder 1994年リリース、12枚目のオリジナル・アルバム。イギリスの弦楽四重奏集団Brodsky Quartetとのコラボレートとなった前作『Juliet Letters』が、セールス的には残念な成績で終わってしまったので、UK2位US34位は通常ペースに戻したと考えてよい。
 ほぼポップ性とは無縁な弦楽四重奏とタッグを組んだコンセプト・アルバムなんて、この時代でもすっかりオールド・ウェイブ扱いだったというのに、思いつきとノリでやってしまうのが、良く言えばフットワークの軽いところ。そんな退屈なアダルト路線から一転、泣く子も黙る現役ロッカーとしてステージに復帰したのだから、90年代Costelloでは人気の高い作品である。

 今も現役アーティストとして、大御所にしては珍しく、ほぼ1、2年間隔と短いスパンで新作をリリースするCostello。他アーティストとのコラボやトリビュート盤参加なども含め、リリース・アイテムがめちゃくちゃ多い人なので、決定的なアーティスト・イメージというのを絞り切れないことが、日本でいまいちブレイクできない要因でもある。
 日本の多くのライト・ユーザーが持つイメージに限定すると、「とくダネ」のオープニングの人か”She”の人、といったところなんじゃないかと思う。この2曲に特化すると、”Veronica”のオールディーズ調パワー・ポップと、”She”のようなベッタベタに情緒溢れまくりラブ・バラードの両面を併せ持ったアーティストという、どうにも両極端な印象になってしまう。全然違うよな、確かに。
 じゃあ他はどんな曲をやってるのか、ともう少し深く掘り込んでいくと、これまた印象が変わってくる。ちょっとロック好きな音楽ファンなら、「70年代パンクを起点としたベテラン・ロッカー」という視点になってくる。ミスチルの”シーソーゲーム”のPVの元ネタの人、と言ったらわかりやすい。
 以前紹介した『My Aim is True』も『This Year’s Model』もUKニュー・ウェイブの名盤として広く知られており、ディスク・ガイドでも紹介率が高い。ちなみにアメリカの雑誌『Rolling Stone』が発表した「500 Greatest Album」では、『This Year’s Model』が98位、『My Aim is True』が 168位にランクインしている。他のアルバムでは『Imperial Bedroom 』が166位、『Armed Forces』 が475位。こうして見ると、世界的にも初期の作品の需要が高いことがよくわかる。『King of America』も『Spike』も入ってないのかよ欧米人ってセンス古いよな、と思ってしまうけど、最大公約数で考えるとこんな風になってしまうのかな。
 
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 で、代表的な初期のアルバムをひと巡りした後、もうちょっといろいろ聴いてみようとなると、その音楽性はさらに混迷を増してくる。以前にも書いたけど、ひとつの音楽性をとことん突き詰めるタイプのアーティストではない。むしろ手当たり次第、その時自分に最も興味があるジャンルを、合う・合わないを考えず、ひとまずやってみる、といった人である。ロジックで動かないのは、一流のアーティストたる所以である。
 正直、純粋なロック・サウンドでアルバム1枚丸ごと作られているモノは少なく、カントリーもあればポップ・ソウルもあり、あからさまにヒット狙いの80年代シンセ・サウンド、前述した『Juliet Letters』などなど。このアルバム・リリース後も、Burt Bacharachと王道カクテル・ポップスをやったり、London Symphony Orchestraと組んで本格的なバレエ音楽に挑戦したりしている。ついこの前はヒップホップ・ユニットThe Rootsとコラボしたりなど、まぁ節操がない。 
 キャリアを重ねてきたミュージシャンがマンネリ防止のため、別ジャンルのテイストを取り入れるのはよくあることだけど、この人の場合はその振れ幅がハンパない。ワーナー移籍後あたりからはギャラの高騰もあって、Paul McCartneyやAllen Toussaintなどのビッグ・ネームと組むことが多くなったけど、昔はもっと気軽に、同世代のSpecialsのアルバム・プロデュースを引き受けたり、新人バンドだったPoguesの面倒を見たりなど、フットワークが軽かった。結果は様々だけど、それだけオファーのやり取りが続いているのだから、やはり同業者にとってCostelloと組むメリットは大きいのだろう。
 様々なジャンルを手当たり次第、縦横無尽に行き来するその姿は、一見根無し草のように思われることが多いけど、ミュージシャンである前に無類の音楽マニアだったCostello、これまで世に出してきた作品はすべて、過去に影響を受けた楽曲への熱いオマージュの賜物である。一見畑違いのような作品も見受けられるけど、彼の中では常に一貫している。興味のない音楽に手をつけた事はない。ないはずだ。そう信じたい。

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 で、こうした大きく揺れる振り子の中心にあったのが、デビュー以来、長らく行動を共にした盟友Attractionsの面々である。運動エネルギーのバランスが崩れると、振り子は乱舞した末、その動きを止めてしまう。Attractionsという確固たる中心があったからこそ、Costelloの音楽的冒険は成立していたんじゃないかと思う。もし彼らの存在がなかったのなら、Costello同様、あらゆるジャンルに手をつけまくって迷走したあげく、一時期業界からフェードアウトしてしまったJoe Jacksonみたいになってしまったのかもしれない。復帰後のJoe、マイペースで俺は好きだけどね。
 そういった絶妙のパワー・バランスに変化が生じたのが『King of America』で、ここでのConfederatesとの共演がCostelloの心境に変化を及ぼすことになるのだけれど、実際はそれ以前から食い違いが生じていたのは事実である。
 後期Beatlesのエンジニアも務めていたGeoff Emerickプロデュースによって制作された『Imperial Bedroom』。前述の「500 Greatest Album」でもランクインしてるように、初期のガレージ・パンクのスピリットを残しつつ、スタジオ・テクニックを駆使した洗練されたサウンドを展開した名作である。『Abbey Road』B面的なメドレー形式を導入することによって、これまでのどのアルバムよりもトータル・コンセプトがしっかりして完成度が高まった。なので、Attractionsとしてのバンド・サウンドは一旦、ここで完成を見ている。4ピース・バンドとしてのサウンドは円熟の極みに達したので、次に彼らが向かったのが実利面、トップ40に常に顔を出すヒットメーカーとしてのミッションである。クオリティ面での充実を図った末、幅広い外部評価を求めるのは自然の理ではある。あるのだけれど。
 『Punch the Clock』『Goodbye Cruel World』という、これまでのバンドのポテンシャルを維持しつつ、思いっきり世間に迎合したアルバムをリリースしたのだけれど、これまでのセールスと大して変わり映えしない成績に終わってしまい、なんとも微妙な心持ちになったCostello。「ヒットの方程式通り作ってみたのに大して変わらないんじゃ、作るんじゃなかった」と意気消沈して向かったのが、彼のバックボーンのひとつである、古き良きアメリカン・カントリーの世界だった。『King of America』自体、もともとAttractionsとConfederates半々でレコーディングするつもりだったのが、案外アメリカ・セッションがノってしまい、結局Attractionsの出番は1曲のみ。新たな可能性を見出したのが契機となった。
 次の『Blood & Chocolate』で仕切り直し、再度Attractionsとのセッションを行なうけど、そりゃあもう険悪なムード満載、演奏にも露骨に出ちゃってる。仲介役として取り成すはずだったNick Loweは相変わらず卓の前で酔っ払ってるし。

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 そんなケンカ別れ的なセッションから数年経って、久し振りに顔を合わせて制作されたのが、この『Brutal Youth』。一旦距離を置いてクールダウンしたおかげもあって、前回ほどの険悪なムードは薄い。ベテラン・バンドとしての円熟味あるバッキングと、全盛期さながらにロック・スタイルのヴォーカルをがなり立てるCostelloとのアンサンブルは、やはり親和性が高い。初期のガムシャラさも前回のヤケクソ感も一緒くたになって、きちんとバンドが一体となったサウンドが生み出されている。
 テクニックの上手い下手ではなく、誰か一人が特別目立っているわけでもない。これまでいろいろあったけど、久し振りに顔を合わせてせーので音を出してみたら、ブランクを感じさせない昔のサウンドができちゃいました、といった感じ。「変わんねぇよなぁお前」「お前もな」とか言いながら。でも、確実にレベルは上がっている。


Brutal Youth
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1. Pony St.
 初っ端からなんだけど、Attractionsではなく、ベースがNick Lowe。難しいフレーズは俺苦手だから、あとはBruce呼べばいいじゃん、という経緯があったのだけど、いやいや充分カッコいいでしょ。ただ単にめんどくさかったんだろうな、全曲やるの。
 オープニングからテンションMAXのストレートなロック・ナンバー。



2. Kinder Murder
 ちょっと時期がずれて、92年のPeteと2人だけのセッション。ベースもCostelloが別録り。さすがに2人だけなので、テンポはミディアムだけど疾走感は充分表現されている。ギターのオブリなんか楽しそうに弾いてるんだろうな、という様子が窺える。あまり評価されてないけど、歌モノのバッキングでのCostelloのギター・プレイはイイ感じでツボを押さえている。引き出しは少ないんだけど、その辺がPrinceと通ずるものがある。

3. 13 Steps Lead Down
 その歌モノと初期パッションとのミクスチュアの結晶がこれ。ここでBruce登場となり、Attractionsが成立する。
 バンドというのは生き物だとよく例えられるけど、そのわかりやすいケース。みんなギアが一段上がったようなプレイが展開されている。それでいて互いの音をきちんと聴いていて、アンサンブルがしっかりしている。
 何度もテイクを重ねたのではない、ちょっとした音合わせだけで完成させてしまう、円熟に達したバンドのポテンシャルが克明に記録されている。
 UK最高59位だけど、まぁそんなもんだよな。



4. This Is Hell
 Attractions、今度はシットリしたバラード。ループ音っぽいドラムの音は、当時Tchad Blakeとのタッグで一風変わった音像を創り出していたMitchell Froomのエンジニアリングによるもの。
 甘いメロディとヴォーカライズで「こりゃ地獄」とささやくCostello、こういった皮肉の効かせ方はやはり英国人なんだなということを再認識させてくれる。

5. Clown Strike
 珍しく4ビートでジャジーな演奏とシカゴ・ブルースっぽいソウルっぽい・テイストの入った、Attractionsではあまりなかったタイプのナンバー。と思ったらNick Loweが入ってた。

6. You Tripped At Every Step
 なんだかすごく安心して聴けてしまうミディアム・スロー。Attractionsによるシンプルな演奏、取り立てて目立つフレーズもない。Costelloも一音一音大切に、しっとり優しいヴォーカライズ。でも、バンドのアンサンブルの妙によって、グイグイ引き込まれてしまう。
 一応、シングルとしてリリースされてはいるけど、ランクインはせず。俺的に、そして年季の入ったファンにとっては、このアルバムの中でも結構上位に位置するのだけれど、まぁ地味だよな、確かに。

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7. Still Too Soon To Know
 またNick Loweかよ。ほとんどソロと言ってもいいような2分程度の小品バラード。アルバム構成的には幕間として、こういった曲も必要だとは思う。もうちょっと長くして『North』あたりに入れてれば…、いやそれでも地味か。

8. 20% Amnesia
 その7.の後なので、こういったパンキッシュなナンバーが映えてくる。なんだこの勢い一発みたいなナンバー。しかもトリオ編成、20%記憶喪失?ギターの音も重い。ドラムはハネまくり、思いつきのような後入れベース。
 でも、ちゃんと楽曲として成立している。これだけメチャクチャな構成なのに、残るのは意味不明な爽快感。「細けぇこたぁいいんだよっ‼」とギター抱えて吠えまくる、汗だくのCostelloの佇まいよ。

9. Sulky Girl
 打ち込みも交えた静かなオープニングから、一体感を増したバンド・サウンドが徐々に展開されてゆく。昔ならもっとアッパー系のポップ・ロックになっていたところを、ここはアダルトなロックで抑え気味。よく聴くと、妙に変な転調があったり構造的にはいびつなのだけど、やはりここがバンドの実力発揮なのか、きちんとドラマティックな変遷を表現している。
 リード・シングルとしてUK22位。

10. London's Brilliant Parade
 こちらもファンの間では人気の高い、この時期にしてはメロウさを強く出したバラード。Costelloもここではヴォーカルに力を入れており、多彩な表現力を披露しているので、ソロと勘違いしそうだけど、やはりAttractionsの鉄壁のリズム・セクションがしっかり土台を支えている。Bruceの歌うようなベース・プレイはビターなテイストがあり、甘くなりがりなところに苦みを効かせている。



11. My Science Fiction Twin
 なので、ここでNick Loweにベース・チェンジしてしまうと、その単調さが目立ってしまう。ストレートなガレージ・ロックなので、あまり小技は必要なさそうなナンバーなのだけど、Pete Thomasが迫真のプレイを見せているだけに、どうにも惜しい。

12. Rocking Horse Road
 Mitchell Froomが切り開いたオルタナ・カントリーのテイストが詰まったバラード。生音を人工的な響きに加工するリズム・セクションは彼の発明ではないけど、それを土着的なアメリカ音楽に導入したのは、彼の功績。
 Costelloのギターも歪みまくって奥に引っ込んだ音像なので、もうちょっと前に出てきてほしいところ。でも、これならNick Loweでもいいな。

13. Just About Glad
 ここでは凡庸なアメリカン・ロック的なアレンジになっているのだけど、この曲に限っては後のライブ・ヴァージョン、バラード・アレンジの方が良い。ていうかCostello、これに限らず自作曲の新解釈として様々なアレンジを試すことが多く、今ではこれもバラードの方が定番となっている。
 ライブで完成形に近づけてゆくのはDylanが行なってる手法であり、シンガー・ソングライターにとって楽曲というのは熟成されてゆくもの。なので、その時点においての完成度というのは、あまり意味を成さない。

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14. All The Rage
 こういったカントリー・タッチになると、まぁNick Loweでいいか、という感じになってくる。彼への要望としては、もっとコーラスに積極的になって、Costelloとのユニゾンを聴かせてほしいところ。”Baby It’s You”聴きたくなっちゃったな。終盤のギャロップ・ギター・ソロがレア。

15. Favourite Hour
 ここまで直球のバラードで締めくくることはないのだけど、何か思うところがあったのだろうか。ほぼSteveのピアノのみ、シンプルなソロ・ヴォーカル。
 懐古的な歌詞は振り返るためじゃなく、前を向くためのものだったはず。はずだったけど、かつての粗暴な若者たちは分別を持ち、相容れぬ一人はバンドを去った。あの時にはもう戻れないのだ。




 ほんとはここでCostello 自身、そしてAttractionsもまた、ここが起点であることを再確認し、互いのソロ・ワークも優先しながら、何年かに一度再結集してアルバム制作に挑むはずだったんじゃないかと思われる。Neil YoungとCrazy Horseのように、長いスパンでの運命共同体的な。
 でも、そううまくはいかないもの。今もInposterとして行動を共にする、キーボードのSteve Nieve、ドラムのPete Thomasとの関係は修復されたものの、ベースのBruce Thomasとの関係は拗れたまま、元に戻ることはなかった。そんなこんなでAttractionsは空中分解、これ以降、彼ら名義での作品はリリースされなくなった。一人欠けてもAttractionsではなくなってしまう-。メンバーみな、そう思ったのだろう。
 なのでCostello 、これ以降、しばらくはロック・スタイルのアルバムをリリースしなくなってしまう。だって、演奏してくれる人がいないんだもん。
 ここではないどこか、帰る場所を求めて再び、Costelloの音楽的冒険が始まることになる。



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Costelloさん、アーバンでトレンディになる - Elvis Costello『Mighty Like a Rose』

51YKeXcJuWL 1991年リリース、Costelloワーナー移籍第2弾のアルバム。メジャーの販売力とCostelloのアーティスト・パワーとの相乗効果によって、US最高55位UK5位という成績は、彼にとってはまぁアベレージはクリアかな?といったところ。
 この頃のCostelloのバック・バンドはRude 5、『King of America』からの付き合いになるJerry ScheffやMarc Ribotらと組むことが多く、アメリカン・トラッドを強く意識したサウンドを志向しており、活動ベースもアメリカを中心としている。
 その辺の影響なのか、当時の写真では結構なモジャヒゲを蓄え、一見するとカントリー・シンガーみたいな風貌となっている。かつてのソリッドで切れ味鋭いパンキッシュなイメージはどこにもない。すっかりメジャー・アーティスト化した大物振りの風格が漂っている。

 ワーナー移籍によってグローバル展開が可能になったほか、この時期Costelloの転機となったのが、Paul McCartneyとのコラボレーションである。
 もともとは2人でコラボ・アルバムを制作する予定で、実際、結構な数の楽曲がレコーディングされたのだけど、大人の事情でもあったのか、それぞれのソロ・アルバムに振り分けられた。まぁPaulと何かやるというのは、本人たちの意思だけではどうにもならないこともあるのだろう。

 そのPaulの影響もあったのか、この時期からCostello、創作技法の変化が作品に表われている。
 これまではぎゅうぎゅう音を詰め込んだ譜割りで饒舌に、英国人特有の皮肉とペーソスを交えた言葉遊び満載の歌詞を量産していたのだけど、ポピュラー界有数のソングライターの創作アプローチを目の当たりにすることによって、心境の変化があったのだろう。小手先の辻褄合わせではなく、真摯に音楽のミューズと対峙しているPaulの姿勢は、これまでにも多くの人々の心をつかみ、そして癒やし、また発奮させてきた。
 その影響下にあったのはCostelloも例外でなく、間近で作業することによって、その影響はさらに顕著になり、彼のスタイルも変化することになる。既存のロックンロールやソウル、またはカントリーなど、これまで手持ちの技法を基本としたソングライティングから、Costello独自の創作スキルを確立した瞬間である。

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 そんなPaulもまた、まだ当時は跳ねっ返りの気性を残していたCostelloに大きく影響を受けている。
 John Lennonを失ってからのPaulは、やる事なす事ケチがつくことが多く、特にCostelloに出会う前の80年代後半になると、もう現役アーティストとしては終わったもの扱いされていた。
 日本で大麻所持により拘留され、ライブ中止になったヤケクソもあって、そろそろ何かと行き詰まっていたWingsを解散、バンド・サウンドの反動なのか、小品集的な地味なソロ・アルバムの目玉として、『Off the Wall』でアゲアゲ状態だったMichael Jacksonとのデュエットを入れてスマッシュ・ヒットしたはいいものの、そのレコーディングの最中に著作権の重要性をMichaelにレクチャーしたことが仇となり、そのMichaelかBeatles時代の楽曲権利を買収されてしまう始末。
 ちょっとルーティンを変えてみようと映画製作に乗り出すものの、かつてのBeatles映画同様の陳腐なプロットが80年代に通用するはずがなく、興行的には失敗。やっぱり音楽しかないんだと思い直し、Johnに匹敵するパートナーとの共同作業を計画するも、Paulと対等にガチでやり合える漢がそんな簡単に見つかるはずもなく、ようやくオファーを取りつけたのが、10ccのGraham Gouldman。それなりのキャリアの持ち主のため、まぁそれなりに滞りなく作業は進行したものの、彼の作風はPaulと似たようなサウンド・アプローチだったため、Johnの時ほどの化学反応は起こらなかった。なので、出来上がったのはこれまで同様、小さくまとまった小粒な小品集、単にこれまでの拡大再生産に終わってしまった。
 80年代の時点ですでにロック・レジェンド扱いされていたPaul、表立って意見できる者などいるわけがない。どうしたって周囲に集まるのはイエスマンばかりになってしまう。

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 そこで登場したのがCostelloである。生粋の英国人らしく辛辣なその物言いは、Paulの方向性に確実に影響を与えた。ちょっと過去の自分の模倣をすれば、すかさず類似点を指摘してくるわ、渾身のメロディが書けたと思って披露すると、「ダサい」の一言で片付けられるわ、これまで久しくダメ出しされた経験を味わってなかったPaulにとって、大きな転機に繋がったんじゃないかと思われる。

 作品自体もそうだけど、CostelloがPaulに対して行なった最大の功績は、ライブでBeatlesナンバーをもっとやってもいいんじゃね?と助言したことに尽きる。
 Wings時代は過去の自分との決別という意味合いで、演奏するのはほんの数曲程度、ファン・サービス的に申し訳程度のものだった。その後は映画のサウンドトラックで大々的にセルフ・カバーしてみたものの、前述したように映画がコケてしまったこともあって、ちょっと自信喪失気味だったんじゃないかと思われる。
 過去に囚われたままだと前には進めない。かといって、それまでの自分がやってきたことが間違いだったのかといえば、そんな事はない。Paulが間違ってるというのなら、ほとんどすべてのアーティストが間違ってるはずだ。
 まぁそこまで熱く語ったわけじゃないけど、取り敢えず軽く背中を押してくれたおかげで、だいぶ楽になったんじゃないかと思う。

 Costelloとの共作も収録されているアルバム『Flower in the Dirt』のツアーでは、ほぼ半分近くがBeatlesナンバーという大盤振る舞い。しかもそれが懐古的な視点ではなく、きちんとアップ・トゥ・デイトなアレンジを施され、これまで失望しまくっていたファンはPaulの前線復帰を喜び、またBeatlesなんて古臭いと思ってた若い層にも好評だった。特にライブ活動から引退していた後期Beatlesナンバー、『Abbey Road』のB面メドレーなんてこれまでライブで聴くことができなかったのだから、Costello様々である。

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 で、今回のCostello、前作『Spike』同様、バラエティに富んだサウンドを展開しているのだけど、あちらが陽とすれば、こちらは陰、少し大人しめのサウンドである。この辺はある程度戦略的なものもあったのだろうけど、2枚で1組と考えたり方がわかりやすいんじゃないかと思う。
 自己紹介的に幅広い手の内を披露した『Spike』に対し、こちらの『Mighty Like a Rose』では、その幅をもう少し掘り下げた、アーティストライクな作りになっている。パンク/ニュー・ウェイヴ特有の初期衝動的な爆発力ではなく、作品のベクトルは熟成された完成度へと向かっている。そのサウンドはMOR的、いわゆる大人のロックだ。
 なので、これまでのロック・ユーザーだけがターゲットではなく、対象はもっと幅広い。レコードではなくCD、コンポーネント・ステレオではなくカー・ステレオで聴くことを想定したサウンドである。Phil CollinsやDire Straitsなど、かつてロックを聴いてたビジネスマンが、昔を思い出して仕事や家族サービスの合い間に聴くような、そんなシチュエーションが想像できるサウンドに、Costelloは挑戦している。

 このまま変に円熟味が増してきちゃって、Rod Stewartのようなロック演歌路線に行ってしまうのかなと、当時はちょっと気に揉んでいた俺。まぁ円熟しきったメンツの揃ったRude 5とのライブでも、Costelloだけは相変わらずツバを飛ばしてがなり立てていたし、しかもこの時期、当時は未発表の『Kojak Variety』セッションでは、デビュー間もない頃を彷彿とさせる、ブチ切れたロックンロールをかましていたのだから、自身の中でバランスを取ってたんじゃないかと思われる。

 Rodもまた、今じゃすっかりアメリカ右翼御用達のバラード・シンガーのイメージが定着してるけど、もともとはRon WoodやJeff Beckと渡り合っていた、根っこはゴリゴリのロックンローラーである。いい意味でCostelloもまた、彼のような二面性を両立させたスタイルを目指してたんじゃないかと思われる。
 それを象徴するエピソードとして、当初はこのアルバム、Attractionsとのセッションも予定に入っていた。ただ、Costelloとメンバー達、特にBruce Thomasとの感情面での折り合いがつかず、彼らが顔をそろえる事はなかった。Costelloにとって、その二面性を表現するために、未だ尖って粗削りな彼らのサウンドが必要だったのだ。
 でも、それにはもう少し時間がかかることになる。


Mighty Like A Rose
Mighty Like A Rose
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Rhino/Warner Bros. (2009-03-02)





1. The Other Side Of Summer
 Costello版Beach Boys的解釈のナンバーとよく形容されているポップ・ナンバー。シングルとしてUK43位はまぁこんなものとして、US専門チャートでは1位を獲得と、それなりの成果は出ている。



2. Hurry Down Doomsday (The Bugs Are Taking Over)
 なぜかNick Loweがベースで参加。思いっきりセカンド・ラインの泥臭いファンク・リズムのロックなのだけど、どの辺でNickが必要だったのか、よくわからない。ていうか、ファンクよりはカントリー系の人だし、Nickって。
 Jim Keltner(dr)とJames Burton(g)がそろった時点で泥臭くなるのは必須だけど、Marc Ribotによる』変態エフェクトがサウンド全体を引き締め、オーソドックスなスワンプ・ロックからの脱却を果たしている。

3. How To Be Dumb
 『Armed Forces』あたりに入ってても何ら違和感のなさそうな、ポップ要素の強いロック・サウンド。Larry Knechtelのピアノがまた、80年代臭さを彷彿とさせる。
 当初、クレジットを見る前まで、これがPaulとの共作なのかと思ってたのだけど、Costelloの単独作だった。多分、Paulとの共作後に作られたナンバーだと思われる。

4. All Grown Up
 こうしたバラードも、以前はもっと捻ったコード進行で組み立てられていたのだけど、そこをもっと素直な構成で、しかも4分という短さながら、壮大なスケールを感じさせるようになったのは、やはりPaulの影響が大きかったんじゃないかと思われる。
 ギターでこういった曲は作れない。ピアノにしっかり座って作られた曲。

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5. Invasion Hit Parade
 ちょっと演劇がかった、音楽劇の挿入歌的なナンバー。そのせいか、この曲のみCostelloのクレジットがおなじみDeclan Patrick MacManus、本名でのプレイとなっている。

6. Harpies Bizarre
 タイトルを見て思い出すのが、あのA&Mサウンドど直球のソフト・ロック・バンドHarpers Bizarreなのだけど、よく見るとスペルが違っていた。でも、サウンド的にはその辺にインスパイアされたようなソフト・ロック。ハープシコードの響きなんてそのまんま。

7. After The Fall
 ストレートなバラードにスパニッシュなギターを絡めることによって、秘めたる情熱を感じさせる、Costelloファンはピンポイントでやられてしまうキラー・チューン。あまりに他のナンバーのインパクトが強いので埋もれがちだけど、サウンド的にはずっとネガティヴさが漂うのもまた、Costelloの隠された本質である。

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8. Georgie And Her Rival
 こちらも『Armed Forces』っぽいよなぁと思ってしまうポップ・ロック。音を詰め込んだ譜割りに加えて、これでもかと詰め込んだ言葉遊びと語呂優先の歌詞。終盤のコーダがBeatlesっぽい。

9. So Like Candy
 これがPaulとの共作だったことに違和感を覚えたのは、多分俺だけじゃなかったはず。彼とのコラボなら、もっとポップなサウンドをイメージしていたのだけど、こういったバラードは予想外だった。でも何年も経ってから聴いてみると、フックの効いたメロディラインにその痕跡が窺える。
 一応、シングル発売もされているのだけど、目立った実績はなかったらしい。すごくわかりやすくていい曲なのに。



10. Interlude: Couldn't Call It Unexpected No.2

11. Playboy To A Man
 これもPaulとの共作。9.がPaulによるCostello的解釈とすれば、こちらはCostelloがヴァーチャルでBeatlesを演じてみましたよ的なプレイになっている。ただ、そこらのコピー・バンドのような芸のない模倣になるのではなく、きちんとプロのミュージシャン的解釈を入れており、Paulが敬愛するLittle Richardのエッセンスを投入して、独自のハイパー・ロックンロールに仕上げている。
 Paulがいなければできなかったけど、彼抜きでも充分カッコいいと思ってしまうナンバー。

12. Sweet Pear
 ニューオーリンズの老舗ブラス・バンドDirty Dozen Brass Bandとの共演。過度に泥臭くならず、かといってソフィスティケートされ過ぎて骨抜きになるでもなく、ちょうどいい匙加減。この辺がメジャー・サウンドのバランスの絶妙さが窺えるナンバー。マニアック過ぎず、かといってうるさ型も納得させてしまう、俺的にはこのアルバムのベスト・トラック。特に間奏の泣きのギター・ソロは圧巻。
 ほんとならこのスタイルでアルバム1枚残してほしかったけど、当時のCostelloの音楽性はこれだけでは収まらなかった。



13. Broken
 前妻Cait O'Riordanとの共作による、ミステリアスな雰囲気のナンバー。ほぼライブでは演奏されたことがないので、多分Costello自身も忘れちゃってるんじゃないかと思われる。そりゃ前の奥さんと作った曲だもの、あんまりいい感じはしないよな。

14. Couldn't Call It Unexpected No.4
 最後はカントリー・タッチのユルいナンバーでエンディング。『Imperial Bedroom』あたりのテイストに近い、やや後期Beatles的なホーンやチェンバレも入っており、どことなくホッコリしたムードで聴いてしまう。
 Costelloの場合、エンディングはあまり大げさにならず、どこかハッピー・エンド的に締めることが多い。性格だよね、これって。




Unfaithful Music & Soundtrack
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Elvis Costello
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北海道の中途半端な田舎に住む、そろそろアラフィフ男。ほぼ週1のペースで音楽ブログ更新中。節操ない聴き方と思われてるけど、自分の中では一貫してるつもり。 最近は蔵書の整理がてら、古い本を再読中。ジョン・アーヴィングから始まって、フィッツジェラルドやゾラ、モームなど、いわゆる古典の復習中。いつになったら終わることやら。新刊読めねぇや。
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