folder 1973年にリリースされた、4枚目のオリジナル・アルバム。前作『Last Day and Time』邦題『地球最後の日』がビルボード最高89位止まりだったのが、今回はいきなりビルボード最高27位をマークしたうえプラチナまで獲得、彼らにとって出世作となった。
 それまではブラック・チャートでどうにかトップ40に食い込む程度、一般的には地味なポジションに甘んじていた彼らだったけど、突然何の前触れも下準備もなくブレイクしたわけではない。そこに至るまでには、客観的な自己分析と冷静なシーン分析とがあったわけで。
 『地球最後の日』から彼ら、所属レーベルをワーナーからコロンビアに鞍替えし、これが大きな転機となったのは間違いない。移籍に伴ってバンド・コンセプトの抜本的な練り直しを行ない、その成果が実ったのが『Head to the Sky』だった、というわけで。

 デビュー当時は、アフロ〜ジャズ・ファンクをベースとしたブラス・ロック的な特性が強かったEarth。土着性の強いアフロ・ジャズ・サウンドは、もっぱらリーダーMaurice Whiteが持ち込んだものだった。緻密に組み立てられたインプロビゼーション主体のサウンドは崇高なものだったけど、商業的に成功する類のものではなかったし、しかも評論家筋にもピックアップされることはなかった。黒歴史だよな、要するに。
 この時代のソウル/ファンク系アーティストにありがちだけど、Whiteもまた、「意識の高い音楽が既存の社会や政治に一石を投ずることができる」ことを盲信していた。なので、サウンドはシリアスで遊びのないもの、メッセージ性やコンセプトに比重が置かれている。当然、全体のクオリティは高く筋も通っているのだけれど、正直何回も聴き直したくなる音楽ではない。サウンドよりメッセージ、フィジカルよりロジカルを優先した構造である。
 要するに、つまんないのだ。

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 ある意味、プログレ的な構造を持つ初期のEarthが好きな人もいるのかもしれないけど、多分ごく少数と思われる。賛否両論はあるけれど、70年代ソウル/ディスコ・シーンにおいては確実に足跡を残したアーティストなので、一応すべてのオリジナル・アルバムが再発されてはいるけど、一般的なEarthファンが手を伸ばすには、ちょっと危険な内容である。ジャズ寄りのレアグルーヴが好きなクラブ・ミュージック・ユーザーか、よほどのコア・ユーザーでもない限り、購入する人は少ないだろう。
 実際、俺も持ってないし。

 で、コロンビアに居を移したEarth、心機一転もつかの間、まずは結果を出さなければならなかった。リリース契約もそうだけど、売上次第ではバンド運営が危ぶまれるため、策を講じなければならなかった。今も昔も変わらず、ホーン・セクションを自前で抱えた大所帯バンドは、右から左へ一歩進んだだけでも経費がかかるのだ。
 ワーナー時代の中途半端なサウンド・アプローチの反省を踏まえ、まずWhiteが行なったのがヴォーカル・パートの補強である。
 古参メンバーであるSherry Scottだけを責めるわけじゃないけど、彼女がWhiteに比肩するほどのキャラクターを確立できなかったことは、歴史が証明している。正統なソウル・バラードを持ち味とする彼女のスタイルに、演奏陣が十分に対応しきれなかったのも、互いに悲劇だったけど。まぁやっぱりWhiteだよな。「I Think About Lovin' You」なんて珠玉のバラードなんだけど、これって別にEarthじゃなくてもいいしね。
 低音パートを主としたWhiteとの相乗効果を生み出すには、力強い高音が必要だった。そんなわけで引っ張ってきたのが、ご存知Philip Bailey。単なるシャウト中心のタイプではなく、曲によって硬軟使い分けられる彼の声質は、アフロ・ベースのリズム・セクションとも相性が良かった。タイプの違う男性ヴォーカルの双頭体制は、サウンドの土台となるボトムにメリハリをつける結果となった。

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 ただ変なところでバランス感覚を気にしてしまうWhite、フロント2人が男性だとむさ苦しく思ったのか、アクセント的に使う目的で、女性シンガーJessica Cleavesを加入させている。なんか不安になっちゃったのかな。
 女性シンガーを置く利点として大きいのが、ライブでの場持ちの強さである。見栄え的にも華が一輪あった方が野郎臭さを抑えられるし、演奏陣だって力の入れようが違ってくる。音楽的な利点としても、コーラスやハーモニーに厚みを持たせることができ、数曲メイン・ヴォーカルを受け持つことで、ショー全体の流れにメリハリをつけることができる。JBだって必ずショーには一人、デュエット・シンガーの女性をフィーチャーしていたよな。まぁ色んな意味を含めてだけど。
 ただ、レコーディングとなると話は別で、高音パートのBaileyとカブってしまうため、コンビネーションがうまくいかなかった。レコードではフィーチャーされることが少なかったため、結局Jessicaは2年弱でバンドを去ることになった。
 Earthとは肌が合わなかったけど、彼女自身のスペックが低いわけではなかったため、脱退してすぐGeorge Clinton に見出され、P-Funk 中心の活動にシフトしていったことは、互いにとって良い落としどころだったと言える。

 ヴォーカルの補強はどうにかなったので、さらにWhite、次はもっと大掛かりなサウンド・コンセプトの路線変更に手をつける。
 カリンバを始めとしたアフリカン楽器によるエスニック・テイストは、Whiteが描いた揺るがぬ初期構想だったため、そこには手をつけたくなかった。その部分はアクセント的に残し、より同時代的なサウンドへのシフト・チェンジを図った。時に冗長となりがちなジャズ~インプロヴィゼーションの要素をバッサリ切り捨て、ソウル・シーンを凌駕しつつあったダンス/ファンクのサウンドを導入することにした。ここで登場するのが、ギターのAl McKay。
 世紀を超えて今も続く、繊細かつ大味なEarthのダンス・ビートの土台作りに大きく寄与したのが、このMcKayであることは、誰もが認める事実。もちろん、彼独りの力でいきなり形作られたわけじゃなく、各メンバーの尽力があってこそだけど、McKayの持ち込んだカッティング技術が触媒となって、バンドの潜在能力をポテンシャル以上に引き出した。
 そんなメンツが『地球最後の日』で勢揃いした。その後は手探りしながら独自のサウンドを固めてゆき、遂に大きく花開いたのが、この『ブラックロック革命』といった次第。ちなみに、タイトルに「ロック」というワードが含まれてはいるけど、実際にはロックっぽさはほとんどないので、その辺は誤解のないように。

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 一般的にEarthといえば、70年代後半のディスコ路線が全盛期とされ、実際、代表曲も多い。それは確かだけれど、プレ=ディスコ期に当たる70年代前~中盤の作品もまた、根強い人気がある。特にレアグルーブの流れを経由してEarthを再発見した90年代以降の新規ユーザーは、前述のワーナー時代や80年代の低迷期と比べて、コア・ユーザーの中でも大きな割合を占めている。
 全盛期から多用されたシンセ系のキラキラしたアレンジは少ないけど、ファンクとアフロとのハイブリッドなリズム・コンビネーションや、ツイン・ヴォーカルの使い分けによるサウンドのバリエーションの豊富さなどは、スペイシーなハッタリや大仕掛けに頼らない分だけ、クオリティは高い。
 そりゃ「Fantasy」やら「September」やら「Boogie Wonderland」などの定番キラー・チューンと比べればインパクトは弱いけど、そういった代表曲が生まれる土台となっているのが、この時期の試行錯誤や音楽的な実験による賜物なのだ。
 なので、このプレ=ディスコ期のメロウ・グルーヴ全開のナンバーたちが埋もれてしまうのは、ちょっともったいない。

Head to the Sky
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1. Evil
 シングルカットもされたオープニングは、ジャジーなエレピがスムース・ジャズ的な効果を生み出しており、そこからさりげなくソフトなラテンのリズムをからませることによって、後世にも評価されるメロウグルーヴ的な味わいを演出している。今もそうだけど、当時もカリンバの音色をポピュラー・ミュージックに使用することは珍しく、それが逆に新鮮な感触。でも当時の邦題「悪魔の血」はちょっと…、という気がする。



2. Keep Your Head to the Sky
 アルバム・タイトルを含んだ2曲目、これもシングルカットされている。さらにテンポを落とし、ジャジーなメロウグルーヴが展開されている。ここでの主役は巧みなファルセット使いのBailey。シルキー・ヴォイスに合わせたコーラスも絶妙。メロディーを喚起させるベース・ラインとやたら前に出るシタールの調べ。そっと寄り添うエレピのオカズ。なんだ、もう完成されてるじゃん。でもやっぱり、邦題「宇宙を見よ!」はないと思う。コーダのアカペラ、Jessicaとのファルセット対決は聴きどころ。



3. Build Your Nest
 で、ここからが彼らの新境地となる。あくまでジャズ~アフロとちょっぴりラテンの順列組合せだったところに、McKayが持ち込んだファンク要素を大幅に増やしたことによって、グルーヴ感てんこ盛りのダンス・チューンがここに誕生した。どこかお上品に構えていた演奏陣にMetersばりのセカンド・ラインが注入され、ブラコン・ファンクの祖となった。

4. The World's a Masquerade
 フィリー・ソウルにスロウ・ファンクのリズムをねじ込んだような、比較的オーソドックスな仕上がりのソウル・バラード。レコードA面最後を飾るには、いい感じにドラマティック。ここは完全にWhiteの独壇場。

5. Clover
 B面トップは荘厳なピアノ・ソロ、そこから妖しげなラテン・フレーヴァーのメロウなグルーヴィー・チューン。サウンドの主体となるフルートとコンガがまた、Earthの別の側面を際立たせている。凡庸なラテンで終わらせていないのは、絶妙なコーラス・ワークと、案外転調の多い複雑な構成。3分過ぎから突然現れる、哀愁漂うギター・ソロがSantanaを連想させる。この辺が「ブラックロック」なのかな。

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6. Zanzibar
 ラストはなんと13分に及ぶ大作。ブラジルのアーティストEdu Loboのカバーということを、今回レビューを書くにあたって調べてみて、初めて知った。YouTubeにあった原曲を聴いてみたのだけど、結構リズムにアクセントがあって、何にも知らない俺のようなビギナーでも入りやすい楽曲である。ラテンでしかもファンキー、レアグルーヴ好きな人なら抵抗なくスルッと入ってゆけるはず。
 原曲は3分程度なので、ここでのヴァージョンはジャム・セッション風に各メンバーのソロ・パートが長くフィーチャーされている。主要テーマをもとにアドリブを膨らませるのは、もっぱらジャズのメソッドであり、なのでダンス/ファンクの要素はバッサリ切り捨てられている。ホーンの活躍がちょっぴり多めかな。
 こういったアプローチはこれが最後、次作『Open Our Eyes』からは、コンパクトにまとめられた楽曲が主流となる。



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