love 1 1987年リリース3枚目のアルバム。UKチャートトップ10入りした、最初で最後のアルバムでもある。
 1983年、Roddy Frame (Vo,G)を中心とした、普通の5人編成バンドとして、当時メジャー・レーベルに対抗するインディー新興勢力だったラフ・トレードより、『High Land, Hard Rain』でデビュー。この頃はまだそれなり、ごく普通のギター・ポップ・バンドだった。シングル「Oblivious」(間奏ギターソロは必聴!)で脚光を浴び、「おっ、チョットそこらのバンドとは違うんじゃね?」と注目を浴びるとすぐ、メジャーWEAとワールドワイド契約、さらにネオアコ~ギター・ポップ路線を突き詰めた佳作『Knife』をリリースした。

 当時「Money For Nothing」の大ヒットによって、一気にメジャー・シーンに躍り出た Dire Straits のリーダー兼コンポーザー Mark Knopfler がプロデュースしたことも、大きな話題となった(なぜこの人選に至ったのか、今となっては経緯は不明。多分レコード会社主導で企画されたコラボだったと思う)。
 ちなみにこの辺りから、他メンバーの影は次第に薄くなってゆく。もともとほとんどの曲を自作、しかもメイン・ヴォーカルでありフロント・マンでもあった Roddy 、サウンド・メイキングにバンドの力を借りる必要はなかった。ほとんどのトラックを Mark と共に作りこんでゆき、バンド・メンバーも辛うじてクレジットはされているものの、ほぼサポート扱いだったことが、当時のメディアでも報道されている。わかりやすく言えば、 ZARD みたいなもの(これしか思い浮かばなかった)。
 
 バンドとしての Aztec Camera の活動は次第にフェード・アウトしてゆき、心機一転、 Roddy のソロ・プロジェクトとして再スタートを切った初めてのアルバムが、この『Love』である。この時代から、レコーディングやライブ毎に適時メンバーを編成する手法がスタートする。今でこそあまり珍しい形態ではなくなったけど、ここまでフレキシブルなバンド編成は、当時あまり類を見なかった。

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 それまでの Aztec Camera で思い浮かぶのが、「ネオアコ・ポップ界のギター・ヒーロー」、「青臭く繊細な文化部系バンド」という一般的なイメージである。俺個人としても、「Walk Out To Winter」を聴いていると、真冬の朝、白い息を吐きながら、静かな街中を軽快に歩く Roddy のビジュアルが思い浮かぶ。ツルンとした中性的な顔立ち、ユニセックスなビジュアルも、当時の洋楽オタク女子、今で言う腐女子らにアピールしていた。
 
 1980年代中盤から後半のブリティッシュ・シーンにて興ったムーヴメントの一つとして、ブルー・アイド・ソウル現象が挙げられる。もともとは Daryl Hall & John Oates に端を発する、アメリカが発端のムーヴメントなのだけれど、緻密なメディア・イメージ戦略とMTVパワー・プレイを最大限に活用することによって、メジャー・レーベルの思惑通り、イギリスを始めとした全世界に飛び火し、後追いするミュージシャンが続いた。
 既存のロックに"No"を突きつけた、パンク/ニュー・ウェイヴ・シーンが無残な末期を迎え、一転して先祖返りしたオーガニックなネオアコ・サウンドの流れが続いたのだけど、その路線も行き詰ってしまい、方向性を見失った彼らが目を付けたのが、ブリテッィシュの視点でブラック・ミュージックを消化(模倣)したサウンドだった。
 
 積み重なる人件費と、その他諸々の経費(主に酒・女・ドラッグなど)によって、多人数編成のバンド維持が困難になりつつあったソウル・ミュージシャン達にとって、簡易型のシンセサイザーの普及は、大きな革命に値するものだった。演奏機材の技術的向上、大量生産によるコスト・ダウンに伴う爆発的な普及化によって、多人数のホーン・セクションを雇わなくても、そこそこのクオリティのサウンドを作ることが可能となり、それが80年代 R&B の基本フォーマットとして定着した(その発端となったのが Marvin Gaye であり、機材の使い方によっては Zapp にもなった)。

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 多かれ少なかれ、アメリカへのコンプレックスを抱いていたイギリスの文化系ミュージシャンたちが、「これなら俺にもできそう!」と勘違いして、ヤマハDX7やフェアライトCMIのプリセット・サウンドを用い、プラスチック・ソウルを演じた。サクセス・ストーリーのまだ途中だった Jam を解散してまで  Style Council を結成した Paul Weller 、ソロでは Paul Young 、Dr. Robert  率いる Blow Monkeys  などが典型である。
 ただ、あまりにも時代の要請に応えすぎたあまり、そして当時の演奏機材のスペックの限界もあって、ほとんどのサウンドが、ヴォーカルを抜くと、どれを聴いても金太郎飴状態となってしまう。そうなれば行き着く先は決まっており、他アーティストとの差別化が困難なため、無理やり路線変更を強いられるか、はたまた空中分解してしまうか、どちらかである。
 結局のところ、最後に優劣を決めるのは曲そのもの、バンドやヴォーカル自体の地力の差という、当たり前の結論に落ち着くこととなる。
 そう考えると、サウンドは徹底的に作り込みながらも、ヴォーカルは線の細いままの Scritti Politti が成功を収めたのは、理に適っている(同様のコンセプトのサウンド・メイキングでありながら、さらにリズムを強調した New Order  は、更に大きな成功を手にした)。
 
 ほんの一瞬ではあったけど、時代の寵児であった Roddy  もまた、そんな尻馬に乗った一人である。メジャー・レーベルから提示されたビッグ・バジェットを最大限活用し、時代を象徴する、きらびやかなサウンド、悪く言えばチャラい路線を彼は選んだ。
 それまでは、イギリス国内でカレッジ・チャートを賑わせる程度の存在でしかなかった Roddy だったけど、同時代のアーティストの成功を横目で見て野心が湧いたのか、はたまたレコード会社の要請だったのか、有名どころの Steve Gadd (Dr)、Dan Hartman (B.Vo), Steve Jordan (Dr), Will Lee (Bass)などをそろえ、アメリカ市場を意識したゴージャスなサウンドを創出している。


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1.Deep And Wide And Tall
 一発目から80年代特有リヴァーブ・ドラムがさく裂する、さらに今回初導入したソウルフルな女性コーラスと共に、Roddy が爽やかに歌い上げる。当時のMTVでヘビロテされてもおかしくないレベルに仕上がった、Roddy 流メジャーポップ。
 
2.How Men Are
 俺が Aztec Camera に興味を持つきっかけになった曲なので、思い入れも一段と強い。
 Peter Barakan が深夜にやっていた「ポッパーズMTV」にてこのPVが流れ、そのセンチメンタリズムに魅了され、即座にファンになった。もともとセミ・アコを用いたギター・プレイに定評のあった Roddy だけど、このアルバムではサウンド・クリエイターの面を強く押し出しており、ギター・サウンドを前面に押し出した貴重な曲。
 セミ・アコによって奏でられる、間奏のソロの切なさ否たさがたまらないのだけれど、アウトロ前からかぶってくる、R&B風女性コーラスがちょっとクドい。でも好きな曲。

 

3.Everybody Is A Number One
 タイトル通り、アッパーで前向きなポップ・チューン。軽快なギター・リフと、時代を感じさせるシンセ・ブラスが特徴。間奏の女性コーラスとによるコール&レスポンスも、当時のヒット・チャートを意識したかのようなハデな作り。
 
4.More Than A Law
 ウエットなメロディとスウィートな旋律が日本人の感性にもフィットする、ネオ・アコ的なナンバー。この腹から声の出ない Roddy のヴォーカルは、当時のバンド系腐女子らのハートを狙い撃ちして、イチコロにした。
 
5.Somewhere In My Heart
 Aztec Camera としては最大のヒット曲。全英シングル・チャート3位。
 シンセ・ブラスとリヴァーブの利いたドラムで構成された曲。このアルバムのためにボイス・トレーニングを受けたのだろう、線は細いけど声が十分前に出ている。
 掻きむしるかのような、間奏のギター・ソロが絶品。

 

6.Working In A Goldmine
 UKシングル・チャート31位まで上昇した、切ないラブ・ソングっぽく聴こえる曲だけど、歌詞は金鉱で働く労働者の嘆きを歌っている、別な意味で切なくなってしまう曲。間奏のギター・ソロもまた郷愁を誘うようにドラマティック。淡々としてはいるけれど、メロディのフックも効いており、そこそこの売り上げだったことは理解できる。
 
7.One And One
 一転して、これまでの Aztec Camera の流れからは想像できないダンス・ナンバー。ファンキーなギター・カッティング、女性ヴォーカル Caroll Thompson との掛け合いは完全に気迫負けしてはいるけど、アメリカのコンテンポラリーなサウンドを背伸びして狙っていたことが想像できる。「プラスティック・ソウル」という形容がピッタリはまる曲。

8.Paradise
 80年代の典型的なフォーマットに則って作られたポップ・ソング。破綻も少ない凡庸なバラードなので、これって、別に Rodyy じゃなくてもいいんじゃね?といつも思ってしまう。Rick Springfield にでも歌ってもらった方が、こういった曲はずっとチャラくウエットに仕上げてくれるはず。
 
9.Killermont Street 
 ネオアコ風味が残ったラスト・ナンバー。後に自らのホームページのタイトルにもなっている、本人の思い入れも強いと思われる名バラード。



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 この時代のほとんどのアーティスト同様、思いっきりアメリカン・チャートを意識した音作りにもかかわらず、ビルボード最高193位という、どうにも不本意な結果に終わってしまう。この後、ほんとに神経質になったのか、まんま『Stray』というアルバムを作ったり( Clash の Mick Jones とコラボした「Good Morning Britain」がオススメ)、坂本龍一をプロデューサーに迎えてAORっぽいアルバムを作ったりと、しばらく迷走の日々が続く。
 それでも日本ではウケがよかったのか、アルバム未収録曲やライブ・ヴァージョンで構成された独自企画盤が2枚もリリースされており、Roddy 自身も温かく迎え入れてくるオーディエンスに応えて、何度も来日公演を行なっている。
 
 永遠の少年性を漂わせる、ツルンとした顔立ちと風貌、ライブでの気さくな人柄が功を奏したのだろう、名義を Roddy Frame 単独にして、地道に活動を継続、インディーズに戻ったことによって、余計なプレッシャーから解放され、自由かつマイペースな活動を続けた。リリース・ペースは長くなったけど、時々思い出したようにアルバムを制作、今年に入ってからも秀作『Seven Dials』を発表してくれた。
 今年50歳を迎え、さすがに童顔だった Roddy も寄る年波には抗えず、今回のジャケット写真では、年相応の老け込み具合が長年のファンにショックを与えた。しかし、何かを振り切ったのだろう、決してかつての名曲たちにはかなわないけど、極上のメロディを携えてシーンに帰ってきてくれたことを素直に喜びたい。




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