folder 1986年リリース、活動中にリリースされた唯一のライブ・アルバム。実質的な活動期間は5年程度だったので、ライブ盤1枚は妥当なところ。敢えて言えば、複数のライブ音源からイイトコ取りでの構成のため、いわゆるダイジェスト版な点だけが、ちょっと惜しい。
 基本、ハイレベルの演奏テクニックやインプロビゼーションを売りにしたユニットではないので、昔から彼らのフルセット音源は少ない。今の時代、ちょっと手間をかければ、ネットのあちこちに音源は転がっているのだけど、その多くはテレビ出演やラジオ番組のエアチェック音源が主体であり、質の良い無修正オーディエンス音源というのは、大して多くない。
 レコーディング/ライブ両面で脂の乗っていた、『Our Favorite Shop』リリース後のライブを中心にまとめたものなので、シングル・ヒットした曲が多く、ある種ベスト・アルバム的な機能も有している。なので、ちょっと極論だけど、これさえ聴いておけば、彼らのおおよその代表曲を押さえることができる。そのくせ「Long Hot Summer」が入ってないのはちょっとどうなのよ、と突っ込みたくはなるけど、まぁそこは置いといて。
 録音なのかスタジオ処理のせいなのか、歓声が不自然に後付けっぽく聴こえるのと、ホール中心のライブの割りには響きが薄く、なんだか擬似ライブっぽい音質なのがちょっと残念。でも、全盛期の記録として、その希少性はいまも変わらない。

4e9e054bbcb6b8a0fe40e4b68a59f1be9b4fb261

 80年代初頭のネオアコ・ムーヴメントに片足を、そしてもう一方をポスト・パンクに突っ込んでいた彼ら、当時親交のあったEverything But the Girl と近い方向性で、ジャジーだボサノバだソウルだファンクだ、ロック以外のエッセンスを貪欲に取り込んだサウンドを展開していた。
 そもそもポール・ウェラーにとって、「ロックからの逸脱」というテーマは、ジャム後期から地続きのものだった。「既存ロックの価値観打破」がテーマだったパンクも、時代を追うにつれ自家中毒を起こし、紋切り型の似たようなサウンドに収束しつつあった。拳を振りかざす先がみんな同じなんて、そんなのパンクじゃない。
 みんなと同じ、「荒削りな楽曲と拙い演奏」といったステレオタイプのフォーマットは、音楽的な成長著しいミュージシャンにとっては、足かせでしかなかった。常に前しか見ない当時のウェラーからすれば、いつの間に商業パンクの筆頭となり、フォーマット外のアプローチを歓迎されないジャムの看板は、もはや必要ないものだった。
 類型的なロックのスタイルを捨てるため、人気絶頂のジャムを解散したウェラー、その後は180度違ったアプローチで音楽と向き合うことになる。

 ジャムとは対照的なソフト・サウンドとシンクロするように、ウェラーのファッションも大きく変化する。ひとつの不変的なスタイルとして確立したモッズ・スーツを脱ぎ、スタイリストの巧みなコーディネートによって、当時の最先端だったDCブランドに身を包むようになった。ひと昔前の石田純一のようにカーディガンを肩に羽織ったり、カジュアルなサマー・セーターを着るようになったのも、この頃だ。
 ジャム時代の全否定にも映る、そんなウェラーの極端なシフト・チェンジは、古株ファンにはことごとく不評だった。パンクに必須だった疾走感や気迫などが強力脱臭されたデビュー・アルバムは、とても同じ人物の作品とはとても思えなかった。
 でもライブになると血が騒ぐのか、序盤こそ、歯の浮いたソフトなヴォーカルを披露するウェラー、興が乗るにつれ、パフォーマンスは次第に荒くなってゆく。汗が吹き出し、ステージ衣装も乱れてゆく。アクションも大仰になってステージを縦横無尽に歩き回り、シャウトと唾がステージ上に飛び交う。
 なんだ、これまでのジャムと変わんねぇじゃん。ギターを持ってるか持ってないかだけ、いつものハイパー有酸素運動。どう繕ったって、熱くたぎるパンクの血は隠せない。

101fe8dee52b5ee0297f0a65f83f86e6

 行き詰まりとなった英国政治や社会問題をテーマに掲げ、大衆向けのポップ・サウンドでコーティングして、メッセージを広く流布させるのが、スタカンの基本コンセプトだった。直訳「スタイル評議会」の名のもと、表面的なサウンドにポリシーを持たせることを敢えて捨て、トレンドやテーマによって意匠を変える行為は、膠着状態だったニュー・ウェイブ以降のロックに対するアンチテーゼでもあった。
 『Home & Abroad』に収録されている楽曲の多くは、構造不況に対して何ら効果的な改革を示せないサッチャー政権への憤りから生まれたものである。トップ40チャートでWham!やDuran Duranらポップ・ソング勢と肩を並べながら、歌ってる内容はとことん左寄りか鬱々とした内省吐露といった具合。英国人らしい自虐と鬱憤をストレートに描いた楽曲が、次々とチャート上位にランクインしていた。
 日本だったら、速攻放送禁止か発禁になってしまう内容でも、普通に売れてしまうのが、当時の英国事情を反映している。とはいえ、当時に限ったことじゃなく、英国は政治・社会批判には比較的寛容なお国柄である。平気で王室批判やゴシップが報道されること多々あるし。

 ただ、外部への怒りを発露とした表現にも、限界はある。政治社会への批判を声高に続け、同調者が増える。そして、オピニオン・リーダーは次第に「権威」となってゆく。「力を持つ」ということは、「社会的弱者ではなくなる」ということと同義なのだ。
 労働者救済のため、レッド・ウェッジの立ち上げに尽力したウェラーだったけど、この時すでにヒット・チャートの常連だった彼は、「そちら側」の立場ではなかった。成功者となっていた彼がどれだけ保守政権の打倒を訴えたとしても、明日のパンとスープ代すら捻出できずにいる社会的弱者にとっては、絵空事でしかなかった。
 一貫して政治色の薄いエルヴィス・コステロは、発足時から彼らの活動には批判的だった。すでにロック・セレブとして、多くの社会事業に首を突っ込んでいたスティングでさえも、その左寄りのスタンスゆえ、批判こそしなかったけど、明確に距離を置いていた。
 共産主義色が強すぎたことによって、幅広い支持を得られなかったレッド・ウェッジは、次第に活動も収束化し、内輪もめの末、フェードアウトしてゆくことになる。こういうのって、大抵派閥が分裂して内部崩壊しちゃうよな。それはどこの国も似たようなもので。

10170917_10154025587975422_2412566972892089991_n

 1987年の英国総選挙は、保守党の勝利で終わる。労働党の健闘も虚しく、サッチャーは引き続き3期目の政権を率いることとなった。
 「歌は世につれるが、世は歌につれない」と、かつて山下達郎は言った。政権批判や労働者救済を訴え続けたとしても、そう簡単に世の中が変わるわけではない。打てば響くのはごく一部であり、広く伝えるには、もっと強い求心力・カリスマ性が必要なのだ。
 そんな徒労感も手伝ってか、この時期からスタカンの活動も活発ではなくなり、セールスも同様に下降線をたどってゆくことになる。
 スタカンのもうひとつの軸である、「多様なジャンルを取り込んだ、変幻自在のサウンドアプローチ」も、次第に「スタカン・サウンド」的なものが固まり、マンネリ化に陥っていた。自家中毒をこじらせていたロックと違うものを指向しながら、キャリアを重ねるにつれ、いつの間にか自分たちがフォーマットをなぞるようになっていた。そんなジレンマが、さらにウェラーを追い込んでいった。
 「これまでと違うものを」といったコンセプトを掲げて、『Pet Sounds』まがいの連作組曲や、不似合いなピアノ・コンチェルトを収録した『Confesstions of A Pop Group』は、セールス的に大コケした。さらに負けじと、時流を先取りして果敢にハウス・サウンドに挑んだ『Modernism: A New Decade』ときたら、レコード会社に発売拒否される始末。
 もはや、スタカンというユニットでできる音楽的挑戦は残されていなかった。どれだけ多ジャンルのエッセンスを取り込んで行ったとしても、演ずる人間は同じなので、限界はある。同じ名義で続けられるのは、せいぜいアルバム1、2枚程度まで、コンセプトの性質上、長く続けられるものではない。

Style-Council-My-Ever-Changing-77876

 いっそボノのように開き直って、「ロックご意見番」的な立場で時事問題をボヤき続けてたら、スタカンの寿命はもう少し長かったんじゃないか、とふと思う。ポップ・スターと頑固親父の2枚看板で、コンスタントにシングル・ヒットを出しながら、インタビューでは毒を吐きまくったりして。ニュー・ウェイブ以降の重鎮として鎮座しながら、若手のリスペクトを受け、新曲と織り交ぜて昔の曲をサービスでやったり。
 ここまで書いて、「アレ、結局いまそんな感じになってるじゃないの」と思い直す。長らく過去曲を封印してきたウェラーだったけど、21世紀に入ってからは、ジャムもスタカンもソロも同列に扱い、ライブでプレイしている。
 前ばかり見てるのではなく、振り返る余裕もできた、ということなのだろう。人はそれを「成長と呼ぶ。
 発表年代を問わずランダムに並べられた近年のセットリストの中で、スタカンの曲もまた違和感なく溶け込んでいる。時事性が強い言葉に秘められた毒は、風化と同時に他曲と融和されている。あの時の刺激は、あの日あの場所じゃないとリアリティがないのだ。


Home & Abroad
Home & Abroad
posted with amazlet at 18.12.11
Style Council
Polygram Int'l (1998-10-13)
売り上げランキング: 299,020



1. The Big Boss Groove
 シングル「You're the Best Thing」のB面としてリリースされ、アルバムには未収録。瞬発力の良さからオープニングに起用されることが多かったため、ファンには広く知られている楽曲。ウェラーの一枚岩ユニットではないことを強調するように、スタジオ・ヴァージョンではDee C. Lee とJayne Williamsonとでヴォーカル・パートを分け合っている。ライブではLeeとのデュエット。
 力を合わせて政権打倒をアジるウェラーのヴォーカルも最初からフル・スロットル、バンドも気合が入っている。

2. My Ever Changing Moods
 6枚目のシングルとしてUK5位、彼ら初期の代表作であり、ウェラーの全キャリア通しても、キャッチ―なメロディ・ラインが突出している。アルバム・ヴァージョンは流麗なピアノ・バラード、シングルでは小気味よいソフト・ファンクと、アレンジによって様々な表情があるけど、骨格がしっかりしているだけあって、どれもカッコ良く仕上がっている。
 ここではホーン・セクションを前面に出し、テンポもちょっと速めに設定され、ライブのグルーヴ感を損なわないアレンジ。俺的に一番馴染みの深いアレンジでもある。
 モヤモヤした鬱屈感でウダウダしてるけど、どうにか立ち直んなくちゃな、でも…、といった若者特有の足踏み感を活写した歌詞は、ヴァージョンによってその表情がまるで違う。この歌詞でバラードだったら引きこもりそうだけど、『Home & Abroad』ヴァージョンだったら外に出たくなる。そう、行動するにはまず外に出なくちゃダメなのだ。

3. The Lodgers
 13枚目のシングル・カットでUK最高13位。俺の中では、スタカン楽曲の中ではトップ3に入る名曲。かしこまってまとまった印象のスタジオ・ヴァージョンとは対照的に、ここではウェラーも含め演奏陣のアドリブも多く、中盤にかけてはジャム・セッション的な様相も呈している。ダンス・チューンとしても秀逸なため、起爆剤的な役割も果たすキラー・チューン。



4. Headstart for Happiness
 シングル「Money-Go-Round」B面ヴァージョンでは簡素なデモ・テイクみたいな音だったけど、『Cafe Bleu』収録時には能天気なミュージカル調デュエットにブラッシュ・アップされた。で、ここではそのアルバム・ヴァージョンに準じたホーン中心のアレンジ。ロックっぽさも薄ければファンクの匂いもない、ある意味、スタカン・オリジナルとでも言うべき楽曲。やっぱりLeeのヴォーカルが入るとポップ感が増す。

5. (When You) Call Me
 シングル「Boy Who Cried Wolf」のB面としてリリース。シングル・ヴァージョンはシンセ・ベースやドラム・マシンを多数駆使した、時代性を感じさせるエレポップとして、独特のキッチュ感があった。ライブでは逆にそのいかがわしさが薄れて普通のミディアム・バラードになっちゃってるのが、ちょっと惜しい。メロディ・ラインはウェラーにしてはクセも少なくスタンダードの香りすら漂っている。

6. The Whole Point of No Return
 スタカンの場合、アルバムとシングルでヴァージョン違いが多く、しかもライブでも全然違う場合がある。この曲も、ライブ用にアレンジされているパターン。基本はシンプルなボサノヴァ・タッチのギター弾き語りで、ラウンジ臭が強い。
 ライブの構成上、ブレイクとして息抜きの曲は必要だろうけど、この時期の彼らの曲は、そんな小休止曲のオンパレード。ウェラーが口角泡を飛ばしていても、簡素なアレンジでは時に空回りしてる場面もある。さすがにこの曲調では、彼もおとなしい。

THE_STYLE_COUNCIL_SHOUT+TO+THE+TOP-127257

7. Our Favourite Shop
 もう一人のメンバーMick Talbotが主役となるインスト・ナンバー。ラテン・ベースのリズムを中軸に、ジャム・セッション風の演奏が展開されている。もともとライブ感のある演奏なので、スタジオ音源とさして違いはない。ないのだけれど、あまりに原曲に忠実過ぎる展開もどうなのか、と。他のライブだったら、もっとアドリブが長かったりLeeのヴォーカルを入れたり、遊ぶ要素はあったのかな。

8. With Everything to Lose
 アンチ・ロックとして結成されたスタカン・サウンドのひとつの到達点。ボサノヴァ・タッチなのに、既存のロック・ユーザーさえ納得させてしまうグルーヴ感を創り出せたのは、才気バリバリだったウェラーでこそ成しえた力ワザ。
 リズム・アレンジ・メロディともほぼ完成の域に達しているため、ライブ/スタジオ・ヴァージョンとも、大きな変化はない。しかしフルートをリードに使うバンドがここまで支持されるとは。ジェスロ・タルが同じくフルート使ってるらしいけど、ゴメン聴いたことないや。

9. Homebreakers
 先の見えない労働者階級の悲惨な現状をリアリティ・タッチで描写したナンバー。重く陰鬱なファンクには、Talbotの声が合っている。『Our Favorite Shop』のオープニングとして知られている曲だけで、考えてみればこんな重々しい曲を初っ端に据えて、よく日本でも売れたものだよな、と今にして思う。

TSCpopulation

10. Shout to the Top!
 説明の必要もないくらい、多分日本では最も有名なスタカン・ナンバー。以前のレビューでも書いてるけど、佐野元春への影響はもちろんのこと、あの小柳ルミ子までカバーしていることで一部では有名。
 スタジオ・ヴァージョンはさんざん聴きあきているので、テンポを落としてボトムの効いたライブ・ヴァージョンはなかなか新鮮。

11. Walls Come Tumbling Down!
 UK最高6位をマーク、俺の中のスタカン・ランキングでは常にトップ3に入る大名曲。スタジオ・ヴァージョンもテンション上がりまくりのウェラーだけど、ここではさらにアドレナリン全開、ファンク風味を添加したソリッドなロック・チューンとなっている。
 壁を崩せ!というシンプルなメッセージは、多くの若者に勇気を与え、そしてポピュラリティさえも獲得した恒例。こんな曲がもう2、3あったら、レッド・ウェッジも生き永らえていたのかもしれない。いやないか、あぁいうとこの執行部って、手柄の横取りで内部分裂するのがオチだから。



12. Internationalists
 ラストは『Our Favourite Shop』収録曲、で、このアルバムのもとになったツアーのタイトル・チューンでもある。バラードや緩やかなリズムのヒット曲が多いため、「静」のイメージで捉えられることが多いスタカンだけど、ライブでのグルーヴ・マスターとしてのTalbotの存在を忘れてはならない。
 ウェラーの性急なカッティングと、繊細かつ大胆なSteve Whiteのドラミング、そしてステージ上の空気を一変させるフレーズをバンバン放り込むTalbotのオルガン・プレイ。あまり語られることはないけど、ライブ・バンドとしてのスタカンを最も象徴した楽曲。



Greatest Hits
Greatest Hits
posted with amazlet at 18.12.11
Universal Music LLC (2007-07-26)
売り上げランキング: 40,048

The Complete Adventures Of The Style Council
Universal Music LLC (2005-06-15)
売り上げランキング: 39,577