folder 1986年リリース、16枚目のオリジナル・アルバム。とにかくマイペースで律儀、年1で必ず何かしら1枚はリリースしている。ここまでリリース・スケジュールがきっちりしているのは、世界中でも彼か中島みゆきくらい。次作をリリースできるだけの売り上げがコンスタントにあるのは、それだけ固定ファンが多いという証である。
 オリジナルだけに絞ってもこんななので、ここにライブ・アルバムやThem時代を含めると、さらにアイテム数は膨らむ。なので、生半可な気持ちで彼に近づいてはならない。キャリアが長いアーティストによく見られるように、選択肢が多すぎるため、どこから手をつけていいのやら。DylanやPaul McCartney同様、迷宮に入り込んでしまう確率の高いアーティストの一人である。
 それから30年経った現在、最新アルバム『You're Driving Me Crazy』は、何と39枚目。近年は他アーティストとのコラボも多くなっており、もうやりたい放題。さらに初期アルバムのデラックス・エディションでは未発表曲が追加されていたり、もうどこが入り口なのかわからない。『Moondance』40周年なんて、4枚組だよ?もう一見さんなんて相手にしないのか、わざと敷居を高くしているとしか思えない。
 そんな俺様状態に拍車がかかりっ放しになってるのが、ここ数年のVanである。

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 俺が買った初めてのVanのCDは『Moondance』、ワーナーのフォーエバー・ヤング・シリーズの廉価盤だった。それまで3000円くらいしていた旧譜が、ワーナーの英断によって、1800円くらいにまで値下げされたのだ。
 輸入盤で手に入れることもできなくはなかったけど、ネット普及以前、対訳やライナーノーツは貴重な洋楽情報源だった。特にVanのように、極端にインフォメーションが少ないアーティストでは、わずかな活字情報でも、そうやってかき集めるしかなかった。
 80~90年代にかけては、古いロックやポップスのディスク・ガイドが、一定数出版されていた。学習する姿勢で、60年代や70年代の音楽を聴いていた俺がVanの存在を知ったのも、そんな流れだった。
 何の知識もなくレコード店へ行って、片っぱしから当てずっぽうで買い漁るほどの財力も時間もないため、最初はこういったガイド本を頼りにしていた。新譜以外のリイッシューものって、大抵試聴機には入っていないので、手書きPOPから湧き上がってくる熱量、それと直感に頼らざるを得ない。できるだけハズレを引かないよう、結構吟味して選んでいたはずだけど、まぁ見込み違いの多かったこと。
 安全パイ狙いで、各方面で絶賛された歴史的名盤とか、安定したベテランの作品なら間違いないだろうと思って聴いてみても、必ずしも自分の好みと一致するわけではない。前回のU2でも書いたけど、『Pet Sounds』もVan Dyke Parksも、恐れずに言っちゃえばジミヘンだってピンと来なかった俺である。80年代サウンドを通過した耳でそれ以前の音を聴いても、ショボいサウンドに聴こえても仕方がない。
 Vanの場合、当時のディスク・ガイドやレビューでは、ほとんどが『Moondance』一強状態だった。もう少し掘り下げても、「取り敢えず『Tupelo Honey』聴いとけ」といった程度。ていうか、タワーにも玉光堂にも、それくらいしか置いていないのが実情だった。
 一応、レビューの評判を受けて聴いてはみたけど、どうしても聴きたくて購入したアルバムではないし、前述通り、なんかピンと来ない。なので、一回聴いたら二度目はない。すぐに売っぱらってしまう。その繰り返しだ。
 その後、ネット時代の到来によって、雑誌メディアでは紹介されない情報が、世界レベルで入手できるようになった。YouTube で気軽に試聴できるようにもなり、好みの音楽が探しやすくなった。
 そんな回り道を経てたどり着いたのが、80年代のVanの音だった。初期のぶっきらぼうなホワイト・ソウルではなく、近年の野放図なノン・ジャンルThe Van Morrison でもない、ソフトAORをベースとした荘厳なサウンド。本流とは違うんだろうけど、俺にとってのVanの音楽とは、その時代を指す。

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 『No Guru、No Method、No Teacher』がリリースされた1986年前後とは、ベテランのブルーアイド・ソウルのアーティストが注目を集めた時代である。その先鞭をつけたのが、MTVの潮流にうまく乗ったHall & Oates。美形キャラと男臭いヒゲのデコボココンビは、ビジュアル的にもインパクトが強く、シングル・チャートの常連として、日本でも人気を集めていた。
 サザンを休止した桑田佳祐がソロ・プロジェクトで渡米し、彼らとデュエットしたのが話題になったけど、当時の格付け的には、Hall & Oates > 桑田といった按配だったため、相当ジャパン・マネーを積んだんじゃないか、と揶揄された。まだ海外進出が頭にあった頃だったよね、桑っちょ。
 大器晩成型で注目されたのがRobert Palmer。Duran Duran のサイド・プロジェクトPower Stationで脚光を浴び、そのサウンドを取り入れたソロ・アルバム『Riptide』も、続けて大ヒットした。
 力強いソウルフルなヴォーカルが魅力的だったことがヒットの要因のひとつだけれど、加えて決定打となったのが、「Addicted To Love」(邦題「恋におぼれて」)のPV。スタイリッシュでエロい女性たちが、エアギター抱えてやる気なさそうにサイド・ステップする中、ビシッとダンディなスーツでキメて歌うPalmer。文章にしてみると支離滅裂な世界観だけど、だって実際そうなんだもん。その異様なコントラストが強いインパクトを与え、MTVではヘビロテだった。
 さらにベテラン枠、60年代から通好みな路線で活動していたけど、ここに来て一気に花開いたのがSteve Winwood 。Spencer Davis Groupからスタートして、Blind Faith、Trafficと、ロック史に名を残すグループを渡り歩きながら、なかなかシングル・ヒットに恵まれなかったのだけど、パワー・ステーション・サウンドでビルドアップされた『Back in the High Life』が大ヒットした。ちょっとハスキーで細い声質が弱点と言えば弱点だけれど、あの「Gimme Some Lovin'」の作者というだけで、それもすべて覆されてしまう。楽曲レベルの高さは折り紙つき、バラードも含めて硬軟取り混ぜた曲調が好評を博した。
 ここまで挙げてきた人、みんなパワステ・サウンドだな、そういえば。

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 そんなわけで、ファンク・テイストの強いパワステ・サウンドとブルーアイド・ソウルとは相性が良く、地道にキャリアを積んできたアーティストにとっては、願ったり叶ったりの必殺アイテムだった。同じベテラン・ブルーアイド・ソウル枠であるはずのVanだって、一枚噛んでてもおかしくなかったはずなのに…。
 とはいえ、そこはさすがアイルランド版ガンコ親父、1ミリたりとも微動だにせず、自身のサウンド・ポリシーを貫いた。さすが御大。意地でも動かない。
 一応、粗削りだった初期サウンドより少しマイルドになり、この頃は悠然たるAOR路線がサウンドの要となっている。いるのだけれど、それだって時流に合わせたわけではなく、当時傾倒していたスピリチュアル路線にフィットするからであって、トレンドがどうしたといった問題ではない。ゲート・エコー?オーケストラ・ヒット?何それ?って世界である。
 前述の3組がヒット・シングルを連発していた頃、Vanが何をしていたかといえば、アイルランドのトラディショナル・バンドChieftainsとの共演。世間の流れと思いっきり逆行している。むさ苦しくて古くさい、ビジュアル映えも何もない世界。少なくとも、当時のMTVで流せるような音楽ではない。
 バシッとアルマーニのフォーマル・スーツでキメて、陳腐でも何でもいいから、ラブ・ストーリー仕立てのPVでも作っておけば、また違った展開もあったんだろうけど、まぁやらねぇよな絶対。前者3組と比べ、ルックスはだいぶ落ちるし、第一そういったウリじゃないし。

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 とはいえ、そんな隆盛を極めたパワステ・サウンドも、永遠に無双状態が続くはずもない。ダイナミズムには申し分ないけど、細かなニュアンスが表現しづらく、誰がやっても似たような音になってしまうパワステ・サウンドは、使いようによっては、諸刃の剣となってしまう。音のインパクトが強い分だけ、飽きられるのもまた早かった。画一化を危惧したのか、ヒット・メイカーのポジションを確立した前者3組は、ゆるやかな原点回帰を選択する。
 テンプスのメンバーと夢の共演を果たした、アポロ・シアターでのライブ盤をピークとして、Hall & Oatesのセールスは緩やかに下降線をたどってゆく。その後は活動休止を経て、ソロ活動と並行しながら、マイペースに稼働している。ただ、かつてのヒットメイカーの面影を探すのは難しい。
 夭折したPalmerも、徐々に落ち着いたアンサンブルに回帰する。敬愛するMarvin Gayeのカバーなど、往年のソウル・クラシックへのリスペクトを強く表明していた。ディスコグラフィーを見ると、彼もアポロ・シアターでのライブ・アルバム出してたんだな。
 Winwoodもまた、ヒットの実績を引っさげて、飛ぶ鳥を落とす勢いだったヴァージンに移籍したはいいけど、相性がイマイチだったためか、あんまりパッとしなかった。近年は、出発点のR&B路線に回帰して、ジャム・バンド・スタイルでのツアーを中心に活動している。

 Vanだって厳密に見れば、音楽性が一貫していたわけではない。アイリッシュ民謡に行ったりジャズに行ったり、最近ではカントリーにも足を突っ込んだりして、考えてみれば傍若無人やりたい放題のありさまである。
 今となっては、「何をやっても俺は俺」、ジャンルやサウンドが変わっても、「俺が歌えばVan Morrison だろ、文句あるか?」と言いたげなふてぶてしさが漂ってくる。あ、それって昔からか。
 愚直に真面目に、ただ自分のやれる範囲で手を抜かず、身の丈にあった仕事をする。
 言葉にすると簡単だけど、貫くことはやっぱ大変だったろうと思われる。周囲からの誘惑もあったろうし、レコード会社からのプレッシャーもあっただろうし。
 まぁ、鼻で笑って相手にしないんだろうけど。






1. Got to Go Back
 Ray Charlesが歌いそうな、大陸的なスケール感のあるバラード。柔らかなサックスの響きは、同時期のStingのソロ作よりもメロディアス。メロウな感触は、日本人にも受け入れやすいかもしれない。

2. Oh the Warm Feeling
 同じく、ソプラノ・サックスのイントロがStingっぽいけど、フィリー・ソウル風の女性コーラスをフィーチャーしているため、コンテンポラリー色はこちらの方が強い。この頃はこの楽器の音色に凝っていたのか、ほぼデュエット状態でサックスがカウンターで入ってくる。気に入り過ぎて、次作『Poetic Champions Compose』では自分でプレイしちゃうくらいだし。

3. Foreign Window
 ここらで本気を出したのか、力の入ったソウルフル・ヴォーカル。今回、コーラスを務める女性シンガー2名(Bianca Thornton、Jeanie Tracy)に気合負けしないよう、野太い声での応酬。

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4. A Town Called Paradise
 アイリッシュ・フォークとソフト・ゴスペルが共存している、考えてみれば味わい深く変な曲。普通にやっちゃうと違和感ありまくり、ブロウしまくるアルト・サックスもミスマッチだけど、この世界観ではなぜか絶妙に混じりあってしまう不思議。俺様状態がバラバラのパーツをも強引にまとめ上げてしまう。

5. In the Garden
 ライブのクライマックスで演奏されることが多かった、エモーショナルあふれるバラード。本人いわく、80年代の重要曲のひとつとされ、いつもより情感がかなり込められている。淡々としたヴォーカリゼーションが多い80年代のVanの楽曲の中では、確かに異質。70年代からのファンには喜ばれたんじゃないかと思われる。いや確かにすごいわ、特に終盤。



6. Tir Na Nog
 「ティル・ナ・ノーグ」と読む、ケルト神話からインスパイアされたナンバー。悠然たるストリングスをバックに朗々と歌い上げている。全身全霊じゃなく、ちょっと余力を残したくらいの方が、この人はニュアンスが伝わりやすいんじゃないか、とこの曲を聴いて思う。だから初期作品にいまいち入り込めないのかね。

7. Here Comes the Knight
 Them時代に「Here Comes the Night」というスタンダードをヒットさせており、そこからインスパイアされたのかと思ったけど、まったく別の曲だった。よく見たら「K」ってついてるし。むしろ同郷の詩人W. B. Yeatsからの影響が強いらしい。WaterboysのMike Scottもアルバム1枚丸ごと使ってリスペクトしているくらいなので、アイルランドのアーティストにとっては神的存在なのだろう。

8. Thanks for the Information
 Vanにしては珍しく、リズムのエコーが深いことで特筆される楽曲。ドラムのリヴァーヴが効いているため、ここだけちょっぴり時代性を感じさせる。でもやっぱミスマッチだな。全編このサウンドにしなくて正解。

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9. One Irish Rover
 ブラコンみたいなイントロがちょっとどうかと思うのと、控えめなゲートエコーがやっぱり違和感ありまくり。御大、やっぱ一回くらいは試してみたかったんだろうか。でも大っぴらには言いづらいから、こんな地味な場所に入れちゃったりして。

10. Ivory Tower
 ラストは軽快なR&B。やっぱり、こういったのがこの人の本流なんだな。ブレイクの瞬間なんて、ちょっとカッコよくさえ思えてしまう。女性コーラスとも張り合うことなく、息はピッタリで楽しそう。一応、シングルとしてもリリースされたらしい。まぁシングル・チャートなんて興味なかったんだろうけど。