folder 1972年リリース、Temptations(テンプス)にとって16枚目のオリジナルアルバム。LPレコードというメディアの容量制限に合わせ、この時期のアルバムは大抵10〜12曲入りというのが定番だけど、このアルバムは8曲のみ。11分にも及ぶ「Papa was a Rolling Stone」が、3曲分は尺を取っているためである。
 ただ、それでもトータルでは35分程度、がんばればもう2、3曲くらい入りそうなものだけど、その辺はプロデューサーNorman Whitfieldの美学なのかな。コンセプトとしては、これで完璧、これ以上、足すモノも引くモノもない、ってな感じで。
 あともうひとつは、テクニカル面での問題。男臭いド迫力のヴォーカル、そこにアタック音の強いリズムが被さると、たちまちピーク・レベルを食ってしまう。なので、カッティングするとレコードの溝はどうしても太くなってしまい、長時間の収録は難しくなる。無理やり詰め込むと針が飛んでしまうし。

 「初期モータウンの男性コーラス・グループ」といって連想するのは、テンプスとFour Tops(トップス)に異論はないと思う。Miraclesは女性が1人いるし、Spinnersもちょっとメジャーになったら、すぐ移籍しちゃったし。
 あんまり詳しくない人だと、メンバーが4人または5人かの違い、または、「マイ・ガールを歌ってる方」と「そうじゃない方」くらいでしか、区別がつかないと思われる。ちょっと知ってる人なら、「サイケデリック・ソウル」と「そうじゃない方」、こんな風にザックリ分けられる。
 「ちょっと乱暴すぎるだろ「リーチアウト」(Reach Out, I’ll be There)があるじゃないか」という声もあるだろうけど、ゴメン、実はFour Topsあんまり聴いたことないんだ。だって地味だし。
 そのうち、ちゃんと聴いてみる。

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 モータウン内ではこの2つのグループ、一見するとあんまり違いはなさそうだけど、それぞれのデビュー当時まで遡ってみると、微妙な違いがあらわれてくる。
 オーディションを受けてモータウンに入社、その後、創業者Berry Gordy が手塩にかけて育て上げたのがテンプスであり、実際、ブレイクしたのは彼らの方が早い。
 対してトップスは、モータウンに移籍してきた時点で、すでに10年近くのキャリアがあった。まだ大きなシングル・ヒットこそなかったけれど、地元デトロイト界隈では知られた存在だった。絶対的なリーダーLevi Stubbs の力強いバリトン・ヴォイスはグループの牽引力となり、熱くダイナミックなステージ・パフォーマンスには定評があった。
 まだ実績の少ないモータウンに箔をつけるため、Gordy はトップスの獲得に奔走、幾度かのアプローチの末、熱意を受け取ったLeviは移籍に同意する。いわゆるヘッド・ハンティング、最初からポテンシャルを見込まれた、即戦力人材である。ある程度、基礎はできあがっているので、社員教育の手間も大幅に減る。

 モータウン以前のトップスのレパートリーは、男くさいゴスペル・ソウルが中心だった。モータウン入社後はコンセプトを一新、H=D=H(Holland – Dozier – Holland)によるポップ・ソウル路線を柔軟に受け入れている。「剛に入れば剛に従え」的な振る舞いは、やっぱり大人だよなトップス。
 ただ基本、トップスが歌う楽曲は正統派のR&Bが多く、極端にはみ出した作風にチャレンジすることは、ほぼなかった。マッチョな無頼漢を前面に出したヴォーカル・スタイルの前では、こざかしいギミックやアレンジでは陰が薄い。
 なので、テンプスのようなサイケデリック・ソウル路線、またはMarvin Gaye やStevie Wonder のようなニュー・ソウル路線にも、まったく見向きもしていない。一応、Norman の楽曲もいくつか歌ってはいるけど、まだサイケ路線に走る前のばかりで、そこまではっちゃけた作風のモノには手をつけていない。多分、上層部からもサイケ路線の要請があったんだろうけど、そこはLevi、全力で拒否したんじゃないかと思われる。

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 対してテンプス、ほぼ見習い社員的ポジションからスタートしたモータウンの申し子、いわゆるプロパー社員である。経営陣の命令は、基本断らない。気の進まないコラボだってやるし、「ちょっと合わねぇな」って曲にも文句は言わない。
 Gordyの大プッシュのおかげで、モータウンの歌姫として君臨していたDiana Ross との共演だって、文句は言わない。どうしたって彼女の引き立て役になるだけだから、みんなあんまりやりたくないはずなのに、彼らはやる。「よろこんで!」と、元気いっぱいに。仕事選ばんのか?

 モータウンのヒット生産システムの優れた点のひとつとして、「楽曲のリサイクル率の高さ」が挙げられる。
 ソングライター・チームが楽曲を書き上げると、スタジオ・ミュージシャンらによって演奏トラックが作られる。次にプロデューサーは、複数のアーティストでヴォーカル録りを行なう。この時点では、まだ誰のヴァージョンが正規リリースされるのか、まったく決まっていない。
 毎週金曜日に行なわれる本社ミーティングで試聴会が行なわれ、Gordyを始めとした幹部たちのお墨付きを得たものが、シングルとしてリリースされる。基準はただひとつ、「ヒットするかしないか」それだけ。数値であらわすものではない。
 そこまで厳選したとしても、ヒットするかしないかは、運次第。で、運良くそれがヒットすると、コンペ落選のストックからデキの良いものを引っ張り出すか、イキの良い新人に歌わせるかして、二番煎じ・三番煎じと繋いでゆく。まるで日本の演歌みたいなシステムだよな。
 演歌とモータウン、どっちが先なんだろうか。

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 トップスもテンプスも、メンバー内にソングライターはいなかったため、基本、社内ソングライターから降りてきたモノか、スタンダード・ナンバーを歌う立場だった。
 最盛期のモータウンは、「ヒット・ファクトリー」という名が表すように、とにかく作っては出し作っては出し、のベルトコンベア状態だった。レコーディング・スタジオは24時間フル稼働、ミュージシャンもずっと常駐していたくらいだから、とにかく体が空いてて声が出る者だったら、どんどんブースに押し込んで歌わせていた。
 そんなしっちゃかめっちゃか状態の中、テンプスは与えられた楽曲に不満を漏らすこともなく、次々にレコーディングしていった。初期のポップ・ソウルと比べ、Norman時代はカオティックな展開の楽曲が多くなっていたけど、声高に不満を表明する者はいなかった。「なんかイレギュラーな方向へ行ってるよなぁ」くらいは思ってたかもしれないけど、そこは会社への忠誠心が強いテンプス、思ってても口に出せるはずがない。
 対してトップス、ていうかLevi、「イヤなものはイヤ」とはっきり言っちゃうタイプである。あんまり知らないけど、多分きっとそうだ。あの強面を前にすると、無茶な要求なんてできないよな。
 そんなパワー・バランスなので、ちょっと面倒な案件、イレギュラーな楽曲はテンプスに回ってくる。やたらハイテンションな居酒屋店員みたいに「よろこんで!」って言っちゃうんだろうな。目は決して笑わず、顔筋だけの満面の笑みで。

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 金遣いの荒さやドラッグ問題など、何かとお騒がせなトラブルメーカーになっていたDavid Ruffinの脱退は、ほんの一瞬だけ、テンプスの人気に影を落とした。軽やかなダンス・ステップと、「官能的」とも形容された歌声は、グループの人気を独占していた。なので、後任で加入したDenis Edwards は、相当荷が重かったんじゃないかと思われる。
 Ruffin カラー払底のため、モータウンは総力を挙げてテンプスのイメチェンを図る。ちょうど上り調子だったNorman の作風の変化ともシンクロしていたため、また頑ななトップスへの当てつけとして、彼らはサイケデリック・ソウル路線へと、大きく舵を切る。
 もともとRuffin 在籍時から、その兆候はあった。従来のポップ・ソウルをベースに、JBを筆頭に台頭しつつあったファンクの要素、破裂音混じりのシャウト・ヴォーカルをフィーチャーしたのが、この路線の初ヒット「Get Ready」だった。
 当初はエッセンス程度だったのが、Ruffin と入れ替わるようにサウンドは激変する。ラジオ・オンエアを想定して、3分前後でまとめられていた楽曲は、ダンスフロア仕様を重視するかのように、10分前後まで引き伸ばされた。
 延々続くリズム・セクションの洪水は、次第にヴォーカル・パートを侵食してゆく。トラックメイカーNormanの才気煥発ぶりは、ポップ・ソングのセオリーからどんどんはずれ、しまいには、ほぼ3分の2くらいがインストになってしまう曲まであらわれた。
 そこまで行っちゃうと、もはやプログレ状態。

 トラックメイカーによる理想のサウンドと、基礎のしっかりした重心の低いヴォーカル&コーラス・ワーク。丹念に磨き上げられた歯車がうまく噛み合い、最良のギア比を叩き出したのが、この『All Directions』だった。
 テンプスのメンバー自身がサウンド・メイキングに関与したわけではないけど、やっぱトップスには頼みづらいサウンドである。だって、ヴォーカル・トラックを抜いても、充分成立しちゃうんだもの。
 トラディショナルなソウルから遠く離れたサウンドは、ヴォーカル・グループとしてのアイデンティを揺るがす。いくら彼らでも不満が募ったのか、これ以降、サイケデリック・ソウル路線は緩やかに沈静化してゆく。



All Directions
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1. Funky Music Sho Nuff Turns Me On
 熱狂的なライブのMCパフォーマンスを導入部とした、ソリッドなファンク・チューン。もちろん疑似ライブ。だけど、当時のエキサイト振りを忠実に再現している。
 当時、Normanと多く行動を共にしていたBarrett Strongによってシノプシスが描かれ、いつものようにFunk Brothersに委ねられ、ほとんどリズムしか入ってないトラックのいっちょ上がり。ヴォーカル抜いちゃえば、どれも大差ないもんな。
 この後に「Papa」が控えてることを思えば、何ともコンパクトであっさりした仕上がりと錯覚してしまうけど、イヤイヤちゃんとコッテリした味わいに仕上がっている。

2. Run Charlie Run
 トラディショナル・ソウルなホーン・セクションと、やたらキーの高いベース・ラインが印象的な横ノリ・チューン。ややゆったり目のテンポはボトムが低く、その後の大爆発の予感を孕む。ファンクネスはジリジリと、確実にユーザーの快楽中枢を刺激してゆく。

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3. Papa Was a Rollin' Stone
 彼らにとっては4枚目の全米No.1シングル。当然、各国でも軒並み上位チャートインを果たした、テンプスにとっての代表曲のひとつ。ポップ・ソウルなら「My Girl」、バラードなら「Just My Imagination」など、人それぞれ思い浮かべるテンプスは違うけど、「ファンキーなテンプス」として真っ先に挙げなければならないのが、コレ。他にも良い楽曲はあるし、あまりにベタな曲なんで、もう誰もインスパイアされることもなくなったけど、決定打といえば、やっぱり外せない。
 リズム・トラックのループ、ヴォーカルのカットアップ、エフェクトのダビングなど、あらゆるレコーディング・テクニックが駆使され披露されている。考えてみればこういうのって、特別目新しい技ではなかったはず。それがここでは、クリエィティブ的にもセールス的にも最大限の効果を上げている。なぜか?
 粗野で無骨なソウル・ミュージックは、時にクセが強すぎ拒否反応を示す場合がある。ロックの発展とシンクロしたレコーディング機材の進歩に乗じて、彼らはスピリットはそのままに、ソウルを摂取しやすい形に加工した。白人たちによって作られたテクノロジーを借用して。
 -それの何が悪い?そもそもソウル(魂)を収奪したのは、お前らの方じゃないのか?
 そんな叫びと嘲笑を含みながら、延々と曲は続く。



4. Love Woke Me Up This Morning
 ほぼ「Papa」メインのA面を終え、ここからはテンプスの通常営業、いわゆるソフト&メロウ路線。営業政策的には、こうした折衷案を受け入れることも必要である。全編サイケデリックでやりたいのなら、自分のグループ(Undisputed Truth)でやればいいんだし。
 オリジナルは1969年リリース、Marvin Gaye & Tammi Terrell 。基本アレンジはほとんど変わらないのに、オリジナルの甘酸っぱさがなくなり、力強い朝の目覚めを想起させる。マービンとタミーが夜明けのコーヒーなら、テンプス・ヴァージョンはラジオ体操。そんな印象を与える。

5. I Ain't Got Nothin'
 「メロウの極み」とも言えるフィリー・ソウルの表面をなぞって模倣したかのような、まぁ退屈な曲。これも営業政策的に、チーク・タイム的な楽曲が必要だったんだろうけど、誰もそこら辺をテンプスには求めていないのだった。

6. The First Time Ever (I Saw Your Face)
 Roberta Flackがデビュー・アルバムで取り上げたことで有名になった曲だけど、ほんとのオリジナルは1957年、イギリスのフォーク・シンガー作によるもの。Wikiを見ると、プレスリーからローリン・ヒルまで幅広いアーティストがカバーしてるけど、まぁテンプスがやるにはちょっとフックが弱い曲だよな。前曲同様、つい聴き流してしまうバラード。

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7. Mother Nature
 ユルいフィリー・ソウルが2曲続いたところで、やっとメリハリの効いた絶唱。ここはバッキングも、やたら気合が入っている。多分にA面で燃え尽きちゃって、B面はカバーでなんとか埋め尽くし、バラードの中ではデキの良いコレがあったから、どうにかアルバムの体裁は整っているけど、まぁやる気なかったんだろうな、Norman。B面の適当さが際立っており、だからこそ、このナンバーが一層映えて聴こえる。

8. Do Your Thing
 ラストはIsaac Hayes、当時の流行だったブラックスプロイテーション・ムービーの傑作『Shuft』からのシングル・カットのカバー。まるで最後っ屁のように、ドス黒ファンクがラストを飾る。
 テンプス的には多分、映像とシンクロしたトラックを作るHayesとの方が、相性が良かったんじゃないかと思われ。ドラッグ文化を中心に据えたNormanのサウンドはむしろ抽象的、時に散漫さが先行するので、歌の解釈という面ではHayesのサウンドの方が明快。もしNormanの意図を理解して歌い込んだとしても、どうせテープ編集で切り刻まれちゃうんだろうし。
 ヴォーカルとインストの配分を目分量で行なうと、頭でっかちの仕上がりになってしまう。その配分を超えてしまったのが「Papa」だった。まぁ何度もできるものじゃない。メンバーに怒られても当然だ。








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